ソードアート・オンライン 紅鬼と白悪魔   作:grey

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番外編第2弾。基本的に、本編の時間が飛ぶ時になどに入れます。まぁ内容はタイトルから分かるでしょう。
それと、今までの話のあとがきを【DATA】に変更しました。オリジナル要素があるので、それの説明的なのをやっていきます。


番外編2 《流水の槍兵》、鍛冶屋の少女に出会う

「アスナー、そろそろよくないか? もうずっと潜ってるよ」

 

「アクア君、何を言ってるの? 私たちは1日でも早く現実に戻らないといけないの。一分一秒も無駄に出来ないわ」

 

 副団長アスナとその補佐である僕の小さな衝突は最近は恒例となっている。《攻略の鬼》と言われるほど、攻略に力を入れるアスナ。日が沈む時刻になったら転移結晶を使ってでも、攻略をやめようとする僕(この、自分勝手で掴み所のない行動から僕の二つ名《流水の槍兵》はついた)。ぶつかり合うのは当たり前だ。

 

「あまり根詰めても仕方ないだろ。僕はもう戻るよ」

 

「じゃあ勝手にして。皆さん、私たちはほっといて行きましょう」

 

 アスナは僕を置いて先に進む。これもいつもの事で、他の団員が少し可哀想だ。

 

「はぁ全く、アスナは……。ラフコフが結成されてから、更に張り切っちゃって。

さて、帰るか。転移《アルゲード》!」

 

 

 ここは第50層主住区《アルゲード》。ここが解放されたのはそう昔の事ではない。ここにホームを構えたのも、金が安いという理由からだ。

 

「こんばんは、エギル。売却頼むよ」

 

「おお、アクア。また、副団長の制止を押し切って帰って来たのか?」

 

「まぁな。《血盟騎士団》、特にアスナが率いる時はとんでもないブラックになるんだよ。やってられるか」

 

 そう言いつつ、トレードウィンドウに今回までに入手したアイテムを並べていく。

 

「おいおい。こんなにいいのか? 俺が安く仕入れるの知ってんだろ」

 

「別に。お前には、1層の頃からお世話になってるからさ。これからも、何か手に入れたら真っ先に来るよ」

 

「悪いな。せっかくだから、いい情報やるよ。45層にいい槍を作る素材があるらしいぜ。確か名前は……」

 

 

「《グラファイト・インゴット》か……。いい槍って聞いたら、来ないわけにはいかないよな」

 

 エギル曰く、この先にある山の最深部にそれが採れるポイントがあるらしい。話を聞いた翌日には、攻略を休むと伝え、山に来た。

 

 僕は持ってる中で一番ステータスの高い《ブレイヴスピア》を携え、山に入る。

 

「それにしても……暑い……」

 

 そして、出て来るモンスターは硬い奴が多く、面倒くさい。

 

「まっ、大した事はないけどね」

 

 《ツイン・スラスト》を発動し、二体の《ヒートゴーレム》を葬る。

 

「ん? 《索敵》に反応だ」

 

 1人のプレイヤーがいる事が分かる。しかし、そのプレイヤーの周りをモンスターが囲んでいた。

 

「し、死にたくない! た、助けて!」

 

 そこには、茶色い髪の女の子がいた。

 

「待ってろ、今助ける!」

 

 連撃の多いソードスキルを惜しみなく使い、さっき倒したのと同じモンスターを倒す。全てポリゴンに変わり、そこには涙目の女の子が残った。

 

「大丈夫か、君。立てるか?」

 

「は、はい。あ、ありがとうございます」

 

 僕は彼女にポーションを渡し、安全エリアまで連れて行く。

 

「ホントにありがとうございます。あ、あの、あたし、リズベットって言います。よろしくお願いします」

 

 リズベットは僕より年下の様に見える。まだ、怯えた様子だが、活発そうな子にも見える。

 

「僕はアクア。タメ口で構わないよ。リズベット」

 

「うん、よろしく、アクア。あたしの事はリズでいいわ。呼びづらいでしょ」

 

 何でこのゲームのプレイヤーは呼びづらい名をつけるんだ? スカーレットとかいい例だよな。

 

「了解、リズ」

 

 珍しい。僕は比較的、友達が少ない。あまり自分を表に出さず、友達はあまり出来なかった。このゲームでも、あったばかりの人とはあまり話さない。でも、リズは少し違った。彼女は話してて、楽だ。

 

「そういえばリズはここに何しに来たの?」

 

「《グラファイト・インゴット》を取りにね」

 

