はりまり   作:なんなんな

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列車を降りたところから始まって、8000字書いても組分けまでいきませんでした。おかしい。
あと、私自身が誤字確認が億劫になる長さで「一話毎が短い」タグはどうなんだろうかと思ったので消しました。


七話 学校にきた

 ホグワーツ特急が停車した。ホグワーツへの最寄り駅、ホグズミード。丁度夕日が沈み切り、辺りは夜の空気に包まれようとしている。その冷たさは、乗務員に急かされて列車から駆け下りたドラコたちにはありがたいものだった。

 魔理沙の服装を場違いだと説明し、自分の予備のローブを与え、そしてそれぞれ着替えるのを五分と少しで行うというのはなかなか骨が折れた。おかげで男三人の方はネクタイの締め方や靴紐の様子が少しおかしいし、クラッブに至ってはボタンを二つも掛け違っている。魔理沙は魔理沙でドラコに丈を合わせたローブを着ているものだから下に擦りそうなのを手で押さえている始末だ。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっち!」

 

 ちょっと襟を整えようとしたドラコだったが、そんな暇はないらしい。他の新入生たちは既に動き出していて、ホームの脇から続く林の小道を地響きのような野太い声に先導されながら進んでいる後姿が見えた。

 

「急ごう」

 

 言われなくても駆けだしていた魔理沙はともかく、手下二人もドラコに急かされてドタドタと走る。ゴイルはやはり結びが甘かったのか、ホームの端の辺りで靴の紐が解けてすっ転んだ。「頑丈な奴だから心配することは無い」とすら考えずに全く気に留めなかったが、本人は何故かなかなか立ち上がらず蹲ったままだ。ドラコが「何やってるんだ」と言う横で、元々先頭に居た魔理沙がとんぼ返り。ヒンヒンと似合いもしない涙声で呻いている太っちょに駆け寄った。

 

「手、見せてみろ」

 

 そう言いながら、ゴイルが抱え込んでいた左手を半ば引っ張り出すようにして看る。体を屈めているせいで陰になっていてよく見えないが、触った感じ(ゴイルの反応も含めて)からして重度の突き指のようだ。この場合は『指の根元の脱臼』と表現した方がイメージに合うかもしれない。

 不幸な左中指くんは、本体の転倒に対する反応の遅れと並外れた体重によって第三関節からボッキリと横に歪んでしまったのだ(ついでに小指と薬指も比較的軽度ながら被害に遭っている)。

 

「感謝しろよな」

 

 重ね合わされた手が熱を帯び、じわじわと修復されていく。まるで虫が這っているような感覚が走るうちに痛みが引いて、魔理沙が「これでいいだろ」と離れたときにはゴイルの左手は全く元通りになっていた。

 相変わらず聞き取りにくい発声で何か礼の言葉を言っているデブだが、魔理沙はあまり聞いていない。小道の方に見えていた他の新入生の後姿が無くなっていたのだ。運が悪い。もたもたされると困るからとゴイルの手当てをしたのに、温存して低級魔法で治療したせいで時間を喰って結局見失ってしまった。これでまた追いつこうと思ったら暗視や聴覚強化やらの魔法を必要とするだろう。二度手間になってしまったわけだ。まったく、どれもこれもゴイルの手が子供のくせにやたら肉厚で予想外に治療しにくかったのが悪い。

 

「鬱陶しい通学路だぜ。灯りの一つも有りゃしねぇ」

「僕が照らそう。このくらいはできる。……ルーモス!」

 

 ドラコが抜いた杖の先が光を放つ。魔理沙はとっさに顔を背けて目を瞑った。ドラコの発光魔法が強力だったからではなく、夜目が効くように感光度を上げたところだったからだ。「どうしたんだ?」と心配な様子のドラコに「なんでもない」と返事しながら魔法を解いて目をもとに戻す。舌打ちでもしたい気分だった。

 そして肝心の道の路面も、やはりというべきかマトモに整備されておらず小石や木の根でボコボコしている。さっきまで雨が降っていたのか、水たまりも有った。こっちは森歩きに慣れている魔理沙には問題ではなかったが、ドラコの方に効いた。

 

