読者達のアインクラッド   作:秋宮 のん

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ケンのサイドストーリです。
『暇人K.H』さん提供。


第四章:ケンサイドストーリー

『脇役少年の誓い』

 

 

 

 カンッ…………カンッ…………

 

 と、金属を打つ音が周囲に響く。

 

「ヨシ。成功だな」

 

 最前線の街にてマットを広げ、自分の武器の強化に勤しむ僕。

 

 NPCのフリして鍛冶屋をやり始めて早1週間。

 

 カーソル見りゃ一発で分かるはずなのに、ほとんどバレない。

 どうしてこうなった。

 

「ツーか僕、クエスト用のNPC扱いされてるし」

 

 やっぱりあの時『マッスルマン・パンツ』を彼に渡したのがまずかったのだろうか。

 

 いやまあ実質タダで強化してもらえたコトを考えると、ラッキーなのだろうけど。

 

「シッカシ閑古鳥が鳴くとはこのコトなのかな?」

 

 そろそろ今の武器では、強化したところで限界がくるのだろう。強化を頼む人はとても少ない。

 

 僕だって今使ってるダガーは強化していない。

 してるのは、消耗品に近い投剣用のピックだ。

 

「ま、しょうがないか」

 

 こうやっていろんなコトに諦めがつくスキルは、僕の数少ない長所の一つだ。

 

 …………よくよく考えたら、ゲームの初日もこんな感じだったな。

 

 他のピックを打ちながら、僕は事の始まりを思い出しはじめることにした。

 

 

◇◇◇

 

 

 僕の名前は鈴木健一。

 

 どこにでも居る、普通の男子高校生。

 

 身長、体重、顔、頭の出来、運動神経………どこをとっても『普通』、『平均』、『平凡』という評価をもらう。

 

 付いたアダ名が『生まれつきのエキストラ』や、『村人K』。

 はっきり言って、僕じゃなかったらブチ切れ間違いなしなアダ名だ。

 

 僕がブチ切れないのは、事実僕が普通ど真ん中な存在だからだ。

 

 どこにいても浮きもせず、目立ちもしない………ガチのエキストラ。

 

 人の一生は、その人が主人公とかよく聞くけれど、僕はそうは思わない。

 

 昔から、『この世は大きな舞台で、カミサマ的な存在が台本を書き、人はそれぞれに生まれたときから、役を与えられている』という考えを持っている。

 

 おそらく………というより間違いなく僕に与えられた役は、『その他大勢(エキストラ)』だ。

 

 僕は与えられた役を精一杯完うしようと、特に目立つこともせず、孤独になることもせず、実に『普通』に生きてきた。

 

 

 『普通』であることを誇りとして、

 『平凡』であることを最高と思い、

 『平坦』に過ごすことを誓って、

 『平常運転』で、日々を過ごす。

 

 

 実際、大きな事件や事故に巻き込まれるコトも無いし、それなりの人づきあいのお陰で辛い思いはしていないし。

 

 

 でも、あるとき心の中に黒い粒がひとつ。

 

 

 

 ────ホントウニ、ソレデイイノ?

 

 

 

 『普通』であることは最高だと思うし、幸せだと思う。

 

 だけれど………だからこそ、気になってしまった。

 

 『変わった事』をすればどうなるのか。

 

 その思考に至る度に、粒が大きくなっていった。

 

 その粒が、もう粒とは言えないサイズになってきた、ある日のこと………、

 

 

 その日は友達である司と話していた。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「ソードアート・オンライン? ソレってあのナーヴギアのヤツ?」

「そうそう! ベータ版は高評価みたいだし、面白い事は間違い無いみたいなんだ。一緒にやろうぜケン!」

「ンー………OK」

「オイオイそう言うなって! いかにお前がそういう物に手を着けないからって………ってOK!?」

「うるさいよ司」

 

 とは言ったものの、驚くのは無理もない。

 おそらく、天と地がひっくり返る程の衝撃を味わっただろうね。

 

