バカとテストと最強の引きこもり   作:Gasshow

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高峯主体の話にする予定。最後には高峯とメルさんの関係性が明らかに!

なんて告知をしてみたり、してみなかったり。

あっ、あとお気に入り数800人を越えました。全て皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


自ら喧嘩を売っていくスタイル

姉さんが来てから一抹の時間が流れ去った。その間に姉さんを交えて勉強を教えて貰ったり、高峯くんと姉さんから逃げ回ったり、姉さんに料理を教えたり、高峯くんと姉さんから死ぬ気で逃げ回ったりしながら日々を過ごした。そして今日、一時的に姉さんがアメリカに帰ることを知って、僕と高峯くんが拳を振り上げて喜んだ結果、僕たちはこの世の地獄を見てしまったのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

そんな不幸な事件は置いておいて、この夏休み期間に、進学校である文月学園は当然のように補習があった。Rクラスである僕たちにはそんなものはないのだが、その他のクラスはどの学年問わず、そんな強制的な罰ゲームに似た何かを味あわされていた。まだ設備の整ったAクラスやBクラスはこの真夏日でも勉強に集中出来るだろうが、最低設備のFクラスなんかになると、もうそれは生き地獄に変わりはないはずだ。だがそれもどうやら昨日で終わりになったようで、なんでも学園長が試験召喚システムの調整をミスって、それが第二学年の生徒側にばれた結果、その尻拭いとしてどうやら肝だめしをやるはめになったらしい。それで最後の二日間の夏補習が泡となって消えたそうだ。勿論、Rクラスは当然のごとく不参加を決め込んでいた。決め込んでいた筈なのだが──。

 

 

 

 

 

 

「それで、ババァ長が僕たちに何の用なんですか?」

 

僕は教室の机に置いてあるノートパソコンに向かってそう言った。正確にはノートパソコンを通して会話をしている学園長にと言った方がいいだろう。

 

「まぁそんな早々、邪険に扱うんじゃないよ」

 

広々とした教室に、枯れた学園長の声が響いてこだまする。教室にはノートパソコンに意識を向ける僕と、僕の後ろに控えているメルさん、さらには自室に仰々(ぎょうぎょう)しい装置を置いてしまったため、一時的に自室が使えなくなってしまった結果、教室の端でパソコンのキーボードを弾いている高峯くんの三人がいた。

 

「実は今、現在この瞬間に二年生と三年生が新校舎でいがみ合いをしていてね。今にも爆発しそうだから、あんたたちに止めてきて欲しいんだよ」

 

それはなんとも大変なことだ。いや、なんでそんなことになったんだ……。二年生と三年生の仲が(よろ)しくないのは分かっていたことだけれども。

 

「そんなの、学園長自ら行ったらいいんじゃないですか?」

 

僕はまず思い付く提案を学園長にぶつけた。

 

「まぁそれでもいいんだけど、私は一刻も早く試験召喚システムを調整しなくちゃいけなくてね。だから暇してるあんたたちに頼みたいんだよ」

 

そう、春咲さんが今現在Rクラスにいないのはこれが原因だった。学園長を手伝いに、珍しく外へと出ていったのだ。と言うか、学園長が変に誤魔化すからこんなことになったと言うのに。まぁ世間から注目を集めているこのシステムが問題を起こしてしまったなんて、易々(やすやす)とばらす訳にはいかないと言うのは理解できるけど……。

 

「まぁそう嫌な顔せずに頼むよ。Rクラス自体どちらかと言うと、生徒側でなく文月学園関係者(こちら)側なんだ。あんたたちに全く関係ないと話でもないだろう?」

 

そう言われると断りづらい。

 

「…………はぁ、分かりましたよ。あんまり乗り気じゃないですけど」

 

誰が自ら進んで爆薬庫に足を運ぶと言うのだ。少なくとも僕は嫌だ。

 

「助かるよ。でもあんただけじゃ心配だねぇ」

 

学園長は顎をひとなでしてから、ふと視線を僕からずらした。

 

「いるんだろう、高峯。あんたも一緒に行きな」

 

どうやら高峯くんは、一人で作業しながらもこちらの会話は聞いていたようで、明らかに不機嫌そうな表情を見せながらこちらに目線だけを移した。

 

「あ゛?ンで俺がそんなめんどいことやんなきゃなんねぇんだぁ?クソババァ」

 

「そりゃあんたをここに入れる時に言ったろう?学園全体に関わる私の頼み事は協力的に受け取るってね」

 

