この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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この話は断じてテコ入れではない!!


自動人形(オートマタ)のお仕事

ー5時間前、

 

森に忍び寄る複数の影、遮蔽物は無いので丸見えになるので匍匐前進してやっと草に隠れられる場所だ。

「本当にこんな所に金目のものがあるのか?」

「なんでもこの森に入ろうとした盗賊団は大小問わず、末端まで全滅してる。それでもここに来るやつがいるってことは、とんでもないお宝があるに決まってる!」

「………でも、ここまでしなくてもいいんじゃないですか?もう腕がげ…………」

 

ボォン!

 

少し姿勢を高くした若手の頭が弾けた。

「おい!…………チッ、駄目か」

「何だ今のは?!新手の………」

「頭下げろ!」

その後は全く音沙汰なし、彼等は誰一人として途中頭を上げることなく、森へ入っていた。

 

「チッ、一人か………あんまりコレじゃあ、数は殺れないんだよなぁ」

木の上で悪態をつくメイド服に身を包んだスナイパー、肩に担ぎ直して、木から飛び降りる。

 

ズベッ!

 

「痛っい!………お尻がぁー」

しかも泥濘んでるので洗濯しないと綺麗にならない。思えばいつもこうだ、何かしようとしてもコケる。初めは朝食を作ってアピールしようと思ったのだが、食器棚に蹴躓き、まるごと………塩と砂糖だって何故隣同士で並んでいるのか、ダンジョンでは、上手くお茶を淹れられたのに砂糖と塩を間違えてしまった。最近だと、スイカを食べるのに塩を持ってきてくれ、と言われ時は同じ赤い蓋の味の素を持っていってしまった。マスターにはいつも迷惑をかけてばかりいるので何かすこしでも力になれることは無いだろうか?マスターはいつも優しい人だ。何度コケても受け止めてくれる。そんなマスターに粗暴な言葉遣いの者が相応しい訳がない。仕える者に相応しい者にならなくては、それがクロエの心の中にある。………アリスより上手くできている自身はある。

 

『首尾はどう?』

「チッ、最悪、ほぼ全部森に入った。」

『規模は分かる?』

「少なく見積もっても30人は超える。殆ど頭上げなかったけど、それ以上はいる」

『了解。じゃあ逃走したのがいたらそれ頼むから』

「おい、森に入ったのはお前がやるにしても、残ったのはどうするんだ?逃げないように出来ればこっちでやるけど?」

『そっちは私がやる。防衛はレアがやる』

「レアか………大丈夫だろうな?」

『………ご主人殿の判断に意見が?』

「マスターの意向なら私は遵守する」

『では、そっちはお願いしますね』

「…………チッ」

返事代わりに舌打ちをすると背中から黒い翼を出す。出てくるはずの無い逃走者の見張り、暫し空中で過ごす時間をクロエは鏡に向かい合って笑顔の練習をした。

 

「うわぁぁぁぁ!」

「なんだ!?この………」

「おい!誰かぁー!」

始まりは一本のボウガンの矢だった。後頭部を射抜かれた死体を確認し、その先を見たが誰もいなかった。そこから暫く先に進むと今度は先頭の一人が足を取られて、先に引きずられて行った。その後は散発的に四方八方からボウガンの矢が飛んでくる。お陰で一箇所に集まり、肉壁が出来るが、正直避けたり弾いたりした方がいいが、みっちり集まっているため身動きが取れない。その上的確に急所を撃たれているので一発一人のペースで減っている。残りが十人程になった時、矢が来なくなった。

「………終わりか?」

警戒を解き、誰かは分からないが、仲間の一人から漏れた言葉を聞いた直後、彼等は突然浮遊感に襲われ天地が逆転し、地面に叩きつけられそうになるが、足を何かに引っ張られ衝突は免れる。

「何が?」

何かに引っ張られる足を見ると、今まで気付かなかった木漏れ日に照らされる輝く赤い糸が、自分の体重を支えるには不安のある細い糸が他の仲間にも足や手の違いはあれど巻き付き、全員宙吊りにされていた。

 

「宇佐見さんがんばりましたねー、宇喜多くんと宇佐川さんはもっと積極的にお願いしますね~」

 

気の抜けた声が近付いてくる。足元を飛び回るウサギを見ながら、そしてそこに宣言される。明確な死を、

 

