この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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(ⅩⅢ)の先へ

はぁー、とうとう降ったよ、雪、………しかし暖冬なのか?本来ならもっと前だろうに、その答えにはいつものように代行者が忌々しい回答をくれた。

 

《約270キロ西北西の工事から排出されるガスの影響です》

 

この雪大丈夫か?調べてあるけど確認、

 

《水蒸気のみなので問題ありません。ただ雨は多くなるでしょう》

 

まあ、あんまり寒いと湖で暮らしてるセイレーンに良くない影響があるかもしれないし、少し今までの生活の聴き取りをしておこう。………ただ今日は少し予定が立て込んでいる。

「先生!今日雨振りますか?」

「タージャか?………ああ、大丈夫だと思うけど」

「ありがとう!」

サラマンダーも雨は注意だな、うん、………いやそれよりもだ、深夜急ピッチで完成させた医療区画に足を進める。

「旦那様ー、仮眠はしっかりとりました〜?」

「大丈夫だよ。眠気はない」

奴隷にされていた人の中には体の不自由な人もいた。大人は主に怪我による欠損や壊死、病気だったのでアナスタシアが治した後に金貨を十枚ずつ渡してそれぞれ望む場所に送り届けたが(家族丸ごとの場合は人数分より多めに渡してある)、

口数減らしで奴隷された子や両親を戦争で亡くした子は何処にも送れない。だが、ここで問題が起きた。アナスタシアでも治療できない子が出てきたのだ。その子達に問診をするとある共通点があった。治った子との違い、それは外傷等の先天性以外という点だ。治療魔法なのだ、元から異常など無いのに効果を発揮する訳が無い。しかし、問診をしている時、やはり感じてしまうのだ、

 

見たいという願いを、

 

元の世界の知識を巡らせるが俺は医者じゃないし、当然良い方法も思い付かなかった。それでも視神経の状態とか脳とかいろいろ調べた。手詰まりになって代行者にも相談した。

 

《可能かと思われます》

 

………この回答である。代行者曰く、状態はそれぞれ違うので義眼や義耳、義手義足を刻印をして作る。信号をキャッチする方だけなら筋電と魔力の両方で動く義手義足を作り、逆に脳に情報を送る場合は魔力で映像や音を直接送受信する様になっている。ただそんな魔法は無いので一から作る事になったが試行錯誤している時間はとても楽しかった。脳に近いのでロスは少ないはずだが、悪影響が無いかどうかは入念に調べた。そして今日移植する為の手術をするつもりだ。と言っても主に整形手術が主体だ。義眼等をつける上でどうしても邪魔になる、機能していない眼球等の摘出等はするが、それ以外は極力メスを入れない。

「あのあの〜、大丈夫なんですかー?」

「大丈夫だ、盗賊だって人だ。練習台には事欠かなかったろ?」

初めはデカ牛、鶏(コカトリス)なんかを使って解剖の練習をしていたんだが、丁度盗賊が来たので使いました。皆でできるだけ傷つけずに捕縛して様々なパターンを検証してデータをとった。………結果、俺とレアはマッドサイエンティストの称号が付いた。それと俺の職業に衛生兵と神医、レアに調剤師と薬剤師、外科医が付いて、統合されて天才外科医に落ち着いた。俺の衛生兵も神医に統合された。

21!(ブラックジャッ……)

「やめろぉぉぉ!」

「グヘァ!………がはぁ」

 

………早速無駄な体力使ったわ。アッパーを受けたレアは空中で5回転きりもみ飛行をした後地面に倒れ伏して血を吐いた。それと人の知識を引っ張り出さないで欲しい。………しっかしこいつ完全にギャグ要員だな、

