この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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年明け前に何とか出せた。


吊るされた男(修練者)の目指す境地

あ〜、揺れる揺れる。上下に揺れる。

 

ガン、ガタン!………ゴトッ!

 

「のぉ、坊主、ほんまにこの道でないとあかんのかぁ?!」

『注意しないと舌噛みますよ?!』

『この道で合ってる。オーバー』

「べっ!べん………っり!なスキルでっ、すねぇ!」

念話というスキルを習得できたのは久米さんのお陰だ。ローンのスキルで念話を習得して貰い、それを俺が冒涜で貰って存在値を変換して返却、そして指導で俺が教える形を取り、前借り分の経験を積んでもらったのだ。ちなみに久米さんは別の車を運転してもらっている。こっちは芦原さん、車はエドガーの紹介(この前のパーティーのお礼)で買わせてもらった。

『………ここまで揺れると作業できないな』

「あんたまだ人形作るつもりなんかい?!」

 

やべ、漏れてた。

 

『念話って結構難しいですよね。特に特定の一人に伝えるとなると……………ですよね。』

念話には結構欠点がある。まず距離。車間距離が少し空いただけで届かなくなった。これはスキルを鍛えればなんとかなるが、交互に伝達しないと、強い思念の方が弱い思念を掻き消してしまう。そして消されたかどうかは相手の反応からしかわからない。練習中いきなり無言になったりすることが多々あった。これはまあ、俺が掻き消してたんだが、不便な点ばかりではない。例えばー

『ロイ、あっちのメンツともやり取りするか?ハルト、久米さんの背中に手を置いてくれ、ロイは俺の背中に』

『おっちゃん、ごめんよっと、これでどう………』

『そうすれば思った事が伝わる』

『………ハルト、聴こえてますか?』

『おお!すげぇ!』

触れている相手の思念を飛ばす事で会話する事もできる。………まあ、大したことでは無いがこういうことの説明とかないんだよね。ついでに言うとなぜ道がガタガタなのかは今走ってるのが木の上だからだ。

『舌噛むと大変だからこれでやりとりをしよう』

芦原さんは運転中なので俺が肩に手を置く形を取る。

『これで聞こえるようになったんか?』

『はい、大丈夫です』

『ほぉ〜、便利なもんやのぅ』

『道についてなんですけど、決められた道以外だと自然の罠が多いのと、他は獣道ぐらいしか無いので車は通れないんです。』

『決められた道ってなんや?』

『自然の罠、だろ?オーバー』

『はい』

『どういうこっちゃ?』

『運転中なんでアレですけど………』

 

ケタケタケタッ‼

シャンシャンシャン………

 

「おい………なんやあれ?」

『喋ると危ないですよ。さっきの笑ってたのはシザーズマンティス、密林の首狩り族とも呼ばれていますね。さっき飛んでったのはブーメランフルーツの種ですね。刺さった動植物から養分や水分を吸い取ってまた実をつけます。………』

 

ボンッ!ガッ!

 

「お、おい!なんかようわからんもん轢いたど!」

『………キメラプランターですね。動く者に取り付いて養分を吸い上げる植物で寄生する対象を決めるとそこに根をはる特徴があります。まあ、宿主がそれでも動ける場合はそのままですけど、それと魔物では無いです。間違えられがちですが、オーバー』

『そうなのか?』

『魔石がありませんからね』

『このタイプ苦手ですね』

ハルトの後にウィルとキリエからの意見もあったが、ただの動物と魔物の違いこれぐらいだ。見つかってないだけで持ってる奴もいるが、ただこの違いは結構めんどい。ギルドってのは色々あるが、魔物の討伐、駆除は冒険者ギルドが担当しているが、動物、害獣は傭兵ギルドの管轄だ。昔はこうじゃなかったようだが、滅多やたらに組織が出来た為に役所並にたらい回しにされる。街によってはアバウトなのだが、厳しい所は刑罰があったり、組織同士が対立していると仕事の取り合いや妨害にあったりと、ホント面倒くさい。

 

バンッ!

