自然愛好家は巡る   作:コロガス・フンコロガシ

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ようやくモモンガさん達が…ちょっとだけ
ちょっと下ネタあり


第3話 樹人たちの秋と冬 【下ネタ注意】

 西暦2128年の秋、ブルー・プラネットと仲間たちは公園に佇んでいる。

 あと数ヶ月でプロジェクトは終わる。そのため、ログインしてくるメンバーも少ない。

 公園は荒れ果てている――別な見方では過剰に充実している。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 数か月前――あのクラン<崖を飛ぶ豚>は、予想通り再戦を望んできた。

 アルフヘイム自治会の定例会においてギルド<シャーウッズ>の代表として出席したレッドパインは「先の決闘で勝負はついたはず」と主張したが、<崖を飛ぶ豚>の代表は

「先の戦いでは、都合が悪くて出席できなかったメンバーも多い。彼らがまだ不満を訴えている」

と主張した。

 自治会の出席者は、次に<崖を飛ぶ豚>の標的にされることを恐れ、特に反論はしなかった。

 

「我々は大所帯なのでね」

――<崖を飛ぶ豚>の代表はそう笑ったという。レッドパインの話では、卑屈な笑いだったと。

 

 ブルー・プラネット達<シャーウッズ>は、プロジェクト報告書あるいは運営の視察を通じて「荒らし行為」を行うプレイヤーの排除を訴えた。しかし、運営は安易な「立ち入り禁止」はゲームの自由度を下げること、そしてプレイヤーの認識に混乱を与えることを理由に排除システムを導入しなかった――プレイヤーの増加に水を差したくなかったのだろう。

 その代りに、運営はギルド防衛を助ける種々の職業、スキル、アイテムや魔法を追加した。これらはアップデートとして発表されたが、課金によるものも多かった。

 

 そして、再戦の時――<シャーウッズ>に対抗するために集まった<崖を飛ぶ豚>は前回の倍以上の80名、しかも前回最後まで残った中核チームと同格の高レベルプレイヤーが半数を占めていた。 

 彼らは、相変わらずドロップ前提の貧弱な装備だが、職業はレンジャーに加え、魔法剣士、神官戦士、忍者など上位職を交え、バードマンなどの異形種すら参加していた。

 

「これでも半分らしいですよ」――敵クランを調査したチェリーが報告する。つまり、今回の戦いに勝ってもまだ「不満がある」と再戦を望んでくるつもりなのだ。

「やるっきゃないでしょ」――ピーチが発破をかける。

 

 合図の銅鑼が打ち鳴らされ、一斉に敵クランが動き出す。

 <シャーウッズ>領域内に入れば、彼らの正確な位置が把握できる――ブルー・プラネットは、コンソールに映し出される赤い輝点――アイテムによって確認された敵プレイヤーの数――が、事前に報告されたものの半分しかないことに気付く。

 残りは<不可視化>より高度な隠蔽スキル、おそらく<完全不可知化>によって隠れて侵入している者達――ブルー・プラネットは、ギルド武器『大地の王笏(グランドセプター):バージョン11』を振りかざし、嵐の神を召喚する。

 

 <シャーウッズ>の上空に黒い雲の塊が現れ、それはゆっくりと回転を始める。ゆっくりと――いや、それは遥か高い所にあるからそう見えるだけだ。瞬く間に地面を飲み込むように広がったそれは、直径400メートルにもなる激しい竜巻だ。この中では飛行系の魔法もスキルもすべてキャンセルされ、<飛行>(フライ)で飛んでいた魔法詠唱者も、バードマンも、等しく地面に叩きつけられる。可視、不可視を問わず、全ての敵が。

 

「<最強化(マキシマイズマジック)><広域重力強化(マス・グラビティ・バインド)>」

「<最強化(マキシマイズマジック)><広域重力強化(マス・グラビティ・バインド)>」

 

 トレントから重ねて放たれるドルイド魔法に、空から叩き落された魔法詠唱者たちはもちろん、屈強な戦士すら膝をつく。そこに数体のNPCトレントが数十体の仲間「トレントもどき」を引き連れて地響きを立てて突進してくる。

 緑の津波となったトレントの群れは、動けない侵入者たちを踏み潰し、蹂躙し、消し去る。このトレントの暴走は一定時間、迷宮となった公園を駆けまわり、全てを蹂躙する――相手が<完全不可知>であっても構わずに。

 

 公園<シャーウッズ>の外で観戦している者達から、大技が決まったことに拍手が起きる。

 観客は公園の周辺だけではない。新たに導入された観戦システム「リモートビューイング・ワイド」を使えば、離れたところからでも空中に広がる大画面モニターでその場にいるように観戦が可能になる。

 

 観客たちの盛り上がりをよそに、ブルー・プラネット達<シャーウッズ>の面々は口から肉蠅の群れを吐き出す。このボットは<完全不可知>状態にあるキャラクターでも「死亡」状態にあればそれを感知し、その場所に辿り着く。侵入者側も仲間同士でマーカーを付けて位置を把握しているはずであり、彼らより先に侵入者を再生不可能にする必要がある。

