やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。   作:Maverick

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恋愛とは戦である(棒読み

はい、というわけで皆さんお久しぶりでございます。バレンタインデー当日は作者の心が傷つくためフライング投稿となります。

あ、この作品について活動報告に書いてあります。初めて書きました、めっちゃ長いです。けれど読んでいただきたいなと思います。

間に合わせるため少し短くなってますがご了承ください、季節ネタは久しぶりなもんでペース配分ミスりました。


ゆきの様はせがんで欲しい

バレンタイン。

それは製菓会社の計略により女子から男子へチョコを渡す習慣が日本に定着してしまった日。由来というか起源は聖バレンタイン氏がどうこうした日らしいが、ぶっちゃけ興味が無い。

そんなことより、俺は俺らしくなく戸惑っていた。

俺の彼女、雪ノ下雪乃からチョコを貰えるもんだと思っていたから。

卒業式の時に俺から告白してから五年、毎年欠かさずに貰っていたから今年も貰えるもんだと思っていた。

いつも午後になるまでには連絡なりなんなりで集合場所とかも教えてくれたのに、今の時刻は午後一時。しかし音沙汰なし。

くそ、少し悔しいがここは由比ヶ浜に聞いてみるか。そうやって通話した時に由比ヶ浜がこう言った。

『ゆきのん?えーっと、かぐや様…がどうとかいうマンガ読んでフフフって笑ってるの見たよ!』

そ、そういう事ね。

 

 

 

──バレンタイン。

それは女子から男子へとチョコを渡すことが習慣化したイベント。

二月十四日のその日、日本はピンクの雰囲気に飲み込まれる。

しかあぁし!!それは低偏差値の猿共だけの話!男としてのプライドがないもの達は女子へ期間限定の乞食に成り下がり!女としてのプライドがないもの達は性行為の快楽を得るための布石として安物を配り歩く!

だが!本命に全てをかけるものは違う!いつ渡すのか、何を渡すのか、どこに渡すのか、どのように渡すのか、全てに最善を尽くすべきなのだ!そしてなにより!この時男女の間には明確な力関係が存在する!女子側が男子側に『渡す』のか、男子側が女子側に『貰う』のか!表面上は同じだが内包される意味合いが変わるうぅ!!

そこで彼女──雪ノ下雪乃は考えた。彼の方からせがんで欲しい、と。

しかし彼──比企谷八幡はこう思う。男の方からせがむのはダサい、と。

今日行われるのは!この二人の!バレンタイン聖戦!!!

と見せかけてただのイィチャイチャァァ!?!?

 

 

 

現在時刻は午後七時。

今俺は一人暮らししているアパートの部屋にいる。この時刻になるといつも彼女である雪ノ下雪乃が我が城に来てくれ晩御飯を作ってくれる。彼女はここから歩いて七分のところに住んでいる。つまりは半同棲状態なのだ。

本を読むふりをしながら彼女が来るまでになにか作戦を立てたかったが、今日のノルマがあまりにきつく計画を立てる隙がなかった。くそっ、あの独身課長許さん!平塚先生ならまだ許せたがてめえただのオッサンだろ!

とにかく行き当たりばったりになってしまうだろうがやるしかない。

雪ノ下雪乃にチョコを渡させる!

 

 

 

現在時刻は午後七時。

今私は彼氏であるところの比企谷八幡の一人暮らしの部屋の前にいる。いつもより少し大きめのバッグには彼に渡すチョコがある──のだけれども、いつも通り渡すのはなんだか癪だわ。それに彼、毎年貰ってるから有難みが減ってるように感じられる。それは私としては少し複雑、せっかく作るのならもっと喜んで欲しいものだわ。そんな時に読んだ漫画に感化されたことは認めるけれども、それでも私は彼に『ゆ、雪ノ下──チョコ、ないのか?』と言わせたい!

ある程度の作戦はもうある。あとはこれを私が実行できるかどうかよ…いざ、戦場へ!

 

 

 

チャイムが鳴る。その後すぐに扉が開いた。彼女が入ってくる時はいつもこうだ。俺の手には一冊の小説、素早く人差し指を本の前半に挟み直す。いかにも本を読み始めましたよという雰囲気を醸し出す!

1DKであること部屋、ダイニングと一室は引き戸で繋がっている…干物妹が出てくるアニメの部屋を想像してくれればいい。部屋の中身はさすがに違うが。

引き戸が開く。そこに居たのはやはり雪ノ下だった。カバンはダイニングの食卓に置いてある。

 

「こんばんは、比企谷くん」

 

「おお」

 

まだ混乱しているというのに来てしまったか!ここは一先ず雪ノ下に感謝を伝えてムードをつくる作戦で行くしかない。

 

「いつもサンキュな、助かってる」

 

「っ!…え、ええ。どういたしまして、けれど気にする必要は無いわ。私が好きでやってるもの」

 

「それでもな。まあなんだ、たまには感謝するのもいいと思って」

 

「そ、そう」

 

 

 

い、いきなりなんなのかしら。もちろん感謝されて嬉しくない訳では無いのだけれどこのままでは私の決意が揺らいでしまう…あっ。

 

「ど、どうしていきなりそんなことを言い出したのかしら、今日はなにか特別な日だったりするの?」

 

「えっ、ああっと、いいや、そんなことは無いんだが、そ、そう、ふと思ってな」

 

この動揺の仕方…間違いなく今日がバレンタインであることを分かっている!

 

「そう…じゃあ、早速作るわね」

 

この時自然とカバンを取り部屋の中に置き直す。キッチンに戻って冷蔵庫を開けて今日の献立を決める、今週末は買い出しね。と、ここで作戦一を発動!

