GATE クリティカルロマン砲に何故か転生した件 作:シアンコイン
お久しぶりです、新年あけて半年ぶりでございます……。
まぁ、その辺の釈明は後書きにして……。
英霊旅装、良いですよね。みんなカッコ可愛いです。
所で、ビリーの礼装、どこ(死んだ目)?
「……はぁ…」
深夜、誰もいないアルヌスの丘の外れ。
以前ビリーが一人黄昏ていた岩の上で一人の女性が憂鬱気に星空を見上げていた。
天を照らすのはまばらに散りばめられた星々、見知った星座も無い星空は新鮮であり同時に違う世界なのだと実感させていた。
尾賀万理、平々凡々なその女性は右も左もわからない道で立ち竦む様に顔を伏せる。
思えば波瀾の日々だった。
変わり映えのない日常があの日、一転し彼女は命の危機に晒されていた。
襲い来る武器を持った軍勢、突然の出来事に反応できずに切り裂かれ、穿たれ、叩き殺される人々を間近で見てしまった彼女。
今でも鮮明に浮かび上がる凄惨な光景は色濃く彼女の心身を傷つけ蝕んでいた。
「……ッ……ぅぅ……。」
思わず嗚咽を漏らした彼女に途方もない哀しみ、そして寂しさが押し寄せた。
命の危険から逃れたわけではない、怖い怖いと心の何処かで恐怖に怯え、今更になってひと肌が恋しく、寂しくてたまらなかった。
我ながら自分勝手なワガママだと万理は瞳に涙を溜めるが、吹き抜ける風がソレを散らしてくれていた。
しかし、心の隙間は埋まる事無く彼女は再び顔を俯かせた。
以前ならば何処かで自分を見守っていてくれていたビリーは、この前の件から姿を見せる事をしてくれなかった。
不器用な笑顔で謝罪してくれた彼を突き放してしまった自分に後悔が尽きない様子で彼女は腕の中で振り払う様に頭を振るう。
向こう見ずで、黒いコートの背中は自分よりも小さいはずなのに大きく感じた。
何時も何処か達観したように笑顔を浮かべるアーチャーは自らを省みない、仮にも主人とそう呼んだ自分の言葉さえも聞かずに誰かの為にならその命を天秤に掛けてしまうのだ。
これがもし、自身が深い関わりを持たずに助けられただけの関係だったのならそこまで深く考えるなどしなかっただろう。
けれど万理の脳裏にはもうビリーという英雄が深く刻まれていた、命を救ってくれた恩人として、主人と使い魔という関係として、そして何時も笑顔で弱みを見せずにボロボロになってしまう一人の青年として。
だからこそ、彼が傷つくのを唯見ているのが歯痒く、何もできない無力な自分を悔しく悲しく感じたのだ。勝手な言い分だと瞳に涙を浮かべ万理は再び瞳を閉じる。
もう一度、一陣の風が吹き抜けたその時――――
「―――――おや、先客が居るとは驚いたね。」
「ッ!?」
思わず顔を上げた先に居たのは、飄々と微笑む横顔で満天の星空を見上げるビリーの姿だった。
「……いいねぇ…。……星を見るには絶好の夜だ。ハハハ、こうも真っ暗じゃ星と月、マスターのシルエット位しか分からないや。」
見え見えの小さな嘘を吐くビリー、その言葉の真意に気づいてか万理は涙を拭わずに視線を彼に向けた。
「どうして、ここに居るってわかったの?」
「んん? さぁねぇ……ただ何となくマスターがココに居るんじゃないかなってさ。」
ついこの間あった出来事をそのままの言葉で意地の悪い笑みを浮かべて返す、ビリーは平然と夜空を見上げ続けていた。
静かにその場に佇む彼は彼女に何かを求めているわけではなく、ただ寄り添っているだけだった。
それは彼が臆病だからなのか、それとも万理を気遣っての行動なのかは分かりはしない。
そして口を開く。
「さて、と。それじゃボクは一足先に向こうに戻るよ。マスターも風邪を引かないようにね。」
「………アーチャー…」
「ん?」
「…ごめんなさい………。アーチャーは当然の事をしようとしただけなのに、あんなこと……言って…。」
「………。…マスターが謝る事じゃないよ。ボクが約束を破ってやりたいようにやった結果じゃないか、だからマスターは気にしないで、笑っててよ。」
おやすみ、そう一言だけ残したガンマンは夜闇に溶けていく。その表情は困ったように笑う一人の青年だった。
「…………。」
その光景を後に俯かせていた顔を上げた万理は顔を上げ夜空を仰ぐ、その瞳に宿るのは確かな光と覚悟だった。
