読者達のアインクラッド   作:秋宮 のん

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『茶猿』さんからの提供です。
一応手直しはしてあります。
ラビットのストーリーをお楽しみください。


第四章:ラビットサイドストーリー

ラビットサイドストーリー

『茶猿』さん提供。

 

 

 

 

 いつからだろう。

 こんなにも独りが寂しいと思ったのは。

 

 ラビットはサヤから依頼を受けたアイテムを収集しながら何度目かわからない自問自答に耽っていた。いくらレベル的に安全マージンを十分にとっているとは言えモンスターとの戦闘中に余計な事を考えるのはあまり宜しくない。現に先程から何度も躓き派手に転びそうになったり、モンスターからの攻撃を完全に捌ききれない自分に戸惑いは隠せない。

 その事に先程から焦りのようなものも感じ始めており、回復ポーションも無駄にできないことから一度頭の思考を切り替える。一度大きくモンスターから距離を取りその後短く息を吐くとソードスキルを発動、青い光に包まれた剣は真っ直ぐコウモリ型のモンスターへと直撃しポリゴンの欠片へとなり砕け散る。

 

 

「これでここは終わり。あとは………」

 

 

 誰もいないところならばこんなにも簡単に言葉を出すことができるのにいざ人と会話するとなるといつもの悪い癖が出てしまう事をいつまで経っても改善することができない自分に腹が立つ。

 ラビットはアイテムを確認するために動かしていた右手の動きを止め自分の掌へと視線を落とす。今まで親と会話する機会も少なく、学校では殆ど同い年の子と会話したことがない。しかしつい先程、自分よりも幼く見える少女≪サヤ≫と会話することができた。

 例えこの掌が今はポリゴンの集合体であろうとあの時無意識にサヤと握手を交わした感触は本物だ。≪肌の温もり≫というのはこの世界では感じることはできないが、≪人の温もり≫は感じることができる。

 ラビットは≪デパチカ≫を出て行った後休憩なしのぶっ通しでアイテム収集を行っていたため精神的に疲労が溜まっていた。自分がアイテムを集めきる時間を逆算し、サヤがアイテムを取りに来る時間を考えれば少しばかり余裕があるため近くの安全地帯で休憩を取ることにした。

 

 

「よし、誰もいない。」

 

 

 安全地帯に誰もいないことを確認すると近くにあった人3人分の大きさの岩へと寄りかかり地面に座る。顔を隠すために被っているフードを脱ぐとアイテムストレージから決して美味しくはないパンを取り出すと小さな口を開けてカブリつく。

 

 

「あぁ、マヨネーズが恋しい」

 

 

 特に味がしないパンを味わいながらもうSAOにダイブしてから優に3桁は超えるほど想っていることをまたもボヤいてしまう。このまま一生マヨネーズが味わえないならば逸そ死んだほうが………

 

 

「そんなのだめ」

 

 

 自分の弱いところに語りつけるようにつぶやいた言葉はとても痛いものであった。この世界では簡単に≪死≫という言葉は使ってはいけない。正にこの世界はデス・ゲーム、HPが0になれば本当に死んでしまうんだから。

 それについさっき男性プレイヤー3人に襲われた時だって死を覚悟した。諦め、抵抗することもできない状況でサヤが助けにくれた。あの時は登場したときは流石に驚いたが、それ以上に彼女自身の実力に驚いた。ラビットのレベルは前線メンバーと殆ど変わらないが、あの少女はさらに上を行っており、さらに≪実力≫がラビットとは違う。

 しかしいざ仮面をとってみればどこにでもいそうなか弱い少女。あの時サヤが話しかけてくれなかったら自分はいつも通り逃げるか、それともまたチャットをしてしまうだろう。

 

 

「友達………か」

 

 

 最後のひと切れを食し大きく息を吐きながら背伸びをするとある単語に思いつく。

 本当ならばラビットは友達を作るためにこの世界に入り込んだ。しかし始まってみればデス・ゲーム。そんな状況で友達を作っている暇など一切なくただひたすらに自分が生き抜くためにただ剣を振り、最低限の客との接客しかやってこなかった。ラビットは自分が現在帯刀している剣を抜き、銀色の刀身を眺めながらこれまでの苦労を思い出すのであった。

 

 

 

 

◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 SAOでの仕入れ屋兎こと≪ラビット≫の現実の名前は≪木村・アリーゴ・叶≫15歳。どこにでもいそうな女子中学生ではなく、世間的には珍しい日本人とイギリス人のハーフ。母が日本人、父がイギリス人で叶は日本で生まれた。小さい頃から極度の恥ずかしがり屋で友達という存在を作ることができずただ毎日、寂しさを隠すように街を走っていた。

