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おんくぁかいたい
毎日のように最低気温を更新し続けて、12月も半ば。月始めのころは雪合戦に興じていた生徒たちも、もううんざりだと言わんばかりに室内に籠るようになった。その室内も場所によっては隙間風で冷え切り、吹雪に叩かれて窓がガタガタと騒音をまき散らしている。こんなときでも使いに出される梟たちが気の毒だ。配達を終えた梟たちは帰る前にしばらくハグリットの世話を受けることになっていた。
一方、地下は平和なものだった。夏涼しく冬暖かいというのは地下住居の特徴だ。湖の表層が凍り付いてしまったおかげで、湖底近くのスリザリン寮の窓から見える生き物は、冬だと言うのに増えているようだった。何度か水中人も横切って行った。灰色のザラついた肌に、獣めいた黄色い瞳と攻撃的な口元。魚人とか人魚とかというより人っぽいシルエットの魚という印象だ。ドラコは「アレが人魚?」と心底がっかりし、テレンスが「夏休みにでも地中海の人魚を見に行こう。彼女たちは素晴らしい」と励ました。
そして12月と言えば、その末にはクリスマスが控えている。ハグリットが運び込んだ大きな樅の木に、マクゴナガルとフリットウィックが飾り付けをしている。あと何週間か有るのに気が早いんじゃないかとも思うが、ここから更に城の至る所に付け加える飾りのことを考えると、済ませておかねばならないことだった。
「だってぇのに、ここは相変わらずの辛気臭さだな。しかもトップレベルで寒い」
「換気が行き届いているのでな」
「この臭いの中で良く言うな。わざとやってんじゃないか?」
「如何にも。用も無いのに居付かれては困るのでね」
「用も無いのに居付く奴がいるのか。他人事ながら気の毒だぜ」
「……この茶は苦いな」
今日魔理沙が持ってきたのは緑茶だった。
「分かってると思うが、私は用が有って来てるからな」
これはいつもの冗談ではなかった。
「具合はどうだよ」
スネイプは、左と、右と、足を置きかえた。三頭犬から受けた傷は痛みも無くすっかり完治していた。
「良好だ」
「だったらもっと良さそうな顔しろよ」
三頭犬の牙に呪いの力でもあったのか、魔法薬でなかなか治らなかった傷。魔理沙はこれを体の再生を阻害する魔法と考え「カルシウムでできた添え木と蛋白質でできた包帯で応急処置をする」という屁理屈で潜り抜けた。
スネイプはますます眉を寄せた。
「全くもってイギリス魔法界最高の学校じゃァございやせんか? 生徒を殺す気満々の気狂いを飼っているなんて」
魔理沙はニヤぁっと、機嫌がいい時のスネイプのような顔をした。
「それに四階には先生さんでも制御できない化けもんが居ると」
「つまらん愚痴は用とは言わん」
「おいおい、話の前置きくらい我慢しろよ。それに愚痴でもないし。ま、クィレルに関してちょっと面白い情報が有るから、教えてやろうかどうかって話だ」
「この件で吾輩より知っていることが有ると?」
「さぁ? 私はスネイプ先生がどこまで知ってるのか分からないんでね。『面白い』ってのはあくまで私の主観だ。……そう睨むなよ」
全く何が面白いのか。魔理沙は横を向いてクスクス笑った。
「交換条件と言うつもりだろうが、吾輩は何も話さん。手も策も足りている」
「……本丸はヴォルデモートだろ?」
「そうかもしれんな。『全ての陰謀は"あの人"に通ず』とはよく言ったものだ」
魔理沙はあと一歩踏み込み方を間違えたようだ。スネイプは交渉は終わったとばかりに煎餅をかじり、その堅さと飛び散る破片に顔を顰めた。
「ちぇっ、手ごわいな」
「君が気にすることではない。余計なことには首を突っ込まぬよう」
「この学校で史上最悪レベルの殺人鬼の釣り出しが行われようとしてるなんて、到底無視できることじゃないと思うんだがな。ハリーが"持って"なかったらもう二人は死んでるぜ」
スネイプは耳をふさぐ代わりに煎餅の破片を屑籠に集めるのに精を出している。
「それで、クリスマス休暇には帰らないのかね」
