この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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教皇(真実)の探求

 

 

 

体の各部を変化させながら放つ攻撃は間合いも変わるし、揺らめく軌道から予想も立てづらい。鞭とか鎖鎌とか、武器なら手や目線、重心やらの動きを見て先読み出来るが、如何せん体の一部となると判断材料が減る。手が変形してるからな、遠心力による威力の増加は恩恵が少ないようだが、鞭は打撃、鎌なら刺突と言ったように攻撃方法は固定されているが、こっちは突くも斬るも選べる。しかも、2本以上なら回避も厳しくなって来る。割と早いし、………ただ何より問題なのは

 

「………ふぅ」

 

隙を見つけて懐に飛び込んで切りつけようとしても、体が変形して攻撃を避けるのだ。厄介なのはこいつの意識とは無関係なのでこっちの動きを見切れていなくても避けられる点だ。………あっ気づいた。

 

ジャキ!

 

ハリネズミの様に全身から棘のような物が飛び出してくる。気づいた時に後ろに飛んでいるので当たりはしないが、面倒臭い。

追撃で伸びてきた複数の針状のものを斬り落としながら、躱しながら着地する。針の先はすぐに再生するなぁ、やっぱり、で代行者、どうだ?

 

《予想通りです》

 

まあ、この辺はそこまで心配して無かったが、確認は大事だ。

 

「………これはお前らの仕業か?」

 

えっ………それ今聞くの?と思ったけど、地面を這うように脚の辺りから、少し遠回りに変形させた体の一部をこちらに伸ばしてきている。

「それが?」

テキトウに相槌を打ちながら本体と伸ばしてきた一部に意識を向ける。

「それが、じゃねぇよ!あそこに一体どれだけの人間がいたと思ってんだよ!関係無い奴だっていたんだぜ?」

 

ああ、居たな、給仕とか攻撃前に隔離したけど?なにか?本人は揺さぶったつもりらしく背後から迫ってきた針状の物を間合いに入った瞬間に斬り落とす。見なくても十分対処可能だ。

 

「チッ」

「どうやら吐き溜めの王様の機嫌を損ねたらしいな。心配しなくてもその辺で救助に参加してるよ。悪事を主導してる奴はお前と同じく様に平等に潰したから、お前と同じように生き残れるのがいればわかるだろ?」

 

テキトウに炎を翻しなから、煽って見る。

 

「鑑定持ちか」

「ふっ……………その程度は分かるか」

 

言わなくてもいいだろ?こっちに来た人間なんだし、分からなかったら相当のアホだ。まあ、情報を引き出すつもりだったんだろうが、それに乗ってやるメリットが無いので、作戦を進める。刀に炎を纏わせ斬りかかる、まあ、取り敢えず、回避できない程速く斬りかかることにするが………手数重視では意味ないな、ただ纏わせた炎は追撃する様に刀の軌道を追いかけてるだけなので当たってない。刀に溜まった熱の方は通っているかもしれないが………

 

「無し、次」

 

炎を消し、射程を伸ばして確実に切断する。如何せん避けるから無理矢理巻き込む形出切らねばならないし、あっちの再生ペースが上だな、やっぱりこれはもっと無いな。

 

「次!ライトニング!」

 

空を割る一閃、………ちっ避けたか。

 

「………お前まさか」

「こっちも手札は伏せておきたかったんだよ、面倒くさい」

 

こいつに負ける心配は無いけど、逃げられたり、捕まえるとなると難しいのだ。だから、こいつの偽装ステータスを見て、相手の流れに乗ったまま、不意を付いて仕留めるつもりだった。でこれが正しいこいつのステータスだ。

 

名前 久道 仁

 

パーソナルスキル 簒奪 虚構遊戯(ストーリーテラー) 自動回避

 

スキル 鑑定7 格闘術8 体術7 投擲4 体力自動回復6 魔力自動回復6 自己再生10 変幻自在ー 剛力6 空間認識ー 暗視ー 熱源感知ー

 

 

耐性 炎熱耐性9 低温耐性9 風圧耐性7  衝撃耐性8 衰弱耐性9 麻痺耐性7 精神攻撃耐性2 聖光魔法攻撃耐性9 闇魔法攻撃耐性8 魔法攻撃耐性7 物理攻撃耐性5 苦痛耐性6

