バカとテストと最強の引きこもり   作:Gasshow

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お世話開始、その頃Fクラスメンバー

妖怪クソババアの罵倒を誰もいない教室で終えた後、取り合えず自分の住居を見に行く事にした。メモに書いてあった通り大きい正方形の形をした教室の後ろには一つの特徴的な扉があった。教室の内装に対して不自然のないような、焦げ茶色に漆塗りされた扉。その扉の取っ手の少し上に、数字を入力する為の小さな装置が備え付けられていた。僕はそれに馴れない手つきで示された数字を入力していく。と言うか十二桁の数字を入れないといけないないなんて、相変わらずのセキュリティーの高さだ。

 

「……おじゃまします」

 

僕は一言そう言ってからロックの外れた扉の内へと入る。そこで思わず息を飲んだ。目の前には今まで僕が暮らしていた場所とは違う、別世界が広がっていた。

 

「…………凄い」

 

ふと口からそんな感想が転がり出る。住居の中も教室と似た恐ろしく贅沢な造り。見取り図を見るとキッチンにリビング、トイレにお風呂まで全てが恐ろしい広さだ。まあ、自分の部屋を確認する事が先なのでいろいろと見てまわるのは後回しにする。

 

しばらく無駄に長い廊下を歩いて、自分の部屋の扉の前に着いた。ここにも(ロック)があるようで、数字を入れて中に入る。

 

そこには小さい部屋のすみっこに貼り付けられた、扉付きの犬小屋があった。

 

「何でだよ!」

 

思いっきりツッコンだ。これもババアの仕業だな! あいつは一度地獄にたたき落とさないと気がすまない。真剣に暗殺計画を考えながら犬小屋の扉を開けると紙が張ってあった。

 

『進め?』

 

よく見ると犬小屋の奥には先があるようで、僕はその先に進むことにした。そうして犬小屋をくぐると電気が()いた。  

 

 

「おおっ!?」

 

現れたのはしっかりと隅々まで清掃された綺麗な部屋だった。教室ほどではないがちゃんとした部屋になっていた。むしろ豪華絢爛(ごうかけんらん)なものよりこのくらい質素な方が僕としては肌に合っていた。少なくとも前の自分の部屋より断然良い。

 

「んっ?」

 

そんな部屋を見回していると、ふと机の上につけっぱなしで起動しているノートパソコンに気がついた。僕はいぶかしみながらも、それに近づき画面を覗いてみる。

 

「……メール?」

 

画面一杯に映し出されたメールボックスの画面。その画面には一通のメールを知らせるマークが光り点滅していた。マウスを動かしメールを開けてみると、その差出人は我が宿敵、妖怪クソババアである。まさかまさかの相手に一瞬、顔をしかめながらも内容を確認する。

 

『あんたの部屋をあの小屋にしようとしたんだがね、一応はこっちからの頼みごとなんでサービスしといたよ。さて本題だが、今日の成果を報告しな』

 

マジで僕の部屋をあの犬小屋で検討しようとしたのか、あのババア。沸いてくる怒りを何とか抑えつつ、今日の成果を報告する。内容は教室に入るなり春咲彩葉と名乗った美少女に罵倒された事だ。

 

「おっ、返信だ」

 

メールを送ってすぐ、パソコン画面にメール到着のメッセージが浮かぶ。僕はそれをクリックして開ける。

 

『あのガキが顔を出してしゃべったのかい?不思議な事もあるもんさんね。まあいい、とにかく明日も報告するんだよ。じゃあね』

 

内容は変鉄なものだった。ちゃんと春咲さんは顔を出してしゃべったし、それどころか僕に毒舌まで吐いたのだ。まあ深い事は考えないでおこう。今は情報が少なすぎる。僕はベットにダイブして、もらった資料に目を通す。彼女の名前は知っての通り春咲彩葉(はるさき いろは)。十六歳だ。学力は恐ろしいもので世界トップクラスの頭脳をもった天才だそうだ。なんでそんな子が今更高校に通おうとしたのだろう。いや、通ってはいないか。どうやら彼女はイギリス人と日本人との間に生まれたハーフらしい。だが、父母共にすでに他界、あるところに引き取られ去年、日本へ渡ったらしい。その後も黙々と資料に目を通していたが、寝転びながら文字をながめていたせいで段々と眠くなってきた。そのまま僕は睡魔に抗えないまま深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は(さかのぼ)り、吉井明久が引きこもりからの質問責めにあっている時、Fクラスの教室では自己紹介が行われていた。

 

「不満はないか?」

 

 

「「「「「大ありじゃあ!!」」」」」

 

 

Fクラスの生徒たちが大声で叫ぶ。よし良い感じだと、Fクラスの食いつきっぷりに満足している生徒が一人いた。そんな彼はFクラス代表の坂本雄二である。

 

 

 

 

