読者達のアインクラッド   作:秋宮 のん

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世界は必ずしも理想的に進むとは限らない。
惰性に任せていれば、人は必ず絶望する。
後悔を恐れず勇気ある一歩を踏み出せる者だけが、理想の結末に辿り着ける。

これは、全てを惰性で進められた、最も最悪なシナリオ。


※かなり鬱になる内容で進められています。ルート的に行かない可能性の方が高いので、鬱になりたくない人は飛ばした方が良いかもしれません。


番外クエスト02:一つの未来(バットエンド)

~読者達のアインクラッド~ 未来編 悪

 

 これは、可能性の未来。

 誰もが望まぬ、あってはならない最悪のシナリオ………。

 

 

 

 

 0

 

「………ん」

 物音がして目が覚めた。

 もう、何度も耳にした足音だ。覚悟を持って歩んで来る足音だ。

 そしてたぶん、もうすぐ消えてしまう人の足音だ………。

「………ふぅ………」

 気だるい吐息を漏らしながら、私は瞳を開く。

 階段に座り、巨大な槍に寄り掛かって休息を取っていた私。現実だったら身体が痛くなっていたんだろうか?

 ………、現実なんて、どうでも良いか………。

「………サヤ」

「………」

 声を掛けてきた人物。何度もこの目にしてきた相手。何度も声を聞いた相手。

 そして何度も………甘え続けた相手。

「おはようキリト………、それともこんにちは? こんばんは………では、ないかな?」

 全ての建物が真っ赤に彩られたこの空間でも、空の明るさはしっかり伝わっている。今が昼か朝なのは確かだと思う。ただ、もう私には時間の感覚がないんだけど………。

 キリトは、悲痛そうな表情で僕を見ている。何かを言いたげでもあるけど、開いた口からは何も語られない。

 やがてキリトは、何かをグッと堪える様に口を閉じ、背中にある二刀へと手を伸ばした。

 右手に赤い片手剣、≪リメイズンハート≫。

 リズベットの託した最強の剣。

 左手には………、蒼黒い片手剣≪ギルティームーン≫。

 嘗て、私が殺した人が握っていた剣………。

「うん………いいよ………。その剣と、キリトになら………」

 呟いた私は、ユニークスキル≪連結槍≫専用武器、≪ガイストナーゲル≫の留め金を外し、二槍にして構える。二槍になった槍は、長さが片手剣と変わりないので、まるでキリトと鏡映しだ。

「なんでだ………っ! なんでこんな………ッ!?」

「………、キリト………」

 悲しそうに表情を歪めたキリトは、行き場のない感情をぶつける様に叫び―――向かってきた。

 

「なんでこうなるんだーーーーーーーーーーッッッッ!!!?」

 

 

 

 1

 

 

 いつから歯車が狂い始めたのか? それを思い起こす為には、“私”が“私”に戻る前の、“僕”だったころまで時間を巻き戻す必要がある。

 最初に歯車が外れたのはたぶん、第10層のボス戦の時じゃないかな。

 あの戦いを経て、“私”達―――いや、“僕”達は沢山の物を失う事になった。

 最初に歯車が狂ったのはルナゼスだった。彼は、ボス戦に挑む事を諦め、たった一人の少女のために、命を投げ出し、攻略組と相対した。

 そして殺された。

 仲間の手で。

 ウィセの手で………。

 その時の僕は、誰かまでは知らなかった。でも、それから少しして、僕は知る事となった。

 ゼロ達との邂逅を経た僕らは、ケイリュケイオンが、とてもとても弱い繋がりであった事を思い知らされた。

 思い知らされ、僕は深く塞ぎ込んでしまった。

 タイミングも悪かった。その頃、同時進行でスニーがある事件に足を踏み入れていた。

 スニーがロアを追い掛け脱退し、いつまでも動かない僕を見限り、ウィセが脱退。同じ理由でケンも脱退した。ギルドが楽しくなくなったと知ると、ナッツも何処かに行ってしまった。

