バカとテストと最強の引きこもり   作:Gasshow

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すみません!完結してから全部投稿しようと思ったのですが、肝だめし編だけ投稿しようと思います。取りあえず、これで五巻分を終わらせます。内容も文章量も薄っぺらのカスッぺらですが、良ければ読んでやってください。


R+one

夜の静けさがしっとりと僕の肌を撫でる。少しだけ緊張しているせいか、ドクドクと鳴る心臓の音が妙に固く聞こえた。今僕は、姉さんの泊まっている部屋の前にいる。ロック一つかかっていない、木製の何でもない扉。それなのにこの部屋の扉はRクラスにあるどの扉よりも固く、そして厳重な鍵が掛けられているように感じられる。しかしそれでも僕はここで退く訳にはいかなかった。胸に一つの決意を乗せて、そっと扉をノックする。

 

「はい、開いてますよ」

 

扉越しに姉さんの声が響く。僕はゆっくりと扉を開け放った。今日来たばっかりなので、姉さんの部屋は妙にこザッパリしていて、そしてどこか寂しかった。

 

「あら、アキくんでしたか。どうしました?」

 

「……うん、少しだけ話があって」

 

「そうですか。椅子は一つしかないのでベッドの隅へ座って下さい」

 

僕は姉さんの言われるがままにそうした。姉さんは僕の横に腰を下ろす。

 

「………………………………。」

 

「………………………………。」

 

僕は会話の準備が整ったのにも関わらず、口を開くことができなかった。なんとも微妙な空気が小さな部屋に流れる。しかし意外にもそんな空気を破ったのは姉さんの方だった。

 

「…………ふむ。アキくん、少しだけ背が伸びましたか?」

 

「え?」

 

姉さんに言われて、僕は自分の頭に手を当てた。どうなんだろう?伸びたのかな?

 

「どうでしょう?昔みたいに私の膝に乗ってみませんか?」

 

「えっ!?いや、それはちょっとこの年で恥ずかしいと言うかなんと言うか……。」

 

「いいではありませんか。ここには私とアキくんしかいないのですから」

 

確かに。この部屋には姉さんと僕しかいない。いや、そう言う問題では無い気がする。そんな考えを浮かべて僕が迷っていると、そっと姉さんが僕の手を引っ張って強引に自分の膝の上に乗せてきた。ふと安らかな時間が僕の内を駆け巡る。昔から姉さんにこうしてもらうと僕は落ち着くのだ。それは今の歳になっても変わらない。その事実に僕は少しだけ、自分自身に呆れた感情を持ってしまう。

 

「それで話と言うのは、私がここに来た時、言ったあの事についてですか?」

 

僕は思わず目を見開いて、姉さんの方に顔を向けた。

 

「わ、分かってたの?」

 

「いえ、だたの姉としての勘です」

 

お、恐ろしや姉の勘。だがそれなら好都合だ。もう前置きも何も無しで、勢いで言ってしまった方がいい。その方がもううじうじと考える必要も無くなるし、姉さんのペースに巻き込まれることもなくなる。僕はきゅっと肩に力を入れて、姉さんの目を見る。

 

「あのね姉さん」

 

そして僕は頭を真っ白にして自分の底から沸き上がった言葉をそのまま口から吐き出す。

 

「今日の昼間に話したことだけど、確かに姉さんとしては僕がここで皆と暮らしてるのは許容し難いかもしれない。でもね、僕はここでやらなくちゃいけないことがあるんだ」

 

「やらなくちゃいけないこと?」

 

「うん」

 

「それはどんなことですか?」

 

姉さんが控えめに首を傾ける。

 

「えっとね、春咲さんって言う()がいたでしょ?あの()はね、引きこもりなんだ。それも凄い重度の」

 

春咲さんはこの間の試召戦争の時も、一人教室で待っていて僕たちが打ち漏らした敵を倒すだけ。結局、春咲さんがこのRクラスから出たのは始めの試召戦争の時と、清涼祭の時。あとは夏合宿の時だけだ。よほど大きな必要を感じなければ、春咲さんが外に出ることはなかった。

 

「何が原因でそうなったのかは分からないし、でもきっと春咲さんが今の自分を望んでいないのは分かってる。だから僕は春咲さんが引きこもりをやめられるように手助けをしてあげたいんだ」

 

僕は続ける。僕の心情の内を語る。馬鹿で何もできない僕にはそれしかできなくて、それが最善の方法だった。

 

「それに僕自身もこのクラスのが大好きだし、きっと僕もここにいれば楽しい学校生活を送れると思う。それはきっと、家から通っても同じことだけど、僕は僕のクラスメイトともっと長く時間を共有したいんだ」

 

僕の長い話を聞いた姉さんはそっと小さな息を吐いた。彼女の膝の上に乗せられている僕からは、その表情は読み取れなかった。

 

「…………そうですか」

 

ただ姉さんはそれだけを呟いて、そっと僕の頭に手を覆うようにして乗せてきた。

 

You're such a credulous person(アキくんは本当におバカなひとですね).」

 

その言葉に僕は少しだけムッとする。最近はそんなことはないはずだ。僕だって昔よりはマシになっている。

 

I think that's putting it a little too strongly(それはちょっと言い過ぎだと思う).」

 