 

「おい!屋根は不味いやろう!」

『あ〜………すいません。それはクロシェットですね。オーバー』

そういえばクロシェットに役割を言っていなかった。今日は瀬戸原担当じゃないし、特に振る役割も無い。好きにしてて良いと言えば必ず付いてくるが、………というより役割を振られていないのを大義名分に付いてきている気がするが、

「みゃ〜、みゃ〜、今日は何するにゃー」

『あのあの〜こっち開けますよー』

後ろに座っていたレアが車の扉(走行中)を開ける。一瞬空いた僅かなスペースに空中で体を捻りレアやロイを躱しながらクロシェットは車内に入る。

「あれクロシェットさんは?」

「むふぅ〜………」

 

まあ、見えないだろうな。俺は分かるが、

 

『………クロシェット、何故に俺の膝の上にいる?オーバー』

「座る所が無かったからにゃー♪」

しかも前向きに抱きつく様に座っている。向き合う形になる上に密着している。気付かない訳ないだろ。ワゴン車の様に天井が高くなかったら、シートに膝立ちは出来ないしな。そしてこれが俺の移動中の最後の記憶となる。

 

「………………死ぬかと思ったぞ」

「それはこっちもやな。まぁ、意味ちゃうけどな、そっちの方が幸せそうやし」

「そうでもないですよ。一瞬で視界を塞がれかなりの質量を持つ物を顔に押し当てられて窒息するのは」

丁度息を吐いた直後だったのも相まって窒息した。胸で、

「にゃぅ………、ごめんなさいにゃ」

「あのあの〜、勝手に付いてきて何やってるんですかー?このバカ猫は〜?」

「加減を知らないんですよ。私も散々引っ張り回されましたよ。」

「反省………しなさい。」

「姫も、やりたかったな〜」

「………………」

語気は変わらないが言葉の節々に棘があるレアから、転移先を設置する際に連れ回されたノルン、ジト目のアナスタシア、あとそういう話じゃないと思う朝日、一番怖い笑顔のクロエ(無言の圧すげぇ)の順に文句を言われる。

「まあ、そろそろ行こう。まず、宿を取って車を預ける。空いてるのは………ここから30分の所だな、暫く道なり」

 

『コスパと距離を総合し、再検索………空室がある宿では現在候補の宿が最適でしょう』

 

代行者さん、久し振り。解析とか計算終わった?

 

『大半は終わりました。』

 

「………ちょっと用が出来た。レアだけ来い」

「はいー、なんでしょう〜?」

 

ガチャ

 

「んじゃ」

「ちょ、待てぇやあ!」

レアを隔離して歩道に着地、レアを隔離から出して、横道に入る。勿論扉は結界で締めました。

「あのあの〜、私は何をすればいいのでしょうかー?」

「それに入る前に、そこで土産を買っておこう。」

そこというのは『本格スパイス』とか『フライドポテト』と書かれたのぼりが目立つ店だ。

「すいません。スパイシィーポテトを20個下さい」

「毎度!お代はそこに」

カウンターの上に銀貨三枚を置き、店員がレジ袋に………

「その袋は?」

「ああ、これはコンビニ袋と言うもので何年か前に召喚された勇者が技術を残したものだよ」

 

今回の問題はコレだ。自然に分解されないゴミ、エルフの街はあまり貿易は盛んでは無い。が、森の中には複数の街があり、その間での物のやり取りが盛んだ。………昔は隠れて暮らしてたそうだが、街は何処ぞの電気街(自然に囲まれてるけどな)屋上のでかい木は周囲の木々に同化させられ街を隠しているが、夜は電飾で場所がモロバレなのだ。

「そんなに頼んでどうするんですか〜?」

女に荷物をもたせるの〜?みたいな目をしているが、隔離で芦原さんの方に飛ばす土産なのだ。いつくかはこっちで食べるが、………うん、美味い。味付けは塩と香辛料とシンプルだが、粒の大きさ単位で拘るだけの事はある。特に香辛料は細かく挽かれているため香りも飛びやすい。ホールスパイスの状態から一日三度も挽く徹底したクオリティ維持。ピリッと辛いが、次に手が出るあと引く旨さだ。

「おお〜、これはいいですねー」

エルフは長命だからな、経験を積んできた時間が違う。千里眼でここを見てるといろいろ勉強になる。それ故、この問題は取り分け深刻とも言えるだろう。

「………もうないな」

「食べますか〜」

「ん?ああ、悪いな」

 

レアの方に手を伸ばすと引っ込められた。解せぬ、

 

「っんふぅー」

 

口に揚げた芋を咥え、目を閉じてこちらに近づいてきた。

「んふぅ〜」

「…………………何してるんだ?」

 

一分ぐらい言葉を交わすことなく、白けた目を向け続けると、流石に諦めた。

「もおー、乗り悪いですよ〜?折角、キスするチャンスだったのにー、そんなんだと〜フラグ折れちゃいますよぉー?」

「…………………そういう事油物でするか?」

「え〜、そういこといいますかー、キスした後〜、グロスの様な照りも付けられるしー、………唇舐めても自然じゃないですか〜」

「…………………」

「なんですかー、その冷たい目〜」

「…………………」

「あのあの〜、私がもっと色々使う為にー………私の初めてを旦那様が貰ってくれませんか〜?」

レアは他のオートマタとはかなり違う。簡単に言うと代行者によって合理性を追求された構造は既存の物とは大きく異なる。個々に違いはあるものの、そんな中で最も既存のオートマタに近いのがレアだ。