 

 透明な空間に肉蠅が止まり、そこを狙ってトレントの枝が振り下ろされる。数回叩きつけたあと、肉蠅は飛び去り、トレントも次の目標に向かう。

 

 嵐神が起こした竜巻は続いている。空へ逃げる者を封じるために。

 数十体のトレントの暴走も続いている。侵入者の群れを誘導し、一つにまとめるために。

 

 ブルー・プラネットによって誘導された緑の行軍も止まるときが来る。

 強化された戦士が9人がかりで殿を務め、追い迫ってくる緑の暴力の先頭に立つトレントを倒したのだ。誘導するトレントが倒されれば、「トレントもどき」は通常の樹に戻る。

 

 侵入者を一か所に集めるには至らなかった――ブルー・プラネットは舌打ちする。

 しかし、十分だ――巨大なトレント、「千年樹」ウドが集まった侵入者の上から「踏みつけ」を行う。

 直径20メートルになる巨大な根の足が空から降ってくる――侵入者たちは身体を丸め、あるいは天を仰いで叫び、そのまま潰される。不可視の敵も漏らさないように、ウドが何度も繰り返し踏みにじった後には何も残らなかった。

 

 道を進まず、空にも逃げず、森の中に逃げた侵入者たちもいる。これまでに倒した数、依然として残っている赤い輝点の数からそう分かる。

 レンジャーなど森林の中の活動を得意とする者達だ。嵐を避けて森の中を低空で飛ぶ魔法詠唱者もいる。その数は17――事前申請の数と倒した数との差から考えると、更に12人が<完全不可知化>で潜んでいるはずだ。

 敵を示す輝点は森の中を滑らかに進んでいる。スキルによって<踊る樹々>(ダンシング・プランツ)も意に介せず進んでいる。

 

(アホが)

 

 敵の侵攻ルートを確認してブルー・プラネットはほくそ笑む。侵入者は森の中に作られた獣道――わざと通りやすいように樹の密度を下げた場所――に誘導されている。トラップが仕掛けられているとも知らずに。

 

 森の中で悲鳴が上がる。蔦に足を取られた侵入者が宙づりになり、潜んでいたトレント達に袋叩きになっている。

 

「気を付けろ! トラップだ」

 

 侵入者達が連絡を取り合い、足を止める。袋小路となった獣道はその幅を狭め、周囲の樹々が「トレントもどき」に変わって敵に総攻撃を仕掛ける。「トレントもどき」はモンスターであり、レンジャーのスキル「森渡り」――障害となる植物をすり抜ける技術――は通用しない。

 壁となったモンスターに道は塞がれ、逃げ場はない――視認できる敵に加えて不可視の敵も闇雲に振り回される無数のトレントの枝に打たれたようだ。森の中に放たれた肉蠅が止まり、侵入者達の不可視の死体の位置を知らせる。

 

 敵の残存数を確認しているブルー・プラネットの横で、「目に見えない何か」が同じく「目に見えない膜」に引っかかり、その膜を大きく撓ませる。森の中に作られた道を飛ぶ魔法詠唱者が、<完全不可知化>(パーフェクト・アンノウアブル)に対応したトラップ「霞蜘蛛網」(ミスティ・スパイダー・ネット)にぶち当たったのだ。獣道の対面にいた仲間、マグナムバイタが「霞蜘蛛網」を掴んで、透明な中身ごと振り回す。悲鳴は聞こえないが、やがて肉蠅がマグナムバイタが吊るす網に止まる。

 

「クソッ」――別な場所では透明化した戦士が網を切り開き、「霞蜘蛛網」から脱出する。そして、自分を捕らえたトレントに剣を叩きつける。

 

「痛ッ! はい、お返し!」――透明な敵に剣で切られたトレントは、その枝を剣に変える。

 

 ドルイドのスキル「報復の剣(フラガラッハ)」――自分へ攻撃した相手を自動追尾する剣は、完全不可知状態でも障壁の向こうでも構わず敵を認識し、防御力を無視した一撃を与える。剣本来の攻撃力はそこそこだが、最高レベルのトレントの腕力でダメージ加算された一撃を。

 

「――敵軍、全滅」

 

 ブルー・プラネットが、討伐された侵入者の数が事前の報告人数と一致したことを確認し、見届け人に報告する。

 銅鑼が鳴らされ、ギルド戦の終結を知らせる。観客から拍手と歓声が上がる。

 

 ブルー・プラネットは<エウリュクレイア>(見張りの老婆)によって拠点を一時封鎖し、<完全不可知化>によって隠れている敵がいないかを調べる。封鎖中は10秒以内にログアウトする必要があるが、この封鎖システムで監視を行うバンシーたちの目を逃れる魔法やスキルは存在しない。

 

