こちらで完結してから全部投稿すると言ったのですが、せっかくなので書いている内の一つを投稿しようと思い、こうしました。まさか普通に一万文字を越えるとは思っても見なかったので、かなり長くなってしまいました。と言っても、五巻の半分に相当する話を一万文字で収めたので、そう考えるとむしろ少ないほうですかね。もうどんな風に書いていたのか忘れてしまいましたので、今の自分スタイルを取り入れている文章になっています。
「つ、疲れた」
そう言って、僕は教室にあるソファーへと倒れ付した。
「今日で何日、連続でした?」
春咲さんも机に突っ伏している。
「今日で丁度、一週間です」
対してメルさんは何も無かったように直立不動で立っていた。
「ただの数がいればいいってもんじゃない。そう教えてやったのに、学習しねぇ奴らだ」
高峯君の挑発からちょうど一週間。あれから二、三年のほとんとが試召戦争を仕掛けてきた。まだ動いていないのは、二年のAクラスそしてFクラスだけだ。ともかく、今日で予定していた分の試召戦争は全て無くなった。
「でも、全部勝てたんだから良かったよ」
「そうですね。ですが、侮れない相手もいました」
春咲さんは、神妙な面構えでそう言った。
「三年のAクラスだよね」
「はい。もし次に戦う時は、少し警戒しなくてはいけないですね」
そう、三年Aクラス。点数の高さだけならば、全く問題ないレベルだった。だけど、その場その場の立ち回りや、的確な状況判断。そこに姑息な手を絡めてきたりと正直、一番やりにくい相手だった。同盟無し、一クラスだけとの勝負だったというのに、一番やっかいだった印象がある。どうやら今回も様子見のようだったし、食えないクラスだ。まぁ、あのAクラス代表が個人的に苦手と言うのもあるかもしれない。
「はっ、関係ねぇよ。次に来たときも、徹底的に叩きのめす。それだけだ」
「だね。僕達なら大丈夫だよ」
事実、今回の試召戦争ラッシュも危ない場面は皆無だった。それは四人全員が参加したと言うのが大きいだろう。特に、高嶺君は試召戦争
そんな感じで、なんやかんや僕達が試召戦争が終わった解放感に感傷していた時だった。
ピンポーン
部屋からチャイムが鳴った。
「誰かが来たようですね」
それが絶望への合図だった事を僕達は知るよしもなかった。
世の中にはどんな天才だろうと敵わない人間と言うのがいる。その人との相性や、関係性、その他もろもろ。それは一期一会であり、もしそんな関わりがあるのなら、はや早々に諦めた方が良いのかもしれない。僕にもそう言う人間はいる。例えばそう、僕の姉だ。
「おい、吉井。答えろ。これはお前の姉なのか?」
「…………………………うん。非常に残念ながら僕の姉だよ」
僕は項垂れ、そして諦めた様に言った。
「アキくん。それはどう言う意味ですか?事と場合によってはアキくんにチュウをしますよ」
「な、何を勘違いしてるのさ姉さん!僕はこんな素晴らしい姉さんが僕なんかの姉になってしまって非常に残念だなって言うだけで…………」
「あらあら、それはそれは。ですがアキくん。アキくんが自分に対してした評価は間違っていますよ。あなたの場合はそこからもう少し低く評価するべきです」
「低くしちゃうの!?そこはもっと姉さんが僕を持ち上げて、フォローを入れるべきじゃないの!?」
我が姉ながらなんと言う酷評。僕の自信やら尊厳やらがガリガリ削られていく。しかしなぜこうなったのか、それは単に姉さんが帰国してこの教室を訪ねに来たんだけど、その格好がバスローブで若干クラスメイト全員が引いていると、そんな一言でまとめられるけど、まとめたくないような状況にいる。それだけだ。
「ハッキリ言いましょうアキくん。貴方は異性から魅力的に映ることはないほど駄目な弟です。女である姉さんが言うのだから間違いありません」
