ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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本当は0時に間に合わせるはずが1時間遅れてしまいました。すいません!
「黒の剣士」編完結。及び、アインクラッド編第2章の幕開けとも言える回です。


11.《思い出の丘》

「ナイトさん、起きてください」

 

「ナイト。いい加減に起きろー」

 

 俺は耳元で聞こえた声に反応して、目が覚める。未だ覚醒しきっていない頭を無理やり動かし、装備を整える。

 

「ふわぁぁぁっ……。なぁ、キリト。もう少し寝てもいいか?」

 

「ダメ。ほらっ、行くぞ」

 

 キリトに引っ張られながら、俺は転移門に向かった。

 

「あ……。あたし、47層の街の名前、知らないや……」

 

「いいよ、俺が指定するから。ナイトは分かるだろ。じゃあ行こうか」

 

「「転移! フローリア!」」

 

 俺とキリト、シリカはエフェクト光に包まれ、それが薄れると視界は色彩豊かなものに変わる。

 

「うわぁ……!」

 

 シリカが花壇の方に走って行き、しゃがんで見る。やっぱり、女の子はああいうの好きだよな。

 

 そういえば、俺はあいつにそんな事してやれなかったっけ。デートらしい事も、告白の時を除けば一回だけだったなぁ。まぁ、今更どうでもいいか。

 

「キリト、何か、ああいうの見てるとホッとするよな。攻略なんて忘れて、のんびりしたくなるよ」

 

「そうだな。でも、そうも言ってられないんだよな」

 

 キリトがシリカに近づく。

 

「この層は通称《フラワーガーデン》って呼ばれてて、フロア全体が花だらけなんだ。時間があれば、北の端にある《巨大花の森》に行けるんだけどな」

 

「それはまたのお楽しみにします」

 

 そう言うと、もう一度花壇の方を見る。おそらく、《思い出の丘》に行く前に目に焼き付けておくのだろう。

 

「…………君とも、来てみたいな……」

 

 健気だねぇ。尚更、助けてやんねぇとな。

 

「さぁ、フィールドに行きましょう!」

 

「ああ」「おう」

 

 

「あの……キリトさん。妹さんの事、聞いていいですか……? リアルの話はタブーですけど……。あたしに似てるって言ったじゃないですか。それで、気になっちゃって」

 

 へぇ、キリトってと妹がいたのか。

 

「……仲はあんまり良くなかったな……。妹って言ったけど、ホントは従妹なんだ。事情があって一緒に育ったから、向こうは知らないはずだけど。でも……そのせいで、俺の方から距離を作っちゃってさ。顔を合わせるのすら避けてた」

 

 キリトは溜息をつく。少し分かった気がする。キリトがソロプレイヤーでいる理由。人と余り関わらない理由。もちろん、俺と同じビーターという理由もあるだろうけど、それ以上に、あいつ自身が人との距離が分からなかったからだったのか。

 

「それに、祖父が厳しい人でね。俺と妹は、俺が8歳の時に強制的に近所の剣道場に通わされたんだけど、俺は馴染めなくて2年で辞めちゃったんだ。じいさんには殴られて……。でも妹が大泣きしながら庇ってさ。俺はそれからコンピュータにハマって、妹は剣道に打ち込んで、祖父が亡くなる前には、全国でいいとこまで行くようになってた。だから、俺はずっと彼女に引け目を感じてた。あいつにも他にやりたい事があって、俺を恨んでるんじゃないかって。そしたら、余計に避けちゃって。修復する事もなく、ここに来てしまったんだ」

 

 この長いセリフに、今のキリトが作られた理由の多くがあった。でも、間違ってんだろうな。

 

「キリト、あんまり自分を責めんなよ。好きでもねぇのに続けられるわけなんてねぇから」

 

「そうですよ。……妹さん、キリトさんの事、恨んでなんかいませんよ。きっと、ホントに好きなんですよ」

 

 キリトの表情は、少し柔らかくなった。でも、やっぱりシリカの表情は優れない。

 

「なぁ、シリカ。今度はお前の事聞かせてくれよ。例の男の子の話とかさ」

 

「……はい。キリトさんだけに話させるのも変ですからね。

 彼とは、あたしが初めてフィールドに出た時に知り合ったんです。慣れない戦闘で上手く武器が振れなくて、すぐにHPが減ってしまったんです。そんな時、あたしを助けてくれたのが、その男の子、ベルデです」

 

 ベルデ……か……。

 

