読者達のアインクラッド   作:秋宮 のん

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添削終わりました。


番外クエスト01:一つの未来(中篇)

中編

 08

 

 

「やれやれ、ケイリュケイオン以上に働いているギルドは無いんじゃないでしょうか?」

 ケイリュケイオン傘下ギルド≪鷲の弦≫の旗印を持つ、エギル商店にて、ウィセは仕事を片づけながら愚痴を零す。

 ギルド≪鷲の弦≫は、ケイリュケイオンの恩恵を貰う為に作られた、ギルドとして成立していない個のプレイヤーショップを一つまとめにして管理するために作られたギルドだ。特にエギル商店は、ケイリュケイオン本部直属のジャスの≪デパチカ≫の次に位が高い位置にある、≪鷲の弦≫まとめ役とまで言われている。実際、≪鷲の弦≫内部でアクシデントがあれば、エギル商店に話が持って来られるのだからそうとしか言えない。

 その店の奥で、各連合ギルドに支給するアイテムと、補給するアイテムの一覧などが書かれた書類を整理し、現在の進行状況などをチェックしているウィセは、サヤとのお出掛けを反故にされて、少々不機嫌気味ではあった。

 この店内には、ウィセと、店長のエギルの他、≪鷲の弦≫ギルドリズベット武具店のリズベット。

 両手剣使いにして、ケイリュケイオン攻略メンバーきってパワーアタッカー、ヴァジュロン。

 ケイリュケイオン直属鍛冶士、今やケイリュケイオン専属鍛冶士と言われているアスパラ武器店の店長アスパラ。

 毒薬ばかり中心に作っている所為で、今やケイリュケイオンの毒薬士と名の高いレドラム。

 元アインクラッド解放軍リーダーにして、現在はケイリュケイオン傘下ギルド、遊撃部隊≪アマルティア≫の副リーダーキバオウ。

 第一層一般プレイヤー総括管理ジャスの代理、タカシ。

 そして最後にケイリュケイオン本部雑用係、今やちょっとしたギルド内の癒し少女、またの名を『保護対象プレイヤー雑用係メイド長』サチ。

 以上九人が狭い部屋の中でそれぞれの仕事に励んでいる。

 ウィセの愚痴を聞いて最初に反応したのは、すっかりエプロンドレスが板に付いてしまったメイド姿のサチだった。彼女は苦笑するとウィセの気持ちを慮って苦笑を浮かべる。

「他のギルドは休みの日を作れるもんね? 毎日休みなく働いてるのはケイリュケイオンくらいだよ?」

「たまに休みが入るのも戦闘メンバーだけだもんね? 商売系や政治系のメンバーは休んだら最後、商業が滞るものね~~」

 呆れた様な、感心したような声を上げてリズベットが同意する。

 その言葉に、戦闘メンバーで、デスクワークにも雑用にも殆ど役立たない肩身の狭い思いをしている非番中のヴァジュロンは苦い顔で視線を逸らしながらも、やはり同意を述べる。

「最近はクロンちゃんとか、商業面で活躍できる人材も増えてきたんだろ? 何とか非番取れないのか?」

「そう思ってサヤと出かけようとしたらゼニガタに呼ばれました………」

(((ソイツは本当に災難だな………)))

 口には出さず、年上組でもあるエギル、タカシ、キバオウの三人の心がユニゾンした。

 サチは労いの意味を込めてティーカップに新しい飲物を注ぐ。コーヒーや紅茶の様な物ではなく、果汁タイプの物で喉越しがとても良い。

 ありがたく受け取ったウィセが、一口飲み、美味しかった事を笑顔でサチに伝える。サチもそれだけ感謝の気持ちを正しく受け取り、笑顔を返す。ポット内の果汁が切れてしまったのを確認したサチは、ウインドウを開き新しい果汁をオブジェクトしながら一連の自分の行動に付いて達観してしまう。

(私も随分メイド業に毒された………)

 最初は、ケイリュケイオンに保護してもらうだけだったのだが、キリト達が戦う姿を見て、自分も何かしたいと言い出したのが切欠だった。その後、紆余曲折を経て、雑用係を続けるうち、いつの間にか「メイドさん」と呼ばれるようになり、悪乗りしたアルク(マフラーオフ)の悪戯でエプロンドレスを着せられ―――その後の反響がSAO全プレイヤーの予想を超えて大絶賛。いつの間にか脱ぐに脱げない所まで来て、諦めて着ている内に、自らもメイドらしいふるまいをするようになってきた気がする。

(形から入る、って、こう言う感じなのかな………?)

 他のメンバーにも果汁を注ぎ直しながら、サチは半分自棄気味に職務に勤しむ。余談だが、サチはメイド服を着るようになってから雑用係としての給料が発生するようになった。本物の“職業メイド”状態だったりする。

「まあ、今回の商談も速やかに終われたし、その内俺達がやりくりして暇を作ってやるよ?」

「ケイリュケイオンには世話になってるんだ! 俺達も力を貸すぞ!」

「ま、まあ………、ワイも色々世話になったしのう………?」

 快活に笑うタカシに便乗するエギルがサムズアップする。一人、後ろめたさと恥ずかしさでそっぽを向きながら同意するキバオウ。大人三人は他人の気をうかって色々大変だ。

「じゃあ、これとこれとこれを分割してもらいます。あとこれもそちらで大丈夫ですね? こっちもついででお願いします」

 それを解っていてウィセは容赦しない。

 解っていたタカシだったが、表情は渋面になってしまう。

 しまった! という顔で固まっているのはエギルで、完全に口を開けて絶望しているのはキバオウだ。

 そんな三人を見ていたもうレドラムとアスパラは―――、

「さて、僕達の分は後少しで終わりそうだ………。このまま気付かれない様に終わらせ、退出するとしよう………?」

「ああ、俺も依頼された武器が大量に残ってるからな………。これ以上は勘弁だ………」

 思いっきり背景の木の役に成り切り、せっせと仕事を片付けて行く。

 立場上、その内緒話を聞いていたサチは、やっぱり苦笑いを浮かべつつも気を使って聞こえないフリを押し通す。

「はい! これで私の分は終わり! 今日はこの後非番だし! さすがに休ませてもらうからね!」

 一番仕事量の少ないリズベットが立ち上がって言うと、ウィセは意外と優しい笑みで労った。

「お疲れ様です。今回は手伝いに呼んですみませんでした。またいずれ、お詫びの品を持っていきますね」

「そんな気を使わなくても良いって! ………あ、でも、どうしてもって言うなら、これからヴァロを借りて行って良い?」

 ヴァジュロンの愛称を呼び、その腕に自分の腕を絡めて尋ねるリズベット。照れ顔のヴァジュロンとリズベットの顔を交互に眺めたウィセは、ニッコリ笑って了承した。

「どうぞ。どうせ彼が此処に居ても仕方ありませんし、そもそも最初っからそのつもりで連れて来ていたのでしょう?」

「ば、バレたか………。それじゃあ、借りて行くわね? ばいば~~い!」

「え、えっと………! 力になってやれなくて悪かった!」

 二人は頬を薄く染めて駆け足で退出する。そんな二人が完全に気配を消した辺りで、ウィセは机に額を押し付けた。

「私だってサヤと………私だってサヤと………私だってサヤと………私だってサヤと………私だってサヤと………」

 呪詛の様に漏れ聞こえる悲嘆の声に、場の空気が一気に重くなっていく。

 さすがに可哀想に思えたサチは、彼女の肩に手を置きながら慰めるつもりで告げる。

「ウィセ、本当にサヤの事大好きだよね?」

「な、ななななっ!? 何を言ってるんですかアナタっ!?」

 ガバッ! っと顔を上げたウィセは、火を吹かんばかりに赤面してサチへと言い募るが、サチは軽く微笑みながら―――、

「ウィセがサヤの事、大好きなのは皆知ってるんだし、別に気にしなくても?」

 鮮やかなスマッシュを受け、ウィセの身体仰け反る。

「ち、違います! いえ、嫌いじゃないんですけど………っ! そうじゃなくてっ! “大好き”とかそんな恋愛感情的な物は一切抱いていないわけで―――!!」

「うん、友達として大好きなんだよね? すっごくすっごく大好きだよね♪」

 足払いを食らったウィセが椅子から転げ落ちる。

 四つん這いになりながら床を手で叩きながら抗議するウィセ。

「いえっ! ですから………っ! そう言う“すっごく”とか“大好き”とか大げさな言葉を乱立するのは止めてくださいっ! そうじゃなくて! 私は初めての友達にどう接して良いのか戸惑っているだけでして―――っ!」

「でも、二人とも、二人っきりになるとすごく仲良くなるよね? “アーン”したり、頭なでなでしたり、前は手を繋いでお互い照れあってたよね?」

 背後から斬りつけられ、ウィセが地面に這いつくばる。

「何故アナタがその事を―――っ!? いえっ! ではなく………っ!? アレはサヤが無防備に近づいてくるので、ついつい構っている内にやり過ぎただけでして―――っ!?」