先程の台詞からさらに追い討ちをかける辺り、流石は僕の姉さんだ。
「………………なんだこの生物は?俺の理解の範疇を越えてやがる。火星人か何かか?」
「高峯君、流石に失礼です…………と言いたいところですが、
「春咲様、高峯聖。そう言うことは、本人の前では言わないのがマナーです」
遠くからそんな会話が聞こえてくるが、今はそんな場合ではない。僕はここからこの姉さんをどうにかしなければいけないのだ。
「私はビックリしました。母さんにアキくんの生活をチェックして報告するため、アメリカから日本に来たというのに、家には誰もいない。仕方なしに学校へ連絡をしたらなんと、ここで寝泊まりして生活しているというではありませんか。普通は家族へ一報を入れるのが常識ではありませんか?」
「それはそうなんだけど、でも姉さんに常識を解かれたくはないよ!それにこんなことを母さんに言ったら絶対面倒な事になるって分かってたから、黙ってたんじゃないか!」
あの母さんの事だ。この事が露見していれば、僕の想像の及ばないような事をしてくるに違いない。
「アキくん。それでは私に常識が無いと思われます。そんな事を言うお口は塞いでしまいましょう。私の口で」
「それだよ!僕が言ったのはそれだよ!そんなことする姉は世界的に常識が無いと見なされてもおかしくないんだよ!」
なんと言う刺客を送り込んでくれたんだ母さん。会って数分しか経っていないのに、もうすでに水素爆弾並の破壊力だよ。このままではさらに被害が出てしまう。とにかく今日のところは帰ってもらって、一旦体勢を整えよう。
「ねぇ、姉さん!長旅で疲れたんじゃな……い…………なっ!」
僕は抱えていた頭を上げて、姉さんの方へと顔を向けたが、時すでに遅し。姉さんは既に春咲さん達の前へ移動していた。
「初めまして、吉井
少しビクリとしたものの、春咲さんはペコリと頭を下げて礼をした。
「は、春咲彩葉です。こちらこそ吉井君にはいつもお世話になっています」
「ワーメルト・フルーテルです。以後お見知りおきを」
「………………チッ、高峯聖だ」
僕のクラスメイト達と難なく普通の自己紹介をしている。これなら二次災害が起こる前に、姉さんを送り返せるーーーー
「アキくんにこんな男の子の友達が三人もいるなんて。私は少し安心しました」
ーーーーなんて思った僕がバカだった。
「ちょっと姉さん!出会い頭になんて失礼な事を言うのさ!高峯君以外は女の子だよ!」
まんま女の子の要素しかない二人を男の子の呼ばわりだなんて、どこまで常識知らずな!すると、僕の台詞に反応して姉さんがゆっくりとこちらを向いた。
「…………女の子、ですか?まさかアキくんは女の子とここ数ヵ月共に屋根の下で生活をしていたのですか?」
ま、不味い!そう言えば、一人暮らしをする時に姉さんと不純異性交遊は禁止と約束したんだった。でも別に、一緒に生活しているだけで、何も如何わしいことはしていないからいいんじゃないのかな?とも思ったが、相手は姉さんだ。そんな常識は通用しない。
「ね、姉さん。これには深い深~い事情が……」
「…………そうですか。女の子でしたか。変なことを言ってごめんなさい」
「実は……ってあれ?」
説明を始めようとする僕を無視して、素直に謝る姉さん。怒っていないのかな?
「どうかしましたか。アキくん?」
「あっ、いや。何でもないよ」
どうやら僕の取り越し苦労だったようだ。なんやかんやで事情は察してるのかも知れない。そうやって胸を撫で下ろしている僕に、姉さんが笑顔のまま告げる。
「ところで、アキくん」
「ん、何?」
「ここでは人目がありますし、アキくんといつもしているお医者さんごっこはまた別の機会にしましょうか」
…………あぁ、神様。僕が何をしたって言うんだ?
