バカとテストと最強の引きこもり   作:Gasshow

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バカテス12.5巻が出ましたね。完結したと思ってたんですが違うんですかね?それとも、後日談の短編集だけ出した感じなんですかね?後で調べてみよう。
修正は明日します。


ギャップ萌を狙ったが、無理だった

僕達が今いるのは、Rクラスの奥にある二つ目の研究室だった。こちらはどうも春咲さんの研究室より大きく、そして広く感じた。恐らく実際に少し広いのだろう。ただ、訳の分からない機械が周りを埋め尽くしているのは同じだ。

 

「Rクラスの中で二つある研究室の内の一つです。ここならスペースも十分にありますし、物理干渉を無くせば何の問題もないでしょう」

 

そう言って、春咲さんは何やらキーボードにパチパチと打ち込んでいる。しばらく見守っていたが直ぐに終わったようで、春咲さんはゆっくりとこちらを振り向いた。

 

「これで高峯君も試験召喚できるようになりました。試しに『試獣召喚(サモン)』と言ってみて下さい」

 

言いながら春咲さんはパソコンから召喚フィールドを展開させた。

 

「…………『試獣召喚(サモン)』」

 

高峯君の呼び掛けに、試験召喚獣が目の前に現れた。現れた召喚獣は始め、全く動きを見せなかったが、しばらくしてピョンピョン跳ねたり、手を左右に振ったりしだした。高峯君が試しに動かしているのだろう。

 

「………………思ってたよりムズいな」

 

ポツリと高峯君がそう溢した。だけど、その気持ちは痛いほどに分かる。僕が初めて召喚獣を動かした時も同じ気持ちだったからだ。この試験召喚獣、皆がさも当然の様に扱っているが、見た目以上に扱いが難しいのだ。これが一年生に、試験召喚戦争が無い理由の一つだ。もし一年生が試召戦争をしようものなら、お互いが全く操作できないので、子供の喧嘩以下の試合になってしまう。だからそうならないために、一年生の間は召喚獣の実習訓練が授業として組み込まれているのだ。

 

「…………あの、本当にバトルするんですか?」

 

未だ目の前でピョンピョンと跳ねている召喚獣を見て春咲さんが言った。それはそうだ。点数はほぼ互角だとしても、高峯君は今さっき初めて召喚獣を扱い始めた素人だ。それで、召喚獣の達人である春咲さんと勝負するとなると、もう結果は見えている。

 

「別に対戦しなくても、ちゃんと訓練用のプログラムがあるので、そちらをやったらどうですか?」

 

正直僕もその方が良いと思う。

 

「…………いや、それは後ででいい。取り合えず、試験召喚獣同士の戦いってもんを体験しておきたい」

 

「…………分かりました。では、早速始めましょう」

 

そう言って、春咲さんは後ろへと下がった。そして十分に間が開いた所でピタリと足が止まる。

 

「『試獣召喚(サモン)』」

 

春咲さんの目の前に、春咲さんを形取った可愛らしい女の子の召喚獣が現れる。いつも仮面を付けているから、こちらの容姿の召喚獣は初めて見た。

 

「一応勝負なので、点数も表示させますね。」

 

総合科目

 

 

Rクラス 春咲彩葉 32,817点

 

 

 

 

VS

 

 

 

 

Rクラス 高峯聖 32,672点

 

 

 

 

 

「……………………なんじゃこりゃ。」

 

思わずそう呟いてしまった。いや、だってもう二人ともなんか次元が違う。『,』なんて記号、点数表記で初めて見たよ。

 

それにしてもーー。

 

「……春咲さんの方が点数高いんだね」

 

思わずそう呟いた。春咲さんが自分より賢いと言ってたから、高峯君の方が点数が高いと思い込んでいた。

 

「恐らく、文月学園のテストではと言うことでしょう」

 

その疑問に答えるかの様に、メルさんが口を出した。

 

「関係あるの?」

 

「はい。高峯聖、性格は最悪ですが、その頭脳は本物です。事実、彩葉様と同等かそれ以上に。ですが、この点数は文月学園の総合科目テスト。センター試験を基準に作られています。なので高峯が普段目にも止めないような問題や、あまり必要としない部分の暗記科目で差が出たのでしょう」

 

なるほど、高峯君の方が高校生の問題に不慣れだったってことかな?それでも高校生離れした点数であることに違いはない。もしそんな二人が激突すれば、どうなるのか……。僕は意識を目の前の二人に戻した。

 

「では始めましょう」

 

春咲さんがそう言うと、何処からかピーっと言う笛の様な音が聞こえてきた。恐らくこれが始まりの合図なのだろう。

 

