学戦都市アスタリスク【六花に浮かぶ月と幻想】   作:観月(旧はくろ〜)

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第二話〜バランスブレイカー〜

「……転入初日からこんなに疲れるとは」

 

放課後、俺は大きく溜息をつき机に突っ伏した。錬が面白半分に肩を突いてくる。

 

「ははっ、かなり疲れた様子だな」

「当たり前だ。少なくとも、決闘に関しちゃ俺の隣に聞きゃ良いのに」

「それが出来たら苦労しないさ」

 

まあ、あれじゃお近付きになるどころか、話しかけることすら高難度だけど。

 

「はぁ……そういえば、なんでセレナは『お姫様』なんて呼ばれてるんだ?」

「ん? ああ、知らないのか。ヨーロッパの王室名鑑にも載ってる生粋のお姫様だぜ?」

「……マジで?」

 

本物の王室の人間とか聞いてないぞ。いくら月影家の人間とはいえ、一国の王女様に喧嘩売って大丈夫なのだろうか……。

 

「まあでも、これでしばらくは記事ネタに困らねえなあ。特待生様々だぜ」

「……頼むから変な記事にすんなよ? まず間違い無く消されるからな、物理的に」

 

誰に、とは言わなくても分かるだろう。どこぞの影遣いの少女である。

 

もちろん錬にも伝わったようで、彼はおどけながら言った。

 

「流石に副会長は敵に回さないって。影に飲み込まれるっていう噂もあるし」

「あー、時雨の能力の事か? それ、噂じゃなくて本当の話だぞ」

「……は?」

「確か、相手の足元に影溜まりを出現させて飲み込む技だった気がする」

 

一度それで助けてもらったからな。一種の異世界……つまり紫のスキマと似たようなものなのかどうかは知らんが、ともかくあの中に居る時は誰にもバレなかった。外からは一切遮断されてたけど。……そうか、龍属性が無い今あれを使われたら助からない。こりゃマジで怒らせちゃいけないな。

 

「うっわ……副会長おっかねえ」

「ま、そんな無闇に使わないだろ」

 

初めの頃こそ能力に振り回されていたが、今はもう使いこなせている。能力を使用すべき場面だってきちんとわきまえているはずだ。

 

そんな会話をしていると、急に錬の端末が着信を知らせた。

 

「げっ、先輩……」

 

空間ウィンドウに写ったボブカットの女性は、どうやら新聞部における彼の先輩らしい。話を聞くに、どうやら部活に早く来いとのこと。

 

その通話を切って、錬は慌ただしく荷物をまとめながら。

 

「って事で、急用が出来ちまった。じゃあな」

「おうよ。あっそうだ、連絡先交換してもいいか?」

「後でお願いするぜ、どうせルームメイトなんだからな」

「えっ、そうだったのか。確認しとこ。……じゃ、部活頑張ってこいよ」

 

おう、と返事した錬が早足で教室を出て行き、教室には俺一人だけ。

 

「ふいー……とりあえず上々かな」

 

すると、そんな独り言が零れた。言うまでもなくこのクラス……ひいてはこの学園についてだ。始めこそ慣れるかどうか不安だったが、割と上手くいっている方ではないだろうか。……ああ、セレナだけは例外。彼女とも仲良くしたいんだけど、少し厳しいかもしれない。

 

ま、とりあえず今日のところは寮に撤収しますかね、と。そう思って校舎から出た矢先に、ふと気付く。

 

「……どこだ、寮?」

 

本当はさっきの錬との会話中にそれとなく携帯端末の詳しい操作方法を教えてもらう予定だったのだが、それができていない今は検索も使えない。敷地内の案内板を探すなどしなければならないようだ。

 

その案内板を探している途中、諍いの声が聞こえてきた。ふとそちらを見やると、どうやら向こうの方にある四阿(あずまや)かららしい。もっとも、普段であればそれきり無視するのだが……諍いの中の一人の声に聞き覚えがあった。

 

「あーらら……随分と剣呑な雰囲気じゃねーか」

 

視線の先にあったのは、男三人が二人の少女に突っかかってる光景だった。もっと具体的に言うなら、一人の大男が、金髪の少女━━セレナの事だ━━と薔薇色の髪をした少女に詰め寄っている。

 

