この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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制裁の時代
最善の沈殿


この身に沈澱した怒りは消えない。当の昔に忘れ何の怒りかもわからない。感情だけが今も静かに、されど爆発する時を待つかのように腹の底で蟠っている。そして今もなお、降り積もる雪のよう怒りは積もり続ける。

 

朝起きて顔を洗って歯を磨く。鏡にぼんやりと向き合いながらも作業的に磨く。歯ブラシは芦原さんに出してもらった奴を大量ストックしてある。この世界でメジャーなのはフロス(歯間に通す糸)なのだが、自分は兎も角、人に教えられる程慣れてはいない。勇者等が来た影響で歯ブラシ自体は作られているがイマイチ品質が悪い(歯磨き粉は特に)。最近はちゃんと習慣として慣れてくれたが、まあ、もしもの為に一応フロスも揃えておいたのが、どうしてかあまり使う者はいない。自分で歯磨きの面倒を見た幼い子はともかく、自分で磨ける筈の子供達もだ。謎だ、

 

「今日はケーキとアイスを………エドガーの所だったな」

「………準備万端( ̄ー ̄)b」

「全て抜かりなく〜U・x・U」

「フォローは任せるにゃあー」

「が、頑張ります!」

「姫も頑張る〜!」

 

アスメシア周辺は魔物は少ないが治安が少しアレだったからな、現在は子供たちに危害や悪影響を与えそうな奴等は粗方シメたから今は大分安全だ。………なんて思っていたら問題が舞い込んで来た。まあ、刺客を捕まえて終わりだがな、隔離で、

 

「………あ、忘れてた。これ今回のパーティに指し向けられてた刺客な」

「ちょ、さらっと何をい………」

 

帰る前に刺客の身柄をエドガーに預けてノルンの転移で帰宅といういつも通りの運びとなった。イベントはいつも通り成功だ。通訳が必要だったのは大変だったな、急拵えじゃ若干拙い印象を持たれた気がする。いつ勉強したのか分からないクロシェットとスキルでスラスラ喋る朝日、クロエは俺と同程度くらい、後は挨拶と簡単な接客対応以外できないレア、アナスタシアは心は読めても会話はできないので、読み取った注文を先読みで作ると言う離れ業をする為に裏方に専念、お陰で提供速度は最速だったな。しかし、

 

「………エドガーの方も刺客対策がいるか」

 

こういう事は年長者………何人か居るエルフに聞いてみるか、と思ったらグラーザーがハッスルしてるのが目に付いた。うん、あいつはやめとこう。………この世界はなんて言うかまあ、あれだ、肉体的な最盛期が長い種族が多い。サ○ヤ人みたいなのばっかりだ。

 

「それならゴレム等如何でしょう?」

「ゴレム………土とかで作る動く人形だよな」

 

多分、ゴーレムって言われるアレだよな、

 

「拠点の防衛等には向いています。何で作るかによって耐久性や機動性、弱点等は変わってきますが、結構簡単に作れるんですよ。………まあ、簡単な分、あまり複雑な命令は理解出来ませんが、適当な魔力の触媒を用意するだけでいつでも何処でも呼び出せます。そこから………」

 

長いが重要な説明を細かく聴いていく。まず魔石を加工して核を作るそうだ。作る属性はある程度合わせた方がいいらしいが、その辺は割とどうでも良いとか、まあ、使える場所が限られたら汎用性が悪いだろうからな。弱点は作った場所の属性に影響されるが、核を壊されればすぐに終わるため、何処に核を置くかも大事になってくるが、何処にでも置けるとはいえ場所によっては脆弱になる箇所も出てくるので定石は頭や胴体の何処からしい。

 

「………じゃ、いっちょやってみっか」

「○めはめ波?か○はめ波の練習す………」

「伏せ字の位置と二回目!………お前隠す気ないだろ!?」

 

一本背負いでブン投げて黙らせる。まあ、設置することを踏まえると属性を揃えても問題無いだろう。属性が異なる場合でも可、と言っても揃えたほうが効果は高い。となると何属性にするか、屋内である事を踏まえると火は不味い。土も床板破って出てくることになる。風はそもそも無理、…………となると残るは水だけ、になってくる。のだが、実用性安全性をしっかり検討していかないとな。ん?