「…………………………………………。」

 

「…………………………………………。」

 

「…………………………………………。」

 

「…………………………………………。」

 

 

 

しかし、二人とも動かない。僕もメルさんも思わず固まってしまった。それも仕方ないだろう。だって試合が始まってなお、高峯君の召喚獣はピョンピョンと跳ねているだけなのだから。なんだこれ、どこかのでかい鯉の王さまじゃあるまいし。

 

「…………あの、本当に大丈夫ですか?」

 

さすがに心配になったのか、春咲さんが声をかける。

 

「…………あぁ、大体分かった。それより、そんなに油断しててもいいのか?」

 

高峯君の口角がギラリと上がった。

 

「………………え?」

 

次の瞬間だった。高峯君の召喚獣がビュンと加速され、尋常ではない速さで前へ突っ込んできた。

 

「ッ!!」

 

春咲さんはそれをギリギリ横に避けて地面へと着地した。

 

「チッ、まだイメージに付いてきてねぇな」

 

高峯君が忌々しげに吐き捨てた。だが、そもそも目の前の光景が僕には信じられなかった。その動きが今日初めて召喚獣を扱った人のものでは無かったからだ。決して上手な訳ではないが、普通あそこまで動かすにはかなりの時間がかかる。

 

「…………驚きました。まさかあの短期間で、あそこまで動かせるなんて」

 

春咲さんも僕と同じく驚いていたようだ。

 

「まぁこれはいわば頭の体操、楽器を弾くのと同じようなものだ」

 

「楽器と同じ?」

 

意味がよく分からなかったので、思わず僕は質問した。

 

「ああ、楽器ってのは体以上に頭を使って弾くものだ。一回弾いて無理だった曲も、数をこなせば弾けるようになる。脳がどうすればいいか分かっていくわけだ」

 

確かに、中学の時に授業でリコーダーをしたことがあって、最初は指を間違えたりしたけど、しばらくしたら指がしっかり動くようになっていた。

 

「ならこれも同じだ。ここを押さえればドの音が鳴る。ここをどうすれば、召喚獣が跳ねる。脳が把握していくわけだな。仕組みが分かれば、後はパズルみたいに、ピースを埋めるだけだ」

 

理屈はなんとなく分かるが、それは普通短時間で出来るものではない。

 

「まぁ、とにかく遠慮はいらない。さっさとかかってこい」

 

「…………では行きます」

 

春咲さんの召喚獣が一気に距離を詰めてくる。さっきの高峯君以上のスピードだ。だが、それを高峯君は避けるでもなく受け止めた。それから、しばらく刀と刀のぶつかり合いが続き、一つのカンと言う高い金属音を最後に二人とも後ろへ下がる。凄い、この短期間で春咲さんとまともに戦えている。

 

「カカッ、結構カスッたな」

 

 

 

総合科目

 

 

Rクラス 春咲彩葉 31,745点

 

 

 

 

VS

 

 

 

 

Rクラス 高峯聖 29,354点

 

 

 

 

「あ、あの春咲さんに一発当ててる」

 

春咲さんに攻撃を当てるなんて、僕でも難しいのに。

 

「……………………。」

 

春咲さんも今では目が真剣だ。

 

「さて、まぁなんとなく分かった事だし。これで最後にしようぜ」

 

「……分かりました」

 

そう言うやいなや、二つの黒い影が瞬きの間に激突した。恐ろしい程速いラッシュの衝突。あの速さの召喚獣を僕は今だかつて見たことがなかった。そして幾つかの金属音が鳴り、決着はついた。

 

 

 

 

総合科目

 

 

Rクラス 春咲彩葉 0点

 

 

 

 

VS

 

 

 

 

Rクラス 高峯聖 0点

 

 

 

 

 

「ひ、……引き分け」

 

そんなバカな。あの春咲さんが引き分けなんて。

 

「……まぁ、こんなもんか」

 

高峯君は腰に手を当てそう呟いた。

 

「…………私もほぼ全力だったんてすが、まさか引き分けるとは思いもしませんでした」

 

春咲さんの瞳には少し悔しさが滲んでいる気がした。

 

「春咲。お前、喧嘩したことないだろ」

 

「……はい、ありません」

 

「だから分かりやすかったんだよ」

 

「わ、分かりやすいですか?」

 

春咲さんが少しわたわたと取り乱した。

 

「普通の奴なら気がつかないが、俺はこれでもエセ格闘技をやってたからな。なんと言うか、攻撃のパターンが子供だ」

 

「こ……子供ですか!?」

 

