あれからの話をする。
と言ってもそんな大層なものでもない。俺はどうも平塚先生やあの二人が俺を取り戻すためだけにここまで横暴になるとは思えない、テニス部員の皆にその旨とあまり噂にしないでほしいということを戸塚に広めてもらうよう頼んだ。人の口に戸は立てられないとは言ったもので多少の噂は覚悟していたが、文字通り全くその噂が流れることは無かった。千葉のテニス部員訓練されすぎだろ。
さて。
何か理由があるにせよだ、あまりに横暴すぎる。俺だけじゃなく、周りの奴らまで教師権限を振りかざし辞めさせるだなんてやりすぎだ。
比企谷八幡は激怒した。必ず、かの邪智傍若の独身を除かなければならぬと決意した。そんなこんなでテニスの練習をすることにする。少なくとも、勝てば辞める必要はないし企んでることを洗いざらい吐かせることができるからな。小さな、本当に小さな抵抗ではあるが平塚先生の授業は開始から終了まで全部寝てやった。顔を教卓に向けるほどの勇気は無かったので机に埋めていたが。平塚先生もそれを分かっていたのか、特に何も言ってこなかった。由比ヶ浜はというと、明らかに意識して俺の事を無視していた。それにしてもあいつ、テニスできるんだろうか…。雪ノ下は顔を合わせていない。元々クラスが遠いというのもあったが、本当にまったく顔を合わせなくなった。
テニスの方はというとある程度形にはなっていた。当初の課題であったドライブも打てるようになり、サーブも球威こそは無いがフラットとスライスは身に付けた。スピンサーブはまだ練習中である。驚いた事に材木座の方もそれなりに上手くやっている。周りの助力もあってかメキメキと実力を伸ばしていた。あと、ミジンコ並みのコミュ力もアリ並には成長したのではないだろうか。俺が言えたことではないが。
約束の一ヶ月後まで残り二週間を残したある日のことである。
「大会に出よう!」
戸塚がそんなことを言いだした。試合自体はテニス部で他の部員たちに相手してもらっていたのだが、戸塚曰く「いつもの相手とやっているとプレースタイルが固まっちゃう。もっといろんな相手と試合して、自分の足りないところを探さなきゃ」とのことである。そんなこんなで今、俺らは千葉県某所の運動公園にいる。
「今日は張り切っていこうね、八幡!材木座君!」
「お、おう…そうだな…」
なぜこんなにも俺はグロッキーなのか、それは。
「は、はちま〜ん…人が…人が沢山おるぞ…」
「あぁ…俺らの苦手なスポーツマンだ…」
コミュ障故である。
「何言ってるの!八幡も材木座君も、今や立派なスポーツマンでしょ!」
俺が…スポーツマン…だと…?
隣では材木座が悟ったような目で会場を見渡していた。マジでどうしたお前。
さて、今回俺らが参加している大会は所謂市民大会である。市民、とは名を売っているが実際のところは千葉県民なら参加費優遇、他の県なら少し割高で参加できるらしい。そしてこの大会、多くの千葉ジュニアの選手が参加する割と大手の大会らしい。もちろん、ここから関東や全国につながるわけではないが。腕試しの色が濃い大会だということだ。
「あっ、ドローが出てるよ!見に行こう!!」
本部に駆け寄る戸塚の背を追いかけ、俺らはドロー…つまるところ対戦表を確認しに行った。
「僕は…あ、あった。うわっ、この相手この前負けちゃったんだよねー。今日は勝たなきゃ」
戸塚の名前の隣には括弧でテニススクールの名前が書かれていた。戸塚は現在テニススクールにも通っており、そこを通して応募したらしい。俺らもそのツテで応募してもらったが所属は総武高にしてもらった。
「材木座君は…これだね。うーん聞いたことないなぁ。もしかしたら大人の人かもしれないね。八幡は?」
「俺はっと。お、あったぞ。相手はな…。あぁ岡田ってやつだ」
「岡田君⁉︎もしかして所属はかがわTCになってない⁉︎」
急に戸塚が吠え出した。あまりの大声に俺も驚き身を少し引いてしまったが、その状態で戸塚の問いに答える。
「あぁ、その通りだが…何かあったのか?」
「彼はね…全国区の選手なんだよ…」
八幡、終了のお知らせ。
この二つ前の話から色々な意見を受けました。皆さんの望みに添えないかもしれませんが、当初の予定で書かせていただきます。当初の予定が終わり次第、皆さんの意見を踏まえて書かせてもらうつもりです。宜しくお願いします。
あ、あとたまに活動報告を更新するときもあるので宜しければぜひ。