「うん、サヤの無防備さも最近拍車がかかってきたよね? ウィセにだけは触っても平気になってるし、むしろ自分からすり寄ってきて、犬みたいで構いたくなるよね?」

「そ、そうです! だからついペットを愛でる様な気持ちになってしまってですね………!?」

「そう言えば、前にサヤが≪犬耳カチューシャ≫を買ってたけど………、アレどうしたの?」

 思わぬカウンターをお腹に受けたウィセがくの字に歪む。

 サヤの犬耳という、あまりにも似合いすぎるイメージに、黙って成り行きを聞いていた他の男集も、思わず席から立ち上がって身を乗り出す。

「サヤ!? 一体何のためにそんな物を買ったと言うのですかっ!? いえいえっ! それ以前に何故サチがそれを知っているのですかっ!?」

「前に、買い物頼まれた時に偶然見つけた。サヤ、嬉しそうな顔で『皆が僕の事犬っぽいって言うんだけど? こう言うの付けたらウィセも喜ぶのかな?』って聞いてきたんだよ? きっと喜ぶって伝えておいた」

「「「「「「孔明サチ現るっ!?」」」」」」

 我慢できずに全員がタドコロっぽくショックを受ける中、サチはビックリした様子で皆を見返す。

「私………、なにかいけない事した?」

「「「「GJッッ!!」」」」

 ウィセとキバオウ以外が全員サムズアップしてサチを称える。

 もはや恥ずかしさで限界を迎えたウィセは、涙目になって外へと飛び出して行った。

「後はアナタ達でなんとかしてくださ~~~~いっ!!」

 あっと言う間に飛び出して行ったウィセを見送り、サチはホッ、と一つ溜息を吐いた。

「これで放っておいてあげたらウィセも休めるかな?」

 そう呟きながらウィセの残した分の仕事に取り掛かる。

 ケイリュケイオン雑用係りメイド長の肩書、その本質を見た様な気分になる面々だった。

 

 

 

 09

 

 

 逃亡していたウィセは、その道中で冷静になって仕事のためにすぐさま引き返したのだが、その途中をとある人物に発見され、連行される事になった。

 その人物と言うのはクロノ。真っ白なフードコートに包まれ、別名≪白い死神≫などと呼ばれる攻略メンバーの一人だ。

 ただ、この二人、(すこぶ)る仲が悪い。出会った当初、クロノがウィセを知る内に警戒心を露わにして行ったという経歴があり、それに対してウィセも壁と距離と溝を作り接している内、何故かとても険悪な仲になってしまった。今でこそ、目に見えた険悪感は無くなった物の、この二人の溝は埋まる気配が無い。

「何の用ですか? 私には仕事があるんですが?」

「頭数合わせに必要なんだよ! お前の代わりいるなら呼べ!」

「何故私がアナタに協力しないといけないのかしら? もしかして、友達また減った?」

「ああんっ!? “また”ってなんだよ“また”って? 減ってねえしっ、むしろ増えてるし!」

「なら私いらないんじゃない? それとも何? 嫌いな相手と一緒にいる方がドキドキできる変態なの? 私そんな趣味ないから帰って仕事して良いかしら?」

「はんっ! 俺が変態ならお前は百合だろうがっ!? 人の事言えますかぁ?」

「変態と一緒にいなくて済むならその方がいいですね? 私はサヤが大好きです」

「テメェ………ッ! 俺の時だけ淡々と言いやがって………!」

 軽く挙手して平坦な声で言って見せるウィセの姿に、クロノは青筋を立てる。かなり険悪なムードを出しているように見えるかもしれないが、昔に比べればこの二人も随分軟化している。

「ウチのお姫様があんな風に照れもなく“好き”とか言うとつまんねえよなぁ~~?」

「ウィセさんはサヤさんの事でテンパってくれた方が気持ちが籠っていて楽しいんですけど………」

 いつの間にか現れたタドコロとスニーの発言に、軽くショックを受けるウィセ。クロノの前でなければ取り乱していた事だろう。

 同じくクロノも、険悪な空気で仲間内に迷惑を掛けた過去があるので、またそんな状況を見せてしまった事に軽いショックを受ける。

「………お前らまた喧嘩してんのかよ。なんでお前等はいつまでもそんな感じなんだ?」

 アルカナがクロノの首に手を回しながら軽く諌める様に告げる。

 ケンとクローバーは何も言わなかったが、内心、

(クロノがウィセに警戒し過ぎてるのが悪い………)

 っと、同意見を述べていた。

 クロノとウィセの間にできた溝は、ある一定の条件下でのみ解消されるのだが………それはまた、過去からゆっくり進む時に確かめてもらいたい。

「………それで、一体これは何の集まりですか? ………約一名、そこで蹲っているのが居るんですけど?」

 ウィセがそう指摘しながら周囲に視線を向ける。

 彼女の視線の先に、スニー、タドコロ、ケン、アルカナ、クローバー、クロノと順に移していき、最後に建物の間で蹲っているルナゼスへと視線を向ける。

「………もう少しだけ待ってくれ………」

「本当にアレ、どうしたんですか?」

 何やら本気で落ち込んでいる様子のルナゼスに、さすがのウィセも心配そうに尋ねるが、誰も理由が解らないらしく、苦い笑みを浮かべるばかりだ。

「まあ、放ってオコウ。本人もスグに回復すると言ってマスシ?」

 ケンがそう締めくくったところでタドコロが代表して説明を始める。

「実は、今ケイリュケイオンが預かっているクエスト何だが、五体のボスモンスターを討伐成功したんだ。そしたら新しいクエストが解禁されてな? こっちは集団でもOKっぽいから、パーティー組んでやろうぜ! って、話になってな?」

「それでこの八人ですか? 他にいなかったのですか? 主に二名ほど余計です」

「ああんっ? それは誰の事言ってんだ?」

「クロノとルナゼスですが?」

「テメエ……ッ! はっきり言いやがったな?」

「ルナゼス? 落ち込んでないで立ってください? いけますか? 交代しますか?」

「無視してんじゃねえよっ!?」

「ああ………、うん、たぶん、もう大丈夫………」

 ルナゼスが持ち直したところでスニーが軽く柏手を打つ。

「さあ、あまり時間を掛けると新しい仕事が舞い込んで大変になってしまいます! さっさと行ってさっさと終えましょう!」

「よっしゃっ!! やっと待ちに待った戦いだぁ~~~~っ!! 全部俺にやらせろ~~~っ!!」

「………クローバー、テンション高いな」

「アルカナはテンション低過ぎですケド」

「よぉっし! 皆おっさんに付いて来い!」

「ウィセさん! 先頭お願いします!」

「御令嬢様の先導はおっさんには荷が重かったか………っ!」

「なんでこいつが先頭なんだよ………!」

「嫌ならアナタは帰ってください? 嫌じゃなくても帰ってください?」

「ああんっ!?」

「なんです?」

「いつまで喧嘩してるんだお前等………?」

 最後にルナゼスが窘め、一同は目的のダンジョンへと移動する。

 

 

 

 10

 

 

 

「あれ~~? 私確か役目を終えて消えたはずじゃなかったけ~~?」

「確か俺もそのはず………? でも、おかげであの神々しいおっぱいを忘れずに済んだ事はラッキーだぜ! ………って!? この異常時にまで何考えてるんだ俺は! 自重しろ!」

「やれやれ困った物だな? 役目を終えた者が残っていては、異物と変わらんだろうに?」

 ウィセ達が到着した目標ポイントには、四人のNPCMobが揃って首を捻り、状況確認をしようとしていた。すぐにあれがクエストボスモンスターだと気付いたウィセ達は、話しかけようとしたのだが―――、

「ま、待つんだ皆っ!! まずは様子を見るんだっ!! もしあいつらが俺達が先(せん)だって倒していたパロクエストボスだとしたら………っ! 心の準備なしに接触するのは危険だ!! 相当危険だっ!!」

 かなり必死なルナゼスに肩を掴まれて止められた。掴む手の力が入り過ぎていて、掴まれているウィセは怯え気味に頷いて了承した。

「わ、解りましたから………、そのいつにない剣幕で言い募るのはよしてください………」

 実際、前情報がある相手に情報を聞かずに挑むのは愚策だ。ここはルナゼスの言う通り、全員≪隠蔽≫スキルを使って茂みに隠れ、様子を窺う事にした。

 ここから確かめられる存在は四人。

 一人は、真っ先子声を聞いたサイドテールの女性。白い軽鎧に細剣使い。

 一人は、赤い籠手を左手に装着した、学生服の少年。おっぱい発言が目立つ。

 一人は、赤い外套を纏う、白髪褐色の男。あの中では一番強そうにも見える。

 そして、最後の一人は―――、

「あ~~~ら~~~? 役目を終えておきながら消えずに残った事に疑問だったけど………、こんな色男と中々のチェリーボーイが居るなんて………むしろ神様にお礼が言いたいぐらいだわ~~~!」