「明久様、落ち着かれましたか?」
「…………ありがとう、メルさん」
あれから一悶着どころではないことが起こって、しばらく。まぁ、主に誤解を解くということだけど。僕達は取り合えず客間の席へと座った。僕の正面には歩く原子爆弾こと姉さんがいる。
「…………先程の事ですが、この現状、姉として見過ごせない事態です」
僕が落ち着いた後、姉さんは席につくなりこう切り出した。
「どういうこと?」
「ただでさえアキくんは女の子に興味津々だと言うのに、あまつさえこんな綺麗な
いや姉さん、興味津々とは少し言い過ぎな気もする。
「アキくんの溢れんばかりの情欲で貴方たちが汚されて「ちょっとぉぉぉ!!なに言ってるのさ!」」
言い方ってものがあるだろうに!しかも春咲さんがたちの前で!僕の頭に血が昇る中、しかし次に姉さんの口から発せられた言葉はそれを一気に引き下げた。
「だからアキくん。貴方を家へと連れて帰ることにします。」
「「………………………………え?」」
僕と春咲さんの声が重なる。姉さんの言葉が頭に入ってこなかった。
「家と言っても、元々アキくんが住んでいた家に住むと言うだけです。母さんの所ではありません」
いや、僕が聞きたいのはそんなことではない。
「この教室から…………Rクラスから抜けろってこと?」
「いえ、違います。ただ住む場所をここではなく、本来の家にすると言うだけです。少し前まではそこから登校してたはずなので、なんら問題はないでしょう」
いや、問題ありまくりだ。やっとこのクラスに活気が出てきたと言うのに。そもそも僕がこのクラスから離れる時間が増えると言うことは、春咲さんと接する機会も減る。そうなると春咲さんの脱引きこもり作戦に支障をきたす。
不味い。これは非常に不味い。
「ち、ちょっと待ってよ姉さん!なんでわざわざそんなことしなくちゃならないのさ!ここにいれば、きちんとした生活もできるし、登校だってする必要無いんだよ!良いことずくめじゃないか!」
「確かに。その部分だけを考えれば、ここで暮らすことに問題はありません」
「じゃあ……「ですが」」
姉さんは僕と春咲さん、そしてメルさんを見てこう言った。
「アキくんが女の子と同棲している。それはどうやっても見過ごせません」
それは姉として僕を連れ帰るのに十分な理由だった。しかし僕には僕の事情があって、ここに
「では始めましょう」
メルさんのその一言で始まった謎の会議は、僕の部屋で開催された。座布団を四方に並べ、それぞれの席に僕たちは座る。それはさながらをいつか見た時代劇を思い起こさせた。
「それで、どんなぐだらねぇ話をすんだよ?」
僕の右側に座る高嶺君が、機嫌が悪そうな声でそう言った。実際、機嫌が悪いのだろう。半ばメルさんに強引に連れて来られ、ここに座らされたのだから。
「吉井君がRクラスの住居にいれるようにです」
「けっ、くだらねぇ。俺はパスだ。何でそんなことやる必要があんだよ」
そう言って高峯君は席を立って部屋の外へと向かおうとした。
「……………………ぬいぐるみ」
「と思ったがこのまま吉井に抜けられたら、男が俺一人になっちまう。今回だけ協力してやる」
まさか高峯君の引っ越しの手伝いをした時に見つけたあの紙がこんな所で役に立つとは。今現在、凄い形相で高峯君に睨まれているが、それは仕方がない。
「…………記憶…………消す」
後が怖い。
「それで、具体的にどうすれば良いかですが……皆様は何か案がおありですか?」
メルさんの質問から、僕は頭を捻るようにして考える。しかしその途中で高峯君がふと呟く。
「そんなもん催眠性のある薬か音波を使うのが一番早いに決まってんだろ」
「駄目だよ!なに人の姉にとんでも実験をしようとしてるの!?」
「安心しろ吉井。一応、完成品だ」
「安心できる要素が何もないよ!」
やっぱり高峯君、若干怒ってるよ。いや、単に面倒なだけかもしれないが……。しかし高峯君を止め、安心したと思ったのもつかの間、次は春咲さんが恐ろしい事を口にする。
「そうですね。玲さんは大学在中だとか。ならば私が大学に圧力をかけて、玲さんが大学に戻らなければならないようにするのはどうでしょう?」
「ないないないない!それなしだから!」
天才二人からまさかこんな強引すぎる案が出てくると思っていなかった。春咲さんもいつもと少し様子がおかしいようだし、ここはやっぱり自分で考えを出すしかないのか?とそう思った時だった。
「明久様。一つ、よろしいでしょうか?」
唐突にメルさんが僕にことわりを入れてきた。特に何も問題は無かったので、そのまま続けるようにと了承した。
「やはり今回の件は、客観的に見れば明久様のご家族のとして玲様のご意見が正しいかと。ならばもう、口での説得が一番穏便で後腐れもないのでは」
メルさんの意見は最もだ。家族同士の問題は非常にデリケートになる可能性が高い。僕としても今回のことはあまりややこしくしたくないのだ。