「目は五人、耳は三人、手足は七人分やるんだ早く起きろ」

雑菌も生き物と定義されるので冒涜で殺菌すると、その上からゴム手袋を嵌める。一人目は左目だけの子だ。ただ反対の右側は全体的に窪んで見える。実際骨も全体的に窪んでいる。頭蓋骨と聞くと一つの骨だと思っている人が多いが、産まれたばかりの赤ん坊は頭の天辺を触ると柔らかい。それこそ内側に蓋があるような、そんな感じだ、これは本来産道を通る時に通り易い形にする為だ。一つの骨だと硬いがそれ故に融通がきかないし、頭はその他の動物と比べ物にならないくらいで、全体から見ても大きめ、逆子で産まれてきて頭が抜けなかった時が悲惨だ。首が座るという言葉は誰もが耳にした事があると思うがこれは頭骸骨も含めて、全身の骨が繋がっていない。首が座るというのはそれらが成長に合わせて繋がるという事だ。

 

………たしか、な、

 

………そのために繋がる際、無いものや異常があればその形が少し変わってしまう事があるのだ。これが義眼などを入れる際に必ずしもでは無いが邪魔になってしまう、機能していない眼球の摘出等でも骨が近い為に削ったり、一時的に取り外したり、しなければならなくなる場合もあるし、手術の所要時間も限られている。できる事を全力でやるしか無い。

 

「………メス」

 

まず麻酔の効果を確認、そして様子を見ながら髪の生え際からメスを入れる。次に皮膚を捲り、状態を確認、やっぱり骨が問題あるので決めておいた手順で部位を切り離し、盗賊の骨を冒涜で分解して、足りない分を継ぎ足し邪魔になる分を削り、後処理をして位置調節して戻す。

 

「………汗」

 

次に整形、に入る前に殆ど癒着している瞼を切開して整形していく。併せて眼窩の中も整形。………裏から見ると緻密な構造が見られる義眼を入れる。あとは、

「ヒール」

ロストリーバサルだと元に戻ろうとする力が働く為にアナスタシアにはヒールを使ってもらった。それ一つでメスを入れた場所が綺麗に繋がる。整形した箇所も義眼を型に再生する。顔の形は未来視で違和感が無いように回復できる様にしてある。

「よし終わったぞ、見えるか?何か違和感があったらすぐに言ってくれ、それとしっかり休むように」

「こっちの目よりよく見える!」

「それは良かった。義眼にはいろんな機能が付いてるから慣れてきたらそれも使ってみてくれ、………あんまりはしゃぎすぎないように」

パタパタと走り去る背中を見送る。向日葵やアリスに様子見を頼むか、

「さてレア………次だ」

俺が集中し直すのに合わせてレアの雰囲気が変わる。集中しているのがビリビリと伝わってくる。

「あのあの〜、次は右手の義手でーす」

「………その凛とした表情で声そのままは締まらん、それとアナスタシアには暫くここにいてくれ」

「ん、マスター」

若干気が抜けたが、ゴム手袋をゴミ箱に捨てて、新しい物を嵌める時には気持ちは整っていた。

 

「「「「先生(主よ)」」」」

いつも通りに戦闘訓練を始めようとした時に四人から声が掛かった。

「なんだ?四人同時に来るのは珍しいな」

最初の頃の徒手格闘の時以来だろうな、最近はいろんな武器や武術、魔法なんかを個々に教えることが増えたからな、自己鍛錬の合間なんかにそれぞれ得意な分野を他の子に教えたりしてくれているので、最近は質問を受ける事も減っていたのだ。

