そして、この話をキリト目線でやるのが何気に難しかった。ナイトがいるせいかもしれないけど。
後、ジョニー・ブラックとか喋り方よく分からん。ルクスも名前出したけど、今後上手く話させられるか不安。
浮遊城アインクラッドのどこかの層のどこかの洞窟。
「ヒィ! や、やめてくれ! 俺たちは……ラフコフに入りたかっただけで…………」
HPバーを赤くされた男が10人、地面に這いつくばっている。そして全員が恐怖によって支配されている。
「知ってるさ。だからオレが、テストしてやったんだよ。お前らが、ホントにラフコフに相応しいかどうかをな」
「じ、じゃあ…………」
「ああ。不合格だ。
そんじゃあ、最後に教えろ。お前らにとって“大事な物”って何だ? 他の誰にも“譲れない事”は何だ? そして、そのために、他の全てを差し出し、犠牲にする覚悟が、お前らにあるか?」
白ずくめの男は、長いセリフを噛む事なく言い切る。そのセリフには、言われる側にとっては別の意味を持つ。そして、それを聞いた男たちは、顔を青白くする。
「……んなもんあるわけねぇだろ! 自分の命以上に大事なもんなんかねぇだろうが!」
「……不合格。だから…………死ね」
つまり、“死の宣告”。この男にあの言葉を言われれば99.9%生き延びる事は出来ないと言われている。
僅か、数秒。白ずくめの男の剣が、10人の命を奪うのにかかった時間。それは、あまりに短く、残酷な時間だった。
「おい、ヴァイス。さっきの奴等はどうだった、って聞くまでもねぇな」
「当たり前だ。どいつもこいつも、殺しの意味を間違えてる。あれじゃ、ただのオレンジだ。レッドじゃない」
そこに、新たに2人のプレイヤーが近づく。腰にはダガーとエストックがある。
「ヘッド、ホントにいいんすか。ヴァイスに任せると、全員殺しちゃいますよ」
「確かに、そうだな。ヴァイスは、やり兼ねない」
「うるせぇよ、ジョニー、ザザ。殺される奴が悪い。俺だって殺したいわけじゃない」
「面白い嘘つくねー、ヴァイス! お前みたいなのが攻りゃ……じゃなくて、元攻略組とは誰も思わないなー。それとそんなに睨まないでくれよー」
ヴァイスがジョニー・ブラックを睨みつける。
「ジョニー、黙ってろ。ヴァイスについての余計な詮索は無用だ。俺たちにとって、こいつは仲間でなくてはいけない。怒らせんなよ」
「わかった。悪いな、ヴァイス。変な事、言って」
「いいさ。カルマ回復クエスト受けてくる。おい、ベルデ、ルクス、手伝え!
そんで、俺は終わり次第、次のギルドに行ってくる」
ヴァイスは少年と少女を呼びつけ、洞窟を後にしようとする。
「次は、どこなんだ、ヴァイス。俺も、行って、いいか?」
「テメェは次のターゲットでも探してろ。これはオレの仕事だ。今回の審査対象は《タイタンズハンド》。こいつらはどうかね」
最後の言葉は彼の独り言だ。だが、それを聞いた5人は震えた。
その言葉はあまりにも楽しそうで、リアルだった。
~キリトside~
「す、すみません、迷惑かけちゃって」
「いやいや。
すごいな。人気者なんだ、シリカさん」
「シリカでいいですよ。
そんな事ないです。マスコット代わりに誘われて、いい気になって……1人で歩いて……ピナが……」
シリカは目に涙を浮かべる。
だが、その時、この場面に最も似合わない声が聞こえる。
「キリト、お前ってそういう趣味? しかも泣かせて……犯罪の臭いが……」
白ずくめの装備で俺と正反対のカラーのソロプレイヤー、ナイトだ。タイミングが悪過ぎる。
「ま、待て! ナイト、誤解だ! これは……その……」
「そ、そうなんです。あ、あたしを助けてくれただけなんです。その時の事を思い出しちゃっただけで……」
俺は、シリカと俺の関係やその他諸々をナイトに説明した。とにかく、こいつに誤解させたままだと、良からぬ噂が立つ。
「そういう事か……。よしっ! 俺も手伝ってやるよ」
「い、いやでも……キリトさんにも迷惑かけて……ナイトさんにまでかけるわけには……」
「嫌ならやめとくけどさ、2人より3人の方が何とかなると思うぜ」
「どうする、シリカ。俺はナイトにも手伝ってもらうべきだと思う。多分、俺たち2人より、ずっと楽だと思う」
「じ、じゃあお願いします」
ナイトが少し笑っていた気がするが、気のせいなのか? ロリコンならそうなのかもしれないけど……。まぁいいか。