「じゃあ、誰が説得するかって事になんぞ」
「「「………………………………………………。」」」
高峯君の言葉に、皆の口が閉鎖する。
あの姉さんに真っ向から口で説得するなど、かなり気の進まない行為だ。いや、でもそもそもこれは僕の問題なんだ。
「…………まぁ任せてよ」
僕が斬り込み隊長に就任した瞬間だった。
『STAGE.1 吉井明久VS吉井玲』
《Duel location : Living room》
「ね、姉さん。少し話があるんだけど……。」
「はい、何でしょうか?アキくん」
「えっと、さっき話なんだけど……。」
「さっきの話……あぁ、お医者さんごっこの話ですね」
「違う!違うから!」
「昔はよくやりましたね。アキくんったら、凄く気持ち良さそうにして」
「止めて!その言い方じゃ、誤解を生んじゃうから!」
「事実ですよね?」
「そ、そうだけど!あれば単に姉さんが僕を膝に乗せて「色々と診察をしたんですよね」って違う!」
「あぁ、お医者さんごっこではありませんでしたか。ではあの時のソフトプロレスごっこですか?」
「全然だよ!姉さんは何の話をしてるのさ!」
「えっ?私とアキくんが体をかさ「違う!違うからぁぁぁあぁぁあぁぁ!」」
《吉井玲 Win》
「だ、駄目だったよ」
「今までずっと勝てなかった奴が、今になって勝てるようになるわけねぇだろぉが」
高峯君の言う通りだ。生まれてこの方、僕は姉さんに口で勝ったことがない。それでいきなり勝てる確率なんて、砂浜で一粒の砂を見つけるようなものだ。
「では今度は私が行きましょう」
僕の次に立候補したのはメルさんだ。
「だ、大丈夫ですか?」
「ご安心下さい。世界一のメイドの名に恥じない戦いを、そして結果を手にいれて見せましょう」
メルさんはどこか毅然とした姿勢でそう言い放つ。しかしそれを見た高峯君が挑発するように口角を上げた。
「惨敗確定に決まってんだろ」
「黙りなさい、高峯聖。今回、貴方の出番はこれっぽっちもありません。自分の無力さを感じながら、生ゴミでも抱いて野垂れ死になさい」
「ンだとゴラッ!」
…………メルさん、言い過ぎだよ。
『STAGE.2 ワーメルト・フルーテルVS吉井玲』
《Duel location : Kitchen》
「失礼いたします、玲様」
「貴方は、たしかメイドさんの……。」
「はい、ワーメルト・フルーテルと申します。メルとお呼び下さい」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
「はい。それで先ほどの事で実は一つ、進言をさせて「そうです!良いことを思い付きました。親睦を深める為に、これを一ついいかがですか?」
「……はい?」
「これですこれ。一生懸命に作りました。どうか食べてみてください」
「こ、これは?」
「クッキーです。久しぶりに焼いたんですけど、中々に自信作なんですよ」
「わ、私の知る限りクッキーと呼ばれるものは紫色で禍々しいオーラを発さない物だと記憶しているのですが……。」
「安心して下さい見た目が悪いだけです」
「……………………………………………………。」
「……………………………………………………。」
「………………うっ。では一つ」
「どうですか?」
「……………………………………………………。」
「あれ?どうしましたか?」
「……………………………………………………。」
「ワーメルトさん?」
「……………………………………………………。」
《ワーメルト・フルーテル Dead》
「メルさん!メルさぁ~ん!」
メルさんが白眼を向いている。ヤバイ!完全に意識が飛んでる。しかしそんなメルさんに、春咲さんが水を使って口へと何かを流し込んだ。
「ひとまず薬を飲ませたので大丈夫でしょう」
良かった。僕はもうメルさんが帰って来ないかと思った。
「散々、言ってこれか。随分とまぁ滑稽じゃねぇか」
高峯君は壁にもたれ掛かって、メルさんを一瞥した後、姉さんのいる方へと体を向けた。
「高峯君、行くの?」
姉さんは一筋縄ではいかない。それは先ほどのやり取りで分かったはずだ。
「俺はお前らと違って、交渉事はよくやってきた。心理学に基づいた話術を使える俺にかかれば、あの程度の奴は雑魚同然なんだよ」
何とも心強い。これならば姉さんをどうにかできるかもしれない。そんな期待を持って、僕は高峯君の後ろ姿を眺め続けた。
『STAGE.3 高峯聖VS吉井玲』
《Duel location : Living room》
「おい」
「貴方は、高峯聖君でしたよね?」
「覚えてんのか?」
「はい。非常に特徴的な容姿をしていましたから」
「まぁそこら辺にいるもんじゃねぇわなぁ」
「はい。それで、何のご用でしょうか?」
「あぁ、少し聞きたい事があってな」