「…………………分かったよ」

「よっしゃあ〜!ポテト無しでいいですね?ほっぺとかおでこは無しですよぉー!」

 

捲し立てるように早口になったな。普段のゆったり口調はどこいった。

 

「おい………」

「………ちょっと、屈んでくれませんか。旦那様?」

 

………………この野郎、きっちり逃げ道塞ぎやがった。目開けてるし、もし違う所にしようとしたら唇に補正する気だ。

「何ですか〜?その引き攣った顔、………ここにお願いしま〜すっ!」

 

普段よりコロコロと表情が変わる。正直可愛い。覗き込む様にしゃがんだ瞬間だった。

 

ガバッ!

 

抱き着く様にと言った甘い物ではなく、それこそ格闘技の絞め技の様に正面から首にぶら下がるように掴まり………

 

ちゅっ、べろ、れろっ、あふっ……………

 

おいっ!ぐおぉぉ……離せぇぇ!声が出たなら言えただろうが、言えたなら多分離れてくる。プラトニックなキスで良かったろうが!流石に首にガッチリ掴まられた状態で逃れるのは無理だ。………………というか長いな!

 

ちゅぱっ!

 

「ふはぁ〜!我、至福の境地に至るー。」

「……………おい、言いたい事はそれだけか?」

「………ええ〜〜、嫌ですねぇー、キスはキスじゃないですか〜」

なんて言いながら口元を手で隠し、ニヤニヤしている。

「街中でするか?ディープな方を」

「………もしかしてー、マジおこですか〜、キスした女の子に拳が炸裂する系ですかぁー?………流石にないですよねぇ〜?」

「さて、覚悟はいいか?」

助走を付けるため距離を取る。後は一気に詰める。

「うぇっ!待ってください!」

普段より圧力を掛けたお陰で狙い通り目を閉じたな。目前で静かに止まり、前髪を持ち上げてレアのおでこに優しくキスをする。

「ふぁ〜………」

「どうだ、俺からの気持ちは?」

「………完璧な不意打ちですね〜、ドキドキの意味が変わりましたー。えへへ〜」

「そうだな、俺は不意打ちするのは好きだが、不意打ちされるのは嫌いだ。」

油の切れたロボットみたいにぎこちない動きで首だけが正面から逸らされていく。当然逃さん、

「………やるんですか。この流れでやるんですかぁー?」

「やる(怒)」

 

にっこり微笑んで見せる。

 

「ま、街中ですよ〜………」

「今まで気にした事あったか?」

「………そうでしたねー」

「呼吸は力の増幅と調整、歩法は効率と運用、そして積み重ねて来た経験と知識が技になる。そして………これはクリリンの分のだ!」

 

このアッパーも大分打ってきたからな。顎を芯捉えた。高く打ち上げられたレアは僅かな空の旅を終えると物理法則に従い、地面に落下した。

「がは………それは、フリーザ様にお願いします」

 

………何ていうかお前の芸人魂は、凄いな。宙に舞ったポテトを入れ物に受ける。あまりに遠い物は隔離する。細かいスパイスについてはご愛嬌だ。レアに近寄るとすくっ、と何事も無かったかのように立ち上がった。

「それでは行動を実行に移しましょうー」

いつもの抑揚の無い声にコミカルな動きを添えてそう言った。

 

 

「ただい………って、何してんだ?」

帰ってきたらクロシェットが蓑虫の様に吊るされていた。

「フライドポテト強奪事件………絶許」

「先読みされた………orz」

「もう〜、姫怒っちゃうんだから!」

「許したれや、………それより目がまだ慣れんのやけど」

「?目がどう………」

「ヒール」

「「「「「……………」」」」」

「…………………………セーフ」

 

どこが?!強力なフラッシュ使ったな?!オートマタであれば目は魔石なので焼けないが、魔力を認識の要にしている為、魔力を飽和させ、尚かつ効果の広い魔法を放たれると、周りの情報が分からなくなる。まあ、そこら編は対策とってあるので、個体差はあるが完全に見えなくなると言う事はないな。………最も魔力を飽和させた魔法は制御が難しいのだが、多少暴走させても効果はある。

「あのっ、ええっと、マスター、私達はここで何をすれば?」

今回の問題は一つじゃない。この役割は作戦の要だ。

「明日、陽動をやってもらいたい。みんなでな?」

 

隔離から取り出した服をそれぞれの前に出す。そして手元にメイクセットとタトゥーシールやキズシールにエクステを出す。

「あの………先生、それは?」

向き直ってニヤリと笑って、………周りから言われる感じだと嗤うか?俺そんなにあくどい顔してるか?

