この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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恋人(好機)来たれり

 

 

辺りを見渡しても、砂ばかりで遠くに見える地平線も、蜃気楼で土と空の境界線も曖昧だ。………千里眼で上から俯瞰すればあまり関係ないが、

 

「ご主人殿、今日は何方に?」

「散歩………」

 

障壁を魔法の絨毯の如く飛ばしながら、正面からぶつかる砂を隔離しながら飛ぶ。………こいつ、ほっとくと本当に外でないんだよな、閉じ込めてるつもりは無いが、周りの誤解がなかなか解けなくなってきてる。

 

「………ついでに掃除、終わったらなんか美味い物食おう」

「はい、ご一緒しますね」

 

ー5分経過

 

………向日葵の特徴を上げるとかなり特殊なのがこれ、こちらから話さなければ無言になる。ニコニコしてるのはいいがなんか言え、間が持たない。俺の後頭部ずっと見ててそんなに楽しいか?

「「………………」」

 

そして30分後、目的地が見えてきた。砂漠の真ん中に街が見えてきた。ボロ布の屋根に木の柱、即興テントみたいな街並みだ、そして一際目を引く中央のデカい城、城周辺は石造りの建物も多いが、この街の貧困層は9割強、貧富の差があり過ぎる。こんな場所なので水を巡って争いが起きるが、それは最早日常の一部と化している。ただ命の危機に瀕した者があまりに多すぎる。泥水の様な汚れた水でも流血沙汰になる。しかしこの世界には魔法がある、………あるのだが、僅かながらいる水魔法の使い手はその魔力すべてを王族の為に使わされている。砂漠のオアシスを中心に発展したこの街には水が無いと言うことはおかしいのだ、水自体はある。何故か、ただいつも為政者の不正や失策の答えと言う奴は、得てして一番くだらなくてつまらないものだ。

 

「湧くより沢山使ってるんだよな、水浴びに、小汚いおっさんの体洗った排水で争いが起きてるんだから」

 

もう、死人が看過できない量になってきている。ただ、こいつも異世界から来た勇者の末裔とかで隔離できない。なのできっちり殺して利用する事にした。取り敢えず、刀を隔離から取り出す。初めて使うからどうなるか分からんな。代行者、距離とポイント指定。

 

《対象までの距離、20キロ前方、水平時から0.0971度上方補正》

 

腰を落として構える。………細かい注文だな、狙う場所を指定したからか、

 

「遍断ち」

 

その場で素早く刀を抜刀、横薙に振り抜き、城を背に鞘に刀を収める。

 

………その頃、城の中で王族は水浴びをしていた、朝は政務の予定を聴きながら涼んでいるが、政務と言っても内容は代わり映えしない。気になる事、もとい、興味のあること以外は聞き流される。立場の違いもあり、説明する方も聞かれなければ具申も出来ない。今の王になってからは彼の前任が二人いたとだけ付け加えておこう。

 

朝は王位継承権を持つといってもまだ幼い子供、眠っているためここには居ない。今の王と妃の馴れ初めがこの朝の水浴びなら次第と………といのが政務を読み上げる彼の目の前に広がる光景が日常である。早口にならないよう心掛けながら目の前の光景から目を逸らすべく、手持ちの書類を目で追う。

 

ドポンッ、バシャ!

 

何かが水に落ちた音がしたので音のした方に目を向けると、そこにあったのは先程までプールサイド堺の階段で唇を重ねていた王と妃の首の無い身体だった。

 

さて………人が、国家が、人類が、組織が、規模は違えどそれらが破滅する理由は存外一つだ。破滅とは何か、それは死と同様身の周りにポッカリと開いた穴の如く、存在している。自分から飛び込むには相応の理由や覚悟が必要となってくる。嵌まる理由としては誰かに突き落とされるか、知らなかったかだ、あともう一つは?

 

他者に苦痛や恐怖を強いる(もたらす)者は破滅する?