「リストの『ローブの替え三着』なんておかしいと思ってたけど、今納得したよ」

「ああ。どうやら私みたいなのに貸し与えるためじゃなかったらしいな」

「この道、やたらに険しいし滑るし……」

 

 出会って半日ですでに馴染みになった不機嫌顔で小言を漏らす。ローブは平らな地面に立って丁度ギリギリ擦らないように誂えられているため、こんなガタガタな道(しかも下り)では汚れるのなんて一瞬だ。

 

「これがピカピカに磨いた大理石の床だったなら滑っても有難みが有るってもんなんだがな」

「それはよく分からないけど……ほら、もう、せっかくの新しい靴がドロドロだ。マダム・マルキンめ。このことは知ってたろうに、僕にワザワザ新調するのを勧めてたんだ。ああ、ズボンの裾も。メリッサ、君、マルキンの店に行かなくて正解だったよ。『この機会に一式そろえられる方が殆どですよ』なんて言葉に乗せられて買ったセットが学校の門すら見ないうちから半壊するのは気持ちいいことじゃない」

「洗えば落ちるだろうさ。ま、洗わずに済むのが一番だけどな」

「そもそもだけど毎年通る道なんだろうし舗装すればいいのに。先導役も、ちゃんと確認しないで出発するロクデナシだ」

 

 普通の生徒と比べて特別遅れたのは自分たちの方で自業自得とも言えるのだが、魔理沙は特にドラコの愚痴を否定しなかった。敢えて自分の責任にする意味は無いし、向こうの確認も送迎員としては甘かったと思う。(緊張しているはずの新入生がそうなるとは想像しづらいが)例えばコンパートメントでうたた寝していて到着に気が付かなかったヤツなんかはもっと降車が遅くなるはずだ。

 

「リビアスだかルビウスだか……まぁ、名前はどうでもいいや。苗字はハグリッドとかいって、野蛮な大男だって父から聞いてるよ。ホグワーツを途中で退学になって上手く魔法も使えず、学校の森のそばに小屋を建ててそこに住んでるらしい」

 

 魔理沙はまた話の本筋じゃない方に思考を傾けた。「学校には森も有るのか。何か珍しい研究素材は取れるだろうか」と。

 

「退学になったヤツを、退学にしたその学校が雇うってのはなかなか愉快な話だな」

 

 ついでに返事しつつさらに考える。

 ……しかし、確かスネイプは家の森の珍種の多さに驚いていた。ということは、学校の森で目新しいものに出会える確率は低いということ。まさかスネイプが自分の職場の森も満足に探索していないなんて思わない。

 

「父は不愉快な男だって言ってたけどね」

「私にとってはそうでもないことを祈るぜ。お、やっとこさ追いついたな」

 

 他の生徒たちの後姿が見えた。期待値の小さい森のことはとりあえず置いて、さっさと距離をつめてしまおう。魔理沙たちは少し歩を速めた。今度はクラッブが足を滑らせて尻もちをついた。

 追いついてみると皆は驚くほど静かだった。緊張のせいか、そうでなければ転ばないようにするのに集中しているらしい。こう見ると(魔法で足下を照らしていたというのも有るが)ベラベラ喋りながら歩いていたドラコはかなり器用だということだろう。今は光も消して、あと雰囲気に呑まれたのか静かにしているが。

 

「みんな、もうすぐホグワーツの城が見えるぞ。この角を曲がったら、だ!」

 

 最後尾に付いてしばらく、先頭から件の野蛮人……ハグリッドの声が響いてきた。それを聞いた生徒たちは前の方から順にザワめきだし、そしてその声は歓声に変わっていく。後ろの方の生徒も我慢できないとばかりに走って曲がり角を目指した。

 狭かった道が急に開ける。散々文句を言っていたドラコも思わず息を飲んだ。魔理沙の方は表情にこそ出なかったものの、さっきまでの不運や失望が帳消しになって余りある程に感動していた。

 急角度で聳える山。その上に大小様々な塔や城壁を持つ壮大な城が構え、窓から漏れる光が夜空に映える。そして、山も城も空も……全てを、眼前に広がる大きく静かな湖の水面が逆さに映し出していた。これほどの"単純な美しさ"による感動は、人生長い(そのうち不老を目指すし)と言ってもそう簡単には体験できないだろうと、魔理沙はこの光景を心に刻んだ。