 

 

とにかく耐性が凄まじい。唯一耐性が無いのがあるように見せていた電撃、あとは毒と、耐性が低い精神攻撃、やり取りの直後、レアが隙を付いて、背後からサプレッサー内蔵の銃で何発か撃ち込むも変形して避けられた。反撃で手を伸ばしたが、それは液体の様にレアの一定距離から変形して逸れていく。見えない壁があるかのように、

 

「あー、これも駄目みたいですね〜」

「名前の通り、本人の意思に関係ない回避みたいだな」

「………何しやがった」

 

レアにも他の近接系人形の娘と同じようにアダマンタイトの膜一枚下には体の数ヶ所に穴が開けられている。ただレアは金属で武器を出すことは無い。ティルフィングの血を繋ぐ事が主であるが、別にそれだけの物では無い。体内に取り入れた毒物を霧状に散布する事もできるのだ。気付かずに近づけば大変な事になる。あと酸も撒ける。さっきの銃も麻酔銃だ、まあダメ元だが、射てれば大分違う筈だ。

 

「無尽連結・鱗針三段突き!」

 

なんて事は無い。ただの連続突きだ。実験用に戦技を途切れる事なく使う為の連結用の戦技だ。………疲れる。

 

「チッ」

 

体を変形させながらも、後ろに飛び退き、間合いから逃がれた。少し早く攻撃し過ぎたせいで結構当たったが、目的が違うので次はもう少し速度を落とそう。

 

「無尽連結・鱗針三段突き×3(棒)」

 

テキトウに追撃を掛けて情報収集、………まあこんな物か、

 

「へっ、………かなりの速さだけど、当たらなきゃ意味ないぞ?」

「俺はお前と戦うつもりは無い」

「あ?」

 

今度は最速で踏み込み、突き、斬り上げ、振り下ろしの順で行い、腕を切り落としてやる。

 

「俺はお前のスキルを相手にしてるだけだ、スキルの付属品」

 

腕を切り落としてやってからはすぐ回復したが、そこからは人の形では無い状態に変形、面積を増やして四方八方から襲いかかってくる。………予想通りだな、こうならないのが理想的だったんだが、プランCに食い込まなければいいか、

 

「せぇ〜の!」

「はぁぁあ!」

 

瓦礫を投げる向日葵、それを蹴り砕くアリス、変形して避けなければ蜂の巣になる礫の雨を降らせる。………この二人にあまり器用なことは出来ないので降らせる範囲を予め指定してある。なので一心不乱に投げて砕いてを繰り返している。レアは毒を放出して俺の万能結界と合わせて退路を遮断、本人は暇なので攻撃のタイミングに麻酔弾を撃ち込んで回避させる事で姿勢を崩している。毒の比重が重いので上空の届かない箇所はルシアにカバーしてもらう。こっちも暇なので、レアが作った兵器の類いを乱射している。………無差別である。

 

キンッ

 

「すいません!マスター!」

「気にするな!こっちが範囲に入ったんだ、絶やさず頼む!」

 

一粒を弾いて体を置くスペースを確保しただけだが、連携に声掛けは大事な事だ。精神面の影響が大きいし、余裕があるうちは放置しない方がいい。ちなみに余裕があるのは自動回避のパターンを解析したからだ。散々突きまくったからな、遅い攻撃で誘導して細くしてから本命で斬ると楽に落とせる。まあこの辺は変幻自在の欠点かな、

 

自動回避と合わせると無敵に思える便利なスキルだが、元がスライムとか構造が単純な魔物のスキルだ。人の身体は筋肉が無ければ動かせないし、動力となる養分や酸素を送る血管に血液も通す必要がある。出す力に比例して両者を大きくする必要があるのだが、スライムの身体はほぼ水分で空気中の魔力を取り込み生きているらしいが、人は空気も吸わねばならないし、食べ物も水も摂取し、体温の維持………と生命維持のリソースは確保し続ける必要がある。どれか一つ断つだけでも意識を保つのも厳しくなってくる。それと地形に適応したスライム(この世界のスライムは弱くないむしろ強い)もそうだが、水分やその属性に合わせた魔力やらを浴びると体積が増える。まあ、攻撃運用はその辺りが前提になっているから、最初の一撃で確認したが失った分を回復するだけの自己再生では体積は増えない。そして、思考する為には脳もいるし、心臓もいる。消化器系はある程度無視出来ても内容物となると簡単では無い。排出するなら問題ないが、………まあ、逃げるなら兎も角、攻撃向きでも無いし、人間に扱えるスキルでは無い。回避させるだけでも臓器やらに穴は開く。

