やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。 作:Maverick
暫くこの短編集を更新してなかったのはですね。もはや布石です。こうしてクリスマスに素晴らしいものを提供したいというマインドが私のなかでコンセンサスとなってしまった結果です。わけが分かりませんね。
サブタイトルを見ていただければわかるかと思います。雪乃編なんですよね、これ。
まだいろは編が残ってるんですね。この次にいろは編が来ます。待っててください!
そして結衣推しの皆さんごめんなさい!!間に合いませんでした…というかネタが浮かびませんでした。ですので、バレンタインの方に結衣は載せようと思います!
ではでは、雪乃と八幡のクリスマスをご覧下さい!(砂糖多めにしたつもりです…)
高校最後のクリスマスを明日に控えた俺は、明日に備えてすることなど特にすることもなく、いつも通り勉強に精を出していた。ま、俺ともなると余裕で大学に受かりそうなんだけどな!
「比企谷くん、ここ間違ってるわよ。あなた本当に国公立受ける気があるの?」
「すみませんでした」
……雪ノ下教官の元、厳しい指導を受けております。と、言うのも俺と雪ノ下は今年の夏から付き合っている。俺としては雪ノ下以外と付き合うことを考えられないからこのまま私立大学でて、ゴールインしたかったのだが、雪ノ下の母親が了承してくれなかった。
陽乃さんにも手伝ってもらいなんとか説得したものの、条件が『俺が旧帝大に入ること』であり、夏から必死こいて理系の勉強をしている。つまり、ぶっちゃけ受かるか不安。
センターとか試験で、理科科目は生物と地学を選択するからいいとして、問題は数学である。とりあえず現段階で高校の数1、Aはなんとか終わったからなんとかなりそうだけどな。雪ノ下教官の手腕ぱないっす。
「ね、ねえ…比企谷くん」
「どした?」
「……少し、じっとしていてくれるかしら」
そう言うと俺の右手前にいた雪ノ下は立ち上がり、俺の後ろに回ってきた。何をするか分かったが、俺的に役得なので黙っておく。
後ろに来た雪ノ下は座り込み、華奢な手で俺の胴を包み込もうとした。雪ノ下の女の子特有のいい匂いと女の子らしい柔らかさを感じて照れくさくなるも、悪い気はしない。付き合い始めてから、こうして甘えてくれることを嬉しく思うし、愛しいと思う。
彼女の依存癖は未だ治っていないが、大学が卒業するまでには治そうと陽乃さんと協定を結んでいたりする。
「………八……幡」
「…」
待って、可愛すぎる。俺にくっついてることによってリラックスしすぎでしょこの子。
10分ほどたって雪ノ下は俺のもとを離れ、先程と同じ場所についた。
「ごめんなさい、我慢出来なかったわ」
「お、おう。気にすんなって、普通に嬉しいから」
「…そ、そう」
時計を見ると既に短針は8に差し掛かっていた。外はもう暗い。これから寄らなければならない俺はこの辺でお暇しましょう。
「よし、いつもありがとうな。雪ノ下」
「気にしないで。私も貴方と同じ大学に行って、結婚したいもの」
「……ほんと、いい彼女だよ。ありがとな、家に帰ってもうちょいやるわ」
そう言って俺はマンションを出る。さて、買い物に行きますか。
「わり、彩加。遅くなった」
「大丈夫だよ。まだ残りの2人来てないから。時間にも間に合ってるよ」
買い物…と言ってもみんながみんな彼女のクリスマスプレゼントを買うという、所謂女子会ならぬ男子会というやつだ。
ちなみに彩加の彼女は小町だったりする。彩加なら小町のことを任せられると思っていたし、問題ないだろう。これで小町と彩加が結婚して、彩加が婿養子として俺の家に入ってくれれば俺の家は最強の癒し空間になるな。
「ごめんね。少し待たせちゃったかな」
「遅刻だな」
今来たのは3人目、玉縄である。夏前に奉仕部最後の仕事としてまた海浜と合同イベントをしたんだが、それからこいつはビジネス語を封印してそっからモテ始めたらしく、海浜の子と付き合っているらしい。
「気にしないで、玉縄くん。最後の人はまだ来てないから」
「ああ、彼はいつも最後なんだね…」
「っべー!8分くらい遅刻だべ」
「お前がな。いつも通りに」
最後はこいつだ。もはや説明しなくても良いだろう。4人揃ったことを再確認し、ららぽへ入っていった。
一時間掛けて全員がプレゼントを決める。最後に近くのサイゼで晩飯を食べて家に帰る。
「おかえり!お兄ちゃん!」
「おう、ただいま」
彩加と付き合っていながらも兄のことを慕ってくれるのはとても嬉しいです。よくできた妹です。なでなでしてやろ~。
「きゃはは!」
可愛いの~。ふぉふぉふぉ。
「ところで、お兄ちゃん」
「どした?」
「彩加さん何買ってた?」
どうやら小町には全部筒抜けらしい。しかしあいつらとはお互いにばらさないよう同盟結んでるから問題ないよな?…ない、よね?彩加うっかり小町か由比ヶ浜に俺が買ったのばらしてないよな?
