これも皆様のお陰です。
本当にありがとうございます。
清涼祭二日前に準備が全て終わった。
早めに決めていなかったら間に合わなかったかもしれない。それにこれはほとんどメルさんのお陰だ。なんと言うか、彼女の作業風景は早送りで再生されたビデオを見ているかの様だった。僕が一つの仕事を終えている頃には十の仕事を終えていて、何故か申し訳ない気持ちになってしまった。僕は無駄に広い教室の中心から周りを見渡してみる。一つ一つの備品が輝いていて、しっかりとした装飾が施されている。灯りを増やしたり、無理矢理カウンターを付けたりしたので教室の構造が初めより随分と変わってしまった。これは元に戻すのも苦労しそうだ。
「終わったけど、もうやることはないんだよね」
「あることはあるのですが、直ぐに終わる調整のようなものなので後は私一人でできます」
「本当に何から何まで悪いね」
「これが私の仕事で御座いますから、気にしないで下さい」
流石は世界最高のメイドさん。一家に一人いたら他はもう何もいらないかもしれない。
「当日はホールと厨房の振り分けをどのようにいたしましょう?」
そういえば決めていなかった。二つともメルさん一人でできるかもしれないが、なるべく彼女の負担を減らしてあげたいと僕は思っている。
「恐れながら私の意見を申しますと、明久様と彩葉様に厨房を担当していただきたいのです」
厨房か………。確かに春咲さんがホールをするのは無理だろうから、彼女は自然と厨房を担当することになる。僕も春咲さんも料理は人並み以上にできるはずだ。メルさんには到底及ばないけどね。それで、どんな料理をするんだっけ?
「料理のメニューはもう決めてたよね」
「はい、ここに書いてあるものが全てです」
そう言ってメルさんはメニュー用紙を渡してくれた。
そこにはマルゲリータを筆頭としたピザの類いや、カルボナーラ等のパスタ、その他にもサラダやムニエルなどの多くのメニューが書かれていた。
「結構多いね」
「そうですね。ですがどれもレシピ通りにやれば簡単に出来るものですよ」
「このピザも?」
ピザなんて明らかに素人ができる範疇でないように思える。
「ピザは釜で焼くだけの状態にして置いておくようにします。ですから明久様や彩葉様が厨房を担当されたとしても大丈夫ですよ」
「そこが一番難しいと思うんだけど」
焼き加減なんて大体しか分からないと思う。どの範囲が一番いいのかを見分けるのは至難の技と言うか、多くの訓練や経験を積まないと無理だ。
「学園祭なのですからそこまで本格的にやらなくていいかと。あくまで学園祭らしく、素人らしい料理の方が適切かと思うのですが」
なるほど、それは一理ある。学園祭なんだから学生らしい出し物の方がいい。もうすでにこの教室が学生らしくない内装をしているけど、少なくとも料理はできるだけ学生らしい感じにした方がいいし、楽しい学園祭にしたいんだから、妙に堅苦しい雰囲気にはしたくない。
「流石メルさん。よく考えてるんだね」
「恐縮です」
「なら僕と春咲さんが厨房を担当しようかな。どう?春咲さん」
「私もそれがベストだと思います。能力的にも私と吉井君ならできますよ」
「手が空いたら私もお手伝いをさせていただきますので大丈夫です」
うん、絶対上手くやれると確信した。何とも頼もしい限りだ。楽しい学園祭になるだろう。 その後もしばらく話し合いて細かいことを決めたり、料理の練習をしたりした。そんな日が清涼祭本番まで続いたのだった。
清涼祭当日。
レストラン開始五分前。
「さて、来たねこの日が。ここまで本格的に準備したんだから絶対成功できるよ」
「明久様の言う通りです。失敗する可能性なんてほぼありません。私もついていますので」
「はい、このRクラスの力の発揮しましょう」
ちなみにこのレストランは告知など全くしていない。Rクラスが出し物をする事さえ知らない人が大半のはずだ。それにたぶん告知をする必要はないと思っている。Rクラスが出し物をするということは、今まで中を見ることがさえできなかったRクラス教室を公開するということなのだ。一回噂が出回れば、興味本意だけでも多くの人が立ち寄って行くとふんでいる。
「じゃあオープンするよ」
二人が頷くのを見て、僕は教室の扉を開けた。
オープンして三分で三十人ある席が全て埋まった。まさかRクラスが出し物をすることを知っている人がこんなにいるとは思わなかった。僕がいろいろ学校内で動いていたから、もしかしたらと察した人がここに並んでいたそうだ。春咲さんも予想外だったようで、人影が見えた瞬間叫んで厨房に引っ込んでしまった。その途中で
「ピザ一枚とドリア二つお願いします!」
「了解!」
一気に席が満席になったので、今非常に忙しい。春咲さんも無駄な言葉を発しないで必死に手を動かしている。
メルさんも注文の受け取りが終わると、下ごしらえ等をして手伝ってくれて思ったより早くに全部終わりそうだ。そしたら一段落できるだろう。
「明久様、彩葉様。六十人の御客様が席が空くのを待っておられる状況です」
「予想以上の反響だね」
「値段設定もほとんど利益が出ない位にしていますから、そのお陰でもあるんです。」
「改装費をいれたら赤字だからね」
「でもこの勢いなら黒字にできるかもしれません」
「うん、頑張ろう」
