なかなか投稿できないと思いますが読んでいただけるとありがたいです。
『青春』とは何か?ことそれに関して僕は明確な定義を言えるわけではない。ただ漠然としたイメージで、仲の良い友達とわいわいと騒ぎながら迎える学校での昼休みや、テストが嫌だとかあの先生がどうだこうだと言い合う放課後、そして何よりも異性の恋人と過ごす時間。それら全てをひっくるめて僕はそれを『青春』と、そう呼ぶのだと、この文月学園に通い始めてから一年たった今でもそう思っている。
そんな確固たる概念を持っているのに関わらず、お世辞にもこれまで色付いた青春と言うものを僕は送っているとは声を大にして言えなかった。だからこの二年生からは人に自慢できるような、そんな学校生活を送ろうと息巻いていた。
そう、その時の僕は知らなかったのだ。これからの学園生活が、そんな“鮮やか”だけで済ますことのできるような単純な色ではなく、むしろ赤に茶色、更には黄緑と言った思い付く限りの色をぶちまけた、そんな複雑奇っ怪な青春時代になると言うことに。
桜が舞い散る通学路。もう既に見慣れていたと思っていた通学路が桃色に化粧をしてその表情をがらりと変えていた。それは僕がこの文月学園に入学してから一年がたったとこを無理矢理に示されていることに他ならない。そして、そんな僕の頭の中は新しいクラスメイトとそこで一緒に生活する教室の事で頭が一杯だった。
「吉井、遅刻だ」
この先のことを考えながら玄関前にさしかかった時、低くドスのきいた声に呼び止められた。声のした方向には日焼けによる浅黒い肌にガッチリとした体形を備え付けた、短髪の暑苦しい一人の男が立っていた。
「鉄じ……じゃなくて西村先生。どうしたんですか?」
僕は精一杯の笑顔を張り付けながらそう言った。
「おい、吉井。お前今、鉄人と言わなかったか?」
「いやいや、気のせいです」
「ん、そうか」
この外見のせいで西村先生は一部の生徒の間で『鉄人』と呼ばれている。あくまで生徒の間なので本人の前では禁句である。内心危なかったと今も肝を冷やしているが、そんなことより僕にはもっと今すぐ確認しなければならない大切なことがある。
「先生。早速ですが僕のクラスを教えてくれませんか?」
ここ最近はこれを楽しみで生きてきたのだ。
「どうしたんですか?」
思わずそう尋ねる。
「あーその事なんだが吉井。ちょっとした事情があってだな、まあ取り合えず学園長室まで一緒に着てくれるか?」
何故だろう? 普通クラス発表くらいで学園長室に行くことはありえない。そもそもこの学園ではクラス発表は登校時に名前の書かれた封筒を渡されその中にA~Fクラスと書いてある紙を見て初めて自分の教室が分かると聞いている。だが今、自分は先生に連れられ学園長室に向かっている。などと自分が呼び出されている理由を幾らか考えながら歩いていたら──
「吉井、着いたぞ」
既に僕は学園長室の前に着いていた。
「失礼します」
二回扉を叩いた西村先生と共に部屋に入る。そして部屋に入ってすぐ目の前に入ったのは、長い白髪を生やしたしわくちゃの痩せ細ったババアだった。
「このガキが観察処分者の吉井明久だね」
このババアは藤堂カヲル。一応、この文月学園の学園長である。
「はい。この者が学園唯一の観察処分者、吉井明久で間違いありません」
鉄人の言い方に少しイラッときたが、今はそんな場合いではなかった。一刻も早くこの意味不明な状況を理解しなくてはならない。
「ちょっと、どう言うことですか!? 何で僕が新学年初日から学園長室に呼ばれてこんな妖怪ババアに会わなくてはいけないんですか!? どうせ会うなら可愛い女の子がよかったよ!そもそも聞いていたクラス発表の仕方と全然違うじゃないですか!」
僕は若干混乱していたせいで、疑問と欲望が勝手にに口からで出てしまった。
「……噂以上に失礼なガキだね」
学園長はため息と共に口から言葉を漏らした。
「まあいい。今から何故ここに呼び出されたのか、その理由を教えてやるよクソガキ」
そして次の学園長の一声で僕の学校生活が一変した。
「観察処分者『吉井明久』、あんたにRクラス着任を命ずる」
「……あ、Rクラス」
Rクラス……聞いたことがある。確かそれは存在するのかさえ疑われた言わば謎の、謎だらけのクラスである。
去年までずっと教室らしきものは存在していたのだが生徒が一人もいない。今まで入った生徒が存在しないのだ。だがランクではAクラスより上にあたり、その教室や設備は最高級ホテルに匹敵すると言われている。更に、他のクラスにはない様々な権限があるとかないとか。そんな、世界で一番奇妙なクラスの生徒に僕は任命されたのだ。
「ま、そんなわけで早速説明に移るよクソジャリ。まずはおまえ専用の鍵を作る。ちょっと
Rクラス生徒になると言うことを発表されてパニックが最高潮に達していたが、《鍵を作る》などと学校には必要のない台詞が出たのでなんとか脳の思考を立て直した。
「hjkじgfgldふtjふぃ?」
「……地球上の言葉でしゃべっておくれ」
まだ立て直しができていなかったようだ。気を取り直して。
「鍵を作るってどう言うことですか?いや、そもそもなんで僕がRクラスなんてよく分からないクラスに入らなくちゃならないんですか?」
「まあ、聞きな」
僕を落ち着かせるように学園長が言った。
「まず、Rクラスにお前が入る理由だがね」
何だろう、テストの点が良すぎたからかな?