「ベルデは、その時既に、レベルだけならトッププレイヤーと並んでました。あたしと会った時も、自分の武器の強化のための素材を取りに来てたんです。それに、ホントはあの後、トールバーナに行って、攻略会議に向かう予定だったんです。なのに、助けてくれただけでなく、あたしにレクチャーしてくれて。その後、コンビまで」

 

 へぇ、あの第1層の頃のトッププレイヤーだったのか。なのに聞いた事がないって事はそれからずっとコンビを組んでたのか。

 

「だからあたしは、彼の荷物にならないように頑張ってたんですけど……。やっぱり、邪魔だったみたいです。ある日、彼はあたしの前から姿を消しました。フレンドも解除されてて……」

 

 ある日突然いなくなって、戻って来なかった。それは死んでないのなら、見捨てたか、逃げたかのどちらかだ。その話を聞いただけでは、前者の可能性が高いな。

 

「だから、強くなりたかったと」

 

「はい。コンビ再結成までは望んでません。でも、邪魔だったなら、そう言って欲しかった。だから強くなれば、また会えると思ったんです」

 

 俺が口を開く前に、キリトが話す。

 

「そっか。じゃあ、尚更早く、ピナを生き返らせよう。そして、また探そうな。俺も、ベルデって奴と会えたら、君の事を言うから」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 そしてようやく、フィールドに突入する手前の門まで来た。

 

「さて……いよいよ冒険開始なわけだけど……。君のレベルとその装備なら、ここのモンスターでもきっと大丈夫だ。でも……フィールドでは何が起きるか分からない。俺とナイトがいても、絶対安全という事は断言出来ない」

 

 そう言ってキリトはシリカに青い結晶《転移結晶》を渡す。

 

「で、でも……」

 

「約束してくれ。俺は、一度パーティーを全滅させてるんだ。もう二度と、同じ過ちは繰り返したくない」

 

 少し、雰囲気が暗くなってしまったが、仕切り直して行こう。

 

「じゃあ、行こうぜ。モンスター相手なんて久々だなぁ」

 

「へ? 何言ってんだよナイト」

 

「い、いや。何でもねぇよ。じゃあ行こうぜ!」

 

「はい!」

 

 シリカは昨日キリトに渡された短剣を握りしめ、気を引き締め直した。俺も、背中にある剣を少しだけ抜いて戻す。気持ちを切り替えた。さて、どうなるかな?

 

 

 それにしても、開発者は趣味がいいとは言えないな。俺は違うけど、花好きにとっては耐えられないな、ここは。

 

「キリトさん、ナイトさん、助けて! 見ないで助けて!」

 

 シリカはこの層では珍しくない、歩く花に捕まり、頭を下にされ、宙吊りになっていた。片手でスカートを抑えているため、上手く攻撃が出来ていない。

 

 左手で目を覆ったキリトは困っている。まぁ、仕方ない。

 

「オーケー、シリカ。助けてやるけど、トドメはキッチリ刺せよ!」

 

 俺は腰にぶら下げたピックを取り、《シングルシュート》を使用する。俺の左手から放たれたピックは真っ直ぐ、歩く花に向かう。見事に弱点に当たり、奴は一瞬怯む。

 

「いい加減に、しろっ!」

 

 シリカは今度こそ、ソードスキルを決め、花をポリゴンに変える。見事な着地を決め、こちらを見る。

 

「……見ました?」

 

「……見てない」

 

「……嘘つけ」

 

 その後も、俺とキリトはシリカのサポートのみに徹し、シリカのレベルは1つ上がった。そして、ようやく丘の頂上に着いた。

 

「とうとう着いたな」

 

「ふぅ、やっと着いたぜ。流石に疲れたぁ。シリカ、さっさと採って帰ろうぜ」

 

「は、はい! えっと……花は……」

 

「真ん中辺りにある岩の所。そこのてっぺんにあるはずだよ」

 

 シリカはキリトに言われた通り、そこに向かう。

 

「え……ない……ないよ、キリトさん!」

 

「そんなはずねぇよ。もっと近づいてみろって」

 

「あ……」

 

 シリカが覗き込んだまさにその瞬間、一輪の花が咲こうとしていた。

 

「これでピナを生き返らせられるんですね……」

 

「ああ。でも、ここは強いモンスターも多いから、街に戻ってからにしよう」

 

 キリトはそう言い、元来た道を歩き出す。

 

 ~キリトside~

 

 無事、《プネウマの花》を手に入れた俺たちは元来た道を戻り、今、小川にかかる橋に来ていた。

 

 そこに、俺の索敵に反応があった。11か……。

 

 俺はナイトとアイコンタクトを取り、そいつを牽制する。

 