「色々と酷いな」
「吾輩ができることと言えば、君の安寧のために退学届けにサインするか、君の自宅との交通手段を整える手助けをするか、どちらかだろう」
まるで自分が慈悲深くて親切な先生だとでも言うような表情だ。
「まぁ"あの"スネイプ先生からそんな親切なご提案を頂けただけでも成果と思うことにするか」
描いた絵図とは違うが利益は出たと一応納得して退散し、寮に帰ると休暇の旅行の話に花が咲いていた。一年生のくせにその真ん中にドッカリ座っていたドラコが顔を上げた。
「メリッサ、どこに行ってたんだい?」
「だいたいこの時間はスネイプ先生のところですわ」
「当たりだ。家との交通機関の整備について話してた」
「それは公共事業的な……?」
ミリセントの憶測に、周りの生徒がハッと魔理沙を見た。ミストウッドという正体不明の家系に、よく分からない期待が広がっていた。
「いやいや、個人的なもんだ。何か知らんがむやみに飛んじゃいけないことになってるからなぁ。この冬の間に対策をな」
「それでなんだけどメリッサ、27日、僕んちのパーティに来てくれないかい? 行き来も楽になるって話なら」
何人かの生徒が視線を下げた。スリザリンは身内には優しく、内部の仲は基本的に良いが、その背景に血筋の問題がつきまとう。ドラコが入ったことで、両親が魔法使いでも「マルフォイ家のパーティに呼ばれる家系かどうか」という格差の気配が以前より色濃くなっていた。
「今のところ無理だな。家のやつらは疑り深い。ここでの友達付き合いにもいつもいつも慎重に慎重にってうるさいんだよ」
「メリッサに手紙が来てるのを見たことないんだけど……」
パンジーは言っていいのか迷ったが、いっそ素直に訊くことにした。
「大切な連絡を鳥なんかに頼るワケないだろ」
「ああ、そう」
そして「訊くほどのことでもないだろ」というような返しに何とも反応できなかった。
「まぁ数年も経てば出てくることも有るんじゃないか? 私だけで良いってんなら参加できないでもないが、そういうワケにもいかないんだろ?」
「僕は別に構わないんだけど」
ソファに沈むように深く座って、ドラコは両親に特例を認めさせる口実を探そうとしたが、良いものは何も思いつかなかった。
「メリッサの家って、クリスマス休暇の間何してるの?」
「別に何も。クリスマスが特別な物じゃないからな。キリストなんk(配慮)……イエスさんとミストウッドとは無関係だし」
「そう……」
「それにしてもみんな盛り上がってるよなぁ」
質問が一通り終わって、魔理沙はその辺の椅子の一つに腰を落ち着けた。ジェマが何とも言えない憐れむような顔をしているのは無視した。
「久しぶりに家族に会えるしプレゼントも有るし、26日は色んなお店でセールがあってお祭りみたいになるし27日はパーティだし……なにより授業が無い」
「そう、そう。プレゼント! ドラコのとこは毎年大変だろ。善意の雪崩で怪我するなよ」
マーカスがにこやかに肩を叩いた。クィディッチの試合でグリフィンドールに勝ったおかげでここのところ寝ている間も笑顔を絶やしていないという。一回り太った感じもする。
「あいにく、もう昔に怪我しててね。最近はベッド横じゃなくて空き部屋に置くようになってるよ。皆ももしプレゼントを送ってくれるなら幅を取らないやつにしてほしい」
「ドラコさんはクィディッチがお好きですし、スニジェットでも差し上げようかしら」
「おいおい、それは保護対象の代表みたいなもんだろ」
マーカスは何のつもりかサムズアップした。
「冗談ですわ」
木を隠すには森の中という。いつぞやの絨毯の失言を隠すつもりか、ダフネは頻繁に規制品ジョークを言った。なお、全部素で言っているという噂も有る。
「それで、何を贈ることにしたのかね? 贈る気が有ればの話だが」
休暇初日の夕方。隠し森の、魔法がかかっていない端っこで、魔理沙とスネイプはちょっとした小屋を作る作業をしていた。中に暖炉を作り、魔法界で『姿くらまし』に次ぐ瞬間移動方法である『煙突飛行ネットワーク』を導入しようという魂胆だ。