「あの………あの鈴木健一が、この手の話題に喰いつくなんて、思いもしなかったからな」

「そこマデ言うかよ………、反論できないケドさ」

 

 無理矢理誘う為の用意してたセリフが無駄になったと、悔しそうな顔をした司。

 申し訳ないとは思うけど、どうしようもないかな。

 たまには………たまにはこういうコトをしたいと思ってしまったから。

 

「んで、どういう風の吹きまわしだ? なんか悩み事でもあんのか?」

「ベツに。それに悩み事がアッタとしても、自分で片付けるよ」

「………ああそうだった。お前はそういう奴だ」

 

 呆れた風に肩をすくめた司。

 

 でも、それが僕なんだから仕方が無い。

 

 自分のコトは自分でする。

 当たり前のコトだろうに。

 

 人に自分のコトをやらせるのは間違ってると思う。

 それでとやかく言うのはもっと間違ってると思う。

 

「ま、乗り気なら構わないけどな。じゃあ早速予約するか!」

「アイサー!」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 思えば、この時乗っからなかったら、この世界にはいなかったかもしれない。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 とは言え、僕らのスタートは遅かった。

 

 たくさんの店の状況をネットで調べまくったが、流石は前評判最高のゲーム、ほとんどのところが予約の受付を終えていた。

 

 奇跡的に見つけた、小さい玩具屋さんに辛うじて空きがあった。電車で少し遠くまで行く羽目になったが、必要経費と割り切るコトに。

 

「な、何とかなったな………」

「ホ、ホントにね………」

 

 でも、普段しないコトは意外にも楽しかった。

 いつもの生活に、少し挟むのも悪く無い………と、思った。

 

「やり方は分かるよな?」

「一応他のナーヴギアのゲームをチョットしたカラなんとなくハネ」

「よし。なら9時にログインして、向こうで落ち合おう」

「分かった。ジャ、向こうで」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 家に戻る足は、柄にもなくご機嫌だったように思う。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「サテト。早速やるとしますか」

 

 家に戻ったのは朝8時。

 落ち合うのは9時だか、多分面倒くさいアバターの設定とかあるはずだ。今からやっても遅くは無い。

 

 ラフな格好に着替え、布団の上に横になる。

 

 コンセントに繋いだ、ソフトの入ったナーヴギアを確認。

 

 逸るココロを押さえつけ、ギアを被り、気合を入れる。

 

「リンクスタート!」

 

 

◇◇◇

 

 

 設定やなんやらで1時間喰ってしまった。

 

 訂正、キャラネームは『KEN』って決めていたし、スキルの選択も早く済んだ。時間を喰ったのは、見た目の設定だ。

 

 でも、納得のいく見た目になったからよしとする。

 

 ようやくログインしたら、

 

「う、うぉう………」

 

 キャラ付けの為のカタカナ混じりの口癖がなくなるくらい、驚いた。

 

「すっげえ………」

 

 レンガの地面にたくさんの西欧風の建物。

 そしてたくさんのプレイヤー達。

 

「なんて言うか………コレが仮想世界とは思えないな………」

 

 もちろん、ポリゴンって分かるところも結構あるけれど、それでもここまで再現できるものなのか、と度肝を抜かれた。

 

「な! 凄いだろ!?」

「おわっ! ナンですかいきなり………ッテうわ………」

 

 振り返って見ると、目の前にいたのは斧装備の超絶イケメン。

 

「………どちら様で?」

「オイオイそれは無いだ―――あ、悪い。お前と違ってイケメンにしたからな」

「………司?」

「その通り! にしても、お前………なんでアバターが現実のお前と同じなんだよ………」

 

 呆れたように言われた。何故だ、腑に落ちない。

 

「いいジャンか。頑張ったんダヨ? 1時間ぐらい」

「1時間かけてイケメン作るならまだしも、自分の顔を作るって………」

 

 おかしいのかよ?