 

「何処まで息が続くか根比べ、かな」

 

まあ、他の熱源感知や、空間認識とか目の代わりになりそうなスキルもあるから感覚器官は必要なさそうなので、急所となる脳や心臓を探すのに苦労しそうだが、その辺は視えるので問題ない訳だが………逃げるのよな、脳が、

さっき試しに心臓を真っ二つにしたけど、もう一個心臓を体内で複製しやがった、ただ脳は複製しても中身のデータまではコピー出来ない筈だろうからそっちを追い掛けるが、面倒くさいのだ。で周りから範囲攻撃で経路を絞って追い込みも掛けて、対処項目を増やして行けばその内、ボロを出るだろうが、

 

「勿体ないな、………なんか」

「何がでしょう?お父様」

「………ああ、その手があるか」

 

一気に距離を詰めて掌底で心臓を圧迫、しながら冒涜を使う。鞭のように撓る攻撃を躱し、距離を取り直し今度は踏み潰す。複製したら次を追い回すのを繰り返した。

 

「………よし、下準備はできたな、ノルン、アリア、頼むぞ」

 

 

「………あの、マスター、これ何の時間ですか?」

「今か?幻覚を見せて調子に乗らせてる最中だ。」

 

冒涜で耐性をちょっと貰うついでに空間認識も貰っておいた。便利そうだし、隔離の障壁をジリジリと狭めながら、アリアの幻覚でノルンの無限回廊に誘導していている。カップ麺に湯を入れて待つ間に空間認識の確認をしよう。取り敢えず発動させる。………思ったより便利な能力では無さそうだ。目を閉じて集中すると、周囲の風の動きが分かるくらいだ。範囲にすると俺を中心に直径30メートル程か、多分熱源感知と併用するのが肝らしい。

 

《千里眼との併用はどうでしょう?》

 

………俺が併用出来そうなスキルはそれしか無いな、ただし視覚と考えると相性が良い気がしないな、用途は狭そうだ。………となると精度を上げる必要があるか、

 

「ふぅ………」

 

試しに空間認識の範囲を絞ってみると足元のカップ麺や瓦礫のシルエットが、さっきよりくっきりとした。後は複数の視点を連動させて………代行者が情報処理、人には2つしか目がないのにそれ以上の視覚情報は処理出来ないからな、10メートル圏内の情報を死角無く網羅することが出来そうだ。他にも使えそうなパターンが無いか探りながら調整する。

 

「………マスター?伸びますよ?」

「悪い………新しいの準備してくれ、それは食べていいから、………あと、ヨダレ?拭け」

 

何が垂れてるのかまでは分からないが、口元から垂れてる、あと食べたそうだし、軽く把握するのも、もう少し掛かりそう………

 

「………………」

「………………」

 

ルシアも食べたそうなのと、このまま立ったままにしておくのも落ち着かないので向日葵とルシアの分のカップ麺を出す。

「お父様、入りましたよ」

「ん………そうか、せっかくだし、みんなで食うか」

「帰ってからの方が宜しいのでは?」

「帰ってからカップ麺食う意味が無いからな、そんなに時間も掛からないし良いだろう。アリアが幻覚で周りは誤魔化し………」

 

ズルッ、ズルズル………

 

我、感せずなのか、空気が読めないだけなのか、はたまた大物なのか、………アリスはただ、麺を啜る。

 

 

 

「…………ゴミは隔離に入れておくから渡してくれ」

異世界でもゴミ処理問題は起きてる。法やら団体やらがあっての制限は無いので、諸々高火力で焼く。倒せなくは無いが、面倒くさいので無限回廊に封印したが、ガチで戦うのは消耗が激しいし、隔離しようにも負けを認めさせなければならない。この手の奴は生きてる限り負けを認めない。それに、俺のスキルや能力は自己強化がほぼ無い。理想は戦う前から勝負が決しているくらいが良いし、逃したら面倒な事になる。………無いなら無いなりにやるしか無いが、