「ギルドに登録したいのですけど、いいですか?」

「ん?ああ、別に俺に断りを入れる必要は無いけど、何かに必要なのか?」

「実は薬草の………」

「キリエ、ロイ、主には気持ちをしっかり伝えるのが………」

「兄さん、そんなだから影で脳筋と呼ばれるんですよ?」

「ははは!バーカバーカ!」

「ハルト、………お前に関しては加減のできないバカだと言われてるぞ」

「はぁ!?お前だって魔法キチって呼ばれてるだろうが!」

「主の前だぞ!やめろ」

「………俺としては主って呼ぶのやめて欲しいけどね」

「すいません。先生、………これだけは聞かなくて」

保護者と化しているキリエ、取り敢えず本題に戻ろう。

「で?薬草以外には何をするんだ?」

「先生程は無理でも、俺等にでも倒せる魔物は少なくないだろ?」

「実戦も兼ねて出てみたいんです。今の僕達がどのくらい戦えるのかを」

「先生!」

「………仕方ないか、出る前に大事な事を教えとく、ちょっとあっちに来てくれ」

「はい、分かりました」

さて、一番大事な事は非常に簡単だ。正面戦闘ならかなりの者に勝てるが、

「………あれ、先生は?」

「………さっきまで目の前に………」

『これから教える事はある意味一番大事な事だ。自分自身が敵のテリトリー、庭に入るという事は奇襲に万全であるか、それらを見破れるか、地形の特徴をしっかり把握できてるか、お前等と正面から戦えば勝てない奴は少なくは無いが、生きてる以上命は一つだ』

「先生、もっとわかりやすくお願いします」

「………反響して場所がわからない」

『簡単な話、いきなり背後から心臓を一突きにされたり、首を掻っ切られたりしたら、すぐ死ぬってことだ。それは俺も一緒だが………』

 

「「「「え?」」」」

 

………おい、何だその反応は、

 

『………奇襲は誰だって受ける可能性がある。待ち伏せなんて、人間も魔物も使う。不意を突かれると脆いものだ「こんな風に」』

「っ!ウィル後ろに!」

「遅過ぎだ」

ウィルの後頭部にチョップを入れる。

「あたっ」

「俺はお前らに歩いて近付いたけど全く気づかなかったな、ロイも散らしてた声を戻すまで気づかなかったみたいだし」

「い、今のは?」

「隠密行動の基本、まず見つからない。次に音に注意、それと気配を感知されない事、そして最後に痕跡を残さない。………これはロイに教えたけどこれには複数の方法がある。まず見つからないは?」

「物陰に隠れる、とか?」

「魔法で透明化、でしょうか?」

「周りの景色や夜の闇に紛れるも使えませんか?」

「やっぱ、見てない時や見えない所から近づくじゃないか?」

 

よし、一通りでたな、

 

「次は音だ」

「さっきの声の様に発生源を特定されない用にする」

「………音を断って移動する、としか、」

「別の所に注意を引く様に石とかを投げるとかかなー?」

「待ち伏せの時に動かない、くらいしか」

「じゃあ次、最後だが」

「気配………と言われても」

「殺気を向けない」

「気迫を出さない」

「戦意を消すとか?」

 

じゃあ答え合わせと行こうか、

 

「初めのだけど、魔法で透明化以外は概ね正解だな、それだけに頼りきりになると普段の隠密行動にも粗が出やすくなる。魔力も使うし、場所や状況は選んだほうが良いだろうな」

 

空中で使うときの有用性は計り知れない。視えなければだが、

 

「音だけど………音を断つってのは無理。服を身に着けていれば当然擦れて音も出るし、体を動かせば筋肉や骨が軋んだりするし、完全に音がしない方法と言うのは無い。だから最小にしたり、周囲の音に紛れさせたり、同化させたり、石を囮に、動かないとかは場合によるけど正解、そんで………」

 

最後だが、上手く説明できるか?そんな不安が漠然と浮き上がってきたが、それはすぐに沈んでいった。

「気配だけど、これは気持ちを隠すって事だな。狙う場所を意識すると鋭い奴だとこっちの大体の位置までそれで把握できる奴もいるから用心するに越した事はない。………かなり距離があれば早々気づかれないとおもうが、訓練の時も相手より有利に動く為に駆け引きするだろ?」