同じ学費を払っているのにも関わらず、Aクラスと比べて教室設備の落差が激しすぎる。それをどうにかする為、その目標に一歩近づく為にFクラスはDクラスに試験召還戦争を仕掛けることになった。しかし一つ、雄二どうしても解せない事があった。

 

「おい、明久はどうした?」

 

雄二はこの教室にいるはずの悪友がいないことをずっと不思議に思っていた。もしかしたら遅刻かと少し前まで思っていたが、どうやら教師の話を聞くにその可能性はないようだった。

 

「わしもずっと気になっておった」

 

明久の友人の一人、木下秀吉も不思議に思っていたようだ。

 

「…………確かに」

 

ムッツリーニこと土屋康太も同意する。

 

「そうよ、吉井はどこにいったのよ。まだ今日殴ってないわ」

 

危険発言をしたのは明久の天敵、島田美波。

 

「吉井くんってこのクラスなんですか?」

 

明久に憧れる少女、姫路瑞希が疑問をぶつける。

 

「ああ、あいつの学力ならFクラス入りは絶対のはずだ」

 

「でも、今日はFクラス全員出席のはずじゃ」

 

「ってことは吉井のやつEクラスってこと?」

 

ウチをさしおいて、と島田が(うな)る。

 

「ちょっと見てくるか」

 

明久は雄二にとって試召戦争で必要なコマの一つだった。もし明久がEクラスだった時の穴埋めを考えながら雄二たちはEクラスへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

どう言うことだ?明久がいない!Eクラスにいなかったので、もしやと思って順番にAクラスまで見て回ったのだがどこいもいない。

 

「吉井くん、いませんね」

 

「…………どこに行った?」

 

皆も不信に思っている。

 

おいおい、どうなってやがる?あいつが学校に来てないのかとも思ったが今日は生徒全員出席してると学年全体の話で言ってた。つまり欠席はない。そうなると転校か?だが、あいつは黙って別れをするようなやつじゃない。そうなるともう思い当たるもんがないぞ。直接、教師どもに聞くか?俺は一人、思考を(めぐ)らせていたが、一つ見逃していたある可能性に気がつく。

 

「………………!!」

 

おいおいまさかそんなこと有り得るのか?

あのクラスは存在しないんじゃなかったのか?

だが残ってるクラスはあそこしかない。この可能性しかありえない。あいつ、吉井明久がいるクラスは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはAクラス。文月学園の中でも優秀な生徒が集められる。言わばエリートの集団。しかし今、そこで交わされている、ある会話がAクラスをただのエリート止まりたらしめる、そう頂点(トップ)ではないことを証明していた。

 

「ねえねえ代表。代表が学年主席じゃないって本当?」

 

ボーイッシュな魅力がチャームポイントの工藤愛子が尋ねる。

 

「えっ!?なにそれ?聞いてないわよ」

 

木下秀吉と瓜二つの双子の姉、木下優子が驚いた顔をする。

 

「それは初耳だね?」

 

眼鏡が似合う久保利光も同じような反応だ。

 

「…………本当」

 

Aクラス代表の霧島翔子が肯定する。

 

「なんで?霧島さんはAクラス代表なんでしょう?学力は一番でも問題起こしてAクラスじゃなくなった人がいるってこと?」

 

「…………違う」

 

「じゃあなんでなんだい?このクラスより上のクラスなんて…………まさか」

 

久保が何かを思い出したようだ。

 

「このクラスより上って……」

 

「ホントに?」

 

優子と愛子も久保の言葉で何かに気づいたようだ。

 

「…………みんなが思ってる事で合ってると思う。このAクラスより上位のクラス──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「Rクラス!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きたら知らない部屋にいた。と思ったら、昨日の事を思い出して納得した。

 

『いいかい、まずお前は唯一のクラスメイトとコミュニケーションを一刻も早くとれるようにしな。頼んだよ』

 

学園長の言葉が頭の中に響く。

 

「さて、どうしようか」

 

取り合えず春咲さんと言葉を交わさないと先に進まない。僕はベットから体を起こして朝食をとるためにキッチンに向かった。途中で犬小屋をくぐる時に頭をぶつけた。ほんと何のためにあるんだあの犬小屋。それから僕は豪華すぎるキッチンに到着し、恐ろしく広い冷蔵庫を開けると。

 

「…………凄い」

 

思わずそう呟く。何でもあるんじゃないか?そう思えるほど冷蔵庫の中は食材やら飲み物などで詰まっていた。いつもは何もない冷蔵庫の前で膝をついて絶望しているのに。さらば塩水だけの食生活。僕が選んだ朝食は無難にトースターとスクランブルエッグにした。うん、カロリーってすばらしい。久しぶりの満足した食事の後、やる事はもちろん自分のクラスメイトを待つ事だ。住居から教室につながる扉を開け教室で待つのだが……。

 

来ない!