実を言うとRクラスの資産というか予算はかなりやばかったりする。ほとんどが春咲さんのものだけどね。いろいろ研究成果を売っていったら自然にこうなったらしい。でもそのお金、研究に使う分以外は使い道がないらしいから今回の件で多少損しても、痛くも
「申し訳ございません明久様、彩葉様。もう間もなく試験召喚大会の開始二十分前です」
この調子で頑張っていこうと息巻いていたところにメルさんが試験召喚大会の開始の時間を知らせてくれた。
「もうこんな時間!?早いね。春咲さん、準備して行こうか」
他クラスの生徒ならこの時間でも余裕なのだが、僕たちの場合はまず制服に着替えてそれからマントを着たり仮面を被ったりしなくちゃならないからもう少し時間がいるのだ。
「はい、急ぎましょう」
僕は頷いた春咲さんと一緒に奥の部屋に向かった。
何だろうこの軽いデジャブ感は。いや、以前よりマシにはなっているだろう。前は腕と体をまとめて締め付けるようにしていたけど、今回は腕だけだからだ。春咲さんは現在僕の腕を両手で巻き付けている。僕の腕を壊死させる気なのだろうか?こうなったのはお察しの通り、僕達が多くの生徒の視線を集めているからだ。厨房から教室に出てからも、教室から廊下に出てからもずっと多くの視線を感じる。Rクラス生徒なのだからそうなるのは当たり前と言えば当たり前だ。
そこから歩き続けて試合会場に到着したのだが、そこは大分開けた場所でそこに高台のようなものが両端に設置してあった。その高台のような場所に対戦者がセットして戦うのだ。二人で高台に登り、くるっと周りを見渡すと観客席からかなりの数の人が見ていることが分かる。サッカー場の観客席みたいな感じだ。その人数のせいもあるかもしれないが、随分とざわついてるなと思い、不思議に思って耳を傾けてみた。
「あれが二年のRクラス?初めて見た」
「二人だけでAクラス全滅させたって噂だぜ」
「マジかよ!そんなのに二人で勝てる訳ないじゃん!」
とか
「Rクラスってあの観察処分者の吉井明久先輩がいるんだって」
「えっ!?観察処分者ってバカな人に付けられるんじゃないの?」
「吉井先輩は先生のために、自ら観察処分者になったとかそんな話聞いたよ」
「すっご~い!カッコいいな~」
などの声が聞こえてくる。お陰で分かったことが二つある。この観客の多さは噂のRクラス生徒が対戦するからという理由も含まれているという事。そしてRクラスについての情報が少なすぎるから、それについて根も葉もない噂が立っているという事だ。もうこれに関してはどうしよようもない。流させるだけ流させておこう。僕は思わず苦笑いを浮かべながら、トーナメントの対戦相手を確認する。
「最初の対戦相手は………Eクラスか。悪いけどこれなら相手にならないかもしれないね」
今までクラス全体と二人で戦ってきたのだ。それを考えると今回の試験召喚大会はどうしても甘く見えてしまう。僕はふと対戦相手のいる向こう側のステージを見る。どうやら彼女たちも定位置に着いたようで、気合いの入った目で僕たちを目で捕らえていた。。
「対戦科目は数学、始め!」
審判役の教師から試合の合図が出される。
数学
二年 Rクラス
こま犬 70点
&
ウサギ 70点
VS
二年 Eクラス
中村宏美 97点
&
三上美子 92点
また周りがざわざわと騒ぎだした。恐らくRクラスなのにこの点数なのはおかしいということだろう。この点数は腕輪を使った時、暴走を起こさせないようにするために調節した点数なのだ。腕輪が暴走を確実に起こさない点数が総合科目で千点以下なのだという。だから千を全教科の十四で割ると、大体七十になる。だから試験召喚大会は全試合七十点での勝負をすることにしたのだ。昔の僕なら全教科七十点は無理だったかもしれないが、今の僕ならまだ余裕を持って取れる点数だ。
「ちょっとこれどういう事?この点数わざと取ったでしょ?でないと二人とも同じで、しかもこんなキリの良い点数になるはずないと思うんだけど」
僕から見て右手の子、たぶん三上さんが僕に向けて質問をしてきた。こう質問されるのは分かりきっていたので、あらかじめ考えていた答えで返答した。
「この試験召喚大会は清涼祭のメインイベントだ。僕達はこの大会に出たいけど、優勝が決まった出来レースをやるのはつまらない。それは僕たちも面白くないし、観客や君たちも面白くないと思ってね。だから誰が優勝してもおかしくないような点数に調節したんだよ」
「嘗めたことするのね。でも点数低くしすぎたんじゃない?私達の方が上になってるわよ」
「それでも僕達が負けることなんてあり得ないよ」
「言ってなさい!行くわよ美子、片方を集中的に攻撃して一気に倒してしまうわよ!」
二人が一斉に春咲さん目掛けて突っ込んできた。そんな直線的で単調な攻撃が春咲さんに当たるはずがない。彼女は学年で……いや、学園で一番召喚獣の扱いが上手い生徒だ。僕は彼女たちから距離を取るためにバックステップで後ろに跳んだ。ここは春咲さんに一旦任せようと思ったからだ。しかし春咲さんの召喚獣はピクリとも動かなかった。疑問に思ったのもつかの間、Eクラス二人の攻撃が直撃して春咲さんの召喚獣がガラスのように砕け散った。
「春咲さん?」
僕は自分の腰に抱きついている彼女を見て、思わず呟いた。
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皆様の感想をもとにこの話作ってる部分も少なからずあったりするので、ある程度あった方が次の話が書き易いからそうしました。