ふともう一人分の気配を感じてそちらを見ると、少し離れた所に綾斗がいた。彼もこの状況に気付いており、どうやら介入するタイミングを見計らっているらしい。

 

向こうと目が合った。俺は自然に溶け込むように気配を薄め、しゃがみ歩きで静かに、且つ素早く綾斗の元へ向かう。

 

「あっ、聖夜。……あれ、止めた方が良いよね?」

「まあ、な。二人で止めに行くか?」

「そうしようか」

 

向こうを見ると、薔薇髪の少女が何か言い返してセレナと共に立ち去ろうとし、その肩を大男が掴もうとしている所だった。……よし、今。

 

「やあユリス、奇遇だね」

「おっすセレナ、さっき振りだな」

 

綾斗と共に、いかにもな様子で声をかける。しかしやはりわざとらしさは隠しきれなかったのか、向けられた視線は怪訝なものばかりだった。

 

「……お前、なぜここに」

「アンタ、こんなとこで何してんの?」

「なんだ、てめぇらは?」

 

そう言って睨んできた大男の視線を綾斗は受け流し、俺は無視をする。すると、傍らに控えていた小太りの男が急に声を上げ、

 

「ああっ! レスター、こいつら例の転入生だよ!」

「なんだと?」

 

男の睨む視線が一層強くなる。綾斗はそれを変わらず受け流しながら、

 

「それでユリス、こちらは?」

「――レスター・マクフェイル。うちの序列九位だ」

「へえー、君も『冒頭の十二人(ページ・ワン)』なんだ」

 

素直に感心したような綾斗。しかし、それを見るレスターという男の視線は依然厳しい。

 

「あっ、俺は天霧綾斗っていうんだ。よろしく」

 

そう言って綾斗が手を差し出しても、大男は睨んだままだ。

 

「こんな小僧共とは闘っておいて、俺とは闘えないだと……?」

 

憎々しげに言い放ったレスターは、今度はセレナの胸倉を掴もうとする。まあ、セレナは強いし問題は無いのだろうが……小僧共て、もうちょっとなんかあるだろう。ムカつく男だ。

 

そう思った俺は素早く二人の間に割り込み、レスターの腕を掴む。

 

「女性に手をあげるとは、いただけないね」

「……ああ?」

 

おお、面白いくらいに乗ってくれた。僕、満足。

 

「とりあえず、その猪みたいな性格をどうにかした方が良いんじゃねえの? 見苦しいったらありゃしない」

「なっ、てめえ……!」

 

予想通り俺の挑発に乗り、俺の手を振り解こうとする大男。ただ、身体能力ならこっちだって負けちゃいない。

 

「そういうところだよ。……まあ文句があるなら、このままこの腕へし折ってもいいんだけど」

 

最近出来るようになった威圧感のコントロール、それも交えて今度は威嚇する。――ちなみにこの威圧感、自分で言うのもあれだが、幻想郷の大妖怪である方々をも一瞬怯ませるほどのものらしい。具体的に言えば、全力なら多分モンスターと相対した時くらいのレベルじゃなかろうか。もちろん、そう長く続けられるものではないが。

 

なので、いくら『冒頭の十二人』といえども怯まないはずがない。証拠に、俺が直接敵意を向けているわけじゃない綾斗達も若干冷や汗かいてるし。

 

その予想通り、レスターも怯んで後退りしようとする。だが、俺が掴む力を強くしていくと、それが彼の意識を戻したのか、ついに渾身の力で振り解かれた。

 

(ふむ、まさか解かれるとは……)

 

流石は『冒頭の十二人』の一人というべきか。見るからにパワータイプだし、これくらいはやれるらしい。

 

「くそっ…覚えてやがれ!」

 

そう捨て台詞を吐き、彼は取り巻き二人を連れて去って行った。

 

それを何となく目で追ってから、綾斗は薔薇髪の少女に声をかけた。

 

「ユリス、大丈夫だったかい?」

「あのくらい大した事はない。むしろ、お前らのせいで余計絡まれたではないか」

 

あんまりな言い方ではあったが、綾斗は気にしていないようだ。ならばこっちも気にしないでおこう。軽い態度でこちらも答える。

 

「すまなかったね、薔薇髪のお嬢さん。ただ、あいつの態度にちょっと腹立っちゃったものだから、お許しいただけると助かるよ」

「……ふん、まあいい。セレナ、こいつが今朝の決闘相手か?」

「そうよ。ユリス、そっちの男もそうでしょ?」

「まあな。……そうだ、今朝の事について聞きたい事があるんだが」

 

