やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。 作:Maverick
まあ、メインヒロインですからやらないわけにはいかないんですよね…こっちの子は好きだけどアホの子そこまで好きじゃないからどうしようと悩んでおります。
因みにこの話、修学旅行直前からの分岐となります。
ではでは、どうぞ!
「比企谷くん、少し…いいかしら?」
今、奉仕部の部屋には俺と雪ノ下の2人だけ。しかし、由比ヶ浜がこいつと疎遠になったとかではなく、今日はあっちのリア充(笑)グループに行っただけだ。
雪ノ下らしくない、言いずらそうに言葉を必死に探している。なにかあったんだろうか?
「来週、修学旅行があるでしょう。3日目の自由時間、一緒にまわりましょう?」
「な、なにそれ。なんの風の吹き回しだよ」
色々あった文化祭も体育祭も過ぎ、来週にはもう修学旅行だ。八幡ピュアだからベッドに入る度、もういくつ寝ると修学旅行♪とか考えてる。だって、戸塚とあんなことやこんなことするつもりなのに楽しみじゃないわけない。
しかし、雪ノ下はなぜ俺を誘ったのか。1度思考の海に自ら溺れる。こいつのことだから自分の意思ではないだろう。と、なると一枚かんでそうなのは由比ヶ浜と陽乃さんだ。由比ヶ浜にお願いされたか、陽乃さんに脅されたか。なぜお願いや脅迫をされるかは知らんが大方二つに一つだろう。
とりあえず、雪ノ下と2人ではないだろうと思い、落ち着く。
「…で、どういうことだ?」
「…っ、え、ええ。由比ヶ浜さんが3日目は私と貴方と3人で回りたいと行ったから、なら私が今日聞いておくわと答えたの」
「…ああ、昼飯の時にそれ話したのな」
そりゃありがたい。幾ら目立ちにくいとはいえ、クラスで俺を誘うのは由比ヶ浜からしてもハードルが高かったのだろう。俺からすれば50mくらいの壁だけどな。100年くらいは、大丈夫!ってやつだ。
「…いつも思うのだけれど、貴方察する能力が無駄に高くないかしら」
「一言余計だが、まあそうだな。いつも1人だと周りの会話から状況を把握しないと生きていけないから。そっから培われたんだろ、言わせんな」
「あら、そうやって自虐して笑わせようとしても、それこそ無謀というものだわ。私は自分がやらないと面白がらない性格よ」
ああ、そっすか。ところで、結局俺は3日目どうしようか。
俺の当初の予定は1日目に存在感を薄めて、リア充(笑)の光の影となってそれとなく回って2日目は適当に入った班からゆっくりフェードアウトしてホテルに帰る頃にこっそり合流。3日目は古本屋を回ったり、アニメの聖地を回るつもりだったんだが。
「戸部の依頼はどうするんだ?」
「由比ヶ浜さんが勢いで受けてしまったあれよね…」
「ちょっと、貴方もその勢いに押され負けたんですけど」
と、くだらない話も区切られたところでドアがノックされた。雪ノ下が応対して入ってきたのは、リア充(笑)グループの1人、海老名姫菜であった。
「はろはろー、2人ともいるんだね」
「海老名さんは由比ヶ浜と一緒じゃないのか?」
「あ、うん。ちょっと漫研と話し込んでて」
はあ、大方薔薇の話でもしてたんだろ。百合なら話に花を咲かすが薔薇は別だ。でも僕ぼっちだから花を咲かしてくれる相手いないけどね!
