バカとテストと最強の引きこもり   作:Gasshow

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やっと投稿できた。
なぜ遅くなったのかって?
最近忙しくて…………疲れてるんです。
だからかな?こんな意味わからないザブタイトルになってしまうのは……。


麻名明葉は一日にして成らず

人と言うのは、身に付ける物であらゆる存在に変身できる。アニメやゲームなんかに出てくるヒーローって言うのは、大抵は変身をする時に服装や髪型なんかも変わってしまう。コスプレもそうだろう。自分が特定のキャラの格好をすることによってそのキャラになりきるのだ。だがそういう人達は自分からその格好をするのであって、なりたくもないのになる人など普通はいないのだ。だから言おう。僕は女の子になりたいのではないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明久様、完成でございます」

 

現実から逃げるためになるべく目をつむっていたが、もうここまできたら逃げる事は不可能だろう。いや、こうなることは決まっていたのだ。逃げてもいずれはこうなっていた。僕はゆっくりと目を開ける。目の前にある大鏡をじっと見る。見た鏡の中には女神のごとき美しさを持った人物がいた。

そうーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー僕である。

 

「何とお美しいお姿でしょう。ミロのヴィーナスを連想させてしまうほどのお美しさです」

 

「…………ありがとうメルさん」

 

もうちょっと違うフォローを入れて欲しかった。

 

「今日の晩には制服が届くと思いますので、それまではそのご格好でご勘弁願います」

 

「悪いのはメルさんじゃないよ。僕の荷物を全部盗んだ奴が悪いんだ」

 

「私が犯人を探し出しますので、ご安心下さい」

 

「ありがとうメルさん」

 

僕はメルさんにお礼を言ったあと、再び大鏡に向き直った。鏡にその姿が反射する。そこには、やはりまごうことなき美少女がいた。そりゃそうだ、文月学園のアイドルとまで言われている程の人物なのだから。

もうここまで言えば分かるだろう、『文月学園のアイドル』と言えばもうこの人物しかいまい。そう、“麻名明葉”がその鏡の中に映っていた。

別に僕が女装したいとか、そんな変態的な思想があった訳では断じてない。誤解を解くために説明しよう。僕とメルさんで男子の連合軍を倒したあの晩、自室にあったはずの荷物が全て消えていたのだ。僕が眠る前は確かにあったのだが、朝に起きてみると存在していたはずの僕の荷物は跡形もなく消えていた。そう、制服もろとも。

僕がその日、着ていた寝巻き以外全て盗まれたのだ。

だから僕は仕方が無しに、メルさんの制服を貸してもらった。だがそうなると男の姿の僕が着るわけにはいかない、ならばと思いきって女装したと言うわけだ。

…………いや、分かってるよ。自分でも思いきっりやり過ぎて、訳が分からなくなっていることは。

でも仕方ないと思うんだ。それにほら、明日には春咲さんがここに送ってくれた制服が届くから、今日だけ女の子として生活すれば明日には元に戻れる。それもあって僕は女装を決意したのだ。

 

「学園長には話を通しておきました。明久様はある事情で、今日一日だけこの合宿から離れられると言うことにしておくそうです」

 

「学園長に後でぐちぐち文句を言われそうだよ」

 

「そんな様子は伺えませんでしたよ。ですが、この事は他言無用とのことです。それと今日は教師としての働きもしなくていいそうです」

 

「了解。学園長には僕も自分から一度、話しておかなくちゃいけないね」

 

僕は大きく溜め息をついて、薬を口の中に放り込む。

それが僕の麻名明葉として過ごす一日の始まりの合図だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園長室の扉を開けて部屋から退出する。僕は学園長から自由にしておけと言うことと、厄介事は起こすなと釘を刺されただけだった。となると今日一日は、かなり暇な一日となるだろう。お腹が減ったので取り合えず、朝食をとろうと自分の部屋に戻った。

ガチャリと扉を開ける。

 

「おお、吉井。どこに行って……た……ん…………お前は誰だ?」

 

そうか僕の姿は今、麻名明葉なんだ。学園長は面倒になるから正体をばらすなと言っていた。それには僕も同意見だ。

 

「わたくしはRクラス生徒の一人、麻名明葉と申します」

 

僕がそう言うと少しの間僕を見た後、鉄人は口を開いた。

 

「…………そうか、Rクラスが三人もこの合宿に来ていたとはな。で、お前は何をしに来たんだ?」

 

チラリと机を見る。そこには一人分の食事しかなかった。まさか麻名明葉の食事場所はここには用意されていなかったのか。

 

「…………ここに朝食が用意されていると聞いたのです」

 

流石に苦しい言い訳だ。でもこのぐらいしかとっさに出てこなかったんだ。

 

「…………ああそういえばワーメルトが言っていたな。三人分の朝食がいるとかなんとかで自分の部屋に持っていったぞ」

 

流石メルさん、ナイスだ!

