バカとテストと最強の引きこもり   作:Gasshow

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深夜に書き始めてちょっとしたら寝るつもりだったのに、気が付いたらこんな投稿時間になってました。笑
ボケながら書いたので誤字・脱字があるかもしれません。あったら教えて下さい。


引きこもり春咲彩葉

今現在、僕はすごい状況下にある。と言ってもやっているのは買い物をしているだけだ。あるスーパーマーケットで買い物をしているのだが、その店は僕が少し前まで暮らしていた家と学校の間にあり、ほんのたまにそこで買い物をして帰ったことが今では遠い過去のように思える。品揃えもよく、サービスも充実している。そして何よりも安いのだ。親からの仕送りがあるにせよ、それをほとんど生活費にあててなかった僕からすればそれはとても魅力的だった。それに、僕だけでなく主婦達からの評判も良いのだ。

 

そんな素晴らしいスーパーマーケットに僕は来ていた。だが一人ではない。そう、春咲さんと一緒に来ていた。しかもその春咲さんは僕にびっしり張り付いていている。それはもう僕を殺す勢いで。外に出ることを極端に嫌う彼女が何故そんな場所にいるのか、さらに何故ここまで奇妙な状態になったのかと言うとそれはちょっとした偶然の積み重ねが招いた結果なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは何も変わらない今日という日から始まった。僕たちは昨日と同じように学園祭、もといい清涼祭の出し物であるイタリアンレストランを開くための準備をしていた。そんな時、ふと取り寄せていた料理の材料が足りない事が分かった。業者のミスだが今更言ったところですぐに材料が届くはずもなく、近くの店で買うことを余儀なくされた。誰が買いに行くという話になった……らしい。というのもその時僕は、学園祭の出し物の事で職員室などを駆け回っていたからその場には居なかったのだ。だから実質、メルさんと春咲さんのどちらが買いに行くかという話になる。

だが一人で多数の労働力を持つメルさんが買い物に出てしまうと、その分作業が遅れてしまう。よって春咲さんが買い物に行くことになったのだが、人見知りというか引きこもりである春咲さんとにとってそれはかなりの試練だ。僕がクラスに戻って、その話をメルさんから聞いた時はかなり心配だった。それはメルさんも同じようで実際、彼女は手は止まりあまり作業が進んでいなかった。どうにもメルさんは自分が行くと言ったのだが、春咲さんがそれをよしとしなかったらしい。春咲さんが自分の我が儘でクラスメイト迷惑をかけるのが嫌だったのか、メルさんの言葉で少しむきになったのかは実際のところ分からない。でも、春咲さんが一人で買い物に行ったことは確かなのだ。

 

僕の中で、春咲さんのことだからしっかりやりきるだろうという思いと、もしも何かあったらという気持ちが攻めぎ合っていた。結局僕もメルさんも心配で心配で作業が進まなかったので、僕が後を追いかけることにした。出て行ってまだそこまで時間はたってないらしいので早めに追い付けるはずだと思って駆け足で追いかけた。それから学校を出て、人通りの多い歩道に入った時に彼女はいた。だが様子がおかしくて、なんと道の真ん中でうずくまっていた。周りの人達が親切にも声をかけてくれているのだが、春咲さんは無反応でずっと固まったままだ。これはただ事ではないと僕は察して慌てて駆け寄り、膝をついて春咲さんと目線をなるべく同じにして周りの人と同じように声をかけた。しばらく同じことをしても変化がなかったので、春咲さんの頬をを両手で掴むようにしてから顔を自分の方に向けさせた。するとようやく僕に気がついたようではっとした顔で僕を見つめる。その時の表情は忘れられなかった。ひどく何かに怯えていて、不安を全面に押し出していた。そして次の瞬間、春咲さんが僕に飛び込んで来てあらん限りの力で抱き締めてたのだ。

僕はビックリして固まってしまったが、春先さんが僅かに震えていると気づくと、そんな同様はすぐに消え去っていた。とにかく、ここではいろいろと不味いと思い、抱きつかれたままゆっくり立ち上がって、取り合えず人通りの少ない路地裏に行った。

 

「えっと、大丈夫?」

 

僕は春咲さんにそう呼び掛けたのだが、それに春咲さんは答えずにふるふると首を振るだけで何も答えない。これは落ち着ける場所で話を聞こうと心当たりのある場所を頭に浮かべる。ここから一番近い場所はーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで僕は自分の家の前に来ていた。教室に戻ろうかとも思ったが、なるべく早く落ち着いてほしかったので距離が近い僕の家を選んだのだ。僕の家までは近いには近いがそこまでの道のりがかなり長く感じた。物理的にも精神的にも。というのも春咲さんが僕をガッチリとホールドしているせいで歩幅が小さくなり歩くスピードが遅くなってしまったのだ。もう僕の腕ごと体に腕を回して腰より少し高い位置に巻き付いていて、それは蛇を連想さるほどの巻き付きっぷりだった。さらにまさか春咲さんとここまで接触をするとは思っていなかったので、心臓がバクバクして前に進んでいる感じがしなかったのもある。周りの視線もなかなかに痛かった。それはそうだ、僕だって目の前に歩いてる男を殺すほど体を締め付けている少女がいたらビックリして二度見をするだろう。