◇
「――――で、今度はボクも留守番かい? キャスター?」
「あら、貴方の本来の目的はあの門の防衛でしょう。 当然の結果ではないかしら。」
不機嫌そうに苦言を示したのはカウボーイハットを指先で回すアーチャー、その隣でさも当然といった表情で書物を捲るキャスター。
オルコット人形は気ままに宙を浮遊し、彼ら二人が暇をつぶすプレハブの屋根の下では眩い光が幾度も漏れては消えるを繰り返している。
本日も晴天なり、舞い上がる草端を眼下にアーチャーは雲一つない青空を見上げ寝転がった。
プレハブ小屋の天井から時折微弱な振動が彼の背中を擽るが彼は眉一つ動かす事無く、息を漏らした。
「マスターの魔術の才能は、どの程度なの?」
照りつける太陽の光を鬱陶しそうに瞳を細めたビリー、そんな彼の言葉に隣のキャスターは首を一度彼の方に向けると再び書物に視線を戻して口を開いた。
「………天才の下を凡才というならば、彼女は直向きに努力を選んだ分、秀才よ。そもそも素養がない人間に私が指南すると思って?」
「………そうかい、んじゃあ。あまり危なくない魔術を頼むよ。ボクが居なくても大丈夫なくらい。」
「まったく……、良く出来たコンビね。」
主人は使い魔の身を案じ、魔術に励み。自らに力を求め自身を顧みない、片や使い魔は主人の身を案じ、そして他者の身を案じ自らを省みない。
互いが互いに矛盾させている事に気づきもせずに、似た者同士の彼らは自然と支え合っている。
余りにもアンバランス。故に綻びが起きればそれはすぐに崩壊する、しかしすぐに関係を補修した彼らにキャスターはそう小さく呟くと困ったように微笑んでアーチャーと同じく空を眺めはじめた。
「そーいえば、エジソンのぬいぐるみはイタミ達に渡したのかい?」
「ええ、ランサーを同行させているし。情報の共有も出来るなら使わない手はなくってよ。」
「ホント、便利だねぇ魔術は。」
呟いたビリーは帽子を掴み上げると日差しから隠れる様に自らの顔を帽子で隠すと、大きく息を吸い込んだ。
想像よりもダメージが深刻だったビリーは、伊丹、キャスター、万理からの提案により駐屯地に繋ぎ止められていた。
特地進出初日に起きた防衛戦でのワイバーンの亡骸から手に入れた鱗、素材を近くの街にて換金、手に入れた資金を運用したいという避難民達の申し出があり。
避難民の監視、保護の役目を担っていた伊丹の部隊は彼女らを連れて移動する事になっていた。
ビリー自身、本当なら万理を連れて同行したい所だったが伊丹、万理、キャスターに咎められてしまい現在はこうして駐屯地の警備を担当していた。
正直、不満ではある。しかしまた無理を通しでもすれば隣の魔術師は今度こそ契約を反故にしかねないだろうし、デメリットが多く出てしまう。
(あぁ、もう、当然だけど上手く事が運ばない……。)
内心で悪態を着き、諦めの溜息を吐き出した彼は仕方ないと逃避した。
「………いい加減、話しなさいな。何を見たのアーチャー」
沈黙を切り裂いたのは本に視線を向けたままのキャスターだった。
まるで当然の様に、確信したように言い放った言葉、それにビリーは口角を下げると重い唇を動かした。
「炎龍が、ボクをこう呼んだ『弓兵』ってね…。」
「あら、こちらの龍は人の言葉を話すのかしら、ユニークな話ね。」
「……ボクも冗談で済ませたかったよ。」
彼の言葉に頁を捲る手を止めた彼女はビリーを一瞥すると小さくため息を吐いた。
龍種が言葉を口にしたという逸話は少ない、しかしこの世界には凶暴な災害として扱われてはいるが意思疎通の出来る存在として伝わっていない事から、言葉を口にするとは考えられない。
加えて彼らサーヴァントは人間ならざる力を持ち得るものの、容姿は普通の人間と遜色ないのだ。一見で彼を弓兵と呼称した炎龍には何らかの力が働いていると考えた方が利口だろう。
そしてもし、英霊が炎龍を使役、或いは操っているのなら。それは自らよりもワンランク、いいや更にその上を行くレベルの英霊と言っても過言ではないのだ。
ビリーはその後に起きた現象、炎龍の半身が瞬く間に黒く染まりあがった事、吹き飛ばした筈の場所から影の様な異形の人型の腕が無数に生え、自らに襲い掛かってきたことを。
ソレを聞いた彼女は顎に手を当て何かを考え始めた。
