はりまり   作:なんなんな

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二次小説に美鈴が登場すると精神が安定する。この作品にはまだ登場しません。
地の文での魔理沙とメリッサの使い分けは視点によります。
誤字報告等よろしくお願いします。


十八話 不運

 クリスマス休暇ももう終わり。新学期の一日前に生徒たちが戻ってくると、雪に閉ざされていたホグワーツは息を吹き返したようににぎやかになった。

 ダフネは魔理沙のクリスマスプレゼントを早速着けてきたが、ドラコは「男の僕がつけるには可愛らし過ぎる」と箱にしまったままらしい。クラッブとゴイルはまた一回り太くなった。ともかく、魔理沙たちは特にクリスマスのことを中心にこの休暇の思い出話に花を咲かせた(一応、あの鏡のことは伏せておいた)。

 一方でハリー、ロン、ハーマイオニーの三人はそう気軽でいられなかった。顔を合わせるなり、ニコラス・フラメルと四階の廊下について相談を始めた。

 

「賢者の石、ね……」

 

 まずハリーたちがハーマイオニーに、この休暇で新しく分かったことを話した。ニコラス・フラメルは錬金術師で、四階の廊下の先に有るのは『賢者の石』という不老と黄金の素であること。そして、それを守るために(それが賢者の石だと知らされているのはごく一部だが)先生たちがそれぞれ魔法の罠を作っていること。これはクリスマスの午後、ハグリットのところに行って聞き出した。一度は魔理沙に声をかけられてしまったが、その後透明マントで突破したのだ。あの三頭犬は多くの罠のうちの一つだった。そして、こともあろうにスネイプも罠を仕掛けた一人らしい。

 

「じゃあ、スネイプの分以外の魔法の罠が解けなければ良い……それか、無理に解こうとしている証拠を掴めばいいのね」

「ハロウィンの夜にあの化け物犬がやってのけてくれてたんだけどなぁ」

「脚の怪我だね。もう治っちゃったみたいだけど」

「でも、少なくともあの犬の部屋、つまり一番初めの罠も抜けられないってことよね。まだ余裕はあるわ」

 

 そういうワケで、三人はスネイプを出来る限り見張ることにした。四階の廊下に近付かないかはもちろんだが、授業なんかでどうしても限界がある。そんな時は様子だけでも注意深く観察した。今後スネイプが怪我、特にバカでかい噛み傷を受けるようなことが有れば、またあの犬にやられたということだ。ハグリットに言って見せれば、今度こそもしやと疑ってくれるだろう。他の罠の仕掛け人と仕組みが分かれば、同じように報告できるかもしれない。

 が、他の先生はハグリットほどうっかりしていなかった。ハーマイオニーがそれとなく探ろうとしても、フリットウィックは完全にとぼけていたし、マクゴナガルは逆に「どうしてそんなことを気にするのか」と詰め寄って来たほどだ。相対的に、とても頼もしかったはずのハグリットと怪物がとても簡単に破られてしまいそうに思えてきてしまった。

 

 そうしてハリーたちが重要な一歩をイマイチ踏み出しかねているうちにしばらく経ち、生徒たちが授業と大量の課題のやっつけかたを思い出した頃、校内はある噂でもちきりになった。次のクィディッチの試合、グリフィンドール対ハッフルパフ戦の審判をスネイプが務めるというのだ。

 

「とうとう直接的な手段に出たね」

 

 スネイプは、グリフィンドール――特にハリーに嫌がらせをするために審判になったに違いないとみんな思っていた。ドラコは面白くてしかたないという様子だ。スリザリン寮の緑の灯りのせいも相まってとても意地悪そうに見える。

 

「ポッターに恨みは無いけれど、良い見世物として楽しませてもらうよ」

「それも良いが、私は一度普通のクィディッチを見てみたいもんだ」

 

 魔理沙はぼやかした返事をした。スネイプの嫌がらせがこれまでも十分に直接的だったことと、ドラコがハリーのチーム入りで思いっきり逆恨みしたことを指摘するという選択肢もあったがそれはやめておいた。

 魔理沙はスネイプが審判になった本当の理由を知っていた。スネイプはハリーを守る役目を負っているのだ。前回のようにハリーの様子がおかしくなるようなことがあれば、即座に試合を止めるのだろう。本人はクィディッチが嫌いらしくとても不本意そうにしていた。そういった苛立ちも含めて、結果的に皆の予想通りハリーへのちょっとした嫌がらせも行われるだろう。