そんな学園長の台詞を聞いた高峯くんは一つ舌打ちをして、席を立ちこちらに向かって歩いてきた。そして僕の隣に立ち、学園長の映るノートパソコンに顔を寄せて威圧した態度で口を開く。

 

「仕方ねぇ。契約は契約だ。手伝ってやる。ただし解決のやり方はこちらに一任させてもらう。テメェの全権を俺に譲れ。それが最低条件だ」

 

学園長は高峯くんの言葉を聞いて、少し考える仕草を見せた後、こくりと頷き意地の悪い笑みを一つ浮かべた。

 

「ふむ。まぁ、いいさね。あんたならこちらに利のある解決をしてくれるだろうしね。それじゃ頼んだよ。とっとと行ってとっとと解決してきな、クソジャリども」

 

自分から頼んでおきながらなんとも憎たらしい態度を取るババァだ。しかし高峯くんはそんな学園長の様子にピクリとも反応せずに、教室の外へと繋がる扉へと向かって行った。

 

「ケッ、おい行くぞ吉井」

 

「あっ、待ってよ高峯くん」

 

僕は椅子から立ち上がって高峯くんの背中を追い掛ける。

 

「それじゃあメルさん、行ってくるよ」

 

忘れてたと言わんばかりに、僕はふと後ろへと振り向いてメルさんに一言そう言う。

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

僕たちはメルさんの笑顔を背中に受けて、事態の収束をするために二年生の教室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、この場ーー新校舎は修羅場と化してした。それは文月学園の二年生と三年生にとの衝突によって。その多くの生徒たちが二つの勢力に別れて対面しており、今にも爆発しそうなこの均衡状態は、とある三年生の一言によって一気に崩れ去った。

 

「てめぇら年上を舐め過ぎだ!今からどっちが上か思い知らせてやる!」

 

それと同時に三年生側の召喚獣が二年生側へと飛びかかって行く。

 

「一つだけしか年が違うのに威張り過ぎなのよ!」

 

それに対抗する為に二年生側の召喚が飛びかかる。そんな様子に、その場を傍観(ぼうかん)していた各クラス代表は、流石に不味いかと止めに入ろうとした。ここで乱戦になれば色々と台無しだ。しかし間に合わない。引火した火薬を止める(すべ)はない。もう手遅れだ。そんな、そんな大きな固まりがぶつかり合うその寸前。

 

その瞬間だった──。

 

 

 

 

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

 

全ての召喚獣が吹っ飛んだ。比喩ではない。全てが吹っ飛んで、そして消えていった。各々の召喚獣が、ポリゴン体となって空気に溶けるようにして消滅する。それは紛れもなく、彼らの召喚獣が持つ点数が全て“0”になった証しだった。その場にいる全員が放心する中、その声は聞こえてきた。文月学園の絶対王者であるクラスの一員。学年次席のその──

 

「カカッ、雑魚(バカ)がいっちょ前に戦争なんか始めてんじゃねぇよ」

 

 

 

悪魔のような彼の声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕と高峯くんは、二年生側と三年生側の間に立って二つの勢力に停止を呼び掛けた。

 

召喚獣を全員戦闘不能にすると言う力ずくで。

 

……いや、仕方がなかったんだ。もう話し合いで解決できる様子でもなく。取りあえず話を聞いてもらうために仕方なくそうしたんだ。決して高峯くんが嬉々として僕にそう持ち掛けた訳ではない。いや、本当に。

 

「まぁそれで、どんな下らねぇことでこんなことになったかは知んねぇがぁ、雑魚(バカ)なら雑魚(バカ)らしく黙って仲良しこよし学校行事でもやってりゃいいんだよ」

 

開口早々、なんと言う悪口。流石だよ高峯くん。

 

「…………高峯聖ぃ」

 

それを聞いた周囲にいる内の誰かが歯をギリッと噛み締めながらそう言った。それと同調するように、周囲の生徒たちの殆どが高峯くんに鋭い敵意の籠った視線をぶつける。と言うのも、この前の試験召喚ラッシュの時に、高峯くんが彼らを散々煽ったのが原因だった。例えば二年生には──

 

雑魚(バカ)は百回生まれ変わっても俺の足元にすら及ばねぇ。せめて犬くらい賢くなってから出直して来るんだな」

 

と挑発し、さらに三年生には──

 

「てめぇらが今、必死になって合格しようとしている大学は、俺が欠伸をして寝ながらでも受かるような、そんな三流大学なんだよ」

 