 隠れている者はいないようだ――ブルー・プラネットは残念に思う。もし事前の通告に違反してギルド武器を破壊するために隠れている者がいたのなら、それを責めてこの不毛な戦いに終止符を打つことが出来ただろうに、と。

 

 制限時間内に拠点封鎖を解き、全員の状況を確認する。

 公園の広場に<収縮>(ミニマイズ)で集まったメンバーたちは、かなりの被害を報告する。

 倒された者こそいないが、森の中で透明な複数の敵と戦った者に被害が多い――今後の課題だ。

 取り逃がしも多かったようで、敵は最奥の金剛刀タガヤの所まで辿り着いていた。今回は対応できていなかった忍者の隠密スキルによって突破されたらしい。だが、最高レベルに達していない忍者の攻撃力ならば、最奥の3人――千年樹たちに敵うはずがない。

 

「5人打ち取ったで」――腹をさすりながら金剛刀タガヤが笑う。無駄なことをする阿呆が、と。

「お疲れ様です」――終始隠れていたブルー・プラネットが頭を下げる。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 クラン<崖から飛ぶ豚>は、その翌日に再戦を言ってきた。まだ残りの者達がいる――そう主張して。

 自治会に止める者は無く、1か月後に予定が組まれ、再び戦いが繰り返される。

 

 そこで、<崖を飛ぶ豚>は自分たちの限界を知る。

 まず、以前からのレベルの差――<シャーウッズ>達が皆100レベルに達しているのに、自分たちは80から90レベルである。10以上レベルが開いていては、1対1で勝ち目はない。しかし、全滅覚悟の波状攻撃という戦法をとるため、一定以上のレベルに上げられない。対等の100レベルまで経験値を稼ぐには数か月の間が空いてしまい、それでは「嫌がらせ」の効果が薄らぐ。

 さらに、キャラクターの死亡によって落とすアイテムを最小限にするために高度な物を装備できない。課金アイテムなどは以ての外――幸運にもモンスターを狩って得たレアアイテムも。

 

 一方、<シャーウッズ>の装備は前にも増して充実している。<完全不可知化>の者を捕らえる「霞蜘蛛網」に加え、マーカーを植え付ける「寄生蠅」などの課金アイテムを多数揃えており、アップデートされた職業やスキルを早速身に付けている――どれだけ課金したのか。

 

 これでは、戦えば戦うほど差が開く――現実社会においても課金などの余裕がない、レベル上げにこれ以上時間を割くことも出来ない<崖を飛ぶ豚>のメンバーは歯噛みする。

 <シャーウッズ>の他の獲物を探そうかと考え――そこで、他のギルドも既に最高レベルに達しており、課金アイテムも揃え始めていることに気付く。

 

 ユグドラシルはすでに変わっていた。ギルドとして拠点を構え、じっくりとキャラクターを育て、課金すれば課金するほど有利になるシステムに。

 

 自分たちは、ユグドラシルの黎明期、まだ皆がレベルもアイテムも充実していない時期における徒花だったのだ――クラン<崖を飛ぶ豚>は自分たちの時代が終わったことに気が付いた。

 

 ユグドラシルは急速に発展している。日本中でブームとなり、すでに数百万人のユーザーが常時ログインしている状態だ。その社会が充実していくにしたがって自分達――持たざる者、何も蓄えてこなかった者達は現実世界と同じように日陰に追いやられていく。

 ユグドラシルにすら居場所を失ったメンバーたちは項垂れ――それ以上の再戦を<シャーウッズ>に持ちかけることは無かった。

 

 <シャーウッズ>はユグドラシル運営から直接、問題クランの中心メンバーが引退したという連絡を受けている。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ユグドラシルは発展を続ける。

 その中で、徒花となったのは<崖を飛ぶ豚>だけではない。ギルド<シャーウッズ>も同じだ。

 

 クランとの度重なる戦いによって荒らされ、強化されて復活するたびに公園は禍々しさを増していった。そこにはすでに憩いの場としての名分は無い。そして「愛される公園」の名分を失い、誰言うとなく<殺ウッズ>と呼ばれるようになったギルド<シャーウッズ>は、敵クランが崩壊してギルド戦が終結した後も散発的なPKの対象となっていた。

 

 クラン<崖を飛ぶ豚>が徹頭徹尾、相打ち覚悟の消耗戦を仕掛けてきたのに対し、新たな侵入者たちはギルド<シャーウッズ>をゲームとして研究し、その攻略のため戦略・戦術を変えてきた。

 ユグドラシルの戦いが多様性を増していく一方で、トレント系のキャラクターで固められた<シャーウッズ>は戦術が限られる。

 

 <シャーウッズ>はその弱点を突かれるようになった。

 時間を止められた隙に全身に火を点けられたトレント達が森を逃げまどう。

 アイテムで時間停止に対抗すると、今度は対植物モンスターの魔法やポーションを大量に準備してくる。

 トレント達は、弱点を補うために課金して毒沼などのトラップを増やし、モンスターを配備し、拡張された森を更に迷宮のように改造した。そのための予算は認められた――当たり前だ。ユグドラシル運営から付けられた予算は課金によってユグドラシルに戻る。現実の金銭的損失は無く、<シャーウッズ>の強化は更なる外装データの充実、アップデートに役立つのだから。