ユリスと呼ばれていた彼女と綾斗が話し始める。なんか意外と仲良さげじゃん、と彼らを見ていると、セレナもまた俺に声を掛けてきた。

 

「ねえ、私もアンタに聞きたい事があるんだけど……」

「ん、どした?」

 

なにやら真面目そうな話だ。セレナは一瞬溜めを作って、俺に問うた。

 

「――今朝の決闘、私に勝てる自信はあった?」

 

ふむ。なるほど、まったく意図が読めない。とりあえず思うままに答える。

 

「いや、無かったな。言い訳はしたくないけど……まだ星辰力の扱い方にも慣れてなかったし、武器も小回りの効かないものだったし」

 

そんな状態でいきなり古龍の力を引き出せばふらつきもする。幻想郷に居た時だって、古龍の力を使う時は属性力と霊力をごっそり持っていかれたのだ。元々、人に扱いきれるような力ではないのだから、それも当然だが。

 

それに、俺の星辰力の量も少ない気がする。元々持っている霊力自体、大して多くないが、下手するとそれと同じくらいかそれよりちょっと多いくらい。能力発動の際に使っていた属性力は考慮されていないのだろうか。

 

……いやー、それってかなりキツイな。比較的消費量が少ない結界くらいしか使えないって事になるし、あまり純星煌式武装の力に頼ってたらいざという時に痛い目見そう。ハンター稼業で鍛えた身体能力と、月影流の技の数々の出番だ。

 

――でも、一応スペルカードは作っとこう。あれはあって損は無いものだということは身に沁みて理解している。

 

 

「じゃあ、慣れさえすれば私に勝てるの?」

「さあ? 勝負は時の運って言うし……少なくとも、俺の勝率はゼロでは無いと思うけどな」

「……ふうん。ま、良いわ」

 

そんな感じで話していると、不意にユリスが俺達に、

 

「そういえば、なんでお前らはこんな所に?」

「あはは……ちょっと道に迷っちゃって。聖夜は?」

 

おっと、仲間を発見しました。

 

「恥ずかしながら、俺もそうなんだ……」

「まさかあっちのゲートが閉じてるなんてね……このままだと、寮に繋がるところも閉じるのかな?」

 

お互い力なく笑っていると、ユリスとセレナは同時に吹き出す。

 

「ぷっ……あははは! なんだ、案内図なりを見なかったのか?」

「はは……」

「いや、俺はそれを探してる途中だったんだけど……」

 

どうやら綾斗は探してすらいなかったらしい。一応俺はちゃんと探していたんですよ?

 

「心配しなくても平気よ。高等部の寮に繋がるゲートは夜も開いてるから」

「あ、なんだ。そうだったのか」

 

ゲートが云々というのを綾斗が言っていたので一瞬不安になったが、どうやら杞憂だったようだ。

 

すると、綾斗が困り顔のまま言った。

 

「でも、やっぱり知らないままなのは困るし……あっ、そうだユリス、今度この学園を案内してくれないかな?ほら、借りがあるって言ってたし」

 

あらま、そちらにも。そういえばセレナも借りがあるとかなんとか言っていたような。

 

「あっ、じゃあセレナ、俺もそうしてもらいたいんだけど」

 

綾斗に続いて頼んでみる。すると、ユリスが呆れたような驚いたような表情で答えた。

 

「別に構わないが、そんなので良いのか? 例えば、『冒頭の十二人』である私達の力を借りるとか、もっと他にも……」

「んー……それって、戦力としてって事か? 悪いけど、そっちは俺には必要無いかなー」

「俺も、特には。最初はここを知るのが一番だろうし」

 

生憎と俺は戦力を必要としていないし、それは綾斗も同じようだ。確かに、『冒頭の十二人』という実力者相手に頼むことでも無いような気はするが、実際に必要としていることがそれなのだから仕方無い。時雨に頼むと高くついてしまいそうで怖いし。

 

「……よく分からないわね、アンタ達は」

「変わり者だとはよく言われるよ」

 

俺が苦笑すると、不意に綾斗がユリスに言った。

 

「そういえば……朝クローディアが言ってたけど、鳳凰星武祭(フェニクス)のパートナーは決まったのかい?」

 