「君たちには俺が指定した場所でコスプレをしてもらう!」

 

………………意外とデカい声が出たな、

 

 

俺の持つ方法論に座右の銘と言うものがあるなら、勝つべき時のみ勝つだな、負けも引き分けも必要な勝利の準備、ダメージコントロールは常識だ。無駄な争いはせず、ただ息を潜め、必勝の機会を待つ。………要するに絡んでくる連中を畳むのは簡単だが、それが元でこちらに損害または支障が出るなら落とし所を探す。しかし、損害等の割合が看過できるものでない場合は可及的速やかに畳むだけだ。宙に舞ったヤンキー風エルフ(もちろん峰打ち)がドサドサと通り過ぎた路地に落ちていく。路地を出る前にばばきを鯉口にあわせて、腰に差し直す。

 

カチッ……

 

人混みの中から放たれた突きを腰から鞘ごと引き抜いた刀の鍔と柄を使い、軌道逸して投げ技の要領で背中の方に誘い込み、貼山靠で壁に挟む。

「ぐはぁ………」

 

危ねえー、咄嗟に対処しちまったが、こいつは何だ?腕が立ち過ぎる。それに全力じゃないから実力の全体がわからない。何というか試す様な感じだな。今の突きは、刀を腰に差し直してっと………

「待てぇ………」

 

………足を掴まないで欲しい。さっきの手応えだと気絶しなくても暫くは動けなくなる筈だ。

 

「まさか体術でやられるとは………この私が、ははは………」

「あの急いでるんで、手短に5秒で」

「お供す………」

「結構です」

「何卒!私を………」

 

長そうだな、見た目路地に転がってるのと年は変わらなさそうだが、エルフの歳なんて見た目でわからんし、それにさっきの一撃は数年単位で身につけられるものでは無い。

 

「………要件は私達が取っている宿で聞きます。すぐに戻りますので、では」

足を振りほどき、人ごみに溶け込むように撒く。コツは自然体である事だ。急がず焦らずまず視覚で撒いて、次に痕跡。………うしっ、作業に入りますか〜、千里眼で警備の動きを確認しながら、潜入していく。

「所定のポイントに到着、っと」

後は諸々設置して………砲弾よ〜し、角度よ〜し、未来視よ〜し、

 

ポンッ!

 

間抜けな音共に空高く打ち上げられた砲弾は垂直に目標地点に落下。カプサイシン豊富な赤い煙を巻き上げる。あとは諸々の仕掛けを崩さないようにしながら、簡易の迫撃砲を片付ける。

「居たぞ!追え!」

よし。目標達成。撤退。さっさと走って撒いたら脱出前に変えていた髪色を冒涜で戻しと顔のシールを剥がして、ゆっくり宿を目指す。

 

「………うっわぁ、大変な事になってる。」

打つ手を間違えたか、明日にでも宿変えるしかないな。宿の前に出来た人混みをスルリと抜けると、部屋に移動する。

「入るぞ」

 

コンコン、ガチャ

 

「マ、マスター!」

「お待ちしておりました。お父様」

「おかえり!お兄ちゃん」

「「おかえりなさいませ!ご主人様!」」

「旦那様〜、お風呂にしますー。ご飯にします〜。………そ・れ・と・もー、ワ〜タ〜シ〜?」

 

………みんなそのままか、婦警クロエ、和ロリノルン、ナースクロシェット、双子メイド朝日&月夜、そのままのレア(見慣れたメイド服)

「わしらも大変やったでぇ、なんせ元知らんし、気風のええ兄ぃの真似するくらいしかでけへんかったけど、二度と御免やわ」

「俺は楽しかったぞ?」

「主より………」

「はいはい、いいです。それより先生、私達はお役に立てましたか?」

「勿論、助かったよ」

ロイと久米さんは宿で待機してもらった。ロイは顔見知りを避けるためだが、久米さんはまともに戦うスキルも無いし、………見た目も中年のオジサンだ。俺の知識と技術を総動員しても正直厳しかった。久米さんの精神面からも、それと芦原さんは勿論、任侠者のキャラにした。ハルトは某ゲームの剣士(剣は飾りの大剣)、ウィルはド○クエの僧侶、………キリエはとりあえずドレス着せといた。