 ただし、敵側の手に渡る可能性がある課金アイテム――この拡充だけは認められなかった。

 

 無尽蔵に強化され、その割に得られるアイテムが少ない<シャーウッズ>に挑む敵も少なくなり、戦いの頻度が落ちてふと気が付くと、残っていたものは魔獣の咆哮が響き、泡立つ緑の毒沼の上を紫色の毒霧が漂う死の森だった。

 体の表面を這いずり回る巨大なムカデやクモに守られたトレント達は黙って立ち尽くす。

 

 「僕らがやりたかったのは『これ』だったのか?」

 

 何人かは馬鹿らしいと言ってユグドラシルを退会し、報告書をまとめる作業に専念している。

「現実世界と同じように崩壊していく生態系を見ていられない」――引退したメンバーの言葉は、皆の気持ちを代弁するものだった。

 プロジェクトリーダーである金剛刀タガヤも、報告のまとめと次のプロジェクトで忙しく、ほとんどログイン出来ない。頻繁に送られてくる、公園の様子を尋ねるメールには「苦労をかけてすまない」という謝罪の言葉が常に添えられている。

 

 しかし、何人かは残ってギルドを守るために戦い続けた。

 それが義務であり、そして何よりも、育ててきた森を見捨てることはできなかったから。

 公園を訪れる者達はどんどん減っていった。ギルドの人気ランクは下がり続け、今ではスクロールを繰り返してようやくその名を見ることが出来る。これはユグドラシル全体がブームとなり新興ギルドが雨後の筍の様に現れ人気を集めたためではない。プレイヤーの数が増えているのに公園への訪問客が減っていくのだから。

 

 開発として、テストプレイヤーとして、そして、課金の重要性を訴える広告塔として――ギルド<シャーウッズ>はその役割を果たし終えていた。

 

 すでに報告は最終的なまとめに入っている。これまでも半期ごとの中間報告のたびに予算が増え、シャーウッズの公園は充実し、その都度、新しい成果が出ていた。

 

 仮想空間で成長する森のシステムを確立し、植物系モンスターの外装データは充実した。特にトレントを中心とした植物系モンスターの設定が変更されたし、幾つかのスキルや魔法の使い方――運営でさえ予測していなかったもの――は公式ガイドブックに掲載された。

 花まつりなど集客力の高い人気イベントをこなし、逆にクリスマスなどの不人気イベントも明らかになった。季節のイベントだけではない。瞑想の森などの樹種に合わせたスポット、「この症状にはこれが効く」薬草教室――健康食品とのタイアップ企画――なども開催され、プレイヤー対象のアンケートでは常に高いポイントを得ていた。

 更に、マナーが悪いプレイヤーの行動は解析され、その副産物として評判の悪いクランが繰り返し繰り返し撃退され、最終的には潰された。

 

 最終報告は、研究所やユグドラシル運営からの高い評価を受けることだろう。

 これはプロジェクトなのだ。たとえ結果としてギルド<シャーウッズ>が崩壊しても、研究所やユグドラシルの運営にとって何も困ることはない。経験の1つとして次の企画への肥やしとなるだけだ。そう割り切ってしまえば、満足のいく2年間だったと言えただろう。

 

 だが、メンバーたちの顔は晴れない。

 現実社会でのボーナスは増え、ゲーム内でも景品は山ほど手に入れた。公園も大きくなり、数多くのNPCを抱え、一時期はかなり上位のギルドと認められた。一言でいえば「成功した」部類に入るだろう。

 だが、ログインして公園を見るたびに、本当にこれで良かったのか、という疑問が浮かぶ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 西暦2128年の冬、プロジェクトはあと数日で終わりを迎える。

 メンバーの多くもすでにゲームを止めている。

 つい先日までは仲間が1人残っていた。しかし、その仲間――チェリー暴威も他所のプレイヤーに強く誘われ、キャラクターを作り直して別のギルドで遊んでいる。

 それを責める気にはならない――ブルー・プラネットはチェリー暴威を笑って送り出した。彼が去った今、ギルド長、ブルー・プラネット以外にログインしてくるメンバーはいない。

 ブルー・プラネットはプロジェクトの最後を締めくくる義務として、そして己の意地で残っている。ギルド長の義務とはいえ、その職は単にキャラクター作成で迷って一番遅れたからという理由で決まったものに過ぎない。だが、男としての矜持が最後まで残る道を選択させた。

 

 チェリー暴威だけではない。来なくなった他のメンバーの中には、ユグドラシルに別な楽しみを見つけ、キャラクターを作り直してゲームを続けている者も多い。

 彼らを咎めることはできない――相談を受けるたび、ブルー・プラネットは笑顔で彼らを送り出した。この素晴らしいユグドラシルというゲームを、どうか目一杯楽しんでくれ、と。

