この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

67 / 86
長いです。(はい、区切りが悪くてすいません)


終わりの飾り方

はあ~あ、っと、今日は今日でゆったり過ごそうと思っていたのだが、そうはいかなくなった。テストラ帝国が優勢なのは変わらないが最後に悪足掻きをしそうなので急遽頭を落とす事にした。千里眼で見る限り戦況は一方的だな、最前列に俺の作った奴がルーク形態で盾構えてる。取り敢えずまあ、派手に暴れて誘き出すか、適当に固まってる所にウインドとフレイムを組み合わせて放つ。ウインドの方は過剰に魔力を流すイメージにしてフレイムは不足気味に、実際ウインドは何も消費しないが、魔力多めはきっちり反映される。不足気味の魔力を求めて炎は燃え広がりやがて炎の竜巻になる。魔法を使った火災旋風の再現だ。場所は確保したのでそこに降りる。両手には短剣を握って、密集している場所に走っていき、矢を躱し、

 

「背中借りるよ」

 

斬りかかってきた敵の剣を躱し、踏み台にして集団の上を駆ける。兜の隙間から喉に短剣を刺し入れたりしながら四方八方へ予測されないように翻弄する。その間にもルークはゆっくりながらも進行する。こちらから意識が逸れた隙に透明化のペンダントに魔力を通し、結界に乗り、退避して手榴弾をプレゼントする。あとは少し高い場所に上がり、マシンガンを出して構える。なーに、スコープがなくとも、千里眼と未来視があれば目を瞑って撃っても当たる(マジ)。狙うのは見える範囲にいる政治犯罪者だけだ。撃てるだけ撃ち込んでやるとしよう。千里眼があれば観測手も不要だ。

 

ガガガガガガッ!

 

………よし、後は自分の顔の上に黒いモヤを上書きして、マシンガンから拳銃に持ち替え、ボロボロのガラス窓に突撃する。

 

パリン!

 

おぉ………枠が意外と硬かった。腕が……、っと、そんなことをしている場合ではない。千里眼で勇者の位置を確認するとこっちに向かってくる筈なのに逃げてるし、……………仕方ないな、プランBだ。

手榴弾のピンを引っこ抜いて、隔離を介して人のいない所に出す。ただ、使うのは非殺傷性のフラッシュバン。それとカメムシエキスを行ってほしくない方向に散布。いくら戦争中でも無辜の民にまで危害を加える気は無いのでまあ、勇者を追い立てる陽動だ。本命の合図として、戦場に一条の稲光を落とした。

 

「マスターからの合図、確認しました。」

 

ー漆黒の翼をこの街の人々の不安を表すように重い雲の掛かった空に広げ、クロエは水魔法のスコープを作り出し、銃を構える。

 

ガンッ!

 

弾丸は延髄から貫通して、体と頭を分離した。あとはその死体を隔離して、俺は暫く侵入者の痕跡作りをして帰るとしよう。教会にはさっきの政犯(政治犯罪者)の横領、着服金がある。ご丁寧に小分けにしてあるので、一箇所分は迷惑料として頂いておこう。これで複数犯の偽証拠もできる。………はぁ、しっかし結局最後まで戦ったな、この国、

 

聖国は宗教諸共滅びた。当たり前だ。徹底抗戦の姿勢で戦い抜くのは勝ったときはいいが、負けたときは講和条約なんかも当然厳しいものになる。帝国がどういうふうに扱うのか知らんが植民地や属国、統合されて領土になるか、

俺が殺さなかった幹部連中から王族やその親族諸々は、雁首揃えて見事に飛んだ(首が物理的に)。勇者については懸賞金が掛けられた。DEAD OR ALIVEでな、まあ、それは後で持っていくとして、だ。

「月夜、出来そうか?」

「大丈夫………多分」

俺も想定外だったのは首がと胴体が離れようが、脳天に穴あけようが、勇者(コレ)が生きてることだ。なので水瓶に顔面を沈めて死んだ状態にして、狡猾の効果を確かめる。ちなみに水から顔を出させると生き返るのは確認している。なんで生きてるかと言えば、パーソナルの超速回復が原因だろう。だが、このスキルは吸収出来ない。

