やはり俺を中心とした短編集を作るのはまちがっている。   作:Maverick

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またクロスでごめんなさい。

それとこの話で一旦この作品の更新を停止します。私受験生なのです。

まあ、ある一種の区切りが打たれるので、勘弁してください。

拙作を楽しみにしてくださる方がいらっしゃるのでしたら、受験終わって戻ってくることを祈っててください笑


俺は北山家の居候《弍》

今日も昨日の通りに朝を過ごし、そして高校前の駅まで来た。昨日と同じだったのはここまでで、駅から出ると少し前を達也と深雪が歩いていた。事情を知らない一般人は達也は二科生で可哀想(笑)とか深雪にあの男は釣り合ってねえ俺が変わる!とか思うんだろうな。俺か?仲睦まじい兄妹は推奨してます。約一年違いの兄妹と知った時は驚いたが。

雫とほのかが深雪に駆け寄ってしまい三人で会話を始めてしまったので、俺たちも達也に話しかけようと近づく。

 

「よっ、よう、達也」

 

昨日の帰り道に雫に命令され結局全員を下の名前で呼ぶことになってしまった事だけは納得いかないが…基本的に俺は雫より立場が下なので大人しく従う。噛んでしまった事は目をつぶって欲しい。

この立ち位置は決して俺が甘んじているわけでなく好きでこの立場に居座っている。恩人より上なんて以ての外だし、雫と並ぶのは恐れ多い。

 

「おはよう、八幡、ケオ」

 

「うーっす。兄妹仲が良さそうで羨ましいねえ」

 

こいつ、一時間に一回くらい誰かを茶化さないと生きてられないのか…?

だがそんな茶化しなどどこ吹く風と受け流す達也。独特のクールな雰囲気は男の俺からもかっこよく映った。

校舎に入ると達也だけ別れてしまった。

二科生と一科生は使う昇降階段すら違うのだ。ここまで徹底して区別意識を持たせる執念は、もはや敬意を払いたくなる。

教室に入ったあとも俺たち五人で会話を続けていた。クラスの男子からの視線が痛い。んー、これは保護対象に深雪も入れておこうか。

ケオと俺とのあいだにある共通した目的の一つに雫とほのかにどこぞの馬の骨を近寄らせないというのがある。そして俺は兄への慕い様で深雪と小町が重なってしまい、どうしても同級生相手にしては過保護がちになりそうだ。あとあいつ多分シスコンだから怒らせると絶対怖い。

一応、お兄様の許可を取っておこうとメールを入れる。連絡先も昨日の雫令によるものだ。

 

『達也、クラスの男子の視線が三人に刺さりまくりなんだが、これからフォロー入れてけばいいか?』

 

『そうしてくれるのは有難いが…負担じゃないか?』

 

『ケオもいるし問題ない。この画面も見せてる』

 

『なら頼む。悪い虫がつかないようにしてくれ、あまり公にはするなよ』

 

了承を伝えアプリを閉じる。

このクラスに他にまともな奴は…見た感じいなさそうだ。なら、仲良くする意味もない。男子のひそひそ話が耳に入る。

 

「いいよなあ、女子は」

 

「あの二人はなんなんだ?」

 

「司波さんと話してる二人と仲いいから、おこぼれもらってるんじゃね?」

 

「羨ま〇ね」

 

どっちかと言うと俺の本命は雫だし、ケオの本命はほのかなのだが。

そう言うと深雪にかかる火の粉が増えそうなので耐えることにする。

しばらくすると校内放送が流れ出した。どうやらオリエンテーションが始まるらしい、全員が席に座る。

すぐにクラス毎に配属される指導教官が入ってきて簡単に挨拶をした。ありきたりと言うか…より差別意識を強める内容だと思った。

これからの予定を伝えられるも、どうやら基本的には自由行動らしい。なら俺がすることはひとつ、サボる!

