コールドリーディング、読心術と似たような物と捉えられがちだが、実際は違う。読心術はマインドリーディングと言われ、コールドリーディングは読心術の技術の一つで話術である。下調べ無しのぶっつけ本番でいかに自分の方に引き込めるかが勝負となる。逆に下調べ等準備をして行う物をホットリーディングと言う。といってもそれだけで成立する相手ばかりではない。もう一つが相手の思い通りになっていると錯覚させる、マルチプルアウト。複数の逃げ道という意味があるが、広域的な解釈ができ、断言はせず、yesともnoともどちらにも解釈できるように、隠したい事や意識を逸したいことはミスリードやミスディレクションの様なマジックの身振り手振りを交えたり、……………分かりやすいかどうかは厳しいところだが、クラッカーがどこの畑から来たか当てるような物か、
………分かりにくくなってるな、
結論を先に言うと読心術とハッキングは似ている所が多い。違う所があるとすればハッキングは自然と身に付くものではないという事ぐらいか、結果を引き出すのは皆同じだが、読心術は占い師、マジシャン、詐欺師に政治家やら、ハッキングはプログラマー、IT系にハッカーとデバッカー(ホワイトハッカー)等の様に畑が違えばそこに至る道筋(ハッカーはコード)が違う。求める物や求められる技能の違いだな、ハッキングなら構成言語や、システム、数学にコンピューターウィルス………まあ、こっちはあんまり詳しくないから知ってる範囲こんなもんかな、読心術は今上げた以外のテクニックもあるがどれも一つで成立するものでは無い。磨く技能が違えば伸びる技能も変わるし、個々の得手不得手もある。
………長い事、冒頭から長文を要したが、言いたい事は唯一だ。
「一つの事を極めたからと言って終わりじゃないんだ。身体能力、武器の戦闘技術、知識に、観察力………複数の要素をバランス良く養って行けばより多くの手段が取れる」
「………ですが、」
「………一点特化も悪い事じゃないが、そこまで装備で速度に傾けると壊された時に、呆気ないものだ、それと、制御できるのか?」
連れてきたエルフの中に一人、スピード狂がいて、その説得に割と手間取っていた。
「疾風の靴、雅鳥の羽飾り、風神の帯、加速の指輪に倍速の首飾り………本来の4.25倍の速度が常備出るのはやはり魅力的です」
………うん、違う。そうじゃ無い。
あんまり言いたくないけど、倍率が違う。装備と言うのは作り手によって差がある。鑑定では見えないこの増減幅を
「問題ありませんよ、ほっ………」
ゴガァ!
凄まじい音を立てて近くの倉庫の壁にあたった。普通に歩こうとしただけでこれだ。ゲームなら苦情殺到のバランスなのが、あの愚神の世界だ。ゲームのステータスに置き換えて説明すると、こんな感じか、
非戦闘職平均基礎値(人)ステラ基礎値
str 35 str 23
vit 52 vit 26
int 16 int 109
men 22 nen 46
dex 42 dex 60
agl 34 agl 141
装備抜きの値がこんな感じでここに疾風の靴agl+29、雅鳥の羽飾りagl+68、加速の指輪agl+1206と初動の減速半減、風神の帯agl+2061と追い風(前方に進む際1.3倍)に倍速の首飾りで総合aglを8.3倍、前方に進んだ場合23682、靴と羽飾りは元々彼女の物なのでそこから比較すると普段の約100倍の敏捷性(agl)をいきなり得る事になった。寧ろ制御できる方がおかしい。取り敢えず壁に付いた血を洗い流すように回復薬を多めにかけ、首飾りは回収しておく。
………んで、後ろを振り返ると、ただの風魔法で広域の木が粉微塵に弾け飛んでいる。
「これは仕事の前に座学だな」