「今日ー、クロちゃんがアンコウみたいな魚を捕まえてきたので、解体の練習台になってもらえませんか〜?それと手術と拷問と薬品の~?」

そう言うとウサミミの生えた少女は、ポケットから小さな裁縫キットを取り出す。その数三つ、

「まずはっ………とー、お腹にお水を入れるんでしたね〜」

そう言うと、手近な腕を拘束されている女性に持っていたホースを口に突っ込む。が、当然生きてる人間が無抵抗で水を飲み続けるなんてことは出来ない。一定の量からはポンプのように吐き出してしまう。暫くはそれを繰り返す光景を見せられる彼等は自分達にもこの訳の分からない拷問が行われるのか、そんな風に考えていたその時。

 

「ああーもうー、いいです。胃が膨らんでればokだ〜、って書いてあったし」

 

彼女の手の中に握られていた裁縫キットが蠢き、赤い液体が飛び出す。禍々しい大太刀を形作り、それが目の前の女性の腹を切り裂く。間があって絶叫が響く、少し膨らんでいた腹を切り裂くとその傷口に間髪入れず腕を突っ込む。急な事にどうしていいか分からず固まっている間も彼女の作業は黙々と続く。辺りにグチャグチャと水音をたてながら、当然もがいたりして抵抗するが、あまり影響はない。しかし、ふっと動きが止まる。

「そうでした〜。本番に忠実に行かないと、駄目ですよねー、まずヒレを………無いですから腕は落ちちゃいますから、足にしましょう」

 

大太刀を軽く横に一閃、女性とは言え、消して細くない二本の足を太腿で分離した。彼等は知らない。これがアンコウの吊るし切りの練習だと言う事を、

「皮はちょっとめくりにくいですし、やめておきましょう。」

そう言って次々と内蔵を取り出し、並べる。時より何かを引き千切る音を立てて、何かを握った手が女性の腹から出てくる。大量の失血に臓器の喪失を伴って弱っていく様をただ黙って見ているしかなかった。最後のその瞬間までも、

 

「仕上げは三枚に卸す。でしたっけー?」

大太刀を肩口から地面に目掛けて振り下ろした。

 

「ふぅー、終わりました〜」

『そっちはどうですか?』

『今日のアンコウはうまく捌ける気がします!』

『………そう、なの?殲滅できたならいいけど、そっちから報告はない?』

『得にはー、ないですよ~?ただ、片付けが大変だから誰か手の空いてる人をプリーズ〜』

『アリスを向かわせますね』

『えぇ~、だったらいいです。説明してる間に一人で片付けられます〜』

『………別に一箇所にまとめて置いてくれれば私が燃やしますよ?』

『いえ、クロちゃんに片付けてもらいます』

よく会うクロシェットはクロちゃんと呼んでいる。クロエはクロエ、

『では、私も戦うので切りますね?』

『お気をつけてー』

そう言って会話を打ち切り、片付けに入る。その前に服のポケットを叩く。その中には裁縫キットの箱が入っている。その直後赤い糸や地面に突き立てられていた大太刀が形を変え、ポケットに吸い込まれていく。

 

「はう~、やっぱり旦那様は凄いですー。」

 

レアは戦う力より、支える能力を望んだ。そんな自分でも戦える武器を与えてくれたのだ。足元のウサギは自作の移動砲台のような物だ。口からボウガンが撃てるようになっていて、森でのカモフラージュは高い。まさかウサギから矢が撃たれてるなんて夢にも思わないだろう。自動と魔力を繋いで手動、声による命令式など複数の命令を受け付ける高性能な物なのだが、この主人より与えられた武器とは比べ物にならないだらう。名前を血糸・無形(ティルフィング)。ドラゴンの血とアダマンタイトの箱とシンプルなものだが、魔力を流せば中の血がイメージした形に変形する。それこそ大太刀から極細の糸まで、血の方は様々な龍の血を集めて混ぜた物でどんな属性にも高い耐性を持ち、極細になっても凍ったり、蒸発したりしない。ただ切断するような鋭さはない事を微妙な表情で語っていたのをよく覚えている。箱の内側に掘られた制御式なんか絶対に真似出来ないレベルなのにそんなことを悔いる必要はないと思う。旦那様は自分に対する評価が低すぎるのでは?そんなことをよく考える。………実際、レア自身の身体は他の人形と大きく異なる所がある。体内に金属が仕込まれていない代わりに、他の子には無い機構やギミックが加えられていたりする。

