やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。 作:Maverick
なんと服部副会長との勝負に達することなく投稿することになるとは思いませんでした。
えっと、この俺は北山家の居候を独立させたものを投稿し始めたのでその報告ついでに途中のものではありますが入学編参を載せました。
ですのでそちらに行っていただいてもちろん構いません。このまま読む方はどうぞ続けて読んで頂いて結構です。
ではでは。
一昨日と昨日がどちらもなかなかに濃厚な一日だったからか今日がまだ新学年三日目ということを信じられない。何ならもう五月ぐらいな感覚まである。
少し雫と気まずくなるかなーとか思ってたけどそんなことはなく、ケオやほのかに勘ぐられることもなかった。
今日は道中知り合いに会うこともなく四人で談笑しながら登校した、クラスの雰囲気はなにかピリピリしてる。どれくらいかって言うとカラムーチョを一袋まるまる一人で食べたくらい。
なんでかなあ?ハチマンワカンナイ。
「お前らのせいで森崎が停学になったからに決まってるだろ」
俺の心を汲み取ったのか、呆れるようにケオが言う。
「お前だって一端だぞ、間違いなく」
今朝一年の一科生全員に送られたであろうメールには、森崎が二週間の停学処分になったと書かれていた。
全面的に悪いのは森崎だしその原因は二科生との差の優越感なので、こうして一年の一科生にアナウンスしといて予防線を張ろうという魂胆なのだろう。
「おはよう。雫、ほのか」
俺たち二人よりも扉の近くで喋っていた雫とほのかが挨拶されている。見てみるとそこには深雪がいた。
「おはよう」
「おはよう!深雪」
ああ、眼福眼福。そう思ってるとこっちにもおはようしてきたので返した。
そしてすぐ深雪の顔が少し強ばる。どうしたのだろう。
「八幡、今朝七草生徒会長から昼休みに生徒会室に来るようにとの言伝よ。私とお兄様も居るわ」
顔が強ばったのはただ事務連絡の時には真面目にならないと、という深雪のけじめのようだ。
「…風紀委員について、だろうな」
「多分ね…昼休みになったら一緒に行きましょう?」
なんでそんなナチュラルに同行を提案できるの?深雪さんマジカッケエ。
特に断る理由もなかったので首肯を返す。ここまで来て漸く深雪が一安心と言った具合に息を吐いた。そんなに俺が単独行動を強行するように見える?見えるんだろうなあ。
「はあ…にしても八幡が風紀委員ねえ。笑い足りねえわ、まだ」
「おい」
「んー、でもケオの言うことも分かるんだよね。中学が中学だもん」
深雪は頭上にハテナを浮かべ俺はうへぇというような顔をする。残りの三人は大同小異でクスクス笑いをこらえていた。
「八幡、中学の時はどんなことしていたの?」
「あー、まあほとんどケオに唆されてやったことなんだが…一番マシなのは教室のガラス割ったことか」
「いやいや、どっちかと言うと体育祭でこっそり魔法使って徒競走一位の方がまだマシだろ」
「あれ確か優勝候補の先輩が優勝した時には雫と婚約するとか言ってたんだっけ」
「私的には…魔法理学を先生よりわかりやすく授業したことが、一番マシだと思う」
「…八幡、貴方何者?」
すごい失礼なことを言われている気がしないでもないが、ただの高校生である。別に元軍人がアポトキシンで若くとかなってないなってない。正真正銘十五歳である。
「俺たちの自慢だな、間違いない」
とりあえず殴っといた。何素面で恥ずかしい事言ってんだこっちが恥ずかしくなるだろうが。
*****
時は過ぎ昼休み、小町手製の弁当を手に立ち上がり廊下で待つ。深雪はなにやら先程の授業の課題の提出に手間取っていたようだ。
窓に寄りかかりドアを正面に数秒待って欠伸をひとつ、口が閉じるのとドアが開くのは同時だった。それらが発する音はまるで対照的だったが。
「八幡!一緒に行こうと言ったでしょ」
「だからこうしてここで待ってたんだろ」
「…そうね、何も問題なかったわ。ごめんなさい」