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」

 学生服の少年が悲鳴を上げた。

 無理からぬこと、そこにいた最後の一人は、筋骨隆々の肉体を惜しげもなく曝し、きわどいパンツ一枚で白昼を闊歩するスキンヘッドが、内股で歩き、女の子女の子した動作を見せつけながら近づいて来ているのだ。これは恐ろしい。

「化け物~~~~~っっ!!? またこのパターンかよ~~~~っ!!?」

「おのれ出たなっ!! 『形容し難き者』よッ!!」

 学生服の少年、表示された名前でイッセーと解った彼は、地面に尻持ちついたまま後ずさり、褐色の男、アーチャーは何処からか双剣を取り出していた。

 白い騎士少女、ナノハに至っては、もはや理解できる領域を超えた存在を見たかのように、呆然と見つめていた。

 筋骨隆々漢、チョウセンは、二人の反応に憤慨し、女の子らしいポーズを解いて禍々しいオーラを解き放つ。

「だ~~~れが、近寄るだけで世界が滅亡する程おぞましい化け物ですって~~~~っ!!?」

「そこまで言ってねえよッ!!」

「そこまでは言っていないっ!!」

「そこまで言ってないよっ!?」

 三人のツッコミを無視して、再びしなを作ると艶めかしい(つもりだろう)ポーズをとってウインクして見せる。

「こ~~んなか弱い美人を捕まえて化け物なんて失敬しちゃう! 私はチョウセン。しがない街の踊り子よ~~~ん♡」

「やっぱりこのパターンかよっ!? 気持ち悪いっ! 何が踊り子だよ! ふざけんなっ!! 美人名乗りたきゃ今すぐ隣の白い女の子を見習いやがれっ!!」

「ええっ!? わ、わわ、私………っ!?」

 さり気無くイッセーに“美人”扱いされて動揺するナノハに、チョウセンは再び憤慨して見せる。

「キ~~~~~ッ!! この白猫ガァ~~~~っ!! 少し髪長いからって良い気になるんじゃないわよっ!?」

「私が美人さんのカテゴライズに入る理由それなのっ!?」

「んなわけあるかっ!? 髪以外にも、顔の丸み! 大きなぱっちりとした瞳! 白い肌! 細い腕や足に腰の括れ!! 何より、鎧越しでも解る豊満なおっぱいっ(、、、、、)!!! この強調されるおっぱい(、、、、)こそ美人の証だ~~~~~っ!!!!」

「恥ずかしいっ!! 最初は普通に恥ずかしかったのに、途中から別の意味で恥ずかしいよっ!! って言うか、私の美人カテゴライズが“お―――………“胸”って言うのも納得できないっ!!」

 顔を真っ赤にして抗議するナノハを間に挟んだまま、二人は無視して論争を続ける。

「大きなおっぱいなら私にもあるわよん♡ ほら♪」

 両手を上げて胸を張り、筋肉をぴくぴく動かして見せるチョウセン。

「それはおっぱいとは言わねえっ!! 言わせねえっ!! そんなの明らかに胸筋じゃねえかっ!!」

「ああ………、見事な上腕二頭筋だ………」

 敢えて胸筋とは別のところ視線を泳がせるアーチャーは、何も見ていない視線でポツリと呟く。

 そして、何故かチョウセンは頬を染めると急にくねくねしだし、恥ずかしそうに自分の身体を抱きしめて隠そうとする。

「ああ………、男達の視線が私の身体を視姦していくわ~~~♡」

「ドライグ………『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』だ………!」

『待つんだ相棒ッ!? こんな程度で寿命を減らす龍帝の忌技を使うんじゃないっ!?』

「ここで使わなくて何処で使うんだ~~~~~~~~~っっっ!!!?」

 左手の籠手に必死に叫ぶイッセーの隣で、同じく色々耐えられなくなったらしいアーチャーも、地面に座り込み、胸に手を当て、瞳を閉じる。

「―――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)。」

「急に魔法詠唱とかしちゃダメだよっ!! この世界に無い力を使ったらカーディナルに消されちゃうってばっ!!」

「ならば………、奴に消されるまでが俺のタイムリミットと言う事か? それだけあれば充分だ。この怪物(モンスター)を必ずや狩って見せよう」

 自信満々に言い募る男に、腕を引っ張り必死に止めるナノハ。

 クエストは始まる前から混沌を極めていた。

 

 

 そして、茂みに隠れていたメンバー達は………。

 一体の化け物が登場しただけでカオスなのに、そいつが原因で広がる更なるカオスに呆然と眺める事しかできない。

 代表して、アルカナが呟く。

「心の準備………して正解だわ………」

 皆一斉に頷いた。

 この後、皆が止めてくれたルナゼスに、万感の感謝の念を送った事は言うまでもない。

 

「あはぁ~~~んっ! 男達が私を巡って争うなんてぇ~~~。罪なわ・た・し・♡」

「我、目覚めるは、覇の理を神より奪いし二天龍なり―――」

『唱えるな相棒~~~~ッッ!!』

「―――血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body and fire is)。」

「だからそれはダメだってば~~っ!!」

 

 

 

 11

 

 

 

「こほん………っ、良いでしょうか?」

 たっぷり二時間ほど心の準備を済ませたウィセ達は、もはや仲間割れを起こしそうになっている集団へと声を掛ける。むこう側もこちらに気付くと、自分達の置かれた状況を思い出したかのように居住まいを正した。

 代表してナノハが少しだけ額に手を当て、データのサルベージを計り、納得したように頷いてから応じた。

「うん。なんか変に立て込んでいてごめんね? 今サルベージ終わったから、私達がどんな状況か解ったよ!」

「よっしゃっ! 戦闘開始だ~~~~っ!!」

 フライングして槍を構えるタドコロ。

 ビックリして構えて応じるイッセー。

 スニーがユニークアイテム≪ハリセン≫でタドコロを一発しばく。

 タドコロのHPが一撃で赤色に変わる。

 チョウセンがイッセーにすり寄り「せっかちはダメよ~~ん」と制止した。

 イッセーの心拍が停止した。

「状況を整理しましょう。私達はパロクエストをクリアし、新たに出現したクエストに挑みに来ました」

「私達は、元々パロクエストのボスモンスターだけど、最後の仕上げのために復活した見たい? ご丁寧に最初の記憶データも一緒にね」

「マジかよっ!? って事はAIが学習して、めちゃくちゃ強くなってるってことじゃねぇか!? おっしゃ勝負だっ!!」

 話の途中でフライングして飛び出すクローバー。その背後から飛び掛かったスニーが素早く≪ハリセン≫で叩き伏せる。クローバーのHPも赤に変わった。

 我を取り戻したイッセーが『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を発動させ、赤いオーラを撒き散らしながらチョウセンを殴り飛ばしていた。

「それでは、やはりこの最後のクエストは、アナタ達をまとめて倒すと言う物なのでしょうか? だからチーム戦の設定で?」

「そうみたいだね? 4vs8だけど………うん! 今までアインクラッドを勝ち抜いてきた君達なら全然問題ないよね?」

「フルパワードラゴンショット!!」

 ナノハの背後でチョウセンに向けて赤い極太光線を放つイッセー。極太光線はチョウセンを打ち抜き、その背後のオブジェクトフィールを破壊し、ポリゴンの欠片に霧散させて行く。そしてチョウセンは何故か無傷だ。

「………無理だっ!? ちょ………っ!? あれはもうSAOの領域を超えてるだろうっ!? ってかそれを受けて無傷の化け―――!?」

 

 スパーーンッ!!

 

 騒ぎたてるアルカナにスニーの≪ハリセン≫が顎を弾く。HPはもちろん赤だ。

 やり過ぎのイッセーと、未だにイッセーに迫るチョウセンを、アーチャーが取り出したハリセンで叩き伏せる。

「対戦方式は集団戦ですか? SAOのボス戦にしては珍しいですね? でも、だからこそ安心しました。私達ケイリュケイオンは、恐らくSAO中唯一の集団同士の戦いを経験するギルドですから」

「へえ! そうなんだ! これは期待できるかな?」

「あのぅ………、出来れば後ろの化け物だけは除外してくれないだろうか? 両軍のためにも………?」

 ルナゼスの発言に、今度はスニーもツッコミをいれなかった。代わりに訪れた沈黙。

 ナノハは一度振り返り、チョウセンを確認する。ウィセも同じように視線で確認する。

「あら? 私が戦闘から外れたら、クエストクリアにならないわよ?」

「無理みたい」

「無理みたいですね」

「………無慈悲だ!」

 (くずお)れるルナゼス。

 その肩に手を置き、イッセーが涙目で何度も頷く。気持ちを共有する二人はさめざめと涙を流した。二人の精神HPも赤色の様だ。

 それらを見て呆れていたクロノは、つまらなさそうに呟く。

「おい? もう良いから始めねえか? 何を暢気にNPCと会話なんぞ―――たぷっ!?」

 再びスニーのハリセンが一閃した。言うまでもなくクロノのHPは赤だ。

 それを見ていたナノハ、少々汗を流しながら提案する。

「もっとお話したいのは私もなんだけど………、このままじゃお互いのメンバーが戦う前に全滅しちゃいそうだね?」

 ナノハの後ろでチョウセンに迫られているアーチャーのHPが何故か赤色に変わっている。だが減少している様には見えない。何故色が変色しているのだろう?

