十九日目 家族サービス? そんなもんより麻雀だ!!
最近親父が家族サービスとして横浜へ連れて行ってくれた、偶には直に野球観戦したり繁華街とかで買い食いする様な子供らしい遊びをしろと言われたので付いて行った。
けど到着して早々先生一号の背中を見付けてしまった。
あの人が居ると言う事は高レートの卓が立っているか、それに匹敵した運を持っている人物が居ると言う事、そう考えたら居ても立っても居られなくなり、親父に財布を投げ渡して『母さんとデートでもしててくれ、俺麻雀打って来る』って言って返事も聞かずにそのまま先生を追っかけた、……直ぐに見失ったけど。
その後手当たり次第雀荘を探し回ったら着物を着た女の子と同卓している姿を見つけ、急いで其処に駆け付けた。
『いや〜、馬鹿見たいに勝たせて貰って悪いねぃ』と着物さんは上機嫌、先生の様子を見ると仕上がっている様だったので丁度先生の下家に座れる様に着席していた人にお願いした。
勿論断られたけど五千万入りの通帳と印鑑を渡して席を買い取り、無理矢理面子として滑り込んだ。
着物さんは俺の行為に眉を顰めたが、気を取り直して対局再開となった、『飛び入り参加するって自信満々だねぃ』と小馬鹿にされたけどね。
東1局は俺の親、オーラスが先生の親になるってのは嫌な予感しかしないけど、流れの奪い合いではまだ及ばないし親なので見に回る事も出来ない。
けど俺の先生はこの人だけじゃない、着物さんの切った二萬をポンし、順子を落として行く。
続いて先生が喰わせに来た二索を遠慮なくポン、着物さんからはポンカスかよ的な視線を浴びる事になったが、コレで赤五萬を切って聴牌一萬の単騎待ち。 役は三色対々の親満、ドラを残せば跳ねるけれど和了出来る牌では無い。
着物さんは二鳴きの上にドラが溢れた事から聴牌と読んだのだろう、降り気味に回し始めたが対面のおっさんが一萬を吐き出した。
勿論コレでは和了らない、欲しいのは対面の流れでは無く着物さんの流れなのだ。
俺のロン牌見逃しに先生は薄く笑うと対面に合わせ打ち、コレで一萬が地獄待ちになったが、関係ない。
次のツモは六索、コレは手の中で暗刻っているので槓子が一つ出来上がった、手中の二筒の暗刻から交換する様に二筒を落とす。
三色が崩れた事で着物さんが抱えていた二筒を吐き出し、それを改めてポンして三色を確定、同時に一萬を落とす。
自分で切った牌を直後に鳴いた事から得体の知れない物を見るような目で見られてしまったが問題は無い、小声で『……今、牌が光った?』とか言ってたけど、俺はまだ先生二号の様な閃光は出ないよ。
完全に着物さんと対面は降りに周り、そんな着物さんの様子を見ながら先生は堂々と危険牌を切る、まぁ槓子しか無いんだから何切っても当たらんけどさ。
ともかく、コレで勝ち席に座っていた着物さんの流れが曲がったので数巡敢えて回して着物さんの手が完全に崩れるのを待ってから暗槓し、単騎に受け直す。 単騎牌は二枚枯れの北、曲げた流れの所為で恐らく彼女はこれを切る。
嶺上牌はニ索、勿論加槓してもう一枚引き今度は二萬をツモ、三槓子を確定させて再び跳満を確定させる。
生唾を飲み込みながら着物さんがツモり、顔を顰めながら手出しの北を切り出し、それを打ち取った。
新ドラが表示される度に口元がヒクついていたので恐らく槓ドラが対子若しくは暗刻にモロ乗りして切れなかったのだと思う、ドラ単騎に振ったら親倍だから切り出しては行けないだろう。
先生の含み笑いが気になったが一本場、流れを食ったお陰か配牌が赤ドラ付きの断么、ムダヅモも無く六巡目に聴牌、役は断么平和ドラドラの満貫。
着物さんは俺の親っ跳で侮りを無くして淡々と仕返しを狙って来ているので流れを奪った今、狙い撃ちにする事は出来るが、俺はこのまま和了する気は無かった。
前局恐らく先生は張っていた、それも倍満クラスの手を。
元々が仕上がった状態の所に乗り込んだのだからそれは確実、調子付いて和了り捲ったら確実に二戦分の流れに乗った御無礼ラッシュを喰らう。
だから対面の手に差し込み、流れを平たくしてこの局分の流れを先生に渡さない様にしつつ地運を作り上げる、哭きの技術は完成していないけど力尽くで流れを曲げる事は出来るから。
そうしている内に着物さんが立直、捨て牌がバラ打ちされていて判断し辛く見えるが、切り出し方から見て恐らくは役牌抱えの混一色、牌の入れ替えもあったから一盃口とドラも握ってる可能性もある、跳満に跳満で返す気か。
俺のツモ番で引いたのは俺の和了牌、流れの中に居るのだから当たり前っちゃ当たり前か、けど俺は和了る気が無いから自摸和了を捨ててドラを切り出し、態と対面に放銃、先生が鳴かせる前に安い手に差し込むのが傷口を広げない方法だ。
『……私を無視って、良い度胸してるねぃ』と着物さんに凄まれはしたけど今の彼女は一切驚異じゃ無い、元々先生に流れを奪われる直前だったのだから。
東2局、着物さんの親番になったが俺の予想とは裏腹に3巡目で立直、その直後に掴まされた牌がドラだった為予定より早く対面の満貫手に差し込み親番を流してやった。
悔しそうな顔で俺を睨む着物さん、しかし東3局に入ってから事態が急変した。
東3局、此処で先生が初めて動いた、然も親の吐き出した一萬、一筒、一索を連続でポンしてだ。
清老頭が無くとも三色対々和で満貫確定、更に次巡に槓を重ねてドラ4の倍満確定、この局を流さなくては御無礼が来るのは目に見えている。
着物さんの手を見るが彼女は顔を横に振る、俺の手も未だ二シャンテンなので聴牌には遠い。
着物さんの捨て牌から聴牌に届かなくても対子系の役を張っていると予想し、手の内に合った槓材で有ろう牌を吐き出した。
彼女は俺の意図を察したのか直ぐにそれを槓、そして彼女が吐き出してくれた八索をポン、二枚目の槓材を吐き出して更に槓させる、意図せず合わせ打ちになったがコレで先生の役満を流せる。
そう思って再び彼女の牌を鳴き、次巡にツモって来た八索を加槓した時だった。
『––––御無礼、ロンです』
先生の牌が倒されてしまう、役は雀頭ドラの嵌八索待ち純全帯三色槍槓ドラ6、文句無しの三倍満。
二戦分の流れを奪われた状態で仕上がった先生に俺達が纏めて飛ばされるのに時間は掛からなかった。
安定の三倍満(白目