「それで、海老名さんは何か依頼かしら」
「うん、そうだよ。漏洩されたくない、大切な依頼」
そう前置くと、海老名さんは話し始めた。
なんでも、戸部が今回の修学旅行で何かしらしてくるであろうと思っており、それを阻止して欲しいらしい。由比ヶ浜がいない時に来たのは戸部の依頼との葛藤を防ぐ為だろう。
「つまり、海老名さんは今の関係を変えたくないんだな」
「要約すると、そんな感じ。私に出来ることがあれば何でも言ってね」
「ええ、こちらも全力を尽くすわ」
そう雪ノ下が返すとありがとう、と言って海老名さんは行ってしまった。にしても、この状況はやばいな。
「どうする、雪ノ下」
「時間も遅いし、今日は帰りましょう。と言っても修学旅行まで時間が無いわね」
そう思索すること数秒、雪ノ下は1度閃いたと言わんばかりに目を見開いたが、その後はなにやらモジモジし始めた。やめなさい、可愛いから、うっかり惚れちゃって告っちゃって振られちゃうよ?やっぱり振られちゃうのね。
「ひ、比企谷…くん。由比ヶ浜さんに知られないようにも、その、連絡先を交換しましょう」
なんだ、このかぁいい生き物は。コマチエル、トツカエルに続く可愛さを秘めていたのか、こいつ。…なかなかやるな。
雪ノ下にバレないように、1度落ち着いてから平静を装って了承する。
「お、おう。じゃあやってくれないか?」
「貴方…由比ヶ浜さんの時もそうだったわね」
そうため息しながらも雪ノ下は携帯を操作してくれた。その間に俺は自分の荷物を持って戸締りの確認、紅茶等の確認を済まし、鍵と雪ノ下の荷物を持って作業が終わるのを待った。
「終わったわ、はい」
「おう、これお前の鞄な。早く出ようぜ」
「え、ええ。その、ありがとう」
「……おう」
なんだよ、俺はコンビニに行った時に店員に話しかけられて喋り始める時にあっ、ていう人か。それも俺じゃねーか。
とにかく、喋り始めにおう、と言いすぎたことに少し反省して、教室をあとにする。
「じゃあな、雪ノ下」
「ええ、今夜1度こちらから連絡を入れるわね」
「あ、ああ」
雪ノ下は、俺が焦ったのを見て面白そうにクスクスわらうと長い黒髪を揺らしながら職員室に向かった。
さて、帰りますか。
その日の夜、俺はソファで寝っ転がっていた。珍しく俺が部屋着のポケットにスマホを忍ばせていることに疑問を持った小町が突っ込んできた。いらんわ、弄られるのが目に見えとる。
「ねえねえ、お兄ちゃん。なんでスマホ持ち歩いてるの?いつもは部屋かリビングに放置だよね?」
「まあ、あれだあれ。ちょっと用があるんだよ」
「ふぅん……ねえねえ、お兄ちゃん。相手は雪乃さん?結衣さん?」
「なんでその二択…」
と答えたのとメールの着信を知らせる音が鳴ったのは同時だった。慌ててメールを確認するためにソファに座り、スマホを起動させる。相手は雪ノ下だ。内容はいたってシンプル。『比企谷くん、よね?ちゃんと届いてるかしら、貴方の家は土の下にあるのでしょう。』…ちょっと待て、これやっぱシンプルとかそういう問題じゃないわ。小町は風呂に行ってしまった。
一応、雪ノ下の毒舌に対応しながらもそうだ、と返す。その後は至って事務的な内容のみだった。結局、戸部を説得して延期させるように方向性は決まったところで、雪ノ下からのメールの文面にこんなことが書いてあった。
『ところで、貴方は3日目一緒に回ってくれるのかしら。』
……そうだった、結局有耶無耶になってしまっていたんだった。どうしようか悩んでいると、突如俺の手からスマホが消えた。残像だったのか!?なんてことは無く、振り返るとそこには俺のお古を着て、俺のスマホを持った小町がいた。俺のこと好きすぎでしょ、え、違う?違うか。悲しい。
「んー、なになに…え、お兄ちゃん。ナニコレ」
いつものあざとい演技はなく普通に驚いていた。まだまだだな、小町よ。陽乃さんはこれくらい何ともないぞ、なにそれやだ。
「奉仕部の3人で3日目回りたいと由比ヶ浜に言われたんだと」
「あ、あー。はいはい、そういう事ね。2人ともヘタっちゃったか~」
「なんだよ、その反応…あ、そうだ小町。ちょっと聞いてもいいか?」
