巨大な龍に勇猛果敢に挑む少女は、圧倒的な熱量を誇るブレスを悠然と跳んで躱す、ブレスが過ぎ去った直後、距離を詰めるべく地を蹴る。巨躯を揺らしながら振り上げられたを爪をスレスレで身を捻り避けると、その鱗に自らの得物を突き立てる。そう、ハサミを、
「何やってのアイツ………」
「姉ェ………」
ロゼッタ共々、額に手を当てながら原因を見る。割とガチバトルに見えるが瀬戸原はだいぶ遊び感覚だな、………尤もさっきまで腸が出てたが、
「止められるか?」
「……無理、私魔法特化だし」
………分かってたけどね、抜いた刀を瀬戸原の眉間に目掛けて投げつける。
サクッ
「ええ……」
投げられた刀は放物線を描き、狙い違わず瀬戸原の眉間に突き立てられた。
「あいつも倒したし………会話も」
『助けに来たぞー!』
ええ………会話する気無し?振り上げられた爪を身体を捻りながら後ろに飛ぶ。追撃も止める気無いな。すると、日本刀が視界の隅から飛んできた、そう眉間目掛けて、
「怖ぇよ、こっちは死ぬんだからな?サクッてなったら」
「あら、パスですよ?ただの……それに借りた物は返さないと、そうでしょう?先生」
手に戻ってきた刀で攻撃を捌く。
「ロゼッタ!説得!または説明!」
「………多分無理」
「理由は?」
『やるな人間!しかしそれがお前全力では無いだろう!さあ、私を楽しませろ!』
「あぁ…………………頭痛い」
………戦闘狂吸い寄せ過ぎだろう!
「ロゼッタ、とその姉?……………多少手荒でいいか?」
『手荒?命のやり取りに遠慮など不要!敵の温情など侮辱に………』
「いや、お前の命はいらん」
ちょいキレてるか?大振りな爪を絶対切断を一瞬発動させて刀で受ける。すると、大した抵抗無く爪を切断。と同時に絶対切断を解除し、呆けるより前に、正面に突き出す。
「天喰・碧落虚空」
龍を大きく吹き飛ばす突き、戦技、射程拡張と風魔法の合わせ技だ。突きという剣技では無く、吹き飛ばす風魔法という感じだな。職業補正とか乗せるなら戦技にしたほうが良いからな。たとえ魔力を消費しないにしても、魔法耐性が高いのもあって、あの巨体は風魔法単体の効果では吹き飛ばせない。そこで戦技で突きに付与してる扱いにしたと言う訳だ。
「自己紹介が遅れた。我が名はリオネット・エンド・サヴェレンティス・ワン・アマリリス・アーツェス」
名前はアマリリスのところだな。ワンは火、アーツェスは武道?要は近接戦か?ロゼッタと同じく人型にはなれるしな、で、瀬戸原はスキルが整理されたが、………明らかに壊れてるな。
死ノ完成 内約
deaD之:かン染 傷つけた相手を蝕む呪毒を与える。距離が近いと効果が上がり、離れると下がる。
tEンじテ生 一日に一度だけ、死亡時に復活出来る。
エnnドデぇたa 不死、不死者を殺せる。触れた対象を腐食させる。
毒を喰ラwwaばdeAthまデ
補足した対象の位置が分かるようになるが、対象は1名、補足対象を殺傷するまで対象を変えられない。一日経つと対象はリセットされる。
ワrぇはsIノ王
復活、身代わりに類いる効果を無効化する。
ゲnn罪かraNぉ解ホう
天使系の結界を無効化する。
………いや、厄介過ぎる。見えなかったら対処法も分からず倒されそうなのもあるな、そもそも不死があるのに更に復活とか、不意討ちで仕留めるのは更に難しくなったな。
「行き違いで戦う事になったが、俺は妹さんを保護しただけだ、迎えに来たんだろ?」
「はい、そろそろ晩御飯ですので」
………家出とさえ認識されてない。
「よし、迎えも来たし、もう帰れるだろ?」
「い〜〜〜………や!」
「その、………無理を承知でお頼みしたい事が!」
「なんだ?」
何か妹が戻れない事情でもあるのか?
