『暇人K.H』さん提供。
『脇役少年の誓い』
カンッ…………カンッ…………
と、金属を打つ音が周囲に響く。
「ヨシ。成功だな」
最前線の街にてマットを広げ、自分の武器の強化に勤しむ僕。
NPCのフリして鍛冶屋をやり始めて早1週間。
カーソル見りゃ一発で分かるはずなのに、ほとんどバレない。
どうしてこうなった。
「ツーか僕、クエスト用のNPC扱いされてるし」
やっぱりあの時『マッスルマン・パンツ』を彼に渡したのがまずかったのだろうか。
いやまあ実質タダで強化してもらえたコトを考えると、ラッキーなのだろうけど。
「シッカシ閑古鳥が鳴くとはこのコトなのかな?」
そろそろ今の武器では、強化したところで限界がくるのだろう。強化を頼む人はとても少ない。
僕だって今使ってるダガーは強化していない。
してるのは、消耗品に近い投剣用のピックだ。
「ま、しょうがないか」
こうやっていろんなコトに諦めがつくスキルは、僕の数少ない長所の一つだ。
…………よくよく考えたら、ゲームの初日もこんな感じだったな。
他のピックを打ちながら、僕は事の始まりを思い出しはじめることにした。
◇◇◇
僕の名前は鈴木健一。
どこにでも居る、普通の男子高校生。
身長、体重、顔、頭の出来、運動神経………どこをとっても『普通』、『平均』、『平凡』という評価をもらう。
付いたアダ名が『生まれつきのエキストラ』や、『村人K』。
はっきり言って、僕じゃなかったらブチ切れ間違いなしなアダ名だ。
僕がブチ切れないのは、事実僕が普通ど真ん中な存在だからだ。
どこにいても浮きもせず、目立ちもしない………ガチのエキストラ。
人の一生は、その人が主人公とかよく聞くけれど、僕はそうは思わない。
昔から、『この世は大きな舞台で、カミサマ的な存在が台本を書き、人はそれぞれに生まれたときから、役を与えられている』という考えを持っている。
おそらく………というより間違いなく僕に与えられた役は、『
僕は与えられた役を精一杯完うしようと、特に目立つこともせず、孤独になることもせず、実に『普通』に生きてきた。
『普通』であることを誇りとして、
『平凡』であることを最高と思い、
『平坦』に過ごすことを誓って、
『平常運転』で、日々を過ごす。
実際、大きな事件や事故に巻き込まれるコトも無いし、それなりの人づきあいのお陰で辛い思いはしていないし。
でも、あるとき心の中に黒い粒がひとつ。
────ホントウニ、ソレデイイノ?
『普通』であることは最高だと思うし、幸せだと思う。
だけれど………だからこそ、気になってしまった。
『変わった事』をすればどうなるのか。
その思考に至る度に、粒が大きくなっていった。
その粒が、もう粒とは言えないサイズになってきた、ある日のこと………、
その日は友達である司と話していた。
◇◇◇
「ソードアート・オンライン? ソレってあのナーヴギアのヤツ?」
「そうそう! ベータ版は高評価みたいだし、面白い事は間違い無いみたいなんだ。一緒にやろうぜケン!」
「ンー………OK」
「オイオイそう言うなって! いかにお前がそういう物に手を着けないからって………ってOK!?」
「うるさいよ司」
とは言ったものの、驚くのは無理もない。
おそらく、天と地がひっくり返る程の衝撃を味わっただろうね。
「あの………あの鈴木健一が、この手の話題に喰いつくなんて、思いもしなかったからな」
「そこマデ言うかよ………、反論できないケドさ」
無理矢理誘う為の用意してたセリフが無駄になったと、悔しそうな顔をした司。
申し訳ないとは思うけど、どうしようもないかな。
たまには………たまにはこういうコトをしたいと思ってしまったから。
「んで、どういう風の吹きまわしだ? なんか悩み事でもあんのか?」
「ベツに。それに悩み事がアッタとしても、自分で片付けるよ」
「………ああそうだった。お前はそういう奴だ」
呆れた風に肩をすくめた司。
でも、それが僕なんだから仕方が無い。
自分のコトは自分でする。
当たり前のコトだろうに。
人に自分のコトをやらせるのは間違ってると思う。
それでとやかく言うのはもっと間違ってると思う。
「ま、乗り気なら構わないけどな。じゃあ早速予約するか!」
「アイサー!」
◇◇◇
思えば、この時乗っからなかったら、この世界にはいなかったかもしれない。
◇◇◇
とは言え、僕らのスタートは遅かった。
たくさんの店の状況をネットで調べまくったが、流石は前評判最高のゲーム、ほとんどのところが予約の受付を終えていた。
