ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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ナイト無双回です。闇落ちしたキャラって、しばらく味方側を圧倒するイメージがある。まさにそんな感じです。そして、またしても題名通り。


13.《ユニークスキル》

「サンキュー、ベルデ。ロイにティル、フェザーもな」

 

「……いえ、ナイトさんの頼みですから、聞かないわけには……」

 

「はい。わ、私たちでよければ……いつでも……」

 

「で、では、ボクたちはもうここら辺で。失礼します」

 

 3人はオレとベルデを置いて、先に帰った。3人ともベルデと同じく、街にアイテムを仕入れに行ったり、他ギルドの偵察などをしている奴等だ。

 

「ナイトさん。あんまり威嚇しないでって言いましたよね、俺。ホント何、やってんだよ、アンタ!」

 

「んなつもりはねぇよ。これがオレの普通だ」

 

「ナイトさんは、元々嫌われてるんですから。それに、平気で人を裏切る、このアインクラッドでは、あなたはそういうイメージなんです」

 

「…………そうか、忘れてたわ」

 

「後悔してるんですか?」

 

 背の低いベルデはオレの顔を下から見上げている。正直、コイツの顔は何でラフコフにいるんだ、ってぐらい童顔だ。人なんか殺せそうにもない。

 

「してねぇよ。この世界は、オレの現実だ。オレはこの世界で生き続けたいだけだ。それに……後悔なんかしてたら、ブラッキーや紅鬼に攻撃しねぇよ」

 

「……そうですか。でも、何かあれば、相談に乗りますよ」

 

「生意気言うな、このクソガキ。テメェは竜使いの所にでも行ってりゃいいんだよ」

 

「なッ……。い、今は関係ないだろ! それ!」

 

「敬語、忘れてんぞ」

 

「……ほっといてくださいよ」

 

 今は、こういうやり取りが何気に楽しい。オレが過ごしたかった日常や、生きたかった現実は、こういうのなのかもしれない。なんて、似合わねぇ事考えちまうのは、あの2人に会ったからかもしんねぇな。

 

 

「……ベルデ、今すぐ結晶でどっかに行け」

 

「えっ?」

 

「早く!」

 

「は、はい!」

 

 ベルデは《転移結晶》を使い、移動する。カルマ回復クエストを受けた場所の近くには、オレしかいない。いや、見えるのはオレだけだが、その周りを取り囲んでいる奴等がいる。

 

「コソコソしてねぇで出て来いよ。バレてんのに隠れ続けるってのはちょっと、ダサ過ぎじゃねぇか?」

 

 そう言うと、目の前の木々の陰からは白と赤の服装で統一された奴等。背後の陰からは銀や青系統の色が多い奴等が現れる。

 

「《隠蔽》だけかと思ってたけど、《索敵》も高いんだね」

 

「……まだ1週間経ってねぇぞ。流石にお腹いっぱいになっちまうよ」

 

「確かに、君はよく食べるからね。食べ過ぎは良くないよね。……でも、こういうどんどん出て来るのも、嫌いじゃないだろ」

 

 右手に青黒い槍を持ち、自身の後ろやオレの背後の奴等を従えている青年。

 

「相変わらず、性格の悪い奴だな、《流水》」

 

「君だけには言われたくないよ、ナイト」

 

 オレもかつては属していた、この城を制覇するために最前線で戦い続ける集団《攻略組》。そのトップギルド《血盟騎士団》副団長補佐《流水の槍兵》アクア。それが、オレの目の前にいる男の名だ。

 

「で、何の用? 《血盟騎士団》に《聖竜連合》まで引っ張って来て。もしかして、《攻略組》を抜けたオレのお別れ会? いやー、嬉しいねェ。友達少ねぇオレにとってはたまんねぇなァ」

 

「そんなわけがない事ぐらいは、君が一番よく分かってるはずだけどね」

 

 仕方ない。殺るしかねぇか。俺は剣を抜く。《流水》に向かって剣先を向ける。

 

「イッツ・ショウ・タイムだ!」

 

 

 ~アクアside~

 

 ナイトがヴァイス、ラフコフのサブリーダー、そう聞いた時、信じられなかった。あいつは、僕が見た限り、良い人ではない。でも、間違った事ーーこの世界においてならPKーーだけはしない奴だと思っていた。

 

 なのに、僕はそいつと今、武器を向け合っている。

 