「………………………………。」
「って言うのも吉井のことだ」
「………………………………。」
「お前が懸念してんのは、吉井が女二人と同棲生活同然の事をしてるってことだろ?」
「………………………………。」
「よく考えて……って聞いてんのか?」
「………………アキくん…………ではないですが……。」
「あ゛?」
「…………………………高峯君」
「…………な、なんだ」
「これを着てみてくれませんか?」
「て、てめぇ!何でナース服なんて取り出してやがる!」
「いえ、アキくんほどではないですが、高峯君にも充分素質があります」
「何の話だ!会話になってねぇんだよ!」
「さぁさぁ」
「く、来んじゃねぇ!」
「ほらほら」
「こっちに来んじゃねぇぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇ!!!」
《高峯聖 Mental shock》
「…………高峯君、どこかに行っちゃったね」
「あれだけの事をされれば、当然だと思います」
確かに。僕も経験があるからあの恐ろしさは身に染みている。
「…………では残っているのは私だけですね」
そう言って春咲さんは立ち上がる。
「だ、駄目だよ春咲さん!」
人見知りの春咲さんが、いきなり姉さんと一対一の会話だなんて、そんな自殺行為に近いことをさせるわけにはいかない。
「いいえ、吉井君。行かせて下さい。私は吉井君に多くの物を貰いましたから、少しでも恩返しをしたいんです」
「…………春咲さん」
「それに私は変わってほしくないんですよ。朝起きて、誰かの作った朝食を騒がしいながらも四人で囲んで食べる。そんな日常を守りたいんです」
僕もそうだ。このRクラスにできるだけ長くいたい。そして春咲さんが引きこもりから抜けられるように、それをするには少しでもこのクラスにいなくちゃいけないんだ。
「春咲さん、頼んだよ!」
「はい!」
そうして見送った春咲さんの背中は、小さいながらも前よりずっとたくましく見えた。
『STAGE.4 春咲彩葉VS吉井玲』
《Duel location : Living room》
「あ、あの……。」
「はい。貴方は春咲さんですよね」
「は、はい!そうです」
「少し待ってて下さい。今、本を片付けますから」
「え、えっと…………何の本を読んでたんですか?」
「はい、アキくんの秘蔵本です」
「んにゃぁ!!」
「あれ?どうしました?お顔が真っ赤ですけど」
「なななななにゃんでもないです!」
「しかし、まさか姉ものがないなんて……これはお仕置きですね」
「あああああああ姉ものなんてあるんですか!?」
「はい。……あれ?そう言えば、この人少しだけ春咲さんに似てますね」
「わ、私に……うきゅぅ~」
「倒れてしまいました。どうし「ちょっとおぉぉぉおぉぉおぉぉ!姉さん何やってるのさ!」」
「あら、アキくん。どうして姉ものがないのですか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ちょっと僕、春咲さんを部屋に運んでくるから、大人しくしててよね!」
「ではお説教は後程と言うことですね。早く春咲さんを、寝かせてあげなさい。落としてはダメですから、私が運びましょうか?」
「大丈夫だから!もう勝手に僕の部屋を漁らないでよ!」
「いえ、これも姉の義務ですから」
「そんな義務は世界
《春咲彩葉 down》
姉さんに春咲さんの部屋に運ぶと言っておきながら、春咲さんの部屋にはロックがかかっていて、僕だけでは開けることができなかった。なので今現在、メルさんにも高峯君にも頼れない状態と言うことで、仕方がなく僕の部屋のベッドに春咲さんを寝かすことにした。
「ごめんね春咲さん。姉さんが迷惑かけて」
「いえ、大丈夫ですよ。少しびっくりしただけです」
どうやら僕がベッドに運んでいた時に起こしてしまったようだった。春咲さんはまだ少しふらふらしながらも、しかし僕としっかり話ができるまでには回復していた。
「ところで吉井君。玲さんの言っていたあの本はどういうことですか?し、しかも私に似ているだなんて……。」
「い、いや~」
なんと言うか、その時の雰囲気と言うか、ノリで買ってしまった本だったんだけど、今言われてみれば春咲さんに似ている気がする。春咲さんの方が断然綺麗ではあるのだが、小柄で目元がパッチリしているところとか、そこら辺は似てるような似てないような……。本当に今更ながらに気がづいた。
「お、男の子だから仕方がないのかもしれませんが、少しは自制してくださいね」
「おっしゃる通りです」
言葉も出ません。
「ですがいいお姉さんですね。吉井君のことを一番に気にかけていて、そして少しだけ憧れてしまいます」
「憧れる?あの姉さんを?」
「はい」
お世辞にも正常とは言えない姉に、憧れる部分などあるのだろうか?