「確かに、これ以上は本当にお互いのためになりませんね? しっかり回復してから戦闘開始としましょう? 本当は、アナタ達のNPCAIについてもう少し聞きたかったのですが………」

「え~~? もう終ワリ? もう少しコイツ等の面白暴走を眺めて………あ、待ってスニー。それはダメ………っ! セメテ僕も皆と同じ≪ハリセン≫で………っ!? ダメ! ダメだってヤメテ! ≪マルミアドワーズ≫はサスガに勘弁―――!?」

「今この空間は安全圏内ですから大丈夫ですわよ♡ ケンくん?」

「ハイ? え? だってさっきHP減って………そう言えばスニーのカーソルが変化してイナイ!? なんだこの御都合は―――!?」

 ソードスキルの盛大な音がウィセの背後で轟く。

 ついでにナノハの背後ではついにチョウセンに捕まったイッセーとアーチャーが必死にナノハに助けを求めていた。

「もういいっ! もう良いから戦闘始めようぜっ!? これ以上は俺達が喰われるっ!!!」

「お、おのれ………!! なんだこの腕力は!? バーサーカーを凌ぐだとっ!? ま、待て! 待つんだっ!? 私にそんな趣味は―――ナノハ!!! ナノハ!!! もう何でも良いから早く始めてくれ~~~~~~~っっ!!!」

「お? なんかすごい事になってねえ? おもしれぇ! おっさん更なるカオス発生のために一肌―――ぐぼあっ!?」

「≪アバラッシュ≫!!」

「いやだ~~~~っっっ!! 俺はこれ以上あれと戦いたく―――たわらばっ!?」

「≪スコッピード≫!!」

「おおっ!! やっとバトルかっ!? それじゃさっそく先手必勝だぜっ!! 行くぞおろぼわぁ~~~~っ!?」

「≪ファイトブレイド≫!!」

「………? スニーさん? 何故俺達ににじり寄ってくるんですか?」

「オイ待て! 僕達は何も言ってないデスヨ!?」

「うおぉいっ!? 俺達もう、何も言ってないだろう!?」

「うふふ、何故かしら? なんだか楽しくなってきましたわ?」

「「「目的と手段変わってるっ!?」」」

「≪カラミティ・ディザスター≫♪」

「「「両手剣最強ソードスキ―――ぼばあぁぁ~~~~っ!!?」」」

「………。大変なんだね?」

「既に慣れてしまっている自分が怖いです………」

 

 

 

 12

 

 

 

 カオスな状況をリセットするため、色々忘れてやり直した面々は、Mobと出会ったの如し戦闘態勢に入った。

「ソンジャ………ケイリュケイオンの切り込み役事、ケンが先手を貰いマスヨ?」

 先手で飛び出したのはケンだ。

 ケイリュケイオンでメンバーを組むと、大抵最初にケンが飛び出すのは珍しくもないので、とりあえず様子を見る。

 ケンが片手に握った短剣ソードスキル≪アーマー・ピアーズ≫でイッセー目がけて撃ち込む。イッセーの左籠手での防御を警戒しての判断だろう。

 ケンの刃がイッセー向けられると同時、イッセーはバックステップで下がり、その間にナノハが割り込む。右手には細剣、そして左手に機械的なデザインの巨大な盾を持っていた。ケンの刃は盾に塞がれ、ナノハにも殆どダメージが通っていない。

「―――っ!?」

 危機感を感じたケンが慌てて飛び退く。ケンの危機を感じたタドコロとスニーも同時に前に出て彼の援護をしようとする。

「≪アクセル・シューター≫!」

 瞬間、盾の影から放たれた細剣が八条の光となって放たれる。ケンに四発、タドコロとスニーに二発ずつ放たれ、三人の動きが同時に止まる。そこに飛び出したアーチャーが双剣を振りかざし、回転する様な一撃で三人を一片に攻撃した。ケンとタドコロは吹き飛ばされ、スニーは大剣の影に隠れて何とか押し留まる。

「あら? 意外と腰の据わった女じゃな~い? やっぱり女はそうじゃないとね~~~?」

「はえ………?」

 スニーの頭上に影がさし、スキンヘッドの漢女が拳を振り上げて褒め称える。

 振り下ろされる拳を、クロノとクローバーが同時にソードスキルを放ち相殺させようとするのだが―――。

「私の愛を受け取りなさ~~~いっ!!」

 爆発が起きた。

「きゃあああっ!?」

「なんだそりゃあっ!?」

「うははははっ! コイツはすげえ~~っ!」

 クローバー一人だけが歓喜の声を上げつつ、三人は嘘みたいに空中に吹き飛ばされた。これがゲームでなかったら、そのとんでもない光景に、皆呆然としてしまっていた事だろう。

「アルカナ! ルナゼス!」

「………ああ!」

「アイツとはやりたくないんだけど………っ!」

 ウィセの指示で二人が飛び出すが、漢女は真直ぐルナゼスに向かって突進する。

「会いたかったわ御主人様~~~~ンッ♡」

「くんな~~~~~~っ!!!」

 ルナゼスは色々忘れて≪死闇電来一閃(しゃでんきいっせん)≫叩き込む。

 諸に食らったチョウセンが一瞬動きを止め、何かを言おうとしたところでアルカナのソードスキルが顔面に叩き込まれ、台詞を阻止する。

「男なら誰でも良いと思ってんのっ!?」

 殆どダメージを受けていないチョウセンが、ディレイ無しで剛腕を伸ばし、アルカナを捕まえると、そのままルナゼスに向かって叩き付ける。二人が地面を転がり、それを追いかけながらチョウセンはヘッドスライディングの様に―――唇を尖らせて突進する。

「「いぃぃぃやああぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」」

 アルカナとルナゼスが同時に悲鳴を上げる中、さすがにウィセが飛び出そうとするが、敵陣後方から真っ赤な閃光が上がり、動きを止める。

Welsh(ウエルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) breaker(ブレイカー)!!!!!!!!』

 赤いオーラの光が彼を纏い、後方にいたイッセーの身体に龍を模した真っ赤な鎧が全身に装着された。

禁じ手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』!! 今回は皆のおかげでノーダメージで完了だぜっ! そう言うわけで、さっそく行くぜ!」

 背中の噴射口から緑色の魔力を噴き出し、想像以上の速度でウィセに拳を叩き込んで来るイッセー。

 だが、その動きが直情的だと素早く認識したウィセは、何とか攻撃を躱し、カタナ≪桜木(おうき)≫で斬り付ける。

 見事カウンターが成功するが、鎧に覆われたイッセーには殆どダメージが通らなかった。

 そして怯む事無く前進するイッセーが、ウィセを捕まえる様に右手を伸ばす。

(掴みに来た!? この距離では躱せない………っ!)

 いくら先読みできても、身体が追い付かなければ躱す事はできない。このまま掴まれるのかと思った瞬間、空中に投げ飛ばされていたスニーが体勢を変え、剣の重量に任せる様に落下。イッセーとウィセの間を大剣で隔てた。更にタドコロの投擲槍がイッセーに命中し、僅かに退かせる事が出来た。

「お返しですわっ!!」

「ダメですスニーっ!」

 スニーがその隙に飛び出そうとするが、ウィセが腕を掴んで無理矢理退かせる。

 次の瞬間、スニーの頬を僅かに掠め、何かが通り過ぎた。その何かが後方の木のオブジェクトに激突すると、とてつもない爆発エフェクトが発生し、衝撃に煽られ、今だ空中に居たクロノとクローバーが体勢を誤って―――爆風に堪えていたタドコロの上に二人がかりで墜落した。