「リズも槍使うの? 見た所……使ってるのはメイスっぽいけど……」

 

「そうよ。使うのはメイス。だけど、欲しいのよ。だって、その金属はいい槍が作れるから。それに、他の武器でも、作る時に混ぜると、スペックが高くなりやすいのよ。実はあたし、こう見えても鍛冶屋なの」

 

 つまり、武器を作るための素材を探しに来ていたのだ。そして、いい考えも思いついた。

 

「じゃあリズ、僕と組まないか? 僕は槍を作って欲しい。君はインゴットが欲しい。ここに来た目的は同じ《グラファイト・インゴット》。どうだ?」

 

「いいわよ。その代わり、ちゃんとガードしなさいよ。あたし、ここのレベルギリギリなんだから」

 

「偉そうにすんな」

 

 パーティ申請を送り、左上に小さなHPケージが追加された。

 

「よし、行くか!」

 

 そして、山の中の洞窟に入って行った。

 

 

「はぁぁっ!」

 

 モンスターはポリゴンに変わり、僕たちは更に進む。

 

「あんた強いのね。槍使いって、あんまり強い人いないから」

 

 リズは僕の事を知らないらしい。そりゃそうだ。僕の名前は《流水の槍兵》で通っている。アクアの名前は有名ではない。

 

「まぁね。でも、リズは強くないな」

 

「うっさいわね。あたしは鍛冶屋としてやってる内にレベルが上がったからよ。だから、頼りにしてるから」

 

「はいよ」

 

 アスナより、全然やりやすい。更に言うと、結構タイプだ。リズには悪いが、大人し過ぎる子は苦手だからだ。これぐらい、言い返してくれる方がいい。

 

「さて、最深部に着いたな」

 

「そうね。じゃあ、早く採っちゃいましょ」

 

 リズが走って、金属が取れる場所まで向かう。

 

 だが、何かおかしい。こんなに簡単なら、なぜ、未だに流通してないのだろう。

 

「ッ! 危ない、リズ!」

 

 僕はリズを追いかけ、後ろから押す。

 

「ちょっと、何すんのよ! って……モンスター……」

 

 僕のHPはイエロゾーンまで行き、止まった。そして目の前には僕を殴った黒光りするゴーレム。

 

 モンスターの名は《The graphite golem》。この洞窟の最深部を守るガーディアンというわけだ。

 

「グラファイト・ゴーレムか……。そういう事な。リズ、下がってろ!」

 

「でも、アクアはHPが!」

 

「任せとけ。僕は、パーティメンバーを死なせる事だけはしない!」

 

 ポーチから回復ポーションを出すが、グラファイト・ゴーレムから攻撃され落としてしまう。

 

「くそっ……。ポーションを飲む隙すら与えてくれないのな」

 

 しかも、グラファイト・ゴーレムが地面を殴ると、新たなモンスターがポップする。

 

「グラファイト・ドールが……。チッ……面倒くさいな……」

 

 全部で5体。それに加えてフィールドボスか……。ソロプレイには辛いな……。でも……、

 

「死んでたまるか!」

 

 槍の基本技を使い、邪魔なドールたちを処理する。しかし、ゴーレムはそれを無限に生み出せるようだ。

 

「仕方ない。リズ、今すぐ脱出しろ! 君だけでも逃げるんだ!」

 

「何言ってんのよ! あんたも一緒に……」

 

「こいつ、見た目の割に早い。2人が脱出すんのは無理だ。せめてお前だけでも!」

 

 別に死んでも後悔はない。だって、女の子を守って死ぬなんて、カッコいいじゃんか。

 

「アクア!」

 

「じゃあな。生きろよ、リズ!

 はぁぁぁっ!」

 

 ドールを無視する事に決め、ゴーレムを狙う。武器の相性は良くない。だが、ボス戦に比べたらマシだ。

 

「くっそ……。ポーションも飲んでないからもう赤か……。せめて、もう一発!」

 

 しかし、連撃が多いソードスキルにブーストをかけようとしたが、気持ちが先走ってしまった。モーションの阻害したと認識され、硬直してしまう。

 

「しまった……」

 

 自分のHPがゼロになるのを覚悟した。しかし、その時は訪れなかった。

 

「どうして……逃げなかったんだよ……リズ」

 

「まだ、インゴットは手に入ってないのよ! 手に入れるまで、付き合ってよ!」

 

 リズがゴーレムに攻撃し、タゲを取ってくれていた。弱点という事もあり、HPは目で見て分かるぐらい減っている。

 