 

これは半分正解、完全回答は呆れる程たちが悪く、国だろうが、会社のトップだろうが失望と侮蔑を一身に受ける事となるだろう。

 

ー経緯はどうあれ忘れることだ。

 

まっ、知らないのと同じ事ではあるが、社会的に恵まれた立場や役職に付けば、それ相応の生活を送っていくことができる。ただそれは周りとの乖離でもある。政治家の問題発言だとかが表に出てくるから分かりやすいが、………挙げ出すとキリがないのでやめとく、立場や役職が上になるという事は下が出来ると言う事だ。そして上と下が逆方向に進もうとしたなら、バラバラになる。統制も規制やルールを掲げ振りかざすだけでは意味は無い、状況に合わせた物でなければならない。規制やルールに従わない者を排除しても、根本的な問題を解決しなければ意味はない。しかし、価値観の乖離、現状との乖離、乖離、乖離、乖離、乖離、乖離………

 

掛け離れた分だけ破滅という墓穴は大きく、深くなる。そして、今度は自分が排除される。道徳の授業でも言われる『あなたの代わりは居ない』という言葉、ただこれを社会に当て嵌めて表現するなら『あなた個人の代わりは居ないが、役割なら幾らでも代わりがいる』というのが適切な表現だ。そもそ学校でやる道徳が完璧ではない。道徳とはその二文字がそれぞれ意味を持っているが、その実、習う内容は道のみなのだ。国語、算数、理科、社会、英語、体育、図画工作、家庭科、道、である。で徳が何かと問われれば老害共には邪魔な物であったと断言しよう。

 

「自浄作用が生きてる事が何より尊い、限界はあれど極力手を入れる必要のない物は美しい」

 

枯山水の傍らに作った盆栽を眺めながら、剪定忘れが無いか確認する。野次は国会の花と言われていた時代もあったが、今の花ラフレシアだろ、虫媒花の対象が蠅だからか、臭ぇわ汚ぇわ、最小限の品性と思わず吹き出すような皮肉とユーモア、NHKとかの国会答弁とか見てるとどっちもセンスの欠片も無ぇと断言できる、勉強出来る=賢いもこれを見せれば否定できる気がしてならない。うまいこと言えないなら黙っとけ、それがズレてるとわからないなら尚更、一発も当たらない糞芸人共が、

 

………それと会議で寝てる議員はクビにした方がいい、会議によるが参加毎に一人、50万か100万が支払われている。寝ててもな、

 

………地方と国会だったかな?忘れたわ、

 

どこから切るか?その後どう育つか?剪定を上手くやらないと盆栽は枯れる。当たり前だが、生きてる木なのだ。雑菌にやられる事もあるし、場所が悪ければ普通に枯れる。しかし、しっかり手間を惜しまず、世話をすれば美しく力強く育つ。ここで言う美とは生命力だ。小さく世界を切り取る。ジオラマや箱庭のような………

 

「ご主人殿」

「マスター………」

「お父様………」

「………………ん、もうそんな時間か、向日葵、また後でな」

「いってらっしゃいませ」

 

ガタッ!ガタ、ゴン!ガタガタガタ………

 

「………砂利の所はケツ痛いだろ」

「私は平気………」

「それは台車に乗ってる私が言う事ですわよ!」

「………すまん、ちょっと藤白の所にところに転移してくれ」

「承りました。お父様」

行動が速くて助かるな、付いてすぐに目的の人混みに入っていく。

「ちょっとどけ、………漂流か遭難かまではわからんが、栄養失調と極度の水分不足の状態だ。」

「なら、水を………」

「直接飲ませるな!筋力も体力も落ちてるから誤嚥する可能性が高い!それに今は体が水分を吸収しやすくなってる。急激的に水分を吸収すれば血中の水分の割合が一気に増すし、血管への負荷も危険だ。栄養剤の分もいる。濡れたタオルで唇を湿らせながら、医療施設で適切な処置をするんだ。摂取させた水分の量は記録してるか?空いてる容器分でいい。それを医師に伝えろ、濡れタオルの分は別で分けろ、わかったらさっさやれ!」

 

「「「「はいぃ!!」」」」

 

「でこれは医者代だ!使え!」

「「「「サァイエッサァー」」」」

 