 学校へ入学するとハーフの自分が珍しいのか入学式早々まるで転校生のような質問攻めを喰らってしまい思わず逃げ出した。そんな日々が数日間続いたところで周りからの生徒は自分を無視するようになり、自分と進んで会話するなんて事はなくなった。

 最初の頃はそれでいいと思った。誰にも話しかけられず、誰にも話すことがなければ無駄な気遣いをすることがない。家へ帰っても大手企業のそこそこ良い地位である両親が帰ってくるのは深夜遅くであり、出て行くのはまだ叶が起きる前の早朝。その為家へ帰っても一人なのは慣れたことであり学校でも慣れている孤独でもいいと思った。

 しかしそれには限界があった。友達同士で話し合い、笑い合い、休み時間には一緒に遊ぶ、休日には公園で遊んだり、一緒に宿題をやったり。そんな姿を見てしまったからこそ叶はその姿に羨ましく思った。

 仲良く接する生徒たちへ混ざりたいと思い言葉をかけようと思うが今まで築いてきた孤独からの会話経験の少なさと、自分の悪い癖である極度の恥ずかしがり屋により話しかけたはいいが、そのまま逃げ出すという日々が続いた。

 そんな日々を繰り返し、無視してきた生徒の中には叶と話をしたいと思った生徒が何人かいたのかもしれないが全てが無視し、さらには非難の目で見る生徒だって出てきた。

 

 

「誰か………助けて」

 

 

 誰もいないところでいつも呟くようになってしまった口癖。自分から踏み出すことができず、終いには他人から話しかけるのを待つようになってしまった。そんな自分、孤独の闇に堕ちていく自分を忘れるように叶は走ることしかできない。

 小さい頃からひたすら走っていたのか、学校の陸上部での成績はトップまで上り詰め大会でも優勝することが続いた。

 それもあって周りからの批判はさらに大きくなってしまう。一切口を開くことなく、部活のメンバーにも話しかけることなく、苦労して成績を伸ばそうにも叶の成績に追いつくことはできない。その事に焦りとイラつきを覚え陰口が酷くなっていった。時にわざと聞こえるように言われても叶は聞こえないふりを続けながらも、心の隅では痛いほどに刺さっていた。

 

 これでは友達をつくるどころか、敵を作っている。

 

 

「ソードアート、オンライン?」

 

 

 そんな狂ってしまいそうな日々を過ごして中学校最後の年。いつものように学校を終え家へ帰ってパソコンを開き、ネットサーフィンをしていると見覚えのない広告に目につく。

 簡単に言ってしまうとVRMMORPGの新作ゲーム。叶はゲームというものはあまり詳しくはなかったがこれには興味が惹かれた。現実の自分ではなく、自分が形成したアバターが動き、喋ることにより成り立つ。これならば仮想世界で、自分を偽った姿でならば友達を作ることができるかもしれない。

 そう思うと叶は直ぐさま≪βテスター募集≫という広告をクリックし、応募するのであった。

 

 

 

 

◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 叶は見事に限定1000人のβテスターとしての権利を獲得し、正規にこのSAOが発売される前に仮想世界≪アインクラッド≫を楽しむことができた。現実には存在しないであろう地平線まで続く広い草原、絶景、街並みに叶は感動した。

 たまに観光としてフィールドを歩いたり、好奇心にモンスターと戦闘してみたり。この世界は本当にゲームの世界だという思いは感じることなくただ時間の許す限り叶はSAOへと没頭した。β時には1000人という少ないプレイヤーでこの広いアインクラッドのため一回も出会うことがなかったが、正式サービスが開始されたら自分から引っ張っていって友人を作ろう。叶はそう思い決心するのであった。

 

 しかし楽しみで仕方がなかった正式サービス開始の日は叶含める1万人のプレイヤーにとって人生の落胆となった記念日となってしまった。その日は部活が大会が近いため予想以上に練習が長引いてしまい、叶がログインしたのは正式サービスが開始された2時間後である15時であった。

 念願の夢である友人を作るのもいいが、叶が正式のSAOにログインしてから始めたのはモンスター狩りであった。ベータ版が終了して少しばかりのブランクがあるため、少しでも取り戻し自分が先頭切って製品版から始めた人達に指導してあげるんだ。

 

 

