この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

61 / 86
魔力?何それ、美味しいの? 卒業編

 

「ではその状態を維持じゃ」

「はい」

こっちに来て初めてぶつかった壁は、魔法の基礎、魔力操作だ。魔法の使い方は幾つかあるらしい。一般的な魔法は放出、聖職者や、精霊使いが使う魔法を委託、そして身体強化や、魔法の上級者が使う循環、周囲の魔力の動きを知る感知、とその動きを操る操作、生まれ持った者以外は習得不能な魔力の視認………他にも技術や応用もあるのだが、視認は出来る。だが、身体の中の魔力とか、魔法が発動する原理とかさっぱりだ。本を読んで知識はあるのだが、言えば発動する訳で、魔力の使い方の説明ができないのだ。前、畑の類人猿が預かってた子供の中に、魔力を視認できる子がいて、魔力は光って見えるらしいのだが(俺には空気中を彷徨う埃みたいに見える)、相当な量が漏れてるらしく眩しくて眠れないそうだ。なので魔法の基礎の実技講習を受けている。最初はあの二人に聞いてみたが、

 

「そんなん、言うたらバアーなって、ドンや」

「魔法を使ったら、何か力が抜ける感覚があるだけでそれ以上は………」

 

芦原さんは意味不、藤白は引き落しで魔力が引かれるみたいだ。…………ついでに代行者に聞いてみたのだが、俺は自然に出てる分でちょっとした魔法なら消費無しで撃てるらしい。それによって傾向も分かった。本来の形から離れ、事象に対する強い干渉を行う魔法を行使すると消費魔力が増える。逆に基本に忠実で、シンプルな魔法なら消費は少なくなる。お陰で少し体の中の魔力と言うのが理解できるようになって来た気がする。

 

「上手いの。じゃあ次は身体強化じゃ」

「よろしくお願いします」

「……………ヘタって無いようじゃな」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。結構魔力が多いと思っただけじゃよ」

「ははは…………よく言われるんですけど実感無いんですよね」

笑って誤魔化す。俺の魔力は人より多い。それは漠然と感じている事だが、どの位か見当がつかない。

「まあ、練習できるならいい。方法の説明としてはいろんな言い方がある。一つ目は高速で循環させる。二つ目は体を器に見立てて魔力で満たす。三つ目は鎧のように表面に纏い、体の動きを補助、………知ってる限りではこれだけじゃ………それと技術は異なるが目や鼻、耳などに魔力を集中すると感覚が強化される」

 

その内、水の上に木の葉の浮いた入れ物持ってきたりしないよな?そんな事が頭の中を過ぎったが、一つづつ試していく。まず高速循環、これは俺には向かない。動かねぇわ、これ、全く動かんから視点を千里眼で三人称視点(ゲームで操作キャラを俯瞰する奴)で見てみたが、魔力が渋滞起こしてる。特に手足と指先、細くなる箇所がとにかく詰まる。代行者に原因を訪ねた所、

 

《魔力が多過ぎます。循環させる量を減らしてください。破裂します》

 

怖いこと言うな!仕方無いので充填にした。魔法とはイメージに左右される、なので体全身を意識する。骨や皮、血管、皮膚、細胞と人体模型や教科書を思い出しながら、全身に魔力を込める。まずは足、太腿、腹、胸部、背中に肩、それから腕、順番に魔力を込められるだけ込めていく。

 

「ふう、…………中々疲れるな、これは」

 

 

 

 

…………………あれ?なんか声違くない?

 

「あ」

「あ」

 

魔力の使い方を教えてくれた、おっちゃんと目があった。が、視点が高い。俺の、

 

「…………なんだこれは」

体を見てわかった。どこのスーパーマンだこれ、俺は多少体を鍛えているが、それは精々細いが筋肉が付いてるくらいだ。現在の状態は、100キロ超級のボクサーやレスラーのそれ、若干ぎこちないが自分の意思に従って動く手、髪の毛も少し逆立ってる。……………性能テストは別の所でやろう。代行者、これ解除できる?