帰宅早々の大仕事にため息をついてからエルフ達を集める。ステータスはスキルを中心に自分の能力を確認できる。鑑定ではパーソナルスキルは見られないが、他は偽装されていなければ確認出来る。そして鑑定とは別の分岐である目利き、このスキルは物の価値を見るスキルとして知られているが、人にも使える。その際スキルは表示されないが攻撃力等が数値として表示されるのだ。真理でも表示しようと思えば出来るが、あまり使わない。この説明は瀬戸原以外の生徒には全員教えてある。これから言う事もだ。
「staは攻撃力だけに影響する訳じゃない。他も同じだ。それぞれの能力をバランスよく上げないと十全には使いこなせない。」
素早く動くといっても筋力も無しには成立しない。筋力が足りなければ武器(物による)を持ち上げることも叶わない。要は攻撃力以外の要素もあると言うこと、vitは体力やスタミナにも連動しているし、それぞれの目的に合わせた伸ばし方をしないと鍛えなかった能力に足を引っ張られる事もある。ただ、鍛え方は多岐に渡るので、鍛え方次第では様々な能力向上が期待できる事もある。
「………と言ってもその前に、必ず向き不向きに向き合ってもらう他ないがな」
期待できることが分かっていても、苦手な事は成長しづらい。それはステータスの伸びしろにも言えるし、伸ばす能力が本人に合っていなければやる意味が無い。aglで例えると短距離なら問題なくても、長距離はvitで鍛えたスタミナが無ければ続かない。長く武器を振り続けるにもスタミナはいる。と言う訳で今、走りまくってもらっている。
ちなみに先頭はσ(゚∀゚ )オレ、
ピッ!ピッ!、ピッ!ピッ!………
そして、その2
型矯正を行い、正しい姿勢の素振り、これで筋トレと正確さを身につけて、strとdexを効率的に上げていく。この辺りは生徒にも教えていた分然程苦労しない。………ただ長く生きてる分、染み付いた癖の年季が違う。これの短所を補うか、癖を抜くかは、判断の難しい所だ。長い時間使ってきた分洗練されているし、長所が無い訳でもないし、
そして、その3
成果が最も得にくい、intとmen、座学と演劇、見てもやってもいいが、思考と心を動かす事が大事なので効果にも個々の差が大きい。
「………でもって、これで一応一通りやった訳だが、ここから測定」
ハンドホール投げとか、50メートル走とか、学校の体力測定をやってもらった。来てもらった時、一番初めにやったのが体力測定だ。………まあ、ついさっきやったばかりとも言うが、結果を纏めると全体的なステータスが向上した事でさっきあまり出来なかった事を中心に大きく伸びた。
「さて、っと、じゃ、仕事の話に入るぞ」
水汲み容器(50リットル)を担いで走るハルトに両手に一つづつ容器(10リットル×2)を持つロイも競う様に走っている。キリエは棒の両端にロイと同じ容器の取っ手を引っ掛けて歩いて来ている。ウィルは歩きだが、貯水槽と言われたほうが納得出来る容器を担いでいる。
「………最近、自主鍛錬で運ばれる水の量が多くて使い切れない件」
「あれ、自主鍛錬なんですね?」
「よく間違えられるけど、罰じゃないからな?」
これだけ運ばれてればウォータースライダー作ってセイレーン用の移動ルートが作れそうだな。ちょっと前から図面作ってるけど、………と言っても全てを賄える訳ではないので、他の供給源もあるが、
呼んだエルフ六人は戦闘指導に一人(グラーザー)座学魔法指導に二人、生活指導(食事や世話)が三人だ。現状昼が近いので、まず、三人に仕事を説明する。………と言っても不在時は、アナスタシアかレアが中心に厨房を回すのでその手伝いが主体となる。量作るのに設備は拡充したが、シンプルに人手が足りなかったのだ。
「………一人で何台も動かす人がいるといないで大違い」
「ちょうど良かった。アナスタシア、………主にアナスタシアとレアが厨房を回している。他にも手伝いをする子達もいるけど、その辺りはレアが覚えてるから気にしなくて良い、それぞれ一箇所づつ作業台を受け持って持ってもらえると助かる」