僕は意表返しも込めて、姉さんへとそう英語で反論する。しかし僕の発した英語は姉さんの流暢(りゅうちょう)な発音には到底敵うものではなかった。

 

「あら意外です。アキくんに分からないように英語で言ったのに。意味を理解して、さらには英語で返してくるなんて」

 

「僕だって賢くなってるって事だよ」

 

「それもこのクラスのお陰ですか?」

 

「そうだよ」

 

「…………そうですか」

 

姉さんはそっと僕の頭から手を覆うようにして引いて、自分の膝の上から僕を下ろした。そこでやっと姉さんの表情が確認できたが、それは僕がこの部屋に入ったときと何ら変わりの無い見慣れたそのままの顔だった。

 

「まぁそうですね。特別に今回は許しましょう。お母さんにも上手く言っておきます」

 

「本当!?」

 

僕はあっさりと姉さんが理解を示してくれたことに驚き、思わずベッドから立ち上がる。

 

「ええ、でもその代わりと言う訳ではありませんが、私もここに住まわせていただきます。アキくんを監視する必要もありますしね」

 

「そ、それは嬉しいね」

 

僕は笑顔を崩すまいと、表情筋にめい一杯力を入れる。

 

「アキくん、顔が引きつってませんか?」

 

「そ、そんなことないよ」

 

そう、そんなことはない。なぜなら次の瞬間、僕の浮かべた笑顔はきっと、心から浮かべた笑顔だったに違いないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も朝が始まる。何気なく時が過ぎ去る。ここで巻き起こる日常が以前と変わらない形で残り続ける。しかしそれに付け加えられた、調味料が今は深い奇妙な一つの味を(かも)し出している。

 

「どうですか?吉井くん、今日の朝食は(あきら)さんが作ったんです」

 

「………………うん、上手くなってる」

 

僕は素直な感想を述べる。美味しいとは言えないが、しっかりと食べ物だ。以前の姉さんとは比べ物にならない。姉さんも僕の感想に少しだけ嬉しそうな、しかしそれとなく照れたような笑みを見せた。

 

「これも(あきら)様の努力の賜物です」

 

「いえ、メルさんと春咲さんがしっかりと教えてくれたので」

 

そう。姉さんがここ、Rクラスに住むようになって今一番頑張っているのが、この料理だった。あのメルさんが食べたクッキーと比べると、これは大きな進歩だと言えよう。

 

「まぁ不味いのには変わらねぇがぁ。いや化け物の作った料理にしては上出来かもな」

 

手に持った本を眺めながら高峰くんは皮肉った笑いを浮かべる。どうやら高峰くんからすると、姉さんは化け物という認識らしい。

 

「まぁそんな事を言うなんて。いけません。駄目ですよ、タカくん」

 

「「「「タカくん!?」」」」

 

あまりの驚きに、Rクラス全員の声が同調する。何だ今の愛称は?恐らく高峯くんの事を言っているのだろうが……。

 

「ええ、私は嬉しいです。こんな所に二人目の弟ができるなんて。ここに来た初日でピンと来たのです。タカくんからはアキくんとは違う、私の姉本能を刺激する何かがあります。さぁ、前回はこれを着させそびれましたが、今日こそはしっかりと着て写真を撮りましょうね」

 

こ、これは何とも意外な展開。姉さんがどこからか取り出したナース服が高峯くんの目の前に押し付けられる。これはもう高峯くんに御愁傷様(ごしゅうしょうさま)とだけ言っておこう。

 

「おいおい冗談じゃねぇぞ、テメェ!なにとち狂ったこと言ってやがる!」

 

そんな様子を見ていたメルさんが、ふと高峯くんを見ながら何とも歪んだ笑顔を向けた。

 

「ざまぁ……とでも言っておきましょか」

 

それは僕が今まで見た中で、ある意味最高の笑顔だった。

 

「ク、クソガァァアァ!」

 

高峰くんは天高く、遠吠えをしてからかばっと僕の方を向いた。

 

「おい、吉井!こいつを早くどうにかしろ!お前の姉だろ!」

 

「いや~それはちょっと……無理かな?」

 

そんな自殺行為を誰が望んでするというのか。下手をしたらこちらに火の粉が飛んで来る。ここはそっと息を殺して災厄が過ぎ去るのを待つのがベストだろう。しかし現実はそんなに甘くないことを僕はその直後に知る。

 

「おい、吉井姉!その服なら俺よりもこいつの方が似合うんじゃねぇか?」

 

「ふむ、一理あります。なら二人とも着せてみましょうか」

 

「ちょ!高峯くん!?僕を巻き込まないでよ!」

 

「カッカッカッ、一人で死ねるか!テメェも道連れだ!吉井ィ!」

 

そうしてRクラス内で壮絶な追いかけっこが始まった。姉さんから高峰くんと逃げ回る中、途中で僕はなぜかおかしくなってふふっと思わず笑みが溢れる。そして最後は大きく声を出して笑ってしまった。このRクラスに一人、僕の姉さんが加わった。そんな事実があまりにも奇妙で、そして不思議な感覚で、僕は思わず笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




感想とか評価とか色々とありがとうございます。励みになりました。少しでもご恩を返せるように、なるべく面白くなるように努力いたしますm(_ _)m。

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