つり上がった目は一瞬にして下がった。そ、そんなにしょげられるとなんだか悪いことをした気分になる。
「いや、いい。少しからかってみたかっただけだ」
「っ!…もうっ、馬鹿」
ぷいっとそっぽを向く深雪相手にどうしようか悩んだ結果、暫く放置しようと結論を出した。
だんまりを続けようとした時、教室から雫が出てきた。
「深雪、私も行っていい?」
「えっ、う、うーん…どうかしら。八幡?」
二人してこちらを見るな恥ずかしい。
ポケットから端末を取り出し七草さんにメッセージを送る。内容としては『北山雫も行っていいですか?』だ。返信はすぐ来た、21世紀初めのアニメキャラのスタンプ。…七夕紗夜ですか、仕方ないですねって…なんでこんなスタンプを七草さんが使うのかは謎だが、ともあれいいらしい。
「いいってよ」
「じゃあ行こう」
息巻いて雫が先頭を歩こうとする。なんでそんなにやる気いっぱいなの?いや、割と謎。
息を吐いて雫に続く。途中で達也と合流、雫がいることに疑念を持ったようだが気にする事はないと言うと、そうかと言ってそれ以上は何も言ってこなかった。こういう塩対応的なのが楽だったりする。
そんなこんなでたどり着いた生徒会室。けど扉開けたくねえなあ。とか思ってると深雪がドアをノックした。もう後には引けない、か。
「司波深雪と司波達也、比企谷八幡と北山雫です」
「どうぞ〜」
深雪が代表して名乗り、入室許可が降りドアがアンロックされる。俺たち四人はそのまま中に入った。…気のせいか、外から視線を感じた気がしたんだが。
「座って座って。あ、そこに配膳機あるから必要な人は使ってちょうだい」
「私たちはお弁当がありますので、お気持ちだけ」
「俺たちも弁当あるんで大丈夫です」
「そっか、もし飲み物が欲しければ配膳機の横の冷蔵庫から取っていっていいわよ」
今日は自販機で買おうと思っていたがここまですっかり忘れていたのでありがたく貰うことにする。一辺七十センチぐらいの立方体の冷蔵庫を開けた。
そこには定番のお茶やミネラルウォーターを始め、様々な飲み物があった。その中で一際存在感を放つ黄色いラベルのペットボトル…正しくそれはソウルドリンク!
「七草さん、どうしてMAXコーヒーが?」
「えっ!?ええーっと…さ、最近この学校の自動販売機の中を変えようっていうのを話してて…そのための資料で何本か入った状態なの、うん」
「そうなんですか、是非入れて欲しいですね」
冷蔵庫からMAXコーヒーと雫の分のお茶を取り出して達也の隣に座る。振り返った時に突き刺さった残念そうなものを見る目をされた気がするが皆さん平然としている…勘違いか。
「こんな真由美は初めて見た」
「ええ、私もです。長い付き合いだと思ってましたが…面白い方です」
「会長もやっぱり煩うんですね」
「──っ!さ、三人とも言わないでーっ!」
生徒会サイドが何やらこそこそ喋っているが俺には何も聞こえていない。なぜなら俺の意識の八割九割はMAXコーヒー、残りは雫に費やしているからだ。常に雫に気を配る、これこそが雫検定昇級への近道。
とりあえず俺の興奮とみんなの昼食が一段落したところで本題に入った。
まずは深雪へ生徒会の勧誘及び説明。ここで深雪が達也を推薦するというハプニングはあったものの、宥められ沈静。その後はトントン拍子に進んだ。
「さて、では私から比企谷に風紀委員の説明だ。司波妹も風紀委員とは良好な関係を築いてほしいので心して聞いてくれ」
「わかりました」
そこからは渡辺風紀委員長の独壇場。身振り手振りはないものの熱い語気と信念で場を支配して説明を垂れる。
あらかた終わって一息付いたところで渡辺風紀委員長…渡辺先輩がこう言った。
「そう言えば…風紀委員には一科二科の縛りはなかったし、生徒会推薦枠が空いていたな──」
隣の達也の顔がたしかに強ばったのを感じ取った俺は、念の為に達也が逃げないよう肩に手を置く。
ちょっと睨まれた、怖い。
「そうよ、摩利!あなたやっぱり天才だわ!」
「…まさか」