 

「それにしても不思議ですわね。スネイプ先生ったら、グリフィンドールのこととなると随分大人げ無くなりますもの」

 

 魔理沙が「こりゃスネイプとグリフィンドールとの和解の目は無いな」と苦笑いしていると、ダフネがふと疑問を口にした。魔理沙はおっ、と僅かに姿勢を正した。それは自分も少し気になっていたことだ。

 そしてその答えはドラコの口からあっさりとこぼれ出た。

 

「それはそうさ。スネイプ先生は学生時代、グリフィンドールに散々迷惑をかけられたからね。特にポッターの父親は、成績優秀な先生を敵対視してバカな仲間といっしょに嫌がらせを繰り返したそうだ」

 

 なんと、意味不明な敵意は親の代の問題だったらしい。……赤ん坊のころに亡くなった親とのイザコザを子供に当ててるとか、あまり聞きたくない話ではあったが。

 

「そうだったのか……。すごいなドラコ。なんで知ってたんだ?」

「『先生のグリフィンドールいじりが面白い』って手紙に書いたら『当然だろう』って。僕の父上が学生時代に先生と親しかったらしくてね」

 

 その場はそれで流れたが、魔理沙が後で当時を知ってそうな絵画たちなんかから情報を集めたところ、他にも色々なことが分かった。

 ドラコは「バカな仲間」と言ったが、ポッターの父親、ジェームズとスネイプは共にトップクラスの成績優秀者だった。実力で敵無し、クィディッチチームでもエースとグリフィンドールのスターだったジェームズは、因縁の通りにスリザリン嫌い。中でもひときわ陰気ながらに尊大で闇の魔術に傾倒しており、しかも自分に対抗できるほどの能力を持っていたスネイプを標的にちょっかいをかけまくっていたそうだ。獅子と蛇の対立の伝統というのは凄まじいもの。一年坊主のハリーとドラコですら「さぁ決闘だ」というところまでいったのだから、それが卒業までとなると……。スネイプたちの戦いの中で生まれ、ホグワーツ生が今日でも使っている攻撃の呪文も一つ二つではないという。

 そうやって青春のほとんどを対グリフィンドール、対ポッターに捧げていたのだから、今のスネイプがああなってしまったのも(もちろんはた迷惑に変わりないが)仕方がないのかもしれない。いくら魔法界の英雄とはいえ憎い憎いジェームズの得意だったクィディッチで、その息子のお守りとはどういった拷問か。命じたのはダンブルドアだろう。そもそもクィレルを飼っていることといい、魔理沙はますますダンブルドアという人間が分からなくなった。

 ハリーだってスネイプに見守られるなんてこと、願い下げどころか考えてすらいない。ロンと一緒にしょっちゅうぼやいている。

 

「スネイプがなんで審判なんか。あいつの口から箒やクィディッチの話が出たことが有る? どうにかして悪さしたいって以外の理由が思い浮かばないよ」

 

 魔理沙はこの、ドラコみたいな野次馬を除いて誰も得しない状況が可笑しくてつい笑ってしまった。「確かにスネイプがクィディッチを嗜むって話は聞かないな。むしろ嫌いだろうよ」と割って入ると、ハリーとロンは少し驚いた後「クィディッチというより、数人で何かするっていうことがそもそも嫌いなんだろうけどね」とため息をついた。それもそうだ。なんたってスネイプはこの私とのティータイムでさえ鬱陶しそうにするんだから。

 だけど、向こうだってその嫌なことを押して任務を果たそうとしているのだ。

 

「まぁ、純粋にクィディッチのジャッジがしたいワケじゃないだろうさ。ただ、『なんで審判なんか』とは、スネイプも言っていたぜ?」

 

 狐につままれたようなハリーたちの顔を見て。魔理沙はもう一度あははと声を出して笑った。

 

 

「『なんで審判なんか』……本当にそう思ってるなら、止してくれればいいのに」

 

 寮に戻って、ハリーたちはハーマイオニーも呼んで話し合いをすることにした。敵か味方はともかく、メリッサはスネイプと親しい。賢者の石やハリーの命を守るため、三人はメリッサの言葉にも注意することにしていた。

 

「誰かに命令されてるってことなのかな」

「"誰か"って誰さ」

「分からない。親玉が居るってことなんだろうけど……」

 