 マサやワスプ、それにカノンやタドコロ、ラビットはずっと一緒に居てくれて、僕はやっと持ち直した。

 だけど、テイトクの持ってきた事件が僕達を更にどん底に落とした。

 テイトクが助けたプレイヤーがレッドになって≪月夜の黒猫団≫を殺した。それを庇ったラビットも死んだ。テイトクは罪の意識から、僕達と口を利かなくなった。

 そしたら今度はワスプが犯人を殺した。

 あの頃の僕は、それを平然とやってのけるワスプが信じられなくて、ワスプに酷い事を言ってしまった。

 そしたら彼も居なくなってしまった………。

 必死に追いかけて、大声で謝ったけど、彼には届かなかった。間に合わなかった。

 後悔しても遅いんだろうね。それ以来、ワスプとはぱったりだ。

 ギルドの目標も上手くいかなくて、結局ただ集まってるだけのギルドになってしまった。何してたんだろうね? その頃の僕等は?

 憂鬱になって、気分転換を求めて夜の街を歩いてたら、“ポンチョ男”に会った。

 何を言われたのか今はもう忘れた。たぶん、大した内容ではなかった。

 けど、巧みではあったな。彼が笑うととっても綺麗な声で、耳を通して頭の中が溶けていく感じがした。思わず色々話しそうになったよ。はは………。

 話しはなかったけど、でも、色々教えてもらって、気付いたらそれを実行してたんだよ。

 何したんだっけ? え~~っと………? そうそう。

 

 PK

 

 実際は間接的な行為で、僕の所に利益が回ってくるって奴だったんだけどね? どんな方法だったかな? なんかモンスターを引っ張ってた様な? 意外と上手くいくし、その成果を仲間に持っていくと、皆喜んでくれるから、すっごく嬉しくなっちゃって、結構続けてたな~~………。

 まあ、誰かが死ぬ姿を見て、やっと自分のしてる事に気付いたんだけどね………。

 もう、怖くなっちゃってね? 何もかもが信じられなくなっちゃった。

 だって、PKでワスプに酷い事言って追い出した僕が、自分の利益のためにPKしたんだよ? これ、何の冗談? 三流漫才師でももっと面白い事が言えるね。

 そんな訳で僕、ついに逃げ出しちゃいました。

 逃げ出して、ソロになって、何かに取り憑かれた様に迷宮区の攻略してたら罠にかかって、そこで狂乱状態になっちゃってさ。

 そこをキリトに助けられた。

 それからずっと、僕はキリトの後を追いかける様になった。

 なんでだったのかな?

 恋だったのかな?

 好意は確かにあったと思うけど、その頃の僕にはまともな神経なんて無かったし、きっと縋れる物を探してただけだったんだろう。

 でもさ、時々キリトを見つける度に後ろにくっ付いて、くっ付くだけで何も話さないで、宿まで追いかけといて別の部屋に泊まる。泊まったらそこを区切りにして、出来るだけ長く眠るの。目が覚めたらびっくりする様な時間になってて、キリトはとっくに出発してる。そうやって無理矢理キリトを見失う様にしてたんだよね。見つけるとどうしても追いかけちゃうから。キリトも途中で諦めて何も言わなくなったし。

 でも、アスナが彼の周囲に居る様になり始めてからは自重したな。

 いや、アレは出られなくなっただけか?

 物陰からこっそり覗いて、二人が仲良くしてるのを羨みながら、自分の醜さに涙が止まらなかったっけ?

 それでもさ、僕は何もしなかった。何かをしてしまうと、やってはいけない事をしそうだったから………。

 何もしないつもりだったんだよ? 本当だよ?

 キリトが≪血盟騎士団≫に入った時は、さすがに怖くなったけどね。

 いやぁ、直談判でもするつもりだったのかねぇ? 本部まで行って、門前で棒立ち。何したかったのか?