 

《侵入者、推定盗賊》

 

カルマの法則だったか?悪い行いは必ず返ってくる。………なんて言葉を言うものはいるが、それは半分正解だ。バケツに石を投げればその揺り返しが起こる。ただ、バケツでさえ、正確に真ん中に落とさなければそこに返ってこない。池や海のように大きくなれば石くらいで変化は無いだろうが、もし返って来ても落とした場所とは違う場所に帰ってくるだろう。

行いの結果は何らかの形で返ってくる。それは善し悪しは問わない。ただ、それは必ず当人に帰ってくる訳では無い、親しい誰か、それとも赤の他人か、気づかないほど小さくなって返ってくるか、それこそ誰にも止められない程大きくなって返ってくるか、………まっ、生きてるうちに返って来ないかもしれないがな、

 

「ハロー、キャンエニワンヒィアミー?」

「あぁ!だ……」

「な……」

 

ベシャベシャベチャボチャゴトッ

 

通りすがりに切り刻んだのだが、どうやら声を掛けられるまで気付かなかったようだ。山の中だと言うのに、

振り返った拍子に体制を崩し、バラバラになった。賊の死体は………林檎や葡萄の餌か、俺はあいつ等が魔樹の類だと言われたら信じられる気がする。後始末に困らないのはいい事だと思っておくか、

 

「追われてたのは君か」

「…………」

「一応危険は………無いから」

喋ってくれないな、人見知りか?ああ、契約魔法が掛けられてるな、この腕輪、冒涜で解除して外す。

「あ、………ありが、とうご、ざいます」

「………事情を聞いてもいいかな?」

 

だいぶ大人しいな。辿々しいながらも感謝を述べる。

………なんて言うか訳ありな子ばかり集まるなぁ、そんな事を考えながら家の方に向かっていく。ただ、正直この子は保護する必要性が無いので、できるなら帰って欲しい。

 

ただの家出だし、

 

 

「………一応聞いとくけど、帰る気は?」

「家、ワカンナイ」

 

ー嘘だね。

 

「送り届けるけど?」

「………遠い」

 

ーここからでも見える一番デカイ山の麓の洞だよね?割と近いよ、

 

「家族は?」

「………わたし一人、だれもい、ない」

 

ーご存命だし、ピンピンしてるよ。何だったら、まだ家出した事にさえ気付かず、私財の金貨とか数えてるよね。

見えてるんだよねー、リアルタイムで

 

「ちなみに龍だよね、姿変えてるけど?」

「ナ、ナンノコ、トカサッ、パリ〜?」

 

分かりやすい嘘だなー、目泳いでるし、

 

「………家出だろ?人の姿になって抜け出して、すぐに寝られる場所を探して、洞で寝てる間に腕輪付けられ、隙を見て抜け出してここまで来たんでしょ?」

 

人の姿だが力は人より遥かに強い。元の姿に比べれば半減するらしいが、人化の秘術5ってあるし、間違いなくこれだろう。他も相当スキルは強いが全体的に魔法寄りな感じがする。………まあ、腕輪のせいで戻れなかったみたいだが、

 

「くうっ、手の平の上で踊らされていたというのかぁ!」

 

拳を振り上げたので襲い掛かってくると思ったが、それと同時にか細く腹の虫が鳴く。

 

「取り敢えず、飯食ってからでもいいか、口に合うかどうかは分からんが適当に見繕ってくる………あと俺のスキルが気になるか?」

「…………」

「その辺は帰ってきた時に軽く教えるけど、それまでは、これでも食べててくれ」

 

隔離に管理されていたおやつを出す。皿も入っているのでそれに乗せて、

 

「なに、これ?」

「シュークリームだな」

「見たことない………フンフン、中身は乳と卵か?」

「あと砂糖な、匂いでそこまでわかるのか」

「人にはわからない?」

「まあ、匂いだけでは厳しいだろうな………たしか今日は焼きそばと、ご飯物何だったかな?」

 