これから言われることが分かっていながら敢えて聞きに行く達也。南無南無。
「生徒会は達也くんを風紀委員に推薦します!」
二つ隣の深雪の目がキラッキラしてる。そんなに兄が風紀委員になることが喜ばしいか、俺は小町にそんなに喜ばれなかったな。いやきっと裏でははしゃぎまくっててベッドの上を跳ねてるって信じてる。
ふっ…現実を見よう(白目)。
「ま、待ってください」
まともに交流してまだ三日だが、今までで一番取り乱す達也。
「話を聞く限り風紀委員は端的に言って魔法の不正利用の取り締まりが主な仕事だと思われます。そこになぜ二科生の自分が推薦されるのでしょう」
「ふむ、純粋な戦闘力では確かに君は他より劣っているかもしれない。そこはまだ未知数だ、だが君には常に冷静でいられる精神力とそれを由来とする判断力がある。さっきも軽く触れたが私たちは君たちの入試の成績を網羅している。あそこまで高得点であるならブレーンとしての活躍だけの期待値でも、十分だと思うのだが?」
なるほど、つまり今風紀委員には脳筋しかいないのか。…おっと睨まれた気がする。
しかしまあ、部隊において司令部と実働部があるのは定番だし、それを一年の二科生がやるというのは、リスクが大きいがその分二科への見方が変わるかもしれない。ハイリスクハイリターンだ。
本音を言えば道連れになれ司波達也!だが。
「…納得はできませんが、断ることは出来なさそうですね」
「じゃあ!」
「ええ、俺でよければ」
達也、折れたり。
「善は急げだ。顔合わせは今日の放課後に行う。三人は放課後生徒会室へ早急に来てくれ」
渡辺委員長がそう締めくくり雑談へ入ろうとする。まあ昼休みも残り少ないから、それくらいはいいかなと思っていると雫が声を出した。
「七草会長、私も生徒会へ入れてもらうことは出来ますか?」
「え!?」
いきなりの質問?お願い?に困惑する七草会長。しばしフリーズした会長に代わり、鈴村副会長が応対し始めた。
「どうしてそのようなことを?」
「八幡が勝手に風紀委員になってしまって、置いてかれたくなくて…」
「おいおい待て待て、なんで俺が自ら望んで風紀委員になったみたいな言い方するの」
「ダメでしょうか」
無視ですか!
改めて雫を説得しようとそちらを見てみれば雫の決意した顔を見て察する。
あ、これ何言ってもダメなやつだ。とりあえずはこの案件にイエスでもノーでもいいから決着をつけない限りテコでも動かない。
「どうしようかしら、リンちゃん」
「手伝いは多いことに越したことはありませんが…」
「実際私たちの仕事は大したことないものばかりですからね…」
「かと言ってこちらも人手は今しがた確保したしな」
生徒会メンバーが相談し始めた。どう断ろうか悩んでいる訳では無いらしく、本気で雫を生徒会に迎え入れようかどうか悩んでいるようだ。
雫の口ぶりには少々納得いかないが雫が生徒会をやりたいと言うなら、それを支援するだけ…か。
「会長、俺からもお願いします。人をまとめる仕事に就いたことはない奴ですが物事の覚えは早い方です」
「は、八くんまで…」
しばらく黙って考えていた4人だったが、答えが出る前に予鈴を告げられる。
「ひとまず放課後あなた達にはもう一度ここへ来てもらいます。その時にまたお話しましょう、北山さん」
「はい」
あれ、先延ばしでも動くの?今度からそうしよう。
先に俺達が部屋をでる。暫定風紀委員が廊下を走るわけにはいかないという女子2人の意見の元早歩きで教室へ戻る俺たち。達也とはやはり途中で別れてA組に戻ってこれたのは始業の30秒前だった。
「おつかれ、八幡。これ終わったら何話してたか聞かせてくれよ?」
そう言ってくるケオからは純粋な好奇心とこちらへの気遣いを感じた。心の中で感謝を述べ、意識を勉に向ける。
*****
今日最後の授業が終わり俺は荷物を纏めていた。まあまとめる荷物なんてほぼないが。
「で、昼休み何があったんだよ。八幡」
「私にも教えて!」
自分の帰り支度もせずにまあなんと興味津々なことで。
生徒会室に来いと言われているので手短に要点だけを話した。