「え〜と、そちらがアナスタシアで、………」
「私は子供じゃない。………マスターの二番目のオートマタにして、一心に寵愛を受ける存在、 むふー」
読心で心を読んで質問を先に答えると、俺の背中に隠れながらも自慢げに胸を張る。表情の方はそこはかとなく硬いが、
「今日は何を作るんだ?」
「パスタを中心にほうれん草のクリームパスタ、ボロネーゼ、アラビアータ、グラタン、リゾット、………きのこの醤油炒め、サラダと、パンと飲み物は有り合わせ、それと昨日の煮物と鯖の生姜煮………あと、豚の生姜焼き?」
「………じゃあ配分は」
『パスタ400、挽肉180、ほうれん草80、アラビアータ140、グラタン200、きのこ50、サラダ40、豚360、有り合わせは逐一調整しますか?』
今や代行者の
「………魚捌ける?」
「無理ならこっちで教える」
「レアは?」
「連れてくる」
「魚は触った事無いです………」
「切り身からなら………」
「私も………」
「じゃあこっち」
「………到着〜!あのあのー、何を………」
「具材下処理、やる」
「………はい〜」
会話は最小限の単語に抑えられ、それぞれがそれぞれの役割を全うしていく。しかし、アナスタシアは内面を読んで、レアはさり気なくエルフ三人の補助を行っていた。
「あのっ!わたっ………うぉあぁ!」
厨房と廊下の境目の段差(約2ミリ)に躓くクロエを受け止めに行く。………まあ、クロエは何も無くても躓く。
「大丈夫か、クロエ」
「………どこでも転けられる美少女」
「ぶっ………くく………」
「………私の仕事はあのウサギの始末ですか?」
「それは昼食が出来てからな」
「あのあの〜、助けて欲しいです旦那様ー」
恨みがましい目でこっちを見てくるレアをスルーして、クロエを立たせるとちゃっちゃと作業台の方に戻る。それと………
「アナスタシア、俺の心を読むのは良いが、人を傷つけるようなことは言うなよ」
「………( ̄ー ̄)bグッ!」
分かってんのか?これ?たまに使う顔文字、もとい空気中に現れるこれ、どうなってんだ?
『「精霊魔法」です』
俺の中で見事に代行者とハモったな、………無駄遣いじゃね?
「精霊は見える者にしか見えない。あっちのエルフも一人は見えてない」
ふーん、なるほどね、この感じだとクロエにも見えてないんだろうな、多分、
「さて、早くしないと昼になるぞ!」
「美味しい!楽しい!みん〜な、お楽しみのお昼ご飯だにゃー!」
「………ほら、伸びてないで食え、まだ晩飯も作るんだぞ?」
「「「はい………」」」
ま、そのうち慣れるだろ、座学魔法指導の二人は書庫(写本の保管庫)にずっと籠もってる。教える前に学んで置くのはいい事だし止めないが、飯は食わんとな、食事を終えて、献立から適当に見繕ってトレーに乗せて持っていってやる。
「一つ言っとくが、書庫で飲食はするなよ、それと食事はちゃんと取る事、隣に談話室があるからそこに置いとくぞ」
「「………」」
………返事が無い。ただの屍のようだ。
「………食事をちゃんと取らないようなら、書庫の使用を禁止するからな?」
ガバッ!
おうっ………、怖ぇよ、いきなりこの世の終わりみたいな顔してこっち見るなよ、目ぇバッキバキじゃねえか、
「しかし、区切りが………」
「ええっと………ここか、属性理論だな」
「主に魔法の属性は火、水、風、土、光、闇の6つの………」
「ああ、それか、スキルとしての割り振りはそうだが、扱いで行くと闇は分岐が多い所から、さっき言ってた属性から闇を除いた5つが基本となる属性だ。闇は扱い的にその他だな、………あとは飯食ってからにしろ」
持ってきた食事を隣の部屋に置くために部屋を出る。彼らの報酬は魔法に関する知識や情報が大半を締めている。権利として認めざる負えないが、こっちも授業をしてもらうのだから、倒れられたり健康を損なうような事はあってはならない。………たしかあの続きは闇属性の付与魔法の観点から考察するものだったはず、
