次戦います。(久しい)
パキッ!
痛っ!………肘が、ああ、………長い事同じ姿勢でいたからな、
「旦那様、アリアっす!」
扉越しに僅かにあっ、という声が聞こえてからノック音が響く。よくあるんだよな、なんて微笑ましく思っていたが、扉の奥から白塗り悪魔が出てきた。
「………お、おい、何だその格好は?」
「じ、自分気合入れてきたっす!」
誰がそんな方に気合入れろと………
「うん、もうちょっと女の子ぽい感じにしてきて」
可愛らしい感じで作ったこっちとしては複雑だったりするんですよ。その白塗りは、
「わかりました!」
パタパタと走る去る悪魔、シュールだ。
ー5分後
「どうっすか?!」
………どう、って言われてもねぇ、高度な技術が要求される事から犯人は
「メイクやり直してこい!」
ビクッとするアリア、ドアの隙間からウサミミが生えてきた。
「クライアントの意向でー………グフッ、メイクは残した、……いとの事で〜」
笑っとるやない。
「もうちょっとこう、大人っぽさ………エレガントさも足してくれないか、次」
「わかりました〜、………ククッ」
ー1分後
「お待たせしたっす!」
眉間に血管が浮き出てきた気がするが、取り敢えず足元から見ていこう。黒い光沢のブーツ、背中の開いたキラキラのドレスとそれに合わせた手袋、そして白を貴重に紅の隈取………
「おいぃぃぃぃぃ!隈取?!俺エレガントとは言ったよ、メイク以外はちゃんと出来てたよ!最後なんでエドモンド!?○○○ー○(←英語で街)ファイター知らない奴ポカーンだよ!よく一分でこれだけ変えてきたな!」
「頑張りました〜」
「メイクを落とせ、ナチュラルまで許可する」
「はいー」
ー10分後
………意外とかかったな(大方洗顔)、エナメル靴に白の靴下、青のワンピース………よし、オチは無いな、あとリボン。まあ、この格好なら問題は起きないだろう。アナスタシア、ノルン、レアを加えて藤白の所へ行く。ちょっと前に契約魔法で酷使されてた人達の治療やケアをする為だ。
「最近、お兄ちゃんと一緒じゃないときが多いにゃ!連れてくにゃ!」
………との事でクロシェットも引っ付いてきた。あとウィル達には合同の課題を与えた。ペイントナイフ(木製塗料付き)で模擬戦をしてもらったが出かける前には既にハルトとウィルは塗料だらけになってた。………当然と言えば当然だが、ナイフの様にリーチの短い武器は考え方や心理戦、技術、工夫に発想、リーチの差を埋めるに足るだけの物がいるが、それらがある程度あれば長物より強い。
………まあ、長物はリーチや重量があるのでスピードで負けたり、通路の様に狭い場所では十全に振りませなかったり、襲撃する人間は人目を避けるし、そうなると必然的に、ね、
まあ、自衛が出来れば問題無いけど、もしもの為だ。
「芦原さん、最近どう?」
「あぁ?………ああ、あんたか」
酒瓶だらけだな、と思ったらギルドにたむろしてる酒飲み(冒険者とも言う)が呑みまくってた。………何人かケア予定の人が混じってるが、元気だしいいか、
「いろいろ情報は集まるようになったんやけど、………まあこの通りや、こっちにおる奴らは今は元気にしとるけど、あっちの部屋はいっつも葬式みたいな辛気臭い空気しとるからなぁ、部屋におるだけでも気が滅入ってくるわ」
「北川さーぁん!」
「昼間から酒臭いぞ、代表」
一教(合気道固め技)から背中に座る。
「それと、………無駄に筋肉付け過ぎだ。絞れ」
「きだえろっていっだのはギタガワさんじゃ………」
「洗練を怠れといつ言った?」
ここまでつけると固め技とか食らうと痛いから分かると思うが、しなやかさが欠片もない。ただゴツいだけ、多少の攻撃からはダメージを軽減できても、敏捷も柔軟性も失われてしまう。腕を回せばわかる。
「いでででで!」
もう少し行くと2、3本繊維が切れるな、このギリギリが暫く痛いし、反省にはちょうどいいだろう。………そろそろ戦闘センスを磨いたほうがいいのではないだろうか?