奇跡的に見つけた、小さい玩具屋さんに辛うじて空きがあった。電車で少し遠くまで行く羽目になったが、必要経費と割り切るコトに。
「な、何とかなったな………」
「ホ、ホントにね………」
でも、普段しないコトは意外にも楽しかった。
いつもの生活に、少し挟むのも悪く無い………と、思った。
「やり方は分かるよな?」
「一応他のナーヴギアのゲームをチョットしたカラなんとなくハネ」
「よし。なら9時にログインして、向こうで落ち合おう」
「分かった。ジャ、向こうで」
◇◇◇
家に戻る足は、柄にもなくご機嫌だったように思う。
◇◇◇
「サテト。早速やるとしますか」
家に戻ったのは朝8時。
落ち合うのは9時だか、多分面倒くさいアバターの設定とかあるはずだ。今からやっても遅くは無い。
ラフな格好に着替え、布団の上に横になる。
コンセントに繋いだ、ソフトの入ったナーヴギアを確認。
逸るココロを押さえつけ、ギアを被り、気合を入れる。
「リンクスタート!」
◇◇◇
設定やなんやらで1時間喰ってしまった。
訂正、キャラネームは『KEN』って決めていたし、スキルの選択も早く済んだ。時間を喰ったのは、見た目の設定だ。
でも、納得のいく見た目になったからよしとする。
ようやくログインしたら、
「う、うぉう………」
キャラ付けの為のカタカナ混じりの口癖がなくなるくらい、驚いた。
「すっげえ………」
レンガの地面にたくさんの西欧風の建物。
そしてたくさんのプレイヤー達。
「なんて言うか………コレが仮想世界とは思えないな………」
もちろん、ポリゴンって分かるところも結構あるけれど、それでもここまで再現できるものなのか、と度肝を抜かれた。
「な! 凄いだろ!?」
「おわっ! ナンですかいきなり………ッテうわ………」
振り返って見ると、目の前にいたのは斧装備の超絶イケメン。
「………どちら様で?」
「オイオイそれは無いだ―――あ、悪い。お前と違ってイケメンにしたからな」
「………司?」
「その通り! にしても、お前………なんでアバターが現実のお前と同じなんだよ………」
呆れたように言われた。何故だ、腑に落ちない。
「いいジャンか。頑張ったんダヨ? 1時間ぐらい」
「1時間かけてイケメン作るならまだしも、自分の顔を作るって………」
おかしいのかよ?
「ああおかしいな! 違う自分を被るのがMMORPGの醍醐味なのに、なんで自分を持ち出すんだよ!?」
「被ったトコロで自分だし。他のなんかを演じるノハ面倒くさい」
最近聞く『ネカマ』とかよくやるよなぁとか思う。
自分の在り方を偽るのはしんどいよ。
「………MMORPGの常識に真っ向から喧嘩売ってんな」
「イヤ、そもそもゲームそのものが現実に喧嘩を売ってナイ?」
僕は現実に生きてるからね!
今からゲームをやる奴が言うセリフじゃないけどね!
「ハァ………、まあいいか。こんなところで時間を潰すのはもったいないからな」
諦めた風に肩を落とし、気を取り直して顔をあげるイケメン。
「じゃあ早速行こう!」
「アイサー!」
◇◇◇
それからしばらくは楽しく『ゲーム』をした。
ソードスキルのシステムアシストに驚愕したり、襲ってくるモンスターの迫力にビビったり、そいつらを倒したときの達成感に浸ったり。
なんだ。
『変わった事』をしても楽しいし、幸せじゃないか。
「コレは、本格的に考えを改めないトナ………」
「お? 流石のケンも、感動したのかよ?」
「ウン………スゴク楽しい」
僕の中で『普通で在るコトは幸せ』から、『普通で在るコト
生き方を変えるつもりは無いし、持論も曲げないけれど、視野を広げるコトも大切みたいだ。
そんな風に、自分の世界の狭さを実感しているときだった。
急に1番最初の街にワープした。
「え?」
「ハ?」
周りを見渡せば、たくさんのプレイヤーが。
僕らがログインしたときより遥かに多い。
「チョ、コレはどういうコト?」
「俺に聞くなよ………」
うーん。
ツカサが分からないなら僕もお手上げかな。
ただ、時折聞こえる『ログアウトのボタンがメニューから消失してる』とか、『GMコールが使えない』とか聞こえるから、大規模なバグがあったのかもしれないね。
そんな感じに思考に耽っていると、夕焼けの空に、一際紅い文字が映し出される。
【Warning】
【System Announcement】
「…………」
周りが喚く中、僕は静かに文字を見る。
なんだか、『変わった事』程度じゃすまない………本格的に『違う事』がそこに内包されている気がして。