足で扉を閉め、立ち去る背中を見送る驚愕の表情を貼り付け、固まった美少女と美青年が質問攻めに殺到する未来はそう遠くない。
「グラーザー、ちょっと課外授業だ、付いてくるか」
「ぜひ!」
二文字でそれだけ大声を………
「………まあいい、ハルト、ロイ、キリエ、ミネルヴァが主に見学者をまとめるけど、その上にお前を引率に据える。目的としては俺の戦いとその他のいろんな人の戦い方を見てもらう。質問は無いか?」
「無い!」
………そっかぁ、無いかぁー、
「よし!各自固まってバラバラに行動しないように!」
「………耳が痛ぇ」
「同感………」
「もう少し抑えられませんか?」
「………………」
「いや、すまん!」
教師として基本的な集団行動の整列くらいは全員出来るようにしてあるのだが、比較的、先頭に来るハルトとロイは感覚が鋭い種族、人であるキリエでも煩いのだ。かなり堪えるはずだ。ミネルヴァに至っては明らかに不満がありそうな顔をしている。
『お待たせしましたぁ!これより始まる血湧き肉躍る力と力のぶつかり合い!新たな英雄の誕生を目撃する歴史の立会人になるのはぁ!あなた達だ!』
熱の入ったアナウンス(風魔法)が響き渡る中、ハルト達の動きは早かった、そそくさと空いている見通しのいい場所に腰を下ろす。
「む?!何処か空いてないか?!」
前の方は高めに落下防止と攻撃を防ぐ石の壁がある少し高めで遠すぎない場所取れたハルト達と少し前になって見にくい場所に座ったグラーザー、前に行けばいいだろうと思うだろうが、ここは後ろから見る人達から邪魔になる為、売り子の通路を名目に荷物を置く事も禁止されている。そして売り子側にもポイッしていいと言う旨の指示がされている。
『北門から登場するのは正体不明のSランク冒険者ノースガーデン、対するはAランク破砕のマーク!』
赤いコートに袖を通すと刀を手に持ち、さっさと控室を出る。暫く進むと会場に出る。予め千里眼で場所を確認していたのでグラーザー達のいる方を見る。相手の武器はファルシオンの様な片刃の大剣、その一撃は鎧ごと断ち切る。
「………Sランクらしいが、武器を見る限り相性が悪いんじゃないか?大怪我する前に降参しといたらどうだ?」
「そうか、俺は相性いいと思うぞ?」
「そうかい、じゃ遠慮なく………」
剣を構えるマークを横目で見ながら、開始の合図を待つ。
「………おい、早く構えろよ」
「ん?いや、俺は………」
『意気揚々と構えるマーク!対してまだ心の準備が出来ていないのか!それとも降参なのか!』
アナウンスが煽ってくる。構えなんぞあるか、普段から奇襲に備える居合に構えがあるとしたら、座(正座)の状態くらいか、俺にとっては抜刀状態から始まるのは不利なんだよなぁ、不意打ちが得意な身としては、たださっさと剣を抜けと促してくるので仕方なく鞘から刀を抜く。
『両者、準備が出来たようです!これより闘技大会の開催をここに宣言します!』
形式的な初戦の挨拶だと思いたいが、ただここにマイクとか便利な物は無いし、降参とかを宣言する際は手を上げると言ったように、遠くから見て分かる事でないと意思が確認できない。要はこっからいちいち刀を抜く必要がある。鞘で隠した速度を活かした奇襲、急襲がやり難くなる。が………
「………教材や見本としてはいい機会か」
「んあ?なにいってんだ?」
「こっちの話だ、始めよう」
鞘を隔離に捨てて、両手で刀を握る。
「………まずは
「これは………何を見せられているんだ?」
「先生の技術は一挙手一投足、全てにあるけど、………その分、速くて見えなかったり、連続する動作の中に自然に隠されてたり、かなり多かったりで、傍から見て盗むのも至難の技なんだよ。予備知識ありきでだぜ?」