とまぁ受験生にとっては最悪な言葉(ワード)を連発しながら彼らの召喚獣をなぎ倒していった。よって高峯くんは今、Rクラス以外(メルさんを除いた)の全敵意(ヘイト)を一人で買っているのだ。これが元来の高峯くんの性格なのかと初めは思ったのだが、最近僕はちょとした違和感を高峯くんに感じるようになっていた。それはまるで、自分の周囲にわざと敵を作っているような──

 

「おいおいまさかこんな下らない争いに、わざわざRクラス様が直々お出ましだとは思わなかったぜ」

 

そんな僕の思考を中断するように、ふと二年生側から生徒を割って一人の男が出てきた。それは他の誰でもない。Fクラス代表の坂本雄二だった。

 

 

 

Rクラス

 

高峯聖 2362点

 

&

 

吉井明久 1021点

 

 

 

「…………はっ、相変わらずぶっ飛んだ点数してやがる」

 

雄二はふと僕たちの召喚獣を一瞥(いちべつ)してそう呟いた。それから視線をこちらに戻して話を続ける。

 

「来て早々、大層な挨拶じゃないか。まぁお前らからしたら、こんなゴタゴタを放っておくわけにはいかないんだろうが、そもそもこんなことになったのは、学園側が試験召喚獣の調整ミスをしたからだろ?」

 

「あ゛?なに勘違いしてやがる?これは暑さでオーバーヒートするような、てめぇらの柔な頭を気遣っての配慮だ。そこら辺をしっかりと弁えてほしいもんだなぁ」

 

ふと二人の視線が真正面からぶつかる。なんと言うか、こう言う言い合いが得意な二人が敵同士になると、こんなにも緊迫した雰囲気が流れるとは思いもしなかった。僕の肌がピリピリと静電気を受けたような、そんな感覚に見舞われる。

 

「…………まぁいい。こちらとしてはそれで夏の補習を無くさせて貰ってるんだからな」

 

雄二は一歩こちらに進んで口を開く。

 

「それで、Rクラスがわざわざ外に出てまで止めに来たんだ。ここで、はい解散とはいかないんだろ?」

 

「ケッ、よく分かってんじゃねぇか」

そうなの?僕は喧嘩を止めたんだからこれで終わりと思ったんだけど……。

となるとこれ以上、どう動くと言うのだ。僕はそんな疑問を持ちながら、じっと高峯くんを見る。

 

「さぁて、てめぇら両陣ここで終わらせちゃあ不完全燃焼だ。そうだろぉ?そう思うよなあ?」

 

ふと高峯くんは二年生と三年生を交互に見ててそう言った。どちらの生徒もこくりと一つ頷いて、賛同の意を示した。

 

「ならこうしよう。これから“全員参加形式の肝だめし大会”といこうじゃねぇか」

 

「肝だめし大会だと?」

 

三年生側の坊主頭をした先輩がそう呟く。確かーー夏なんとか先輩だった気がする。

 

「あぁ、脅かす側と驚かされる側に別れて勝負をする。まぁただ勝ち負けを決めるんじゃあ詰まんねぇから、適当な罰ゲームでも付けてな」

 

高峯くんは大きく口を歪ませて続ける。

 

「勿論、人数の少ない俺たちが驚かせる側だ。面倒な準備作業は俺たちがやってやンよ。どうだ?」

 

これに反論は無いようで、周囲の生徒たちは黙って高峯くんの話を聞いていた。そうして高峯くんは懐からA4サイズの紙を数枚取り出して、二年生側と三年生側に放り投げた。教室に出る前、何かを書いて印刷していると思ったらこれを作る為だったのか。

 

「ねぇ、高峯くん。僕の分はある?」

 

僕もルールを知りたいのでそう高峯くんに尋ねると、どうやら僕のために一枚残しておいてくれたようで、彼らに配った物と同じ紙を無言でこちらに突き出してきた。こうなぜか地味な気遣いを高峯くんがしてくれてると、何とも言えない嬉しさを感じてしまう。やっぱり根はいい人なんだと思う。

 

僕は高峯くんにお礼を言って、紙に書かれた内容を確認する。

 

 

 

 

 

①二人一組での行動が必須。一人だけになった場合のチェックポイント通過は認めない。*一人になっても失格ではない。

 

②二人のうちのどちらかが悲鳴をあげてしまったら、両者ともに失格とする。

 

③チェックポイントはA~D各クラスに一つずつ。合計四箇所(かしょ)とする。

 