「シュークリームー、シュークリームー」

戻ってきたらこんな感じだった。

 

「おやつだからな?………気に入ったなら食後にも出すけど」

「やった!」

焼きそばと握ってきたおにぎり、後は子供が好きそうな唐揚げとかを中心に盛ってきた。

「量はイマイチ分からなかったが、食べられそうか?」

「問題な、い」

 

一口食べてからは黙ってガツガツ食べていたので静かだった。気に入ったらしい。

「いい食べっぷりだな、シュークリームと………あとは次店で出そうと思ってるアイスケーキだ。無理だったら食べなくてもいいぞ」

「余裕だなぁ」

ケーキを嬉しそうに平らげるとシュークリームは最早一口だった。

 

「………じゃあ、落ち着いたらまた話に戻るぞ?」

「………いーやだぁ!」

 

開口一番がこれである。

 

「駄々こねない、何歳だよ」

「316歳、………子供扱いするなぁ!」

「はいはいで、名前は?」

「リオネット・エンド・サヴェレンティス・ロゼット・セブン・リーダ………」

 

「………なんて呼べばいい?」

「ロゼット、名前はそこだから後半は私の特技なんかで追加されて増えていく感じだから」

 

やっぱりそこか、代行者に聞いておいたのだが上から姓(住処)、次が最果て、人化出来る者、名前、得意な属性(聖)、好みと言う順らしい、尚追加は何を問わず後に加えられていくので能力等は習得順になる。長い時を生きる龍の名前はかなり長いのだが、それも一種の誉れと言う奴か、勲章と言うべきか、

 

「あなたの名前は?なんて呼べばいい?」

「北川龍登、この施設の管理人、かな?あの子達には先生と呼ぶように言ってる」

「先生?………ここは学校なの?!だったら本とか無いの!?」

 

あー、リードは読書の嗜好って意味か

 

「多くは無いがあるぞ………大半は写本だな、好みの本があるとは限らないが」

「ヒャホーゥ!」

 

ダメだ、殆ど聴いてねぇ、ロゼットは大人しそう見た目に似合わない奇声をあげながら走っていった。書庫の場所も分からないのに、だ。結果、写本等を作ってる作業部屋にたどり着いた。

「………図書館はあっちだぞ」

「いや、ここはここで面白そうな匂いがする………」

 

なんとかドアノブを掴む前に回り込めた。

 

「旦那様〜、何か御用ですかー?」

「レア、手伝え………」

「おお、兎獣人」

「獣人じゃないですよ〜旦那様のしゅ………」

 

ドスッ

 

「目が〜目がぁー」

「語弊のある言い方をするな。あと別に痛くないだろうが」

「人形だもの」

「○つをみたいな感じで言うな」

 

さっきまで目を抑えてのたうち回ってたのに急にスンっとするな、怖いだろうが、

 

「隙きあり!」

「ありません」

脇を抜けようとしたが、注意してない訳は無いのであっさり捕まえた。

「図書館はこっちだ」

「はーなーせぇー」

 

「ここが図書館、もとい写本置き場かな?」

「はぁー、今回はあっさりと捕まったが、原典を見つけるまで諦めんからなぁ!」

「あの部屋に原典はない。俺の能力の話を忘れてないか?」

久しぶりに来たと言うほどでもないが、棚がもう少し欲しいな。と隅々まで視線を走らせると………

 

「はぁ………」

「ん?どうした?」

「いや、どうやらこの図書館で籠もりっきりの奴がいると思ってな」

 

暫く様子見に来ないとすぐこれだ。三人ほど机に突っ伏しているが、尖った耳が見えている。ここでの飲食は禁止してあるのだが、そもそもそのルールを作った理由は本を汚さない為と言うのもあるが、一番は休憩を適度に取らせる為だ。飲まず喰わずで研究させるつもりは無い。個部屋を割り当てても魔法関係の授業とここを行き来する感じだからな、こいつら、

 

「………換気もしないとな」

「萎びたエルフ?だな」

 