 そして、去っていった仲間たちは<シャーウッズ>の公園を訪れることはなかった。ゲームでも現実世界でも、研究所内で公園の現状を訪ねてくる者たちは少ない。ブルー・プラネット自身も、現実世界の職場で<シャーウッズ>のことを話すことはほとんど――多賀教授への日報や期末報告を除けば――ない。

 

 今や、公園は忘れられた存在となっている。

 

 ブルー・プラネットは独り溜息をつく。せめて敵が来れば多少の活気はあったのだろう、と。しかし、強化されたトラップで満たされ、それでいて経験値やアイテムを稼ぐほどのモンスターもいない寂れた死の森には訪れる価値も無い。仲間も敵も、誰も来ない日々が続いている。

 

 だが、それもあとわずかな期間のことだ。

 

 ブルー・プラネットは今後のことについて思いを巡らせる。

 NPCトレントはプロジェクト用の設定を解除され、本来のNPCモンスターとして他のギルドに引き取られることになっている。体力があり、そこそこ強いイビルツリーは拠点防衛の楯役として需要があるのだ。

 だが、トラップを設置した土台NPCの処分先は決定していない。このまま狩場として残すもよし、他のプレイヤーが引き取るならば、それも良し。だが、おそらくギルド解散と共に消去される――そんなところだ。

 

 そして、ブルー・プラネットは手に持つギルド武器『大地の王笏(グランドセプター):バージョン15』を眺める。

 ギルド<シャーウッズ>の2年間の努力の結晶。宝石を散りばめた黒檀と紫檀と白檀が三重螺旋となり魔法球を包む王笏。

 ゲームツールとしても膨大なデータを内包し、この公園内ならばブルー・プラネット1人でもPKパーティーを殲滅できる程の力をもつ。一般的なユグドラシルのアイテムでいえば「神器級」というところだろうか。研究用データは回収するとして、パーツを他所のプレイヤーに売ればかなりの値が付くことは間違いない。

 だが、ブルー・プラネットは処分を任されながらも、それは選択しなかった。

 このプロジェクトが終わったらユグドラシルを退会するつもりであり、アイテムが売れたところでユグドラシルの通貨など何の意味も無くなる。それに、何より自分たちの思い出が詰まったツールが他所の誰かに使われ続けることに我慢できなかったからだ。

 

「俺たちが育てた宝は、俺たちが去るとともに消える」――それがブルー・プラネットの意思だ。

 

 ブルー・プラネットは、今日も公園の中をゆっくりと樹から樹へと移動して回る。

 これまでの思い出を振り返りながら。そして、起こるはずもない何かを期待しながら。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 起こるはずもない何か――その日、それは来た。

 

 ただ1人の管理人として、ブルー・プラネットはギルド内の状況を常に管理している。

 手にしたギルド武器が警戒音を出し、久しぶりに侵入者たちの存在を告げる。

 ブルー・プラネットは立ち止まり、コンソールを開く。

 マップに進入者を示す赤い印が5つが示されている。PKパーティーだろう。

 

(この時期に来るなんて、奇特な奴……いや、この時期だからこそ、か)

 

 現実の世間では浮かれているこの時期に、わざわざユグドラシルにログインしてPKを楽しむなど、碌な奴でないことは確かだ。

 NPCの位置を確認し、進入者の進路を予測して罠を起動する。

 探知魔法で会話の傍受を始める。

 

 侵入者たちは<静寂>や<完全不可知化>の魔法に加え、アイテムによって公園内のモンスターを避けている。しかし、彼らが歩む地面そのものがギルドを守るNPCであることには気が付いていないようだ。公園内の地面も植物も全てセンサーであり、<静寂>でも<完全不可知化>でも、公園内で存在を隠すことは不可能だ――これはユグドラシル運営とプロジェクトを結んだ<シャーウッズ>だけがもつシステム上の特権であり、知られれば他のギルドからクレームがつくことが間違いないチートである。

 

 そして、侵入者の行動が筒抜けなのに対して、この公園は深い霧で覆われて侵入者からの魔法的な視覚が妨害され、かつ、上空の飛行や転移も禁じられている。これは天井知らずの課金による防衛システムだ。公開されている仕様ではあるが、やはり課金の仕組みがバレてしまえばチートと言われても仕方がない。

 これらのチートによって、公園の管理者であり、ドルイドとして植物間で転移できるブルー・プラネットは、この地で圧倒的に有利に戦える。

 

「楽しませてくれよ」

 

 ブルー・プラネットは久しぶりに目が覚めた思いで侵入者の様子を窺う。無数のセンサーから侵入者たちの会話が聞こえてくる。

 

「あれか? 実際に見ると、デカいな」

「うーん、100メートル近くありますね、地下や塔みたいな拠点に入るんですか、あんなの?」

「ん……『あんな大きいの……入らないよぅ』」

 