「…………なあ、なんでお前らまともな医療知識持ってないの?応急処置レベルは押さえとけよ。芦原さん、サバイバル基礎の上下巻、遭難時に生存率を上げる10の法則、身の回りのもので出来る応急処置法1〜10巻、備えてガッチリ防災グッズと心得その1〜3巻、後で出して読むように言っといてくれ」

「お、おう………」

はあ〜〜、危ない危ない。授業に戻らないとあの子達が待ってる。

 

「ノルン、用事は終わったから帰るぞ」

「指揮をとられるお父様、素敵でした」

「………いつも格好いい( ̄ー ̄)bグッ!」

「ありがとう、じゃ、また明日」

 

「ちょぉ、まちぃ!こっちは一冊づつしか………」

 

……………メモ隔離で送っとくわ、ごめん、

 

魔法関係の授業はたまに見に行けば大丈夫だが、現在の授業より上を目指す子はどのジャンルでも大変だ。やりたい事別で大雑把に分けられてはいるものの、結構多い。初めの頃はものづくりチームとかだったが人数も増えたため、少し手を加えた。しかしどうなっても俺は身一つ、なのでローテーションで回るようにして、行けない時はそれぞれの場所で優秀な生徒やアナスタシアやレア達が手隙な時に代表として見る様にしている。………で一番大変なのが、言わずもがな戦闘技術コース、ここに来る時は大体みんな集まる。ハルトはずっとこのコースにいるが、ウィルとミネルヴァ、シマシマは生産・技術職コースと掛け持ち、ロイとキリエ、エミルは魔法習得コースと掛け持ち、キングはサボリ気味だが、戦闘技術コースに俺が来た時は欠かさず顔を出している。

前記のコース以外にも座学中心の商業・歴史学コース、種族語学コースや不定期開催のコース等もある。座学は主にクロエ、クロシェット、朝日が持ち回りで担当している。

 

………で問題点は戦闘技術コースに俺が来ると他のコースの代表がほぼ居なくなる事だ。周りも良く出来る子だらけだが、ウィルやハルト達は頭一つどころか、二つ三つ飛び抜けている。成長速度に合わせてカリキュラムを組んでいたのもあるが、一緒に行動する事が多かったのも一因だろう。訓練でも10人掛かりでギリギリ瓦解しないレベルだ。一人でも脱落させられればあとは時間の問題という感じだ。まあ、代表に関しては俺の方から順番を指定して課題を出す形にしている。………他のコース全員巻き込んでの授業になるときもあったが、今はこれでやっていけてる。が………

 

「先生♡」

 

ひらりと身を躱す、

 

「ふふっ、女性を受け止めるのがいい男性と言うものではありませんか?」

「………鋏仕舞えや」

 

普通は受け止めるわ、お前完全に刺しに来てるだろ、瀬戸原、

 

「こいつ以上に割り振りに苦労する奴は無いな、………はぁ」

まず何かの制作コース、同じ作業を嫌い、飽きる性格から短期間に限られる。次に語学や魔法系、ここには多数の種族がいるが日常会話には困ってなさそうな所から俺の持ってない自動翻訳持ち、暇な時に魔法関連の本を読んでいるから結構理解している。唯一駄目なのが、戦闘技術………持たせると危険なのもあるが、

こいつはそもそも拷問狂いのド変態だ。目の前に立った敵さえ初めから斬り刻むつもりでいる。例えるなら、一般的に牧場の牛を見て美味しそうとはあまり思わない筈だ。それこそ畜産に関わる知識や経験を持つプロくらいしか言わない。大体の人は精肉されたブロックの肉か、鉄板で焼いてある牛肉を見て美味しそうと言うだろう。精肉には牛を屠殺する必要がある様に、拷問なり尋問するにも拘束する必要がある。

………要は逆なのだ。精肉の過程で屠殺、拷問の過程で殺害、瀬戸原にとって拷問=戦闘、拘束はおまけ。拷問以外はどうでもいいらしく、拷問と=で結んだが、戦闘という概念は持ち合わせていない。まあ、いろいろ言ったが一言に纏めると、

 

「………お前の獣みたいな戦い方なんとかならないか?」

技と言えるものが無い。刺したり斬ったりと言ったただの動作、故に読みにくくあるが、さりとて防御が脆い点は否めない。不死のような生存性の高いスキルを持っているからといって防御をしなくていいという訳でもないし、形勢が少し傾いただけでも一気に覆される事は戦いに置いては少なくはない。そうなった時、地力や経験がどれだけあるかが物を言う。無理な時は無理だけど、瀬戸際で踏ん張れるかどうかに掛かってくる?