「言うわけないだろ。明日の楽しみだ」
「それもそっか。お兄ちゃんは明日もお義姉ちゃんのところに行くんでしょ?」
「おう」
明日はクリスマスということで雪ノ下の家で勉強しつつ在宅デートです。まあ、いつもやってることですが。なんつーの、俺ってば平安時代なら既に結婚してるまである。考えてて恥ずかしくなった。
「じゃあさ、もう泊まってきてくれない?彩加さんと一晩中ふたりきりがいいな」
「…そりゃ雪ノ下に聞いてみねぇとな。俺はそれに賛成するが、親父はなんて言ってんだ?」
「えっとね『小町!そんな碌でもないやつとは別れなさい!!どうせ小町の顔目当てだぞ!』とか言ってたから、彩加さんのいい所を一時間語ってあげた後に笑顔で『今年のクリスマスプレゼントいらないから漫喫で一晩過ごしてきて』って言ったら泣きながらうんって言ってくれた」
うちの妹が想像以上に鬼畜だった。というか親父。彩加が顔目当てだと!?そんな訳あるか、俺も今度彩加のいい所を一時間語ってやる。とりあえず、小町が作ってくれた飯を食べてから雪ノ下に電話か。
「まあ、あれだ。もし無理でも俺も漫喫行って勉強しとるから気にすんな」
ご飯中にそう言ってやると小町は満面の笑みを浮かべありがとうと言った。その笑顔が余りにも美しく、こいつも成長したんだと嫌でも感じさせられた。
「つーわけで、泊めてくんない?」
『いいわよ』
「いやあ、流石に前日に頼むのもあれだと思うんだが小町にそう言われたのが今日でな…っていいのか?」
『ええ、元々泊まってもらうつもりだったもの。小町さんに相談したら利害の一致ってことでふたつ返事だったわ』
ああ、小町は既に話を通していたのね。よくやった小町、明日の朝に今日買ってきたお前の分のプレゼントあげるからな。
その後1泊の準備をして教官から教えて貰ったところの復習をして横になった。
次の日、朝のうちに小町にプレゼントを渡した俺は雪ノ下の家に向かっていた。
ちなみに小町には新しいマグカップを買ってやった。自分のやつがかなり古くなっていたから、だったら小町もなんじゃないかと思って買った。彩加と被らないよう、配慮はしている。
いつもより少し早く雪ノ下の家に着いた。いつも通り、ピンポンを押すも応答がない。もう一度押すと出た。
『ご、ごめんなさい。今起きたわ』
「あ、まじ?悪かった」
『いいえ、昨日なかなか寝付けなかっただけよ。上がって』
寝起きの雪ノ下を見ることに少しワクワクしつつ罪悪感を感じていたが、どうせ明日見るんだしいいやという結論に落ち着いた。部屋に入ると既に雪ノ下は完璧に着替えていました…くそ。
「ごめんなさい。見苦しい…いえ、聞き苦しいかしら」
「お前謝りすぎ。そんなに気にしてないっつーの」
「そ、そう。荷物は私の部屋でいいかしら?」
なんでだよ。普通に居間でいいじゃんか。そう思ったが、なんだか嬉しそうな顔をしてる雪ノ下相手にそう言うのはなんだか癪だなと思ったあ。
「…自分で持ってく。どこだ?」
「…そういえば、貴方私の家の間取りを把握してなかったわね。ちょうどいいわ、軽く案内しましょう」
俺用のスリッパを出してくれる雪ノ下はほんとにおれの奥さんのようで、将来毎日この光景を見れるよう頑張ろうと思った。
スリッパを履いたのを確認した雪ノ下が俺を先導する。改めてここ広すぎんだろ…。
荷物は結局のところ居間に置かれていた。なぜそうなったかは知らんが、いつの間にか居間におこうって話に落ち着いた。まあ、基本的に居間で勉強するから取りに行く手間が省けて良いんだけどね。
「えっと…比企谷くん。その…」
「?」
さあ、勉強するぞ!と意気込んでいると雪ノ下がなにやらもじもじしている。何か頼み事でもあるのだろうか。そう思って、雪ノ下が言おうとすることを聞き取る構えをする。
「そ、そろそろ…呼び方を変えないかしら」
「…それも、そうだな」
ちょうど俺も今日それを提案しようと思っていたのだが先を越された。だが、そうとなれば俺が先手を打つのみ。
「それじゃ、普通に名前でいいか。…雪乃」
名前で呼んだ瞬間に、顔を秋の山さながらに紅くする雪ノ下。改め雪乃。自分で提案したくせに…昨日は忘れていたが、自分の部屋で名前を呼ぶイメトレしててよかったわ。おかげでそれなりに決まった。