 

「そうですか、ありがとうございます。ではそちらに向かいます」

 

鉄人が朝食の在りかを教えてくれたので、僕は鉄人と別れてメルさんの部屋へと向かった。メルさんの部屋は、僕達の部屋とあまり距離がないのですぐに扉の前に着くことができた。

 

「おはようございます。明葉様」

 

中には二人分の食事が用意されていた。

 

「おはようメルさん。気をまわしてくれて助かったよ。じゃなかったら麻名明葉として鉄人と二人で朝の食事を迎えることになってたからね。」

 

そうなったら、気まずい雰囲気が流れていたに違いない。

 

「いえ私も直接、明葉様にお伝えできれば良かったのですが……。」

 

「色々忙しかったんでしょ。その分鉄人を介して伝えてくれたんだから流石、世界の頂点に立つメイドさんだよ」

 

「恐縮です」

 

こうして小さな事、一つ一つを気にかけてくれるのだからNo.1と呼ばれるのだろう。そんな感じの事を前にメルさんに言った事がある。すると彼女は「小事に従順でなければ、大事をこなすことなどできないのです」と言っていた。その心がけが彼女をここまでのメイドにしたのだろう。とにかく、僕はそんなメルさんと机について一緒に朝食を食べた。

春咲さんとは何度か二人きりで食事をしたことはあるが、メルさんとは今までそういう事はなかった。それが新鮮に感じる反面、春咲さんがいないこの光景が少し寂しく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人での食事を終えので、僕はこの旅館の中を探索することにした。Rクラス以外はこの時間、全クラス自習なので少しそれを見学していこうと思ったからだ。

歩き進めて、ある部屋の前に着いた。そこは、AクラスとEクラスの合同自習室だ。ちょっとだけ覗いていこうと、先生達の許可を取って中に入った。

入って時は麻名明葉が入ってきたということで、しばらくガヤガヤと騒がしかったが、先生達が注意をすると段々と声の数は消えていき、最後には0となった。

代理教師と言う立場を抜きにして見学してみると、気を引き締めなくていいので違った気分でこの自習時間を見る事ができる。

だがこうして歩いていると、嫌でもアキちゃんと言う人物が人気なのだと分かってしまう。チラチラと視線が僕の方に向き、その視線と目が合うと何故か皆、頬を赤らめ石になったように固まってしまうのだ。これはあまり居心地の良いものではないなと、一通り周り終えたので僕は一旦外に出ることにした。

だか僕が自習室を出ると、その後直ぐに一人の女子生徒が、僕の後を追うように部屋から出てきた。僕はその女子生徒に見覚えがあった。Eクラス代表の中林宏美さんだ。中林さんは僕を認識すると、側に近寄って来た。

 

「Rクラス生徒の麻名明葉さんですよね」

 

「ええそうよ。貴方はEクラス代表の中林宏美さんで合ってるかしら?」

 

「大丈夫です、合ってます。実は貴方に話があって、自習室の外へと出たんです」

 

「私に話?」

 

「はい。ここでは話し辛い事なので、場所を変えてもいいですか?」

 

「ええ」

 

僕は了承して、歩き出した中林さんの背中を追った。しばらくして彼女が足を止めたのは、合同教室から少し離れた階段横のスペースだった。

 

「…………貴方は恋をしたことがありますか?」

 

僕の方に振り向いて、開口一番に中林さんは言った。かなり急な質問だ。

…………恋か。

ふとある夏を思い出した。今では殆ど薄れてしまったある日々を。

 

「…………ないわね」

 

麻名明葉として、僕は質問に返すことにした。

 

「まぁ私の場合、立場上そういう機会も少なかったからそうなのかも知れないけど」

 

「ある起業家の娘さんでしたよね」

 

「あら、よく知ってるわね」

 