 

「ダメだよ、八幡」

 

先生が去ったので雫が俺の席に近づいてきた。

 

「…いつも思うんだが、なんでピンポイントで考えてることわかるわけ?なに、そんなに顔に出る?」

 

「出やすい方だけど、ここまで詳しくわかるのは私だから」

 

出やすい方と聞いてショックを受けるも、その後に続いた言葉にドキリとする。これはもう実質告白では?いやいやこうやって勘違いして告って振られて家の雰囲気が気まずくなって俺が単身家を出ることになるんですね分かります。

そうなるのは嫌なので流すことにする。

 

「にゃ…んんっならいいが」

 

はい噛みました恥ずかしい。

俺達が話しているあいだにケオとほのかは先に深雪の方に行っており、周りを牽制していた。そうだった、俺には深雪を保護するという任があったんだった。立ち上がり雫と三人の元へ歩み寄る。

 

「これからどうするよ、深雪」

 

「私は先生について見学しようと思ってるけれど、ケオとほのかは?」

 

「まあそうだよな、俺たちもそのつもりだ」

 

ナイス誘導だ、ケオ。変にコソコソしないで周りに情報を与えているのも、無自覚だろうがナイスプレー。

こういう時、自分の知りたい情報を隠されるとイライラが一気に溜まり、危うい道へ足が向いてしまいかねないのがなかなかあってしまう。周りの男子勢はよしっ、と意気込んでいた。

 

「まあ、八幡はサボろうとしていたけどね」

 

「もう!ダメだよ、八幡」

 

「…すみませんでしたー」

 

雫が零した愚痴らしきものにほのかが乗っかり注意して、俺が適当に謝罪する。ある意味いつもの光景だったのだが、このやりとりに深雪が少し笑顔になる。

恩人の友達に楽しく過ごしてほしいと思えないほど、俺は腐っているわけじゃないのだ。

 

 

*****

 

 

五人で先生の解説付きの見学の最前列を歩く。途中でうちのクラスの男子──森村だったか?──がドヤ顔で先生の質問に答えるも残念賞を貰い受け、直後深雪がなんてことないふうに正解を答えた時には俺とケオで大爆笑してやろうともしたが、流石にやめた。

その森川が、司波さんは僕の失敗の尻拭いをどうのこうのと変に勘違いしているのには流石に引いた。

その直後には昼の休憩が挟まった。

深雪が食堂を使いたいと言うのでケオが先に席を見に行き、その間に俺は尿意を解放しに行っていた。戻るとそこに三人はおらず、女生徒が数人いるだけだった。

なんだか嫌な予感がする。そして、俺の嫌な予感は結構な確率で当たるのだ。

とりあえず情報を得たい。…話しかけたくはないが、仕方ない。勇気を振り絞る。

 

「なあ、雫…北山たちが何処に行ったか知らないか?」

 

「わっ…えっと、もしかして司波さんと一緒にいた女の子のこと?その子達なら森崎くんと半ば無理やり食堂に行ったよ?」

 

「そうか、助かった。ありがとう」

 

「ううん、気にしないで!」

 

いい人だな。A組ではなかったと思うし…ほかの一科のクラスの人だろうか。

中学までクラスのやつに興味はなかったがケオが名前くらい覚えてやれよと言ってくるので、顔と名前だけは初日にできるだけ覚えることにしていた。そうしていたら、そのアドバイスをした張本人に極端すぎると引かれたが。

それはともかくとして、急ぎ足で食堂に向かう。案の定というかなんというか、そこは修羅場と化していた。急いで胸ポケットをまさぐる。

 

「席を譲ってくれないか?補欠くん」

 

そう言ってのけるフォレスト・ストリームくんの眼前にはエリカと美月、達也とあと一人、二科生の男子がいた。エリカは何こいつ?みたいな顔をしており美月はどうしよう?って顔。名前の知らない男子はかなり目つきが悪い。

流石に咎めないのは深雪としては不満でならなかったらしい。

黒森の方に振り返り口を開いた。

 

「あの」

 

「わかった」

 

しかしそれを達也が遮る。

ガタンと席を立ち既に食べ物が置かれていないトレイを持ち上げる。五つあった席の空席の一つを森森が引く。深雪をそこに座らせようとしているようだ。

 