「ぐぼあっ!? ………おっさんは、落下の目印じゃねえぞ………っ!?」

 タドコロが文句を言う中、『何か』を放った犯人、アーチャーは余裕の笑みを作って弓を構えている。

「今のを躱すか。どうやらその刀使いのお嬢さんが全体指揮を執る役と見て間違いないらしい」

 冷や汗を流すスニーとウィセは、一瞬だけ気を抜いてしまっていた。その隙に飛び出したイッセーがスニーの腕を掴もうと手を伸ばす。

 咄嗟に気付いたスニーが大剣の腹で受け止めるが、そのまま通り過ぎ様にイッセーにお尻を叩かれた。

「きゃっ!?」

「おっしゃ! まず一人目!」

 そのままウィセに向かって突進する。突き出された拳を躱し、≪体術スキル≫の≪瞬震(しゅんしん)≫で蹴り付ける。

 頭を蹴られたイッセーだが、やはり鎧越しではダメージがない。

「そう簡単に捕まらないか! なら………っ! 広がれ! 俺の妄想パワーーーー!! 『乳語翻訳(パイリンガル)』!!」

 イッセーが何かを発動した瞬間、ウィセとスニーだけが、彼を中心に何かが広がっている事を感じ取っていた。

「へいっ! そこの和服お姉さんのおっぱい! 君の胸の内を教えてちょうだいっ!」

『何かされてる気がするの~~! 怖いよ~~! 何かされる前にフェイントを織り交ぜたソードスキルで倒さなきゃ! でも、痛いの嫌だから優しくしてね?』

 イッセーの耳にだけ届くおっぱいの声が、次のウィセの行動を教えてくれる。

「なるほど! フェイントからの攻撃かっ!」

 その言葉通り、フェイントを織り交ぜソードスキルでイッセーを斬りつけようとしたウィセは、素早く動いたイッセーに刃を弾かれ、肩に掌底を受けた。

 殆どダメージは発生しなかったが、ウィセの肩にも赤い魔法陣が出現している。

「心を読まれたっ!? 一体どんな原理で………っ!?」

「ウィセさん!」

 スニーが発生するであろう何かに備え、片手に≪回復結晶≫を取り出しつつ、大剣の切っ先を地面に向けた構えで防御に入る。その影に隠れたウィセは、あらゆる状況に対処するため、ウインドウを開き、準備する。

「弾けろ! 『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』ッッ!!」

 瞬間、スニーとウィセの防具が、衣服が、下着の一枚も残さず弾け飛んだ。残っているのはスニーが構えた大剣と≪回復結晶≫、ウィセが手に持つ刀だけ。

 突然、野外で生まれたままの姿に曝された二人は、一瞬何が起きたのか解らず呆然としてしまう。

「おおおおっ!!? それほどおっぱいは大きくない物の! スレンダーな身体つきは余すことなく均整がとれ! 長い黒髪が肌を滑る様が見事に大和撫子を体現していて猛烈に美しい!! そしてもう一人は! 金髪ブロンドのふわふわヘアーで、ふわふわドレスに身を纏った、見るからにお嬢様な態度をとっていながら、その胸は慎ましやかで少々残念! だが、むしろそれが良いっ!! 何よりそれを押して余りあるほどの見事な括れの細さ! 太ももや二の腕などの御肉が溜まり易い事で有名な女の子の悩みが、迷信であるかのように細さを強調している! もはやこれは………!! 大和撫子人形と! 西洋人形のコラボレーション!! 肌色バンザイ~~~~!!!」

 イッセーによる舐めまわす様な視線―――否、舐めまわした視線に曝されて、ようやく事態を理解した二人は一瞬で顔を真っ赤に染めた。

「い、いやああああぁぁぁっ!!!」

「キャアアァァァァァッ!! 誰が小さいですか!? バカバカッ!! SAOが成長を止めてるのが悪いんです!! 見ないでください!! この変態っ!」

 ウィセが身体を抱きしめその場に座り込み、スニーは大剣抱く様にして自分の身体を隠しながら、真っ赤な顔で講義する。

 女性陣が素っ裸になった事で、他の全員も、思わず手を止めて見入ってしまう。一人、女性が裸になっても良く解っていないらしいクローバーだけが首を捻っている。

「って!! 男の子は見ちゃダメだよ~~~~っ!!」

「紳士は場を弁えるべきよ~~~ん!」

 ナノハとチョウセンが、それぞれ専用ソードスキルで地面を攻撃し、土煙のエフェクトで二人の姿を隠す。

「しまった!? パーティを分断された!? お~~い! 嬢ちゃん達無事か~~! 何処にいる~~~!」

「おいこら待ちやがれ! タドコロ! お前どさくさにまぎれて二人の裸体を覗きに行くつもりだろう!?」

「失敬だなクロノっ! おっさんこれでも女性には紳士なんだぜっ!」

「ならここは追いかけるな!」

「ヨシ、行くぞ」

「ケン!? お前まで!? お前そんなキャラだったかっ!?」

「イヤ、さっき殴られた仕返しに見てヤロウとか思ってまセンヨ?」

「意外と根に持ってる!?」

「うぎゃあああ~~~~~っ!! 放せ! 放してくれ~~~!」

「嫌だ! もうこれはいやだ~~~!!」

「はいはい~~、紳士は覗きに行っちゃだ~~めよ? ここで私と一緒に待ちましょうね~~♡」

「行かねえよ! 覗かねえよ! でも放してくれ~~~っ!! お前に抱きつかれる方がすっごく嫌なんだ~~~~っ!!」

「な、何故俺がこいつに何度も………!? なんか俺、今なら女の子の裸が本気で見たい! 主にコイツの姿を脳内から消し去るためにっ!!!」

「同感だ! 今なら俺! クロンちゃんを見ただけで興奮できるぜ!!」

「あはははっ! なんかテンションおかしくなってきた!? 今ならNPCでも口説ける!」

「俺も女性型のMobを口説けそうな気がしてきたぞ~~~!?」

「ちくしょう~~~っ!! 敵は何処だ~~~~っ!! なんか他の奴だけ面白そうな事して卑怯だぞ!! 俺も混ぜやがれ~~~~~っ!!」

 煙の向こう側で聞こえる仲間の声に、ウィセとスニーは色々思うところがあり過ぎて思考が纏まらなくなってきた。

「スニー、とりあえずこれを着てください?」

 メニューを前もって開いていたウィセは、新しい服を装備し、裸にされて腰が抜けているスニーに上着を掛けてやる。

「うぅ………! ウィセさんウィセさん………! (わたくし)………っ!」

「ええ、心中お察し―――」

「私、ウィセさんと比べても胸が小さかったんですね…………っっっ!!!」

「アナタの傷つくところはそこですかっ!?」

「うぅ………っ! もうお嫁にいけません………!」

「ああはい、そうです。それが正しい感情ですよ? 私も同じような気持ち―――」

「ウィセさんはサヤさんがお相手なんですから! お嫁に行けなくても問題無いじゃないですかっっ!? むしろお嫁に来てもらえば良いんですっ!!」

「ブッ!? 何を言ってるんですかアナタはっ!? 私達はただの友達ですっ!! そもそもそう言う問題ではなくてですねっ!?」

「じゃあ! サヤさんに彼氏さんが出来ても平気なんですかっ!?」

「――――っ!? …………。 ぁ~~~~~~…………っ!!?」

「え? あれ? ウィセさん? なんで泣き崩れて? え、嘘? そんなにショックでしたか? ご、ごめんなさい………、(わたくし)そこまで傷つけるつもりなんて………、あの………ホントごめんなさい………」

「いえ………、自分でも………、想像以上にショックでした………。なんですかこれ………? 涙が………、止まりません………。私には、解りません………」

「ああ~~、えっと………、タイム」

 スニーはウィセが完全に(くずお)れてしまった姿を見て、土煙の奥でギリギリ見えたナノハに向けて提案する。

「OK~!」

 ナノハは快く承諾した。こうして、SAO始まって以来、初めての一時休戦行われた。

 現在状況。

 

 タドコロ:スニーに説教された。

 ケン:スニーに説教された。

 クロノ:何故かスニーに説教された。

 アルカナ:チョウセンに苛められ、精神崩壊中。

 ルナゼス:チョウセンに愛でられ、精神崩壊中。

 ウィセ:サヤの妄想彼氏の存在に戦意完全喪失。

 スニー:何気に裸と己の絶壁に精神ダメージ強。

 

 イッセー:ナノハとチョウセンに説教されて『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』の封印。

 チョウセン:真面目に戦うようナノハに説得される。

 アーチャー:何故か説教された。「なんでさっ!」

 ナノハ:チームのまとめに心労が溜まった。

 

 この戦いは想像以上の激戦となっていた。

 そして、精神ダメージを受ける人材があまりにも多過ぎる。

 後に、この戦いを後でサヤから伝え聞いたヒースクリフは語る。「あの戦いは、SAO始まって以来の激戦区といって過言は無い」っと………。

 

 

 

 13

 

 

 