 

《周囲に魔力を放出すれば可能です》

 

なら頼む。煙のように体から魔力を抜くと、視点の高さが元の位置に近づいていく。ちなみにさっきのでどのくらいの魔力が出た?

 

《約三割です。なお、先程の形態は3時間以上の使用は肉体の耐久力が持たないので使用しないでください》

 

これもリスク付きか、最後に表面に鎧………結界でいい気もするが、できて損はないのでやってみる。うん、普段と変わらん。ただ防御の観点では普通に硬い。同時に発動出来るか?

 

《可能です》

 

おっちゃんは顎が外れそうな顔してるけど、まあ、このおっちゃんから教われることはすべて身につけよう。それと実験も、

 

ヤベェ、マジヤベェ、何がって身体強化だ。ギルドの依頼をやったのだが、前のデカイ牛のと増えてるなんちゃらタイガー(忘れた)の討伐依頼だったのだが、ワンパンだった。最初にタイガー行って正解だった。飛びかかってきたのを殴り飛ばしたのだが、余波で近くの木の葉が拭き飛び、木が禿げた。タイガーは一部を残して霧散した。………その後逃げるタイガーに実験手伝ってもらうのが忍びなかったが、討伐数の指定がある依頼だったので仕方無い。それでも、デカ牛に様子見で放ったテレホンパンチで気絶される。瞬間で視点を切り替えたらちょっと地面から浮いてたし、まず対人戦には使えない。殺す分には何ともないが、それ以外にも速度が遅くなってる気がする。

 

《現在の状態は通常時から比較して約1.5倍の体重があります》

 

うぇーい、………その割には速くない?昔測った時68kgだったから約102kgくらいか?というか見た目の変化なんとかできんの?

 

《込める魔力を減らせば可能ですが、それに従って筋力等は弱くなりますが、宜しいですか?》

 

要望としては見た目を変えず、速度を落とさず、できるだけ長期的に使える加減を教えてくれ、

 

《では、充填を32%、外部補助型を併用してください》

 

こう言うの数字で言われると難しいんですけど、こんな感じか?見た目変わってないし成功だろう。………たしかに速い、だがキレが悪い。外側のイメージも改良しよう。現在は表面をただ覆うイメージだが、これをサポーターやバンテージそれらで補強するイメージに変える。すると、突きが鋭くなり、更に速度が上がった。キレもいいが、防御力はさっきよりも下がっている。表面のイメージを変えるだけでも色々できそうだ。今日は牛肉を使った料理が食卓に並ぶだろう。

 

昨日は牛シチュだった。

「死ねぇ!」

 

カッゴッ!

 

飛び掛かって来た男の握り方の成ってないナイフの柄を蹴り上げ、顔面が来る位置に軸足の回転を加えて肘を持って行き、迎撃する。

「………鬱陶しい」

残りをラリアットで纏めて倒す。交通事故とも言う。ベシャ、っという音たてて壁にぶつかると白目を向いて気絶した。別に体格は変わってないが、威力が強過ぎるな、身体強化、死んではいないが確実に病院送りだ。

「ほら、大丈夫か?」

無言で頭を下げると直ぐにここを離れる兄弟を見送る。全部守れる訳ではないが、目の前で起きる防げることぐらいは助ける。戦争があるだけあって傭兵や犯罪者紛いの冒険者が仕事と金を求めて集まっている。当然血の気の多いのやら、頭のネジの飛んだ連中もいるし、戦争前だと知って集まって来ているのだ。一触即発のピリピリとした空気が流れるのも当然だが、人に当たるのは別問題だ。各々の思惑云々は邪魔にならなきゃ放置でいいが、目につく悪事なら適当に潰すし、邪魔なら動く前に潰す。今回は目立つのでノエル達は街の外に待機してもらっている。もしもの時の救助部隊でもあるのだが、深く切り込む為には相応のリスクが付き纏う。勇者のいる教会へ足を踏み入れる。

「着きましたよ」

「えっ!あ、はい………」

「………やっぱり違和感がなぁ

ニッコリと笑顔で同行者二名を威圧する。

「どうかしましたか?」

「「何でもない」です」

今回はアスメシアNGOの視察ついでの挨拶(建前)、俺はその護衛として同行している。…………多少、いや大分不安があるな、挨拶だけだが、事前に言質を取る様な話には濁す事と下手に誤魔化さず、普通に話せばいいと言ってある。それと幾つかの重要事項は知らない、答えられないを使い分ける様に言ってあるが………