「ウィードはしょせんスペア。一科生と二科生のけじめはつけないと…みんなもそう思うだろ?」

 

その言葉を皮切りに周りの一科生が好き放題言う。

はっは、なかなかに無様な光景だ。今はなんとか我慢してやるが、もう一度こんなことがあれば絶対我慢出来ん。

幼稚な一科生の相手をするのが嫌になったかエリカたちも席を立った。達也が去っていく時に深雪に口パクをしていた。読唇術で読み取る。

 

『騒ぎは起こさない方がいい』

 

…出来た兄だ。実は感情がほとんどないんじゃないと思えてくるほどだ、ロボットかなにかなんじゃないのか?ただ深雪の表情が少し暗くなったのは見ていて少しつらくもある。

気づくと雫とほのか、ケオが先程一科生が略奪した席に悠然と座っている。おいおい、これ以上ヒートアップさせるつもりか?当然の帰結として、モリサマーが声を荒らげる。おっと視界の端で茶髪の美少女がガタリと揺れた気がしたな。

 

「またきみ達か!君たちは何のつもりなんだ、少しは司波さんと話をさせてもらってもよくないか!?」

 

「深雪、八幡。座ってよ」

 

「おう」

 

雫が林原を無視して俺たちに声をかける。

こうなるのはもはや慣れたので余裕の態度で席につく。未だに深雪は混乱しているようだがそれでも残しておいた、達也が座っていた場所に座る。

 

「おい!話を…」

 

彼が言葉を止めたのは多分俺がいきなり胸ポケットを漁り始めたからだろう。そこから出てきた右手に握られているのは、黒色の小さな機械。ちょちょいと操作して音を流す。

 

『ウィードはしょせんスペア』

 

「この録音、生徒会に提出したらどうなるだろうな」

 

「なっ!?」

 

この二日間でもっとも木村の顔が驚愕に染まる。が冷静さを欠きながらも反論してくる。

 

「ふ、ふんっ。貴様の言葉など生徒会役員が信じるわけもない」

 

「どうだろうな。ここには、少なくとも俺の側につきそうな証人が四人いる…さっきお前らを見かねてどいてくれた四人も証人。八人もいれば十分すぎるな。それに現代の声紋認証は舐めたら痛い目見るぞ」

 

俺のロジックに押されつつもまだ言い続ける。

 

「は、はは…それでも俺は聞いているぞ!生徒会はこの区別を、一科生の優越を黙認していると!ならば同じ一科である会長は…」

 

瞬間俺の中で何かがぷつんと切れた。

ほう、七草さんのことを何も知らないてめえが言うか森崎。

さんざん心中でもふざけてなんとか怒りを鎮めようとしたがもう無理だ。

こいつはあの人が差別意識をなんとか取り除きたいと真剣に考えているのを踏みにじる発言をした、してしまった。からにはやはり、制裁が必要だな。

視界の隅で雫が呆れほのかが慌てケオが面白がっている。ケオは後で制裁だな、拳で。

 

「おい森崎」

 

「な、なんだ?もしやお前も結局はこち」

 

「舐めんなよ」

 

周囲の音が確かに消え始める。それは感覚という次元ではなく、確かな物理現象。

突如として音が消える恐怖というのは、なかなか計り知れないものだ。今この場で唯一空気を震わせることが出来る声帯から声が発せられる。

 

「七草さんがどれだけ差別撤廃に奮闘しているか何も知らない奴が、エゴであの人を堕落させんなよ…次そんなこと言ってみろ、一生喋れなくしてやるよ」

 

俺の腐敗した三白眼が鋭さを増し、森崎に突き刺さる。完全に怖じ気づいた森崎が後ずさり振り返って机にどんどんぶつかりながら食堂を出ていった。それでも、音は鳴らない。

寄ってきた雫が俺にデコピンする。途端世界に音が戻った。風の音、木々が揺れる音、食器と食器がぶつかる音、人が散っていく足音。

ハッとして雫に頭を下げる。

 

「いつも悪い…感情をコントロールできないのは、治さないとな」

 