「ご主人様ー?小生にはこの外道を生かしておく理由が見つかりません」

かなり不快という感じの表情だな、眉間に皺を寄せながら、目で殺らないの?と聞いてくる。知識は記憶も含むので、前々から観察していて知っているのでこの子の言いたい事はわかる。こっちなら権力だ何だで揉み消せるけど、疑いの余地なく性犯罪者だ。

「懸賞金が出るからな、まあ、頭取って持っていって、生えてくるようならこっちは隔離に放り込んどく」

 

元は残念な神達が悪いのだ。捕まえる所までは達成してるし、

「了解でーす」

「じゃ、頭と体は分けて保存するか」

冒涜でスキルポイントを回収して、刀に手を掛ける。

 

面倒事は片付いた。だが、最近金銭的に心許なくなってきたのでいつもとは別のダンジョンに行く事にした。そんな中少し気になるダンジョンがあったので来てみた。

「高いビルだな〜、てかこれダンジョンなのか?」

 

《扱いとしては塔になります》

 

あー、なるほどね、ダンジョンと言っても色々ある。今までの所は下に潜る洞窟タイプだったが、ここは登るタイプのようだ。………ただ、荒野のド真ん中に塔があるのと近代的なビルがあるのは違和感が、まあ、前で何時までも考察していても仕方がない。そんな訳でお邪魔します〜。

 

ビル内部は違和感の塊だった。所々、天井が落ちてる荒廃具合だ。にも関わらず間仕切りボードは真新しい。

 

《ボードはダンジョンの壁のようです》

 

わかってるよ。隔離しょうとしてみたけど無理だったからな。小突いても微動だにしないし、追加で言うと天井が落ちてる所は付近に罠が多く完全に誘い出す為の物だ。通ったら矢が飛んできたし、穴を見つけては登りを繰り返し、50階に差し掛かった。

「周囲が真新しくなったな、天井も落ちてないし、………何かいるし」

この階は床に穴はあるが、光源がない。最も真理のある俺には昼間のように敵の姿を捉える事ができる。それと、

「次の階に行く階段が障壁みたいなので塞がれてるな」

階層ボス的な物を倒さなきゃ進めないとか、有るらしいからな、

 

バクッ!

 

噛み付く動作を躱し、観察する。今のは声に反応したのか、見た目を説明するとゴリラを思わせる前傾姿勢に上半身を基点に発達した巨躯、で目が無く、顔に当たる部分の大半は口が占めている。追加で言うと胸の辺りにも口らしきものがあるのと、何かヌメヌメしてそう。指は4本で水かきがある。………既存の生物からモデルを探すのは諦めよう。

 

フガフガ………

 

臭いの可能性もあるな、喰らえカメスプレー!(要結界)

 

ドサッ

 

どうやら嗅覚が何倍も優れていたようだ。…………………今の内に仕留めるか。どっかの団体とかは殺すなら苦痛なくとか色々あるけど、狩猟なんかを否定するところもある(詳しく知らん)。一撃で人想いにと言うのは分かるが、何分それが難しい。

まず、自ら自分の意思で死ぬ動物なんて人間くらいだ。これこそ人間の傲慢の極みと言ったものだが、逆にその他の動物には厳しい環境で生き残る為の生存本能が必ず備わっている。殺されそうになったら抵抗する。ここは人も同じことだ。急所を一突きして楽にしてやろうとしてもその寸前で暴れて逸らされたらその分苦しめることになる。まあ、そこら辺は上手くできるようになるしかないな、まあ、自殺とは違うが群れを生かすために個を犠牲にする動物は意外と多い。ハダカデバネズミ、バクダンアリ、あと名前忘れたけどシカっぽい奴とかな、………元も子もない事を言えば何を基準に最も苦がない死かなんて分かりようがないのだが、

「まあ、安らかに逝かせてやれるのはお互いいい事だしな」

狩猟の場合、罠で捕まえたのならともかく、生きる為に全力で逃げる物を捕まえないといけないのだ。致命傷を与えて弱るまで待つくらいよく使われる手の一つだろう。当然悪戯に傷つける虐待行為は狩猟にカウントしない。狩るのならその命の責任はキッチリ持たなければいけない。