「知ってる人は知っていますよ。それ以外の情報は調べても出てきませんでしたが」

 

そうなるのは当然だ。春咲さんがそうなるよう情報操作したのだから。

 

「話を戻します。恋をしたことがないと言うことは貴方には今、好きな人がいないと言うことでいいですか?」

 

「そうよ」

 

「………………あと一つだけ聞いてもいいですか?」

 

「何かしら?」

 

「…………好みのタイプとかは?」

 

…………なんだこの質問は?僕が吉井明久なら、勘違いしたように受け取れる質問だが、今の僕は完全に女装をしていて、女としか見られてないはずだ。

 

「…………さあ?あまり深く考えた事がないので分かりません。」

 

「…………そうですか、ありがとうございます。時間をとらせてすみませんでした」

 

「いえ、気にしなくてもいいわ。ただ、何故このような質問をしたのかだけ教えていただけないかしら?」

 

すると中林さんの顔が険しくなった。

 

「…………久保利光くんを知っていますか?」

 

「知ってるわ。Aクラスで二番目の実力者ですもの」

 

「その久保利光くんは貴方の事が好きなんです」

 

なんだそれは?久保くんがアキちゃんの事を好きだとでも言うのか?でも確かにこの容姿なら久保くんが麻名明葉に一目惚れしてもおかしくない。もし仮にそうだとして何で中林さんが僕にそんな話をしたんだろう?少しだけ考え、ふと合宿に行く前にこんな場面を見たことがあると気づいた。それはある夜に春咲さんとテレビを見ていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、僕達は何かの気まぐれで、テレビを見ることになった。適当に番組を回したがこの日の、この時間帯には面白いと言えるものはあまりなかので、取り合えずまだ見れる学園物のドラマを見ることにしたのだ。幸いな事に、今日から放送が始まるようで内容は理解できたのだが、その内容が女の裏側を映した恋愛ドラマだったのだ。

 

「かなりドロドロとしたドラマだね」

 

「はい、私はあまりこう言うのは得意ではないです」

 

テレビ画面に映る一人の女の子が、もう一人の女の子に好きな人はいないのか、好きなタイプは何だと問い詰めていた。そんな時、少し離れた位置でソファーに座っていた春咲さんがテレビ画面を見ながらこう言った。

 

「ですが、このドラマは女性の感情をよく体現していますよ」

 

「そうなの?」

 

「はい、女性の嫉妬と言うのは怖いものです。一度でも女性が嫉妬してしまうと、それは長く、深いものとなることが多いですから。個人差にもよりますが、女性が恋愛で嫉妬した場合は仕草や行動が表に出るので、明久くんも少しは見極められるようになった方がいいですよ」

 

「そうなの?」

 

「そうですよ。基本的に女性は男性より嫉妬心が強い生き物ですから、分かり易いと言えば分かり易いかもしれませんね。隠れた嫉妬心と言うのもありますが」

 

「じゃあ、この女の子は問い詰めている女の子に嫉妬してるんだね」

 

「そうですね。この子の場合は、自分が好きな人が好意を抱いている人間から情報を抜きとって、これから先にどの程度、自分の脅威となるか確かめているのですね」

 

「へぇ、嫉妬って怖いんだね」

 

「そうですよ。だから吉井くんも、私をほったらかしたりしないで下さいね」

 

「ん、どういうこと?」

 

「…………吉井くんには、女性の嫉妬心を見破ると言うのは無理そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてやり取りを思い出した。これがそうなら、彼女は久保くんのことが好きで、久保くんが好きな麻名明葉に嫉妬心を抱いていると言うことなのかな?

うん、本人に直接聞いた方がいいだろう。

 

「…………貴方、もしかして久保くんの事が好きなの?」

 

「なっ!?」

 

僕がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして絶句した。これはもう確定なんじゃないのかな?どうだ春咲さん!僕にも嫉妬心と言うのを見破ることぐらいできるんだ!と心の中で叫んでみた。しかし、うつ向いたままの彼女を放っておく訳にもいかない。中林さんを安心させるために僕は口を開いた。

 

「そう、それで私にこんなことを言ったのね。なら安心していいわ、少なくも久保くんは私の好みには外れているから」

 

「…………本当ですか?」

 

本当だよ。だって男だもん。

 

「ええ、なんなら私を通して貴方を応援してあげるわ中林さん」

 