弱点を探ったり、間違った情報を信じ込ませたり、実力差の無い者同士の戦いだとこの要素が勝敗に大きく関わってくる。

「………ま、相手や場所、勝利条件によって変わってくるだろうから、その辺りは自分で判断するしかないな、それに身を隠せれば逃げ切れない敵や追いつめられた時にやり過ごせるし、………んでだな、さっきの話から今日の授業をかくれんぼに変更する」

 

まあ、これが一番無難だ。発見能力、危機回避能力、隠密性も鍛えられるからな。………もっとも、隠れんぼは良くやってるので、次のステップとなるシュミレーション施設が無いがための時間稼ぎなのだが、

「危ないことはするなよ………予定が少し早まったな」

 

 

I shot kill you.(私はお前を殺す)

最近何となく多用する動作に名前を付けてみた。技という程のものでもないが、

 

パンッ!

 

ほぼ零距離で盗賊の眉間に穴を開ける。これは10メートル以内の対個人だ。

「や、やりあが………」

 

パンッ!

 

心理的な要素が大きいので観察力が必要になる。隙を見つけて近付いてもう一人にも鉛球をプレゼントする。

「おい!さっさと囲んでやっちまえ!」

三人くらいが同時に飛び掛かってきたので銃を体の後ろで刀に隔離を使って入れ替える。

「………これで全員だな」

木陰に隠れてたの含めて十人程を斬る。辺りに血溜まりが足元にできつつあるので結界に乗って必要なものだけ隔離、ポケットから単語帳を取り出して、一枚千切ってそれに魔力を通す。たまには一人で動きたい、そう思って作った帰還用の使い捨ての転移札。場所はノルンのポイントあってのものなので行き先はポイントのある所だけ、それと場所毎に描く式も変わってくるので、拠点限定で量産している。

「陛下、ご無事の帰還、何よりもお喜び申し上げます」

「ああ………」

いつからここ軍隊になったの?ルシアは基本軍服ぽい服装をしている。そんなのに敬礼しながら迎えられたら場所間違えたかと思うわ、

「………それで希望者は?」

「既に待機しております」

 

待たせてしまったか、

 

「じゃあ、すぐに行くよ」

昨日、冒険者に登録したい者を募ったところ、それなりの人数が揃ったので今日纏めて連れて行こうと思ったのだ。それとさっき使った単語帳はもしもの時のお守りで、各自一つ持たせている。緊急事態に備えて、拠点となる家に帰還できるようになっている。安全を確保するのは保護者兼教師の仕事だ。

 

「………それでは、職業(ジョブ)の付与をおこないたいと思います」

「え?」

咄嗟の事で間抜けな声が出た。と言うか付与?俺が登録した所ではそういうの無かったけど?

「あっ、ノースガーデン様!………実は最近、占い師を雇いまして」

受付のおばちゃんから職業と占い師の説明を受ける。最近、雇ったばかりということもあってカンペを見ながらだったが、職業の説明は代行者の説明と概ね一致している。まあ一応確認しておきたかった。

「職業の能力補正は強力だからね。それと自分がなれる職業なんかも分かるらしいわよ」

おばちゃんも魔道士の職業(ジョブ)があるしな、元は冒険者だったのだろう。占い師の付与する職業はタロットの大アルカナに関する物のようだ。一度付与すると一年はカードをひけない。出るカードも選べないそうだが、付与するかどうかは本人が決められる。効果持続期間は次のカードをひいて、変更するまでだそうだ。

「変更を行わない場合は付与職はそのままだけど、次ひくのは一年後だからよく考えるんだよ。カードは本人の素養で決まるそうよ」

 

暇だし俺もひくか、最後の方で、

 

説明を受けてから子供たちを連れて隅の方に移動する。そこには水晶とカードの山を置いたテーブルを挟んで向かいに入れ歯の爺さんがいた。格好は如何にもという感じで失礼だが率直な感想を言うと胡散臭い。

「また、ゾロゾロと………最初は誰じゃ?」

 