「ダメよ、アクア君! ナイト君がそんな事するはず「分ってる!」……ッ!」

 

「分かってるけど……僕は《攻略組》。《血盟騎士団》の副団長補佐だ。そして、目の前にいるのは、紛れもなく、ラフコフのサブリーダー」

 

「早くしろよ、流水。それに閃光もな。《聖竜連合》だっていいぜ。ほらっ、オレを殺すんだろ」

 

 ダメだ。ナイトのペースに乗れば、間違いなく、勝機はない。だが、

 

「ッチ! この裏切り者がァ!」

 

 《聖竜連合》の1人がその挑発に耐えられず、突っ込んで行く。

 

「ククッ、バカだなぁ。でも、こういう奴の絶望の顔ってのも、結構悪くねぇんだよな」

 

 ナイトはそのプレイヤーに向かってソードスキル《ホリゾンタル》を放つ。せっかくグリーンにしたはずのカーソルはすぐにオレンジに戻り、ナイトの顔はまさに悪人。

 

「くそっ、下がれ! 《血盟騎士団》《聖竜連合》! 今回は僕が指揮を執る! ナイトを殺すな! 生きて捕らえるぞ!」

 

 そもそも、この作戦はナイトを捕らえる事が目的だ。全カルマ回復クエスト受注エリアに攻略組メンバーを配置。やって来た所にメンバーを集め、クエスト終了後に捕まえる。

 

 だが、その目論見は失敗した。あいつに《隠蔽》を見破られた。だが、システム的にそれは不可能のはずだ。こちら側は全員マントとハイドポーションを飲んでいる。見つかった理由はただ1つ、システム外スキル《聴音》。もちろん、対策はしていたつもりだが、本当に気づかれると思ってはいなかった。

 

「作戦通り行くぞ! アタッカー4人と僕はナイトを。他はアスナの指示に従い、その周りを囲め。アタッカーたちは前衛のHPがイエローになったらすぐにスイッチ、いいな!」

 

 僕はテキパキと指示を出し、陣形を整える。

 

「ナイト、僕は君が改心しようが関係ない。まずは君を捕らえる。そしてラフコフ自体を壊滅させ、この城を攻略する」

 

「お前じゃ無理だ。お前ら、お利口さんの攻略組じゃあ……」

 

「じゃあ、何なんだ? 僕は、別にプレイヤー相手でも武器は振れる。君の方こそ、この人数相手で、逃げ切れると思うなよ」

 

 そこからはもう大変だった。今回のメンバーはアスナやこの作戦の《聖竜連合》側のトップを除けば全員、PvPが得意な連中だ。つまり、殺さなくてもプレイヤー相手でも攻撃出来る。

 

 だが、ナイトも流石だった。これがレッドプレイヤーか、と納得せざるを得ないやり方で攻撃を回避。麻痺毒つきのナイフやピックでこちらのメンバーにデバフを与えて来た。

 

「早くスイッチしろ! 死にたくなきゃ早く!」

 

 ただ、状況はいたって分かりやすい。1vs30。人数なら僕らの圧倒的有利。なのに、未だにイエローゾーン。こっちは何度もレッドに突入している。

 

「殺す勇気もねぇのに、よくオレに挑めたなァ、お前ら。なぁ、まさかこれで終わりとか言わねェよなァ!」

 

 くそっ……ダメなのか。

 

 確かに今回のメンバーはあくまでもデュエルが得意な奴等で来た。人は殺さない。でも制圧するつもりで来たから大丈夫だと思ってた。でもダメだった。ナイトは僕たちを殺すつもりで攻撃して来る。そのつもりのないこっちは勝ち目がない。

 

 ~アクアside out~

 

 

 ~アスナside~

 

 今、目の前で起きている惨劇が信じられない。ついさっきまで、何度HPが減ろうと、回復させて戦い続けて来たプレイヤーたちが、動く事さえ出来ず痛みに苦しんでいる。もちろん、あのアクア君まで。

 

「……ナイト君! あなた、何をしたの!」

 

「お前もこっちに来て受けてみれば分かるさ。オレのこの剣をな」

 

 白く赤いラインの入った剣《クリムゾンヴァイス》。しかし、今はまともに見る事が出来ない。なぜなら、その剣は黒いライトエフェクトに包まれているからだ。眩しいわけではない。ただ、その禍々しさに恐怖を感じる。

