香織先輩に彼氏がいたならば【本編完結】   作:お家が恋しい

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キャラ崩壊してもいいじゃないか 二次創作だもの


ネタのような幕間

ライブで日本に来るのは三年ぶりになる。

カナダの誇る世界的ロックバンドがワールドツアーの最後に選んだのは日本であった。他の世界的なアーティスト達に比べて知名度は低いものの、年々日本でもファンが増えており三回目の来日となる今回は初の全国二ヶ所での公演となる。

東京と大阪。二大都市で行われるライブに、浩介と香織は運良くチケットを手に入れることができた。

 

ライブは日曜日。幸いなことにその日は二人ともに部活動が入らなかったため、夕方のライブ開始時間までライブ会場となる大阪で遊ぶことにした。

京都駅から電車で約四十分。たったそれだけの時間なのに、街の雰囲気は大きく変わっているように思えた。どこに行く予定も立てていないので適当にショッピングモールへと足を運ぶ。道すがら聞こえてくる会話は異国の言葉に思えてくる。ふわりとソースの匂いが鼻腔をくすぐる。ああ、ここは大阪なのだ。お腹がぐーっと鳴いた。

 

 

 

 

 

 

「あ、この映画そろそろ公開なんだ」

 

「うん? この映画興味あるの?」

 

 

適当にショッピングモール内の散策をすること一時間。映画館の前には近日公開予定の映画のポスターがあった。青春を感じさせる遥々とした青い空をバックに二人の男女が背中を合わせ立っているそのポスターに香織はスマホのカメラを向けた。

 

 

「偶々予告編を見る機会があったんだけど、すごく面白そうなの」

 

「へぇ、じゃあ今度行こっか」

 

 

全国大会を目指して部活動に励んでいる以上、本当に実現するかは分からない口約束。でもデートの約束は幾つあっても良い。

そんな会話を当たり前のように交わす二人。もし優子がこの現場を見たならば、顔を顰め砂糖を吐き続けることは想像に難くない。

 

その後もお金のない高校生の味方、ウインドウショッピングをしながら適当な時間になってきたこともあり目的の場所へと向かう。

 

 

「ここだよ!」

 

「なるほど。わざと時間をずらしてきたのに結構並んでるな」

 

「それだけ美味しいってことだよ」

 

 

二人が立ち止まった店には既に何人か列を作り並んでいた。

メニューには様々なパンケーキが所狭しと紹介されている。見ているだけでお腹いっぱいになれそうだ。口には出さないけれど浩介の素直な感想である。

程なくして列も進み浩介たちは店内へと案内される。やはりパンケーキを扱っている店なだけあり、男性の姿はちらほらと確認できるくらいだ。壁やインテリアはややハワイアンなテイストで演出されているが、パンケーキと言えばハワイなのだろうか。

 

 

「何選ぶかは決めてるの?」

 

「うん。これとこれ」

 

「二つ頼むの……?」

 

「え? 私と浩介の分だよ?」

 

「あ、なるほど」

 

 

浩介も食べることになっているらしい。香織に気付かれないよう財布の中を確認する。大丈夫。帰りの電車賃を考えてもギリギリ間に合う。

しかし、パンケーキは中々に高い。メディアでも大々的に紹介されているし、一種のブランド化のせいだろうか。

十分、いや二十分は待った頃にお目当てのパンケーキは運ばれてきた。本物は思ったよりも大きいみたいだ。既に香織の顔が綻んでいる。

 

 

「いただきます!」

 

「いただきます」

 

 

ナイフでひと口大に切り分け口へと運ぶ。

予想と異なり意外と甘過ぎない。しつこくない程度にほんのりとした甘みが口の中に広がる。ホイップクリームが優しく生地を包み込みふわりと軽やかな口どけを与えてくれる。

香織を見ると口角を目一杯あげていた。これ以上ないほどの笑顔に浩介もつられて頬が緩む。

 

 

 

きっとこれは幸せな時間。

これからもこの人と一緒に過ごしたいと思える幸せな日常の一幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************

 

 

 

 

 

放課後の教室。

浩介と香織、そして晴香と優子という珍しい面子が集まっていた。

教壇には浩介が立っている。

 

 

「さて、今日の議題についてだが、まず先に名前を決めなくてはいけない」

 

 

浩介は黒板にチョークを走らせる。

 

KMAとKME。

 

参加者の優子と晴香は腕を組んで唸っている。

 

 

「ねえ」

 

「はい、中世古くん」

 

「急に名字呼びなの?」

 

「これは会議だからね。それで何か意見かい?」

 

「二つの文字並びの意味は何?」

 

「このメンバーの集まりが意味するキーワードの略称候補だよ」

 

 

まずそれくらいは押さえておこうね、とあたかも常識を伝えるかのように諭す浩介。

 

 

「いや、ついて来てって言われたから来ただけで、まず私はこれが何の集まりか知らないよ?」

 

「吉川くん、中世古くんに説明したまへ」

 

「はい、議長。香織先輩、これは通称––––香織先輩マジ天使をモットーに、日々活動する選ばれし者たちの集まりです」

 

「はい?」

 

 

香織は一瞬時が止まるのを感じた。

耳が遠くなったのだろうか、全くもって理解出来ないワードが羅列されていた気がする。

 

 

「正しく英語を使うのであれば、『KMA』を用いるべきだと思います」

 

「晴香も何普通に発言してるの?!」

 

「私は、既読スルーを『KS』としているのと同じように、親しみやすさをこめて『KME』にすべきだと思います」

 

「優子ちゃん?!」

 

「中世古くん、議論の最中です。お静かに」

 

「黙るのはみんなだからね?!」

 

 

香織は混乱状態から抜けられずにいた。

この三人はどこか頭のネジが緩んで––––いや、パーツごと吹っ飛んでしまったに違いない。

 

 

「でも確かに、Aをアホとか言う不届き者がいる可能性があるから、それを抹殺する手間を省くためにもEの方が適切かもしれません」

 

「それを言うと、Eもエロとか言う人がいるんじゃないでしょうか?」

 

「香織のエロいところを知ってるのは俺だけで十分だ」

 

「おいバカ浩介」

 

 

ひッ……!