後半、なんといったか聞こえなかったがそこまで重要でもないだろうと思い、俺は小町に戸部の告白を延期にさせる方法はなにかないかと聞いてみた。頭を回転させながら、ソファに座り込む。暫く考えていた小町だが、急に立ち上がると軽快に2階へと上がっていく。恐らく自分の携帯を取りに行ったのだろう。風呂に入ろうと、小町に声をかけると間延びした声で了解をもらった。
風呂から上がると、小町が夕飯の仕上げをしながら話しかけてきた。
「あ、お兄ちゃん。小町、いい案思いついちゃったよ!」
「あ?なんだよ」
「ほら、お兄ちゃんってさ文化祭の時に雪乃さんと回ってたんだよね?」
「仕事でな」
ここまで来ると嫌な予感しかしない。流石俺の妹である。
「その時に告白して、成功したってことにして『文化祭の方が修学旅行より雰囲気いいぞ。来年にしとけ』って言うんだよ!」
「却下」
即答もんだ。だいたいそれを雪ノ下が納得するはずがない。そう高を括っていたのだが、小町は衝撃の事実を告げる。
「雪乃さんは問題ないって言ってたよ?」
「…なん…だと」
確認すべく急いで雪ノ下に連絡をとる。電話帳を開いて雪ノ下雪乃の文字を探し、発信を押す。何コールかしたあとに雪ノ下は出た。
『なに、比企谷くん』
「お前、小町のあれ聞いて了承したのか?」
『あれ?…ああ』
思い当たる事があるのだろう、雪ノ下の返事を待ちつつ小町を見てみるとまだ余裕そうだ。若干緊迫しているようにも見える。まだ、何かある。
「なあ、雪ノ下。因みにそれはどんな話になってる?」
そう聞いた瞬間、小町はこちらへ近寄ってきて俺の電話を奪おうとする。そんなことお構い無しで通話を続ける。
『えっと…確か、文化祭の実行委員で文化祭中に交際を始めた人がいるから、やるなら文化祭中に…だったと思うわ』
それを聞いて確信した。こいつ、俺らのこと嵌めようとしたな。
「ちょっと待ってろ、雪ノ下。小町、正座」
「で、でもお兄ちゃん」
「正座だ」
そう言われた小町は渋々正座をする。通話をスピーカーにして小町に話をさせる。
「ほら、小町。今ここで雪ノ下に謝れ」
「ご、ごめんなさい!雪乃さん!」
『ど、どうなっているの?』
まあ、いきなり謝られたら困惑するわな。小町が正座のままお辞儀している状態でこちらをチラッと見たので、睨み返しお前から説明しろと訴えかける。
小町は降参でもしたのか、諦めたかのように話す。
「実は、その文化祭実行委員のことってお兄ちゃんと雪乃さんにしようと思ってたんですけど…ダメですかね」
『はあ、ダメに決まってるでしょう。戸部くんはこう…なんでも信じるから、多少濁しても問題ないわ。比企谷くん』
俺の方に呼びかけてきたので、スピーカーを切ってスマホを耳に当てる。小町はまだ腰を折っている。
『小町さん、辛い体勢なのでしょう?私はもう怒ってないから、開放してあげて』
「ああ。良かったな、小町。雪ノ下が許してくれたってよ」
それを聞くやいなやすぐに立ち上がって夕飯の盛り付けを始めた。
「改めて、悪かったな。小町が変なことして」
『構わないわ。それより由比ヶ浜さんにさっきこのことを伝えたわ。もちろん海老名さんが来た事は伏せて』
「ああ、なんて言ってた?」
『しょうがないけど、これで目一杯楽しめるね、と言ってたわ。なら最初から受けなければいいのに…』
全くだ。そこから一言二言交わして電話を切った。その後は普通に夕飯を食って、ちょっと勉強してアニメ見て寝た。明日、戸部を説得か…まあ、なんとかなるか。
放課後、戸部をなんとか説得した。あいつもなんだかんだでイイヤツだから『もし振られて気まずくなったら葉山も海老名さんも困るだろ』と言うと渋々だが納得したらしい。これで、修学旅行はなんの憂いもなく楽しめそうだ。
『比企谷くん、今日の1枚はまだかしら?』
毎晩送られてくるこのメールはこの一連の出来事の名残だろう。まあ、こいつらしいといえばこいつらしいが。
「カマクラー、どこだカマクラ。出てこないと、俺明日帰ってこれねぇんだけどー」
死なないためにも、写真をゲットしなければ。…なんで小町の方にお願いしないんだろうな。まあ、多分あいつなりに気を使っているんだろう。だったら俺にも気を使え。しかし、まあ。
『ありがとう、明日もよろしくね』
送った後に送り返されるこのメールが案外俺の楽しみになっている事は誰も知らない。
雪ノ下さん。難しい。
というか、自分は文才が底辺レベルであることに今更気づきました。それでも書き続けますが。
次は誰にしましょうか、ではでは。