「キリトさん、ナイトさん。ホームはどこに……」
「いつもは50層なんだけど……。面倒だし、俺もここに泊まろうかな」
「俺もここにするよ。確か、ここのチーズケーキが美味いって聞いてさ、食べたかったんだよね」
「そこ、多分あたしが泊まってる所ですよ。ホントに美味しいんです!」
シリカに引っ張られながら、俺とナイトは宿屋に向かう。
しかし、その隣の武器屋から4、5人の集団が出て来た。男たちは素通りして行ったが、1人だけこちらに気づいた女がいた。
「あら、シリカじゃない」
赤い髪の女で、オトコばかりのパーティにいる奴。間違いない、こいつがロザリアだ。
「……どうも」
「へぇーぇ、森から脱出出来たんだ。よかったわね。
でも、今更遅いわよ。アイテムは分配し終わっちゃったわ」
「要らないって言ったはずです! 急ぎますから」
シリカが会話を切り上げ、宿屋に向かおうとする。
「あら? あのトカゲ、どうしちゃったの?」
性格の悪い奴だな。そんなのは決まっている。
「あらら、もしかしてぇ……?」
「死にました……。でも! ピナは、絶対に生き返らせます!」
ちょっと面倒な展開になって来たな。シリカを囮にしざるを得ないか……。
「へぇ、て事は《思い出の丘》に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略出来るの?」
仕方ない。ここはひとつ、挑発しておくか。
「出来るさ。そんなに難易度の高いダンジョンじゃない」
俺はコートの陰に隠す。少しでも、シリカとロザリアを離さないと。
「あんたもその子にたらし込まれた口? 見た所、そんなに強そうじゃないけど」
シリカは震えている。悔しいよな。必ず、ピナを生き返らせてやらないと。
「なぁ、おばさん。いい加減、うるさいんだけど。知ってるか? 装備で強さを判断する奴は二流のやる事なんだ。ましてや、口だけの奴は三流にも満たねぇよ」
「このガキ、好き勝手言って。
まぁ、いいわ。精々、頑張りなさい。シリカ、あなたも死なないようにね」
俺たちはこの暗い空気のまま、宿屋兼レストランの《風見鶏亭》に入る。ナイトとシリカを席につかせ、俺はチェックインをして、メニューをクリックして戻る。
すると、シリカが謝罪の言葉を言おうとしたので、それを制止して、話す。
「まずは食事にしよう」
ウェイターが湯気の立つマグカップを3つ持って来た。中には赤い液体が満たされている。俺たちは1人一個持ち、こちんとカップを合わせた。
「……おいしい……。あの、これは……?」
俺はニヤリと笑って言う。
「NPCレストランはボトルの持ち込みも出来るんだ。俺が持ってた《ルビー・イコール》っていうアイテムさ。カップ一杯で敏捷力の最大値が1上がるんだぜ」
「そ、そんな貴重なもの……。すいません、キリトさん」
すると、横に座って、片っ端から頼んだメニューを平らげているナイトが口を開く(流石に自分で払わせた)。
「謝る必要ないって、シリカ。キリトは“ぼっちプレイヤー”なんだからさ。酒を開けたくても1人でしか飲めないんだよ」
余計なお世話だ。それと、“ぼっちプレイヤー”じゃなくて“ソロプレイヤー”だ。お前だけには言われたくない。
「お二人、仲が良いんですね。羨ましいです」
「まぁな。それなりに付き合い長いしな」
「ロザリアさんとも、お二人みたいな仲良く出来ればいいのに。何で、あんな意地悪言うのかな……」
俺は少し真面目な顔で話す。
「君は……MMOは、SAOが……?」
「初めてです」
「そっか。どんなオンラインゲームでも、人格が変わるプレイヤーは多い。善人や悪人になる奴は多いし、それをロールプレイと、従来は言ってた。でも、SAOは違う」
さっきよりも目を鋭くして俺は言う。
「今はこんな、異常な状況なのにな……。そりゃ、プレイヤー全員が団結してクリアを目指す事なんて不可能だとは思う。でもな、他人の不幸を喜ぶ奴、アイテムを奪う奴、殺しまでする奴が多過ぎる」
これだけはちゃんと伝えたい。シリカには、それを分かった上で、そういうのには関わって欲しくない。
「俺は、ここで悪事を働く奴は、現実でも腹の底から腐った奴だと思ってる」
俺はそう吐き捨てた。そして、そんな奴が攻略組にいる、またはいたと思うと、余計……。
「……俺だって、人の事はとても言えない。人助けはろくにした事ない。仲間を見殺しにした事だって……」