 そんな風に自分の醜さと愚かさに、ちょっと昔を思い出していたらさ―――、

 

「こんな所でなにをしているのです? サヤ」

「………ウィセ?」

 

 ≪血盟騎士団≫団長補佐、≪賢者(ワイズメン)≫のウィセ。

 そんな肩書を貰っている赤と白の着物みたいな服を着込んだ彼女と再会した。

 いやもう、本当にタイミングが悪い。もう、色々頭の中ぐちゃぐちゃで、何を口走ったのか憶えてないね。ウィセに対して罵詈雑言を吐いたんじゃないかな? そもそもまともな言語中枢で会話してたろうか?

 あははははははは………っ、

 

 気付いたらウィセと決闘する事になって盛大に負けた。

 完膚なきまでに………。

 

 その時言われてしまったんだ。

「アナタにキリトは相応しくない。アナタの様な子供なだけの子は、もう戦うべきじゃない」

 瞬間、悟った。僕はもう二度とキリトの傍にはいけないって。

 僕はもう二度と、仲間達の元にも戻れないって。

 ついに僕は………自覚した。

 一人ぼっちに………なっちゃった………。

 

 狂いきった僕が、その後何をしていたのか、正しい意味で憶えてはいない。

 憶えようとはしていなかった。

 何しろ、あの後すぐ、偶然タドコロと出会ってさ………、少し話してる時に聞いてしまったのだ。

 タドコロの彼女さんの話を。

 ああ、この人は現実に帰れば大切な人がいるのか………。

 それが解った瞬間、記憶は途切れた。

 

 気付いたら目の前に、タドコロの持っていた槍が転がっていた。

 以来僕の歯車は、完全に壊れた。

 そして、皆の歯車も………。

 

 

 

 2

 

 

 

「サヤちゃん………? なんでここにサヤちゃんが居るのっ!?」

 タドコロを殺してから数日。キリトとアスナが前線を離れ、結婚してしばらく。75層攻略のために二人は呼び戻された。

 ただし、戻ってきたのはキリト一人だけだ。アスナと………二人の子供として引き取られたユイが、何者かに殺された。この報を聞いたフウリン達が、75層攻略後、あらゆる手段を用いて、その犯人が潜伏しているであろう場所を割り出したのだ。

 そこに居るのが、()だと言う事も知らずに………。

「………」

 私は意味のない積み木遊びを止め、地面から立ち上がると、無言で()を確認する。

 フウリン、カノン、ワスプ、マサ、タカシ………、テイトクは厄介だな。彼は色々妙な部分があって、人間的に(戦闘能力的な意味で)おかしいと思える個所が見られる。

 まあ、どうでも良いか。ゲーム世界で人間がどうのこうのと講釈垂れても仕方ないか。

「ねえ! サヤちゃんってばっ!?」

 不安そうにする彼女に、私は悲しげな表情を作って少しずつ近づく。

 ちょっと試してる。彼等は私を警戒無く受け止めてくれるのだろうか?

 普通無理か。ほら、私の殺気に気付いてワスプとテイトクが同時に前を遮った。

 いいや、もう始めよう………。

 

 

「ふう………っ」

 溜息を吐いて、事の結果を確認する私。自分のHPバーは赤色に変わってるけど、それほど危機感を感じるほど減ってはいない。肩越しに振り返れば、HPバーを空っぽにした皆が、今正にポリゴン片になろうとしている。

「サヤさん………っ!」

「なんで………? サヤちゃんっ!?」

「なんだよこれ………? こんなルート、何処にも………っ!? オレが存在した所為………?」

 ワスプ、マサ、テイトクが何か言っていたけど、言葉としては理解しなかった。どうでも良いし。

 皆表情は一様に悲しげだったけど、私はただ無表情に見送るだけだ。

 ただ一人、まだ僅かにHPバーを一ドットほど残しているフウリンが、地面に倒れたまま私を見上げていた。その手に何か持っている事に気づいて≪双刃≫で払いのける。彼女の手から零れたそれは、私が≪転移結晶≫だと思っていたのとは違い、≪記録結晶≫だった。

 犯人の顔でも撮るつもりだったのかな?