「正体不明の姿形は確認できていない、そうキャスターは言っていたよね?」
「…………そうね、遠くから覗いていたわ。下手に近づいたらアレに呑み込まれていただろうから。」
「その口ぶりだと……黒い泥のような『何か』だったのかい?」
「えぇ、水の様でそれでいて泥の様に蠢く、黒いスライムの様な何かよ。……人型のサーヴァントは確認できず、あったのは禍々しい魔力の余波、そしてその中心で一層強い魔力の塊を確認したわ。」
「ソコから推察して、汚染された聖杯を持つナニカと君は確信したと…。正体不明はその後、どうなった?」
「その時は丁度真夜中、日が上る前に何処かへと這いずる様に消えて行った。後を追うか迷ったけれど、もし見つかった場合、取り込まれてしまえば元も子も無いから引き上げたわ。」
「成る程ねぇ……。うーん、キャスターとしてはどう考えてる? 話を聞く限り、正体不明は聖杯を持った英霊その物か、それとも宝具により生み出された何かだとボクは思うけど。」
「……、まぁ、私の考えもそんな所ね。ただ、貴方の話が本当なのだとしたら。私は後者、宝具の可能性が高いと思うわ。」
互いの意見を交換するも、結局の所、浮かび上がるのはそれ程の力を聖杯、あるいは自らの魔力として保有し、村一つ容易く破壊できる宝具を持っている存在が相手だという事だった。
休めた瞳を開き、帽子を手に被り直したビリーは上体を上げると辺りに広がる草原、ビル一つない果ての無い大地を見据え僅かに頭を俯かせた。
「まったく、いつまでそんな辛気臭い顔をしているのかしら?」
「イヤだなぁ、ボクが考え事する顔はそんなにしみったれた顔なのかい。」
「軽口を叩けるのなら大丈夫ね。次の話に行きましょうか。」
「えー、少し休まない?」
「開拓時代の人間は働き者だと思ったのだけれど?」
「冗談、ボクは無法者だぜ?」
「………………」
「OK、分かったよレディ。だからそんな冷たい目をしないでおくれよ。」
一連の言葉を交わした後に向けられた絶対零度の瞳に、一瞬で負けた彼は降参とばかりに苦笑いを浮かべて両手を上げた。
そして紡がれるのはついこの間の伊丹との会話内容だった。
それは救助したエルフの少女の手に、令呪と思しき痣の様な後を見つけたという話だった。ビリーもその場で話を聞いていたが如何せん。
彼女の周りにはレレイ、ロゥリィの二人が居る為、簡単には近づけずに居た。結果、今は街に向かい確認できずにいる。
「令呪の痣があるという事は、彼女、テュカだったっけ? 彼女にマスターとしての素質があるって事になるのかな。」
「それだけなら偶然にマスターの資格を得たとも言えるけれど、この場合はどうかしらね……。遠目に彼女を見たけれどこの地の人間の魔力は比較的多い方よ、マリよりもね。」
「なら、あの魔法陣で英霊を呼び出そうとして、途中で炎龍に襲われた。そして井戸の中に落とされた。これが一番それっぽいけど。」
「そうね……。本当なら本人に話を聞きたい所だけど、記憶障害を起こしているようだし今は時間に任せるしかないわね。」
「でも疑問も残るよね、この予測だと。」
「その通り、あの魔法陣は複数で魔力を注ぎ込むモノよ。そして姿を見せなかった英霊らしき存在。あれらが何を意味するのか。」
「「……………」」
沈黙が顔を出し二人は口を閉ざす。
緩やかに傾きだした太陽を横目に立ち上がった彼は、真後ろ、遥か後方を見据え帽子を深く被りこんだ。
「キャスター、気づいたかい?」
「いいえ、まだ私には何も感じないわ。流石、弓兵ね。気配察知は得意分野の様ね。」
「得意、というよりは直感だけどね。悪いけどマスターを頼めるかい? ちょっと見てくる。ヤナギダには伝えとくからさ。」
「よくってよ、任せなさい。けれど索敵だけよ、何かあれば報告しなさい。それと――」
「ん? それと?」
「ちゃんと伝えていきなさい、貴方の、主人に。」
わりと真剣に言葉を紡いでいた彼にキャスターは快くその提案を呑み、そして引き留め彼らが今立っているプレハブ小屋を指さし、しっかりと伝える様に強調しだした。
「…う……うん……。」
「………そのままだと、いつか必ず後悔する時が来るわよ? それでもいいの?」