「まぁそれなりに世話になってるし、歳暮代わりに送るつもりだよ」
「歳暮……」
「そのまま、年の暮れの贈り物。この一年お世話になりましたってな。まだ半年も付き合い無いけど」
「どこの文化だ」
「私の周りの文化だよ。ま、ドラコには適当にペンダントでも。……さて、これで十分だろ」
二人は何歩か後ずさって小屋の全体を見た。魔法で土を盛り上げて形を作りそのまま高質化させるという荒い方法のために、全体に茶色く丸っこかった。しかし意外にも、これがプレッツェル・スティックが刺さった菓子パイのような見た目で可愛らしい。スネイプは顔に出さない程度に驚いたが、魔理沙は初めから計算していたようだった。
そうして最後に近所の子供のたまり場にならないよう、茨の繁みで覆った。魔理沙はこの作業の途中、可愛らしい見た目にする意味が無かったことに気付いた。
「ともかく、あとは手続きだけだよな」
「では、行こう」
スネイプは拳に握った手を差し出した。手首を掴めという意図だろうが、魔理沙は無視してその根本の上腕に抱き着いた。握手さえ避けようとしたスネイプへの天邪鬼だ。
ヒュッと飛んで、ダイアゴン横丁のレンタルフクロウ便から魔法省へ申請の手紙を出し、煙突飛行でホグズミードへ。魔理沙はキラキラした粉の一掴みの半分を暖炉の火に落とし、半分はさりげなくしまい込んだ。ボッという音と共に火が大きくなって、色もエメラルドグリーンに変わった。足を踏み入れる(スネイプと違って屈む必要は無かった)。炎そのものの温度こそ人肌よりすこし低いくらいになっているものの、煤と灰は熱く煙たいままだ。涙と咳を堪えながら「ホグズミード」と唱えると、今度は高速回転。料理屋の大型グリルの上に優雅に着地したときには煙突飛行が大嫌いになっていた。
ホグズミード村は魔法族しかいない村では最大の物だという。イタズラ用具店やお菓子屋、イギリス一の幽霊屋敷があるという噂を知っていて後ろ髪を引かれたが、スネイプは問答無用という様子で通り過ぎてしまった。
そうして村の外れの小道からホグワーツへ。一年生たちが使う道ではなく、入学のときに上級生たちが向かった方だ。少し進むと三倍ほどの幅の道に出た。こっちもぬかるんで凸凹していたが、轍が見えるのが大きな違い。馬車道だ。すこし突っ立っていると、ガタゴトと揺れながら、古めかしい馬車が一つ到着した。
「こりゃ趣味の良い馬だこって」
魔理沙の口から乾いた笑いがこぼれた。馬車そのものは「古めかしい」で片づけられるが、繋がれた馬は古いとか年寄りだとかを軽く通り越してまるでミイラだった。骨の浮き出たガリガリの黒い馬の身体に蝙蝠っぽい羽とトカゲじみた頭くっついている。トドメに目は死んで数時間経った上に熱を通された魚のように濁っていた。
「見えるのか?」
「見えない感じのアレなのか?」
「セストラル……T—H—E—S——。図書館ででも調べるが良い」
黴臭い箱に閉じ込められてグラグラ揺さぶられる道中は決して快適とは言えなかった。少し前の煙突飛行のこともあり、魔理沙は少し無口になっていた。スネイプはやたら饒舌だった。たぶん嫌がらせだから降りるときに足を踏んづけてやった。
ホグワーツに残っている生徒も教師も本当に少なく、毎日大賑わいだった食事時の大広間も、それぞれの長机に数人がポツりポツりと座っているだけだった。クリスマスを家族で過ごさないのは何かしら"事情"がある場合くらいだ。
そういう意味で、ウィーズリー兄弟が残っているのは意外、さらに図書館に居るというのは輪をかけて不思議だった。ハリーと一緒に、近代魔法史や偉人伝の本を広げて唸っている。
「父さんと母さんが兄さんの一人に会いに行くんだ」と、ロンが答えた。ロンの兄の一人、元グリフィンドール首席且つシーカーのチャーリーはドラゴン保護の仕事のためにルーマニアに居た。
「それで、突然勉学に目覚めた理由は? 特に歴史は不人気な教科だったと思うが」
ハリーたちはとても具合の悪いような顔をした。魔理沙が持っている本の表紙絵が気味の悪い闇の生物の蠢く姿だったからではない。