 

「ふふっ、私、愉しい時間は頭を空っぽにして過ごす様にしてるの」

「そうか、空いてる所があるならそこにモラル詰めるのが先生の仕事だな」

「先生の仕事はぁ〜、私を愉しませる事、………だから駄・目♡」

 

ただこの素人殺法も馬鹿に出来ない。何人かでなら抑えられるが、一対一だと生徒の中に抑えられる者がいない。………勝率は安定しないが、

 

「自信を持たせるには一役かってると言えばそうなんだが………」

 

勢いや威圧感に圧されるといった。精神面を鍛えなければならない生徒にはなかなか辛いのと、トラウマにならないかが心配だ。

「まず、瀬戸原と特訓するか」

「お誘い謹んでお受けしますわ」

 

さて、まず瀬戸原のスキルは生存性の高い物が多い。いくら攻撃してもダメージを与えられてるかどうかがわからないゾンビみたいな奴だが、大量に血が流れている場所ならともかくそれ以外なら自分の身さえ守れば堅実に削っていける。筈だが、かすり傷一つ許さない点はなかなかきつい。………弱点が無い訳ではない。無いのだが、如何せん見た目が悪い戦い方になる。

「先生、刀は?」

「素手でいい」

「じゃあ〜………私はこれで」

 

当然のように鋏を取り出す瀬戸原、その内専用の武器は作るつもりだったんだが………もう鋏でいいな、うん、大振りの一撃を躱し、片手で手首を掴み、その手を引きながら横に回り込み、引き手の反対の肘を伸ばした肘に叩き込む。

 

パキッ!ゴッ、

 

折れた音とは違う音、長い間同じ姿勢でいた時、急に動くと関節がパキッと言う音を出すがそれの大きい版だと思ってもらえれば良い。膝は外すより砕く方が簡単なので近い方を撓りをつけて両膝を蹴り砕く、最後に背中から頚椎に向けて肘を叩き込む、暫くこれで伸びてる筈だ、

………確実に半身不随の再起不能フルコースコンボだが、暫くしか保たないんだよな、それとこいつにカードを引かせたら7枚も出てきた。ただ、いろいろなスキルの文字と兼ね合いが悪いらしくまだスキルとしての形を持っていない(代行者曰く)。死あたりが文字被りしてる影響のようだ、

………そんで職業は虐殺王、処刑王、拷問王、最後に申し訳程度に学生、

 

………うんざりする気力さえ起きない。

 

「………ああ、もう嫌だ」

 

職業も一定以上、王から上(王を含む)は特異な付与が出来るようになる。今朝使った遍絶ちは刀神を持つもの以外は使えない。

職業別にいろいろあるが、王と付く職業を持つものは原初の破砕(グラウンドゼロ)始まりの切断(インプールワン)第二の貫通(ウォールセカンド)叡智の毒(アブストラクトサード)朽ち逝く終焉(ラスト)の五つのうちどれかが使える。

職業次第だが、二つ使える物もある。切断と貫通は俺も使える。で、具体的にどうゆう能力かと言うと不壊を持つ者にダメージを与えられるというものだ。ただ、あくまでダメージが与えられるだけであって、ダメージは30%くらいになるし、大きなダメージは与え辛い。ただ不壊を持たない物は威力強化もあって紙屑同然に壊せる。………単純な魔力消費は大きいが、最高クラスの物理攻撃になる。

 