 私が拾い上げると、フウリンは少しだけ穏やかな表情になった。

「それ、ずっと持ってたんだ………」

 いきなり何を言い出したのかと思って、≪記録結晶≫の中身を確認してみる。その中には、嘗て私とフウリンが二人で撮った、記念の写真があった。

「やっぱりダメなんだよ………。アナタがどんな風になったって、やっぱりサヤちゃんはサヤちゃんだから………! だから皆、どうしても本気で戦えなかったんだよ………?」

「………」

「私は………今だって、サヤちゃんの事が、大好きなんだよ………? 皆みんな、アナタの事が大好きなんだよ………?」

「………こんな写真、今までずっと持っていたんだ?」

「うん、だって………、私の御守りだったから………」

 御守り? うん、確かにそうかもしれないよね?

 私は写真から彼女へと視線を向け、少しだけ微笑を浮かべる。

「この写真、とても元気が出る写真だよね………?」

「サヤちゃん………っ!」

 一瞬、希望を見いだした様な表情を作るフウリンに、私はもう一度ニッコリと笑いかける。

 

「だからこの世界を壊す奴は全部殺す」

 

 刹那にフウリンを通り過ぎた私は、ソードスキルの硬直が解けると同時に血払いをする様に≪双刃≫を払う。

「君は笑顔が似合うから、笑顔のまま逝けばいい………」

 フウリンが僕の言った言葉を理解できず、キョトンとした瞬間、彼女はポリゴン片となって砕け散った。

「そう………、私は全部殺すんだ。この世界を壊そうとする奴は、全部敵だ」

 私はもう一度写真を確認しながら、悲しい気持ちを一杯にして呟く。

「この世界じゃないと………! 私はこんなに幸せな写真も見られないのに………っ!」

 怨嗟と嫉妬を憎しみに籠め、恨み事を口遊み、私は殺し続ける。

 私は認められない。自分が不幸などと認められない。だから、私は幸せなのだ。そう思えなければ生きる意味などないんだ。だから私を不幸だと思わせる奴等は、皆みんな、殺してやる! 攻略して、SAOを解放しようとする奴等も、皆みんな殺しつくしてやるっ!

 

 

 

 3

 

 

―――アレから幾つの時が経ったのだろうね?

 

 槍に籠めた一撃で問いかけた私に、キリトは左の剣で払い、右の剣で応える。

 

 ―――解らないよ。でも、もう終わりにするんだ。

 

―――そうだね。終わりにしないとね………。

 

 応えを返しながら、私は二槍を左右から突き込み、敵の懐を開こうとする。

 でも、キリトが左右の剣でそれを弾き、返す刃で攻守を入れ替えてくる。

 

 ―――どうして戦わないといけないんだ!?

 

―――決まってるでしょ? 私が攻略を反対してるから。

 

 ―――現実にだって必ず幸福はある!

 

―――ないよ。だって私は、もう自覚してるんだ。

 

 言葉ではなく、刃と刃で語りながら、私達は命を削り合う攻防を続ける。

 後少し、後少しで互いの最大攻撃で削りきれるHP量になる。

 最後の瞬間が近づく………。

 

 ―――まだだ! まだお前は戻れるはずだ! きっと、きっと皆でまた………っ!

 

―――もう皆はいない。だから、私はもう、戻れない。

 

 ―――サヤ! このまま殺し合う事が、お前の望んだ最後だったのかよっ!?

 

―――………もちろん違った。でもねキリト? もう私に友達はいないんだよ?

―――私は全部殺してしまった。友達になれかもしれない人も、なってくれた人も。

―――私は本当に、一人ぼっちになっちゃった。

 

 ―――俺が居るっ! まだ俺がいるだろう!