 ハリーはしばし視線を宙に泳がせた。親玉。僕に危害を加えたい親玉。因縁と言えばヴォルデモートだけど、もう倒れたはずだ。

 

「いや、待てよ……?」

 

 スネイプはもう一つ、賢者の石も狙っている。賢者の石は永遠の命の源。なら、弱っている人を蘇らせることもできるんじゃないだろうか。そして、ヴォルデモートのことを「倒れた」「居なくなった」と言う人は居ても「死んだ」と言う人は不思議と聞いたことがない。

 

「親玉は、ヴォルデモートだ」

 

 口に出しながら、ハリーは確信していた。

 

「その名前を言わないでくれよ。っていうか、あの人は君が倒したはずだろ?」

「ロン、確認だけど、ヴォ……じゃなくて、例のあの人が『死んだ』って話は聞いたことあるかい? 『倒された』じゃなくて」

「え? いや。でも『消えた』とか」

「上手く隠れれば『消えた』ようになる」

 

 ロンは言い返せなくなった。なにせ、自分が知る中で隠れるには最高の道具、透明マントの効果も一言で言えば被ると消える能力だ。何も分からないが絶対的に恐怖の対象として知っている「例のあの人」が、今そこにも透明になって立っているような気さえしてきた。

 

「力を取り戻すために賢者の石を手に入れる。力が有ったときになぜか負けてしまった僕を殺しておく。これがスネイプの役目なんだ」

 

 そう結論付けたハリーに、ハーマイオニーが待ったをかけた。

 

「ちょっと違うと思うわ。例のあの人のためにハリーを狙っているなら、もっと手厳しいはずよ。例のあの人は魔法界全体を恐怖に陥れるほどの闇の魔法使いだもの」

「それは、僕を倒すより賢者の石を手に入れる方が大切だからだと思う。僕をどうにかできても、賢者の石で復活できなくちゃ意味が無い。例えば呪文や毒で僕が死んだら学校は大騒ぎだし、犯人が分かるまで調べることになるはずだよ」

「犯人が分からなくても先生たちの警戒心が強くなるだろうから、石を狙いにくくなるかもね」

「うん。だから、誰が悪いワケでもない事故に見せかけられるクィディッチの試合で動いて来るんじゃないかな」

 

 考えたくもない方向に話の筋が通ってしまった。スネイプとの間ですら大きな力の差があったのに、闇の帝王とまで言われた魔法使いが絡んでくるとは。重苦しい沈黙の後、ハーマイオニーが口を開いた。

 

「……マクゴナガル先生や、他のグリフィンドール生にも見張ってもらいましょう」

「でも、ハグリットもマトモに取り合ってくれなかったのに。また『かもしれない』って話……疑心暗鬼扱いだよ」

「悪さをするだろうってことは皆思ってるわ。殺されるなんて大袈裟に聞こえることを言わなければ、きっと大丈夫。大きな事故を起こすつもりだなんて予想してなくても、見張ってもらえるだけで良いんだから」

 

 こうしてハリー達は魔理沙の意図とはまったく逆の推理と対策を進めたが、それは仕方ないことだった。スネイプはハリーに対して明らかに不親切で攻撃的だったし、憎しみの籠った目つきで追い回していた。赤ん坊のころに魔法界から離れて今戻って来たばかりの男の子に一体何故、と考えれば「実はあの人の手下だから」という答えもとても納得しやすい。特にハリーはハグリッドやマクゴナガル、それにダンブルドアからもジェームズを称賛する言葉しか聞かされていなかったのだから。

 

 そんなこともつゆしらず、誤解を解くヒントを出してやったつもりの魔理沙は呑気に箒作りの魔法を調べていた。過去についてもう少し調べる気もあったのだが、そろそろスネイプに睨まれそうだ。ならば、と、今まで力を入れていた研究に戻ることにしたのだった。

 しかしまぁこっちはこっちで難しい。件のオンボロ箒、今では一応思った方向に飛べるようになったのだが、そこからがなかなか進まない。これまでは昔の魔法に関する本から製法を拾ってきていたのだが、それ以上の情報がなかなか見つからないのだ。というのも、飛行速度や旋回能力が現在の競技用箒レベルになってきたのは、箒メーカーの登場で、箒が各家庭で自作するものではなくなってから。これ以上は専門職の領域で、一般に出回っている魔法書に製法は載っていない。製法ではなく性能について書き連ねた箒図鑑は掃いて捨てるほど有るのだが。

 