「どうでしたか?」

「まあ、そこは反応次第だからな………今出来るのは様子見くらいだ」

「そうですか………」

不安そうだな、まあ、ロイの立てた計画を少し俺が触っただけだしな、動き出しは不安なものだ。ただ自分で考えて行動するというのは色々必要な力だし、今後もその経験が役に立つだろう。………っと、

「ロイ、少しそっちの部屋に行っててくれ、久米さんと芦原さんも」

「おう、………それよりタバコ吸えるとこ無いか?」

実はエルフの街、いや森か?どっちでもいいが、火の取扱いは厳重に管理されている。喫煙者は犯罪者並みの扱いを受ける(目とかが厳しいだけだが、火災等を起こした者は極刑に処される)。………一応喫煙所はあるが、トイレの横とかなんか気分的に嫌な場所が多い。仕方ないので万能結界で区切って吸ってもらおう。外から色付けて遮って、中からは閉塞感の無いように見えない感じで、

「吸う時はそこでお願いしますね?」

「すいません。私も貰っていいですか?」

「なんや〜、あんたも吸えるんかい。どれがええ、ああ、番号やのうて種類言うてや、コンビニとちゃうからな」

「ああ、あれ面倒ですよね。店舗で違って」

「そうやで、種類やのうて番号で言えいうてしっつこいのが………」

 

吸わない俺には分からない会話をしながら隣の部屋に行った。煙はロイに迷惑だろうからこっそり隔離しよう。んで、そろそろかな、代行者さん?

 

《階段をあと二段登ればこの階に来ます。》

 

「あの………私達は」

「俺、そろそろ着替えたい。この服貼り付いて………」

「すまんが、もう少し後にしてくれるか?そろそろ………」

 

「頼もう!!!」

 

声がデカイ………、道場や大きな家屋敷ならともかく、ここ宿だぞ?借りてるへ〜や、わかる?

「こちらが師範のいる宿だとお聞きした!どう………」

 

「………声がデカいんだよ。さっさと入れ。」

 

「失礼した!私は!………」

「だからさっさと入れ!あと声のボリュームを抑えろ!」

「承知!」

 

………仕方ない。万能結界で遮断するか、さっきよりは遥かにマシになったがそれでも声が大きいし、

「それで?なんのようでしょう?」

 

「私を弟子にしてもらえないだろうか!」

 

閉所は響くなぁ………。耳がクワンクワンなってる。

「何故、私に師事を?」

「今まで会ってきた人物の中であれ程隔絶した実力の持ち主は他にいない!自分で言うのは恥ずかしい話なのだが、同族の中では相手になる物がいないが故に、教える立場に回るばかりでな、最近ではエルフ最強と言われている。このままでは駄目だと思い、勇者や冒険者の指南役等をやって強者を探してみたものの、冒険者は弱い者が多く、強い者はあまり指南の方には来ないし、勇者はステータス任せに武器を降るばかりで力が強かったり、素早い、人形の魔物と戦っているようなものだった。」

 

勇者の評価酷いな。………まあ、言わんとすることがわかるんだよなー、これが、

 

「どうするか、悩みながら日々を過ごしていた折、鮮やかな美技が目に入った!」

「うん、だからと言っていきなり人に突きを放つな」

「それも軽くいなしてしまったではないか」

愉快そうに笑っているが、やられる身としてはたまったものじゃない。やった当の本人が心底愉快そうに笑っているのを見ると腹立つわ。

 

パチン、

 

指を鳴らすことに意味は無い。ただ俺のスキルを誤魔化すには何かしたほうが良い。ハルトの服を隔離でいつもの服に取り替えた。

「まあ、…………あなたの名前は?」

 

「グラーザーです!よろしくお願いします!」

 

「……………ハルト、兄弟子として相手してやってくれるか?加減はいらない。お前の訓練相手にも不足は無いはずだ。」

互いに三つずつ回復薬(レア作)入りの瓶を渡しておく。それと、最初の師事と意趣返し、

「グラーザーの実力はだいたい分かってる。もっと強くなるには素振りが大事そうだしな。」

 

ハルトの戦い方を一言で表すなら獣人の強みを前面に出した正面突破だ。優れた知覚に身体能力、野生の勘とでも言うべき咄嗟の判断力、真正面からの戦いなら負け無しと言えるだろう。グラーザーの戦い方も質実剛健、振り翳される一撃は速く、重い、ハルトの攻撃を堅実に受け止めたり、回避したりしている。ハルトが使っているアクセルブレードBB、これを全身全霊全力で振ったなら、それこそ大剣と言える剣でなければほぼほぼ折れてしまう。ただ爆発を使って高速で軌道を変えたり、移動するハルトに対応するには大き過ぎる剣ではいずれ追い付かなくなる。その為一撃、一撃を武器に合わせた方法で捌く必要がある。

「バーストスラッシュ2!」

「剛毅の構え!」

 

戦技の応酬………かと思ったが、なんだあれ?あのまま受けたら折れる筈の剣が受け止めた。代行者、今の何だ?