 とりあえず仕切り直しを得た面々は、それぞれ対峙した状態で再戦の準備をしていた。

 先程まで正体不明の憂鬱に嘆かされていたウィセは、普段の調子を取り戻して軽い溜息を吐いた。

「彼等が強いのは解りました。どうやらSAOの定石が通じる相手ではないようです」

 ウィセはそう言うと、刀を天に翳し、いつかのフロアボス戦の掛け声の如く、全員に指示を出す。

「ここからは! ケイリュケイオンの戦い方に切り替えます! 全員、散開ッ!!」

 号令に合わせ、全員が思い思いの場所に走り出し、装備を変更し、チーム戦を無視した個別攻撃に移行していく。

 その予想外の行動に虚を突かれながらも、ナノハ達は慌てずに各個撃破の体勢を取る。

 武装を変えて飛び上がったクロノは、真直ぐアーチャー目がけて刃を振り降ろす。

 その軌道が通常の剣とは違う事に気付いたアーチャーは、瞬時に得物を双剣に変え、攻撃を受け流した。

 地面に着地したと同時に振り抜かれたクロノの刃は、アーチャーの脚を刈り取りに掛る。

 慌てて飛び退いたところで、彼はやっと得物の正体に気付く。

 クロノが持っているのは真っ白な鎌。死神が持つかのような巨大で白い鎌だった。

「≪白い死神≫の名が伊達じゃないって事を………教えてやるよ!」

 振り抜く鎌の独特な攻撃軌道に合わせ、アーチャーはなんとか攻撃を躱すが、初心者の振るう鎌捌きではないのだ。SAOで半年以上振るい続け、独特な軌道を描く武器を完全に使いこなしたクロノの攻撃は、鎌と言う武器としては適さない逸品も、立派な武器となりえる。その鋭い軌跡は容易に躱せる物ではない。

「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

「うふふっ」

 大剣を短剣に持ち替えたスニーに飛び込むイッセーだが、拳が届く瞬間、彼女の姿を見失ってしまう。

「あれ? あの子何処行った!?」

「これは脱がされたお仕置きですわ」

 声がしたと思った時には、イッセーの首を刃がすりぬけ、そのままの軌道で背中を縦一文字に真直ぐに切り裂かれた。刃の軌跡で十字架を刻む様な≪クロス・エッジ≫に、鎧で覆われているイッセーも大きなダメージを負った。

「おわっ!? くっそ! これでどうだっ!」

 振り返り様に拳で払うが、また一瞬でスニーの姿が消える。

「拳相手にこれを使うのは初めての経験ですわね?」

 言葉が頭の上から降ってきて見上げると、イッセーの拳の上で、スカートと髪を押さえたスニーが、まるで浜辺に居る令嬢の様に朗らかな笑みを向けていた。彼女は軽く飛び上がると、そのままソードスキルでイッセーの身体を切り裂いた。鎧の強度の所為で部位欠損は起きなかった物の、相当なクリーンヒットが入った。

「くっ! ドライグ!」

Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト) Boost(ブースト)!!!』

Transfer(トランスファー)!!』

 イッセーの能力で、自信の力を強化した力を別の物へと譲渡する。譲渡された左籠手に隠された刃が飛び出し、真直ぐスニーの胸元を狙う。

「あらよっと………っ!!」

 危うくスニーの胸元を貫こうとしていた刃は、タドコロの二又の槍≪サーベル・タイガー≫によって挟み込まれ、そのまま巧みに捻り上げられ、仕込まれた刃を上空に弾き返してしまった。

「げっ!? アスカロンを簡単にはじきやがったっ!?」

「何気にすげぇ名前の武器だなおいっ! そしてここからはおっさんのターン!!」

 タドコロが叫びながら巧みな槍捌きを見せ、イッセーの拳や足を槍で絡め取ったり、いなしたりしながら、いつの間にか攻撃に転じられ側頭部を何度も打ちつけられる。

「くっそっ! なんだこのおっさん! 滅茶苦茶強いぞっ!? ギャグ担当じゃなかったのか!?」

「おっさんはケイリュケイオンのエンターテイナーだっ!!」

「ギャグ担当だったこのおっさんっ!? その癖に強いっ!?」

 隙を見て足払いを掛けられたイッセーは地面に倒れ、その上に跨りマウントポジションを取ったスニーが片頬に手を当て、朗らかな笑みを向ける。その手に持っている短剣が、イヤに光って見えた。

「この状況は朱乃さんにお仕置きされるのと似ている気がする~~~~っ!!?」

 マウント状態から連打される攻撃を必死に捌きながら、涙声を上げるイッセー。

 その端では、チョウセンが名残惜しい顔で真面目に拳を振るい、周囲のオブジェクトを悉く粉砕している。相対するルナゼスは、その攻撃を躱しながら、余裕の笑みを作る。

「お前の反則技さえなければ、こっちだって負けてばかりじゃねえよっ!!」

 迫り来るチョウセンの拳がルナゼスを捉えようとした一瞬、彼の脚が僅かに光を放ち、次の瞬間にはソードスキル特有の効果音を鳴らし消え去った。チョウセンがルナゼスを見失って周囲に視線を向けようとするより早く、チョウセンの後ろに出現したルナゼスは、そのまま≪バーチカル・スクエア≫でバックアタックを見事にさらう。

 ≪疾走≫スキル派生スキル、移動スキル≪クイック・ムーブ≫。本来は一瞬だけ素早く移動できるだけの移動限定スキルなのだが、ルナゼスの≪マズル・フラッシュ≫と兼ね合せる事で瞬間移動の領域に高められているのだ。

 バックアタックを取られたチョウセンは、それでも嬉しそうに笑みを向けルナゼスに振り返ると、何事かを言おうとして―――その背中を連続で切り付けられた。

 肩越しに振りかえると、そこには鞭のように撓る剣、≪蛇腹剣≫を携えたアルカナの姿があった。

「俺達はケイリュケイオンの攻略メンバーの中でも上位戦闘員扱い、ほぼ全員がユニークスキル持ちの部隊『ヘルメス』のメンバーが、ここには揃っているんだよ!」

 言いながらアルカナは≪蛇腹剣≫のソードスキル≪スネーク・バインド≫によって、チョウセンの腕に刃を巻き付ける。捕縛時間はほんの数秒間だけだが、捕縛している間にも継続ダメージを与えるので、かなり厄介な特性だ。おまけに、動きを止めている間に、隙が大きくなってしまうルナゼスの≪死闇電来一閃(しゃでんきいっせん)≫が悠々とバックアタックで叩き込まれる。さすがのチョウセンは表情を困った物にすると、

「さすがにまずいかしらねぇ~~?」

 と、真面目に状況を分析した。

 状況がまずい方向に動いたのを感じ取ったはナノハも同じだ。いや、彼女は誰よりも早くそれを感じ取り、行動に移そうとした。だが、それを阻む者が居たのだ。

 二刀の短剣を逆手に構え、目にも止まらぬ神速攻撃でヒット・アンド・アウェイを繰り返す少年、ケンによって、動きの全てを制限されていた。

 機械的なデザインの盾は、かなりの防御力を誇るのだが、あまりにも攻撃の数が多過ぎて、小さいダメージがどんどん溜まっていく。

「細剣スキルは片手剣の派生で、盾を持つ事はもちろんできるケド、変わりにレイピアの速度が落ちちゃうんダヨネ?」

「だったら捨てようか? 防御じゃ間に合わないみたいだし!」

 瞬時に盾を捨て、身軽になったナノハが接近しながら三角形を刻む様に斬る付け、最後に二連続で突き込む専用ソードスキル≪エクセリオン・バスター≫を放つ。真正面から駆け抜けたケンは同じく正面から、≪双剣≫スキル、四連続ソードスキル≪カマイタチ≫によって斬り込み、ナノハよりも速く駆け抜ける。ナノハの三連をいなしながら、突っ込み、そのまま攻撃を当て、ナノハのソードスキルが全て発動する前に、突き抜ける。攻撃をいなしながら、一つも相殺を起こさず、攻撃回数を減らすことなく、全ての攻撃を懐に叩き込まれたナノハは、衝撃で仰け反りながら驚愕の表情を作る。

 そして、いつの間にか、彼女の背後には刀を抜いたウィセの姿があった。

「生憎私は彼らみたいに特徴的な戦闘スタイルはありません。代わりに、戦場で最も優先すべき事を冷静に計る事が出来るんです。………アナタは、このチームの司令塔の役目をしている。早めに潰させてもらいます」

 ナノハのディレイが終わる刹那、ウィセの刃がナノハの無防備な背中へと煌めく。

「桜花っ!!」

 クエスト限定獲得、十二連撃ソードスキル≪桜花乱舞≫がナノハを中心に乱れ咲き、桜の花弁のエフェクトが舞い散る。

 ディレイから回復したナノハが何とか対処しようとするより早く、速く、(はや)く、ケンの≪双剣≫スキル最強技、三十二連ソードスキル≪テンペスト・ストリーム≫が、彼女を中心に竜巻く。四方八方から連続で切り付けられたナノハは、その真っ白な軽鎧を全てポリゴン片に変え、HPを全損させた。