「じゃあー、皆さんには敵が残ってないか索敵お願いしますね」

足元のウサギに声をかけると各々の方向に跳ねて行った。

「さて~、後片付けを始めますー」

その気の抜けた声とは裏腹に狂気と殺戮の現場に入っていき血塗られたその他の道具を丁寧に拭いて片付ける。その道具は主人から貰った知識にあった拷問器具だ。こびり付いて剥がれた皮膚の成れの果てを食器用洗剤で洗い、細かい場所の血糊は丁寧に布巾で拭き取ると、クロシェットの合流を待つ。が、その直後にレアは船の上にいた。

 

 

バキバキッ!グシャ、

 

「あぁぁぁぁぁぁ!」

「に、逃げろ!」

「逃しませんよ?」

青黒い霞、だがそれは手の形をしており、形を保ったまま、足を掴んだ。だがそれは、彼等には見えない。そのまま引き寄せて、迎撃するように向日葵はそれを正面から砕く、

 

ヒュン………ビチャ、ドチャ

 

固形物は素早く直線状に飛び、一定の細胞の集まりは少し先で重力に従って地面にぶつかり水音を出す。それらが本来あった場所から向日葵の笑顔が人型の枠の穴から覗かせる。

「あまり離れるとクロエに取られので逃げないで貰えますか?」

向日葵は困った様に眉をひそめる。北川に作られたオートマタ達は一部は料理、家事、洗濯等の身の回りの世話を持ち回れる者も居るが向き不向きがある。実際加減が下手な向日葵とアリスは家事をさせてもらっていない。しかし、それは普段役に立たない事に他ならない。ならどこで役にたてるか?………最近はクロシェットに瞬殺されていが、それまでは向日葵が侵入者を狩っていた。正義ノ使徒には他の使徒系スキルを与えられた者と思念による会話が出来る。ただし、繋ぐ権限は向日葵側にしか無い。……………関係のない事だが、思えば言葉が伝わるのでクロエのように声に出す必要はない。周りからは大きな独り言にしか見えない。

「クソ!こうなったらやられる前にやってやる!合わせろ!」

「「おう!」」

三人の男が飛びかかるが、

 

グシャ!ズチュ!ビチャ!

 

三人の胸部を穿つ青黒い霞、その手には一定の間隔で胎動する物が握られている。強欲により作られるこの手は触れられないものに触れるだけでなく、触れたい物と透過するものを選べる。心臓だけを指定すれば、抜きとる方以外は抉れない。当然心臓以外でも出来るが、この霞は本人の腕力÷増やした腕の数÷2なのでかなりの腕力のある者でなければ、腕の数を増やすほど弱体化してしまう。だが強欲で強化された腕力でオークの腹に風穴を開け、正義ノ使徒の権能、裁ク者により今まで倒した侵入者の分だけ全体的な力が上がっている現在、人を紙クズ同然に貫いたり、粘土のように捏ね繰り回す事もできるだろう。次々と心臓を取り出し、潰す。それを何度か繰り返し、全て片付けたら、一箇所に纏めて焼く。骨も残さず焼くのは時間がかかるし、高温を維持しないと主人や子供達が異臭を感じ取ってしまう。

「私もあんなふうに一瞬で焼ければなー」

主人たる北川なら一瞬で骨さえ残さない。せいぜい何かが焼けた匂いと焦げ跡くらいしか残さない。やっぱりご主人殿は凄い。向日葵の中の主人への感情は全てこれに帰結する。

 

そんな中頭の中で、さっき殺す間際に奪ったスキルを確認する。………良いものは無い。強奪系のスキルは強欲から見れば天と地程の差がある、いわば劣化版なので使わない。罠とか穴掘り、探知等が有用な所だが、役に立つ場面が限られてくるスキルばかりだ。………この際主人にスキルを整理してもらうことも視野に入れたほうがいいかもしれない。と思考を巡らせながら炎を眺めていた。………アリスよりは役に立てただろう。

 

アリスの朝は顔を洗うところから始まる。ご主人様もいつも冷たい水で洗っているので、それに習ってみんな冷たい水を使っています。外で遊ぶ子供たちとすれ違いながら食事を取るため食堂に向かいます。

「アリスお姉ちゃん、おはよう」

「おはよう、お姉ちゃん」

「お姉ちゃん、また特訓付き合ってよ」

いつものように子供達に声をかけ、アナスタシアの所に向かいます。

 

「………………もう昼」

食堂に入ってきたアリスに、アナスタシアはいつも通り、呆れ混じりのツッコミを入れた。ついでにアリスの背中には子供達のイタズラで紙が貼られている。何枚も、


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