 僕は不味いポーションを無理やり流し込み、ゴーレムに向かう。

 

「はぁぁぁっ!」

「ハァァァッ!」

 

 

 ポリゴンが洞窟中に拡散する。そこに残っていたのは、槍とメイスを持った男女。2人ともHPを赤くし、座り込んでいた。

 

「……生きてたな」

 

「うん……、生きてた」

 

「悪い。ポーションは流石に切れてる。HP、大丈夫か?」

 

「あたしはまだあるわ。はい、あんたにも」

 

 リズからポーションを受け取り、飲む。やっぱり不味い。

 

「さっさと採れよ。目当てのモン、あるんだろ」

 

「分かってるわよ」

 

 リズが慣れた手つきでインゴットを手に入れる。持てるだけ持ち、一部は僕のストレージにも突っ込んだ。

 

「帰りましょ。あたしも流石に疲れちゃったわ」

 

「だな」

 

 

 結晶を使い、主住区に戻る。その日は宿屋に行くとすぐに寝てしまった。起きたのはもう夜で、何もやる事が出来なそうだ。

 

 コンコン

 

「ねぇ、アクア。起きてる?」

 

「リズか。いいよ。開けられるよな、パーティは開けられるようにしてるから」

 

「うん」

 

 私服姿のリズが部屋に入ってくる。

 

「どうした?」

 

「今日はありがと。助けてくれて」

 

 この言葉が僕が彼女を2回助けた事だという事は分かる。でも、それはもういいと言ったはずだ。

 

「いいって言ってるだろ」

 

「アクアってさ、攻略組でしょ。さっき調べて分かった。あんた、すごかったんだね。なのに……あたしなんかのために……」

 

「何言ってんだよ。“なんか”じゃない。僕が助けたいと思ったんだ。君だから助けたかったんだ」

 

「アクア……」

 

「リズ。明日さ、僕のために、槍を作ってくれよ。一緒に生き延びた、君に作ってもらいたい」

 

 ずっとこれは思っていた。最初はインゴットを手に入れたら、ギルドの奴に頼もうと思ってた。でも、リズに会ったら、そんな気は失せた。

 

「うん、もちろんよ。あたしでよかったらね。むしろ、こっちからお願いしようと思ってた」

 

 

 翌日

 

「片手槍よね」

 

「ああ、頼む」

 

 リズが、昨日、苦労して手に入れたインゴットを取り出し、ハンマーで叩き始める。リズは他の鍛冶屋と比べて、真面目に叩いている。

 

「出来たわ。あたしが鍛えた槍では最高傑作よ」

 

 そこには、黒光りしている槍があった。インゴットの色をそのまま反映した鮮やかな黒。

 

「重さも丁度いい。すごく馴染むよ」

 

「名前は《オルトロス》。夜明けって意味ね。青が多いあんたには微妙かもしれないけど、スペックはかなり高めよ」

 

「色なんか気にしないさ。嫌なら、色を変えればいい。でも、変える気はないよ。だって、君が心を込めて作ってくれたからね」

 

 僕は、この槍が手に馴染むと言ったが、これは間違いだ。とうの昔から持っていたみたいな感覚なのだ。

 

「ありがと、リズ。この槍で、必ず!」

 

「うん、頑張ってね。でも……」

 

「ん? どうした?」

 

「無理だけはしないで。あたしは……あなたには死んで欲しくない。あなたの名前に線が引かれて欲しくない」

 

 リズ……。

 

「ねぇ、アクア。これから毎日、あたしの所に来て。それで、装備のメンテをさせて。あなたが生きてるって、感じさせて。あたしを安心させて」

 

「もちろんさ。僕も、君みたいな優秀な鍛冶屋にメンテしてもらえるのはありがたいよ。僕からも、お願いするよ。必ず毎日、君の所に来るよ」

 

「うん!」

 

 

 この話は、アインクラッドで起こる出来事のほんの一部でしかない。だが、《水流の槍兵》は鍛冶屋の少女と出会い、心を通わせた。これは、仮想のデータでしかない世界で生き続け、確かなものを探す物語。




【DATA】

・アクア(「番外編2」時点のデータ)
レベル:74
二つ名:《流水の槍兵》
武器:《オルトロス》…《グラファイト・インゴット》から作られた片手槍。リズによって作られた会心の武器。黒く、少し青みがかっている槍。
主なスキル:《片手槍》、《索敵》、《武器防御》、《軽金属装備》、《体術》etc


次回もお楽しみに!

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