………げんなりしてるな、まあ、関係ないけど、

 

「はいはいはい!」

「喧しいわ!」

「ははは………、すいません。ハルトから見てもらっていいですか?」

「………では、そのカードに触れなさい。さすれば、お主に呼応する星が現れるじゃろう」

「えー………選べる訳じゃないのかー」

「お主さっきの説明を聞いとらなんだな!後がつかえとるんじゃ!さっさとせんか!」

 

………あー、あれか、新しく雇ったって言ってしな、付与すればそれだけで強くなれんるだ。冒険者稼業に身を置く者なら誰でも来るだろう。まして今まで無かったのだ。多分、この街を拠点にしている冒険者を捌くと言うデスマーチを一人で受け持った為だろうと推測できる。実際街にいる冒険者の殆が何らかの大アルカナの名を関した付与職を持っているしな、

「わかったよ、はい」

血走った目で怒鳴る爺さんに気圧される様子もなく、カードに手に触れた。すると三枚のカードが舞い上がり、白紙のカードに『愚者』『星』『世界』と焼き跡が付いた。だだこれは………

「はい、次行こうか」

「待たぬか!」

 

あー、やっぱそうなっちゃいます?

 

「なんだよー、後がつかえてるんじゃないのかよー」

アルカナとは旅だ。気付き、一歩踏み出した所から始まり、出会いと別れが様々な可能性を手繰り寄せ、死をも乗り越え、最後己の立つ場所へと辿り着く。………まあ、あれだ。人によってどう捉えるかは違うが、成長や円環と俺は捉えている。でだ、その円(輪は紛らわしいので使わない)の始まりと終着点がある。それと星…………………あー、もう、俺は一つ一つの意味はある程度知ってても組み合わせまでは分からん、漫画とかで興味持って軽く調べただけだからな、

「お主………、何を極めたのじゃ」

「あぁ?何を………」

そうこうしているとテーブルのカードが一瞬で燃え尽きた。ただあの三枚はハルトの強さと成長性を表したようなカードだったな。

「………もういい、次じゃ」

「なんだよ、気になるじゃねぇかよー」

「はいはい、それは最後に聞いて、先生次私が見てもらってもいいですか?」

「ああ」

ハルトを押し退け、そっとカードに手を乗せるとさっきと同じ様に三枚のカードが舞い上がり、そこには『女教皇』『力』『審判』の三つの文字が焼き付いていた。

「お主等………」

なんかこう、恨みにも似た………なんて言うだろう呆れたような、疲れたような、微妙な表情をしている。キリエの多才さや賢さを感じる。女教皇は知性や期待、力は強い意思や実行力、審判は成功や祝福を示す。

「先生、これってどう言う意味なんですか?」

「力ってシンプルでいいな」

「ハルト、お前の三枚はかなり力強いカードで成長する感じだけど、キリエのカードは力強い意思、頭脳明晰さが出てる」

「お主、分かっておるならかもっと驚かんか!」

「いや、なんとなくで………」

喋ってる最中にまた同じ様にカードが燃え尽きた。

「………次じゃ、次」

「主よ、私が行ってもいいですか?」

「おう………」

ウィルが触れた瞬間に三枚のカードが飛び出す。『教皇』『戦車』『正義』の三枚か、ウィルらしい真っ直ぐな性格が出てるな。教皇は信頼や法の遵守、戦車は行動力や積極性、正義は公平や平等を示す。