経済的に豊かになった結果生まれた問題としては主義思想を金を集める為だけに世間を掻き回す団体が多くなった事か、前のイルカで出てきたアレもそうだ。とは言ってもそんな寄生虫やバクテリアみたいな団体ばかりではない。罪は無知から生まれるとは誰の言葉だったか、それを見極める事こそ重要なのだ。………いらない奴だけジャンプしたら離れてくれるといいのだが、

「はぁ、………カルト教団ぐらいしかいなかった頃が昔に思えてくるとはな」

胸の口らしき所から心臓目掛けて一突き、一瞬ビクッとしたが、その後は動かなくなった。死体を隔離して階段を登ると風景が一気に変わった。さっきまでは罠主体だったが、魔物が多くいる。それと建物自体が新しくなり天井に穴が空いている場所は無い。この辺りなら大丈夫かな?

「そろそろ昼食にしよう」

「………わかった、治療する?」

そんな事を言いながら、桃色の花の装飾をあしらえた白のチャイナドレスに身を包み、前垂れを指で摘んで細い太腿を扇情的に見せつけると、その視線の間に悪戯な微笑みを割り込ませてくる。

「アナスタシア………」

「どうかした?マスター………」

顔立ちが整っている事もあるが、あどけない容姿が尚の事その表情を妖艶にする。ツインテールにしてることもあどけなさに拍車を掛けている。………油断ならないんだよな。催淫とか精神攻撃って本人の心次第だから、耐性は有無を言わさずに呑まれるのを防ぐ程度でしかない。

「ご主人様、失礼しますわ」

「あの!こちらを………どうぞ」

……………美女がまぁまぁ大きめテーブル持ってくる。飾らない感じ(残念感)がアリスらしい。その上に用意したカップに飲み物を注いでいくクロエ。緑茶か?向日葵は隔離から出した位置から動いてないな、キョロキョロはしてるけど、

「和食」

俺の心を読んだ回答だな、まあ聞きたかったんだけど、しかしまあ、こうして料理とかしてると寄ってくるんだよね、魔物類が、クロエの殺気のお陰で襲われたことないけど………

「………集まってきてないか?」

「ふぇ?!ほ、本当ですか?」

 

殺気は強くなったが効果はなさそうだ。

 

「どっちですか?」

「囲まれる前に倒したほうが良い。筋力だけは強そうだから群がられると抜けられなくなるぞ、あっちはクロエとアリス、向日葵は俺とこっち、アナスタシアは安全領域の保持の為に魔法で聖域を作っといてくれ」

「「「「はい!」」」」

 

「死ね!クソが!」

 

ドガガガガ!パァァン!パァァン!パァァン!………グチャ、ドチャ、

 

「………もう少しスマートに出来ませんの?」

「あぁ!?」

「ひぃ!」

クロエの機嫌は最悪の一言に尽きる。素手で敵を殴りまくったり、足を掴んで地面に叩き付けて、その勢いのまま柱に投げつけるあたりから完全に憂さ晴らしだ。このスイッチが入ったらまともな方法では止められない事を知っているアリスは、唯一知っている方法で止める。

「ご主人様はこの後食事をとる予定なんですのよ、………そんな腐敗臭のついた体でいる事が相応しいとお思いですの?」

アンデッド系やゴーレムに殺気や威圧の効果は無い。簡単な話、命があるから感じる危機感を命の無いものが感じ取る事は難しい。

「チッ………」

 

ボン!