余りにも馬鹿げた発言に香織の堪忍袋の緒は切れかかっていた。

その漏れ出している殺気で怯んでしまう浩介をしり目に、優子と晴香の議論は加熱していた。

 

 

「香織先輩はエンジェルなんです! 親しみやすくEにすべきです!」

 

「正しくAにしといた方が、香織が勉強出来ないみたいに思われないし安心だよ?」

 

 

一番バカにされているのは私ではなかろうか。香織は考えることが面倒になり思考を停止させた。

議論はその後三十分を過ぎてようやく落ち着いてきた。

 

 

「では、我々は今後KMEを名乗っていくことにします」

 

「賛成!」

 

 

浩介の発言に二人は立ち上がり拍手する。香織はもう耳も傾けずにスマホをいじっていた。なるほど、今日の運勢は最下位だからこんなことになっているのか。

 

 

「時間が押しているので、今日話し合う予定だった議題は次回に行います。最後に例のアレをやって締めましょう」

 

「あ、やっと終わるんだ」

 

「香織先輩も一緒にやりましょう!」

 

「何するの?」

 

 

香織の疑問に笑顔で頷く優子。

いや回答になっていないから、という香織のツッコミをスルーし四人は円を作る。香織も何故か輪に加わっていた。

 

 

「香織先輩は〜」

 

「マジ天使!」

 

 

掛け声と共に手を叩く。一丁締めの要領だ。

あっけに取られた香織はただただ口を開いて固まっていた。

何だこの茶番は。

突如、視界が回り、蛍光灯が歪んで見えた。

 

 

 

 

 

 

「……おり、起きて。香織、そろそろ降りるよ?」

 

「うーん……。あれ……? ここは」

 

「電車の中だよ。そろそろ駅に着くからね?」

 

「そっか、夢だったんだ」

 

「眉間にシワが寄ってたけどあまり良い夢ではなかったの?」

 

 

心配そうに覗き込む浩介に大丈夫と答える。

夢の浩介もあんなのでもカッコよかったけど、やっぱり現実の浩介の方が良い。香織は腕を取ると強く抱き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なかなか面白かったな」

 

「うん。最後とか泣いちゃった」

 

「音楽も絶妙だったし」

 

「あんなところで歌流すとか泣かせにきてるよ」

 

 

映画館を出て近くの喫茶店に入ると早速感想を言い合う。二人で映画を観た後は恒例になっていた。

若干冷房が効き過ぎているように感じたため、ホットコーヒーを口に含む。

 

先日大阪で開催されたライブに参加した際に見かけたとある映画の宣伝ポスター。公開初日から大きな反響を呼んでいるその作品は香織はもちろん、浩介の興味も大きく引いていた。

 

平日の夕方、ちょうど良い時間にチケットを購入出来たため、部活帰りに二人は映画館へと足を運んだ。

 

 

「でも実際に入れ替わったりしたら大変だよね」

 

「そうだな。仮に俺と香織が入れ替わったとして、一日をやり過ごす自信はないな」

 

 

浩介はコーヒーを口に運びながら想像する。

 

 

 

 

 

 

もし、香織の中にいる時に優子に会ったなら……。

 

 

「香織先輩! おはようございます!」

 

「おはよう、デカリボンちゃん」

 

「香織先輩?!」

 

「冗談だよ、おはよう優子ちゃん」

 

「今日なんか進藤先輩みたいですね。そういえば進藤先輩は一緒じゃないんですね?」

 

「ああ、あのイケメンは今日は部活あるって先に行っちゃった」

 

「イケメン?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、ダメだね」

 

 

浩介は一人納得する。

もし入れ替わった場合、部活にも参加しなくてはいけない。音楽に対する知識が欠如しているために、それは非常に難易度が高くなる。

何となく、簡単にお互いの知識を確認してみる。

 

 

「浩介はスタッカートって知ってる?」

 

「カスタネットの仲間?」

 

 

あ、ダメだ。香織は眉間に手を当てた。部活が始まって数秒でバレる。それは逆もまた然り。

 

 

「香織はセンタリングは分かる?」

 

「センターとリング……。コートの真ん中の丸のことかな?」

 

「うん。二人とも学校休んだ方が良いな」

 

「そうだね。でも浩介になるのも楽しそうかも。180センチの視界なんて見たことないし色々新鮮に見えるのかな」

 

「確かに。色々新鮮かも」

 

 

 

––––今度は何を観に行こうか。

 

まだ夏休み始まったばかりである。部活に取られる時間は多く中々予定を立てることは難しい。

それでも高校最後の夏休みを楽しみ尽くすために遊びの予定を次々と決めていくのであった。

 

 

 

 

「ふと思ったけど、吉川が香織の中に入ったら男子以上に色々ヤバそうだな」

 

「それは言わないお約束だよ」

 

 




君の名は。の短編書いたので幕間にもネタにしてみた

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