 

はあー、無駄もいいところだった、反省会もやるぞ、まず勇者会えず、言質は取られなかった(ギリもギリ、今後の押しをしっかり断れないとアウトだ)藤白がチラチラこっち見るし(論外)、その点、芦原さんは問題ない。多少危ないが動じない姿勢は情報漏れを防げる。まあ、フォローは苦手で後半藤白に集中されたのだが、その辺りは『何無視しとんねん』と言わんばかりに、芦原さんがメンチ切ってたのでこの場はうまく話を切り上げられた。………空気は悪かったが、

 

「藤白は反省、芦原さんは………今回は助かりましたけど、穏便な方向性の交渉も出来ればお願いします」

 

でもって、勇者だがダンジョンにいると教会は言っていたが、街中で遊び歩いているなんでもパーティーメンバーを募るのだとか、女性限定で、明確に口にはしないが態度や採用者と他を比較すればわかる。追加で言うなら、女性限定でも、こいつの好み次第、話すのも面倒な屑だ。わざわざこんな奴と同じ次元、土俵で話せと?人目に付かないところで気絶させて、隔離にinさせてやりたいが、周囲のパワーバランスやら、現在戦争前だと言う事もあるので、直接潰すと不味いことになる。

 

「何処の政治屋も馬鹿ばっかりだな」

 

政治家と呼べるのはおそらくほんの一握りだろう。政治家に必要な能力は詐欺師に必要な能力が大半を占める。一流の詐欺師は一流の政治家になれるだろう。二流、三流の政治家では詐欺師としても二、三流止まりだ。まあ、部署毎の得手、不得手は除く、追加で言うと能力だけの話だ。目的と手段、金は天下の回りもの、なんて言うが、実際は天下が金の回しものとは正しくその通りだろう。じゃあどうする。諦めるか?

 

 

なんで俺が諦める(折れる)必要がある?

 

 

方法ならこの馬鹿共が使ってる方法がある。

 

 

折角俺がやるんだ。馬鹿と同じ次元でやる必要は無い。

 

「穢れ、汚くも伸ばしたその下賤な手を、俺はただ一方的に、徹底的に、圧倒的に、そして一切触れることなく破滅させてやろう」

 

纏めて片付けるにはちょうどいい機会だ。クツクツと嗤いながら、刀に手を掛ける。そしてカチン、と刀が鞘に収まる音を二人は聞いた。しばらく間があってから後ろで何かが砕ける音がした。それは教会のシンボルとも言える救世主の像だった。

 

蛇の道は蛇、餅は餅屋、なんて言葉があるようにその道の事はその道の人間に聞くのが早い。

「遊びに来たよ、あっ、豆パン30個ね、焼けるまで待つよ?」

「はい、お待ち、今回はサービスしとくから二度と来るんじゃねぇぞ?」

「チッ、………諦めろ」

「………わかったよ、焼きたてが食べたいならそう言ってくれればいいのに」

「頼むぞ、出来た豆パンはこいつに出してくれ」

「お願いしますにゃー」

「…………本当に焼くんだね」

「まあ、代金だ、足りないかもしれないから計算してくれよ。なに帰るときに足りない分は請求してくれればいいし、気付いた時にでもいい」

「ああ、間違いが無いように数えるよ」

そう言うと、茶色のエプロンで手を吹きながら店主は奥へ消えていった。その後すぐに戻ってきて、店の入り口の方に行き、開店中の札を閉店に裏返すと店内に戻ってきた。

 

「それで、今回はどの様な御用向きで?」

 

パン屋の店主からゴールドアイの首領としての顔に変わる。と言ってもこの室内にいないとこの空気の変化は分からないだろうが、

 

「まあ、取りあえずベルトゥード教の勇者、生駒 翔について知ってる事はないか?」

「………うーん、あまりいい噂は聞かないけど、彼がどうかしたのかい?」

 