 

「四人ずつボートに乗れぃ」

 

 陰になっていたところに多数のボートが繋がれていた。魔理沙は、当たり前だが一緒に居たドラコたちと乗ることになった。デブ二人を片方に寄せると船が傾きそうだったので左右に分かれさせる。

 

「みんな乗ったか? よーし、では、進めえ!」

 

 ボートは漕ぎ手も無しに一斉に岸を離れ、星空を反射する湖面を滑り出した。

 皆がだんだんと近付く巨大な城に注目している中、向かい合って座っている魔理沙にふと目を移したドラコは「んっ?」と首を傾げた。

 

「もしかしてだけど、服"変えた"かい?」

 

 魔理沙のローブが、なんとなく少し変わっているように思う。丈も丁度良くなっている気がするし、全体のフォルムもシャープになっている感じがする。と言うか、よく見たら袖の内側や首周りなんかから飾りがのぞいているような……。

 

「なんのことだ?」

 

 "見たら分かる"ことは本人も分かっているだろうに、きれいにすっとぼける。 

 

「……いや、もういいけどさ。そういうのができるなら先に言っといてくれたらよかったのに」

「一も二もなく『これを着ろ』って渡されたからなぁ」

「やっぱり"できる"方は否定しないんだ。……まぁ、できるだろうね」

 

 そしてそれはドラコの方でも簡単に予想ができたはずのことだ。普通にやればあの複雑怪奇なひらひらドレスをあんな短時間で着られるはずがない。ハンカチを薔薇に変えるのに比べたら、シンプルな服を豪華な服に変えるくらい簡単なものだろう。当然その逆も。

 

「でもあんまり使いたくなかったんじゃないのかい?」

「ああ、なるだけ自重してるぜ。でもやっぱ習慣になっちまってて。それに、こればっかりは使わないと裾が長すぎて歩けたもんじゃなかったしなぁ。ドラコにはもう似たような魔法見せちまってるし」

「まぁ、そうだけどさ。……それにしても、フリルは絶対必要なのかい?」

「このくらいなら許容範囲だろ?」

「うん、まぁ……そうだね」

 

 微妙に腑に落ちないが、実際"黒ローブと言える範疇に収まった"センスの良いアレンジだと言える。この飾りが有るローブと元のローブのどっちが良いかと訊かれたら間違いなく今の方だった。しかたない。「メリッサは可愛らしい服が好きなんだな」と流すことにした。

 そうやって場違いなほどどうでもいい問答をしているうちにも船は進み対岸が近づく。山の端は崖のようになって湖に迫り、その岩肌を水面近くまでツタが這っていた。

 

「頭、下げぇー!」

 

 その崖下近くまで来たとき、ハグリッドが号令をかけた。魔理沙はわけも分からずとりあえずお辞儀した後、山の上の城壁を窺った。だれか"お偉いさん"でも出迎えにきているのかと思ったが、そんな姿は見えない。代わりに、ツタの暖簾に隠れるように開いた天井の低い洞窟に船団が入っていくのが見えた。頭を下げろと言うのは、そのまま頭の位置を低くしろという意味だったのだ。『頭を下げる』イコール『お辞儀』というのは、お辞儀文化の中で幼少を過ごした者特有のミスであった。

 先の船に続いて魔理沙たちのボートも暗い洞窟を進んで行く。城の真下(たぶん)を少し通り過ぎた辺りで船着き場に停まり、生徒たちは岩と小石の岸に降り立った。その辺りでボートの一隻からゲロゲロと蛙の鳴き声が。ハグリッドがボートを調べに行き、ヒキガエルを片手に乗っけて戻った。

 

「どいつかヒキガエルをなくしたー言うちょったのが居ったと思うが……」

「トレバー!」

「おお、おまえさんだったか。今度はちゃんと持っとれよ」

 

 そのトレバーとかいうらしい不遜なヒキガエルを、ネビルは大喜びで受け取った。

 その後また一旦外……山の反対側に出て、今度は岩がゴロゴロ転がっている坂道を上った。いい加減、魔理沙も舗装しろよと思っていたところで、ドラコが思い出したように口を開いた。

 