 

―――それは、無理だよ………。

―――だって私は、アスナを殺した。ユイも殺した。

―――二人だけじゃない………。

―――クラインも、リズベットも、シリカも、エギルも、アルゴも殺した。

―――タドコロも、ケンも、ワスプも、カノンも、ゼロも、フウリンも殺した。

―――レドラムも、シヨウも、サスケも、ゼニガタも、ライラも、セリアも殺して。

―――シナドも、キバオウも、シンカーも、ヴァジュロンも、ゼニガタも………っ!

―――ジャスも、クロンも、ロアも、スニーも、ウィセも………っ!

―――他にもたくさん、名前すら覚えていない様な人も………っ!

―――そしてこの世界に来るはずのなかった人たちも!

―――………君の妹も………リーファも私が殺したんだよ?

―――こんな私の、友達になってくれた娘も………私は殺したんだ………。

 

 ―――違うっ! アレはアルベリヒトが………っ!

 

―――私が原因である事に変わりなんて無いっ!!

―――同情するつもりなら………私に殺されて!

―――そんなつもりないなら………ちゃんと私を殺せよっ!!

 

 激情に任せた一撃がキリトのHPを僅かに削り、互いの距離が僅かに開く。

 ここだ!

 次の瞬間には、二人とも自分達が憶えている最強のソードスキルを発動していた。

 連結槍最強ソードスキル≪エクステンド・ベルセ≫

 二刀流最強ソードスキル≪ジ・イクリプス≫

 互いに二十七連撃のソードスキルが交差し、大量に残っていたHPを容赦なく削り合っていく。

 途中で連結と分離を繰り返して放たれる私のソードスキルに、キリトの巧みな連撃が間を縫って入り込んで来る。攻防一体の私のスキルが、まるで通じず、攻撃一辺等に費やされる。

 互いの矛が強過ぎて、盾が全く機能していない。

 いいか? 別に………。

 だって、これで全てが終わるんだから………。

 

 くるりっ!

 

 宙を翻り、連結槍を腕が交差する様に持ち、二槍に分離させる。最後の交差斬りを前に、力を溜める一瞬の動作が入る。

 対するキリトも一杯に左腕を振り絞り、最後の一撃を突き込んで来る。

 先に命中した方が勝利を掴む、勝敗を分ける刹那を前に―――私はシステムアシストに逆らい、両手から槍を手放した。

「!?」

 

 ドスンッ!

 

 蒼い剣が、僕の胸を貫いた。

 嘗て、僕の友達になってくれたエルフ似のアバターをしていた少女が、私と一緒に取った、限定クエストのユニーク装備。≪ギルティームーン≫

「サヤ………! なんで………っ!?」

「言ったじゃん? 君と、その剣に裁かれるならイイって………」

 私が彼女を殺す時、彼女は生きるために私を殺すことだってできた。例えアルベリヒトの罠で、互いのどちらかを殺さなければならない状況だったとしても、私が斬り掛った時点で、彼女にはそれが出来たんだ。

 なのに、リーファは最後で剣を止めた。私を殺さなかった。その上あの娘は、自分を殺した相手に言ったんだ。

 

「 友達を助けられるなら、嬉しいよ……… 」

 

 涙声だった。

 今でもずっと耳に残っている声。

 私が、決定的な何かを失った日………。

 あの時、私は最後の岐路を選んでしまったのだと思う。

 この結末を含む、全ての運命を………。

 

 受け入れるしかないんだ。僕の全ては終わりを告げたのだから。

 次第に消えていく私のHP。何処か他人事で見つめながら、私は胸に刺さる剣を愛おしげに抱きしめた。

 これでやっと、怖いのも、辛いのも、苦しいのも、全部なくなる。

 最初はSAOだけが僕を人間にしてくれる場所だった。だからこの世界を守るために、攻略組と戦った。

 そしたら、それでいろんな人たちに恨まれて、自分の立場が悪くなると、とても怖くなって、どんどん辛くなった。その恐怖から守るために、周囲の者を消していくようになった。

 だけどその結果、私の周囲には誰も居なくなってしまった。そうなってからやっと気付いたんだ。

 私は、この世界に友達が欲しかった。

 他愛のない会話をして、他愛のないやり取りで笑い合って、自分一人では解らない事を一杯話して、いつも新鮮な感動を与えてもらって………、きっとたまには喧嘩をして、ぶつかり合って、だけどちゃんと仲直りして、そんな風に、毎日を楽しく繰り返す。

 言い方はとても欲張りだけど、だけど実際は、誰もが体験している、ありきたりな幸せ。

 私が本当に欲しかった物は、それだったんだよね………。

 どうして私はそれが解らなかったんだろう?