グラーザーの質問に視線を動かすことなくハルトが答える。ハルトは現在の種族に進化した事で超感覚と言うスキルを習得しており、他の生徒よりもよく見えている。超感覚は感覚の100倍化、その使い方によっては知覚の加速も出来るためだが、それでも分からない物は分からないのだ、そんな苦情が集まった為に今回の見学の場が用意された。しかし、ただ見学と言うのは時間が勿体無いので、設備が整っており、見学する生徒達の安全、稼げる額、諸々を考慮してここに来た。
「ここの闘技場は時の揺り籠と言われる魔道具が使われている。内から外の攻撃を通さないのを始めに、外から戦闘が速すぎて見えないという苦情に対応した魔道具だ。それと重症、生命維持に支障のある怪我を負った場合はそれ等の攻撃を受ける前に戻すそうです」
「………まあ、街の実力者が興行で再起不能は洒落にならないからその位はするわよね」
「………神の御技」
「剣を躱していると言うより、剣が避けている?」
口々に感想が飛び出しているが、それは会話と言うよりも、それぞれが思考をまとめる為に口に出して情報を整理しているようにも見える。
「対戦者の速度が遅くなる瞬間は、攻撃を打つ前と攻撃が先生に近づいた時、それと先生が攻撃する時は止まって見える………」
速すぎて見えない。その苦情のもと、様々な工夫と改修がなされたのだが、対戦者の速度差が激しい場合、速い方は普通に見えるが、もう片方がスローモーションのように見えてしまう。その性質を逆手に取り、素早く動いている瞬間を割り出したロイ、
「攻撃される前に相手の横を通り過ぎる様、
予測して体や足を動かしている。そして………」
「通り過ぎる際に刃を当てたり、攻撃を捌いて斬り返したり、鍔迫り合いになりそうになった時は体を逃して斬り、刀を滑り込ませて刺したり………」
「あっ、すご、攻撃を躱しながら斬りつけてる」
「しかも連続」
「うむ、相手も対応している様だが、ついていくのが精一杯で掠りもしていないな!」
「………脇を通り抜けた後に振ってるけどな」
「あれだけスムーズに次の攻撃の姿勢に入るにはどれだけの………」
「終わったみたい」
倒れ込む対戦者は光に包まれ、入ってきた門の前に移動している。
『決まったぁぁぁー!紙一重で優雅に躱しながら、文字通り一撃も受ける事なく完全勝利をおさめたぁ!』
「「「おおおおーー!」」」
割れんばかりの歓声が上がる中、ぼそっと闘技場の中心で呟く。
「いや、当たったら死ぬだろ、真っ二つ」
「意外と元気そうだな。寝転がってるから、そこまで完璧に戻らないのかと思ったぞ?」
「…………精神面はボロボロだよ。というか、わからないのにあれだけ斬りまくってくれたのかよっ!」
「指とか耳とか落としてないだろう?もし戻らなかったら、その時でて訳にはいかないだろ」
対戦者のマークの様子からどういう効果なのか確かめに来たんだが、大丈夫そうだ。次軽く削いでみるか、うちの訓練施設にでも付けるか、割と刻印簡単だし、
「………最悪死んだとしても戻るよ、ただ記憶やら戦った事は事実として残るから、滅多斬りにされれば斬られたところが痛い気がするし、手足に力が入りにくく感じがするし」
「大丈夫、気のせいだ」
「労る心はねぇのか?!テメエは!」
確か身体の時間のみを戻してるらしいが、なる程、装備は戻らないからその辺りは刻印の一部と定義される様にして…………代行者、その辺改造頼むわ、
《了解しました》
「じゃ次があるから行くわ」
西洋風の薙刀………確かグレイブだったか?はぁ、また長物か、戦闘スタイルを変えづらいな、さっきのソードマスターは対長物、初動の遅い重め長めの武器に真正面から挑む事に特化した戦闘思考だ。突き主体なら………まあ、対槍の虚実と遠心力で攻撃力を上乗せするアレがいいか、
「
回転しながら斬りかかるその動きは流麗、刀の煌めく様は淀みなく流れる川のようだ。
「あんな戦い方が………」