「貴公の剣技を私に教えては頂けないでしょうか?」
………………………え、
「投げられた剣であれだけ鮮やかに攻撃を捌く技量、爪を切り落としてからの突きへの移行速度、そして、体躯の大きい相手の攻撃を当然のように受け止めた、実力に裏打ちされた姿勢、僅かな時間でもわかる。………手荒等と言いながらも手加減されていた、その底の見えない力に繊細さ、今まで見てきた剣士と比べても隔たりを感じる程だ」
おう………恥ずかしいんだけど、
「ふ〜ん、見所ありそうねぇ♡」
「………良かったな友達ができて、壊死させる奴は使うなよ」
「ふふっ………」
「返事しろや!」
「はーいっ………」
ここで言質取っとかないと使うんだよな。コイツ、どうなるか分からなくてもぶっつけ本番で来る時は少なくない。
ー後日……
「母上だ」
「母上だな」
ーまた後日………
「セトゥー」
「弟か」
「セトゥーちゃんこっちよー」
ーそのまた後日
「あ、父上」
「父上だ」
「貴方ー、こっちですよ」
「怒ってますけどまあ、仕方ないですね」
その翌日………
「テェメらぁ!家族単位で移り住むな!」
母は金品、父は睡眠、姉は武道、弟は道具や武器、末の妹が魔法、というか……
「どんだけ欲望に忠実なんだよ!」
後この龍父は悪魔系スキル、堕落を持つ。母は錬金術で生み出した金属やその金細工や工芸品を、姉は模擬戦に人の姿で混ざってくる、図書室に入り浸る妹に、工房や魔道具の制作してる子供に交じる弟、デカイ図体寝るだけでスペースを取る父………については人の姿になって寝具で寝てる。
授業も大変だが、技能系の実習は若干滞りがちなので一週間に一回まとめて見る事にしている訳だが、こいつ等の聞きたい事は如何せん細かいので教員枠で確保しているエルフでも答えられないケースが度々ある。言語に関してもクロシェットや朝日なら万全な対応の様だがアナスタシアやクロエ、俺はまだ履修済みとは行かない。(他は言わずもがな)
………瀬戸原(言語理解が無い)は所謂片言レベルまでになっている。教本を持ち歩いていない辺りから内容は一通り入ったと言うことなのだろうが、
こうなって来ると言語理解の能力を貰っているメンバーを翻訳要員として借りてくる必要がある。
鶏が先か卵が先か、普通なら考えても答えの出ない問題かもしれないが、真理ノ瞳がある俺には他の誰にも見えない物が見えている。………まあ、エルフやドワーフ等には精霊を感じたり、見る事のできる者がいるが、俺には見る事は出来ても感じる事は出来ない。それぞれ風や土、属性毎の親和性が問われるのだが、見る分にはすべて見える。が、
「………」
目の前に見えるコレが明らかに精霊では無い事ぐらいなら感じ無くともわかる。この目にはどんな物も映るが、それが何かは調べるまでわからない。
Error…………
瀬戸原は天才だ。俺が何のヒントも無く、グリッチスキルを作れた訳じゃ無い。可能性は感じていた。無理にやるリスクは無かったが、釣り合うならやる。その為の力もある。
「この世界は人より先にシステムがある」
勇者は何故強いのか?生産職は戦闘力が低い?………何というかゲームっぽいと感じるだろう。どちらも同じ人間だとしてもこの世界では随分差が出る。
Error.Error.Error………
イレギュラーを、システム外の物を組み込もうとした弊害、………いや、組み込まれてしまうのか?謂わばバグやエラーの発生。勇者以外でも転生や転移者はいる。その多くが固有のスキルを獲得している。全てで無くとも間違えなく、そんな既存のスキルはなかった筈だ。
error.error.error.error………
error………
error………
ゲームには裏技以外にもバグ技もあるんだ。コツやシステムの特徴を掴めれば、そう思い考えてみた。一応仮説ではあるが、分かったこともある。勇者のステータスが高い理由は恐らく、システムの誤認だ。
何せ最初は普通だ、おかしいのは成長率、分かる範囲で統計を取ると三年以内に鍛えた分が異常な成長をしている。比較の為に千里眼や真理を駆使して一般人や戦闘職、他にも年齢別で演算して出した数値からの推察にはなるが、転移直後はシステムに赤子と誤認されるためだと思われる。謂わば赤ちゃんである。この世に生を受けた段階からシステムの適応範囲に入る。首が座ったりとか、ハイハイできるようになったりと、急激的に成長する時期なのだが、当然まだ産まれて間もない赤ちゃんである。足で立てても暫くはヨチヨチ歩き………と言っても割と活発な子だと走り回るのだが、その辺りに合わせてシステムも調整されているのだろう。多分、
で、結論だが、赤ちゃんと成人ならどちらが遠くまで行けるか?どちらがより重量のある重りを持ち上げられるか?みたいな事である。
………要は鍛えられる量が違う訳だ。赤ちゃんでも、同じトレーニングが出来れば勇者と同程度の身体能力を身につける事はできる。
そう、理論上は、
「まあ無理だけどな」
転生、転移した殆どの者に該当するが、一部その恩恵を受けていない者もいる。だからこそバグなんだろう。俺自身も思い当たる節が無いとは言えない。実際勇者も成長補正はあるがメインはそれぞれの持つ成長限界を破ることにある為、ステータス向上などは大きくは無い。………まあ、他の職業から見れば破格だが、
話を戻すが、バグがあるなら利用出来ないかと思ったのだ。然れども方法はわからない。なので暫くは頭の片隅に追いやっていたのだが、生徒を冒険者ギルドに連れて行った時、アルが付与職として運命の輪と死のカードを引いた時、できたらでいいか、なんて事は言ってられなくなった。
未来視を使ってシュミレーションしてみたが、原因は枯葉剤だ。瀬戸原が降ってくる想定外はあったが、護衛した列車に積んであった物だ。これが漏れるらしいのだが、どう手を加えても遅いか早いの問題になる。何故か漏れるのだ。これらをすべて隔離する方法も確認したが何故かシュミレーションする未来が変わらないという事態が発生した。
明らかに何かが干渉している。原因と思しき物の痕跡も予兆も何も捉えられない。今までに無い異常性を感じた。一応助けられる未来も見えたが何処か、矛盾と言うか違和感と言うか、嫌な感じがする。そんな訳で代行者も使い、様々な可能性を検証したが、………原因の特定には至らなかった。ただまあ、
「現状無理なら可能性を広げるまでだ」
可能性が出てこないなら作る捻じ曲げるだ。叛逆はちょうど良かった。ぶつけるのにちょうど良かった。冒涜で未来視に叛逆をぶつけるというかなり脳筋な方法だったが何とか可能性を繋いだ。
error、err………
目の前のモヤを冒涜で払いのけると、それはキレイに晴れた。