 

「ああおかしいな! 違う自分を被るのがMMORPGの醍醐味なのに、なんで自分を持ち出すんだよ!?」

「被ったトコロで自分だし。他のなんかを演じるノハ面倒くさい」

 

 最近聞く『ネカマ』とかよくやるよなぁとか思う。

 自分の在り方を偽るのはしんどいよ。

 

「………MMORPGの常識に真っ向から喧嘩売ってんな」

「イヤ、そもそもゲームそのものが現実に喧嘩を売ってナイ?」

 

 僕は現実に生きてるからね!

 今からゲームをやる奴が言うセリフじゃないけどね!

 

「ハァ………、まあいいか。こんなところで時間を潰すのはもったいないからな」

 

 諦めた風に肩を落とし、気を取り直して顔をあげるイケメン。

 

「じゃあ早速行こう!」

「アイサー!」

 

 

◇◇◇

 

 

 それからしばらくは楽しく『ゲーム』をした。

 

 ソードスキルのシステムアシストに驚愕したり、襲ってくるモンスターの迫力にビビったり、そいつらを倒したときの達成感に浸ったり。

 

 なんだ。

 『変わった事』をしても楽しいし、幸せじゃないか。

 

「コレは、本格的に考えを改めないトナ………」

「お? 流石のケンも、感動したのかよ?」

「ウン………スゴク楽しい」

 

 僕の中で『普通で在るコトは幸せ』から、『普通で在るコト()幸せ』と書き換えられた。

 

 生き方を変えるつもりは無いし、持論も曲げないけれど、視野を広げるコトも大切みたいだ。

 

 

 

 そんな風に、自分の世界の狭さを実感しているときだった。

 

 

 急に1番最初の街にワープした。

 

「え?」

「ハ?」

 

 周りを見渡せば、たくさんのプレイヤーが。

 僕らがログインしたときより遥かに多い。

 

 

「チョ、コレはどういうコト?」

「俺に聞くなよ………」

 

 うーん。

 ツカサが分からないなら僕もお手上げかな。

 

 ただ、時折聞こえる『ログアウトのボタンがメニューから消失してる』とか、『GMコールが使えない』とか聞こえるから、大規模なバグがあったのかもしれないね。

 

 そんな感じに思考に耽っていると、夕焼けの空に、一際紅い文字が映し出される。

 

【Warning】

【System Announcement】

 

「…………」

 

 周りが喚く中、僕は静かに文字を見る。

 

 なんだか、『変わった事』程度じゃすまない………本格的に『違う事』がそこに内包されている気がして。

 

 

◇◇◇

 

 

 その予感は、正しいモノになってしまった。

 

 ただし、僕のこの世界に対する認識が違っていたということだった。

 

 あの文字が出された後に出現した、中身の無い、ローブ(茅場昌彦)

 

 彼は長ったらしくいろいろ言っていたが、ようはこういうコトだろう。

 

 この世界が、『虚構』ではなく『現実』だっただけの話。

 

 

 HPが無くなれば(殺されたら)、死ぬ。

 

 シナリオを書く人がカミサマ的な存在から茅場昌彦に代わり、舞台が地球から仮想世界に移動した。………本当にそれだけ。

 

 ご丁寧に、アバターを『あっちの』自分にするというオマケ付き。

 

 僕はあんまり意味がなかったけれど。

 

「いやまあ………、どうなんだろうね」

 

 あの茅場昌彦とかいう人に対し、

 趣味が悪いとは思うし、

 命をなんだと思っているんだとは思うけど。

 

 僕らの状況に関してだけ言えば、怪我したり、刺されたりしたら死ぬのは、向こうも同じだ。

 

 フィールドが違うだけ。

 

 だから正直、それ程の恐怖は抱いていなかった。

 

「………コレからどうする?」

「…………」

「………ツカサ?」

 

 ツカサの様子がおかしいな。

 

「………ごめん、ケン」

「え、チョ」

 

 ちょっと待てと言う前に、あいつはどこかへ行ってしまった。

 

 泣き喚く声をBGMに、少し考える。

 

「………アアそうか」

 

 僕の頭に光が灯る。

 

 僕は見捨てられた。

 

 彼は生き残る為に、僕を切り捨てた。

 

