学戦都市アスタリスク【六花に浮かぶ月と幻想】 作:観月(旧はくろ〜)
星導館学園、生徒会室にて。
「……昨日は大変だったみたいですね、お二人とも」
綾斗と聖夜は
「ああ。そんで、犯人は捕まりそうか?」
「それが……ちょっと難しいのよね。風紀委員も、本腰を入れて手がかりを探してくれてるんだけど……」
「……なにぶん、被害を受けた方達が非協力的でして」
困ったような笑顔でクローディアがそう言う。
「こちらが協力を申し出ても、皆『自分でやる』の一点張りなんですよ」
「全く、大人しく然るべき所に任せりゃ良いのに。そんなだから、不意打ちなんかで痛手を被るんだ」
「……手厳しいね、聖夜」
「そういうわけじゃないって。ただ、実力を過信している人が多いからさ」
実力を謙遜し過ぎる人よりも、過信する人の方がよっぽどタチが悪い。そういう人は、必ずどこかでやらかすからだ。しかも大体が周りを巻き込み、往々にして厄介なことになる。
「……ユリスとセレナも強情だよなあ」
「あの二人には実力がありますからね」
「まあそれは分かってんだけど……昨日だって気付いたのは俺だったから、ちょっと心配でね」
まあセレナに聞かれたら、「アンタに心配される必要はないわ」って一蹴されるだろうけどな、と聖夜は心の中で苦笑。
すると、時雨がふと聖夜に聞いた。
「そういえば、昨日の奴らを撃退したのは紗夜と聖夜だって聞いたけど……一体何したの?」
「何したって言われても……紗夜さんの方は知らんけど、俺はスペルカードを使っただけだよ。能力が要らない方の」
「……なんか嫌な予感しかしないんだけど、それって?」
「うん? ……『ゲイ・ボルグ』を直撃させたけど、それがどうかした?」
「ええー、全く何してんの……」
やれやれとこめかみをを押さえる時雨。
「うーん……? でもそうなると、確かに不思議なのよね。威力は落ちてただろうけど、それでも聖夜の中では高威力の部類に入る技。それを受けて逃げられたなんて……」
「……ふむ。聖夜、貴方は何者ですか?」
突如として真剣な表情で割り込んできたクローディア。そのただならぬ様子に、聖夜も少し真面目になる。
「平凡な高校生だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
とは言ってみたものの、彼は直後に自身の発言がおかしいことに気付いた。このアスタリスクという場所に居る以上、『平凡な高校生』ということはありえないということを。
彼は内心で苦笑したが、しかし生憎とクローディアはそれを拾ってくれなかった。
「いえ、時雨がこう言っている以上、貴方はとんでもない実力を持っているのでしょう? そもそも、その技……『スペルカード』というものは何なのですか?」
詰問する……というような口調ではないものの、確かな疑念の意を持ってクローディアは彼に問う。それを受けた聖夜も、異世界人だという事はバレないように、しかし言えるところまでは事実を言おうと、得意のポーカーフェイスで答えた。
「なんて言うか……あれはまあ、言うなれば設置型能力の応用かな」
「どういう事ですか?」
「元々札か何かに技のパターンをプログラミングしておくんだ。そうすれば、発動する時の星辰力を抑えられるだろ?」
「ええ、その理論は分かりますが……何故『魔術師』でもない貴方がそんな事を?」
「昔から遊びとしてやってたからかな……元々は、『魔術師』や『魔女』と対等に戦いごっこをする為の物だったんだよ」
「ふむ……」
「星辰力を形にして弾なんかにする……それは、慣れれば出来ることだからな」
ここらへんは概ね事実である。『弾幕ごっこ』は遊び。それは、幻想郷の住人の共通事項だ。星辰力を形にするということも、相応の努力をすれば星脈世代ならできるようになるだろう。
「分かりました。ずっと疑問に思ってた事だったので……」
しかし、と彼女は続けて。
「失礼ですが、貴方の星辰力は見た感じそんなに多くはないはず……そんな技を撃っていたら、すぐ
「ま、そりゃね。連発できないからこそ、一撃の威力を高くしてるわけだし」
属性力分もあればまた違うんだが……と聖夜は少し黙った後、