 残った白い薄布だけを纏ったナノハ、そのまま尻持ちを付いて「や~~ら~~れ~~た~~………っ!」と、涙目になって悔しそうな声を上げた。

「次!」

 ウィセの声に反応したクロノは、アーチャーに向けて突進する。

 素早く察知したアーチャーが迎え撃とうとするが、まるでそのタイミングに合わせる様に、突然クロノが急停止。同時に通り過ぎた影が、大剣を振り上げ、アーチャー目がけ振り降ろした。

「やっと出番だ~~~~~~~~っ!!!」

 歓喜の声を上げ、クローバーがステータスに任せて大剣を振り回しまくる。大剣の必要ステータスが低めなのか、≪両手剣≫の割には、かなりの勢いで振り回される。まるで嵐でも発生させているのではないかと言う旋風に、さすがのアーチャーも上手く戦えない。

「まったく! まるでバーサーカーと戦っている様じゃないかっ!? これほど自在に大剣を振りまわす人間も珍しいぞ!」

 何より、大剣と言う巨大な武器を使っていながら、近接距離ピッタリ引っ付いたまま攻撃してくる。おかげで大剣の巨体が視界にやたらと死角を作り、更には≪体術≫スキルの攻撃も飛んでくるので、油断できない。

「うははははっ!! ≪ブラスト≫~~~~~っっ!!」

 テンションが上がっている所為か、技名を叫んでまで回転斬り放つクローバー。堪らず飛び上がって回避したアーチャー。その背中に、突然重量感を感じ、首だけで振り返る。そこに居たのは真っ白なフードコートで顔を隠す、白い死神の鎌(デス・サイズ)を構えている、≪白い死神≫が乗っていた。

「その命、刈り取らせてもらう―――」

 トドメを刺す時、いつも使っている彼の常とう句が告げられる。この言葉を聞かされ、今だ生き残った存在はいない。例えそれがプレイヤーであっても。

 鎌スキルの最大技、八連ソードスキル≪月隠(ツゴモリ)≫が、アーチャーの胸に穴を開ける様に独特な軌跡を描き、まるで魂と肉体を切り離す様に胸を中心に円を描く様に切り裂かれた。

「ふ………っ、アインクラッドは英雄の座その物と言う事か………」

 何か納得したような笑みを漏らし、アーチャーのHPが全損する。

「うおおおおおおぉぉぉぉぉっ! 戦いに夢中になり過ぎてトドメを取られた~~~~~っ!?」

「お前、戦闘になるとテンション高くなりすぎなんだよ………」

 騒ぎたてながらも勝利をもぎ取った“クロクロ”コンビを見て、アルカナもルナゼスに目配せする。頷いたルナゼスは≪メテオ・ストライク≫のソードスキルを発動し、途中の吹き飛ばし効果のある体当たりにだけ≪マズル・フラッシュ≫をかけ、吹き飛ばす威力だけを強化して叩き込む。あの巨体で頑丈な体持つチョウセンが吹き飛ばされ、≪蛇腹剣≫最強ソードスキルの準備をしているアルカナへと導かれてる。

「踊れ、蛇共!」

 自分の周囲、半径二メートル圏内に蛇腹の剣を高速で張り巡らせる八十八連撃ソードスキル≪フベルゲルミル≫によって、チョウセンは身体全体を無数に斬りつけられる。蛇腹剣のソードスキルは連撃回数が多い割に殆どダメージがないのが難点だが、その分、攻撃を与えている間は拘束力が強い。つまり、その間は相手が完全に隙だらけになると言う事だ。だからルナゼスも、心おきなく≪死闇電来一閃(しゃでんきいっせん)≫を連発出来た。

 二人がかりのソードスキルコンビネーションを受けては、さすがのチョウセンもHPを全損するに時間はかからなかった。

「やっぱりいい男は、何をさせても魅力的なものね~~~」

 あまり喜べない賛辞を貰い、アルカナとルナゼスも勝利を収める。

Chare(チェンジ) Solid(ソリッド) Impact(インパクト)!!!!』

「なっ!? 鎧が肉厚にっ!? ≪アーマー・ピアーズ≫でもダメージが入らないっ!?」

「喰らえっ!!」

「きゃああっ!!」

 一番手こずっていたのはイッセーを相手にするスニーとタドコロだった。変幻自在にステータスを変換させるイッセーの特性は、中々に手強い強敵だった。

 防御と攻撃に重心を置かれた肉厚の鎧にチェンジしたイッセーに弾き飛ばされたスニー。彼女の背中を片手で受け止め、着地させると、タドコロはそのまま真直ぐイッセーに向かって突撃した。

「なんのっ! 防御力と攻撃力が上がってもおっさんは怯まないっ!!」

「なにっ!? 何か手でもあんのか!?」

「とりあえずチクチク攻撃ッ!!」

「小せえっ!? しかもダメージになってねえっ!?」

「ソードスキル攻撃ッ!!」

「普通だっ!? でもやっぱダメージになってねえよっ!」

「くすぐってみるかっ!?」

「鎧越しにくすぐって何の意味があんだよ、おっさんっ!?」

「土下座するか………」

「地面に座んなよっ!? そんな事しても鎧解かねえよっ!!」

「ならばっ!!」

 タドコロは全然ダメージの入らないイッセーから離れると、遠くで奇妙な踊りを踊り始めた。

「や~~~い! バーカバーカ! 悔しかったらここまでおいで~~~! ノロ亀ちゃ~~~んっ!!」

「やっすい挑発来たなっ!?」

「お? こんな所にSAO美少女写真集(際どい)が落ちているぞ?」

「なに~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!?」

「なんだこれはっ!? 際どいとか言うレベルじゃねえ~~~~ッッッ!!??」

「な、なんだ!? 何がどうなってるんだっ!? 俺にも見せてくれっ!?」

「知らん」

「スパッと切られた!? くっそ~~~っ! 俺も見たいっ!!」

「おおっ! アスナ様の美貌はさすがだねぇ~~~! なに!? ウチのメイド(サチ)ちゃんとか出しちゃっていいのっ!? あらあら、相変わらずヴィオ嬢ちゃんは―――」

「なっ!? あ、乳神様(あの子)が写っているだと~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!!」

Chare(チェンジ) Star(スター) Sonic(ソニック)!!!』

 ヴィオが写っていると聞いて、イッセーは厚くなった鎧をパージ、『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)』となって、一瞬でタドコロに肉薄すると、拳の一撃で彼を吹き飛ばした。

「俺にも見せろ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!」

「ぎゃぶううううぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!」

 一撃でHPを赤くして吹き飛ぶタドコロを無視してイッセーは必死に問題の写真集を探す。

「何処だっ!? 何処にあるんだ写真集っ!?」

「そんな物、私達が発行を許すわけありませんわよっ!!」

 写真集探しに夢中で、薄くなった鎧のまま隙だらけのイッセーに、スニーは大剣≪マルミアドワーズ≫専用ソードスキル≪マラントーズ≫の六連撃技を受け、あっさりHP全損となった。

「し、しまった~~~~~~~っ!?」

 

 

 こうして、ウィセ達はパロクエストの集団戦を見事にクリアしたのだった。

 

 

 

 14

 

 

 

「やれやれ、とんだ災難でした。まさかSAOで強制的に脱がされるとは思いませんでしたよ………」

「本当ですわね………。でも、これで無事にクエストすべて終了ですわ♪」

 かなりの激戦に疲れ切った八人は、やっとの思いで≪琴の音≫まで戻ってくる。

 扉を開けて中に入ると、相変わらず沢山の人間で賑わっている。この店が閉店時以外に客がはけているところを見た事がない。だが、今は珍しくケイリュケイオンのメンバーだけが揃っているようで、ステージに立つ銀髪少女、ミスラも歌を休んでマサと談笑している。

 別の席ではくすんだ金の髪を揺らしながら、緑の瞳を楽しげに細めるセリアがアマヤと二人、超高速チャットで何か話し合っていて、二人とも、時たま笑い声を上げている。

 最初に会った時、セリアは失言症だったため、耳が悪いアマヤとは親しくなるのは当然だった。今ではたどたどしくも喋れるようになったのだが、未だにアマヤが一番のお気に入りらしく、高速チャットを続けている。いつもならここにラビットが加わり、他人が割り込む隙を与えない異次元チャット通信が行われる。

 別の席ではタドコロに次ぐバカ男で有名なマソップが、何やら二人の女性と話していた。その相手が元気で騒がしい事で有名なライラと、ケイリュケイオンのリーダーサヤである事を知ったウィセは、突然不安になった。

