やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。   作:Maverick

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タイトル、凝って見たんですけどどうですかね。やっぱりこういうのよりタイトル見てひと目でヒロインがわかる方がいいんでしょうか。

今回のヒロインは頑張って書いてみます、めぐりんです。めぐりんの先輩頼れるオーラとほんわか暖かいオーラは八幡をどう変えるのか。

……なに自分でハードル上げてるんでしょうか。

場面設定は、八幡が三年生になって秋雨が本格的になってきた頃、受験が迫ってきて少しナイーブになってるところです。アンチ・ヘイトは念のためです。では、どうぞ。


大雨、洪水、落雷注意報【アンチ・ヘイト】

雨、雨といっても沢山の種類がある。

小雨、梅雨の雨、秋雨時期の雨、台風から降ってくる雨、前線直下の暴風雨等々、地域によっても変わる。

今日も秋雨という言葉に負けない雨が降っていた。末期にしては珍しい、地面を叩きつけるような雨。風向きは向かい風で、帰りたいのに進みたくない、そんな日だった。まるで、雨風が俺が進むのを遮るような雨。雨を塞いでるはずの傘は、俺の心に蓋をしていた。黒い傘は俺の視界の半分を占めていた。かろうじて見えるところだけを見ながら、事故に気をつけて歩く。女子とすれ違う、しかしその人は見知らぬ人ではなかった。

 

「あ、比企谷くんだ」

 

たった今すれ違った人から発せられた声。横を見ると、そこにいたのは可愛らしいお下げが特徴と城廻めぐり先輩だった。

 

「どうも、お久しぶりです。では」

 

挨拶をするだけして、俺はその場から離れようとする。が、しかし挨拶ついでに会釈をして、顔を上げた先に映ったのは何やら言いたげな様子のめぐり先輩だった。

 

「あ、あのさ!…比企谷くん、少しお話しない?」

 

雨の音に混ざって聞こえた音は、なんとも遠慮がちなお茶会のお誘いだった。

 

 

 

 

 

めぐり先輩に連れていかれた先はとある喫茶店。住宅地の一角にある、穴場だろう。イメージとしては、パイナップルサンドだ。あそこよりも幾分かは装飾が目立つが、客は大人しそうな人ばかりだ。

俺達はふたり席に対面して座る。メニューを眺める必要も無いほど通っているのか、めぐり先輩は俺の分まで注文してくれた。

 

「何円ですか?コーヒー」

 

「いいよ、私が誘ったんだもん」

 

「そう…ですか」

 

この人が語尾にもん、とつけても違和感がない。あざとくもないけど可愛らしい。一色に是非見習って欲しい。素の方が何倍もマシだ。

暫く2人で沈黙の時を過ごした。コーヒーが運ばれて一口啜る。美味しい、家からもそんなに離れていない。お気に入り店にできそうだ。

 

「そ、それでさ…比企谷くん。話っていうのはね」

 

そういえばそうだった。俺はこの人に話があると言われここまで付いてきたのだ。何なのだろう、こんなところでないとできないくらいの話なんだろうか。

 

「……今年の文化祭も…君は」

 

……なんだ、その事か。どこから聞いたか分からんが、今ここでそれを出されるのは辛い。

去年の文化祭は傍目から見れば成功の部類だったんだろう。しかし、今回は違ったのだ。

一色が生徒会長となってから既に1年弱経過していたこともあり、会議は滞りなく続いていた。しかし、事件は初日に起こった。

俺が受験生であることお構いなしに一色は俺を脅迫して準備を手伝わせていた。それでも、当日の会場設営だけだったから、まだ良かった。雪ノ下は、今回も実行委員になって記録雑務をしていたらしい。その働きぶりは、ひとりで一小隊レベルだろう。カエルの宇宙人もびっくりだな。

話がそれてしまったが、初日のオープニングに委員長が遅刻した。今年の委員長は相模に劣らないレベルでアレだった。もっとも、今回の会議に陽乃さんの介入はなかったらしいが。そして、委員長は遅刻した事に関して何の詫びもいれずヘラヘラと壇上にあがった。

遅刻、と言っても雪ノ下が余裕を持ったタイムテーブルを作っていたのでなんとかなったらしいが、それをきっかけに委員の不満が爆発。仕事を放棄し始めた。何も出来ずに元奉仕部と一色が立ち尽くしていたところに葉山は来た。葉山のおかげでなんとかなるだろう…そう思っていたのに、一筋縄ではいかなかった。委員たちは反発をやめなかった。俺は決意した。葉山は演技が出来る。葉山は女子を殴れない。俺はこいつが嫌いだ。こいつも俺が嫌いだ。だったら…。

 

「君は…また自分を」

 

「城廻先輩まで自己犠牲だ、と言い始めますか?」

 