…………ここまでが前置きになるんだが、職業を集めると当然この特異な付与能力も被る物が多くなる(5種類しかないし)。

しかし、この使用権限(代行者曰く)を三つ集めると、絶対攻撃(ワールドエンド)を使える様になる。こっちは不壊であれど容易く斬れる。刀神に統合されてはいるが王以上は剣王、刀王、剣帝に刀神と四つもある。似たような物ばっかりなので中身を省略すると切断4貫通3、とその他2、でその他なのだが、

 

対象選択

攻撃対象を指定出来る。

 

射程拡張

攻撃射程を伸ばす。

 

前者はちょっと分かりにくいが、後者はシンプル、刀身の先端から延長線上に光が出る。ただ伸ばせる距離は上限無し、そしてまあ、こんな物ブンブン振り回したら敵味方どころか伸ばした射程内の生き物全てに死をばら撒くだけだ。

でもう一つの能力が肝となる。今朝遍断ちで斬った王族、とその居城たる城の柱や外壁、が斬れたのは前者のみ、非攻撃対象を設定できるのだ、鎧を着た者を斬ればまず鎧に当たる。非攻撃対象に鎧を設定すると、鎧を擦り抜け中の人のみを斬る事ができる。王族以外を非攻撃対象に設定して振ったからこそ王族以外は斬れなかったのであるが………問題点が多い。遠距離から暗殺するには極めて向かない。

 

問題点

1 射程拡張の燃費が悪い。(この世界の能力全般)

 

2離れる程、精度を出すのが難しい。

 

3刀の反りがある関係上、伸びる射程分もその反りの影響を受ける。

 

4万能結界の方が便利。

 

………利点が無い訳ではないが、遠距離攻撃の手段としては今更いらない感がある。それに当てる為には、代行者や千里眼で計算してやる必要がある。この二つが無ければまともに当たる気がしないし、計算したからと言って楽に当たる様になる訳でも無いし、

 

「……………先生、今日は打ち込みですか」

「いや、かくれんぼ、俺を見つけて一撃入れる。こっちが鬼だから不意打ちに注意する事わかったか」

「………武器は?」

「使用可、こっちはこの塗料をよく吸ったスポンジ棒、………柄を見ての通り中身は木刀だ。」

 

いつもはこれをベチャっとつけてやってたが、今回は対象選択の実験がてらいろいろやってみようと思う。軽めの確認はしているので危険は無い。こんなんでも中身が木刀、当たれば骨折もあるので今まで寸止めでやってきたが、それでは最近限界が来ている。追加で言うと臨場感も欠けているため、生徒の危機感が薄い。塗料以外は透過するのでいい練習になるはずだ。

 

 

「なあ、先生、大人ってなんだろう?」

 

………大人と子供の差、教師としてあまりいい答えではないだろうが、この手の質問はよく受けていた、だが答え方は変わらない。

「子供は大人になる者だ。大人が子供になることはできない。社会的な自立、精神面、生物学的側面………いろいろ挙げたところでどれもこれもしっくりこない。基準足り得ない。大人だろうが、子供だろうが、個人であり、人でありの大きなくくりが正解。不正解は子供でいられなくなった大人と言う奴とその概念に囚われる者だ。俺としては大人になるべくしてなったと言える様な人間になりたい、かな、………まあ、お前がどうなりたいかで考えればいい。ハルト」

「………どうすれば先生みたいになれる?」

「………俺なんか目指してもいいことないぞ、俺に言える事は正解は無いが、不正解はある。精神論だけどな、時間が解決する問題に向き合う時は時間に流される事は不正解だ。忘れる事もな、ただ、待つ事が必ずしも正解でも無い。後悔先に立たず、………後悔の少ない選択をするも良し、欲しい物、護りたい者の為にすべてを掛けるも良し、逃げるも良し、暗躍するも良し、何でもいいが自分で決める事が一番の解決策だよ」

 

………自分で考えて答えを出す他無いんだよな。誰かの一生の責任なんて先立たれでもしなければ全う出来ない。しかしなんでこんな事、急に聞いてきたんだ?もうちょっと兆候がある筈な………

 