ここでは少し意表を突く方がいいか、情報量も安くできる可能性がある。

 

「こいつを見てくれ」

 

名前 生駒 翔

種族 人

パーソナルスキル 超速回復 劣情

スキル 剣術3 投擲1 聖魔法2 闇魔法 5

称号 勇者 色情魔

 

「これは!………もしかして、勇者のスキルかい?」

「ああ」

「………にしても、称号にこんな物が出るなんてね、しかも悪魔系のスキルか、まだ劣情くらいなら意思の強い者なら勝てると思うけど、仲間は場合によっては足を引っ張るかもね」

「ああ、あれ洗脳の類のスキルか」

「言葉と身体的接触で効果を発揮するそうだよ。ちなみにこの紙に書かれてる事は」

「相手国に売ってもいいぞ。俺はどうやってそれで金を集めるか方法がわからないからな。一割貰えればいいさ」

「それでいいのかい?」

「お互い着かず離れずで行きましょうよ、その方がどっちにとっても得でしょう?」

「それはそうなんだけどね…………まあいい、次は何かな、戦争の相手国?それとも周辺諸国の方針かな?」

困った表情をする首領、まあ組織の存亡を握れる相手だ。少しでも有利な立場を模索したいのだろう。

「やっぱり耳が早い。まずは周辺諸国の勇者の対応とスタンス、その次が周りの軍事力、兵糧の観点で勇者を除いた場合の戦力比較の順で頼む」

分かったことをまとめると、まず勇者側は戦力が少ない。勇者本人も大した戦力じゃないが、攻め方を間違えると自国の戦力を盗られる。そこまで万能な能力では無いが、悪魔系である事と実態が掴めていないことが二の足を踏ませている。それと周辺諸国同士も味方では無いので、お互い牽制しているが飛び抜けた戦力を持つ国も無いため、自国の防衛を疎かにすることも出来ないが、かと言って中途半端な手勢を送っても相手の戦力が増えるだけ、無い物は逆立ちしても出てこない。

「他に聞きたいことはないかな?」

「そっち側の情勢は?何時ぐらいからキナ臭い匂いがしてた?」

「…………あそこは基本的にずっとだよ。落ち着いてる時が珍しいし、僕はあまり手を伸ばしたい所じゃないかな」

「そうか」

「まあ、最低限情報は集めてるけどね」

「おいおい、足りないなら直接額を言ってくれ、あとで釣りが面倒だろう?」

金貨五枚ほどを机に積み、付き出す。

「しがないパン屋に、そんな大金を預かれませんよ」

「まあまあ、多かったらあとで返してくれればいい」

そこからは根掘り葉掘り、細かい所も知らない所以外の情報を揃えて、計画を練り直す。大体、調べた通りだな、情報が違う箇所には偽情報があるため、そこから相手の目的と方法を探る。

「うにゃ〜………他のパンも食べていいにゃ?」

「………流石に飽きるよな、ごめん。好きなのを食べたらいいし、食べきれなかったパンは収納しとけばいいから」

律儀に豆パンだけを食べてたクロシェット。言っておかないとこういう事が良くあるんだよな、向日葵やアリス程では無いにしてもだ、その手にはいつの間にか別のパンが握られてた。

「パンのお代はこっちで引いとくから………」

「大丈夫にゃ、パンのお代はおじさんのポケットに入れといたのにゃ」

「………………何故執拗に右ポケット?重いんだけど、しかもギチギチで銅貨一枚も取れ無いんだけど、むしろポケットが取れそうなんだけど?」

 

…………凄い歩きにくそう。とか思ったが、周りを見ると周囲の籠のパンが全て空になってた。

「すまん」

「ん?ああ、いいよ、このくらいの事なら………次注意してくれれば」

「じゃ、そろそろお暇させてもらうよ、勘定」

「お釣りは?」

「付けといてくれ」

「…………そこはいらないって言うところじゃ」

「そこは着かず離れずって事で」

「次来る時はモリソンと呼んでくれ、この辺りではそれで通ってるからね」

さてあとは帰るか、………っとその前にギルドの依頼と掘り出し物探しもするか、


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。