 

《恐らく防御の戦技なのでは無いでしょうか?》

 

………いや、あの、構えてるだけだよ?なにを反復練習するの?しかし、出来ているのは事実………手持ちの情報で判断出来るかは、定かでは無いがまとめてみよう。

 

1、反復練習(同じ動作しか取れない。剣が同じ軌道を取る)

2、技の名を言う。思い浮かべる必要がある(ワードの紐づけ)

3、一定以上の職業につくと戦技を作れる。(俺の刀神とか)

4、……………

 

 

代行者ー!前見た奴、………ええっと、槍術戦技大全、の目次!

 

《表示します》

 

項目3投槍、241、…………から246、

 

《こちらです》

 

……………う〜ん、無いな。ちょっと違うな、欲しい情報と、

 

「実際にやった方がいいか………落椿」

 

ガチャ、

 

地面に落ちた刀を確認して今ある情報から仮説を立て、理論を構築していく。

 

1、戦技は魔法である。

 

2、特定の職業をステータスに追加する必要がある。

 

 

何属性の魔法か、恐らく空間魔法の下位にあたる移動魔法と呼ばれるものだと思う。移動魔法はその名の通り移動する魔法。ただ位階が低くスキルに記載されず、空間魔法のように一瞬で移動しない。移動する速度が肝で速すぎると身体に大きな負荷が掛かる。

物理魔法との違いは人には使えず、物にしかかけられない。ただ剛毅の構えは空間魔法寄りだ。しかし水魔法のウォーターから氷を作り出せるように決まった法則の中なら自由だ。法則に逆らえば逆らうほど消費魔力は増えるが、グラーザーの魔力は普通の戦技と同程度、なら移動の逆、停止、座標固定………

ちなみに何故魔法だと思ったのかといえば、戦技を使った後の刀が勢いそのまま飛んでいくのではなく、そのまま重力に従って垂直に落下したからだ。先に投槍を確認したが、射程を超えるとこれも垂直に落ちる。さて………最後に真理で確認、あってるな。

 

「退、上………下っ、昇!旋、閃、潜!」

 

うん、さて………できるかな?

 

「昇・旋・退!」

切り上げの勢いを利用して回転斬り。滞空が長いので隙が多いのだが、最後の動作、さっき作った戦技の『退』、これで後ろに飛ぶのだが、空中でも後ろに動けた。

………まあ、後ろに引っ張られる感じなので着地のバランスがイマイチだが、

「二人とも止まってるぞ?終わりか?」

「先生こそ、なにしてるだよ?」

「さっきの後ろに飛ぶのは戦技ですか!」

「それより二人共、戦った感想はどうだ?」

「全方位から攻撃が来るようにも感じた!攻撃もなかなか当たらない!この歳でここまでの戦士になるとは、先が楽しみだ!」

「攻撃が重かったな、一撃一撃、隙がありそうな所に打ち込んでは見たけど弾かれたし、防御が堅ぇ、バーストで押し切ろうとしても流されたし」

まあ、受け流しは俺もする。まともに受けると刀は折れるし、刃溢れもするだろう。

「ハルトとグラーザーの共通点は高い攻撃力を活かして押しきる所だな、真正面から実直に攻める。一言で言えば質実剛健って奴だな。俺は主に弱点を突く、まず観察や様子見から入り、機を見て仕留める。無ければ綻びを作っていく。一言で言えば積水成淵………かな?さて………お互いの戦い方は分かっただろうし、二人で連携して来なさい。」

「宜しくお願いします!」

「えぇ………」

案の定乗り気なグラーザー、対象的に予想通り嫌そうなハルト、まあ、基礎の連携は使えるだろうが密な連携は使えない。この二人が連携するならシンプルな足し算でも問題無い。ただ、それは相手次第だ。

 

連携とは計算だ。基礎を足し算、防衛や護衛は引き算、割り算、個々の能力を活かした連携を掛け算、攻撃、防御、奇襲に遠距離攻撃、時間差攻撃、その他諸々、今日に至るまで築き上げられてきた技や技術、戦術と言うものには定石と言うものがある。それは攻める側にも守る側にもあるものであり、必勝法などというものは無い。

 

ガギィ!……シャリン!