「先生はどれなんですか?………いろんな人に会ってきましたけど、先生みたいな人を見たこと無い、です………なんて言うのかな、雰囲気じゃないし、えっと、……………」

 

………ようわからん、獣人は全般的に勘が鋭い。クラスに一人くらいはいるだろうが、まあ、体感して理解したことを言語化するのは難しい。それが表層心理でない事なら尚更、

 

「目的に至る道筋、選択肢とその決定、もしくは人生の歩き方………か」

「うーん?多分そんな感じ、なのかな………」

 

世渡りは誰かが教えてくれる事じゃない。教えられても、それこそ一朝一夕に身につくものじゃない。要は普段の歩き方の違いを聴くようなものだ。普通に歩くと言っても重心が利き手や軸足方向に傾いていたり、すり足気味、踵を踏む、猫背、生活習慣に由来するものや、持病、負傷に後遺症、最後に縮地のような特殊な歩法や体捌きが染み付いたもの………言いたいのはこの辺りか?

 

「俺は目の届く………いや、手の届く範囲にあるものはすべて守りたいだけだ。力が足りなきゃ鍛えた、分からないことがあれば学んだ、知らねばならぬ事から目を逸らさないし、出来ない事は出来る様になるまでやった。知ってる範囲で、………そういうバランスの悪い詰め合わせが俺だ、今出来ないことに衝突しても持てるすべてを持って、直線では無い。紆余曲折、出来る事、知ってる事を継ぎ接ぎで合わせた自分なりの勝ちを描くだけだ。………そのせいで、極めた先に見える境地が見えない」

 

居合と芸術、しかも芸術は絵なら絵、という感じに集中するのでは無く、手当たり次第に手を出しまくっている。居合も居合で延長に柔道も手を出しているし、合気道まで齧ってるので尚おかしなことになっている。………戦うとなるとゲー厶で見た技さえ飛び出す始末で、昔やった自己暗示の実験も絡んで、勝手に体が反射で反撃する事さえある。

 

※自己暗示はシンプルに力を強くとか単純なのにしようね。先生との約束だ!

 

………まあ、それはさておき、答えとしてはこんな感じかな、概念や精神論ばっかりで分かりにくいと思うけど、言語化するのが難しいのだ、

「何事も積み重ねが大事だな、失敗でも成功でも………」

 

 

さて、成功でも失敗でも価値があると言ったが、その道筋は最も価値を左右する。道筋と言ったが、精神的な面や思考回路の面だ。まず、成功しかしない人間と失敗しかしない人間がいたとしよう。そんな二人に10回ゲームをして勝敗を競ってもらう。当然10体0になるが、この勝利の価値を決められるのは失敗しかしない人間にある。棄権したり、適当に相手をされるのと、全力で倒しに来る相手を負かすのは、達成感にも違いがある筈だ。なんせ、勝ったからといって何もないしな、達成感、万能感、多幸感………こういった幸せも、何も無い状態で発生し続けると人間は壊れる。エラーを起こすと言ったほうがいいかな、思考実験にも禁止される物が多い様に禁止される物にはそれ相応の理由がある。

 

「さあ〜、やって来ましたエンドリバー、いつ来てもシケた街ですね〜」

「お父様、ここでは何を?」

「………マスター、抱っこ」

「旦那様の為に頑張るっすよ!」

「ご主人殿の為に頑張るぞ!おー!」

連れてきたのはレア、ノルン、アナスタシア、アリア、向日葵だ。………相変わらず平坦な調子で辛辣な言葉を並べるレア、

 

「………この時期になると麻薬がよく出回るんだと、そんでその治療だな、放っておくと他にも影響が及ぶし、ここで食い止める」

元の世界を基準に考えると、乱用する薬物によっては完治しない物もある。が、それは元の世界での話である。………と言っても、三方面からアプローチする必要がある訳だ、それも最上位クラスの、

 

「………予想より酷いな、取り敢えずグループ分けだな、身体機能、脳の萎縮とか物理的に欠けてるのはアナスタシアの所に、衰弱、毒性の激しい者はレアの所に、依存性や幻覚作用、刺激が強いのは………」