鳳凰星武祭。確か、ペアで出場する星武祭(フェスタ)だったか。どうやらユリスはそのペアが未だに決まっていないらしい。

 

問われた彼女は痛いところを突かれたように呟く。

 

「う……まだだ。セレナはどうなんだ?」

「私もまだ……やっぱり理想が高いのかしら」

 

そしてそれはセレナも同様。理想が高いかもと自覚しているとは相当だが、一体どれほどなのだろうか。

 

「……一応聞きたいんだけど、どんな人をお望みで?」

「そうだな……私達と同程度の実力者というのは望み過ぎなので、せめて『冒頭の十二人』クラスの戦闘力を持ち、清廉潔白で頭が良く、強い意志と高潔な精神を持った騎士のごとき者だな」

 

おっと、これは予想以上。条件てんこ盛りである。

 

「いや、理想が高いとかそういうレベルじゃないでしょそれ……」

「……そうかしら。これでも結構甘めなんだけど」

 

冗談、では無さそうだ。そんな人そうそう居ないでしょうよ。

 

「てかさ、それなら君ら二人で組めば良いんじゃねーの? 実力的にも申し分ないだろうし」

 

もっとも、それが出来るならここまで悩んでなどいないだろう。予想通り、ユリスは腕を組みながら、

 

「それは出来ない。同じようなタイプの魔女(ストレガ)が二人だとバランスが悪いからな。途中で苦戦する可能性がある」

「まあ、そりゃそうだけどさ。にしても、鳳凰星武祭か……面白そうだな」

 

星武祭(フェスタ)とは、アスタリスクの学生が三回まで出場できる……まあ、簡潔に言えばバトルエンターテイメントだ。タッグ戦の鳳凰星武祭、チーム戦の獅鷲星武祭(グリプス)、個人戦の王竜星武祭(リンドブルス)に分かれており、一年目に鳳凰星武祭、二年目に獅鷲星武祭、三年目に王竜星武祭といった感じでワンセット。三年を一区切りに、これを繰り返すのだ。優勝すれば望みを叶えてもらえるらしく、基本的にはそれ目当てで参加するのだろう。

 

「でもそろそろエントリーの期限だし、贅沢な事も言ってられないわよね」

「そうだな。いい加減見つけなければ……」

「……まあ、そこは頑張れとしか言いようがないな」

 

一応俺も誰か誘ってみるか……とか思っていると、

 

「ごめんユリス、寮ってどっちにあるのか、そろそろ教えてもらえないかな?」

「ん? ああ、あっちの道を行けば寮はある」

 

ユリスが指した方に目を向ける綾斗。しかし、直後に彼女に襟を掴まれ近道の方へ向き直されて。

 

「だが、こっちの方が近道だぞ」

 

首が締まる格好となった綾斗は苦笑しながら振り向き、言う。

 

「……もう少し優しくお願いできないかな」

「それは条件に無かったので却下だ」

 

そんな綾斗に対して可笑しそうに笑うユリス。そして、その光景を見てセレナも可愛らしく吹き出した。

 

 

 

……ふと、その様子を見て思った事を口にしてみる。

 

「――やっぱり可愛いらしいな、セレナって」

 

普段なら、さして仲良くもない女子にこんなことは言わない。ただ、この場合は何となく口に出しても大丈夫なような気がした。

 

案の定、セレナは酷く驚いたように飛び退き、叫ぶ。

 

「なっ……何よ急に! なんか怖いわよ!?」

「いやなに、普段からそんな表情してればいいんじゃないかって思ってさ。無愛想なのは損だぞ、中にはそういうの好きな奴もいるけども」

「……余計なお世話よ」

 

そう言ってはいるが、傍から見ても分かる程に顔が赤くなっている。やはり初心(うぶ)いなあと微笑みながら、

 

「まあ、気に障ったなら謝る」

「……別に良いわ。そういうわけじゃないから」

 

ふーむ、まあ多少は話せるようになったかな? 何となくだった思い付きに感謝である。

 

「まあいいか。……じゃあ案内の事なんだけど、いつなら空いてる?」

「そうね……早い方が良いし、明日の放課後はどうかしら?」

「ああ。……じゃ、よろしく頼む」

 