「なるほどなぁ、雫も生徒会に入るのか」
「未定だけどな」
「私たちもせっかく魔法科高校に来たんだから何かチャレンジしてみたいな。ねっ、ケオ!」
「お、そりゃあいいな。体術でもやってみようかね」
体術始めるのに魔法科高校かどうかは関係ないよなと言うツッコミは野暮だろうか。
ケオの体格があれば高校のうちにトップレベルにまで行けるだろう。元々運動神経は良すぎるこいつだ、柔道だったり合気道だったり始めれば直ぐに習得するだろう。
「まあその辺含めて部活動勧誘期間が楽しみだな!」
「そうだね、じゃあ私たちはもう帰るね」
「ああ、俺と雫は生徒会室に行かなきゃならんから」
「頑張れよ、風紀委員」
そう言ってからかってくるケオに二言ほど返し先に行ったと思われる雫と深雪を追った。
二人に追いついた頃には達也も合流していた。
「来たか、八幡」
「来たくなかったがな」
俺に気づくとすぐ声をかけてくれた達也だが、深雪から何も言われない。どうしたのかとそちらへ顔を向けてみると、何やらびっくりした表情をしている。
「ほんとに来たわ…生徒会室に着いたら呼び出さなきゃと思っていたのに」
「俺の事なんだと思ってるんですかね」
「サボり魔」
「ちょっとー、雫さーん。辛辣すぎませんかー?」
ここで完全に否定できないのが辛くはある。
俺の言葉にそっぽ向いて顔を見せないようにしてくる雫。すこしばかり気を落としたが、くすくす笑う二人に気づく。
「なに、そんなに面白い?」
「いや、面白い…というか」
「八幡は絶対来るから行こうって言ったのは雫だから、素直じゃないなと思っただけよ」
「み、深雪!」
軽く言ってのけた深雪に対して『ちょままちょままま、恥ずかしい事言ってんじゃねー!』みたいな声色で深雪に声をかける雫。
そ、そっか…な、なんか信頼されてるみたいで恥ずかしいな…。
まあ俺が雫検定準一級保持者であるのと同様に、雫も八幡検定二級保持者なのだ。むしろそれくらいバレているのが自然なまである。
ここで級の差があるのは検定の責任者が潮さんか小町かの違いだ。小町の方が少し判断基準が厳しい。
「三人とも、生徒会室に着いたぞ」
唯一やりとりに深入りしてなかった達也が俺たちに告げる。気づかないうちに生徒会室まで来ていたらしい。
目で準備がいいか聞いてくる深雪に欠伸を返す。雫から肘打ちを貰った。我々の業界ではご褒美です!と思いつつ表に出さないように顔を顰める。
学生証をカードキー代わりに鍵を開ける、そこそこのセキュリティを誇る生徒会室。つまり、俺たちはノックして入るしかない…はずだが。
「失礼します」
どうやら深雪が今日の昼に済ませていたらしく、すんなり入ることが出来た。
「失礼します」
「し、失礼します」
「失礼します」
深雪に続いて達也、俺、雫が入室する。
昼にはいなかった副会長らしき男が七草さんの従者であるかのように立っていた。あー、ヤダヤダ。達也を睨んでやがる、めんどくさい事になりそうだ…。
「司波深雪さん、生徒会へようこそ。歓迎します。比企谷八幡くん、北山雫さん初めまして。副会長の服部と言います」
露骨に達也に挨拶しない態度に生徒会のメンバーが不満そうな顔をする。ふーん、生徒会と言えど一枚岩ではない、ということか。
深雪をチラ見すると噴火寸前の様子…まあ、これくらいならいいか。やりすぎると雫に怒られるからな…。
「あれ、達也。お前幻覚魔法使ってるの?俺なんも変わってないと思うんだが──もしかして、あの人にだけ見えてない?便利だなその魔法、俺にも教えてくれ」
「──ぷっ」
「──はぁ」
七草さんが思わず堪えきれず笑いを吹き出し、俺のやり方を知ってる雫がやれやれと言った具合でため息を吐き出す。声色的に怒ってるわけではなさそうだ。
他の人は全員キョトンとしている。あれ、俺の懇親のギャグ伝わらなかった?
徐々に俺の発言の意味を理解し皆が皆笑いを堪えようとする中、一人だけ明らかに態度が違った。
勿論服部先輩だ。あの人、堪忍袋の緒が、切れそうです!