「あの~、随分と上手ですね。」

「えっ………う、うん。なんだか直ぐになれちゃ………って。」

「もしよければ僕に戦闘の技術教えてくれませんか?」

 

 

 モンスター狩りをしていると男性プレイヤーが話しかけてきた。その事に一瞬だけたじろいでしまい恥ずかしさのあまり逃げ出したくなったが、そこはグッと堪え男性プレイヤーのお願いに二つ返事で答えた。

 

 そう、今このソードアート・オンラインの世界では木村・アリーゴ・叶は≪ラビット≫としてこの地に立っているのだ。

 兎は孤独だと死んでしまう。これは本当か嘘かわからないが、叶の中ではその思いを胸に是非ともフレンド第一号になりたくて男性プレイヤーと共にこの地を駆けた。この偽りの姿だとしても楽しく話し合い、一緒に協力してモンスターを倒したり、笑い合う事は叶にとっては至福の一時であった。

 

 

『それでは私から心ばかりのプレゼントを差し上げよう。』

「手鏡………?」

 

 

 しかし茅場から放たれたこのSAOについての本当の意味を聞かされて叶はただ絶望することしかできなかった。HP=0が現実での死と同じ事によりもうモンスターとの戦闘で死ぬことができない。

 その事を思うとβ時代何回も、何十回も、もしかしたら何百回とSAO上で死んだ。その時は何度も蘇生できたためなんとも思わなかったが、このデス・ゲームと化した状況ではそんな特攻のような戦闘はできなくなる。

 そして茅場がプレゼントと言って叶はアイテムストレージを開くと見覚えのないアイテム≪手鏡≫。最初はなんの変哲もない手鏡だったが覗き込んだ瞬間叶にとってデス・ゲームと化した状況にさらに残酷な運命を突きつけられるのであった。

 自分が苦労して構成した偽りの姿≪ラビット≫は簡単に崩れ去ってしまい、現実の≪木村・アリーゴ・叶≫としての姿となってしまった。周りを見渡すと今まで美男美女だった光景があからさまに変化しており現実の姿へ戻ったのは叶だけではなかった。

 叶は自分の顔が元通りになってしまったことに一気に恐怖と同時に恥ずかしさが込み上げてきた。

 そんな思いをかき消すようにラビットは走った。周りから聞こえるプレイヤーの非難、悲しみ、怒涛の声を聞き流し、先程まで一緒に楽しんでいたプレイヤーも見捨て、叶はただひたすらに今はデス・ゲームと化した世界を走るしかできなかった。

 

 

「誰か………助けて」

 

 

 戦闘も怖い、周りからの視線も怖い、言葉を吐いても誰も助けてくれない。

 叶は今自分のレベルならばこの周囲のモンスターならば簡単に討伐できるが、恐怖により体を動かすことができなかった。死というのが目の前にあるために体が震え、目からは絶え間なく涙が溢れ、実際に激しい嘔吐感にも襲われる。

 

 そんな世界から逃げるように、周りからのプレイヤーの視線から逃げるように、明らかに下心丸見えのパーティー勧誘から逃げるように。

 

≪ラビットは体を隠す。

≪ラビット≫は口を封じる。

 

 

 

 

◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

「んっ………。」

 

 

 気がつくと軽く寝てしまっていたらしい。時計を開くと10分程度しか経っていないがラビットはポリポリと頭をかきながら欠伸を漏らす。何とかこの10分間誰も顔を見られてはいないと思う。

 第一層のときのことを思い出しラビットは自分は少しでも変われたと思う。サヤと会話することもできたし、この依頼が終わったらギルドに入る予定だ。そうしての友達を作れるか心配だったがサヤの性格ならば問題ないと苦笑するのであった。

 ラビットは持っていた片手用直剣≪アニールブレード≫を鞘へと戻し、再び顔を隠す。今はまだこのフードによって顔を隠しているが、近いうちにフードなしで生活できるように何とか改善していきたいと思っている。しかし「それはかなり先だろうね。」と自分で思いラビットは駆ける。

 ≪仕入れ屋兎≫は今日もアインクラッド、ソードアート・オンラインから一秒でも早く開放されるために上層プレイヤーたちのサポートへと、サヤのサポートの為にこの地面を駆けるのであった。

 




手直し中にちょっと感じたのですが? もしかして『茶猿』さん? 過去編の時は“一人称語り”ではなく“三人称語り”でしたか? てっきり一人称だと思って直しちゃいましたが………。もしそうだったらごめんなさい!


コピペしてもらって添削しました。
まだ、おかしいところがあったら御連絡下さい。

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