怒りの矛先を俺に向けるため、俺は彼らを煽った。ひたすら、葉山が怒りやすそうな言葉を選びながら、その言葉を繋げた。案の定、葉山は気づいたし、その後も演技も上手くいっていた。しかし、それでも尚委員達は動かない。俺は葉山を殴った。勿論、腹パンだ。俺があいつの顔を殴る事は…いや、どの箇所も殴ることは無いだろう。とにかく、それによってみんなのヒーローを傷つけた俺は悪役。煽りの途中で絡めた去年の俺の働きっぷりをちゃんと聞いていたのか、悪役に負けないよう、最底辺カーストに馬鹿にされないように彼らは働いた。

 

「だって!……そんなの、犠牲以外の何でもないよ」

 

「自分に何があろうと、よく言う『みんな』には気にされません。彼らは仲間しか見ませんから」

 

労働にはストレスがつきものだ。そのつきっぷりは憑き物と書いてもいいくらい、嫌なものだ。ストレスの発散法として、彼らは俺を選んだ。去年以上に誇張された話が校内を飛び交う。いくら雪ノ下や由比ヶ浜、一色、戸塚、小町が支えてくれると言っても限界はある。何度転校したいと思ったか、何度退学したいと思ったか、何度殺したいと思ったか分からなかった。

 

「俺はごく僅かの人の中にしかいません。偉人とは、世界の仕組みをよく知ってます。先輩も知っているでしょう?俺がやってるのは、最大多数の最大幸福の実行に過ぎません」

 

俺はある日、ある男子生徒を殴った。そいつは今まで俺に何度も嫌がらせをしてきたやつで俺も我慢の限界だった。しかし、運悪くその現場を先生に見られ、俺は自宅謹慎になった。

 

「最大多数の最大幸福は善とするだけで、正義にはならないんだよ?」

 

「悪の反対は善ですし、悪役の反対は正義のヒーローですよ。敵の敵は味方、その考え方なら善は正義です」

 

俺が暴力を行った事が雪ノ下達に流れた。自宅謹慎が解け、学校に行けば周りからは好奇の目にさらされた。雪ノ下は腫れ物のように俺を扱う。由比ヶ浜はやたら心配してくる。一色はからかってくる。戸塚は何度も何度も謝ってくる。正しく理解してくれたのは小町だけだった。

俺の目からは完全に光が消えた。俺の視界からは色が消えた。俺の鼓膜はフィルタリングをするようになった。俺の喉は音を出すのを嫌った。

 

「ねえ、比企谷くん」

 

「…なんですか?」

 

「…私さ、何にもないんだ。陽乃さんみたいな絶対的な支配力も、雪ノ下さんみたいな冷酷に物事を進める指揮力も、由比ヶ浜さんみたいな周りの空気を読んでそれに合わせる調和力も、一色さんみたいな場面に合わせて顔を変えるような応対力も……何も無い。大学の友達も秀でてる何かがあるんだ。それがすごく羨ましいし、妬ましい」

 

そんなはずはない。めぐり先輩には確かに周りを和ませることが出来る。

 

「そんな私でも、人並みのことは出来るって自負してる。人の話を聞いてあげて、理解することは出来る。疲れていたら、お疲れ様って言えるし、頑張ってる人に向かって応援もできる。勿論、自分の非を認めて素直に謝ることは…苦手なんだけど、出来るよ」

 

「誰にでもできることじゃないですよ。どれも」

 

「そんなこと無いよ。きっかけがあれば人は天使にも悪魔にも、神や魔王にもなれる。私は人のままでいるだけ」

 

めぐり先輩は一度言葉を切って目を閉じ、穏やかな表情になる。その表情は慈愛に溢れていた。

 

「だからね、比企谷くん。私は君の話を聞いて君を理解したい。疲れている君を見つけたら、お疲れ様って言ってあげたい。君が頑張っているのを見つけたら、応援してあげたい。君にやってしまった非を認めて謝りたいんだ……って、私かなり恥ずかしい事言ってない!?」

 

「……そう、ですね」

 

まともにめぐり先輩の顔を見れない。俺の目線は左下へと着弾している。

めぐり先輩は一度落ち着いて、また喋りだした。

 

「私はね、人並みのことしか出来ない。だから、君の傍で人並みのことをしていたいんだ」

 

「…そんなこと、言われたら…」

 

勘違いしてしまいそうになる--その言葉は俺の喉から飛び出すことは無かった。

 

「ご、ごめんね!この忙しくてナイーブになる時期に」

 

「城廻先輩」

 

「…何?」

 

謝ってくれているめぐり先輩を止めて、問う。

 

「先輩の大学って、どこですか?」

 

「え、〇△大学だよ」

 

「そうですか。じゃあ俺今からそこ目指しますね」

 

「…応援してるね!!」

 

その後、連絡先を交換して店を出た。相変わらず、雨は強い。店の前でめぐり先輩と別れ帰路を歩く。

風は追い風になっていて、俺の視界は開けていた。遠くに見える光は、多分雲の切れ目から漏れる陽の光なのだろう。あと少し、頑張ろうと思った。




文才が来い

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