…………こいつもここの住人なるんじゃないか?と思ったが、基本的なルールを説明するだけに留めた。それより萎びたエルフ三人を治療する為に隔離を介して医務室に出す。

 

「まず点滴、そこから様子見てお粥の流れを何度繰り返すやら」

 

カルマの法則とは何だったかな、何かいまいち思い出しきれなくてスッキリしない。

 

《サンスクリット語で「カルマ」は『原因と結果の法則』を意味する言葉で、おもにインドにおいて仏教以前に生まれた概念です。 近年では………》

 

聞きたいのはそういう事じゃないし、因果論もあったな、行いの結果は何らかの形で帰ってくる。良い行いをすれば良い行いが悪い行いをすれば悪い行いが、と正真正銘、公明正大に言い切れる者はそんなに多く無い筈だ。建前でも勇往邁進できる者は良いだろう。ただ良い悪いと言うのは何を基準にするのだろうか?と言う事だ。………やる前から分かるようなことなら別だが、

 

AがBに対してXの行動を取る。

XのためにはCが必要になる。

AはCを使いBにXを行う。

 

さて、これは善行?それとも悪行?

ではXが臓器移植と仮定、AはBに臓器移植をしようとした。ただ、臓器は単体でその辺をウロウロしてる訳では無い、Cは当然人物だ。腎臓等のように2つある物なら片方取っても問題は発生しづらいが、生命の維持が不可能になる心臓等となるとそうは行かない。それに移植には適合するかどうかの問題もパスしなければならない。となると、CはAに近い、それも血縁の誰かという可能性が高い。

Aを助ける為にCが死ぬ。という結果が出る。

………のだがまあ、この問題の最重要点はXの必要性や希望しているかどうかだろう。

 

Xを行うのはBの意思である。もしXもとい、移植が必要ないのであれば健康なAの臓器を摘出し、Cの(仮定、ここでは健常者とする)臓器を移植するのはどうだろう。

 

不確定要素が多いから分かりにくいだろうが、正しいと信じて行動しても、その結果が伴うかどうかは後になってみないと分からない。

正義も悪も所詮は結果、もっと根源は意思や欲にある。理屈や道理を話す場に感情を持ち込み、訴え掛けるだけなら兎も角、それだけで押しきろうとする者は前後も結果も感情もすべてあべこべなのだ。悪か正義では答えは出ない。行動の先に結果がある、複雑に絡んだ糸をシンプルにするならこうだろう。

 

………因みにだが、カルマの法則や因果応報は人間関係には大きく当てはまる場合がある。まあ、周りに横柄に振る舞えば、厄介事として人は原因から遠ざかる。社会的に立場が上とか出あっても直接で無くとも何らかの形で影響していることがある。距離が近い分、概ね直撃する。

………少なく見積もっても職場の空気が悪くなり、士気も低くなるだろう。弾いては生産性や作業速度に影響し、進捗が悪くなれば残務を捌くために残り、そこから体調を崩す者が現れ、人材が欠けていく、なんてコースもあるだろう(残業を悪と言うつもりは無いがそれ無しで成立しないのが常態化しているならプランやモデリング、草稿から破綻してるから最初からやり直せ)。

人は自らを移す鏡である。合わせた鏡に写る傷や汚れは果たして相手のものなのか、はたまた、自らの物か、自分と向き合うことは他者との関わり合いを人それぞれの形で円滑にするだろう。

 

ただ我慢の先に等しく成果がある訳ではない。その我慢には意味があるのか、それは結果が出るまで分からない。

それとカルマの法則は有効では無いが、引き寄せの法則は有効だ。善意からくる行動はより良い未来を、害意や悪意からくる行動には身の破滅を引き寄せる。たとえ当人に直撃で帰ってこなくても結構近くまでは帰ってくるのだ。無影響かどうかは言わなくても分かる気がする。

 

「我慢出来る分はするだろうが、限度や一線は明確に存在する。………それと損切りもあるかな?」

 

損切りを上手にできる人間は少ないが、高を括って首が回らなくなる奴は減らないよな、

 


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