「比企谷、お前俺を馬鹿にしてるのか?」
早くも口調が乱れる服部先輩。雫の様子を伺う…よし、まだ攻められる。
「化けの皮脆すぎません?もう少し粘りましょうよ」
「なっ──そんなもの被ってなどいない!」
「まあまあ落ち着いて。あと被るのは猫です。魔法師は冷静さが肝心ですよ」
俺の煽り、もとい忠告にさらにイラッときたのか拳を固くする先輩。
ただし一応俺の言うことは聞いていたのか一度深呼吸すると七草さんの方を向いた。
「こんなやつを風紀委員にしてしまうんですか?会長」
「仕方ないじゃない、八くんのせいで強制的に一人消えちゃったんだから」
「言い方悪いぞ、真由美」
七草さんに呆れるように注意する渡辺委員長。
まあ確かに俺のせいでモリモリが停学になってそんなやつを風紀委員にするなんてなあってことでその流れに持っていくのは分かる。分かりたくないけど。でもあいつ別に消えたわけじゃないよ?停学なだけだから。退学じゃないんだなぁこれが!
「それに、二科生が風紀委員になるというのも納得できません、ウィードでは役不足です」
「お言葉ですが服部副会長、役不足という言葉は今は誤用です。役不足とは役の方が下な時に使い、先輩の心情を忖度して忠言いたしますと、力不足が正しいかと」
「──ああ、そうかそれはどうもありがとう比企谷っ!」
頑張って怒りを抑えようとしているのを見て面白いものを見ているかのように笑う先輩三人とおどおどする先輩が一人。相変わらずの手法に呆れるのが一人と驚きながらも若干引いてるのが二人。
つまり今この生徒会室は、混沌そのものだった。うん、客観的に見てもこの状況はやばい。
「八幡、そろそろダメ」
「うっ…分かった」
小声で雫に窘められたので黙るしかなくなった。
突如黙った俺を見てこの場にいる人たちが怪訝そうにする。けどまあいい、どうせ今後そう深く関わるはずはないんだ変に思われても…あ、ダメだ。七草さんはどうやっても絡んでくるし渡辺委員長は委員長だからどうしようもない。
オワタ。
気を取り直すかのように服部先輩が咳払いをひとつ、喋りだした。
「──確かに比企谷は一科生ですから風紀委員として尽力できるとは思いますが」
する気ないけど。
「しかし司波の方はどうです、いくらブレーンとしての活動と建前をつけても納得しない人は少なからず出ます」
「まあ、それはそうだろうな」
「でしょう?ですから俺は」
「少しよろしいでしょうか」
先輩たちの話し合いに口を挟む深雪。すげえ、勇気あるなあ。
俺はとりあえず自分のことを顧みないから緊張とかしないら嫌いになるならなれってんだと思ってるからな。それゆえの行動だからみんな怒るんだろうけど。
「なんでしょう、司波さん」
「兄の実技の成績が芳しくないのは偏に兄の適性の問題です、日本の実技試験が兄の得意分野に適合してないがゆえであり、実戦となれば兄は先輩方を含めても校内で五本の指に入ると思われます」
「…ほお、そうですか」
服部先輩がそう言う。ただ間違いなく語尾に(笑)が付いていた。それを感じ深雪はさらにイラッとする。
「もう…達也くん。CADは学校に預けてあるのよね?」
「え、ええ…えっと、まさか?」
七草さんの問いに愚かにも素直に答える達也。そして勘づく達也。面倒なことになる前にフェードアウトしなければ。ノイズが発生しないように丁寧に魔法を発動しゆっくりと影を薄めていく。存在感を消していくのだ。ちなみにCADは使ってない。
「模擬戦をしましょう。服部くんと達也くんで…八くんもやりたいかしら?」
「ちっ」
フェードアウトに失敗したので魔法を切る。
「はあ…またか八幡」
「面倒ごとは嫌いなんだよ。はあ…」
露骨にため息をすることでどうやら副会長の反感を買ってしまったらしい。誰か買い取ってくれない?え、なに。むしろ俺から金取るって?ならいいや。
「お前もやるか?比企谷」
「遠慮しときます」
「八くんの強さは私が知ってるから、模擬戦はしなくてもいいわよ。ついて来てはもらうけれど」
その証言に感謝。面倒ごとはホンットに嫌なんで、ええ。雫が直接関わってないと自分から動くつもりは無い。
しかし、今生徒会室にいる人がみんな行くのなら、生徒会室に一人でいるということになる。何だか居心地が悪そうだ。風紀委員の部屋でも然り。どのみちついて行かなくてはならないらしい。逃亡に関しては諦めることにしよう…はあ。