 

少しの間だけ、受け止めたグラーザーの剣を受け流して、すれ違いざまに足を引っ掛ける。すると背後から全速力で突っ込んできたハルトに当たる。………寸前で身を捻ってグラーザーを躱した。そこにすかさず突きを放つと剣の爆風で距離を取った。

「おっ、躱したな」

「あっぶねぇ………」

遮蔽物(グラーザー)越しの一撃を躱したか、何度も打ち合ってるからその経験で予測したか、或いは直感か、死角から攻撃に対処するのは難しい。………あんまり直感に優れる方じゃないんだよな、俺は、

「やっぱりこうなった………先生、どうしたら終われるんだ?」

「服なり髪の毛を掠めたり、有効的な攻撃でなくても触るか、武器を当てるか、もう一個はシークレットな」

まあ、服や髪の毛を武器が掠める事はよくある。最近はこれを特訓のクリア条件にしている。たまに変えてはいるが、基本はさっきの条件、円の中(直径2メートルぐらい)から出させるとかはあまり訓練にならなくなってきている。もっともそれはハルト、ロイ、キリエ、ウィルの四人で連携した場合だが、

 

 

 

爆炎を巻き上げながら振りかざされる剣を受け流し、そこから爆発の加速ありと無しで緩急をつけながら連続攻撃を放つハルト。時に遠心力を使った重い一撃を混ぜ、角度を変えたり、急旋回して背後から攻撃したり、思い付く限りの全力の攻撃打ち込んで行く。剣を打ち合わせる音と爆音だけが響く。グラーザーは考えた。剣に関してはエルフでは最強と言われていても、今は攻撃する機会を伺うばかりか、踏み出せずにいた。

『隙………隙などあるのか?』

あれだけの猛攻を受けて尚、間合いを維持し、ほぼその場から動く事なく対処している。死角から来る攻撃であっても、見ることなく的確な対処を行っている。自分でも経験則である程度なら捌けるだろう。ただあの領域(レベル)の剣士をその場に留まり反撃、牽制を行うことなく、余裕を持った防御を維持できる自身は無い。恐らく同じ事をやろうとすれば五手ないし、十手以内で防御が綻びる。勝利条件を満たせる気がしない。だが、ここでなら自分を更に鍛えることができると確信を持つことができた。初心に帰って、愚直に挑む覚悟を固めながらも、何故か軽やかな気持ちで、剣をいつもより強く握った。

 

ボン!バァン!

 

『全然崩せないな、やっぱり凄いな』

四人で連携すればある程度は崩せるようになったが、全力で仕掛けても糸口も掴めない。元から四人で連携しているときも全力だったが、

『あれを使えば良いところまでは行けると思うけど………』

あれは連携に向かない。付近にいる者に被害を及ぼす、連携に参加できるのはウィルと北川のみに限られる。そしてはじめに北川に言われた『連携して来い』と言ったことから見て使うと間違いなく怒られる。ただ………

『来ないな、でもゆっくりにしたり、大振りにすると先生にやられるし』

こうしてまだ考える間があるのも、加減してもらっているからだ。粗が出たり、誘い込み以外で姿勢を崩すと指導という反撃が来る。

『………っても、本気の一撃は実力の一端として見せてもらったあれには、足元にも及ばないしな、はぁ』

それぞれに合わせた指導を行われているが、未だ基礎から抜けられていない気さえするレベルなのである。何とか距離を取って考える。

 

さて、ハルトも成長著しいな、もう一段階ギアを上げていかないとこっちが持たないな、と言ってもハルトが距離を取ったことに間髪入れずにグラーザーが突っ込んできた。今まで見た中で一番速いな。速さも去ることながら手数も多い。しかし、あまりに単調でさっきより実直で読みやすい。ハルトの攻撃は防ぐ必要があったが、これなら避けるだけで十分だな。………ハルトは驚いてるけど、

「清々しいほど実直、ただそれでは俺に防がせる事は出来ない」

「おおぉぉぉぉ!」

全体重を掛けた一振りを側面に回って躱すと

そのままグラーザーが前回りした。が、そんな事を気にせずすぐに立ち上がると、すかさず斬りかかってきた。体制が整っていない為、威力も速度も大したことはない。軽い体当たりで十分だ。

「ぐっ!」

土台もとい、足元、体幹、グラーザーの戦い方に必要な粘り強さや踏ん張りが足りない。まあ、素人から鍛える訳では無いのですこしだが、それに簡単に倒す方法なら柔道の当身や釣り手引き手、の知識があればある程度応用が効く。釣り手引き手は技に入る前の崩しと、どの技を使うかの駆け引きとかもあるが、その辺技の種類を多く知らないので、俺はストレートに崩す他無い。ただ当身に関しては問題なく使える。当て身は………まあ、崩しだ、ただ投げる掴むに繋ぐ、………のか?運用については詳しくないので、アレだが、大雑把に行くとこんなものか、