「あんたがバカだからだよ」
「あんまりだよ!」
ちょっと期待したぶんショックが大きい。と言うかRクラスってAクラスの上などと言われているけど、もしかしたらFクラスより下の位置に存在していたとかそんなオチだけは勘弁してほしい。
「実は今年、Rクラスに一人だけは入ることになったんだが。そのガキがとんでもない引きこもりでね、そいつに世話係をつけて少しでもその性格を改善しようってことになったんだが、それには下手したら多くの時間と根気がいると思ってね」
学園長は一度大きく息を吸ってから続ける。
「だが、そんな大変な事普通の生徒に頼んだらあくまで教育機関である学校がその生徒の学力を落としてしまう可能性がある。そんな中でもう落ちようのない学校を代表するバカの観察処分者に任せたらいいんじゃないか?そんなアイディアが思い浮かんだってわけさね。分かったかい?」
なんかもう……ね。というか落ちようのないってなに?もしかして僕のカロリー摂取量のこと?
「次に鍵の事についてだがね。例の引きこもりがこの学園に入学するにあたっていくつかの条件を提示してきた。その中に自分が認めたもの以外教室に入らせないようにしろってもんさ。そのため教室に鍵をかける事になった。鍵を作るってのはその教室に入るための鍵ってことさね」
なるほど、理解はした。
「……なんとなく分かりました」
まだ微妙に納得しない部分もあるが、とりあえず鍵を作る事にした。だけどその鍵の量がとてつもなかった。なんと鍵が六つあった。指紋、音声、カード、パターン、静脈おまけに顔認証。銀行顔まけなんじゃないか?と思えてくるほどである。全ての登録が終わり多くの資料などをもらった。
「これがその引きこもりの資料さね。事情で全部は無理だが少しなら提供できる。あとRクラスのルールについても記述してある。これから学年全体のオリエンテイションがあるがあんたは無視してそのまま教室に行きな。いいかい、まずお前は唯一のクラスメイトとコミニュケーションを一刻も早くとれるようにしな。頼んだよ」
一様は協力的であるらしい。いや、そうしなくては学園長としても困ると言うことだろう。
「失礼しました」
用事を終えた僕は西村先生と共に学園長のいる部屋を出た。出るや否や、西村はその無駄に大きなガタイを僕に見せつけるかのように向き直り、口を開いた。
「吉井。お前は教室に向かえ。俺はオリエンテイションに行ってくる」
「付き添い、ありがとうございました」
「ああ、頑張れよ」
少し優しかった西村先生と別れ、自分の教室の前に向かう事にした。Rクラスの教室の場所は知っていた。それは去年から、教室を示す表札だけはあったからだ。しかしその扉はいつ来ても鍵が掛かっていて一度も開くことはなかった。しばらく歩いて教室に着いた。詳しく言えばその扉の前。
「し、失礼しま~す」
緊張しながら扉のノブに手をかけた。そして思いきってそのノブを押し込んだ。すると呆気なく。少なくとも一年以上、びくとも動かなかった扉がいとも簡単に開いてしまった。何故か妙な達成感に捕らわれながらも、僕はその扉の向こう側へと体を潜り込ませる。
しかしそこには──
「えっ!?」
更に扉があった。しかもどこかの地下研究施設の様な鋼鉄の扉が。カードを差し込むところがあったのでそこに貰ったばかりのカードを差し込むと、自動的にスライドして扉が開いた。しかし──
「……うへ」
また扉。今回の扉はカード以外の全てを使うものだった。指紋、音声、その他の三つをこなし、ロックが開いた音がした。しかし扉が開かない。どうしたものかと思っていたところにどこからか機械的な声の質問が飛び込んできた。
「あなたが吉井明久さんですか?」
「は、はい。そうですけど」
僕はおっかなびっくりしながらも答える。
「ではこれからいくつかの質問をします。全て答えなければこの扉は開くことはありません」
なるほど。僕を試してるってことなのかな?