 

足元に転がっていたアンデッドの頭をアリスの方に蹴り飛ばす。千切れ飛んだ首はゴーレムの胸部を貫通し、柱で不快な水音たてて潰れる。

「ほら、さっさと片付けんぞ」

「言われなくても………分かっていますわ!」

縦横無尽に振るわれる刃が硬いゴーレムも、腐った死体も紙切れ同然に切り裂き、怒るのも仕方が無いと納得する。休憩中の敵の追い払いという役割を引き受けていたそれを潰されたのだ。その傍らで氷水魔法で冷気を放ち、アンデッドだけを凍らせるクロエは、襲い掛かってくるゴーレムの拳を受け止め、回して凍らせたアンデッドやゴーレムを纏めて掃討する。アンデッドを凍らせたのは消臭目的だ。しかし、

「………数が減った気がしませんわね」

「うるせぇ!口より手を動かせ!」

「仕方ありませんわね。少し距離を取りましょう」

「邪魔だ!砕けろ!」

翼を展開し、クロエが突っ込む。敵を粉砕しその後には一本の道ができた。

 

「いちいち刀で斬ってたら埒が明かないな、近くに来るのは向日葵に任せる」

「分かりました」

「……………」

任せようと思って、向日葵の方を見たら強欲で伸ばした腕でゾンビを真っ二つに力技で裂いていた。

実際問題、俺の見える10フロア先までゾンビとゴーレム軍団、最初はそこまで大量にいなかったので問題無いと思っていたが、どこからともなく湧いて出て、気づけば階一杯に見える範囲は埋め尽くされていた、下がるか殲滅しかないが、それより飯だ。とはいえ、放置すれば圧殺されるし、アナスタシアのところに戻っても、聖属性ではアンデッドには効果的でもゴーレムには効果が低いし、手っ取り早い方法はいくつかしかない。代行者、俺の魔力を7割くらい使えば凍結魔法でどのくらいの範囲を凍らせられる?

 

《見える範囲を超えますが?》

 

じゃ、10階分凍らせる量にして、それで一気に敵ごと凍らせる。入り口は氷で固めてくれ、俺はアナスタシアやクロエたちの付近を凍らないように調整する。

 

《了解しました》

 

「向日葵、こっちに」

「はい」

「いくぞ!フリーズ!」

ただ唱えただけだと正面から一直線にある物を諸共凍らせるだけの魔法だが、その性質を利用して凍らない箇所を指定し、残りすべてを凍らせる用途で放ったのだ、………しかし、全力使用は試してなかったので、天井までびっちり氷の壁がそり立った。

「水晶の壁のようで壮観だが、中身を鑑賞目的(ディスプレイ)の物だと思われたら趣味を疑われそうだ」

 

何というか………一級品の額縁に安物の絵や写真が入っているような、辛うじて人型をした土塊と腐乱死体の詰め合わせ、ゴーレムとか動いてなければただの土だし、飾る価値無し、ゾンビのリアリティーはいいが、となるとゴーレムが………ま、どうでもいいか、

「向日葵、入り口方向に掘削してくれ、方法は任せる」

「分かりました。時間が掛かると思いますので休憩して待っていてくださいね?」

そう言うと手の形をした青黒い霞が氷の壁を殴りながら前に進んでいく。

 

結構時間は掛かったが、凍らせた階はなんとか抜けた。

「向日葵、ありがとな」

「はい!」

「疲れてないか?」

「大丈夫です!」

「そ、そうか………」

軽く両手を握る向日葵、元気だな、問題なさそうで何よりだ。ただ抜けた先からは大群がいると言うわけではないが、このフロアは吹き抜け6階分の天井高。先にも似たフロアがある。

しかしそれより気になるのは階層のルールだな、今現在吹き抜けの階にいるが、千里眼を使えばこの先の10階先が見える。仮説はいくつか立てていたが、ダンジョンと言うのは一階一階、亜空間として独立しているのでは無いか?と言う事、

まずフロア事に広さや階段の位置関係、外から見たビルの見た目から、それぐらいの事は推測できる。下の階はビルの大きさを超えてかなり広かったが、今はビル同等より僅かに狭い。上に行くほど狭くなっているが、ビルは歪な形をしている訳でもなく真っ直ぐだ。このフロアの階段も本来なら6階分登る階段が必要なのに1階分しかない。しかしなんの問題も無く次のフロアにいける。

「ああ………まだ大物がいるんだよな」

このフロアには通常だと頭が天井にめり込んでしまうトロルが居た。もちろんやったが、この先にも同じ様なフロアがある。ただこの先、かなり厄介なのがいる。蛇がとぐろを巻くように距離だけは長い一本道なのだが………