 

1

人体にはどう鍛えても鍛える事のできない部分(筋肉、骨、内蔵の配置もあるが主に鍛えられるのは筋肉のみ)があり、それが急所だ、東洋医学の「経絡秘孔」(突いても内側からは爆発しない)のツボやら、人体の構造上の弱点、痛覚の多い場所その他諸々、多くの急所を知っている方が有利だ。

 

2

当て身は技を掛けやすくするためのものだ。次に繋げるために場所と角度も重要になる。それこそ達人ならば、指先ひとつで倒せる。(爆発しません)

 

3

体重差があれば、腕力では重い方が有利だ、腕力が無いならその他で補う他無い。速さもそうだが技術、撓りをつけ、鞭のように攻撃すれば力を乗せた突きより手数も増やせるが、それは別の話になるかな?

 

4

筋肉の弛緩、筋肉が緩む際に当て身を入れる。力んでいる所を小突いても効果は少ないが、緩んでいるからこそ、相手の想定を上回る痛みやダメージが入る。意表を突けるなら突け、という所かな、

 

個人的に三年殺しに興味があったのだが、これは空手の技だったと知ったのは奇しくも三年立った頃だったと記憶している。………実態がわからんのだから仕方なかろうが、説明するのはかなり感覚的な物が多いので省略すると肝臓(レバー)を指定の角度から突く。

「三年殺しは三年後にダメージが表面化するらしい」

内蔵にじわじわ蝕み、ゆっくり悪化三年後に大ダメージな技、ホントに肝臓(レバー)なのかは実際よくわからん。近く膵臓もある、胃で無いことは確かだが、………何かは忘れたが千年殺しとか言う技もあったな、教育実習の時、尻守るの大変だった、

 

ゴウッ!

 

余計な事を考えていたら、ハルトが急速接近していた。上体を逸して回避すると過ぎ去り際に横に剣を振ってきた。ので身体を捻って攻撃が来た反対方向に逃れる。ハルトは無理な追撃のせいで着地に失敗した。腰打ったな、間髪入れずにグラーザーが飛び込んでくる。が、太刀筋は変わらず、………だだなぁ〜、ちょっとだよ、ちょっとだけど、さっきの追撃ね、服の裾に当たったんだよなぁ、ハルトの、本人はあんな感じて落下したから納得してないだろうけどさ、う〜ん………

 

「仕方ないか………グラーザー、一応俺の業を見せる」

「むっ!それは………」

「だから気絶するなよ?」

居合に置いて攻撃する際に大事な事は虚を突く事にある。初めから斬るつもりなら色々とやりようがあるわけだが、動作を何処まで隠せるか、(意思)(殺気)を何処まで隠せるか、そしてどれだけ速く鞘から出し、対象を斬れるか、鍔迫り合いや力なら両手で持つ相手が強い。だが攻撃可能な角度の数、速さや攻撃の柔軟性で負けない。それに刀を持つのは片手でも鞘はもう片方の手で持つのだ。

 

それ故、剣道には無い技術形態が存在する。

 

「がは、………速っ、い」

結局鍛えた達人たちの速度は同じような物た。せいぜい誤差程度のもので、鍛え方や筋肉の付け方等の肉体改造は同じ人間のポテンシャルで言えばあまり大きな差を生まない。身長が同じくらいと仮定して話を進めれば筋肉は脂肪より重い。筋肉をつければ付ける程力は上がるが、それに伴って重くなり、付け過ぎた筋力が動きを遅くする。掴んで押さえつければ恐らく無敵だろうが、必要最小限の筋力を身に着けたものに比べ、遅くなりがちなのと代謝が良くなり過ぎて必要な食料が増え、燃費が悪くなり、持久力が決定的な弱点となる。

 

しかしだ、それだけしても得られるアドバンテージは力においても速さにおいても絶大な差にはならない。故に第二の段階としてその基礎の上に技術と言う上物を築く。………まあ、元の世界基準で、ステータスやスキルのあるこの世界ではあまり当てにならないが、

 

「ただ、それぞれの目的の為に、極める為に手を伸ばすのは何処でも変わらないな」

 

まだ目線のはっきりしないグラーザーに呟く。後ろに回って一閃したのだがわかっているだろうか?聴こえているかどうかは定かでは無いが、気絶している訳でもないないらしい。

 

「さて………ハルト、練習してたアレを試してもいいぞ」


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