攻撃を誘い、回転しながら逃れ、その勢いで斬る。時に回転の最中に刀を左手に持ち変えて斬りつけたりと、防御を掻い潜る連続攻撃を受け、否応なく慎重になり、相手の手数も目に見えて減った。最後の一撃は受け止めたかのように見えたが、その刃はすり抜けて相手を斬った。
「あれは?」
「多分影抜き、だと思う。あれは両手で剣を持たなきゃできないからあんまり見たことないけど、フェイントみたいなもの、って言ってたけどあの速度じゃすり抜けてるように見えるし」
「ゆっくりになってもそう見える訳だし、うん」
「「「………………」」」
黙っている全員の共通認識は自分があれをされた時どうするかについて考えるが、結局結論は出ない。主要に会話に参加する者は今考えても無駄だと悟っているものだけだ。
「縮地走法は怖いですよね」
「分かる。発見イコール即アウト………」
「速いのもあるが、何より静かなのも………」
「実際にされて対処できるかどうかで言えば初見は確実に無理だな!」
闘技場の中心に一人残された彼は、というと、
「………はぁ、動き回ると疲れるな、初見対処出来ないならどんな相手の動きにも対応出来るようになるか、初見殺しの手管を複数知って置くことだ。たとえ違っていても予測や勘を組み立てる材料になるしな、結局煮詰めたら行き着く所はどんな武道でも一緒だ。効率化が進んでいる物ほど顕著にその傾向がある」
こう言うのはゲームに当てはめた方が説明しやすいか、
プレイーヤーとプレイーヤー同士のキャラはポテンシャルが同じでも、エネミーは同じじゃない。ボスは総じて体力が多い。難易度によっては一撃死もある。ソシャゲなのかコンシューマなのかによっても違う所だが、無難な作りの体力お化け、プログラマーからの挑戦状的な物、状態異常を撒き散らす特殊スキル持ちや強化効果を付けた瞬間剥がしに来る物や特殊演出で体力が1で止まって猛反撃して来る物等、まあ、情報を集めながら戦うだけだ。しかしこの世界でゲームを知っている人間はいない。と言うかゲーム自体がpcについてるブロック崩しやスパイダーとかしかないのだ。他は発見出来ていない。
「………………さて、どう説明したものか」
次の相手は短剣使い、二刀流で魔法も使い、素早い動きで撹乱しながら戦う。はっきり言って一番俺が得意な相手とも言えるだろう。いろいろ見せるには最適だ、………っと思っていたのだが、
「棄権します………」
……………これである。
そんでもって決勝戦、ドワーフだ。近接は大槌、土と火の魔法を得意とする種族だ。これまでの試合は相手を防具、または盾諸とも一撃で叩きのめしている。魔法は主に相手の退路を塞ぐ為に使っている。そろそろスキル使うかな?
「フン、今までの試合を見ていたが、ちょろちょろ動き回って斬りつけるだけで勝てる相手ばかりで良かったな」
「理解して煽ってきている、と期待していますが、私に当たったとしても倒せませんので、土魔法で直接狙う事をおすすめします」
「なら、遠慮はいらんなぁ!」
轟音と共に砂煙と衝撃が迫る。さっきまで居た場所には鉄の塊が深々と撃ち込まれている。結構速かったな、
「………結局避けるのか」
「避けられるので避けただけですが?」
返事の代わりに火魔法が飛んでくる。第三位階の焼夷、燃焼に優れる方だな、普通はこれで退路を塞げるが、俺には炎熱無効があるので、適当に避ける。何だったらたまに突っ込む。
「言い忘れてましたが、火は効きません」
返事は無かったが、背後と側面から地面が隆起し、こちらの動きを封じてくる。なので前に出て斬る。
「ぐぅ………」
脇を抜けて、もう一度追撃、がこれは壁を作られ阻止される。………壁ごと振り抜いて来るか、攻撃が来る左に姿勢を低くしながら背後に回る。がこれは回転して来るな、攻撃は出来るが、攻撃後の追撃を避けられない。刀を上に放り投げて、掌底で姿勢を崩し、半歩後ろに引く。
ブンッ!