「いいよ、私がそばにいるあいだは何時でも怒ったり泣いたりして──でも、最後には笑ってね?」

 

「──ああ」

 

たまに真顔で恥ずかしいことを言ってくるのは極力やめて欲しい。こちらだけが恥ずかしくなって敗北感がすごい。

 

「えっと…八幡?」

 

驚き言葉を失っていた深雪が俺に話しかける。瞳に映る感情は疑心と興味。

目だけで先を促す。

 

「今のは…?」

 

「あーっと…お前でいう周りの温度の低下、と言えば分かるか?」

 

深雪の事象干渉の結果が冷却ならば、俺の事象干渉の結果は音の消失。

空気を振動させ音を出すという物体の情報を、非生命体に限り書き換える…つまり物体を振動させなくするのだ。

 

「え、ええ…けどそこまで七草会長が大切なのね」

 

「なっ!?」

 

からかうように放たれたその言葉は予想の斜め上をズドンと大砲でぶち抜かれそうな衝撃を俺に与えた。突かれたなんてそんな甘ったるくない。深呼吸して冷静になる。

どうなのだろう。俺は七草さんが大切なのか?好きか嫌いかで言えば、少なくとも大嫌いではない。が、やはり人種が違うため苦手意識は根付いている。それでも、荷物持ちが全く楽しくないなどと言うつもりはないし…大抵ヘトヘトになって帰るけれど、そんな日は間違いなく充実していたと満足するし熟睡できる。

こんな俺にとって、そんな人物は必要不可欠なのではないか。そんな気がしてくる。

 

「まあ、大切な──というか、俺みたいな奴には一人はいていいタイプの人だな」

 

「酷く合理的な解釈をするのね、八幡は」

 

「相手による」

 

雫なら論理も理論もすべてぶっ飛ばして好きだから一緒に笑っていたいと思うし、ほのかもケオも大切な親友だから隣で話していてほしいとも思う。

こうして思うと、俺は四年半前からかなり変わっている気がする。それが少し感慨深い。

 

「ほ、ほら早く食べよ。時間無くなるよ?」

 

俺たちの会話をぶち切り昼ご飯を食べることを促すほのか。時計を探してみると、見学再開まであと二十分ほどしか残ってなかった。

 

「やべえやべえ、早く食っちまおう。ほれほれ二人とも仲良しなのはいい事だが、いい子でいねえと好き勝手できん」

 

「…俺は中学ほどお前に付き合って馬鹿やるつもりは無いぞ」

 

そうして昼休みは過ぎた。

流石にこれ以上森崎があいつらにちょっかいかけるつもりは無いだろう。…今日もまたみんなで帰るのだろうか、そう考えた後でそれほど嫌がってない俺がいることに気づいて自嘲的に笑う。

 

 

*****

 

 

「どうしてこうなった」

 

時は放課後。場は校門前。役者は達也、エリカ、美月と昼間いた二科の男子。深雪と…懲りない奴ら。

そう、ここまでで分かったはず。

いざこざ再来。勘弁してくれ。

雫が早速図書館を使ってみたいと言ったので俺たち三人もついて行き、借りたい電子本も見つかったらしくさあ帰ろうという時にエンカウントしてしまった。

どうやら森崎はなかなか調子こいており、俺たちに気づいてないらしい。

 

「いいかい?この魔法科高校は実力主義なんだ」

 

まあた下らない演説を始めるらしい。これに乗る他のやつも大概だが。

 

「その実力においてキミたちはブルームの僕たちに圧倒的に劣っている。つまり存在そのものが僕たちより圧倒的に劣っているということだよ、そんなことも分からないのかい?」

 

たかだか数秒とかの違いで何をイキっているのか。

もう少し自分のことを客観的に見てみるべきだこいつは。深雪でなくともドン引きすること連呼してるぞこいつ…。

女子に惚れてもらいたいなら自分の力を誇示するより相手のタイプに合わせる方が絶対上手くいくと八幡思う。ソースは妄想。ラノベ、マンガ、携帯小説、全部ご都合主義が過ぎるぞ。

 