「えーっと、僕たち、ちょっと成績が危ないんだよね。だから自主勉強をしてるんだ」
「危ないならもう少し授業範囲に合った勉強をした方がいいと思うぞ。授業はまだ紀元にも入ってないくらいだ。すっぽり2000年近く抜けてる」
「あー、そうだね、まぁ、興味有る範囲からってことで……」
ハリーたちはクィディッチの後、ハグリッドの口からこぼれた「フラメル」の項目を探し回っていた。しかし、どんな人で載るならどんな本なのか分からない。今では近代史に関しては専門家でもなかなか見ないような書物にまで手を出していた。
そしてそれはスネイプが狙っている四階の宝が何か調べ、更にはそれを阻止するためだ。
ここで問題なのが、メリッサがどちらの味方なのかという話だ。今のように明るくてグリフィンドールにもフレンドリーだが、一方でスリザリン生でも他に無いほどスネイプと親しい。本当ならメリッサにもフラメルについて訊きたいくらいだが、嗅ぎ回っていることがスネイプにバレるかもしれないと考えると出来ない話だった。
「勘付かれたかな」
魔理沙が立ち去った後、ロンがハリーに耳打ちした。
「分からない。……でも、調べ方を見直すにはいいタイミングだと思う」
「見直すって、どうやって? 聞き込みとかはできないし……今だってマダム・ピンスにも訊かずにやってるんだぜ?」
ロンはもう諦めようと切りだすつもりだ。
「ハグリットがあんなに一生懸命になって隠すんだ……やましい物かもしれない」
ハリーは図書館の奥まった一角に目を向けた。
ロープで仕切られた向こう側、許可証を持った生徒だけが閲覧を許される本の棚だ。強力な闇の魔術や危険な魔法薬の知識を必要とする極限られた上級講義を受ける際に使用する。もちろん、先生たちがハリーのためにサインしてくれるはずはない。
「パーシーが堅物じゃなきゃ監督生の信用を活かしてくれたかもしれないけど、残念ながら"ああ"だ」
「フレッドとジョージからイタズラのノウハウを教えてもらえば……」
「たぶんそれができてたらもう僕らは"お宝"にお目にかかってると思うな。ここって、いかにもあの二人がめちゃめちゃにしたがりそうな落ち着いた場所だもの」
フラメルの調査が行き詰って、二人はいっそクリスマス休暇を満喫することにした。人が少なくなって談話室の暖炉も寝室の大部屋も好き放題に使えるようになって、それこそ城主気分でゆったりと過ごした。
そんな中で、二人が熱くなったのはチェスだ。
駒が一つ一つ生きているようで、言葉を話し、プレーヤーの命令で動いた。ロンの駒はおじいさんのお古らしく、少しくたびれていたが正に歴戦の勇士のようで、ロンの言葉に子気味良い短い返事をして応えた。反対に、ハリーはシェーマスから借りた新しい駒を使っていたのだが、これが酷く反抗する。初心者のハリーを信用せず、大駒に至っては見下してすらいるようだった。これは交代でプレーした魔理沙がクイーンに無慈悲で惨たらしい制裁を加えるまで続いた。そうして従順になった部下と共に挑んだ戦いで、ハリーはロンとの実力の差を痛感させられた。ポーン一つの対価にルークやビショップを払わなければならないのは、駒が言うことを聞かないせいではなかったのだ。
そしていよいよクリスマスの朝。
厳めしく重々しいスリザリン寮に、突如としてプレゼントの山ができていた。その目に刺さるような鮮やかな色合いと何とも言えない幸福感に、魔理沙は「乙女の部屋に不法侵入されてるじゃないか」と考える間もなく跳ね起きた。
一つ手に取る。艶のある深い緑色に銀のリボン……スリザリンカラーの包はドラコからの高級箒研きセットとクィディッチプロリーグのスーパープレイ写真(もちろん動く)集だ。魔理沙が箒改造に凝っているのをチャンスと見てクィディッチに引き込むつもりらしい。それに対抗したのか、ダフネは空飛ぶ絨毯の切れ端(もしくは空飛ぶ厚手のハンカチ)とジンニーヤーの煙人形(そのまま、煙でできた人形)を贈ってきた。いずれもアラブ世界由来のものだが、キリスト教の行事であるクリスマスにはどうなのだろう。アラブとイスラムが完全なイコールで繋がれるワケではないし、魔理沙本人がなかなか気に入ったから、何も問題無いと言えばそうなのだが。