 

ともかく、そんなこんなで長いとも短いともとれる道のりを進んで家までたどり着いた。だがそこで家の鍵がないことに気づいた。当たり前のことだ。今僕が住んでるのは学校の中だし、家に入ることになるなんて知らなかったから家の鍵なんて持ってきているはずがない。

まさか家に入る直前で気づくなんて。今回ばかりは自分のバカさを呪った。そして自分のバカさに助かった。なんと裏庭の大窓が開いていた。閉め忘れていたらしい。いつ泥棒に入られていてもおかしくはなかったが、まぁ僕の家に入ったところで盗めるものなどある筈もないので問題がないと言えばそこまでだった。元々何にもなかったのに、学校で暮らすことが決まってから必要な物は全部持って行ったから、金目の物なんて一つも残されていない。

それはともかくとして、久しぶりに僕は家に入った。数ヵ月帰ってなかったからすごく新鮮に感じる。入ってすぐに僕はリビングにあるソファーに向かった。なかなかにふかふかしていて自分的には結構気に入っているのだ。ここに住んでいた時はそこに座りながらテレビを見るのが好きだった。ソファーが目の前にの来たので春咲さんと一緒に僕は座った。でもそこからどうしたらいいのか分からなくなった。相変わらず僕の服に顔を埋めて、張り付いて震えているこの少女をどうしたらいいのか分からない。話しかけたらいいのか?ならどう話しかけるべきなのか?落ち着くまで待っていればいいのか?いろいろと考えるがどうすればいいのか分からない。

春咲さんを見た。綺麗な髪だ。こんな時に何をと思っているかもしれないが、そう思わずにはいられなかった。初めて会った時もそうだった。苦労して教室に入ったらまず飛び込んで来たのはそのキラキラとした美しい髪だった。真っ白に思えるような美しい銀髪。硝子(がらす)のように光を通しながら、鏡のように光を反射する。例えるなら宝石だ。見とれてしまっても仕方がない。いや、見とれないと失礼とも思えてくる。

 

あれから春咲さんと接して春咲さんのことを分かった気でいたけど、Fクラス戦の時に全然知らないことに気づいた。今だってそうだ。何で春咲さんがこうなったのか、何にそこまで体を震わせているのか、何をすれば落ち着いてくれるのか僕は知らない。分からない。でも分かっていることもある。友達が困っていたら助けることだ。傷ついたら励ますことだ。高校に入ってから殆ど成長していない僕だけど学んだことはあるのだ。僕と春咲さんが友達かは分からない。でも少なくとも僕はそう思っている。なら彼女のために全力を尽くそう。そして気が付いたら自然に春咲さんを抱き締めていた。僕も昔、姉さんにやってもらったことがある。とても温かくて居心地が良かった。何かに包まれているようで、大切に思われていると思えて安心した。

ふと思い出して体が勝手に動いたのかもしれない。僕は考える前に動いている事が多いから。でも僕はバカだから考え直してもこれ以上の何をしたらいいのか分からないだろう。だから春咲さんが落ち着くまでこうしていることにした。こうしているから分かるけど彼女はなんとも細くて弱々しい体をしている。もう少し抱き締める力を加えたら壊れてしまいそうだ。

 

 

 

僕がしばらくこうしていたら、窓から入ってくる光はオレンジ色に変わっていた。部屋全体が目を差すような鮮明で鮮やかな色。そんな時間帯になると、段々と僕の体にかかっていた力が緩まってきて、そしてついに春咲さんは自分の腕を外してくれた。顔は上げてくれないが、落ち着いたのは間違いないだろう。春咲さんが自分で話し始めるのを待とうと、僕も腕を外した。車の走る音や、カラスの鳴く音だけが聞こえる。

 

「…………すみませんでした。取り乱して」

 

顔を上げるのと同時に春咲さんが口を開いた。表情は少し暗いが随分(ずいぶん)とマシになった。

 

「うんうん、全然いいよ。それより大丈夫?」

 

「はい、ありがとうございます。お陰様で落ち着きました」

 

「それは良かったよ」

 

「…………はい」

 

「…………。」

 

また静かになる。こんなこと初めてだから何を喋ったらいいのか分からない。

 

「…………やっぱり無理でした」

 

ふと春咲さんが言った。

 

「…………何が?」

 

「大勢の人に目線を向けられるのがです」

 