仲良くなるのには骨が折れるかもしれない。
「質問1 鮮やかな色の猫と暗い色の猫がいます。もし飼うならどっちですか?」
意外と簡単な質問で拍子抜けしてしまった。
と言うかどっちだろう? 別にどっちでもいいんじゃないか?そういえば今日登校したときに灰色の猫にあったな。
「暗い猫かな」
と適当に答える。
「質問2 あなたは美術館に行ったとします。すると、木が描いてある絵があります。それはどんな木ですか?」
次も簡単だ。ふと頭に浮かんだイメージをそのまま伝える。
「大きな木だね。とっても大きな木だ」
「木の実などは付いていますか?」
機械音声が聞き返してきた。
「いや、付いてないよ」
「分かりました。では質問3。あなたは──」
その後も様々な質問が飛んで来た。僕はそれを答えていった。
「質問250」
そして気づいた時にはもう二時間ほどたっていた。
「二人の友人とキャンプに行っていました。一人はバカですが明るく魅力的でアイドルのような人です。もう一方は周りとあまり変わりませんが、頭がよくたまに勉強をみてくれたりします。ですが突然の大雨で友人二人が川に流されてしまいました。二人は二手に分かれ一人しか助けられません。さて、どっちを助けますか?」
いきなり質問のタイプが変わって少しびっくりした。
だがこの質問は今まで中で一番簡単だ。そんなの初めから答えが出ている。
「どっちも助けるに決まっているじゃないか」
人の命を選ぶなんて僕にはできない。どんな人であろうと僕の友人には変わりはない。
「質問を聞いていたのですか?川が二手に分かれてどちらかしか助けられないのですよ?」
「どうやっても二人を助ける」
「……ではどうやって?」
うっ、痛いところを突いてきた。
「えっと……川を
完璧な答えを導きだして思わずドヤ顔で叫んでしまった。
「…………もういいです。扉を開けます。中にお進みください」
やっと教室に入れる。とゆうか自分のクラスの教室に入るために二時間もかけなきゃいけないなんて。さすがRクラス。これからも大変そうだ。
とりあえず中に入ろうと扉に手をかける。この扉がやけに重かったのはただ単にこの扉の素材のせいなのか、それとも二時間以上も質問攻めにあったせいなのか僕には分からなかった。
「……何これ?」
ぶ厚い扉の向こうは別世界だった。扉を開け、光が差し込んだので目をつぶり、ふたたび目を開けると王室が広がっていた。床は赤い絨毯に彩られ壁は何でできているかは分からないが純白で輝いていた。だが僕が目を奪われたのはそんな王室じみた教室ではなく、その教室の席に座っている天使だった。銀色の髪を背中の半ばまで伸ばし、青い瞳は少しだけ細めだがパッチリしていた。
だが、そんな天使からの第一声は──
「あまりじろじろ見ないでください。そして、半径五メートル以内に近寄らないでください」
白とは似つかわしくない毒付いた言葉だった。もういきなり心が折れそうだ。
「ま、まあそんなこと言わないで少しお話しようよ」
「あなたとしゃべる必要はないし、する気もありません」
かなり罵倒されたが綺麗な透き通った声なのでまだダメージが少ない。
「えっと……じゃあさ、取り合えず自己紹介といこうよ。僕は吉井明久。趣味はゲームで得意なことは料理かな」
僕が自己紹介を終えると、じぶしぶといった感じに口を開いた。
「……春咲彩葉」
「春咲さんだね。よろしく」
「……よろしくお願いします」
よし、とりあえず第一段階終了だ。さて、ここからどうしようか。
「そう言えば、担任の先生来ないね。どうしたのかな?」
僕たちの間にある沈黙と距離を少しでも埋めようと、先程から気になったことを春咲さんに尋ねてみる。
「このクラスに担任はいません。ちゃんとクラス説明書を読んでください」
「…………えっ?」
今、春咲さんがとんでもないことを言った気がした。急いで学園長から貰った紙の束を見ると確かに書いてあった。
「Rクラスには担任がいない?」
いや、それだけではないはず。そこからしばらくその紙の束とにらめっこしていたが、そこにはぶっとんだことしか書いてなかった。
ふむふむ、なるほどなるほど。事情はよく分かった。では僕の感情を思いのまま叫ぼうと思う。
「あんのクソババアァアァァアァーーーーー!!!」
僕はもう誰もいなくなった教室で思いっきりそう叫んでいた。