それにしてもこっちから二人に贈った手作りペンダントに比べてかなり金のかかってそうなのが来たな、と苦笑した。
あとはパンジーからそれひとつで香油を塗ったように艶が出る髪ブラシ、ミリセントからの背伸び薬は余計なお世話……他にも、魔理沙からも贈った人やそうでない人まで色々なスリザリン生からのプレゼントがあった。さすがに関わりの薄い間でのプレゼントはしょぼかったが、それでも全体でプレゼントに使った金額は莫大なものになるだろう。
しかしスネイプに贈った薔薇の香りとオーラ的なものが出るシャンプーのお返しはついに見つけることができなかった。
同じとき、スリザリンほど社交辞令にうるさくないグリフィンドール寮でもちょっとしたプレゼントの山ができていた。それをハリーとロンが口々に感想を言い合いながら崩していく。
ハグリットの横笛は見た目こそずんぐりしていて粗削りでも口にあててみると違和感はそんなに無かったし、音は梟の声のようで深みが有った。その次に開けた薄っぺらい封筒の中身はハリーの叔母夫婦、ダーズリー家からの50ペンス硬貨だった。これはキャッチしないタイプのコイントスの後ロンのものになった。マグルのお金だし、特に七角形なのが面白いらしい。反対に、ハリーはチャーリーからロンへ贈られたドラゴンの爪に心奪われた。しかし、これはロンもとても気に入っている様子だったから、ハリーにとって1ペンスの有難味も無かったコインと交換で買い取ろうとは言いだす気にもならなかった。
ロンとハリーに、同じ包みが何組かあった。一つはハーマイオニーから百味ビーンズと、蛙チョコの大箱。もう一つはメリッサから毬藻。クリスマスプレゼントはもらうものだとばかり思っていたから、まさか同級生から来るとは考えていなかった。ロンは「来年からは僕らも贈らなきゃだめかな」と複雑そうな顔をした。そして大きくて柔らかい一つは、ロンの母親であるモリー・ウィーズリー手製のセーターで、ハリーがエメラルドグリーン、ロンが栗色だった。たくさんの手作りお菓子も入っていた。母親のお節介癖にロンは少しはずかしそうだったがハリーはとても嬉しかった。
最後に、ハリーの方に一つの包みが残った。ダーズリー家のゴミと負けず劣らず質素な包みで、かなり軽い。あまり期待する気にもなれず、ぞんざいに破いた。その裂け目からヌルリと銀色のものが滑り出し、床に広がった。触ってみると、液体ではなかった。とても滑らかで空気か水かと間違えそうになるが、確かに布だ。とても薄い。腕にかけて広げてみると、なんと向こうがきれいに透けて見えた。
……腕ごと。
「それ、『透明マント』だよ……!」
ロンの言葉は興奮のあまり逆にゆっくりだった。
「でもなんでそんなに高いもの……ニンバス2000みたいにマクゴナガル先生かな」
ハリーがマントを腰に巻いたり頭から被ったりしている間に、床に落ちていたカードをロンが読み上げた。
「『君のお父さんが亡くなる前にこれを私に預けた。君に返す時が来たようだ。上手に使いなさい。メリークリスマス』……名前が無いよ。まさか『メリークリスマス』って名前じゃないよね」
「父さんの……」
「……だとしたら、これ凄いよ。めちゃくちゃ」
「どういうこと?」
「聞いた話だけど、透明マントって、透明になる力がどんどん無くなるらしいんだ。普通……いや、透明マントってだけで"普通じゃない"高級品なんだけど、普通、何年ももたないんだよ」
その感慨に浸る間もなく、ドタドタとドアの外で足音がした。ハリーが反射的にマントを布団の下に隠したのと殆ど同時にフレッドとジョージが入って来た。二人もウィーズリー家のセーターを着ていた。
その後でパーシーも一緒になって大広間に行く間、ハリーはマントを隠して正解だったと考えていた。
――フレッドとジョージは、きっと父さんのマントを僕より上手く使ってしまう――
ぬ