 どうして私はそれに気付けなかったんだろう?

 どうして私は………。

 私は、その道に辿り着けなかったんだろう………っ!?

 悔しさが胸に込み上げてきた。

 目の奥が熱くて痛い。でも、枯れた涙は、仮想の世界でも溢れてくれないらしい。

 苦しい。苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!!!!!

 なんで私は―――っ!!

 解ってる! 解っているけど………っ!

 でも、言わずにいられるはずがないじゃないのさっ!?

 なんで私は、こんなに不幸なんだっ!?

 なんで私がこんなに不幸になるのさっ!?

 どうして誰も()を憐れんでくれないっ!? ()に優しくしてくれないっ!?

 ()だった時には、最初だけでも人が居てくれたのに―――っ!?

 なんで()には誰も傍に居てくれないのさーーーーーーーーーーーーーーっっ!!?

「解ってるんだよ………! 本当は………っ!」

「サヤ………」

「ただ、一人で勝手に苦しんで………、勝手に一人で痛がって………、独り善がりで怒ってばかり………! 本当は、皆、ちゃんと考えてくれていた人もいたの知ってるのに………っ! 手を差し伸べてくれた人もいたのに………っ! けどさ………っ!?」

 もう止めよう、何を言っても仕方ないんだ。

 って言うか、もう言葉が思い付かないよ………。

 言いたい事は一杯あるはずなのに、こんなに苦しいと、何も言えなくなって何も考えられなくなるんだね。

 HPが無くなってしまう。

 どんどん減っていく。

 何か言いたい。

 何かを残したい。

 でも何も思い付かないよ。

 後少ししか時間がないのに。

 ああ、どうして私は、死に際の一言を考えておかなかったんだろう?

 生きていた時間はあんなにあったのに、最後の最後で後悔する様な生き方をしてしまうなんて………。

 なにか、何かないの?

 私が生きていた証。

 私がこの世界で必死に足掻いて、必死に生きていたんだって証。

 現実じゃない、この世界で生きた私を残せる何か、なにか………っ!

 ………!

 そうだ!

 思い付いた!

 でも、もうHPが―――!?

 ああ、お願い待って!

 せめてこの一言を! 一言だけ、キリトに―――っ!!

 

「お願いキリト! 私の事―――! 私の事を忘れ―――ッ!!」

 

 ピーーーーーーーッ!

 

 【You are dead】

 

 ジ、ジジ、バチンッ!!

 

 ――――ッ!

 

 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 4

 

 

 

「なんなんだよ………っ、なんなんだよこれはっ!? 茅場! これがお前の創造したかった世界なのかっ!? こんなモノが! こんな悲しみしかない世界が、お前の作りたかった世界なのかっ!?」

 慟哭を上げ、キリトはその場に頽れる。

 足元に転がるのは、彼女が最後まで使っていた≪連結槍≫。そして、既にオブジェクト化して持っていたのか、一つの≪記憶結晶≫が転がっていた。

 ≪記憶結晶≫は落ちた拍子にスイッチが入ったのか、それともタイマーでもセットされていたのか、内包していた一枚の写真を写し出した。

 ≪ケイリュケイオン≫結成時の、皆が最も笑っていた最後の写真。それをキリトが確認した次の瞬間、結晶もまた、ポリゴンとなって消えた。まるで、彼女の「戻りたい」という想いが、最後になけなしの奇跡を果たしたように………。