 女の幼い声がして、少しの間沈黙が続いた。

 ふふん、と誰かが鼻で笑う音が聞こえてくる。

 

「……ごほん、えっと、まあ、最大化した<縮小化>の魔法を永続化すれば……」

「それで巨人族と同じくらい?……やまいこさんのことを考えればいけるかな?」

「最近、トレント系ってサイズとレベル、関係なくなったって聞いたよ?」

「うん、だから彼も推薦したんでしょ? でも、現にあのサイズなんだから……」

「しかし、見事じゃないですか。これはこれで残して『異形種動植物園』ってどうですか?」

「……その話はもうやめましょうよ?」

 

 笑い声が聞こえる。笑いながらモンスターや罠を次々に突破して進んでくる。

 かなり強力なパーティーのようだ。

 やがて、進入者は森の中ほどに差し掛かる。

 

「さて、ここから先が、このギルドの本格的な防衛システムだそうです」

「情報では、この道の両脇に100レベルNPCのイビルツリーが何体か擬態して紛れているって」

「さすがにそれ、きつくない? 何とか見破れないの?」

「ええ……トレントのPCは殆どいないし、ドルイド職も割と不人気なんで情報不足です」

「んー、ドルイドの魔法って信仰系と精霊系だったかな?」

「そうです。擬態は精霊系なんで、死霊系や神聖系の探知魔法では感度が悪いんですよ」

「なるほど、対アンデッドや対天使のセンサーが働かないんじゃ、うちらと相性悪いね」

「刺激しなければ襲ってこないかわりに手も出せない。放っておくと一気に取り囲まれる……」

「取り囲むために動いたところで見破れないの?」

「ところが、このギルドでは、壁扱いの普通の樹まで常に動いているんですよ」

「じゃあ、マップも作れないのね……手間だけど端から片付けていったら?」

「下手に手を出すと、彼曰く、『地獄のピンボールが発動するぜ』らしいですよ」

「そうすると、ウルベルトさん、タブラさんの高火力ペアで遠くから焼き払うのがベストかな……」

 

 ブツブツと戦術を考えているらしい声がする。

 確かに、トレントの体力を削りきるほどの高火力で連射された場合、NPCだけでは負ける。遠隔攻撃に対してトレントは有効な対抗手段をもたない。数を頼みに弱い射撃で弾幕を張り、回復系の魔法で相手のMPが切れるまでしのぐしかない。複数のメンバーで回復するならば問題ないが、ブルー・プラネット1人のMP勝負では守り切れる確証はない。NPCを回復役に使った場合、それらは起動した時点で偽装が解けてしまう。単純な動きしかできないNPCは狙い撃ちされ、防衛網に穴が開く。

 こちらから攻めていくことが出来なければ後手後手に回り、ジリ貧になる。

 

 情報不足と言ってた割りによく研究してるな、とブルー・プラネットは考える。過去に挑んできた連中が情報を共有しているのだろう。

 しかし、NPCの偽装だけが防衛手段ではない。何重にも手は打ってある。これまでの侵入者が知らないままのトラップも多い。

 1パーティーだけで突破できる<シャーウッズ>ではない――ブルー・プラネットは、そう自負している。

 

(今日は勝てるだろうな)

 

 そう考えて、寂しさも覚える。どうせ情報を共有するのならば、一斉に掛かってくればいいのに、と。どうせあと数日で終わるプロジェクトだ。華々しく散り、報告書の最後に「侵入者と戦って崩壊」でもいいじゃないか、と。

 

――いずれにせよ、やるべきことは決まっている。勝てようが勝てまいが、全力で相手をすることに迷いはない。ブルー・プラネットはギルド武器を音声モードに切り替え、身を包む伝説級の防具、緑に輝くローブの中にしまい込む。

 

 侵入者たちは「地獄ロード」――ブルー・プラネットの勝手な命名――に入り、そのまま歩き続ける。このままでは取り囲まれて袋叩きに会うと知っていながら、侵入者の呑気な声は続く。

 

「でも本当に、近づいてみると高いなあ」

「あれが顔でしょ? 会話するのに見上げちゃいますね」

「ん……見て見て、張り合ってる! 張り合ってる!」

 

 再び沈黙が訪れる。

 

「……ぶくぶく茶釜さん、なんで背伸びしてるんですか?」

「あと、小刻みにジャンプするのも止めましょうよ」

「じゃあ、『もうダメ! 俺の負けだぁ』」

「うわっ、きたなっ……なんですか、その涙のエフェクトは!」

「茶釜さん、悪乗りしすぎっす!」

「『うふふ、お兄ちゃんたら、だらしない』……ごめんちゃい」

「こら、そこで項垂れない! きったない涙を垂れ流さない!」

「じゃあ、ティッシュちょうだい」

 

 沈黙……ふふん、と再び勝ち誇った鼻息が聞こえる。

 

(こいつら何やってんだ?)