「…ええ、改めてこれからもよろしく。八幡」
……面と向かってやられると恥ずかしい。お互いに照れて、勉強に集中できるようになったのは俺がマンションについてから2時間弱くらい経ってからだった。
勉強の集中力がふと途切れ、気が付けば5時過ぎになっていた。
「雪乃、そろそろ休憩しないか」
あの後昼まで勉強して雪乃の手料理を食べ、また勉強していた。今日は夜も雪乃教官がいるので心強い。
「そうね。私も夕食を作らないといけないし」
「ああ。ありがとな」
「いいわよ。そうね…その間にお風呂掃除してくれるかしら?スポンジと浴槽の洗剤はお風呂の中の鏡の裏にあるから」
「任せとけ」
ここで俺の家事スキルを見せつけてさらにいいところ見せてやるぜ。午前中に案内された浴室へ向かう。
風呂の中は流石というべきか、俺と雪乃がふたりで入っても全然余裕がある広さで、ちょっと妄想してしまった。…いやいや、少なくとも大学に入るまでは純粋でいようと決めているんだ。俺のためにも、雪乃のためにも。多分、一緒に入ると理性が崩壊する。妄想だけにとどめておきました。
風呂掃除を完璧に終わらせた後、居間に戻るとそこにはソファでうたた寝している雪乃がいた。前の机にスマホが置いてある。大方タイマーをセットしてあるのだろう。料理の途中であると見られる。
…ま、まあ日頃お世話になってるし、俺がアレをやるだけでまさか別れるなんて…ならないよな?そう思い、例のアレをすべく俺は雪乃の横に腰掛ける。彼女が起きないよう頭をゆっくり動かして俺の腿に乗せる。まあ、膝枕だ。いつも思うんだけど、膝枕っていう割に頭乗ってる場所って太ももだよね。
「……」
「ぐっすり寝てんな。…髪さらさらしてる」
右手が自然と動く。到着点は黒く、美しく輝く髪。撫で心地が良すぎて、撫でているこちらが逆にリラックスするまである。暫くして、ふとスマホのタイマーを見るとリミットまで既に10秒を切っていた。タイマーを止めて頭を撫でていた手はそのままに、空いていた左手を肩に置き、ポンポンと叩く。
「雪乃、タイマー鳴ったぞ」
「…ん、…うん」
眠りから覚めた美しいお姫様はどうやらわたくしめの声が左耳に入ってきたことを不思議に思われながらもとりあえず体を起こそうとしております。ですので、僭越ながらお手伝いさせていただきました。
なんじゃこの三文芝居は。
「…八幡。なぜあなたがここで、私の頭があったあたりに座っているのかしら」
「ご想像におまかせします」
本当は答えがわかっているのだろうが敢えてはぐらかす。あの子顔真っ赤だよ、ちょっと可愛すぎよ?
雪乃はとりあえず料理を何とかしようという結論になったのか、ソファに掛けてあったエプロンを取りキッチンへ行ってしまった。しかし、去年買ったエプロンまだ使ってんのな。あれからもう1年と半分か。
感慨深く思っていると雪乃が俺を呼ぶ声が聞こえた。食卓につくためソファから立ち上がる。
「おお、ここは高級レストランか」
「あら、八幡。どんなにお金を出されてもあなた以外にここまでするつもりは無いわ」
「その言葉はありがたいが、由比ヶ浜に言われたら作るだろ」
「……さあ、食べましょうか」
……スルーしやがった。
「ご馳走さま。流石、美味かった」
「分かっていたけれど改めて言われると嬉しいものね。お粗末様」
今日はクリスマスということで食卓には本格的なクリスマス料理が並んでいた。ターキーとローストビーフが同じ食卓に同時に並んでいるのを初めて見た…。
「暫くしたらケーキも出すわ」
「マジか。何のケーキ?」
「チョコ」
おお、俺が一番好きなやつ。雪乃がそうしてくれるってのはつまり小町とかにリサーチしたんだろうな。そこまでしてくれることがとても嬉しい。というかほんとに付き合ってから前以上に可愛い。
「その前に少しリラックスしない?」
「いいけど…何すんの?」
「ソファに座ってくれる?」
そう雪乃に頼まれたので、何をするかわからないが座ってあげる。すると隣に雪乃が座ってくる。まあ、そりゃそうだろうな。…しかし、近い。雪乃の肩が当たってる。めっちゃいい匂いする…。