「まあ、そこは純星煌式武装に頼るって感じで」
「確かに、純星煌式武装は強力ですが。……それについても、少し質問してもよろしいですか?」
「どうぞ。ただ、これに関しては
「心得ています。では……あの純星煌式武装は一体どのようなものなのですか?」
そう聞かれた聖夜は、腰のホルダーから王牙大剣のコアを取り出す。
「こいつは王牙大剣って言ってね。能力としては、雷や磁力を操るってとこ。もちろん、使えば星辰力を消費する」
「ふむ……その代償は?」
「いや、あまり意識した事はないな……扱うのは純粋に難しいけど、それは代償とは言えないだろうし」
「……分かりました、ありがとうございます。生徒会長として、それは聞いておかなければならなかったので……」
「まあ、純星煌式武装は不安定だもんな」
聖夜の場合はまた少し違うが、基本的に純星煌式武装とはそういうものである。リスク管理を行うのは当然と言える。
「……まあ、今日はその適正検査なわけだけどさ。綾斗にも合うのがあると良いな」
「ありがとう。聖夜にもあると良いね」
「まあな……こう、星辰力の量を上げるやつとかあれば良いけど……」
「……一応、あるにはあるわよ」
「……マジで?」
「ええ。ただ、今まで一人しか適合者が居なかったものだけどね」
一体どんなものなのかと聖夜がさらに質問しようとした時、扉が荒々しく叩かれた。
「ああ、すみません。今日はもう一人、検査を受ける人が居まして」
どうぞ、とクローディアが扉の向こうへ声を掛けると……やや乱暴に扉が開けられ、綾斗と聖夜は見知った三人組の男が入って来た。
彼らが相対した瞬間に広がった微妙な雰囲気に、クローディア達も気付いたらしい。
「あら、知り合いだったのですか?」
「知り合い、ね……」
「あー、まあ何と言うか……」
「な、なんでお前らが?」
小太りな男……確かランディといったか……が、驚いた様子で綾斗達に問う。
「そちらさんと同じ要件でね」
聖夜はレスターをちらりと見ながら答える。それに対し、レスターはふん、と鼻を鳴らした。
「さっさと始めちまおうぜ。時間がもったいねえ」
「短気は損気と言いますが、確かにそうですね。では、こちらへ」
クローディアがさらりと毒を吐いたが、誰かがそれを咎めることも無く、連れ立って何処かへと向かう。
「で、何処へ?」
「地下よ。そこに検査用の施設があるの」
この学校地下もあんのかよ、と聖夜は驚いた。しかし、ここでは普通かと考え直して、聖夜は素直に付いていくことにした。
ふと彼が綾斗の方を見ると、綾斗はクローディア、レスターと何かを話していた。……あ、クローディアがまた毒吐いた。良い笑顔をしていらっしゃる。
聖夜も時雨と何気ない話をしていたのだが、ふと気が付くとそのテスト施設のすぐ前まできていた。ガラスが広く貼ってある部屋で、その向こうでは白衣を着た職員が慌ただしく動いている。
「うわ……凄いSF感」
「今更何言ってんの……」
……ごもっとも。
と、聖夜は、クローディアに何かを話しかけた時雨に代わって綾斗と話し始めていたのだが、不意にレスターの取り巻きの一人がこちらへやってきた。ランディではない、もう一人の痩せぎすの男だ。
「や、やあ。この前はすみませんでしたね」
確か……サイラスと言っただろうか、気の弱そうな笑みを浮かべている。そして、小さく頭を下げた。
「レスターさんもランディさんも悪い人じゃないんですが……あの調子ですから、また何か不愉快な思いをさせてしまうかもしれません。昨日も二人で何か話してたみたいで……」
「おいサイラス、何やってやがる!」
「そうだぞ、早くこい!」
「は、はいっ!」
突如として前から飛んできた怒声に、サイラスはもう一度綾斗達に頭を下げ、慌てた様子で戻っていった。どうやら、彼はあの中で一番下らしい。
その一連の様子を見て、聖夜は心の中で一つ。
(なーんか胡散臭いっつーか……警戒しておいた方が良いかな)
彼は既に、何かに勘付いていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「では、こちらで検査を受けてもらいます」
「俺からやるぜ。いいな?」
「ああうん。どうぞ」
「同じく」