 

 その現象が起きたのは、今からほんの数分前だった。

 

 

「ナイト……。どうして、ラフコフに入ったんだ?」

 

「なんだよ。ブラッキーや紅鬼だけでなく、お前まで聞くのかよ」

 

「当たり前だよ。君の正体が明かされる直前まで、一緒に迷宮区の攻略をしてたんだ。なのに、新聞を見たら、その君がラフコフのサブリーダーだって言うんだから驚いたよ。レモンやアルゴに確認したけど間違いないって言うしな。全く、何があったんだ?」

 

 アクア君の気持ちはよく分かる。それを聞いた時、私も思わず、攻略の事が一瞬頭から抜けた。

 

「理由か……。じゃあ、これ以上クエスト受ける度に襲撃されちゃァ困るからなァ。少しだけ教えてやるよ」

 

 ナイト君の雰囲気が少し変わった。不気味で、寒気がして、踏み込んではいけない場所に入ってしまったかの様な感じ。

 

「全員、気をつけろ! 何か来るぞ!」

 

 ナイト君は手に持っていたピックを全て腰にしまい直し、剣先を地面に突き立てる。

 

「さァ、テメェらの希望が絶望に変わる瞬間だ! もう後戻りは出来ねェぞ!」

 

「ッ! アクア君!」

 

 私はそう叫びながらアクア君に近寄る。何か来る。アクア君たちが危ない。このゲームで以前とは比べ物にならないくらい、磨かれた勘がそう言っている。

 

「アスナ、絶対に来るなよ」

 

 えっ……。アクア君は私に来るなと言う。もちろん、他の団員たち全員にも言っている。

 

「《暗黒剣》……解放!」

 

 たったの10音。《挑発》スキル並みの大声で叫ばれた言葉と共に、ナイト君の左手にある剣を黒いライトエフェクトが縁取る。

 

「はっ……何だそれ。無名の《エクストラスキル》かなんかか? ビビらせやがって」

 

 《聖竜連合》のプレイヤーが自身の大剣を手にナイト君に向かって行く。

 

 するとナイト君は剣を持った左手を後ろに引く。すると、剣を縁取っていた光が強くなり、赤黒い光となる。

 

「ソードスキルよ! 躱して!」

 

 でも、あの構えでは何のソードスキルか分からない。見た目は《ヴォーパル・ストライク》に似ている。でも、少し違う。

 

「ウワアァァァァアアアアアッッッ!」

 

 今までの叫び声とは違う、リアルな叫び。まるで、本当に痛がっている様な、そんな声。

 

「……ッ……怯むな! あんなハッタリに騙されるな!」

 

「やめろ!」

 

 アクア君の声も虚しく、プレイヤーたちは次々とナイト君に向かって行く。しかし、皆最初のプレイヤーと同じ様に一度斬られただけで痛がり、その場に倒れ、中には気絶した者まで。

 

「ねぇ、ナイト。何をしたんだい?」

 

「ん? 気になるなら、お前も来いよ。味あわせてやるよ。《暗黒剣》の力をな」

 

 ナイト君は《暗黒剣》と言った。そんなの聞いた事もないし、もちろん武器の名前でない事も確かだ。

 

「ダメだよ、アクア君。危ない。あれが何なのかも分からないで突っ込むのは……」

 

「そんな事は知ってる。でも、仲間を傷つけられて、何もせずに逃げ出すのだけは僕は嫌だ。せめて、あれの正体ぐらいは確かめる」

 

 つまり、アクア君は自分であれを受けると言うのだ。

 

「ダメだよそんなの!」

 

「頼むよ副団長殿。先に、みんなを率いて逃げてくれ。幸い、まだ犠牲者は出てない。だから……」

 

「それじゃアクア君が!」

 

「ただで負ける気はないけど、危ないだろうね。でも、仲間を傷つけられて黙ってるなんて、僕には出来ない!」

 

 そう言うと、アクア君は単身ナイト君に突っ込んで行った。

 

 槍がライトエフェクトを纏う。ソードスキル《ソニック・チャージ》、突進技だ。

 

「おもしれェ! 閃光を置いて1人でねぇ。……でもさ、今時そういうの、流行んねェから」

 

 すると、ナイト君の剣がアクア君の槍にぶつかる。普通なら、ただ当てただけの剣は勢いのある槍に弾かれるはずだ。しかし、

 