「一回みんな隔離に入ってくれ」

「い」「や……」「です。」「…………ワタクシの台詞は?!」

アリスには優しくしよう、そう心に誓うと同時にごねられてもしょうがない事なのでアリスに申し訳ないと思いながも隔離、入念に準備運動をして、フロアに入る前の踊り場で深呼吸。意を決して飛び出す。すると後方で轟音が響き、通路いっぱいの圧力が迫ってくる。確認していた事なので後ろを振り返らず全力疾走だ。

「チッ、このフロアだけ広く作りやがって!」

毒づいたところで速度はこれ以上上がらない。時間稼ぎになるか知らんが、ピンを抜いた手榴弾を虚空に放る。

 

ボコォ!ボォ!バスッ!

 

………駄目か、このままじゃ追いつかれる。効果はなさそうだしここは使い方を変えよう。取り出した手榴弾のピンを抜きふんわりと前に放り、それに追いこすと同時に跳んだ。

 

パァァァン!

 

爆風の煽りを受けてゴムボールのように飛ぶ。受け身をとって、その勢いのまま、やっと着いた突き当りの角を横に跳ぶ。炎熱無効無かったら死んでるけどな、その直後轟音をたてて壁にぶつかるものが、詳しくは見てられないので走りながら説明しよう。あれは肉食ワーム、壁ギチギチ大口を開けて突撃してくるのは飲み込む力が無いため勢いで奥に送るためだ。厄介なのは重要器官が体の後方に集中しており、残りは口以外はすべて消化管になる。一番長い直線の通路にすべて伸ばしても急所が直線状に現れない。万能結界は能力が下がるので止められないし、移動に支障をきたすだけだ。………にしても階とか考えるとエグい罠だ。頂上まで半分を越えてから、あのゾンビ、ゴーレムの混成軍団を倒すには万全の準備や装備が必要になる筈、当然役割分担をするだろうが、後衛の有無はともかく、防御を受け持つ者が必要になる。盾や鎧は重い、俺みたいに先のフロアを覗ける者ならまだしも初見対処は無理だし、装備重量的に間違い無く食われる。

先に進めたとしても役割分担をしっかりしてる所ほど欠員の影響が大きく出るだろう。………帰り道どうすんだよこれ、なら何故進んだと言われれば俺一人なら帰る方法があるからだ。とにかく俺も食われない為に走るか、次の突き当りを曲がると同時にまた轟音が響く。

「動くなよ」

前方に立ち塞がるゾンビの壁を側面の壁を走り躱す。その後グチャという音と何かの拉げる音が聞こえた。巻き込まれたら俺もああなると言うことだろう。………背筋が凍りそうな思いを純粋なスリルとして楽しむ他ない。身が縮こまりそうだからこそ、顔には不敵な笑みを浮かべる。

「心が体に影響を与えるように、体も心に影響する」

 

ー心は軽く、気持ちは軽やかに、

 

ー己を縛る制約を容易く振り切り、

 

ーただ前だけ見て進む。

 

身を焼く焦燥感と風吹く爽快感、それをもっと謳歌すべく夢中で走る。立ち塞がる者は躱し斬り捨てまた走る。

「ヒャッホゥォ!」

手榴弾を追い越して加速、ゾンビに飛び掛かり、バラバラにする。通路を塞ぐゴーレムは魔力が無くならない程度に身体に込めて殴って砕く。

「失せろ!」

ゾンビの壁を飛び越え、ゴーレムに一撃入れて、姿勢が崩れたゴーレムをそのまま踏み台にしてフロアの外に続く階段に飛び付くと、一気に駆け上がる。

「ハァ、ハァ………ハァ……」

 

うわぁ………、どっと疲れるわー。ちょっと間動けそうにないな、大の字に寝そべると床が冷たく気持ちいい。コンクリートかタイルか知らんが、

「やっぱ………向いてないな」

体の使い方は人それぞれ同じようで違う。何かを手に取る動作一つとっても、周りから同じに見えても、重心、負荷のかかる場所、持ち方等、微妙だがある。それは体格や筋肉、骨格、普段の生活、姿勢、癖、他にも様々な理由から生じるもので、そこから当然得手不得手も生まれる。