◇◇◇
その予感は、正しいモノになってしまった。
ただし、僕のこの世界に対する認識が違っていたということだった。
あの文字が出された後に出現した、中身の無い、
彼は長ったらしくいろいろ言っていたが、ようはこういうコトだろう。
この世界が、『虚構』ではなく『現実』だっただけの話。
シナリオを書く人がカミサマ的な存在から茅場昌彦に代わり、舞台が地球から仮想世界に移動した。………本当にそれだけ。
ご丁寧に、アバターを『あっちの』自分にするというオマケ付き。
僕はあんまり意味がなかったけれど。
「いやまあ………、どうなんだろうね」
あの茅場昌彦とかいう人に対し、
趣味が悪いとは思うし、
命をなんだと思っているんだとは思うけど。
僕らの状況に関してだけ言えば、怪我したり、刺されたりしたら死ぬのは、向こうも同じだ。
フィールドが違うだけ。
だから正直、それ程の恐怖は抱いていなかった。
「………コレからどうする?」
「…………」
「………ツカサ?」
ツカサの様子がおかしいな。
「………ごめん、ケン」
「え、チョ」
ちょっと待てと言う前に、あいつはどこかへ行ってしまった。
泣き喚く声をBGMに、少し考える。
「………アアそうか」
僕の頭に光が灯る。
僕は見捨てられた。
彼は生き残る為に、僕を切り捨てた。
「ま、しょうがないか」
生きる為に行動する。
大事なコトだ。
確かに人道的にどうかと思うけれど、この状況ではそんなコトは言っていられない。
僕みたいに落ち着いてるならまだしも、精神的に大打撃を受けた人達にそれを求めるのは酷だろうね。
ツカサもそうだろうし。
「サテト………どうしようか」
生き残るだけなら、この街『始まりの街』で引きこもっていたらいい。
だけれど、随時僕らの身体は病院に搬送されると言っていた。
寝たきりじゃまずいから、病院で管とか点滴とかを指すのだろう。
さて、その状態でいつまで僕らの命が持つか。
「待ってるだけじゃ、死ぬかもね」
そうでなくとも、自分の命なんだ。
他人に背負わせるワケにはいかない。
自分の事は、自分でする。
自分の生き死にだってそうだ。
「それに、腹立つしなァ」
凡人だけれど、
エキストラだけれど、
凡人なりに、矜恃ぐらいはある。
エキストラだって、キレるコトはある。
「
僕は絶対に許さないからな。
「ま、カッコ付けたトコロでどうこうなるワケじゃないし、とりあえずは行動に移ろうか」
まずはレベルアップをしないとな。
◇◇◇
思い出していくうちに、全てのピックの強化が終了した。
「いやー、結構ムボウだったね僕」
ドの付く素人が、攻略に乗り出そうなんて、正気の沙汰じゃない。
実際にボス戦を経験したから分かる。
いやまあだからと言って、ジッとしてるワケにもいかなかったけどね。
「テスター捕まえては情報を
(ベータテスターって)バラしてイイかな? って言ったら快く情報を教えてもらえたよ。
ありがたかったね。
見分けるのは簡単。
大抵の人とは別の事に怯えている人らがベータテスターだった。
わりかしなんでもソツなくこなす質なので、戦闘技術の基本なんかをすぐに習得できたのは助かった。
あとは…………、
「サヤにスカウトしてもらったノハ助かったね」
正直僕は弱いし、つまらない人間だから、終わりがくる時までずっとソロで居ると思っていた。
この世界がクリアされるにせよ、死ぬにせよ。
『僕達とパーティー組もう! きっと楽しい!』
「ナニ言ってんだか。コンナ平凡な男を捕まえて」
無防備で、頭のネジが何本か抜けてるような言動で、テンション高くて。
でも、自分の恐怖を押し隠してでも、誰かの前に立つ事のできる少女。
「アア言うのを、『主役』って言うんダロウね」
それにサヤだけじゃない。
たくさんの『主役』級が、『ケイリュケイオン』に集まっている。
彼らを見て、眩しいとは思う。
真似しようとは思わないが。
なれないコトはするものじゃない。
現に僕はなれないコトをしてこの有様だ。
それに…………、
「『主役』だけジャ、
このギルドに圧倒的に足りていない『脇役』。
いるコトはいるんだけどね。
だから僕は脇役に徹しよう。
誘ってくれた彼女の恩に報いる為にも。
此処でできた、アクの強い仲間の為にも。
「サテト………帰るか」
地味で結構、それが僕の生きる様。
『主役』を引き立てる者で在れ。
それが『脇役』なのだから。
≪ピック≫って強化できたっけ? と言う疑問をそのまま押し通しました。
もし違ったら教えてください。別の物に書き換えておきます。