「お、同じ新入生なのにっ今の時点でアナタたちがどれだけ優れているって言うんですか!」

 

あちゃー、美月さんそれはまずいっしよー。まずすぎて思わず黒歴史の脇役の奴の口調を真似てしまうまであった。

ここまでプライドで固められた奴らだ、そのプライドの源である優越が虚像だと、劣っていると幻視している対象に言われてしまえば思わずプッツンしてしまう。まるで昼間の俺のように。

そしてまあ三流エリート森崎くんはやはり引っかかったようだ。

 

「ウィードとブルームを同列に語るな。その差思いしらせてやろうか?」

 

ため息ひとつ。ここまで来るともはや哀れだな。もしかしてそういう教育されてきたんじゃないかとさえ思ってしまう。

だがこの程度で同情する俺ではない、まともに教育されてきただけ有難いと思え。

 

「二科生…風情がああああ!!!」

 

森崎がついにホルスターから銃型CADを取り出し魔法式を構築しだす。と同時にエリカが動いた。

ここでエリカが森崎を止めるとさらにプライドが損なわれる。別にそれはいいんだが、むしろ推奨したいくらいだが、ここでやられると事態がさらに悪化する。それは──心の底から面倒だ。

即座に日常的に身につけている腕輪型CADを操作する。

 

「そこまでだ、双方武器を仕舞え」

 

「…八幡」

 

「くっ…またお前か」

 

身体能力のみで瞬時に二人の間に割り込み右手の掌底で森崎のCADを弾き、左手に展開した魔法の障壁でエリカの武器──警棒のようなものを止める。

っぶねええ。間に合ってなきゃダサかったし、事態の悪化が更に酷くなってたわ。いやあ、ほんと今更ながらひやひやするぜ。

俺の言葉を聞いてエリカは素直に自前の棒を仕舞い脱力したが、森崎は臨戦態勢を解かない。頑固なやつだ。

 

「なぜブルームのお前がそこまでウィードに肩入れするんだ!」

 

森崎が叫ぶ。

どうやら勘違いされているらしい。俺は俺が正しいと思うことをしているやつに肩入れしているんだが。

恋は盲目というが、そこに優越とか傲慢とかも付け足すべきだなと思います。で結局色々付け足していったら感情は盲目と極論に至りそう。

 

「何言ってんだお前。大体天は人の上に人を創らないんだぞ?何お前、実技だけでA組入ったの?それはそれですごいが少し人格矯正してこいよ。間違いなくエリカたちの方がいい性格してるぞ」

 

「八幡皮肉こもってない?」

 

こもってないこもってない。そう言っても多分聞かないので聞こえなかったことにする。

 

「この魔法科高校は人が作った施設だ!人は人の上に人を立てる!!」

 

「ほう、分かってるじゃないか。ならひとつ俺が大切なことを教えてやろう…天は人の上に人を創らずと言ったな──あれは嘘だ」

 

コンマ一秒の間に森崎の腕を掴み足を払って受け身をとる必要無く、彼の制服に土を付ける。

そのまま森崎を見下して強く言い放つ。

 

「ある一分野において人というのは人の上に立てるよう創られるんだぜ。そういうのを個性って言ってな──そして、戦闘や喧嘩において、俺とエリカ…達也も間違いなくお前の上だ」

 

そこまで言ってある程度はすっきりした俺の横にケオが歩み寄ってきた。同じく森崎を見下して言い放つ。

 

「俺もいいこと教えてやるよ。天は人を創ることには大変気を張るが…どう成長するかは人まかせなんだぜ?言いたいこと、分かるよな?」

 

「…うるさい!!」

 

完全に怯んだと二人とも油断していた。だから森崎が腕に付けていた──緊急時のためのだろうか──もうひとつのCADによって魔法が放たれそうになるのを、止めることは出来なかった。大ダメージは免れないっ──と思ったが、一向にそれは来ない。

 

「全員そこを動かないで!」

 

そこに現れたのは普段とはかけ離れた真面目な顔をしている七草さんと、かなり冷酷な顔をしている渡辺風紀委員長だった。た、助かった。

 