そんなこと考えていると雪乃からかかっていた体重が少し増える。横を見ると緊張してしまうからずっと前を見ていたが、気になったので横を見る。
「ねえ…八幡」
「…どした」
「…八幡がもし大学落ちたら、駆け落ちしない?」
雪乃は俺の肩に頭を乗せていて、膝に置いた手は震えていた。きっと怖いのだろう。彼女は確かに俺のことが好きだが、同時に彼女は俺に依存している。それは普通ならとても危ない状態だ、男が女に別れを告げれば女にとっては最早死刑宣告のようなものに聞こえうる。だからこそ、俺は雪乃の依存症を治したい。彼女と別れる気はさらさらないが、きっといつかまた俺は自己犠牲と呼ばれる行為をしてしまう。
「ダメだ。俺のために雪乃の未来が変わるのは嫌だからな」
「でも…」
震える手を俺の手で包む。俺の指が雪乃の指に絡みつき、絶対に離さないと内心誓う。
俺だって離れたくないし、駆け落ちだって一度考えた。でもそれじゃあ俺達はきっと一生子供のままで、何もかも上手くいかなくなってしまう。だったら俺が旧帝大…東大に受かればいいだけの話だ。
「なあ、雪乃」
「…何かしら」
「…聞いてくれるか?俺の未来図」
雪乃が俺の手をぎゅっと握った。それを肯定の合図ととった俺は語る。
「まずさ、東大に受かるだろ?そんでもってここじゃないどっかのマンションで同棲だ。結局俺は家を出ることになるし、雪乃も引っ越したいとか言ってたしな。そしたら4年間笑って泣いて喧嘩して謝って過ごす。その部屋にはいつも俺達がいる。たまに由比ヶ浜とか一色とか、陽乃さんも来ると思うけどそれもまた楽しそうだよな」
「…そうね。とても楽しそう」
「それで4年が過ぎたらいよいよ仕事だ。働きたくないのは本当だが、雪乃のために俺は働く。具体的には決めてないけど行きたい方向も決まってる。なあ、雪乃。俺が進もうとしている道はかなり忙しい毎日が続きそうだし家にもなかなか帰れないかもしれない。だから、我儘だが家でいつでも待っててくれないか?」
「…いやよ。私も働くわ」
「そいつは悲しい。家に帰っても誰もいないじゃんか。お前は専業主婦でいいんだよ、俺が頑張って稼ぐ。そしたら…そうだな26歳くらいで俺達は結婚して俺が定年退職するまでに子供は3人いて、そいつらはきっと既に成人しているんだろうな。年金生活してる時は雪乃とのんびり隠居生活だ。なんだったら他県に引っ越して農業とかもやってみないか?」
「楽しそうな人生ね」
「ああ…でもな、この未来図を作れたのはたくさんの人が俺に関わって、俺がいい方に変わったからだ。平塚先生、由比ヶ浜、一色、戸塚、葉山、戸部…まだまだたくさんいる。けど、一番俺を変えてくれたのはお前だ、雪乃」
「…結局何が言いたいの?」
そうだな。俺も途中からわからなくなってきた。だから、ここで結論を出す。
「ここまで未来図が出来てるが前提条件は東大に入ってることだろ?」
そこで一度言葉を切る。
「この未来図を台無しにしないように、東大に絶対受かる。だから駆け落ちとかは考えんでいい」
「…そう。ねえ、八幡」
「どうした?」
雪乃の声音が明るくなった。高校受験の頃、周りからよく聞こえてきた未来に希望を持っている声だ。
「子どもの名前はどうするのがいいかしら」
「…まだ早いっての。風呂、入って来いよ」
「ふふ、そうね」
そう言って雪乃は立ち上がる。が、俺の正面に来ていきなり顔を近づける。そのまま俺の唇は雪乃の唇に吸い込まれるように触れた。触れてる時間はきっと長く、息が切れそうになった。
雪乃が離れていく。
「そこまで語ってくれたのだから、お風呂から上がった後はケーキを食べて、すぐに勉強するわよ」
「…ああ、任しとけ」
そう言って雪乃は風呂に行った。きっと俺と彼女の顔は、この時ばかりはこの街で一番赤く…そして誰よりも未来への希望を抱えていた。
「…ねえ、八幡」
「…どした?八幡なんて珍しい」
「いえ、学生の頃はそう呼んでいたと思っただけよ」
「パパとママ顔あかーい!!」
「あう、あきゃい?」
「…さ、クリスマスパーティ始めるか」
「やったー!!ママ、料理まだー?」
「ちゃんと手伝いなさい。こっちに来て箸を持っていってくれる?」
「はーい!!」
「なあ、雪乃」
「なにかしら」
「いま、俺すっごく幸せだわ」
「ええ、私も。世界一幸せよ」