??日目 意地の一局
跳満・満貫を連続放銃してからの東四局一本場、ドラは五萬。
正直痛いじゃ済まない失態っす、きょーさんの言う流れ的な意味でも、私に対する他家の印象的な意味でも前局の放銃は痛手だった。
先ず流れ的に見ればたらればだけど役満を逃し、降り選択で二度放銃、きょーさんからしたら完全に下り坂な運っすね……。
そして二度の放銃で私から点棒が取りやすいという印象が付いた、私が見えていないだろう深堀さんはともかく強敵二人にはその印象は確実に持たれてる、降りた一打を狙い撃ちされたから仕方ないっすけど、ATM化は勘弁して欲しいっす……。
そんな私の思いとは裏腹に始まった一本場は最悪の配牌、一・五・八萬、一・四・八筒、二・七索、南、西、北、白、発の対子すらない十三不塔、和了目が全く見えない配牌に涙が出そう、唯一の救いは字牌がある程度揃ってるから国士狙いのブラフが使えるって事くらいっすかね? 数牌もばらけてるとは言え急所は抑えてるし、数牌なら何引いても有効牌ってとこっすね。
…………ま、ブラフを掛けても無駄な面子っすからね、降り打ち気味に回しながらツモの様子を見るしか無さそうっすね。
好意的に見れば八・七の数牌が集まってるから上の三色無いし全帯に伸ばせるけど……私はきょーさんみたいにヒキが強くないからなぁ、張っても無難にタンピン系っすかね。
どう動くかを考えながらの第一ツモ、引いたのは六萬。
ドラ側を引けたのは素直に嬉しいけど、何でも落とせるから何を残すかが重要になってくる。
断么を目指すなら么九牌を払いたいけど露骨に落として行くと私の手を晒す事になる、この面子だと形が決まらない内からの決め打ちはナンセンス。
…………けど、字牌が重たいんすよね。
数牌を落とそうと指先を彷徨わせるも裏目を引く予感がして中々踏み出せない、この心理的圧迫も過剰に相手を意識している結果なのは理解してるっすけど、こうなってはどうしようもない。
思わず指先が数牌から離れて字牌へと伸びる、『重ならなければお荷物にしかならないオタ風くらいならば払っても……』という弱気な自分に流された結果だ。
けど、西を切ろうと牌を摘んだ瞬間に私はハッとする。
攻める側の人間からしてみればこの逃げすらも想定の範囲内、焦った攻めは勿論弱気の逃げですら読みやすい物は無い。
その証拠に強敵二人は私が弱気になっている事を見抜き、その逃げを虎視眈々と狙ってる、この西を切ればいずれ吸い込まれる様に撃ち抜かれる。
なら、どうする? どうしたら良いんすか? いや、私はこんな時どうしていた? 引くも地獄行くも地獄なら、私は……。
キュッと目を瞑り覚悟を決めた私は西から手を離し、打五萬かなり長考してたらしく周りの目が『やっとかよ……』的な事になってたっすけど気にせずにドラを打った。
理由としてはまず逃げの姿勢を振り切る為、そしてドラに六萬がくっ付いた事による安堵を嫌ったからだ。
精神的な安定は現状よろしく無いっす、一旦ほっとすると読みが希薄になってしまう、0か100かの読みが効かなくなってしまう。
だからこそのドラ切り、残しておきたかった気持ちを振り切る様に次巡のツモは西。
オタ風が重なった、『ドラを残せば混一色ドラ1の形に……』と言う未練を断ち切る様に私は打六萬。
デジタル二人に眉を顰められるかも、と私は一瞬思ったっすけど、二人ともノーリアクション。ポーカーフェイス上手すぎっすよ……。
三巡目、南をツモ、立て続けに字牌を引くのでそれに合わせる様に手の内へと入れる。
国士混一色を匂わせる捨て牌を作る為に打四筒、龍門渕さんが少し考えながらも打一索。
国士・混一色を警戒しての先切りだとは思うっすけど、まだ不要牌処理の方が大きな感じっすね、ブラフで降りる様な打ち手じゃないっすし。
続く深堀さん、おっぱいさんも連続して一索切り、続く四巡目に私が一索ツモ、此処で一索落とすとブラフの意味が無いのでそのまま打七索。
五巡目、三枚目の西をツモって打二索。
しかも二索は若干強打する事で力が入っている事を強調、直接に龍門渕さんがツモ牌を見て少し反応した後、端の方から四索を切る。
切れない牌を掴んだっすね? それなりにブラフが効いてるみたいで思いの外助かったっす。
と、一瞬の安堵も束の間、四索の合わせ打ちをした深堀さんを尻目におっぱいさんが生牌の九索を強打、言外に『ブラフですよね?』と言われた気がして冷や汗が流れる。
六巡目に南をツモ、今の強打で見抜かれた事が分かったっすからこれ以上引っ張ると泥沼になると察した私は南を入れて西切りのノーテンリーチを掛ける。
これは一種の賭け、おっぱいさんは十中八九ブラフだと見抜いているし、龍門渕さんも様子見とは言え国士に懐疑的だ。
だから、このリーチでその読みに一瞬の揺れを入れる、ほんの僅かでも私が周りを降ろす為のリーチを掛けたのだと思ってくれば勝ちだ。
周りの顔色を伺いたくなる心をグッと堪えながら山を睨む、勿論演技っすけどコレ空振ったら鶴賀に勝ちは無い。
その運命のツモ、龍門渕さんは引いた牌を再び手の内に入れた後にジッと手牌を見ながら少考している、緊張感から心臓の鼓動が激しくなるのが自覚できる、けど私は顔を上げずに牌を睨む事をやめない。
そして、龍門渕さんの切った牌を見た瞬間、私は賭けに勝ったと確信する。
打二索、龍門渕さんがそれを切った瞬間おっぱいさんが牌を倒した。
『…………ロン、断么のみの一本場で1600です』
渋々といった感じのロン、私の狙い通りブラフと見抜きつつも万が一を考えて二人は差し込みを行なった。
丁度前半戦が終了するタイミングだった事も差し込みを後押ししたと思う、モニター中継されてるから私の手を直ぐに確認しに行ける事が幸いした。
南場が始まるまでの小休止、私の他三人は頭を下げてから控え室へと向かって行った。
おっぱいさんと龍門渕さんは足早に、ノーテンリーチの確認をしに行った南場じゃもう通用しないっすね。
自分の椅子に深く腰掛けた私は席を立たず、緊張感で火照った身体を冷やす為に、どうせ気付かれないからと少し前をはだけて上着を脱ぎ、手でパタパタと扇ぐ様に思考の熱を冷ましていくのだった。
汗で張り付いたモモちゃんの透けたシャツを想像した人は健全な男子です(白目