「やぁ、ミス・ミストウッド」

 

 棚に本を戻して「こっからは調べものじゃなく本当の研究になるな」と気合を入れ直したとき、クィレルに突然声をかけられた。魔理沙は「ああ、どーも」と気にしない風を装ったが、頭の中は鏡の前でダンブルドアに出くわしたときと同じくらい緊張した。

 クィリナス・クィレルと言えば学校一気弱な男の座をネビル・ロングボトムと争っているまっ最中の男である。そんな人物が、魔理沙のような"目立つ"生徒に好き好んで話しかけるというのはありえないのだ。……普通に考えれば。しかしクィレルはハリーを墜落させようとするような隠された顔も持っていた。もしあのとき、"誰が邪魔したのか"に気付いているなら、クィレルが魔理沙にしかけてくるのは当たり前のことだ。

 クィレルの顔を窺うと、まだ残酷な危険人物の無表情にはなっていない。"ありえない"ことが起こったか、それとも疑ってはいるが確信はしていないということらしかった。

 なら話は簡単。さっさと退散するだけだ。

 

「何か用か?」

「い、いや、そういうワケでは、な、ないんだけれど。べ、勉強熱心だなと思、もって」

「そうだな。確かに私は勉強熱心で忙しい。というわけで、じゃあな」

「そ、それなら、一年生の分野以上のことに、について、お、教えられるけど」

 

 妙に食い下がる。しかも他人からの言伝なんかが有るようではない。疑われている。魔理沙はあと一歩のところで冷や汗でも出しそうになったがなんとか心を落ち着けた。そして「そういうことは一年生の分野の授業を面白くしてから言ってくれ」と舌でも出しそうなほどバカにした様子でクィレルをあしらった。

 メリッサ・ミストウッドは無能でつまらないクィレル先生なんて眼中に無いんです。腹に一物抱えたヤバいやつだなんて全くもって毛ほども感付いておりません。だからどうぞあなたも気にしないでください。

 幸運なことに、それからクィレルは魔理沙にアタックして来ていない。まぁ、来たら来たで、別件で問題にしてやるつもりだったが。一年の女子に付きまとう変態教師として。

 

 そうして数日。グリフィンドール対ハッフルパフの試合の日がやってきた。グラウンドに現れたスネイプはとうとう鬼の形相になっていた。

 

「なんかスネイプが箒に跨ってるだけでちょっと面白いな」

「笛も似合いませんわねぇ。大きな音が出るものなんて」

「君たちどっちの味方なんだい」

「ドラコもにやけてるじゃないか」

「まぁね」

 

 選手たちがワッと空へ飛び出す。魔理沙たちの反対側の観客席で、心配そうな顔をしたロンが見えた。隣のハーマイオニーはこの前のスネイプやクィレルのようにブツブツやっている。守りの呪いか何かだろうが、どっちにしても外部からの魔法を防ぐしかけとか無いんだろうか。教員席に目を移せば、マクゴナガルはいつにも増して厳しい表情。ダンブルドアもニコニコとはしていない。

 開始の笛が鳴る。この状況を一番簡単に収める方法は、ハリーがスニッチを即座に獲って試合を終わらせることだが……それより先に一発目の不当ジャッジがかまされた。スネイプはやっぱり、任務とは別に個人的な恨みも晴らす気でいたようだ。

 チェイサー同士のありふれた接触が悪質なタックルとして処理され、ハッフルパフにクアッフルが渡る。グリフィンドールキャプテンのウッドが頭を掻きむしった。ドラコは双眼鏡を覗きながら「見なよあの顔」と大はしゃぎだ。

 

「エンジンかかってんなぁ……」

 

 激しいブーイングの嵐の中試合が再開される。再開したと思ったらまた止まった。フレッドがブラッジャーを観客席の方に打ったと言いがかりがつけられた。それが終わると今度はスネイプの方にブラッジャーが撃ち込まれた。スネイプは髪を振り乱して激怒しながらハッフルパフに4回のペナルティシュートを与えた。グリフィンドールチームは完全に頭にきていた。ウィーズリーの双子は普段の悪戯っぽさもどこへやら、完全にスナイパーの顔になっていた。

 

「これハリーじゃなくてスネイプが先に死ぬんじゃないか?」

「次やったらきっと退場させるから大丈夫だよ」

「なるほどな」

 