その後少しだけ話をして、俺らは別れる。そうしてユリスという少女が言っていた近道とやらへと足を進めることしばし、ふと後ろから足音が聞こえ、綾斗も来ているのに気付いた。

 

「おう。話し込んでたみたいだけど、何かあったのか?」

「いや、案内の件を言い忘れちゃってて」

「そうだったのか。……にしてもこの学校、かなり凄くないか? 色々な意味でだけど」

「新入生には優しくないけどね……」

「……全くだな」

 

苦笑していると、ふと綾斗の方は朝何があったのか気になってきた。

 

「そういやさ、綾斗は朝どんな目に遭ったんだ? ……その顔を見る限り、結構酷い目に遭ったみたいだけど」

「ああ、まあね……ユリスのハンカチが落ちてきてそれを届けようとしたんだけど、結果覗きみたいになっちゃって」

「……なんか、俺と同じ目に遭ってたんだな」

「聖夜も?」

「ああ。俺が届けたのは帽子だけどな」

 

ふーむ……こんな事もあるんだな。流石原作ラノベだ。ご都合主義に塗れている。

 

「そういえば、あの生徒会長さんとはどんな関係なんだ? すごい仲良かったように見えたんだけどさ」

 

そうしてもう一つの疑問もぶつける。あのスタイルの良い美人生徒会長との関係についてだ。あんなに抱きつかれていたのだし、何か浅からぬ縁があるのだろう。

 

「どんなもなにも、今日が初対面だったんだけど」

 

――と思っていたが、全然そんな事はなかった。えっ何どういうこと羨ましいなおい。

 

「……は? いやいや、じゃあなんであんなスキンシップを?」

「俺もよく分からないんだよね……聖夜こそ、副会長さんとは知り合いなの?」

「ああ、まあ……昔からの顔馴染み、かな」

 

どう答えるべきか迷った挙句、こう言うしかなかった。……ほらまあ、俺と時雨の出会いと経緯は結構複雑だし。一回殺されかけたんだぜー、とか言えるわけないじゃん?

 

「そうなんだ。いいなあ、顔馴染みが居るっていうのは」

「まあ、過ごしやすくはなるかな。分からない事も聞けるし」

「そうだよね。……でも、それじゃなんで案内をそっちに頼まなかったんだい?」

「んー、セレナと仲良くなりたいな……と思っただけかな」

 

半分は嘘だ。彼女に頼むと、後でどれほど面倒な対価を要求されるか分からないからである。

 

「そうだよね。俺もユリスと仲良くなれれば良いけど……」

「いけると思うぜ。俺には自然体で話し合ってるように見えたしな」

「それを言うなら聖夜もだけどね」

 

そんな感じで話していたら、いつの間にか寮に着いていた。俺と綾斗は部屋の階が違ったのでロビーで別れ、俺は自分にあてられた部屋に向かう。

 

「ただいま戻りましたよーっと」

「おーう、おかえり」

「ああ、お前がルームメイトだってこと忘れてたわ」

「おうおう、そりゃ酷いぜ」

 

椅子に座り何か作業をしていた錬に冗談を言いつつ、俺は自分の机周りに置いてある段ボールに目をやる。……ほー、色々あるな。ああ、俺の愛刀『夜桜』もあるじゃん。これで戦うのもありか。

 

……ん? これは、煌式武装のケースか?

 

「どれどれ………」

 

他にどんな武器があるのかというのはどうにも気になる。何気なくそのケースを覗いて、

 

「なっ、」

 

――その中を見た俺は思わず声を上げてしまった。錬が不思議そうにこちらを見てくる。

 

「なんかあったのか?」

「えっ? あ、いや、何でもない」

 

急いでケースを閉める。……流石にこれを見せるのはマズい。錬は新聞部だと言っていたし、そうでなくともこれが広められるのは避けたい。

 

俺が言っているこれとは何か? それは……煌式武装のケースに入っていた()()()の純星煌式武装のコアである。――もう一度言おう。十四個である。今持ってる王牙大剣と合わせると、俺が持っている純星煌式武装は十五個。どう考えてもおかしいだろ、これ。

 

いやまあ、大剣を含めて今まで主に使っていた十五種類の武器が揃ってる、と考えれば一応筋は通る。だけどなあ……クローディアが言ってなかったっけ、複数の純星煌式武装を使おうとしても適合率が出ないって。

 

 

いや本当に……これどうなってんの?

 

 


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