聖夜も綾斗も、特に異論はない。そのまま、レスターは純星煌式武装が入っているケースの方へと歩いて行く。そして、壁際の端末を手慣れた感じで操作し始めた。巨大な空間ウィンドウが次々と表示される。
「へえ、ケースって結構な意匠が施されてんだな」
「うふふ、無駄に凝ってますよね」
「無駄って……」
「そう? 私は格好良いと思うけどなあ」
と、レスターが取り出した純星煌式武装を見て、クローディアの顔が真剣味を帯びた。
「おや、『
「『黒炉の魔剣』?」
「ええ。かつて『触れなば溶け、刺さば大地は坩堝と化さん』と謳われ恐れられた純星煌式武装です」
「……それはまた仰々しいね」
「そのくらいの力を持っていますから。……ああいえ、私が言いたいのはそうではなく」
そう言うと、彼女は一旦言葉を切った。
「……あれが件の、データが改竄されていたという純星煌式武装なんですよ」
「あれが……」
驚いたようにそう言って、綾斗はその剣を見据える。
と、ここで聖夜にも事情が分かった。天啓のように知識が蘇る。
(そうだった……あれは綾斗の姉が使ってた武器だ。で、結局は……)
どうやら、何かそれに繋がる事を見たり、聞いたりすると
それを肯定するかのように、職員の声が響く。
「適合率、三十二パーセントです」
「なめるなあああぁぁぁぁ!」
激昂したレスターは、剣を握る力を更に強める。力でねじ伏せようとしているらしい。
しかし、そんなものが純星煌式武装に通じるはずもなく。
「ぐはぁっ!」
『黒炉の魔剣』は突如閃光のようなものを発し、レスターを弾き飛ばした。しかも独りでに浮いているというおまけ付きだ。
「拒絶されましたね」
「……あれが、純星煌式武装の意志ってやつか?」
「そうよ。……まあ、コミュニケーションとかが取れるってわけでもないんだけどね」
『最終的な適合率は二十八パーセントです』
「まだまだぁ!」
吹き飛ばされたレスターはなおも諦めず、『黒炉の魔剣』を構え直そうとする。しかしその度に、彼は壁際へと弾き飛ばされた。
「ああいう真っ直ぐな姿勢は嫌いではないのですが……少なくとも、あれはお気に召さないようですね」
「確かに……」
「……あんなに強引じゃ口説けないだろうさ」
『適合率、十七パーセントです』
下がり続ける適合率に、レスターはもう苛立ちを隠そうともしない。彼はもはや、魔剣に触れる事すら出来ていなかった。
「いいから…………俺に従えぇぇぇ!」
彼は激昂し、絶叫しながら再度向かっていく。……だが次の瞬間、『黒炉の魔剣』が一際強い閃光を放った。それと共に、強い熱波が部屋中に広がる。
『適合率、マイナス値へシフト!これ以上は危険です、すぐに中止してください!』
「ああいけません、本格的に機嫌を損ねてしまったようです」
スピーカーとクローディアの両方から焦ったような声が発せられる。
しかし、大変だという事は綾斗達も感じているのだ。サウナと化した室内で、聖夜以外の人達は汗をかいて熱波に耐えていた。……そう、聖夜以外は。
「純星煌式武装の暴走、か。これは中々大変だ」
「……全然そんな風には見えないんだけど」
「このくらいの熱ならまったく問題無いからなー」
涼しい顔をしてそう言う聖夜は汗一つかいていない。それもそのはず、彼は『暑さ軽減』のスキルを発動させているのだから。もとよりハンターは暑さ寒さには強いし、スキルもあれば尚の事だ。
『対象の熱量、急速に増大中!至急避難を!』
「って言われてもな……どうするよ?」
今の聖夜の言葉にはいくつかの意味が含まれていた。まず、この状況で逃げられるかということについて。
――そしてもう一つ。『黒炉の魔剣』の切っ先がいつの間にか綾斗に向いており、それをどうするのかということについて。
「……なんか、俺が狙われてるみたいだね」
「みたいだな。どうやら、『
「……普通のダンスならもっと良かったんだけどね」
聖夜と軽口を叩き合いながらも、綾斗は一歩前へ出る。それを受けて、聖夜は自分と共に他の人を下がらせた。そして、少しでも熱波を遮るために結界を展開する。
「……あとは見守るだけだ」
聖夜がそう呟いたのと同時に、綾斗の方でも動きがあった。『黒炉の魔剣』が綾斗に向かって高速で突っ込み、それを綾斗がギリギリで避ける。