「ま、しょうがないか」

 

 生きる為に行動する。

 大事なコトだ。

 

 確かに人道的にどうかと思うけれど、この状況ではそんなコトは言っていられない。

 

 僕みたいに落ち着いてるならまだしも、精神的に大打撃を受けた人達にそれを求めるのは酷だろうね。

 

 ツカサもそうだろうし。

 

「サテト………どうしようか」

 

 生き残るだけなら、この街『始まりの街』で引きこもっていたらいい。

 

 だけれど、随時僕らの身体は病院に搬送されると言っていた。

 

 寝たきりじゃまずいから、病院で管とか点滴とかを指すのだろう。

 

 さて、その状態でいつまで僕らの命が持つか。

 

「待ってるだけじゃ、死ぬかもね」

 

 そうでなくとも、自分の命なんだ。

 他人に背負わせるワケにはいかない。

 

 自分の事は、自分でする。

 自分の生き死にだってそうだ。

 

「それに、腹立つしなァ」

 

 凡人だけれど、

 エキストラだけれど、

 

 凡人なりに、矜恃ぐらいはある。

 エキストラだって、キレるコトはある。

 

茅場昌彦(カミサマ)よう。皆の平常を踏みにじったんだ。覚悟は出来てるよな?」

 

 僕は絶対に許さないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、カッコ付けたトコロでどうこうなるワケじゃないし、とりあえずは行動に移ろうか」

 

 まずはレベルアップをしないとな。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 思い出していくうちに、全てのピックの強化が終了した。

 

「いやー、結構ムボウだったね僕」

 

 ドの付く素人が、攻略に乗り出そうなんて、正気の沙汰じゃない。

 実際にボス戦を経験したから分かる。

 

 いやまあだからと言って、ジッとしてるワケにもいかなかったけどね。

 

「テスター捕まえては情報を交渉(脅迫)シテ聞きだし、金を集メテ情報を買い………っの繰り返しダッタなぁ」

 

 (ベータテスターって)バラしてイイかな? って言ったら快く情報を教えてもらえたよ。

 ありがたかったね。

 

 見分けるのは簡単。

 大抵の人とは別の事に怯えている人らがベータテスターだった。

 

 わりかしなんでもソツなくこなす質なので、戦闘技術の基本なんかをすぐに習得できたのは助かった。

 

 あとは…………、

 

「サヤにスカウトしてもらったノハ助かったね」

 

 正直僕は弱いし、つまらない人間だから、終わりがくる時までずっとソロで居ると思っていた。

 

 この世界がクリアされるにせよ、死ぬにせよ。

 

 

『僕達とパーティー組もう! きっと楽しい!』

 

 

「ナニ言ってんだか。コンナ平凡な男を捕まえて」

 

 無防備で、頭のネジが何本か抜けてるような言動で、テンション高くて。

 

 でも、自分の恐怖を押し隠してでも、誰かの前に立つ事のできる少女。

 

「アア言うのを、『主役』って言うんダロウね」

 

 それにサヤだけじゃない。

 

 たくさんの『主役』級が、『ケイリュケイオン』に集まっている。

 

 彼らを見て、眩しいとは思う。

 真似しようとは思わないが。

 

 なれないコトはするものじゃない。

 現に僕はなれないコトをしてこの有様だ。

 

 それに…………、

 

「『主役』だけジャ、人生(舞台)は進まないんダヨネー」

 

 このギルドに圧倒的に足りていない『脇役』。

 いるコトはいるんだけどね。

 

 

 

 だから僕は脇役に徹しよう。

 

 誘ってくれた彼女の恩に報いる為にも。

 此処でできた、アクの強い仲間の為にも。

 

 

「サテト………帰るか」

 

 

 地味で結構、それが僕の生きる様。

 

 『主役』を引き立てる者で在れ。

 

 それが『脇役』なのだから。

 

 




≪ピック≫って強化できたっけ? と言う疑問をそのまま押し通しました。
もし違ったら教えてください。別の物に書き換えておきます。

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