「そこで待ち伏せてる奴、出て来いよ」

 

「え…………」

 

 木の陰から出て来たのは、昨日宿屋の前で会った女、ロザリア。同時に、俺が探していた人物だ。

 

「ろ……ロザリアさん……! どうしてここに……!」

 

「アタシのハイディングを見破るなんて、中々の索敵スキルね、剣士サン。その様子だと、《プネウマの花》をゲット出来たみたいね。おめでと、シリカちゃん」

 

 シリカが数歩後ろに下がる。

 

「じゃ、早速その花を渡してちょうだい」

 

 俺は一歩前に出る。同時にナイトがシリカの肩を掴んで、自分の後ろにやる。

 

「そうは行かないな、ロザリアさん。いや、犯罪者(オレンジ)ギルド《タイタンズハンド》のリーダーさん、と言った方がいいかな」

 

「え……でも……だって……ロザリアさんのカーソルは……」

 

「オレンジギルドの奴等が全員オレンジとは限らないんだ。オレンジは街に入らないから、代わりにグリーンがターゲットを誘い込むんだ」

 

 ナイトがシリカに説明する。

 

「でも、剣士サン、そこまで分かってながらノコノコその子に付き合うなんて、馬鹿? それとも本当に体でたらしこまれちゃっあの?」

 

 シリカはその侮辱に耐えられなかったのか、腰の短剣に手をかける。だが、それをナイトが制する。

 

「いいや、どっちでもないよ。俺たちもあんたを探してたのさ、ロザリアさん」

 

「どういう事かしら?」

 

「あんた、10日前に、38層で《シルバーフラグス》ってギルドを襲ったな。そして、リーダーだけが生き残った。そいつが俺に頼んできたんだ。でも、男はあんたを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれた言ったよ。あんたに、奴の気持ちが分かるか?」

 

「分かんないわよ」

 

 だろうな。

 

「何よ、マジになっちゃって、馬鹿みたい。アタシ、特にあんたみたいなのが一番嫌いよ、剣士サン。

 で、あんた、その死に損ないの言う事真に受けて、アタシらを探してたんだ。ま、あんたに嵌められたのは認めるけど、たった3人でどうにかなると思ってるの?」

 

 更に後ろから10人の男たちが出て来る。1人だけグリーンがいたが、彼が昨日の盗聴をしたんだろう。

 

「キリトさん……ナイトさん……人数が多過ぎます。脱出しないと」

 

「大丈夫さ、シリカ。おい、キリト。俺、手出さなくていいよな」

 

「ああ。任せとけ、ナイト」

 

 ナイトが俺の名前を呼び、それに気づいた1人の男がロザリアに何か言っている。

 

「その格好……楯無しの右利きのソードマン。……《黒の剣士》……。やばいよ、ロザリアさん。こいつ……ビーターの、こ、攻略組だ……。じゃあ……隣は……《純白の騎士》! じゃあ……あの話は……」

 

「こ、攻略組がこんな所をウロウロしてるはずがないじゃない! それに、昨日のあいつからの情報で、あいつは大した事ないって言ってたろ。あいつだって、攻略組なはずないだろ!」

 

 何箇所が、気になる所はあるが今は放っておこう。

 

「そ、そうだ! あいつが俺らに嘘をつくはずがねぇ! 俺たちはこの後、ラフコフに入るんだ。その前の大きな獲物じゃねぇか!」

 

 ……ラフコフだと……。またか……。

 

「キリトさん、ナイトさん、無理だよ。逃げようよ!」

 

「まだダメだ、シリカ。俺らが使えと言うまではな」

 

 男たちが一斉に俺に斬りかかって来る。俺は避けようとせず、ただ斬られる。

 

「いやあああ! やめて! キリトさんが死んじゃう! ナイトさん! 早く助けてよ!」

 

「だぁかぁらぁ、黙って見てろっつぅの。ほら、キリトのHPバー、見てみろよ」

 

 そう、俺のHPは減っていない。正しくは減ったのだが、回復したのだ。

 

「あんたら、何やってんだ!」

 

「お、おい。どうなってんだよ、こいつ……」

 

 俺はゆっくりと顔を上げて、少し声を出して言う。

 

「……10秒あたり400か。それがあんたら9人が俺に与えるダメージ量だ。俺のレベルは78。HPは14500。さらに《戦闘時回復(バトルヒーリング)》スキルによる自動回復が10秒で600。何時間やっても、俺は倒せないよ」

 

 でも、死なないと分かってても、あまりいい気分はしない。自分から、死に足を突っ込んでんだからな。それに、このスキルの鍛え方も尋常じゃないくらい辛い。

 