バツが悪そうに首元に手を回した彼は一度頷くと、その場から飛び降りてプレハブ小屋の扉に手を掛ける、と同時にドアが開かれ急いだ様子のマスターが顔を出した。
切羽詰まったように慌ててる彼女に、ビリーは何事かと首を傾げるも今は時間が惜しかったので後回しにする事にする。
「やっとティータイムかな? でもごめんよマスター。ボクはちょっと向こうを見てくる、何、大事だったら尻尾巻いて逃げて来るからキャスターとここで待っててくれるかい?」
屈託のない笑顔で自らの向かう方向に指を差したビリーは、確認するように主人の顔を見やり微笑んだ。
何故か不安げなその顔に、心配ないと言い聞かせる様に。
「……気をつけてね、無茶はしないで。」
「オーライ、それじゃのんびりしててよ。」
口角を上げて帽子を被り直したビリーは告げ、踵を返し走り出した。瞬く間に小さくなっていく背中を万理は見つめる。
晴天だったはずの空は知らず知らずに、雲に隠され冷たい風が吹き抜けた。
杞憂であって欲しかったのだろう。
普段はなりを潜めていた真剣な表情が顔を出し、彼は駐屯地を掛ける。
道すがら幾分か表情が優れた柳田を見つけ、警戒するように促し返答は聞かずに再び走り出す。
立ち止める暇もない程の速さでその場から離れたビリーは目的地である、山岳地帯方面まで足を進めた。
「……………」
言葉で簡単に表すのなら単純な直感、こうなった自分だから分かる誰かに向けられた視線を僅かながらに感じ取ったはずだった。
しかしその場には誰もいない。あるのは膨大に広がる草原、物陰もなく曇り空となった薄暗い大地。
瞳を細め腰元のホルスターに手を伸ばし警戒、自分の直感が正しければ恐らくコレも歪みによる自分への皺寄せだ。
より一層強い風が、吹き抜けた―――
「――――ッ」
同時に最も聞きなれた音が彼の耳に届き、強引にソレを躱す。態勢が崩れるもビリーはソレが来たであろう方向を捉え。
そして
「……どう…いう…」
言葉を失い瞳を見開いた。
風に靡く、黒いスカーフ。
より深く暗い色の拳銃。
黒い帽子、自分と全く同じの背丈、眼光
黒い影の様な何かを纏い、こちらに銃口を向けていたのは忘れもしない。
自分と同じ姿をした何かだった。
「ッ!!」
交差する射線、神業と名高いビリーのその一撃は寸分狂わず同じ一撃によって敢え無く砕かれる。
焦り表情を浮かべたまま彼は再び撃鉄を落とし、連射、幻だと幻想だと目を逸らす様に相手に撃ち放つ。
例え、焦りを抱いていようがその早打ちは歴史に残るほどの偉業、簡単に防がれることは無い彼の強みである。
「……………」
しかし、容易くその速射は避けられ逆に撃ち返された。
「チッ」
避けられる範囲だ、負けやしない、絶対に。
牽制して駐屯地に戻ろうともこの影が何をするか分からない、よもや追ってくるのならば自衛隊に被害は免れない。
理由は単純、宝具を扱えぬシャドウサーヴァントであれどビリーの影は以前の百貌のハサンに次いで手数が多く、そして早い。
そしてソレが忠実に再現されている成り損ないなら、自衛隊が瞬く間に視界内の相手を全て撃ち抜けてしまう。
その手の武器だけで。
だから逃げられない、引けない、この勝負には負けてはいけない。
舌打ちしながらも半身を逸らし彼は視界に捉えた相手に、同じ格好をしたもう一人に視線を向け精神を集中させる。
遅くなる視界内、このままならすり抜ける弾丸を横目に出し惜しみなく力を振るう。
「《
必中にして急所を穿つ三連撃、カウンターであるソレはスローモーションの視界の中で間もなく、敵に着弾する。
「…………」
程なくして煙の様に離散し消えていく
(僕の形をしたシャドウサーヴァント? もう新しい奴が生み出されたのか? 時期にしてもあり得ない話じゃない、でも……何故ボク、ビリー・ザ・キッドのシャドウが……?)
新たな疑問が生まれ、頭を悩ませるも彼は踵を返す。何故かは分からない、しかし出来るだけ早くこの事を相談せずにはいられなかった。
長らくお待たせいたしました………本当に……。
実際何度も何度も書き直して、書きたい事がたくさんあるわ、他の作品のネタが生まれるわで………。
友人にも
「続きマダー?」とか「はよせい」と言われる始末。
アナスタシアでテンションあがって筆が進みつつあるので、よければお付き合い下さい。