ただ、物事には限界がある。しかし、それは片方の方向に対してのみだ。温度が分かりやすい話で、水の沸騰する100cを基準に設定されているが、氷点下、つまりマイナスは−273.15cより下が無い。理屈としては小学校でも習う状態変化にもあったが、気体はよく動くのに対して固体は殆ど動かない。………要は分子の動きが止まるからこれ以上下がらないのだ。人の頭の良さをIQを基準にする場合は賢さの方に限界があるが、

 

「………そんなもので決まるなら苦労しないよな」

「いつでも帰れますよ、お父様」

 

………片付けも終わったか、まあ、IQはそこまで宛にしてないが、賢さに限界があるという点は確かだと思う。まず何を持って賢いのかを明確にする事はできないが、IQを図る試験や面接等では愚かさは測れないからな。それに基準があるという事は上限には人が理解できる範囲で限界はある、と言うことだ。歴史に残った愚行や悪政を数値化出来るなら変わってくるだろうが、今の所、図る術は無い。………道徳的に今後も出てくることは無いだろうが、

 

「こらぁぁぁ!私のダンジョンは遊び場じゃないぞ!」

「「「アハハハハハ!!!」」」

楽しそうな声が聞こえるな、聞きたいことがあって来たのだか、まあ、少し近況も聞いてみるか。

 

「…………うぇぇ、グスッ、私のダンジョンはなぁ!アスレチックじゃないんだよ!冒険者達が恐れる魔窟なんだよ!タイムアタックって何!?そもそも踏破出来ない様にしてるのに当たり前のように………うぇぇ〜」

 

………生徒達は思ったよりみんな成長しているようだ。飲むかどうかはともかく人生の潤滑剤(酒)を置いておく。ついでにこっちの聞きたい事も色々喋ってくれるといいが、

 

「ダンジョンの異界なんて特殊も特殊な奴でしょ〜?そんなの聞いてどうするだよ〜えへぇ〜」

 

大分酔いが回ってきたな………

 

「特徴とか踏破する方法とかは無いのか?」

 

一度、偵察に行ってきたが、正直よく分からない。まず、一階層が広い影響か、千里眼が次の階層まで影響しない。それでも次の階層に繋がる階段を見つけたが、そこに行くための道がダンジョン側の力で閉じられている。表向きそうは見えないが先に階段あるので色々やってみたが、こじ開けるには至らなかった。唯一、絶対切断を発動させて切った時は階段も見えたがすぐに塞がってしまった。

 

「ひっく、………ダンジョンの仕掛けは難易度があるけど、異界はその階層全てが仕掛けになってるんだよねぇ〜私達は踏破不可能な条件を設定できないからさぁ〜………うぇへへぇ、あぁ〜、条件を満たせば開くよぉ?」

 

そうか、不可能な条件は設定できないか、

 

「じゃあ、事実上不可能な条件は可能性なのか?」

「………例えば?」

「………先に進む者の心臓置いてけとか?一層で生物の進行禁止にして、二層で非生物の進行禁止なやつとか?」

「そう言うルールじゃないし………、あと異界は一層だけだからそういうのは無理だね。それに制約として条件は示さないといけないから………まあ、ダンジョン領域なら何処にどんな言語で書いてもいいらしいけど」

 

領域………かぁ、まあ、千里眼が無ければくまなく調べるなんて真似は出来ない訳だが、それっぽい物は無かった、ただ領域と言った、しかもダンジョンとくっつけて

 

「そのダンジョン領域の定義は?見分け方とかあるか?」

 

「………塔型はその内部と外壁建物全体だけど、洞窟型は分かんないよぉ………同じ領域を共有は出来ないし、隣接してれば干渉するから分かるけどさぁ、ダンジョンの入り口から領域ある程度伸ばせるじゃないかな?意味ないから伸ばしたことないけど、なんでそんなこと聞く………?」

「………コップが空いてるな、入れるぞ」

「へへへ、ありがとなぁ〜」

 

テキトウに誤魔化しながら続きを聞く。酒が入っている影響もあって結構聞けたと思う。千里眼と代行者を駆使して調査した結果、多分ダンジョンの入り口から正面に30キロ、森の一本の木に書いてあるのがそれだろうという結論に至った。


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