止まれず、苦し紛れに振り抜いたが、目の前で空を斬るだけ、落ちて来た刀を逆手で持ち浅く速い追撃で押し切りにかかる。
「………アースバレット!」
複数の礫が飛んでくる。気になっていたこともあるので受ける。
「………痛いな、これは」
考え事に気を回していたのが悪かったか、地面が陥没して身動きが取れなくなった所に大槌を振り下ろしてきた。
ドガッ、
必殺の一撃、されど振り下ろした本人は手応えの無さに言い表せぬ不安を覚えた。何故なら地面に到達するにはまだ遠く、対戦者の身長より少し下まで行ったかどうか、そして敵を打った時にする音は金属のぶつかる音か、敵を砕く音か、その音は奇しくも最初に避けられた一撃で打った地面の音と同じだ。
「上手く行った、か」
大槌の下から声がする。避けている可能性は無い訳で、確認のためだろう。素早く武器を戻すと、こっちも重さから開放される。身体の方は………異常なし、だな、
「お前………い、一体どうゆうステータスしてるんだ!」
「
偽装後も前もこんな感じ、なのだがMENとDEXは測定不能、でもって冒涜でこのステータスもある程度操作できる。ただスキルの様にしっかり留まらない為か、1時間経つと元に戻る。最も動かせるのは総合1000くらい。勿論持ってきた方は増えるが持っていかれた方は減る。まあ測定不能の二項目から持ってくることが多いと思うが、
そしてさっきのはちょっと裏技、ステータス項目の数字を操作するのは1000程度になると言ったが、そもそも冒涜は書き換えや振り分けが主な能力、なのでゴッソリ根幹からVITとMENを交換する様に書き換えたのだ。………ただこっちは本当にすぐ戻る。1分程度、その上途中で解除とかも出来ないので、よく考えてから使う必要がある。それともう一つ問題点があり、DEXは動かせない。………いや、変えられないわけではないよ、ただ、大きな力は制御が大変なのだ、VITに防御目的でやるなら問題無いが、AGLと入れ替えたなら、今朝の壁衝突事故の二の舞いになる。DEXは生産職に必至なのだが、それ以外にも制御や調整にも関わってくる。VIT以外は結構気を使う訳だ、
「さて………そろそろ戻るかな」
《残り16秒です》
「………じゃあ終わらせようか
ドワーフは手先が器用で力が強い、が身長は低く、見た目小さいムキムキのオッサン、ハイドワーフの彼は身長は2メートルあり、多少老け気味くらい、そして筋骨隆々といった感じで身体的には俺に軍配が上がることはない。ただ日本の武術の多くは体格に恵まれない者が体格の大きな相手を制すると言う物が結構多い。柔よく剛を制す、なんて言葉もある。このスタイルは相手の力の大きさこそが威力を決める。そしてこのスタイルには破壊力と言うものが無いが、最も劇的な変化のあるスタイルだ。
スパァーン!
「あの………、先生最後のあれは?」
ミネルヴァか、…………殺傷力は無いけど、バリバリ死に至らしめる技だから教えてなかったな、しかし確実性も無いし……………あ、
「もしかしたら向いてるかもしれないな」
「本当ですか?!」
「ああ、………理論上は、だけどな、実際にやってみないと分からないから帰ったら教えるよ」
完成形になれば俺より上手くなるだろうな、多分、
「あれ、俺にもできる?先生」
「………すまん、やってみないと分からんが、ハルトは難しいと思う」
「うーん、………じゃあ、どんな相手に有効かだけ聞いていいかな?」
「基本は万人に効く、ボディビルダーや一部の修行者には効きにくいだろうな、痛みにどれだけ強いか、攻撃対象箇所をどれだけ鍛えているか、だな」
まあ、鍛え方は本当に効果あるのか微妙な奴だし、結構毎日やらないと駄目な面倒なものだ、
結局、武道は色々ある。編み出された背景、辿った歴史、コンセプト、そして目標………挙げだせばきりがないが、戦場にそれを置けば幾分か分かりやすくなる。武器を使って効率的に倒す方法、武器を失くした時の方法、己の肉体を武器にする方法、大まかに分けるとこんな物かな、武器を使う方法は剣道や槍術、弓道、武器に関する物がここに入る。武器を失くした時の場合は、杖術や柔道、と言ったものが入る。己の肉体を武器にする方法は空手やムエタイ、中国拳法が、これに入る。
………まあ、中国拳法は多いため、分類不能とも言えるが、ちなみに居合は武器を使うと武器を失くした時の間に位置すると思う。
前置きが長くなったが、己の肉体を武器にする方法と言うのが、拳や握力等を鍛え上げるのだ、鍛えた人の手はかなりゴツくなる。ただこれが俺とっては大問題で、工作精度や動作性というのが下がるのだ、その為、拳は鍛えていない。否、鍛えられないのだ。なので、その辺りは鍛錬は完全に素人。ただ知識としてはある程度網羅しているので、向き不向きはどれでもだいたい判断が付く。
「………獣人の身体の構造って種類で違いがありすぎるんだよなぁ」
興味深くもあるが頭を悩ませる要素でもある。可能性は無限に広がっている。
課金してたデータを引き継ぎ損なった_| ̄|○