「そっちはどうやった、最近この辺りには来とらんようやったけど?」
「まあ、こちらも在庫をたっぷり持ってましたし、補充もお願いします」
「おう!任しとけや」
「藤白、投げるから受け身とれ」
邪魔になる物を退かして隔離内で組んでおいたセットを出す。
「補充なんですけど、このメモを………どうかしましたか?」
「いや、あれ投げるか?」
「一定の重さからはコツですよ?もちろんそれに合わせた筋力はいりますけど」
体格がデカくなった所で藤白だ。予想より簡単に投げられたしな、
「お、おう………ああ!それとな、店の件な、他の街でもできへんかちゅう、要望が山程きとる」
「エドガーに聞いてくれ、綿密な擦り合わせもいるだろうからな」
真実とは、嘘ではない。故に残酷であり、凄惨だ。中身に詰め込まれるものは様々で合理性や悪意、時に狂気と温もりが混在し、思わず目を逸らしたくなる悲劇や定められた必然ように手繰り寄せられた奇跡、探し求めた真実に憤る者や無気力に黄昏る者、笑顔で迎えられる物は多く無いのではないだろうか?
何が悪い?世界?国家?それとも顔も名もしれない誰か?結局、人間が悪いのだ。惨状に繋げた過去と許し諦めた今と平和や中立を謳いながら差し伸べる手と裏腹に相手を殴る為に拳を握る者、権利を傍若無人に振りかざし、責任は投げ出す者、性善説では人は元々善であると言われている。俺にとって善悪の違いなんぞ無価値な物だ、勿論人の本質を善だとも悪だとも思っていない。俺は人の本質は愚かである事だと思っている。
「………なればこそ、どんな愚か者ありたいか」
「にゃ?なにか言ったにゃ?お兄ちゃん」
「何でもない」
殆どの人を隔離に入れて、家に帰る。同時に食品やらも回収したが、まあ、整理は代行者がやる。俺の目も隔離内には届かない。窓を開いて覗けば別だが、わざわざそんなことをする理由がないしな、
「さてと………これは?」
土下座する三名、ウィルとタージャにエレク人形作りチームの三名だ。話は一応聴いとこう。知ってるけど、
「私達で作った人形です」
見た目は良くできてるが、内部の刻印にミス二点、効率は俺も代行者ありきなので採点から省く、始めて作ったものとしては非常に良く出来ている。
「始めて作ったものとしては上出来だと思うけど、………炉の事だろう」
「「すいませんでした!」」
「申し訳ありません!」
「………それより火傷を治療してこい、炉はすぐ直すし、今後は俺が見てる時にやること、わかった?」
「「「はい………」」」
他の方法を先にいろいろ教えといたのが不味かったか、炉を隔離から出したレンガでさっさと直し、様子を見に行く。
「マスター、終わった、褒める」
………廊下で頭を差し出してくるアナスタシアを撫でながら部屋に入る。まあ、お説教はここからなんだけど、
「なあ、お前らずっと前から炎熱耐性上げてるよな?」
ビクッ、として目を逸らす。………分かりやす過ぎる。
「タージャはさっきので炎熱無効を習得、ウイルとエレクはまだ耐性、だな」
耐性を鍛えるのはスキルと訳が違う。身体に負った外傷、スキルは魂に付くものである為、反映されづらく無効まで上げるとなるとどこかしらに障害などが出る程のものになる。俺は冒涜を持ってる都合、上げやすいんだが、普通は体にダメージを加える必要がある。それに耐性が上がれば上がる程、耐性が作用してより上げづらい。ただ身体側、種族によって取得しやすい耐性と習得しづらい耐性がある。サラマンダーの様に火との結び付きの強い種族は火魔法の適性も高いが、同時に炎熱耐性も上がりやすい。逆に低温耐性は習得しづらい。人の場合は適正魔法はバラバラだが、耐性は全般的に上がりやすい。上がりにくい耐性が無いだけとも言うが、
………話が逸れたが、普通にやったら身体がボロボロになるから出来ない。例え魔物からの攻撃や炉の熱を無効化出来ても、満足に戦えない動けないでは本末転倒、逆に言えばその状態でも生きてれば元通りに出来る回復手段があれば問題ない訳で………
「命は一つだ。あんまり無茶するなよ。………あとレアとアナスタシアは暫く謹慎」
「?」
「………居ないよー、だから聴いてないよ〜」
小首を傾げるアナスタシア、ドアの影で耳を押さえるレア、そして催淫、
「反省してなさい。用事以外では連れて行かないからね。あと三人も、人形作り禁止、耐性上げも、課題は刻印にミスが二点ある。それを自力で探して直す。それが出来るまでは禁止は解きません、わかった?」