 

「………ロストリバーサル」

「消毒お願いしますー」

「ん………ディスペル」

「………何で私ごとー?」

「不浄だから?」

「あのあの〜何処が汚れてるとー?」

「あなたの心です ( ´_ゝ`)フッ」

「………それ使い方が違うんですけど〜?」

 

まあ、読心でも断片的に読むとこういう事はよくある。多分言ってみたいセリフみたいなの作ってたのが頭の隅にあったんだろう。

 

「次の患者さんどうぞー」

「これですね………持ってきましたよ」

「………持って来ましたねぇ〜」

 

暴れたりされると面倒なので向日葵が強欲で作り出した手で文字通り持ってきた。レアはカルテを照らし合わせて、準備した薬をそのまま打つ。

 

「ちなみに何打ったの?」

「取り敢えずはー、コカインですね〜、ベットで縛っといて下さい〜、それと下剤諸々と栄養剤の点滴とー………その前に二リットル程採血を〜」

「それ、瀉血………」

「………?場所無いから天井に固定しておくね?」

「あっちは?」

「アリアの方ですかー?」

「あっちは部屋に入れれば大人しくなるから大丈夫」

「あのあの〜麻薬全般依存性があるのに一人で足りるんですかー?」

「魔力をご主人殿とノルンで補完すれば大丈夫だそうです。………がいぶしゅつりょくたんし?もあるから大丈夫だそうです。」

「あー、この前作ったアレですね〜」

 

轟音が響く一室、虚ろな目で呻き声を出し、よだれ垂らしながら手を突き上げる様は………洗脳してるみたいだ。治療に見えねぇ、芦原さんのスキルで買ってもらったベースをかき鳴らしながら、頭の片隅で思考する。

 

「「「「「ぁぁぁ〜ーぉあ〜あぁぁー〜ーーあ!」」」」」

 

吐きそうな表情でよれよれの歌声?を披露するアリア、でステータスがこちら、

 

 

アリア オートマタ

 

機構精霊 幻死の朝顔

 

パーソナルスキル 黄昏 醜聞 黒陽ノ使徒(アルシエル) 月夜の歌姫

 

スキル 分身ー 幻覚魔法6 超克魔法2 自動修復5 剣術2 槍術3 体術3 演奏6 輪唱ー ユニゾンー 指揮者ー

 

耐性 毒・酸無効 精神攻撃反射 精神攻撃倍化

 

称号 生きた人形 災疫の歌姫

 

XVIII 月

 

黄昏 内約

在りし日を想い 周囲の対象に精神系状態異常を掛ける。または解除する。

 

過ぎ去りし過去を求めて 超克魔法を習得。

 

醜聞 内約

話題の渦中 受ける精神攻撃が倍になるが、声が届く範囲の対象者の耐性を下げる瘴気を出せる。

 

期待の写し 精神攻撃反射

 

 

黒陽ノ使徒(アルシエル) 内約

終着点ニシテ出発点 対価に応じて能力を強化し、一時的に限界を破棄する。

 

一ハ全、全ニシテ一 魔力で分身を作れる。

 

 

ベースは俺が弾いてるが、他は分身してアリアが弾いたり、叩いたりしている。ボーカルが下手だが、緊張のせいだろう。たまに練習してるの見るけどこんな感じじゃないし、………俺も恥かかない程度の腕だし、人の事はあまり言えんが、なら何故弾いているかと言えば魔力供給のついで、ベースの端子が刺さったアンプ(レア作)はアリアのスカートの下から伸びる端子も繋がっており、このアンプを介して魔力を送っている。

 

「………ありがとうございました」

 

ユニゾンや輪唱で歌に乗せた幻覚魔法は増幅され高い効果を出す。尚かつ精神面から様々な揺さぶりをかけているので精神系状態異常も難なく入る。………何でゴスペルにベースがいるのかは最後まで分からなかったがな、

 

「あっ、殺人的なリフ捌きっ、すね」

「………レアか、それ言えつったの?」

「あのあの〜、ライブの………」

 