その後も飽きることなく魔剣は綾斗に攻撃を仕掛けていき、彼もそれを避け続けていく。その攻防はまるで、何かの演舞のようだった。
「なるほど、よく見えてる。でもなんで体が追いついてないんだ……?」
聖夜がふと口にしたその言葉に、周りの人達は全員訝しげに彼を見た。だが彼はそれを気にすることなく、じっと綾斗の攻防に目を向けている。
すると、綾斗の制服が僅かに切り裂かれた。回避し損ねたのではない、やはり人が相手の時とは勝手が違うのだ。
「……これって弁償してもらえるのかな?」
「おいっ!」
そんなとぼけた発言に、レスターの鋭いツッコミが入る。……と思ったが、どうやらそれは警告だったらしい。『黒炉の魔剣』は綾斗の頭上へと舞い上がり、今にも上から突き刺しにいこうとしているところだったのだ。
「綾斗、上だ!」
「よっと!」
聖夜が思わず叫んだと同時に、魔剣は綾斗の脳天目掛けて鋭く落下。しかし、彼はそれを予期していたかのようにするりとかわし、激しく発熱する魔剣の柄を掴んだ。
「あっつ!」
たちまち、綾斗の掌が焼け焦げる音がする。星辰力をそこに集中させてなお、純星煌式武装の熱は防げないのだ。
……だが、しかし。
「しつこくされるのは嫌いなんだ。君と同じでね」
綾斗がこう言った瞬間、今まで発せられていた熱波が嘘のように掻き消えた。見れば、魔剣もすっかり大人しくなっている。
その場にいた全員が唖然とする中、クローディアだけが手を叩いた。
「流石は綾斗です。……適合率は?」
「きゅ、九十七パーセント、です……」
「お見事。……異論はありませんね、マクフェイル君?」
「……くそっ!」
納得していないような表情をしていたレスターだったが、ついに床を殴りつけて悔しさを表した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結界を解き、ブレザーを使って女性陣を扇ぎながら。
「お疲れさん。手、大丈夫か?」
「なんとかね。……それより、聖夜もやらなくていいのかい?」
そうだな……と彼は周りの純星煌式武装のケースを見渡す。折角だし、さっき時雨が言っていたやつでも試してみようかな、と。
だがその視線が一周もしていない時、謎の感覚が聖夜に走った。
(視線……? 一体誰の……)
まるでデートが何かに誘うような、そんな熱っぽい視線を彼は感じていた。では、その視線の主は一体何か。
(……あの純星煌式武装か?)
そう彼が目線を向けたのは、左斜め前の方向にあるケース。彼はそれを指差し、問う。
「……時雨、あのケースに入っているのはどんなやつなんだ?」
「んー、どれ? ……ああ、あれね。私がさっき言ってたやつよ」
そう言うと、時雨は端末を操作してそのケースを聖夜の目の前に移動させた。さっきの熱っぽい視線がますます強く感じられる。
そのケースを開けると、暗い金色に輝くコアが出てきた。
「『
「魔法……幻を、現す……」
その説明を聞きながら、彼はそのコアに手を伸ばす。そしてそれを掴んだ瞬間、心地良い暖かさが彼とそのコアの間に広がった。
「……発動体にしてみたら?」
「……っ!?」
言われるがままにそのコアを発動体へと切り替えた彼は、その姿を見て酷く驚くこととなった。
彼の手には、幻想郷で見慣れた、魔理沙という少女が普段から持っているミニ八卦炉に酷似したものがあったのだ。細かな形や色は違うが、大まかな形状はほとんど同じだ。
「どういう事なんだ、これ……」
そんな彼の呟きに、時雨は答える。
「この純星煌式武装は、適合者のイメージを反映して、一番最初にその姿になるらしいの。まあその後は、その姿から変わらないらしいけどね」
「うーん、分かったような分からないような……」
「つまり、貴方は多分『魔法』をイメージしたんじゃない? そこから魔理沙に繋がって、結果その形になったんじゃないかな」
「ふむ……まあ、それはなんとなく分かった。で、肝心の能力なんだけど……」
「ごめん、そこまではちょっと……何しろ、今までほとんど適合者が居なかったから、資料も少ないの」