「まぁ、それも試験召喚獣で戦っていくうちに分かるだろ」

 

それを聞いて、春咲さんは何か納得したようだ。

 

「……なるほど、なんとなく分かりました」

 

なんだろう?僕には全く分からない。

 

「越してきた整理もしてないからな、俺は先に出るぞ」

 

「はい、分かりました。勉強になりました」

 

「あぁ、気にするな。こっちこそ手伝わせて悪かったなぁ」

 

高峯君はそう言うのと同時に、外へ出るための扉へ歩いていった。だが数歩してピタリと足が止まった。そして、首だけを僕に向ける。

 

「えっと名前なんだったか…………確かバカだったか?」

 

「違うよ!断じて違うからね!吉井明久!吉井明久だよ!」

 

僕がそんな呼ばれ方されたのなんて…………結構ある。

 

「なら吉井、お前手伝え」

 

「僕が!?」

 

「ああ。そっちの役立たずに頼んでも、首に噛みつかれるだけだからな」

 

チラリと高峯君がメルさんを見る。まぁさっきの様子だと整理どころじゃなくなるよね。

 

「分かった。じゃあとっとと済まそう」

 

僕は駆け足気味に高峯君の元へ駆け寄った。この新しいクラスメイトと果たして仲良くやっていけるのだろうかと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………多すぎない?」

 

それが高峯君の部屋に運び、並べた段ボールを見た僕の感想だ。

 

「泊まりに来たんじゃなくて、引っ越して来たんだ。これくらいにはなるだろ」

 

「いやいや、それでも多いから!」

 

比喩ではなく、実際に段ボールの大山が出来ている。

 

「研究者としての機器やら、資料やらを詰め込んだらそうなったんだよ。これでも、データ化してまとめた方だ。そんなことより早く初めねぇと日が暮れるぞ」

 

「でも僕、機械とかよく分からないけど」

 

僕が開けた段ボールの中には、コードやらなんやらが沢山詰まっていた。

 

「なに、俺が指示した所に指示した物を置いていけばいいだけの話だ」

 

それなら何とかなりそうだ。

 

そしてそれから、僕と高峯君はせっせとひたすら体を動かした。中にはなんでこんなものがあるんだと言う物まであったが、あえてつっこまなかった。だけど、そんな中でふと僕の目に留まった物があった。

 

「…………なんだこれ?」

 

それは設計図の様なもので、紙の束をクリップで止めてあるものだが、その一番表には『動く熊のぬいぐるみ』と書いてあり、その横にも何か文字で示しているサインの様な印があった。

 

「ば、ばぶれっちゃぁ?」

 

何て書いてあるんだ?

僕がしばらくその文字とにらめっこしていたら、上から高峯君がパシッとその紙を取り上げた。

 

「サボってる暇があったら、さっさと仕事しろ」

 

「…………ねぇ、高峯君。これ何て書いてあるの?」

 

僕は気になって、あの謎のサインを指差した。

 

「アァ?」

 

高峯君も僕の指を追うように、そのサインを見た。

 

「…………バカに教える義理はねぇな」

 

なんとそう言って作業に戻って行った。

 

「いいじゃん!教えてくれても!」

 

「ほら、そんな無駄口叩いてる暇があったら手を動かせ」

 

どうやらこれ以上言っても仕方が無いようだ。ならば…………。

 

「…………さっきのぬいぐるみの設計図さ。高峯君が作ったの?」

 

ピクッと高峯君の動きが止まった。

 

「……そんな訳ねぇだろ」

 

僕は思わずニヤリと笑った。

 

「へぇ~、なら何で高峯君が設計図持ってたの?」

 

「…………あれだ、頼まれたんだよ」

 

「誰が?何を?」

 

高峯君は停止したままで、ピクピクと震え出した。

 

「がぁぁあぁ、うるせぇ!とっとと仕事しろ!」

 

火山が爆破した様にそう叫ぶと、高峯君は再び作業に戻った。僕もそんな高峯君を見てニヤニヤしながら、同じようにした。なんだかんだ言われ、春咲さん以上の頭脳を持っていても、こんな所を見るとなぜか不思議と親近感が湧いてくる。初めはどうなることかと思ったが、案外上手くいくんじゃないかと思った僕がいた。そしてそれから、作業を終えたのは太陽が完全に沈んでからだった。

 

 

 

 

 

 

 




多くのお気に入りと評価、ありがとうございます。
お陰で筆(?)が進んで早く投稿できました。
完結はまだまだだけど、なんか先が見えた気がします(蜃気楼)。これなら、平行でもう一作かけるか……やっぱり無理かな。

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