「正義………ですか」

「戦車とか、またかっこいいのが出たなぁ、俺も戦車のカードひきたかったなー」

「………引く前に聞きたいても良いですか?」

「どうした。ロイ」

「カードは何種類あるんですか?」 

「俺が知ってる通りなら大アルカナ22種、小アルカナ56の76枚、ただ50も無いから大アルカナだけだろう」

小アルカナとかで出て来ても意味わからんし、トランプの元になったという事と、杖、剣、硬貨、聖杯、あと人物札に小姓がある事ぐらいしか知らない。

「では、強力なカードはどう言う物がありますか?」

「力という意味では世界や審判、物事の成功を暗示するカードだしな。ただ、愚者や魔術師は高い成長性を示すカードだから、一概にどれが強いと言われてもな」

「でしたら………良くないカードは?」

「うーん………正位置だけでいうなら『死』『悪魔』『塔』『月』って所か?と言ってもどれも解釈があるからな、そういう意味でいうと『運命の輪』も含まれると俺は考えてる」

変化を示すカードはこれからに備える事を暗示するカードであって、これからどうするかで変わる。良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。諦めるか進むべきか、決めるのは自分だ。

「はよぉ、次ひかんか?!」

いつの間にか、カードも燃え尽きていたようだ。

「ロイ、行ってこい」

「分かりました」

ひいたのは四枚『魔術師』『皇帝』『隠者』『吊るされた男』、魔術師は可能性や起源、皇帝は支配と強い責任、隠者は精神性や内なる対話、吊るされた男には修行や忍耐、自己研鑽の努力を指す。

「ふむ」

さっきまでとは違った落ち着いた反応だな、

「じゃあ次は誰が見てもらう?」

「「「はいはいはい!」」」

元気一杯な子供達の声を聞くと占い師の爺さんは心底疲れたようにため息をついた。

「ちょっと待っとれ………、カードを足すからの」

そう言うと白紙のカードを山札の下に追加する。他の子達は二枚だったり、一枚だったりで、ガッカリした様子だが、どれも悪い意味に直結するカードはひいてない。………とは言っても本来の解釈も曖昧なのに、そのままの意味で受け取っても良いものなのか、そんな疑問がチラついた時、絶対いい意味じゃないカードが出た。

「し、『死』と『運命の輪』が出た………」

 

ー誰にそんな組み合わせが出た!

 

「ほぇ?」

「アル………」

最悪だ!いや、嘆くな、………死は終わりを示す13番のカード。死の予兆、すべての終わり、別れ、新たな始まり………、運命の輪が厄介だな、こいつがどう言う意味なのか、意味合いとしてはチャンスや運の巡り合わせ、そして一時的な幸運、運気の絶頂を指す。そして根幹に自らの力で変えられないという点がある。一番最悪な解釈は抗えない死の運命だな、いい意味でも心機一転最高の門出か、俺の手から逃れるようにカードは触れる直前に燃え尽きた。

「強い光で変えるしかない、か」

「どうかしましたか?………先生?」

「なあ、………俺のも見てくれるか?カード足しといてくれ」

「………わかったわい」

俺がひくべきカードは世界や審判の様な強いカードが必要になるはずだ。しかし、俺は完璧に忘れていた。アルカナの訳はであると言う事を、

 

ボオゥ!

 

俺が触れると共に一瞬、火柱があがる。それにより舞い上げられた全てのカードは紙とは思えない動きと速度で順番に机に並んだ。その文字はテーブルの木目が見えるほど焼き付いていた。そこにはご丁寧に空白分まで取って、こう書かれていた。

 

『WHO GRAB ALL THE STARS』

 

その文字を確認するや否や燃え尽きて消えた。だが、この力なら運命を変えられるだろう。

 

《職業 占い師を得ました》

《職業 占星術師を得ました》

《職業 星帝を得ました。下位の職業は統合されました。》

《称号 Rebellion Heartを獲得しました》

《パーソナルスキルに叛逆が追加されました》

 

ーまだ、足りない。なら………

 

《#@)?%!:/€{※√(』‼》

《パーソナルスキル 叛逆の消失を確認………さ、さ……築に…、ります。》

 

………気持ち悪い。しかしこれで変わる、変えられる。だがいきなりやるような事じゃない。あくまでも最終手段、確認も怠らないようにしなくては、な。


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