 悲しみなのか、怒りなのか、それとも罪悪なのか………。キリトは己の胸中に渦巻く良い様のない激情を持て余し、ただただ慟哭の声を上げる。

 やがて、彼の嘆きが収まり始めると、彼の背後に一人の少女が歩み寄る。

「キリト………」

「大丈夫だ、シノン………、これで全部、終わらせないとな………」

 唯一残った攻略メンバーはキリトだけではなかった。

 偶然、レベル上げが遅れ、≪射撃≫と言うユニークスキルを得たばかりに、その特性を活かす為に苦心していたシノンだけが、サヤの標的からも外れ、生き残る事が出来た。

 彼女がSAOを攻略できる最後の希望、キリトの唯一のパートナー。

「行こうシノン。これで、今度こそこれで最後だ………」

「………ええ」

 二人は手を握り、抱く不安から互いを励まし合う。

 そして二人は、歩を進めた。

 

 

 その後、彼等がアインクラッドを攻略できたのかどうかは………誰にも解らない。

 

 




のん「舞台裏激増!」

サヤ「増えてどうするんだよっ!?」

のん「噛みました」

サヤ「わざとでしょ?」

のん「科身マ師他(かみました)」

サヤ「そっちの方がありえないっ!?」

のん「まあ、この辺にしようか」

サヤ「うん。………それにしても、今回は思いっきり暗いの書いたね? これルートに予定してるの?」

のん「もちろん。バットエンドがあるからこそ、人はハッピーエンドを求める物だろう?」

サヤ「そうなんだけど、僕のキャラが壊れすぎて怖い………、いや、僕そういう側面あったけど………」

のん「まあ、実際サヤはそんなに強くないけどな。みんな躊躇って殺せなかっただけだし」

サヤ「嫌だな、この結末………。でも、とりあえず無難な選択肢とっておけば、問題ないよね!」

のん「なんで?」

サヤ「え? なんでって………? え? だってこのまま行けばノーマルルート―――」

のん「『ノーマル=安全』などと誰が保証した?」

サヤ「ちょっとマスターッ!?」

のん「言っただろう? 惰性に身を任せていると絶望すると。だいたい、原作に出来るだけ則って話を進めるようにしているんだぞ? ノーマルのままだと≪黒猫団≫とか、死亡回避してほしいようなキャラとかの回避なんて発生するわけないじゃん?」

サヤ「でも、マスターバットエンド嫌いな人だし………」

のん「嫌いでも書くのが作者だっ!!!!」

サヤ「魔王のセリフにしか思えないよっ!?」

のん「まあ、そんなわけで、私が前もって作ったレールが安全だと思うなよ諸君! なんせ、これについて知り合いと話し合った結果、私は作品に対する感性が少しおかしいとのことだからなっ!! エッヘン!」

サヤ「このマスター一回死んで生き返って、善良な人間になって書きなおせばいいのに………」

のん「まあ、私も幸せな最後で終わりたいので、ルート分岐には気をつけてくれたまえ!」

サヤ「(読者泣かせか………)」

サヤ「ところでマスター? この話でSAO時点では登場しない人物が二人ほど出てるんだけどなんで?」

のん「ああ、あれ? アレはゲーム版のIFルート。望めばその選択肢もあるって意味で―――」

サヤ「ああ、それでおためしのバットエンドで登場させたんだね」

のん「うん、急遽後付けした」

サヤ「後付け!?」

のん「良い機会だから載せとこうと思って」

サヤ「(このマスター、二回死んで、書き方一から学び直した方が良いんじゃ………)」

のん「ゲーム版は読者の意見まだ聞いてないからな。良い機会だしついでに聞いとく」

サヤ「(賛否両論っていうか………、基本的に原作重視でいく方を皆好むのでは? でも、言ったらマスター泣きそうだし、黙っとこ)」

のん「それでは、またしばらくの間~~~!」

サヤ「お目め汚しな作品、申し訳ありませんでした」

のん「いずれ、これの謝罪イベントを書きますので、安心してください!」

のん&サヤ「「それではまた次回会いましょう~~~!」」


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