④チェックポイントでは各ポイントを守る代表者一名(点数は五十点固定)と召喚獣で勝負をする。撃破でチェックポイント通過扱いとなる。

 

⑤一組でもチェックポイントを全て通過できれば驚かされる側、通過者を一組も出さなければ脅かす側の勝利とする。

 

⑥脅される側は先行と後行を決めて、順番に中に入って行く。必要とあらば、前の組を追い抜いてしまっても構わない。

 

⑦脅かす側の生徒は召喚獣でのバトルを認めない。あくまでも脅かすだけとする。

 

⑧召喚時に必要となる教師は各クラスに一名ずつ配置する。

 

⑨通過の確認用として脅かされる側はカメラを携帯する。

 

⑩設備への破壊、改造といった手出しを禁止とする。過失だとしても、そのチームは強制的に敗北となる。

 

 

 

 

 

「……へぇ~結構凝ったルールじゃあねぇか」

 

ルール表を見たソフトモヒカンの先輩(確か常なんとか先輩だった気がする)がそう呟く。

 

「なるほど、なかなか面白そうじゃあねぇか。俺がやろうとしてた事と酷似してるしな」

 

続いて雄二もそう言う。なんと、雄二もこれと似たことを考えていたらしい。流石、抜け目がない。

 

「ちょっと、高峯くん。この悲鳴の定義ってどうなってるの?」

 

ふとそう言った木下さんの言葉で気がついた。確かに。悲鳴となると境界がかなり曖昧になってしまう。勝負事である以上、そこはしっかりと定めておくべきだ。

 

「それは声の大きさで判断する。カメラにマイクを付けて、そこから拾う音声が一定値を越えたら失格だ。カメラはこっちで用意してやる。安心しろ、別に小細工をしようとは考えてねぇよ」

 

なるほど、それならば安心して進められる。

 

「おい、高峯。チェックポイントの勝負科目はどうする?」

 

「そんなもんてめぇらで決めろ。俺たちはどのみち五十点固定だ」

 

まぁ、確かに。これは僕たち側にとって、何を選んでもそんなに変わりはない。そんなこんなでルールが決まり、そのルールが書かれた説明書を読むために、周囲の生徒たちが幾枚かの紙に群がる中、唐突に高峯くんは一つ尖った笑いを口から放った。

 

「それで、お待ちかねの罰ゲームだが……。そうだな、お前ら側のどちらかが勝ったら、俺たちは一つだけどんな命令でも聞いてやる。土下座でも、クラスの入れ変えでもなんでもなぁ」

 

それを聞いて周囲の生徒が全員心底驚いた顔を見せる。まさかそんなハイリスクな罰を提示してくるとは思わなかったのだろう。いや、僕も少なからず驚いている。まぁ高峯くんのことを考えると、何となく予想できる内容ではあるけども。

 

「そして俺たちが勝ったら……。そうだなぁ、この設備の片付けでもしてもらおうか」

 

それは余りにも不釣り合いな内容だった。これだけでも分かる。高峯くんの絶対的な自信。自分たちが負ける訳がないと、そう言っているも同然な言葉。

 

「…………いい度胸じゃねぇか」

 

雄二は頬に冷や汗を滴ながら口角を上げる。どうやら高峯くんの提示した罰ゲームによって、雄二の闘志に火が付いたようだ。それは周りの生徒たちも同じようで、僕たち二人に力強い視線が向けられる。

 

「カカッ、精々足掻いて敗北を知れ」

 

そんな彼らを面白げに眺めた後、高峯くんはそう言ってRクラスへ戻るために(きびす)を返して歩き去って行く。

 

「じゃあね、皆。明日、楽しみにしてるよ」

 

僕はそんな高峯くんの背中を追いかけながら、後ろを振り向いてそう言う。その時に見た彼らの姿は、この夏の暑さに負けないほどの熱を僕に感じさせた。

 

 

 

 

 

 

こうして二年生、三年生、そしてRクラスによる三竦(さんすく)み、夏の肝だめし大会が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




実はこの作品、色々と遡って一話一話誤字やら文法やらを直しました。前よりかなり読み易くなったと思います。まだ前半の方は、直す部分が多すぎて、直し損ねが多々ありますが、それもまた追々直していく予定です。ですが、初めの一話だけは直さないで放置してます。あれは自分が初めて書いた文章なので、なんと言うか、もう少し置いておこうかなと。そう思いまして。

と言うか、あんな文章でよくここまで皆さんに読んでもらったな!と少しビックリしました。自分で読み返していてはずかしかったです(笑)。

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