「…………応援ですか?」

 

「そうよ。久保くんの感情を利用するようで悪いけどね」

 

中林さんはしばらく黙って僕の方を見た。

その顔は未だに赤く、羞恥に染まっていた。

 

「お願い…………できますか?」

 

潤んだ瞳で彼女は僕にそう言った。

 

「喜んで」

 

これが切っ掛けで、麻名明葉と中林宏美と言う二人の人物は奇妙な交流を持っていく事になるのだが、それはまだ少しだけ先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ夏の入り始めだと言うのに、その日の夜は真夏のように暑かった。梅雨の時期だからか、湿った空気が肌に絡み付いてくる。だから僕は風呂あがりに、旅館にある玄関の待ち合いの休憩スペースを目指していた。自動的販売機もあるので喉を潤すついでに、ちょっとだけ体を休めたかったからだ。手にペットボトル一本分の硬貨を握りしめてそこに向かうと、椅子に座っている一人の男が上を向いていた。その姿を見た時、僕は足を止めてしまった。

 

「…………雄二」

 

昨日の試召戦争から雄二とは気まずい雰囲気となっていた。何故そうなったのかは僕にもよく分からないが。言うならば僕が変わってしまったからなのか、それとも雄二が変わったと思っているだけなのか。そのどちらかだろう。その答えは僕には分からなかった。ただ今、僕は麻名明葉の姿をしている。このチャンスを生かしてちょっとだけ話しかけて見よう。そう考えて僕は雄二に近づいた。

 

「そんなバカみたいな顔をしてどうしたの?Fクラス代表さん」

 

話しかけると、雄二はゆっくりと僕に焦点を合わせた。

 

「…………お前、誰だ?」

 

「…………そう言えば、貴方は仮面下の私の顔を見たことが無かったわね」

 

僕の顔を雄二はもう一度見て、少し考え、そして気がついたようだ。

 

「お前、麻名明葉か?」

 

「そうよ、改めてよろしくね坂本くん」

 

雄二を坂本くんと呼ぶ僕自身に違和感を感じる。

 

「ああ、よろしく頼む。それにしてもお前までこの合宿に参加していたとはな」

 

「やることはないのだけれど、気まぐれでね」

 

「仮面の通り、猫みたいだな。その気まぐれで迷惑する奴もいるんだぜ」

 

「それは誰のこと?」

 

「今、お前と話しているやつさ」

 

「貴方が?」

 

「お前が覗きを阻止しようとするなら、ってのが正しいが」

 

「なるほど、そう言う意味ね。それなら安心するといいわ。私、明日には帰るから次の試召戦争の時には参加できないの」

 

「そりゃ良かった。Rクラスが三人相手となると、流石に勝機がなくなるからな」

 

雄二はクックッ、と小さく笑った。

 

「それにしても、どうしてこんな所に来たんだ?」

 

「ちょっと喉が乾いちゃってね。飲み物を買いに来たのよ」

 

「なるほど、なら目の前にあるぜ。早く買うといい」

 

「ええ、そうするわ」

 

僕は何を買おうかと自動販売機を覗き混み、自分の目を疑った。なぜか僕が持ってきた硬貨の合計の値段より、かなり上の値段が標示されていたからだ。

 

「どうしたんだ?」

 

僕が固まったままで、何も買わないので雄二が不思議に思い、声をかけてきたようだ。

 

「…………思っていたより高かったの」

 

僕は手を広げて硬貨を雄二に見せた。

 

「あのなぁ、普通こう言う場所で物を買う時は、他の場所より値段設定が高めになってるんだ」

 

なんと、知らなかった。

 

「…………そうなの?」

 

「そうなんだよ」

 

なんてことだ!荷物を盗まれた僕にはこの手のひらにある金額が、今の手持ちの全てだと言うのに。ガックリと僕は肩を落とした。

 

「…………ほれ」

 

そう言うと、雄二は僕に足りない分の硬貨を渡してきた。

 

「そんな、悪いわ」

 

「いいから受け取れ」

 

こんな時に、頑固者の雄二は引かないと僕は知っている。

 

「…………ありがとう」

 

僕は受け取った硬貨を使って、僕は冷えた緑茶を買った。ガコンと音がして落ちてきたベットボトルの蓋を開け、中身を喉へと流し込む。全身が内側から一気に冷やし、僕の体内に(こも)っていた熱を逃がす。