「比企谷くん。説明してくれるかしら」

 

この中で一番面識があり、おそらく信用もしているだろう俺に聞いてくるあたりちゃっかりしている。

流石にこの真面目な空気で八くんとは呼ばないらしい。まあ、当たり前といえば当たり前だ。

 

「はあ…と言われても俺は介入者ですから、そこの司波達也に聞いてください。彼なら公正かつ冷静な状況判断が可能ですから、事情聴取にはもってこいですよ」

 

「言い方に皮肉が込められていないか?八幡」

 

「お前らはどんだけ俺のことを皮肉家だと思ってんの?」

 

──あっ、エリカにさっきのこと聞こえてたのがバレた。

案の定ダッシュで近づいてきて報復しようとしてくる。

 

「あんたねえっ!」

 

両の手を俺の顔の横に持ってきてそのまま直角に曲がり俺の顔めがけて手を伸ばす。怖い怖いそのまま張り手される?そう思ったがエリカは俺の頬を摘んでグ二グ二していた。

 

「えっおういあい」

 

「反省しろー!」

 

「すいあせん」

 

一応謝ったからか手を離してくれるエリカ。痛え、ヒリヒリする。右手で右頬と左頬を順番にさする。

達也がこちらを見てため息をついてから、七草さんの方を見て事の説明をする。

 

「そこの森崎一科生が俺たち二科生の言動に自尊心を傷つけられたのでしょうか、怒りに我を忘れてしまい思わずといった形で魔法を発動しようとしました。一度は比企谷が止めたのですが、比企谷と焔緋の説法に再度憤った森崎が魔法を再発動しようとしたのを、七草会長が止めてくださった…以上が主だった流れです」

 

あ、あれ?達也なら森崎を庇おうとすると思ったんだが。まあいい、ここまで来てしまえばもういっそのこと森崎を排斥してしまおう、庇うよりそっちの方が収拾が早く着きそうだ。

 

「えっ、いや。ちっ、違います!これはだから、その…」

 

森崎が弁明しようとする。仕方ないのでここで昼休みに録音していた音を再生する。

 

『ウィードはしょせんスペア』

 

その音が耳に入った瞬間、絶望に顔を支配された森崎。それはそうだ、大衆に囲まれた状況で自分が世間的に悪である証拠を示されれば、ここの『空気』に森崎は悪という理念が生まれる。ここまでやってしまえば、あとは渡辺先輩が何とかしてくれるだろう。

『空気』どうこうのソースは弱キャラゲーマーのラノベ。これは信用している。あれ面白い、好き。

しかし突然流された音の理由を理解出来ていないのか、大衆の『空気』はまだ理念を生み出していない。

言葉で皆の偽善をひと押しする。

 

「これは今日の昼休み、食堂で自分によって録音された森崎の言です。もし信じていただけないというのであれば、これを徴収し魔法による解析等行っていただいて構いません」

 

「そこまでしないわよ。ただ比企谷くんがそこまで言うことが私にとって揺るぎない証拠になるわ」

 

そこまで信頼されていることに、場違いながらも照れてしまう。ボソリとそうですかと言ってレコーダーをしまう。

俺を──正確には俺のボイスレコーダー──を見ていた渡辺先輩の視線が森崎に向く。

 

「さて森崎。風紀委員室に出頭してもらえるかな」

 

「──はい…っ!」

 

悔しそうに返答する森崎。正直ざまあみろだ。

 

「それと比企谷だったか──森崎は風紀委員になる予定だったがこのざまじゃ風紀委員にすることは出来ない…その空き枠はお前に埋めてもらうぞ」

 

「──はい?」

 

そこにはあまりに意外な展開と面倒事を押し付けられて半ば放心状態の男子高校生、とても嬉しそうに頬を染めてさっきまでとは打って変わった雰囲気を漂わせる女子高生、それにぽけーと口を半開きにしながらも少し目が据わっている女子高生がいた。

というか俺と七草さんと雫だった。

 

 

*****

 

 

「納得いかねえ」

 