「玲さんは他人がどうであろうと、自分がしっかりとあるそんな方です。周囲からどんな目で見られていようと、玲さんは自分を曲げません。確かにそれに、常識知らずが合わさっていますので大変なことになってしまっていますが、それでもとても素敵です」
なるほど、そう言う見方ができるのか。常軌を逸した人見知りを持つ春咲さんだからこそ、姉さんに憧れる部分があるのかもしれない。
「しかしどうしましょう。このままでは吉井君がRクラスで暮らせなくなってしまいます……。」
今、僕に迫っている問題を思い出したのだろう。春咲さんは、少しうつ向きながらそう呟いた。
「大丈夫。まだ時間はあるから、どうにかしてみるよ」
どうにかする。どうにかしてみせる。それだけだろう。しかしそんな言葉を自分に言い聞かせていたせいか、急に僕たちの間に沈黙が挟むようにして訪れた。少し気まずい雰囲気の中、僕はただ春咲さんの手を見ることしかできなかった。
「…………私は嫌ですよ」
それは唐突に呟かれた、沈黙を破る春咲さんの言葉だった。春咲さんはその後、僕の方をじっと真剣そうな目で見詰めた。
「ねぇ吉井君。少しこちらに寄って来てください」
「う、うん」
春咲さんの言う通りに、僕は彼女のベッドに膝を擦るようにして一歩近づいた。
「ダメです。もっとです」
僕はもう少しだけ、春咲さんに近づく。
「はい、オッケーです」
「えっ?ちょっと?」
僕が春咲さんに限界まで近づいた瞬間、彼女が僕の体をきぎゅっと抱き締めた。突然の事で頭が混乱し、体が固まったように動かない。
「吉井君。私、ここまでできるようになりましたよ」
「…………春咲さん?」
「前は人に触られるのも、見られるのも嫌でしたけど、今は吉井君になら抱きついたって平気なんです」
そう言われればそうだ。僕が初めて春咲さんに会った時、春咲さんは僕に半径五メートル以内に近づくなと言ったんだから。
「私がここまで人に接するようになれたのは吉井君のお陰です。だから吉井君には、私の知らないことを、知識だけでは知り得ないことをもっと教えてほしいんです。これからも、この先も」
春咲さんの顔がグッと近くなる。お互いの吐息がかかるほど、春咲さんの顔が迫ってくる。そんな中で僕は、春咲さんって綺麗な目をしてるな、なんて冷静な考えが僕の頭の中を巡っていた。
「だから……」
その言葉で春咲さんの力が抜ける。ベッドからはみ出した上半身が、僕の膝の上へと落ちる。その光景をしばらくボケッと見ていたが、ふとしばらくして我に返る。
「…………疲れて寝ちゃったかな」
僕は春咲さんを抱き上げて、ベッドに戻し彼女の額に手を当てた。よし、熱は無し。
「…………さて、最終決戦と行きますか」
春咲さんにこんなお願いをされたんだ。その約束を守るのが、僕の役目だろう。大丈夫さ。家族なんだ。たった一人の姉なんだ。分かってくれるさ。
「…………おやすみ、春咲さん」
春咲さんが起きた時に全てが終わっているように。その為に、僕は姉さんのいる部屋へと一人向かっていった。
次話で五巻分の終わり。ちょうど折り返し地点ですね。ここからは、こちらで全て完結してから投稿いたします。他の連載も終わらせなくてはいけないので、少したいへんなんですけどね。しかし黒歴史と化したこの話も、必ず終わらせるので待っていただければ幸いです。