それが春咲さんの怯えていた理由か。でも普通引きこもりでもそこまでにはならないと思うのだがどうだろう。

引きこもるための設備レベルがあれほどだから確かにそうなのかもしれないけど、そうなった要因はなんなのだろうか。過去、春咲さんに何があったのだろうか。

 

「ん?でもAクラス戦の時は大丈夫だったけど……。」

 

Aクラス戦では春先さんはそんな事はなく、普通に戦えていた。

 

「自分が戦える相手だったのでなるべく人と思わないで戦っていました。それにそう言うのとは少し違います。サッカーや野球で言えば対戦選手なので。あと学校の廊下だったのでそこまでアウェイに感じる事はありませんでしたから」

 

春咲さんなりに工夫をしていたのか。確かにあくまで召喚獣同士の戦いなので注目されるのは召喚獣の方だし、デジタルには変わりないのでゲームのように思えば気を反らせるのかもしれない。人数も精々三十人いるかいないかだし、場所自体、自分がよく知っている所だと言うのも大きかったようだ。

 

「だから試召戦争は少し不安でしたけど何とか乗り切れたんです。でも今回は外の知らないところでいっぱい視線を感じて、パニックになってしまって。それでもう塞ぎ込むしかなくなってしまって」

 

春咲さんの姿は目立つからね。ある程度は我慢できたけど、人通りが多くなった所でこうなってしまったんだろう。僕でさえ大路地で通りすぎる人皆が、自分に視線を向けていたら不快に思う。実際さっき身をもって体験した。

 

「仕方ないよ。でももう、ここには僕と春咲さんしかいないから安心して」

 

そう言ったら春咲さんは少し嬉しそうな表情を浮かべて、僕に微笑んだ。

 

「ありがとうございます。吉井君がいなかったら私大変な事になっていました」

 

「当然だよ。だって僕と春咲さんは、その………クラスメイトだからさ」

 

友達と言えなかった。もし否定されたらと思うと怖くて言えなかった。そこまで言う勇気が僕にはなかった。

 

「……そうですね。でも改めて言わせてください。本当にありがとうございました」

 

「ははっ、もういいよ。でもほんと、春咲さんが無事で良かったよ。メルさんも心配してたんだよ」

 

「それは悪い事をしました。なら早く帰らないと彼女、探し始めるかもしれませんね」

 

「うん。買い物してさっさと帰ろうか」

 

「はい、そうですね」

 

そうして僕は、何故か感じる胸の痛みを抑えて家をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家を出てから買い物をするためにスーパーマーケットにやって来たのだが、そうなると勘の鋭い人なら分かるだろう、また春咲さんが僕にしがみ付いて離れない状況ができるということに。

 

家を出て人通りの多い所に差し掛かると、また春咲さんが僕を締め付けだしたのだ。僕の服に顔を押し付けて、二つの細い腕を使い蛇の様に全力で締め付けるあの技を繰り出してきたのだ。この特徴からこれを『春咲スネークホールド』と名付けよう。それにしてもこれ、案外苦しいのだ。いくら春咲さんが非力だと言っても、全力でやられれば苦しくなるのは当然だろう。でも体に当たる胸の柔らかさなどを考慮すると、この程度の息苦しさなど何ともない。今更だが、実は春咲さんって思ったよりもあるのだ。着痩せするタイプなのだろうか?

 

ともかく、僕はそんな幸せな状態のままスーパーで買い物をしていた。しかしやりにくい。今回は腕を逃していたので両方の腕が使えるが、それでも人が一人くっ付いた状態だと歩きにくいしカゴを持ちづらい。話しかけても耐えるのが精一杯なのか、僕の言葉を聞いてる様子は全然ないので、このままでずっと買い物をするしかないのだ。 それでも、しっかり買い物を終えれたので良しとしよう。レジをしている店員さんの視線が辛かったけど。

 

そんな奇妙な買い物を終えて、僕たちは真っ直ぐ教室に帰った。その時にはもう日はほぼ落ちていて、外は暗くなっていた。そして帰った時にメルさんもやっぱり心配していたようで、後で二人して謝った。その頃にはもういつもの春咲さんに戻っていて、僕はやっと心から安心できたのだった。そして何よりも嬉しかったのは春咲さんが自分の部屋に戻る前に僕の所に来てこう言ってくれたことだ。

 

「周りが怖くて私がうずくまってた時に吉井君を見つけてとても安心できました。もしまた私が外に出るときは今日のように一緒にいてくれませんか?」

 

便利な道具のように思われているかもしれないが、それでもこの日、僕と春咲さんの距離が少し縮まったようなそんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




活動報告にこの小説の設定をまとめたものを載せました。小説自体に載せたかったんですけど、話の途中に載せるのはどうかなと思い止めました。
設定と言っても本編で書いてあることをまとめただけなので、わざわざ見る必要はありません。
この小説の設定がよくわからない方や、しょうがないから見てやるよって方は見て下さい。

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