ふーむ、と唸ってから、聖夜は『幻想の魔核』をまじまじと見つめる。どこからどう見てもミニ八卦炉だ。武器っぽい見た目では無いため、純星煌式武装にはこんなのもあるのか……と聖夜は興味津々である。
すると次の瞬間、彼の中で何かが弾けた。それと同時に、この武器の使い方がなんとなく頭の中に入ってくる。それに気付いた聖夜は、思わず独り言をこぼした。
「……なるほど、そういう事か」
「えっ? 急にどうしたの?」
「ああごめん、こっちの話。……そういえば、ここって的とかあるのかな?」
「ええ、ありますが……使いますか?」
その問いに聖夜は頷き、彼女達に背を向ける。そして、正面の何も無い空間を見据えた。
「どの位置に、いくつ用意しますか?」
「そうだな……五、六体をランダムで、少し遠くの方に」
そう彼が言うやいなや、前方に六体の人形が現れた。その距離、約二十五メートル。
「サンキュー。……じゃ、試し撃ちといきますか」
呟くと、彼は『幻想の魔核』を腰に引っ掛けた。周りがその行動に不思議そうな顔をする中、彼は懐からおもむろにスペルカードを取り出す。
「スペルカード発動……『天と地の領域』!」
そう彼が唱えた瞬間、二対の炎で象られた火竜が現れた。その竜達は四体の人形を食い破り、上に昇って急降下しながら、地面に着弾すると共に残る二体の人形を巻き込んで爆発する。それを見て、聖夜は満足そうにガッツポーズして言った。
「っし、上々!」
「やっぱりね……全く、派手にやり過ぎよ」
全員が驚愕に目をむいていたが、唯一時雨だけがそんな呆れた声を発する。彼女はなんとなく聖夜のやることを予想していた。
だが、聖夜はそんな時雨にニヤッと笑いかける。そしてそれを受けた時雨も、何が起きるのかまた予想出来てしまい、困ったようにこめかみの辺りを押さえた。
「……まだ終わらせるつもりはないんだけどな。クローディア、追加で五体、さっきと同じように頼む」
「……了解です」
クローディアもなんとなく察したのだろう、苦笑しながら再び的を用意した。
「……で? 次は何するつもり?」
「……ヒント、ミニ八卦炉とその持ち主」
「あーもう大体分かっちゃったんだけど……」
この二人の間でしか伝わらない会話。……さて、彼は何をするつもりなのか。
「スペルカードは無いから、星辰力の消費は相当だろうけど――『マスター………スパーーック』!!」
彼が『幻想の魔核』を正面に構えてそう叫んだ瞬間、膨大な光の奔流が目の前の空間を人形諸共呑み込んだ。周囲の驚愕の度合いがますます大きくなる。
この技は、幻想郷で霧雨魔理沙という少女が使うスペルカードだ。絶大な威力を誇るレーザーを狙った方向に放つ、まさに必殺技である。
だが、それを放った彼は少しふらついていた。
「あーくそ、ごっそり持ってかれた……こんなのを連発出来るなんて、あいつはどんだけ膨大な魔力を持ってんだよ……」
「貴方の霊力が少なすぎるだけでしょ……ていうか何よ、属性力使えてたじゃない」
「ああ そりゃこいつのおかげだ。これで少しはまともに戦えるだろ。……まあ、星辰力はあまり増えてないんだけどな」
「あれ? そうなんだ。一気に増えると思ってたんだけど……ちなみに、どのくらい増えた?」
「属性力一種分ほど」
「少なっ!」
時雨が思わず食い気味にツッコむのにも理由がある。
元々、聖夜は少ない霊力を補うように、自身の能力である『属性を司る程度の能力』による五つの『属性力』を駆使して戦っていた。その属性力全体の量は並の能力者の妖力や霊力、魔力と同等。よって、それらを霊力と組み合わせることで他の人達よりも長く戦う事が出来ていたのだ。
だが、今増えたのはその中の一種分だけだという。……どう考えても、純星煌式武装の能力の多用は出来ない。
だが、聖夜は意外と余裕そうだ。
「近接戦闘多めでやれば平気だって。腕もなまってたところだったし、ちょうどいい」
それより、と彼は職員の方を向いて言った。
「……適合率、どのくらいでした?」
「は、はい……きゅ、九十八パーセントです……!」
「よっしゃ!」
職員が驚きながらそう言ったのを聞いて、聖夜は大きくガッツポーズ。腰の『幻想の魔核』も、嬉しさを表現するかのように一瞬輝いた。
――かくして、『幻想郷の住人』は復活する。