 

春咲さんを待って三時間。ただいま十時。思い出した、彼女は引きこもりだった。そして今さら自分の甘さに気付いた。急いで春咲さんの部屋に行くが、予想通りナンバーロックつきの分厚い鋼鉄の扉に阻まれる。

まずい、あの()は引きこもり、ゆえに自分の部屋から出ない。それにもしかすると食料をこの鉄壁の要塞に溜め込んで籠城してるかもしれない。そうなると春咲さんと顔を合わせられるのは数週間に一回…………否!下手をすると数ヶ月に一回、何てことも十分ありえる。やばい、非常にやばい。これは学園長に相談するしかない。自分の部屋に戻りメールでそう学園長に告げると。

 

『そんなの想定内さね。だから昨日メールで言っただろ。あのガキが顔を出したのかい?ってね。初日から顔を拝めたことが奇跡なんだよ。なるべくこっちも協力するがそこはあんたがどうにかするしかないんだよ。あとこの事は部外者に話すんじゃあないよ。ルールブックに書いてあったろ』

 

おいぃいいぃぃいぃぃぃいぃぃぃぃ!!!

 

じゃあなんだよ。昨日ルールブック読んでる場合じゃなかったじゃん。早めに言えよ!どうする?扉を叩いて無理矢理接触をとろうとしてもこの鋼鉄の塊の前では音が向こうに届くとは思えない。そもそもこの方法は逆効果だ。そうすると、籠城していないと信じてリビングからキッチンを監視するしかない。思い立ったが吉日。明かりを消してソファーの影に隠れキッチンを見張る。そして、十数時間の時がたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ?」

 

何かの音で目が覚めた。確か夕方までは記憶があったのだが、そこからいつの間にか眠ってしまったらしい。昨日もこんな感じでいつの間にか寝てたな。なんだろう、疲れてるのかな?そんなことを思いつつ取り合えず立ち上がった。

 

「うわ!」

 

「えっ?キャッ!」

 

立ち上がったらソファーに春咲さんがいた。メロンパンを食べようと袋を開ているところだったようだ。と言うかやっぱり綺麗だな春咲さん、神々しくも見えてくる。僕は突 、然待ち人に会えてとってもうれしいのだが、その待ち人は突然の僕の登場に驚きすぎて腰を抜かしてソファーから落ちたままフリーズしている。

 

「……えっと、大丈夫?」

 

「…………………………。」

 

春咲さんが固まったままだ。彼女の前に手を差し伸べようと近寄ったのだが。

 

「ひうっ!」

 

後ずさってしまった。というか昨日と同じ子なのか?昨日とは全然雰囲気が違う。初めて会った時の攻撃性が微塵も感じられない。

 

「だ、大丈夫だよ。僕は何もしないよ」

 

第三者の視点だけだとストーカーが女性の前に突然現れお決まりの台詞をいったように見えるが決してそうではない。僕は一人の少女に合うために隠れてずっとソファーの後ろで待ってただけである。僕は一歩踏み出しもう一度彼女に手を差し伸べた。

 

今度は僕の手と顔を交互に見た後、手を伸ばし一瞬ためらったが僕の手を掴んでくれた。春咲さんを起き上がらせ向かい合うようにして立つ。

 

「「…………………………。」」

 

おおっ、気まずいぞ。かなり気まずいぞ。そもそもこの状況を作ったのは僕なんだから僕がどうにかしないといけないのだが上手く言葉が出てこない。

 

「…………なんであんな所にいたんですか?」

 

言葉を捜してるうちに春咲さんから話かけてきた。

 

「え、ええと。なんというか、春咲さんを待ってたらそのまま寝ちゃったという感じで。目が覚めて起き上がったらこうなった…………みたいな?」

 

僕は包み隠さず春咲さんに話したのだが何故かジト目で僕を品定めしているような目で睨む。

 

「なるほど、つまりストーカーさんと言うわけですか。待っていてください、少し電話してきます」

 

「ちょっと、違うよ。それ警察へ電話しにいこうとしてるよね!僕は春咲さんと少しだけお話がしたいだけだよ!」

 

「…………初めての会った時に言いましたが、私はあなたと特に話すことなど何もありません」

 

「春咲さんにはないかもしれないけど僕にはある」

 

このチャンスを逃すと次がいつ来るのか分からないので僕は必死である。

 

「…………そうですか、ですが今はこの時間。またいつかにしましょう」

 

春咲さんはメロンパンを拾って僕に背を向けて歩き出す。

 

「今日の朝!」

 

春咲さんが背を向けたまま立ち止まった。

 

「今日の朝、朝食作って待ってるよ」

 

もう一度彼女に会えることを願いながら言葉をかける。春咲さんは再び歩き出しそのまま部屋から消えてしまった。日が昇りだし、閉め切ったカーテンの隙間から明かりが漏れる。さて朝食を作ろうか。ちょっと前まであまり料理を作ってなかったから心配だが、料理は僕の数少ない得意分野だ。

 

 

 

 

少年は今日も奮闘する。一人の少女の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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