「はーい、みんな注目してください!新しく入ることになった比企谷八幡君です!」
「う、ウッス…比企谷でしゅ」
アカン、噛んだ。
あの後今度は俺が戸塚に引きずられるような形でテニスコートに連れてこられたのだが、着いて早速部員全員を集めて自己紹介という形となった。「なんだこいつ」と全員の目が語っているのは明らかだったし、初っ端から噛んでる姿を見て「キモっ」までランクアップしたかもしれない。いやむしろダウンか。
総武高校テニス部、決して強豪校とは言えず部員も大して多くはない。今ここに集まっているのは7人であり戸塚曰くこれで全員らしい。
「八幡にはこれからレベルを図るためにラリーをやってもらいます。体育で見た限りゆっくりだったら何とかなるよね?」
「お、おう」
というのも昔からボッチだった俺は友達の壁君とラリー、つまり「壁打ち」というものを遊びで経験しておりテニス自体はそれなりに出来るつもりだ。なんなら、見よう見まねだがサーブだって打てる。
「はいこれ、部活のラケット。大事に扱ってね?」
「分かった」
お前からもらった物を無下に扱うわけがないだろう?そんなニヒルなセリフを心の中で呟きながらネットを挟んで戸塚とは逆側のコートに立つ。
「皆んなもよく見ててねー!気づいたことがあったら終わった後に行って欲しいからね!」
あいよーとまだらに声が上がりコートの側面に立つ部員たち。やめろ…そんなに俺を見るな…!緊張しちゃうだろ!!
「それじゃあいくよー!」
「うーい」
ぽーんと打たれた玉を目で追いながら着弾地点を予想する。これぐらいの高さなら結構跳ねるよな…?
「この辺か…?」
ぼそっと呟きながら球が来るであろう位置に構えラケットを引く。バウンドした球は予想通り俺の右手前にやってきた。それをラケットで叩き戸塚へと返す。…よし、なんとか戸塚のいる方へ返ったな。
そんなラリーを続けること約一分。戸塚が中断したので俺も息をふうと吐き緊張を解いた。
「うん、ちゃんと打てるみたいだね。球との距離感もちゃんと掴めてるしなにより…」
「よくコースを狙えて返せてたじゃん」
戸塚ではない誰かが声を上げる。刈り上げられたツンツン頭の野郎の声だな。
「そうそう!ちゃんと僕の所に返ってきてたね!」
うんうんと腕を組みながら頷く戸塚。え、何この子部長モードだとこんな可愛くなるの。それをこれから毎日拝めるのか…テニス部最高!
「強いて言えばドライブだな」
また違うやつ…あのチャラチャラしてそうなメガネ君か。今度はそいつが声を上げた。
「そうだね、当面の課題はそれだね」
「ドライブって…なんだ?」
「球の回転の種類のことだよ」
戸塚はそう言いながら球を三球ほど掴みコートに立つ。そして一発打ち込んだ。
「今のはフラット。無回転、もしくはそれに近い球のことだね。これは回転が無い分空気抵抗が少ないから球の速度が早くなるんだ。但しネットギリギリを通さないといけないから入れるのが難しい」
そう言ってもう一球コートに打ち込んだ。ん?今のは山なりなコースだったな。
「今のがドライブ。縦回転…上から下に掛かる回転だよ。これを掛けることによって球が安定するんだ。テニスでは主にこの回転を使います」
そして最後に…と言って打ち込んだ球はスピードはそこそこに、ふわりと浮き上がるような球だった。
「これがスライス、八幡が使っていたのはこれだね。下から上にかかる回転だよ。野球のストレートをイメージして貰えばいいかな。八幡はラケットの面を上に向けて下からすくい上げるように打ってたからこの回転がかかってたんだね」
なるほど、フラットやスライスはともかくドライブについては一人では分からなかったかもしれん。テニスとは回転一つとっても奥が深いものなんだな。
「テニスでは主にこの三種類の回転を使ってラリーをするよ。そこで八幡にはまずドライブを覚えてもらいます」
「おう、任せろ」
「僕はまだ職員室に用事があるから…八木君!八幡の練習見てあげて!」
「オッケー!」
え、戸塚じゃないの…?ショックを受ける俺の後ろで爽やかに答える八木君。振り返ると…
「おう、みっちりやってくからな。よろしくな!」
刈り上げ爽やかイケメン、長身の八木君が手を俺に差しのばしていた。
「う、ウス…ドウモッス…」
めちゃくちゃキョどる俺。あれ?詰んでね?
今回はテニス解説回でした。
筆者はスライスに苦労しました。今は得意技のひとつです。コツとしては上から下に切るのではなく、面を上に向けたまま打ちたい方向に押す感じです。経験者の方には当たり前のことかもしれません、失礼しました。
次回投稿大幅に遅れます。筆者が明日から海外旅行のためです。感想も持ち帰ってきますね!