 

「生き返ったわ」

 

「良かったな」

 

僕はベットボトルの蓋を開けたまま、そう言った雄二の隣に座った。雄仁はその行動にびっくりしたようで、ずれるように僕から距離を離した。

 

「…………なんと言うか。お前、明久に似てるな」

 

ドキッと心臓が跳ねた。

 

「そ、そうかしら?気のせいじゃない?」

 

「少し抜けた…………いや、あいつの場合はかなり頭のネジが飛んでるな」

 

お前は吉井明久を何だと思ってるんだ!?と今にもツッコミを入れたかったが、麻名明葉である僕はそれをすることができない。そんな風に僕が拳を握りしめている間に、雄二はいつの間にか最初に見た時と同じ様な状態になっていた。石の様に固まってしまったのだ。

 

「…………明久はどうしてる?」

 

それからしばらくして雄二は言った。

 

「…………私、あまり明久くんと話さないからどうと言われても少し困るわね」

 

なんと言えばいいのか分からないので、適当にそう返す。

 

「…………そうか」

 

それだけ言って雄仁はまた黙りこんだ。そして雄二が次に口を開いたのは、僕の持っているベットボトルの中身が空になる寸前だった。

 

「…………お前はもし、知らない間に自分の親友が変わってしまったとしたらどうする?」

 

それは間違いなく僕の事を言っていた。バカな僕でも流石にそれくらい理解できた。もしかして雄二はその事をずっと考えていたのか?もし、親友が変わったとしたら…………か。そんな時、僕どうするのだろうか?仮にもし、雄二が変わったとしたら…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………話してみる」

 

「ん?」

 

「直接会って言葉を交わせばいいんじゃない?」

 

「…………なんだそりゃ?」

 

「私もよく分からないけど、その人と会って話してみたら何か分かるんじゃないかしら?」

 

雄二は目を閉じ、そしてゆっくりと開けた。

 

「…………ははっ、根拠も何にもねぇ事を言うな。だが、それがいいのかもしれないな」

 

雄二の顔に明るさが戻っていた。

 

「今思えば、俺はあいつと大した言葉も交わしてなかった。それで変わったとか言って…………おかしな話だ」

 

雄二は僕の方へ向き直り、少し顔を寄せてきた。

 

「やっぱりお前は明久に似てる。実は明久の姉とか、女装した明久だったりしてな」

 

ギクッと僕の肩が無意識に震えた。無駄に勘が鋭い。これは早めに退散した方がいいのかもしれない。さて、どう誤魔化そうかと考えていると、ブルッと僕の体に何か悪寒の様なものが走った。

これは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………雄二、何してるの?」

 

聞こえた声は絶対零度を宿していた。それはもう、地球全体に氷河期を再来させるほどの冷たさを。そして僕は見た、雄二の後ろから幽霊の様に現れた霧島さんを。

 

「し、ししししし翔子!どうしたんだ!?」

 

雄二も尋常でない何かを感じたのか、かなり声が震えている。

 

「…………何を、していたの?」

 

再び悪寒が僕の背筋に駆け巡る。これは殺気だ!間違いない!しかも、それは雄二だけでなく僕にも向けられていた。いつもなら雄二だけなのになぜ!頭をフル回転させて、さっきまでの出来事を振り返る。そして気づいた。雄二が僕に顔を寄せていたと言うことに!

霧島さんからは、僕達がキスをしようとしているように見えたのだ。

それなら!

 

「私が坂本くんに声をかけたら、急にキスをさせろと言い出して…………怖かった」

 

すまん、雄二。僕のために犠牲となってくれ。

 

「麻名明葉、テメェ!」

 

雄二が僕に向かってそう叫ぶ。

 

「………………………雄二」

 

本来あり得ない、絶対零度を越えた何かがこの空間を包んだ。

 

「………………は、はひ」

 

カクカクと雄二は霧島さんの方へ首を曲げた。

 

「……………………ちょっとお話があるの」

 

雄二は無言で逃げ出した。それを霧島さんが追う。部屋には蒸し暑さが戻っていた。それを眺め、僕は立ち上がり、少しだけ残っているベットボトルの中身を飲み干す。そして雄二が生きている事を祈りつつ、空になったベットボトルをゴミ箱に放り込んだ。

カランとそこから音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




見たか!これが麻名明葉のヒロイン力だ!

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