 

「ひ、比企谷くん。私のカバンにゆず胡椒が入ってるの、取ってくれないかしら」

 

「あ、ああ」

 

ダイニングテーブルの隙間から比企谷くんの動きを凝視する。こうしてカバンを開けさせる直前に…。

 

「あ、待って比企谷くん!!やっぱりこっちにカバンごと持ってきてくれないかしら」

 

「え?あ、ああ」

 

こうしていかにも私が彼に隠したいものをカバンに入れてますよアピールをする。とりあえず上手くいったわ…。

 

 

 

そこまで大根という訳では無いが演技が決して上手くない雪ノ下、初対面の人やただの知り合いなら見抜かれないが俺や由比ヶ浜、一色辺りなら彼女の嘘や演技は見抜ける。陽乃さんは誰でも見抜けるから関係ない。

この時俺は確信した。雪ノ下はこのカバンにチョコを入れていて、さらにこいつは俺にチョコを貰う側に回って欲しいのだろう。

その勝負乗ってやる。

 

「ほれ、ここ置いとくぞ」

 

「ええ、ありがとう」

 

…攻めてみるか。

 

「いつもよりカバン大きくないか?」

 

「そ、そそそそう?」

 

動揺がすっごいなこいつ!?

 

「えっと、これ貴方には見せてなかったけれど先週由比ヶ浜さんと遊びに行った時に買ったの。ちょうどいいサイズがなかったけど大は小を兼ねるってことで…そこまで持ち運びの邪魔になるサイズでもないから、いいかなと思って」

 

──ほーん、そうなのか。由比ヶ浜とね、俺はそんとき家に一人だったな。

まあ確かに、そう言われてみれば見たことないカバンだった。

 

「そうか、てっきりなにかいつものもの以外の『何か』を持ってくるためなのかと思った」

 

さあどう出る?

 

 

 

ここまで言ってくるということは私がチョコを持ってきていることはもうバレたようね。冷蔵庫を漁りながら答える。

 

「ええ、一応それもあるけれど。あまり貴方には見られたくないものだったわ」

 

「そうか」

 

そう言って比企谷くんは部屋に戻っていたらしい。

これは今不利な状況ね。攻撃は最大の防御、攻めるしかない!

 

「ところで比企谷くん、今日はバレンタインデーのようね」

 

「ああ!?あ、あー、そういえばそうだったな」

 

「同僚の子から貰えたりしたのかしら」

 

「あー、まあ、皆に配るような人達からは、な」

 

ふふふ、動揺してるわね。この調子で攻めるわよ!

 

「そう、じゃあ本命は貰えてないのね。お可愛いこと」

 

 

 

セリフまでコピーかよ!!

しかしかなり踏み込んできたな…ここでなんとか切り返さなければ、このまま流れで俺が雪ノ下にチョコはないのか聞くことになってしまう。なにか、なにか突破口はないのか!!

そこで俺は、喋ることをやめた。

本を開きいかにも『おれめっちゃ集中してるぞー』感を醸し出す。

 

「比企谷くん、鶏肉と野菜の炒めものとハンバーグどちらがいいかしら」

 

無視無視。

 

「ふん、返事しないのならいいわ。ハンバーグとサラダ。サラダにはトマトをつけるわ」

 

「すみませんでした」

 

即座に土下座した。

トマトに負ける大人ってなんやねん…。ダサい、ダサさをこれ以上見せないようにチョコは絶対渡させる!

しかしここからしばらくお互いに無言になる。雪ノ下は料理してるんだし俺は本を読んでいるんだし当然だ。部屋にテレビはあるにはあるがゲームのディスプレイように置いてあるだけでなにか見ることはできない。最近のアニメはネットで見れるからな。なんなら最近じゃないアニメも見れるまである。

 

「出来たわよ、比企谷くん。こっちに来なさい」

 

「ああ」

 

本に栞を挟んで閉じ、床に置いてダイニングへ行く。台拭きを濡らして絞ってダイニングテーブルを拭く。それが終われば俺と雪ノ下の箸を出し炊飯器の中のご飯を混ぜて椀に盛りいつもの定位置に置く。それが終わるまでに雪ノ下がおかずの類をテーブルに置くのもいつも通りだった。

 

「いただきます」

 

声を揃えて食べ始める。

 

 

 

さて、ここからどうしようかしら。正直なところ、この流れは予想外だったから事前に用意した作戦は使えないわ。

 

「ん、美味い」

 

「ありがとう、おかわりはないわよ」

 

「まあハンバーグだしな」

 

そのあとはお互い黙ってしまう。

──なんだか、私が今やってることが酷くバカバカしく思えてきてしまったわ。せっかくの夕飯なのだから今日あったことや来月の旅行について話したいのに、今こうして黙っている時間がもどかしい…。

 

 

 

下手な手を打たないように俺も雪ノ下も黙る。

──あーあ、なんか馬鹿なことやってる気がしてきた。だいたいあれはお互いがお互いに告らせようとするから面白いんであって、この状況はお互いの精神衛生上あまりよろしくない。

ならば、現状打破はせめて、俺から。

 

「な、なあ。雪ノ下」

 

「な、なにかしら比企谷くん」

 

「この飯終わったら…カバンの中のもん、貰っていいか」

 

「っ!──もちろん、貴方のために頑張ったのだから」

 

そのあとはいつも通り笑顔の咲く食卓になった。

渡すもの隠し持ってるのは、お前だけじゃないんだからな。なんて、引き出しの中にある一枚の紙と小さな箱を思い浮かべながら会話に花を咲かせた。

雪ノ下…いや、雪乃が作ってきてくれたチョコは、世界一美味しく感じた。


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