しかし、苦手だからといって出来ない訳ではない。向いてないだけなのだから、戦い方なんかもいろいろある。静と動、陰と陽の様に反対の事柄は大概不得意になりやすい。俺はあんまり動き回って戦うのが得意じゃないんだ、

身長を例にあげると物を取る際、自分では手が届かない程高い所にある物を取るのは自分より背の高い人なら容易く取れるだろう。だが、低い場所にあるものの場合は、その背の高い人物には身を屈めないといけない為、腰に負担が掛かる。

「出て来ていいぞ」

隔離から向日葵達を出す。暫くは文句言われるけどいいか、

「ご主人殿ー!」

「ヒール………」

「な、何か冷たいお飲み物をお持ちしますので!アリス!タオルを!」

「わ、わかりましたわ!」

「落ち着け」

 

バタバタすると床に寝そべってるから振動がね……

 

「もう少し静かにしてくれよ」

「ご主人様、あれが原因ではと思いますわ」

 

ん?

 

こんにちは。肉食ワーム。……………っておい!フロア超えてくるのかよ!

 

「アリス!魔眼で動きを止めろ!」

「わかりましたわ!」

アリスが止めた一瞬に合わせて前のフロアの出口とワームの体を凍結魔法で固める。ここは通路じゃない。口以外はが露出しているのだ、恨みはキッチリ返させてもらおう。ギリギリまで魔力その他諸々を吸収してからタコ殴りにしてやるか。

「すいませんでした!」

背中にゴシック体の数字の付いたゴーレムが出てきた。………土下座してる姿がシュールだな、

「あの、それ一応うちのダンジョンでは、強い部類に入る魔物なので相応の見返りを準備させてもらいますし、頼んでる立場で……………」

「あー、わかったわかった、お前コアだろ?このダンジョンに関して聞きたい事があったから来ただけだ」

「………外観のこと、ですよね?」

「ああ」

「インターホンを押さなかったのは?」

「真下が落とし穴のトラップになってただろうが、ご丁寧にボタンを押したら床が開く奴」

俺の千里眼で見通せないくらいには深い様だしな、

「ここは叛逆者の墓標、そう呼ばれるダンジョンです」

詳しく話を聞くと、このダンジョンが生まれたばかり頃にある勇者が訪れたそうだ。彼は帰るすべを探していたそうだが見つからなかったそうだ、だが見つかる事なく最期に、このビルになれないか?と聞かれたそうだ。ダンジョンは宝物等を配置し、人などを誘い込み、そこで殺す事でその魂、肉体のすべてを吸収して成長する。………この辺りはまだ学者達の間では物議を醸しているが、コアから聞いたのでこれで合ってる。彼は『たとえこの世界で死ぬとしても魂は、心は、未だあの場所にある。だからこそ、この世界ではない場所で死にたい』そう言ったそうだ。コアも強い者が死ねば多くを得られる為にこの姿になった、と言う事らしい。それからここに自らの意思で死ぬ為に異世界人が訪れる事から、何時しか叛逆者の墓標と呼ばれるようになったそうだ。

「はっ!勝手にこっちに呼んでおいて、その言い草か?………あーあ」

ここ自殺名所みたいになってんな、いくつか腑に落ちない点はあるが、

「なあ、なんでダンジョン内だと悪魔系のスキルは強くなって、天使系は弱くなるんだ?」

「え?そうなの?」

「……………」

こいつが俺の求める答えを持っているとは限らない。聞いてわかるなら苦労しないか、

「僕らはスキルを習得出来ないですし、スキルに関しては、ここに来る人達が使うー、って印象しか無いですね」

どれどれ………本当に無いな。名前の欄に背中の番号と同じ26、とあるだけで他は種族さえ無い。

「………聴きたいことは聴けたし、俺等は帰るわ」

どこで死んだのか知らんが手ぐらいは合わせておこうか……………


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。