 

 未だに音声センサーでしか敵を把握できていない。進入者の姿が見えないブルー・プラネットは、訳の分からない会話に少々苛立ち始める。

 

 やがて、進入者たちは森を抜け、ブルー・プラネットの待つ広場にたどり着く。

 巨大な樹々に囲まれたそこは直径数十メートルの窪地になっており、膝まである毒々しい緑色の霧に覆われて地面すら見えない。この霧は視覚や魔法的探知を妨害する効果があり、どんなトラップが仕掛けられているのかを把握困難にしている。ただ、色から連想される毒の効果は無いようで、そこにいるだけでダメージを負うことは無い。仮にそのような効果があったとしても、ここまで来ることができる高レベルの侵入者は大抵はアイテムでそれを無効化している。

 

 人間の心理としては、無害だが得体のしれないこの霧を吹き飛ばしたくなる。

 だが、それが危険なのだ。

 

(この霧に対する攻撃が、攻撃後の硬直の隙をつく一斉攻撃の引き金となるだろう)

 

 経験を積んだユグドラシルプレイヤーなら誰でもそう考える。

 ユグドラシルにおいて、問答無用に即死効果をもたらす理不尽なトラップはゲームとしての興を削ぐため、使用は制限されている。例えば、最強の毒を散布した空間であっても、一呼吸の間ならば耐えられるのだ。プレイヤーはその間に撤退かアイテム、あるいは魔法の使用を選ぶことができる。どんな罠にも何らかの対応が可能であり、お互いの読みあいと準備が勝敗を決する。

 

『焦って先に動いた方が負ける』

『後の先を取れ』

 

 ユグドラシルの攻略本には必ず書かれている格言だ。準備なしに迂闊な行動を起こした後が一番危険であり、手の内を小出しにすることは悪手。相手に先に手を出させ、その隙を狙って一気に叩くというスタイルが好まれる。

 NPCは下手に刺激しない。罠は極力触らない。

 この霧はあえてそのまま放置し、その裏に潜む罠を予測して、それに備える。それが定石であり、この日の侵入者も霧の底に潜む罠に警戒しつつ、その中を慎重に歩いていく。

 

「はじめまして、ギルド<シャーウッズ>のギルド長、ブルー・プラネットさんですね?」

 

 先頭の、白銀の鎧に身を包んだ聖騎士が、杖を構えた巨大なトレントを見上げて挨拶する。この死地においても余裕を感じさせる声だ。自分の強さにそれだけ自信があるということだろう。敵意が無いことを示すために両手を上げているが、それは何の保証にもならない。

 

「はい、ブルー・プラネットです。はじめまして……今日はPKですか?」

 

 トレントが聖戦士を見下ろし、冷たい挨拶を返す。同時に広場を囲む巨大な樹々が――最高レベルのイビルツリーの軍団が、炎を宿す目を一斉に開き、侵入者を見下ろす。

 いつの間にか、進入者が入ってきた通路は塞がれている。ブルー・プラネットがキーワードを発すれば、イビルツリーたちの総攻撃が始まるだろう。

 

「いえ、戦いに来たんじゃないですよ。私たち、PKされてる異形種の互助組合でして……それで、よろしかったら“殺ウッズ”のブルー・プラネットさんもいかがかな?と」

 

 イビルツリー達の突き刺すような視線を受けながら、聖騎士は平然として会話を始める。

 この状態でも切り抜けられる自信があるのか、時間稼ぎか、それとも本当に戦うつもりが無いのか……聖戦士の「戦いに来たのではない」という返答に嘘がないことをブルー・プラネットは感じ取る。

 

「ははは……ボロボロですもんね。“殺ウッズ”……」

 

 噂になってたんだな――ブルー・プラネットはそう思い、自嘲の笑い声をあげる。

 そして、聖戦士の言う「互助組合」とやらにも興味を引かれる。ブルー・プラネット自身はこの公園を離れられないため良く知らないが、偶に見るユグドラシル・ニュース、そして掲示板からの情報では、最近は「異形種狩り」なるものが流行っているらしい。

 

(なるほどね……俺たちばかり、というわけでも無かったってことか)

 

 ブルー・プラネットはあらためて侵入者たちを観察する。確かに――聖騎士を除けばあからさまな異形の群れだ。おそらくは噂に聞く、下のワールド――異形種達が主役であるワールドから来たのだろう。

 森妖精たちが遊ぶ光のワールド「アルフヘイム」……そこに位置するかつての人気スポット<シャーウッズ>……そして今は繰り返されるギルド戦で寂れた“殺ウッズ”。それを見かねて、わざわざ別のワールドから救いの手を差し伸べてくれたのかと思うと、嬉しさと情けなさが同時に湧き上がってくる。

 

「お気持ちはありがたいです。僕で良かったら……と思いますけど、あと数日はここに<シャーウッズ>として居なければならないので……今日はお話を聞かせていただいて、返事は後日……私の方から伺うってことでよろしいですか?」

 