「あの蛙、今度はちゃんと持ってるとして、いつまでああやって抱えてるつもりなんだろう?」

「さあな。でも、このまま入学式や新入生歓迎会みたいな催しがあったりしないことを祈る」

 

 やっと整備された石段に着いた。その先には巨大な樫の木の扉。

 

「へぇ? 僕は面白いショーだと思うけど?」

「私は笑いが堪えられるか気が気じゃないぜ」

「なるほどね」

 

 皆が緊張した面持ちで開門を待つ中、二人だけニヤついていた。

 

「みんな、いるか? おまえさん、ヒキガエルはなくしてないな?」

 

 ハグリットが子供の頭ほどもある握り拳で扉を三回叩く。その重厚な見た目と裏腹なスムーズさで扉が開いて、現れたのは今のドラコたちとは正反対の真面目そうな表情をした魔女……マクゴナガルだ。その雰囲気に、場の緊張感が更に高まった。トレバーがゲコッと鳴いた。魔理沙はむせた。

 

「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」

「ご苦労様、ハグリット。ここからは私が預かりましょう」

 

 マクゴナガルが扉を更に大きく開き、生徒たちを石畳の玄関ホールへと招き入れた。とんでもなく高い位置にある天井に向かって、バカバカしいほど巨大な壁が延びる。正面には階段が続き、右手側からは先に着いていた上級生たちのものらしい騒めきが聞こえる。

 

「ほらメリッサ、ピカピカの大理石だよ。有難みがあるねぇ?」

 

 半笑いでそう言った瞬間、魔理沙がビターンと派手な音を立てて盛大にこけた。何人かの生徒が驚いて振り返った。が、その時にはもう何事も無かったかのように立ち上がっていて、音の正体は真横に居たドラコにしか分からなかった。手下二人は真後ろにいたにも関わらず何が起こったか理解してなかった。

 

「……オーケイ。もうからかったりしないよ」

「そうか? せっかくノってやったのに、残念だぜ」

 

 そんな、控えめに言ってアホなことをやっているうちに、ホールの脇にある空き部屋に着いた。その部屋は新一年生たちを全て入れるには窮屈な広さで、生徒たちは自然と寄り添いあうような格好になった。皆の不安げな表情も相まって、魔理沙は昔何かの本で読んだ処刑用のガス室を思い出した。全く失礼な話である。

 

「皆さん、ホグワーツ入学おめでとうございます」

 

 少し高くなった演壇のようなところに立ち、マクゴナガルが挨拶を始めた。

 

「新入生の歓迎会がまもなく始まりますが、大広間の席につく前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、寮生が学校での皆さんの家族のようなものです。教室では寮生と一緒に勉強し、寝るのも寮、そして自由時間の多くは寮の談話室で過ごすことになるでしょう」

 

 そうはならないだろうな、と魔理沙は思った。おとなしく寮に収まってはいない自信がある。

 

「寮は四つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンです。それぞれ輝かしい歴史があって、偉大な魔女や魔法使いを輩出してきました。ホグワーツにいる間、皆さんの良い行いは寮の得点になりますし、反対に規則に違反した時は減点されます。学年末には、最高得点の寮に大変名誉ある寮杯が与えられます。どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなるよう望みます」

 

 寮杯。魔理沙にとっては忌々しいが、規則を守らせるには良い制度だ。規則破りが自分だけの問題ではなくなるし、寮杯が欲しい、或いは他の寮に対抗心を燃やした生徒たちが自発的にに悪ガキを矯正しようとする。まずはこの仕組みを突破するのが(魔理沙的に)充実した学校生活のカギになりそうだ。

 

「まもなく全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、できるだけ身なりを整えておきなさい」

 

 クラッブとゴイルは慌ててネクタイを締めなおした。意外なことに、時間さえ十分に有れば正しく結べるらしい。でもクラッブのボタンは相変わらずだった。

 

「学校側の準備が出来たら戻ってきますから、静かに待っていてください」

 

 マクゴナガルは去り際にネビルの蛙と、ついでに服が左によれているのに目をやって、しかし何も言わずに出て行った。魔理沙の服には特にリアクションは無かった。確かに新入生のほとんどがマダム・マルキンの店の入学セットを着て来るが、自前のちょっと違うローブを着て来る者もそれなりに居る。……初めの方のローブ(ドレス)だったら絶対に許さなかっただろうが。