「あ、ロアくん!」

 そんなウィセの隣で、お目当ての人物を見つけたらしいスニーがテコテコと離れていく。

「スニー! クエストに出たって聞いたけど………なんで俺を誘わなかったんだよ?」

「うふふっ、ロアくんったら………。そんなに私と離れたくありませんでしたの?」

「ば、ばか! そういうわけじゃ………っ!? ただ………心配しただけだよ? また無茶してるんじゃないかって?」

「も、もう………っ! 昔とは違うのですから、(わたくし)も自分の命を二度と無碍に扱ったりなんてしませんわ」

「ほ、本当だな?」

「うふふっ、またあの時の“約束”をした方がよろしかったかしら?」

 悪戯っぽい笑みを向けるスニーに、ロアは恥ずかしそうに頬を染め「だ、大丈夫だ!」と言ってそっぽを向く。

「おっ!? なになにバンッ!? また一人で飯食ってんの!?」

「クローバー………、君はどうして僕にいつも絡んで来るの? 止めてくれない?」

「ヤダ。なんか楽しいから」

「虐めだ。正真正銘の虐めが此処にいる………」

 クローバーもお目当ての人物を見つけたようで勝手に解散していく。ここに来るとケイリュケイオンのメンバーが必ずバラけてしまうのは、いつもの事だが、未だに理由だけが解らない。

「………あ、テイトクとシリカも来てる? ちょっと俺行ってくる。≪蛇腹剣≫はテイトクのスキルじゃないと直せなから、見てもらって来ないと?」

 アルカナが片手を立てて拝む様に詫びを入れてから離れていく。

 クロノはとっくに移動し、カノン、ゼロ、アルク、サスケのメンバー集団に交じっていた。あそこの会話に耳を傾けたら、とんでもない事になりそうだ。

「リズとヴャジュロンがアスパラとか鍛冶スキルメンバーと話してるカラ、僕も言ってきマスヨ?」

 ケンもそそくさと立ち去って行く。

 残されたタドコロとウィセは顔を見合わせる。

「アナタはいかないんですか?」

「マサがミスラちゃんと喋ってるからね~~。ミスラちゃん、まだ集団会話になると口を噤みがちだから、おっさんみたいな御喋りが突っ込むわけにはいかんのよ」

(むしろ、ミスラはアナタとの方が良いと思うのですが………)

 ウィセは内心、タドコロの気遣いにツッコミを入れつつ、自分も気になっていたサヤ達の方へと向かう。タドコロはウィセを追わず、カウンター席に向かい、マスターことサカキの元へと向かっていった。

 ウィセはマソップ、ライラ、サヤの三人が集まる場所に近寄り、何をしているのかと話しかける。

「サヤ? 一体何をして―――ぶっ!?」

 ウィセが話しかけようとした時、そこには猫耳姿のライラと、犬耳姿のサヤが二人揃って首を傾げて笑い合っていた。

「あまりの天国に昇天しそうです!」

 マソップのバカ発言に言葉にならないツッコミを入れながら、サヤの可愛さに本気で昇天しそうになっているウィセは口元を押さえる。

「何をやらせてるんですかアナタはっ!?」

 何とか持ち直してマソップに詰め寄ると、彼はなんとも清々しい笑みで―――。

「二人が動物変身アイテムのセットを買ったと言うので口八丁で付けてもらいました。わが生涯に悔いなし!」

 サムズアップするマソップに、ウィセのソードスキルが容赦なく叩き込まれた。

「サヤ! それにライラもっ! 何二人してそんな格好してるんですかっ!? 早く外してください!」

「ふえ? なにって………? どうしたのウィセ? 別に犬耳のカチューシャ付けてるだけだよ? エッチな水着とか着てるわけじゃないし?」

「そうですそうです! この程度コスプレの内にも入りませんっ! 慌てる必要ナッシングですよキュピーーンッ!!」

「自分で効果音言わないでくださいっ!」

 ツッコミを入れつつ、マソップを無理矢理近くにいたヴィオとナッツに押し付け、ウィセは、ちゃっかりサヤの隣の席に座る。最近、行動が言葉より素直になってきているウィセであった。

「そんなに慌てる事なんて無いですよ? サヤさんの可愛さ10000%増量でむしろ良いことだらけじゃないですかっ!? こんな姿のサヤさんを見たら皆一斉に猫の盛り声です! オゴオオオオオオオオオオオンッ!」←(盛りのついた猫は本当に猫とは思えない低い鳴き声を出すそうです)

「知りませんよ! 別にサヤはモテなくても良いです。って言うか、なんでそんな耳を付けて―――」

「あれあれ? もしかしてウィセさん心配してますか? 嫉妬してますか? サヤさんの魅力に男達が群がるのがそんなに嫌ですか~~~?」

 ガタンッ! っと、机を誤って蹴り上げてしまうウィセ。顔を赤くして「何をバカな!」と言い返す。

 その反応にライラは猫みたいな口で笑みを作りながらサヤに話しかける。

「ねえねえサヤちん? その格好でキリトっちに『きゃんきゃん!』とか鳴いてごらんよ? キリトっちきっと喜ぶよ?」

「え? キリト喜ぶ? そっか………喜ぶんだ………」

 サヤが満更でもないような表情で呟く。

 途端に慌てたウィセは、肩をビクつかせて跳び付く勢いでサヤを嗜める。

「な、何を考えてるんですかサヤっ!? 別にキリトに見せる必要はないでしょうっ!?」

「う、うん………、そうなんだけど………、キリトが喜んでくれると、僕はとっても嬉しくて………」

 頬をほんのり染めて、恋忍ぶ女の子の様に呟き続ける姿に、ウィセは蒼白になって身体中が痙攣し始める。

(な、なな、なにをどうにょう(動揺)しているのでしゅか私っ!? サヤが、き―――キリトんに、こんな態度を取るのは以前からぽっくってたことデュランケン―――今ちゃんぽん()驚くこととととととととと―――――落ちつきなさい私~~~~~~~~っっっ!!?)

 外面を装えても、内面は動揺しまくりの少女、それが今のウィセであった。

 ある意味、ケイリュケイオンで一番面白くなったのは彼女かもしれない。

「ちょ、ちょっとキリトに見せてこようかな………?」

「にゃおっ♪」

「っ!?」

 サヤが腰を浮かした瞬間、ウィセの行動は速かった。

 メニューを開き、羽織りをオブジェクト化してサヤの頭に引っかけると、彼女の手を掴んで≪転移結晶≫まで使って別の階層に移動し、そのままケイリュケイオン本部ではない、二人専用のホームにしている家まで真直ぐ帰宅。勢いよく扉を閉めたところで冷静になったウィセが、自分は何をしているんだと自己嫌悪に陥った。

「え、えっと………? ウィセ?」

「すみません………、何かすっごいバカやってます私………」

 恥ずかしさと自己嫌悪に額を扉に押し付けて座り込みながら、ウィセは自暴自棄に呟く。

 さすがに掛ける声を見つけられないサヤは苦笑いを浮かべてジト汗を流す事しかできない。

 しばらく落ち込んでいるウィセの背中を見つめて考えたサヤは、思いきって尋ねて見る事にする。

「ねえ? ウィセはこう言う僕を他人に見られるの嫌なの?」

「そ、それは………」

 否定しようとして、ウィセは口ごもる。ここは誰にも教えていない、本当にサヤと自分だけのプライベートホームだ。誰かが聞き耳を立てていると言う事はないだろう。そう思うと不思議と素直になれるのだから、ウィセは自分で自分自身の事が解らない。

「な、なんとなく嫌なんです………っ! アナタが………その………、誰かに媚びる姿と言うのが………っ!」

 膝を抱える様にして座り、ほのかに赤くなる顔を隠しながら告げると、サヤは少しだけ考えてから、頷いてニッコリ笑った。

「わかった♪」

 そう一つ返事して、サヤはウィセの背中に飛び付き、両肩に手を置いて密着する。

 突然の事に動揺するウィセに対し、サヤは、最近彼女だけに見せる様になった、落ちついた年上の女性の様な声音で囁く。

「ウィセが嫌だって言うなら、()はしないよ。絶対しない」

「~~~~~~~………っ!!」

 ウィセは最近思う。サヤはズルくなったと。

 いつもは子供っぽく振る舞い、自分の手を焼かせるのに、いざ自分が解らない事で動揺して、子供みたいにバカになると、真っ先にお姉さんぶって優しく甘えさせてくれるのだ。その癖、自分にだけはこうやって触っても怒らなくなって………。

「私の事、特別視し過ぎですよ………サヤ」

「ん? そお? 僕も友達いなかったから、まだ解ってないのかなぁ♪」

 照れ隠しで膨れてしまうウィセと、いつもの様に幸せそうな笑みを作るサヤ。

 二人がこんな関係になれるのかは、まだ過去では決まっていない。その未来は、もしかしたら変わってしまうのかもしれない―――。

 

 

 そして可能性の未来も、まだ終わっていない………。

 




その場の思い付きで、サヤとウィセのラブラブっぷりを付けたしてしまった。
正直、やり過ぎたかな?

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