「なッ……」

 

 アクア君の槍が急に勢いを失くし、ライトエフェクトも消える。その後、アクア君の体はスキル後硬直に襲われる。つまり、スキルが中断された。

 

「捨て身のヒーローも、残念ながら、《暗黒剣》の前じゃ無力だ!」

 

 さっきと同じ、ソードスキルをアクア君は受け、文字では表せない様な叫び声を上げる。

 

「アクア君ッ!」

 

「ハハッ……。はぁ……つまんねェ。つまんねェ! お前らホントにトッププレイヤーかよ。よっぽど、最前線のモンスターの方が学習するぜ」

 

「ッ! ナイト君! 次は私が「……やめろ、アスナ」……アクア君」

 

「気絶せずに持ち堪えたか……。じゃあ、そのご褒美に教えてやるよ。オレのシステム外スキルと《暗黒剣》について少しな」

 

 いつでも攻撃出来る様に、私は細剣に手をかける。

 

「システム外スキルは《剣技中断(スキルキャンセル)》。名前の通りだろ。そんで《暗黒剣》は……まぁ、《エクストラスキル》なんだけどな、習得条件は知らねェ。だから、お前らん所の団長と同じ、《ユニークスキル》だ。効果は、発動者と発動者からダメージを受けたプレイヤーに現実と同じ痛みを与える」

 

 私はそれを聞いて驚く。だって……

 

「……それ…………PK用のスキルみたいだな……」

 

 アクア君も私と同じ感想だ。現実と同じ痛みなんて、モンスター相手には意味がない。

 

「そういう事さ。じゃあ、更に出血大サービスだ! お前らの事をここで見逃すか、ここで死ぬか選ばせてやる。もちろん前者を選べば誰1人殺さねェ。その代わり、この俺《純白の悪魔》ナイトと《暗黒剣》の存在を情報屋に売れ。いいな」

 

 一体、何が目的なのだろう。さっぱり分からない。でも、

 

「分かったわ。情報屋に売るわ。その代わり、見逃してくれるのよね」

 

「オレは嘘は吐かねェ。ってわけだ。オレはここで帰らせてもらうぜ。転移! サンドロ」

 

 そして、それほぼ同時、アクア君は倒れた。

 

 

 55層グランザム《血盟騎士団》本部

 

「……ッ……ここは……。ってぇ!」

 

「アクア君!」

 

「……アスナか…………。はっ……ナイトは! 他のみんなは!」

 

 アクア君は目を覚ました。ただ、まだ体が痛むようで、ベッドから起きれていない。

 

「大丈夫だよ。みんな、アクア君のおかげで生きれたよ」

 

「そうか……」

 

 結局、《血盟騎士団》、《聖竜連合》合同で実行したナイト君を捕らえるという作戦は失敗した。更に、それに加えて彼の言った第2のユニークスキル《暗黒剣》の存在がこの世界に広まった。団長の《神聖剣》の強さが圧倒的だった事もあり、第2のユニークスキル使いは皆が望んでいたが、それは最悪の形で実現してしまった。これから、ラフコフの活動は更に激しさを増してしまうだろう。




【DATA】

・システム外スキル《剣技中断(スキルキャンセル)
ナイトの編み出したシステム外スキル。相手が使ったソードスキルを中断させ、スキル後硬直によって動きを止めるスキル。ソードスキルに合わせて、相手の武器の先端に武器を当てて軌道をずらす。
キリトの《武器破壊(アームブラスト)》ほどのテクニックはいらないが、ソードスキルに対して、突っ込んでいく度胸が必要。その度胸が一番難しい。

・《暗黒剣》
ナイトが持つユニークスキル。「《暗黒剣》……解放!」と言う事で発動する。武器から手を10秒以上離すと解除される。
発動中、使用者と使用者によってダメージを与えられた者は現実と同じ痛みを受ける(ダメージ量によって痛みは変わり、場合によっては気絶したり、数日経たないと痛みが引かない場合もある)
発動すると、HPが最大値の半分になり、最高値が半分で固定される。
【ソードスキル】
・《デスペレイション》
《暗黒剣》単発重攻撃。《ヴォーパル・ストライク》より射程が長く、威力は低い。構えはやや腰を落として腕を引く。


次回もお楽しみに!

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