下+下前+前・P、このコマンドで繰り出される技は知る人ぞ知るあの技だ。

 

「昇〜竜拳!」

「うぉわぁ、うぉわぁ………(エコーから地面に倒れる音まで再現)」

 

………………これがしたかったのだろうか?やたら芸細かい。最後のオプションの吐血を見届ける。

 

「|ω・`)ちらっ」

「全員っ、終わりました!」

「うーん………あぁ〜、終わった、の?」

「みんなお疲れ様、………久し振りに弾くと疲れるな」

「そんなマスターに心の癒し………チラッ」

 

そう言うとスカートをたくしあげる。………ギリギリ見えない領域まで、

 

「………続きは帰ってから」

「気持ちだけ貰っとく」

「お父様、帰りますか?」

 

………明らかに待ち疲れた感があるな、まあ、ノルンは魔力を貸す以外はやる事なかったしな、

 

「向日葵とレア、アリアは残ってくれ、あとアリスとルシア、ロザリーを連れて来てくれ」

「………私だけ帰る?マスター」

「すまんな、美味いもの作って待っててくれ、あっちが限界だ」

「ん、わかった。帰ってから可愛がってくれ…………」

「迎えに行って参ります」

 

催淫を使う前に連れていかれたな………、前もって伝えていたからすぐにノルンが二人を連れて戻ってきた。転移のポイントが遠いのでの合流には少し時間が掛かったが、

「じゃあ、やるか、麻薬組織潰し」

 

と言う訳で殲滅を開始する訳だが、その前に千里眼で麻薬の位置を特定、隔離する。大麻やアヘンは麻酔にも使える。他も同様で医薬品として使える物のみ回収し、乱用目的の合成麻薬や加工前の幻覚作用の強いキノコ等、この世界特有の魔力に作用するヤヴァイ奴を分別する。その魔力に作用する奴はこの世界でもまやくと呼ばれている。字が違うだけだけど、魔薬、

 

「ロザリー、御挨拶と行こうか?」

「分かってるよ?………来い!」

 

辺りに影が指すと暫く間をおいて轟音と砂煙を舞い上げる。vipルームや上客向けの応接間と客室、首魁に幹部からその直属は丸ごと灰燼と帰したが、末端はまだ残っている。………馬鹿デカイ蜘蛛を踏んだら靴の下から(蜘蛛の)脚がはみ出てる感じだ。大体逃げるだろうが、今回はほっとく。全滅させるより確実に刈っておかないとならない物もある。ほっといてもこの辺の治安が特別悪くなる訳でもない。元が劣悪と言ってしまえば元も子もないが、それが事実だし、一時的に荒れるだろうがそれだけだ。なら問題点は何かと言われれば作為的にその期間を伸ばされる事と首謀者を逃がす事だ。潰れた建物から呻き声やガサガサと蠢く音や無事だった者は走って逃げる者やら誰かを助けようとしている者やら、それらを無視して黒い塊(パンドーラ)に近づいて行く。

「よし、退かしてくれ」

 

ロザリーが呼び出したパンドーラを戻す。それに合わせて出来た僅かな地面との隙間、そこから薄く鋭い物が一番近くにいたロザリーに向かってきたので、間に入って攻撃を逸らしてやる。まあ、予め能力は見ていたから攻撃手段は予想通り、どうやったのかは分からないが視界は確保できているらしい。大雑把に影に向けて攻撃してきた可能性も高いが、

 

名前 久道 仁

 

パーソナルスキル ペーパークラフト

 

スキル 鑑定7 索敵5 格闘術8 体術7 投擲4 体力自動回復6 自己再生8 

 

 

耐性 電撃耐性6 苦痛耐性6

 

称号 勇者

 

ペーパークラフト 内約

触れた物や自分を紙のよう変形させるが、燃えやすくなる。

 

 

………中古の研ぎ直しでは無理そうだ。見た感じは大丈夫そうだが、次は折れるだろうな、隔離に仕舞って別の刀を出す。あまり使いたくないが仕方ない。………透く水・七式の名前を無名刀に偽装して手に取る。

「作戦通りに行くぞ」


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