『ちょっ、やめろ八幡。漸く笑いが落ち着いたってのに…ぷははははっ』

 

結局あの後は昨日の八人に加えもう一人、達也たちと同じクラスのレオこと西城レオンハルトの九人で駅まで一緒に行った。流石に連日カフェに行くつもりは無いらしくそこで解散となり帰ってきた。

今は夜の十一時すぎ、またも雫に呼び出され部屋に行ってみればやはりテレビ通話だった。

そこで俺の風紀委員内定の話が出てしまい、今に至る。

あ、晩ご飯の時に雫がみんなに報告したら大爆笑された後祝福されたのは嬉しかった。俺この記憶だけで頑張れる、ごめん嘘超辞めたい。

 

『仕方ないよ、八幡。あそこまで実力を見せつけちゃったらね』

 

「うん、あの時の八幡カッコよかったし」

 

『…何ちょっと照れてんだよ。頬を赤くしてんじゃねえ!』

 

「しっ、仕方ないだろ!基本褒められた行動はしない主義なんだ!」

 

「それは違う。八幡の性格的に表立ったことをしないだけ、私たちが知らないところでもきっと八幡はみんなの役に立ってて…それを知らないのは少しもどかしい」

 

『ああ、なんとなく分かるわそれ。この中で一番隠し事多いの間違いなく八幡だしな』

 

「そんなわけないだろ…大体お前らにだって秘密はあるだろうに」

 

少し雰囲気が真面目になる。少しの間皆が沈黙するも、やっぱりというかいつも通り、それを破るのはほのかだった。

 

『それはそうだよ。けど私たちはそれがお互いを貶めたり不快にしたりする秘密じゃないって感じてるから、仲良く出来る』

 

「うん。そして、いつかきっとそれを明かしてくれるとも信じている」

 

『勿論だな!』

 

「…なんかさんきゅ」

 

『『「どういたしまして!」』』

 

そこまでで通話は切られた。部屋を出ようとベッドから立ち上がろうとすると手を握られる。

振り返ると雫がこちらに瞳を向けていた。何か言いたいことがあるけどなかなか言い出せないって感じか。それを感じ取って、中腰の姿勢だったのを逆再生する。

手をお互いに握りながら会話を続ける。

 

「八幡は二人に言ってないよね…居候してる理由」

 

「ああ…まだ、言えてないな」

 

「魔法工学の技術に至っては私にも言ってないこともあるよね?…達也さんと知り合った経緯もはぐらかしてるし」

 

「っ…あ、ああ」

 

場を静寂が支配した。俺の事象干渉が働いているんじゃないかと思えるほど、そこに音はなかった。

雰囲気に充てられたのか、雫の瞳は少し潤んでいて涙袋が溢れそうだった。握られていない方の手でそれを拭う。

僅かにビクッとした雫も、俺の行動の意図を汲み取って微笑む。まるで女神のようなその笑みに自然とこちらも笑顔になる。

 

「でもね、私は八幡のこと、信じてる」

 

「──ああ」

 

「だから、八幡も私のこと、信じてね」

 

「当たり前だろ、お前は俺の恩人で家族なんだから」

 

戸籍上は家族じゃない今もそう思っているし、出来ることなら将来は戸籍でも家族になりたい。そんなことは、恥ずかしくて喉で止まるけれど…きっとそれでいい。だってその気持ちはもう、どうしようもなく伝わってしまったと思うから。

顔を近づけ合い、お互いの額が触れる。今はまだこれだけでいい、唇はまだ、早すぎる。

ここで『好き』と言えればどれだけ格好がつくのかと思うけれど、今はこの時間をいい方向にも悪い方向にも壊したくなかった。今この瞬間は、こうしているのが最善だと信じて疑わなかった。

そのまま少し微睡んでしまい、零時を知らせる音で途切れかけた意識が戻る。雫の元を離れドアを開ける。

 

「おやすみ、雫」

 

「おやすみ、八幡」

 

ドアを閉めて部屋に戻る。

そのあとベッドに飛び込んで悶えるのは、当然だった。




(一日一話で頑張ってたら長くなるorz)

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