「そんなのありかよ……」

 

「野郎……騙しやがったな…………」

 

「むちゃくちゃじゃねぇかよ……」

 

「そうだ。たかが数字が増えるだけ。なのに、そこまで無茶な差がつく。それが、レベル制MMOの理不尽さなんだ!」

 

 俺は大声で言い放つ。レベルの差は、この世界においてとても大きな意味を持つ。例えば、今の俺は、《はじまりの街》の近くのイノシシに囲まれても、ほぼ無傷で一生立ってられる。

 

「チッ……。転移……!」

 

 俺は、それを言い終わらないうちに、彼女に近づく。クリスタルを奪う。襟首を掴んで、他の男たちの近くに投げ捨てた。

 

「これは、依頼人の全財産によって買われた《回廊結晶》だ。出口は監獄エリアだ。あんたら全員これで牢屋に跳んでもらう。後は軍の奴等の面倒になれ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

 すると、後ろから声がした。

 

「斬る。決して殺しはしない。死にたい、死なせてくださいと言われるまで、斬っては回復を繰り返す」

 

 うわぁ、辛い。ていうか迫力あり過ぎ。

 

「というわけだ。分かったよな。コリドー・オープン!」

 

 《回廊結晶》はゲートに姿を変えた。男たちは悔しそうな表情だが無言でゲートに入る。そして、残ったのはロザリアただ1人。

 

「……やりたきゃやればいい! グリーンのあたしを傷つければ……」

 

「言っとくが俺はソロだ。別に構わない」

 

 俺はロザリアを掴み、ゲートに向かう。

 

「ちょっと、やめて、やめてよ! 許してよ! ねぇ! ……ッ! この裏切り者! ねぇ、助けなさいよ、ヴァイス! あたしたちは絶対にあなたを……」

 

 俺はロザリアをゲートに投げ込んだ。その後すぐに、ゲートは閉じた。

 

 いくつかの証拠、俺が求め、同時に恐れていた証拠を残して。

 

 俺はシリカの方を向き直す。

 

「ごめんな、シリカ。君を囮にしてしまって……。本当の事を言えば、怖がられると思って……」

 

 シリカはずっと首を振っていた。俺の言葉への反応か、恐怖のせいかは分からないが。

 

「街まで送るよ」

 

 

 35層の《風見鶏亭》に戻った。それまで、俺たちは誰1人として話そうとしなかった。だが、部屋に戻って、シリカは口を開いた。

 

「あの……! 行っちゃうんですか?」

 

「ああ。5日も前線から離れちゃったからな。すぐに、戻らないと」

 

 シリカの目は、自分も連れて行って欲しいと言っていた。理由は色々あるだろうが、それでも、それは出来なかった。

 

「あ、あたし……」

 

「シリカ、レベルなんて、ただの数字、ステータスだ。それは、この世界で唯一信じられるものであり、ただの幻想さ」

 

 ナイトの言葉に俺は付け足す。

 

「そんなのよりも大事な物は必ずある。それは君はもう知ってるはずだよ。次は、現実世界て会おう。そうしたら、また同じように友達になれるよ。その時は、彼も一緒にな」

 

「はい。きっと……きっと」

 

 そして、ようやく今回のメインに入る。

 

「さ、ピナを呼び戻してあげよう」

 

 シリカはウィンドウを操作し、《ピナの心》と《プネウマの花》をオブジェクト化する。

 

「その花の中の雫を羽に振りかけるんだ。そうすればピナは生き返る」

 

「分かりました」

 

 シリカは俺に言われた動作を丁寧に丁寧にやる。やがて、羽は輝き、それは水色の羽を纏った竜へと姿を変えた。

 

「ピナ、おかえり。ごめんね、ありがとう。そして、これからもよろしくね」

 

「きゅる~」

 

 ピナはシリカに文字通り飛びつき、シリカの目からは、今まで溜めていた涙が溢れ出す。

 

 俺とナイトはシリカに別れを告げ、そっと宿を出た。

 

 

「いやぁ、それにしても、ピナ、可愛かったなぁ」

 

 今、俺はナイトを連れて、周りに誰もいないフィールドにいた。

 

「……なぁ、ナイト」

 

「…………ん? どうした?」

 

「いい加減、くだらない騙し合いはやめよう」

 

 ナイトの顔から先ほどまでの笑顔は消え失せた。冷たく、鋭い雰囲気で辺りが満たされる。

 

「そろそろ、正体を明かしたらどうだ、ヴァイス!」




【DATA】

・no data


次回もお楽しみに!

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