 しかし次のブラッジャーはハッフルパフから飛んで来た。普段どんなに軽んじられても耐え許すハッフルパフが唯一誇りを賭けて勝負するのがこのクィディッチである。それをこうしてメチャクチャにされて、ハッフルパフもカンカンになっていた。スネイプはペナルティをとらなかった。

 

「グリフィンドールに嫌がらせするために覚悟決めすぎだろ」

「狙い撃ちされてますわね」

 

 ペナルティが無いと分かったハッフルパフのビーターはスネイプをロックオンした。審判を退場させて公平なマダム・フーチのジャッジを取り戻す魂胆らしい。ブーイングが止んで、歓声が沸き起こった。リー・ジョーダンのアナウンスもしきりにはやし立てた。

 何度か顔の横をブラッジャーが掠め飛んで、5度目でスネイプもさすがに試合を止めた。それでもたった一回のペナルティシュートだ。

 グリフィンドールに10点入り、試合再開。途端にハリーがものすごい勢いで急降下した。魔理沙はまた呪いかと一瞬身構えたが、どうやら違う。スニッチだ。普通はシーカーの妨害のために使われるブラッジャーが審判を叩きのめしている間、ハリーは悠遊とスニッチ捜しに集中できたのだ。ハッフルパフのシーカーも慌てて追従する。しかし、ハリーの才能とニンバス2000相手に後から追いつこうなんて無理な話だった。

 数秒後、ハリーが右腕を振り上げる。その手にはしっかりとスニッチが握られていた。試合終了。グリフィンドールの勝利である。

 選手たちが次々とグラウンドに降りてきてハリーを褒め称える中、完全に負け犬になってしまったスネイプは足早に立ち去った。もちろんそれを逃がす魔理沙ではない。興醒めしてのそのそ帰り支度をするスリザリン生の間を縫って競技場の出口に急いだ。

 

「よぉ、調子はどうだ?」

 

 黒くひょろ長い後姿に声をかけたが案の定無視される。

 

「気持ちは分からんでもないが、そっちもイジられてもしょうがないことくらい分かってるだろう?」

「生憎のところ吾輩にはそんな暇な時間は無いのでな」

「おいおい」

 

 あまりに下手な逃げ文句に呆れた魔理沙だったが、どうにもそれだけではないことに気が付いた。スネイプの足は校舎ではなく森の方に向かっている。

 

「ひょっとしてまたお使いか?」

 

 返事は無かったが、スネイプの無反応はたいてい同意の意味だ。

 

「クィレルのことか? まぁ、そうだろうなぁ」

 

 またも無反応。

 

「私もあいつに軽く目ェ付けられてるし、是非とも頑張ってもらいたいね」

「どういうことだ」

 

 スネイプはやっと魔理沙の方に顔を向けた。めんどくささの他に「何故早く言わなかったのか」という苛立ちも含んだ視線だ。

 

「お、心配してくれてんのか?」

「もちろんだとも。君の使う妙な魔法が向こうに渡るかと思うと心配で夜も眠れん」

「昼寝でもすれば?」

 

 二人は森に向かいながら互いの状況を話した。スネイプは魔理沙が既にクィレルに怪しまれていることを知って、かなり口が軽くなった。いっそのこと分かっていることをしっかり教えて自衛させようという考えだ。

 

「クィレルの背後にあるもの……以前は冗談で言ったが、実際のところ、あの人と見ている。我々はあの人の情報を掴むためにクィレルを自由にさせているのだ」

「どこかで何かの命令を受けているだろう、な。それが森だと?」

「森で誰かに会っている……というのはいささか短絡的であろうが、そうでなくとも手掛かりにはなろう。クィレルが君に話しかけることと同じく、森に行くことも"ありえない"のだからな。闇の魔術に対する防衛術の教員として、教材となる闇の生物を捕らえているわけでもないようであるし」

「だが……つまるところ、クィレルのしっぽを追って行ったらそいつにぶち当たっちまう危険が高いんじゃないか?」

「さよう。しかし、クィレル程度の者を使いにしているようでは、向こうも本調子ではないだろう。クィレルは二面性こそあるが、魔力が特別に高い人物ではないはずだ。……ときにミストウッド、以前『クィレルについておもしろいことがある』とか言っていたが、まさか………」

「そのまさかだ」

 

 スネイプは思わず立ち止まった。魔理沙の様子からはいつもの冗談っぽさが無くなっていた。

 

「クィレルの魔力は人間のそれじゃない」




遅くなってすみませんでした(小声)

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