 森妖精たちが主役のこのワールドでは、異形種である彼らは店には入れず、外を歩けばPKの対象となるらしい。この公園に来るだけで大変な苦労があったはずだ。今日、彼らは危険を冒して来てくれたが、ギルド長としてブルー・プラネットは即断できない。下手に返事をして、この公園のアイテムを持っていかれても困るのだ。

 

 プロジェクトが終わって全てを片付けてから、こちらから彼らのホームグランドに行くべきだ――ブルー・プラネットはそう考える。<シャーウッズ>の資産をすべて処分して、その上で彼らが受け入れてくれるのならば、最高だ。今のブルー・プラネットの身体であれば、そのまま異形種主体のワールドでも十分に溶け込めるだろう――虫のいい話だと思うが。

 

「ええ、かまいません。即決は出来ないでしょうし、ギルドの後始末も大変でしょうしね」

 

 敵意の無い聖戦士の言葉にブルー・プラネットは警戒心を下げながら、少し違和感も感じる。ギルドの後始末――年末までのプロジェクトのことを知っているのだろうか、と。

 ブルー・プラネットは黙って頷く。

 いずれにせよ、ギルドの資産を乗っ取りに来たというわけでもなさそうだ。ブルー・プラネットは警戒をさらに一段下げ、もっと「互助組合」の話を聞いてみようと考える。仮に、これが油断させるためのウソだとしても、まだ手は幾らでも残っているのだから。

 

「ありがとうございます……あ、すみません、そっちは影武者でして。こちらが本体の“私”です」

 

 聖戦士の後方からブルー・プラネットの声がする。それまで聖戦士が話していた巨大なトレントはNPCであり、その手に構えられた杖は遠隔操作と腹話術のアイテムを埋め込んだニセのギルド武器だ。

 5人の侵入者は驚いたように振り返る。

 

「同じトレントのNPCですし、外装を弄ってるんで、仲間でも見分けがつかないんですよ。この前なんか、仲間がみんなで私の影武者の方に休暇の相談したりしてね、ハハハ……」

 

 後ろにいた巨大なイビルツリーの1体が、笑いながら巨大な口の中に隠し持っていた杖――影武者が持っているものとそっくりな物――を取り出して手に取り、ひらひらと振る。

 今の話の後半はウソだ。仲間はもう長いことログインしていない。仲間の存在を仄めかしたのは、侵入者の混乱を狙ったのと、ブルー・プラネットの願望だ。

 

 裏をかかれた聖戦士とその仲間たちは、それでも動じる気配を見せない。素直に影武者に引っかかった驚きを口にしているが、余裕の態度を崩さない。聖戦士が頭を掻きながら言う。

 

「いやあ、ビックリしました……うん、これは『先手を取られるぜ』ってのは確かだわ」

 

 ここまで敵対心を見せないとは、本当に、戦うつもりはないらしい――ブルー・プラネットは更に警戒心を緩める。だが、依然として相手の素性は知れない。

 

「いえいえ……ところで、あなた達は何というギルド……クランなんですか?」

 

 侵入者たちは「互助会」と名乗った。だが、正式な集まりであれば何らかの名はつけているだろう。現実世界でその名を調べれば、その評判も、どこをホームグランドにしているのかも分かるはずだ。

 

 ブルー・プラネットの問いかけに聖戦士が頷き、答えようとして……途中で止める。そして、聖戦士の後ろに付いていた――振り返ったために今は前衛に位置してしまっているが――高度な魔法アイテムで身を固めた骸骨のキャラクターの肩に手を置く。

 

「え? 俺が?」

 

 驚いて振り返る骸骨の肩に手を置いたまま、聖戦士がウンウンと頷く。骸骨はビクリと背を伸ばし、前に向き直って聖戦士の話を引き継ぐ。骨だらけの恐ろしい姿なのに、妙に腰が低い。現実世界では営業マンといったところか。

 

「はい、えー、あの、私は『モモンガ』です。よろしく……私たちのクランは『ナインズ・オウン・ゴール』と名乗ってます。加入条件は……ブルー・プラネットさんは満たしているんですけど、念のために説明させていただきますね。まず、異形種であること、そして社会人であること。あと、今回はすでに加入しているメンバーからの推薦がありまして、彼が言うには――」

 

 骸骨の話を聞き、ブルー・プラネットはその場でクラン<ナインズ・オウン・ゴール>加入を決めた。

 久しぶりに――本当に久しぶりに、ブルー・プラネットの明るい笑い声が<シャーウッズ>の公園に響いた。

 




~捏造設定~
「ナインズ~」からナザリック拠点を得るまでの時系列がちょっと曖昧。
ブルー・プラネットは割と後発の加入者ってことで。

~どうでもいい捏造設定~
悪意ある侵入を防ぐMSN(ミスティ・スパイダー・ネット)
某ソフト会社とは関係ありません。
<完全不可知化>は公園型ギルドに対して強すぎるので、ちょっと弱体化。

*9/16:タイトルに注意書き。余分なカッコ削除など。一部修正。

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