 その後少しの間は皆静かにしていたが「いったいどうやって寮を決めるんだろう?」と前の方の誰かが言ったのを発端に、あちこちからひそひそと不安の声が聞こえ始めた。何か呪文を暗唱してるヤツも居るようだ。

 

「『大事な儀式』って言うからには、適当に人数合わせて放り込むだけじゃないんだろうが……」

「とりあえずマヌケはハッフルパフだろうね」

「知ってるのか?」

「方法は知らないけど、寮の特徴は聞いてる。スリザリンは由緒正しい魔法族の子供が多くて寮杯も一番多く取ってるそうだ。僕の父と母もスリザリンだよ。逆にグリフィンドールは迷惑なやからが多くてハッフルパフと最低得点を争うのもしょっちゅうだってね」

「でも、私のお母さんはグリフィンドールは勇敢で、反対にスリザリンは卑怯な手で規則違反を誤魔化してるって言ってたわ」

 

 ドラコお得意の 親の受け売りに真っ向から逆のことを言う声。その方に目をやれば、見知った双子が近づいて来るところだった。

 

「よう、パーバティにパドマ。暫くぶりだな」

「ハーイ、メリッサ。ちなみにそのあとお父さんが『レイブンクロー生にとっちゃどっちともバカだね』って言ってちょっとした喧嘩になってたわ」

「『レイブンクローは根暗なくせに偉そうなこと言うな』ってね」

「馬鹿と間抜けと根暗と卑怯か。ロクなのが無ぇな!」

「スリザリンは寮杯が多くて絶対優秀って言ってるじゃないか……」

 

 美少女三人が姦しく笑いあう横でお坊ちゃまは唇を尖らせた。

 突然、その頭上に奇妙なモノが現れた。人の形をしているが、髪も肌も服も全部まとめて荒い石英結晶のような半透明の白色で、しかもふわふわ浮遊しながら壁をすり抜けている。ゴーストというやつだ。それが十何人も現れ、そして反対側の壁に消えて行く。気付いた者から視線が釘づけになる新入生とは反対に、向こうは何か議論している様子でこっちには見向きもしない。話しかけてきたのは最後の二人だけだった。

 

「――全く、修道士さんはお優しいですなぁ。もう私はピーブスには愛想が尽きて尽きて尽き果てましたよ。……おっと、おや、君たち、ここで何してるんだい? 宴会がある大広間は向こうですぞ?」

 

 ひだ襟服にタイツ姿のゴーストが部屋の真ん中辺りの生徒たちに向かって問いかけた。驚きと戸惑いのせいでなかなか返事がない。隣の修道士のような服装の太ったゴーストが微笑みかけた。

 

「新入生じゃな。これから組分けされるところか?」

 

 何人かが黙って頷いた。

 

「そうかそうか。入学おめでとう。ハッフルパフで会えると良いな。儂はそこの卒業生じゃからの」

 

「じゃあ間抜けな死に方したんだろうな」と、魔理沙がパチル姉妹に耳打ちした。

 

「フフ、でも、これでハッフルパフに組分けされたら相当恥ずかしいわよ?」

「身を以て間抜けの証明をすることになるな」

 

 本気じゃないが、もう魔理沙とパチル姉妹の間では『ハッフルパフは間抜け』ということになっていた。創設者であるヘルガ・ハッフルパフはブチ切れていいと思う。

 

「さあ、行きますよ」

 

 厳しい声と共にマクゴナガルが戻って来た。扉にもたれかかっていたクラッブは大きくよろけたが、そのことには全くリアクション無しに指示が続く。

 

「組分け式がまもなく始まります。さあ、一列になって。ついてきてください」

 

 もともと後ろの方だった魔理沙たちは自然 先頭近くになった。振り返るとネビルがポカンとした顔のままヒキガエルを抱えて、しかも列に入るタイミングを逃して最後尾につく様子が見えた。

 もしあれと同じ寮になったら卒業するまでに腹筋が六つに割れてそうだ。笑いでヒクつく顔を帽子の鍔で隠しながら、魔理沙はそう思った。




世の中上手く行かんことばっかりや

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