俺が少し、そんな事を言うと、シリカが俺の手を握って、こう言った。
「キリトさんは、いい人です。あたしを、助けてくれたもん」
驚いた。そんな目で見てくれるなんてな。
「……ありがとう、シリカ。俺が慰められちゃったな」
すると、あれだけの量を食べ終えたナイトがようやく口を開く。何だかんだ言って、俺をからかった時から一言を喋ってなかった。
「そういえば、シリカはコンビとか組んでなかったのか? 女の子がパーティを放浪っていうのは珍しい気がするけど」
「……はい。あたしも、最初からパーティを渡り歩いてたわけじゃないんです。実は、以前コンビを組んでた男の子がいたんですけど、急にどこかに行ってしまって」
「へぇ。死んではいないんだよな」
「もちろんです! 名前にもまだ線は引かれてません。あたしよりもずっと強くて。きっと、あたしが弱いから。それに今回も……あたしが調子に乗ったばかりに……イタっ」
ナイトがシリカにデコピンをした。シリカはどうしてされたのか理解出来ていない。
「そうやって、あんまり自分を責めるな。反省してんだろ。それと、その涙目も止めろ。思い出す度に泣いてちゃ枯れちまう。その涙は、ピナとの再会まで取っとけよ」
「……はい!」
食べ終わると、もう既に時刻は8時を過ぎていた。俺たちは明日の47層攻略に向けて早めに休む事にした。偶然にも、俺らとシリカの部屋は隣同士だった。
バタンッ
「さて、キリト。お前がなぜこんな所にいるか、教えてもらおうか」
やっぱりか。ナイトは適当そうに見えて、周りをよく見ている。バレないはずがなかった。
「それはな、話すと長くなるんだが……」
そう言いつつも、ちゃんとわけを話した。《タイタンズハンド》の事。彼らを黒鉄宮の監獄エリアに入れようとしている事など、細かく伝えた。ナイトは“当然”という顔で手伝うと言ってくれた。
「じゃあ、頼むな」
「ああ」
だがその時、ドアがノックされた。この時間に訪ねてくるならシリカだろう。
「あれ、どうかしたの?」
「あの……。ええと、その、あの……よ、47層の事、聞いておきたいと思って!」
「ああ、いいよ。階下に行く?」
「いえ。お部屋でお話ししてもらえませんか?」
シリカって女の子だよな。でも、別の男性プレイヤーとも行動してるから大丈夫なのか。
「まぁいいか。今開けるよ」
シリカが入って来た。椅子に座らせて、俺はベッドに座る。ウィンドウを操作し、テーブルの上に1つのアイテムを実体化させる。
「きれい……。それは何ですか?」
「《ミラージュ・スフィア》って言うんだ」
水晶を指先でクリックし、俺は操作をしていく。すると、球体が青く発光し、立体的でわかりやすいマップが現れる。
「うわぁ……!」
俺は指先で47層の地理を説明する。
その時、俺の索敵に反応があった。ドアの向こうだ。俺はナイトに目で合図をすると、一度会話を止める。
「この橋を渡ると、もう丘が見え……」
「…………?」
「しっ……」
ナイトが勢いよくドアを開け、叫ぶ。
「誰だっ!」
ナイトはすぐに戻って来て、首を横に振る。
「ダメだ、逃げられた。《聞き耳》スキルを上げてやがったな」
「ああ」
「なぁ、キリト。俺、少し見てくるよ。すぐ戻る」
「分かった」
ナイトが出て行った後、また少し会話を続けたが、シリカは寝てしまった。恐らく、色々あって疲れたのだろう。
だが困った。シリカの部屋は俺には開けられないし、かと言ってシリカを起こすのも可哀想だ。仕方なく、お姫様だっこでこの部屋のベッドに寝かす。
「……キ、キリト…………。お前……ロ、ロリコンだったのか……?」
この野郎。毎回タイミングが悪い。
バタンッ
ナイトがドアを一度閉めた。
「ちょっと待てΣ! ナイト、誤解だ! 俺は何もしてない!」
どうにか状況を説明し、納得してもらえた。
「で、どうだった?」
ナイトは思っていたより遅く帰ってきた。何か収穫があると思ったのだが……、
「悪い。逃げられた。でも、ほぼ確実に《タイタンズハンド》だろうな」
「だな。明日、シリカを巻き込むのは、避けられそうにないな」
結局、俺は床に座り込み、ナイトは器用に丸椅子に座りながら寝る。
明日の攻略が、俺たち攻略組に残酷な真実を叩きつける事になるとは、この時、誰も知らなかった。
【DATA】
・no data
次回もお楽しみに!