「「「はい!」」」
すぐ見つけそうだけど、刻印に求められるのは正確さと均一さ、形や位置は勿論の事、刻む深さも誤差範囲に抑えないと、浅い箇所には魔力不足に、深い箇所は魔力が多くなり、周りに必要な魔力が欠乏したり、魔力が刻印を壊したりで慣れるまで大変だった。代行者のチェックがあるから幾らか楽ではあったが、
「さ………ってと、今度はテストラに行くか」
テストラ帝国、この国ではオートマタの様な異世界特有の物が作られている傍らで様々な近代兵器も作られている。なのでこの国では銃や家電等は人々の概念に深く浸透している。当然銃弾も、
「こっちがクロエの分、………これがノルンの分、んでこっちがレアから頼まれた分、っと」
クロエの12.7(本当は13mm)、ノルンのマグナム弾、それとレアからホローポイント弾と徹甲弾、ゴム弾、麻酔弾一式、ノルンは備蓄、クロエは魔力切れした時の為の予備弾薬、レアは最適な銃を作るための研究用、俺も研究する予定だが、
まあ、あいつが作る銃はアサルトライフルかハンドガンの類いになるだろうな、アンダーバレルやナイフみたいにカスタムが出来る武器を作るだろうな。
「………全部で金貨六枚と銀貨七枚、銅貨六枚だ」
「釣り貰える?」
「ああ………そういや今日は連れが見えねぇな」
銀貨を一枚多めに渡し、銅貨を四枚受け取る。
「あー………今日はこっちに興味の無い子ばっかりだったからな」
「メイド服の子たちは仲が良さそうだが、その繋がりか」
「まあ、術式弾をあいつが作ってるからな、細かいオーダーを出してるうちに仲良くもなるだろう」
「まあ、そんなもんか………注意しな、この店にはいろんなやつが来るからな、贔屓にしてくれるのは有り難いが、店に来る時誰か足りねぇだの………そう言うのは困るぜ」
「ふ、心配しなくていいさ、一応Sの冒険者だ。………それでも手を出してくるならこっちのやり方でやらせてもらうよ」
「はは!そりゃ怖ぇーな!だいたい失敗する奴はSだから手を出してくる奴はいねぇとタカをくくる。心配するだけ無駄か?」
「ハッ、この帝国でホローポイント弾を扱ってるのはこの店だけだろ」
「おう、品揃えには自信があるからな」
なんて言いながら店の奥に繋がる暖簾を捲る。普通の人には真っ暗闇にしか見えないだろうが、ランチャーやライフルなんかがずらりと並んでいる。しかも術式弾にも対応したものまである。………何故かあまり普及してないんだよね、
「また来るよ」
「おう、また来い」
芦原さんと同じような厳つい見た目だが、こちらの事も気にかけてくれる信用の置ける人物だ。品質がいいのもここを選んだ理由の一つだ。店を出ると少し先でコートを脱ぎ、隔離の窓に放り、ズボンのポケットからループタイを取り、反対の手をカーディガンの袖に通し、歩きながら整えていく。
「待ちやがれぇ!今日こそしょ………」
ズボッ
最近、土魔法の練習機会には事欠かないな、
「見つけたぞ!ここであっ………」
ズボッ
この街ではしつこく付きまとわれている。一人なら幾許か楽なのだが、結構人数が多いので精度を上げるのには一役買っている。
「あっちだ!まっ………」
ズボッ
何をしているかって?土魔法の練習ですよ?
「ああ………、またあんたかい、ウチの息子も悪いのは承知してるけど、埋めるのは止めてくれないかね。ご近所さんの迷惑にもなるし、何より掘り起こすのも一苦労なんだよ」
「はあ………と言われましてもね、埋めないと着いてくるんですよ」
初めの頃は凍らせてた。凍傷にならない様に手枷や服と壁、靴と地面なんかを合わせて凍らせた。が靴とか服とか脱いで追っかけてきた。で現在の垂直沼化の落とし穴、浅いと出てくるが深いと死ぬ。沼化するのは一瞬なのでその後はほぼ普通の土、肩まで入れば誰かの手を借りる必要がある。風は防音ぐらいにしかならんし、火は街中で使うものじゃない。この辺りは舗装とかしてないから簡単にできる。
「俺は諦めんからな!お、おい待てー!」
「こっちか!い………」
ズボッ
「ちょっと、ウチの家の前に埋めないでよ」
「あ、すいません。つい、………でも言っといてくださいね?あの娘たちを譲る気は無いと、では、私はこれで」
護衛依頼の準備は出来たちょっと物が物だし、良くない事も起きるので受けた依頼なのだが、