ギルドで金を受け取って、列車乗り場を目指した。この辺りだけ、何か近代化している、といえど一昔前の、ノスタルジックな印象を与える。あのビルとは違い、街との調和は乱していない。この建物を作った人物のセンスはとてもいいものだ。鑑定してみる。
製作者 魔導建設(株)
設計者 Scarecrow
スケアクロウ…………案山子か、ここで真理発動。
Scarecrow (烏山 案子)
真理を持つ俺の前では隠し事や嘘は通じない。解らないことも検索する情報があれば知ることができる。足りないときは代行者に情報収集兼処理を頼む。今のところ、未来視は出番なし。
『ご主人様~』
『マスター………』
『マスター、どうかしましたか?』
『ご主人様、これなんですか?』
「ん?それは時計だ、時間を知ることができる。」
黒バラの質問に答える。だが、反応を見る限り、構ってほしかっただけみたいだ。
『そうなのですね!えぇと………あれは、何でしょう?』
すごく嬉しそう、こっちが引くぐらい………眩し!向日葵がこっちを覗き込んできた。
『むぅ~………』
エーデルワイスは頭の上、紫陽花は後ろにいる。そうこうしている間に列車が入ってきた。予め買っておいた切符で乗り込み指定された場所を探す。六両編成で前から運転車両、VIP 車両、食堂車、残りが普通の客席。そのうちの一両は個室があり、部屋番号3を目指す。作業もできるし、素性も隠せるし丁度いい。中に入ると少し狭いが作業する分には問題ない広さの部屋だった。狭いのは通路とこの部屋の入口ぐらいだろう。早速作業に取り掛かる。緋緋色金を出し、熱して溶かす。まあ、実験の意味もあるが少し怖い。元の世界でこれやったら体が欠損するだろう。この世界に来て一番緊張した瞬間である。意を決して溶けた金属に手を入れる。
『『マスター!!』』
『『ご、ご主人様!!』』
あ、先に説明しとけばよかった。悲痛な声が頭に響く。炎熱無効がどの程度か、確かめるのも兼ねて、やってみたが、駄目だったときのことを考えてからやるべきだった。手の方は何ともない。
「よし」
『『『『良くないです!!』』』』
この後、滅茶苦茶文句言われた。
辺りが暗くなり始める頃には、満足の行くものができた。それは若干赤っぽい金色の髪である。手ごと熱しながら細く伸ばした甲斐あって非常に綺麗だ。それを隔離で仕舞い、部屋の外に出る。
『どちらへ?』
「トイレ………」
紫陽花に話し掛けられたが、答えてトイレを目指す。
トイレは食堂車の手前、連結部分の近くにあるので、食事も済ませておこうと思ったが、手をしっかり洗っておくべきだった。食事というものは五感で味わうものだとある人は言った。今食べている物は美味しいのだが………
「金属の臭いしかしない………」
少し気分が悪い。特に胸の辺り、落ち着いてから戻ろうと思った、が、後ろの車両からガラスの割れる音がした。しかも連続でだ。代行者何があった!
《何者かが侵入したようです。目的は物取りでしょうか、数は23人、………急いで戻りましょう》
走って戻る。そんなに距離がある訳でわないので千里眼は使わない。部屋の前に着くと扉が開いていた。中を見るとガラスの破片が散乱しており、薄いカーテンを風が揺らしている。機構精霊の姿は見つからない。眩しいほど光っているのが災いした。今は夜、襲撃する側からすれば目印でしかない。代行者、犯人はどこだ!
《VIP 車両です。》
誰ともすれ違っていないはずだか?
《天井を移動していました》
姿を見られないことを重視している? 情報が足りない。千里眼でVIP 車両内を見てみると、この車両の客とボスらしき男が喋っている。そんなことよりモゴモゴ動いている袋だ、光ってるし十中八九これに入ってるだろ。迎えに行くか。ただ、人の物を盗む者には相応の罰を与えねばならない。
VIP 車両。ここは車両その物がひとつの部屋となっており、両側の入口は近衛兵が守っているが、今は床に倒れ伏している。鎧と兜の隙間からナイフを入れられ、一撃で仕留められている。
「金目の物、金は全て渡せ。あと武器もだ」
「王から賜った首飾り以外は全て渡す………だから」
「全部だと言った」
「しかし………」
ガシャン!
近くの袋を蹴った。その後ナイフを抜いてもう一度問いかける。
「命と首飾りどっちを取る」
恐怖が心の底から湧き上がってくるが、それでも渡してはならない。その言葉を口にしようとしたとき、それは音も無く現れた。
こちらVIP 車両天井上、北川龍登です。何故ここにいるかと言うと奇襲が手っ取り早いからですね。千里眼で中の様子を見てどういう手順で制圧するか決めて、後は機を待つ。方法は窓ガラスを防音結界で覆い、ボスと思われる男の後ろに出る。周りの奴は結界で覆い、邪魔が入らないようにする。そこからボスを押さえる。人質に手を出そうとしたら結界で守ってやるか。俺が突撃してから死なれたら目覚めが悪くなる。もう少しで突入ポイン………コイツ何晒しとじゃ! 制圧から殲滅コースに切り換えだ! 突入と同時にウインドで作った珠をいくつか飛ばし、結界にいっしょに閉じ込める。珠は圧力を解放し、その猛威を振るった。結界内はミキサーみたい。人がゴミのようだ。まあ死んでないと思うけど、こうやって見ると自信ないな。人間って丈夫だねー、で頭の隅へと追いやる。さて、コイツについて、まーだ気づいてない。ブッ叩くか。
「ぐあ!」
面白いように飛んだ。左手で持っている鞘を軽く振った程度だが壁まで飛んだ。あと首飾りのオッサン、こっち見すぎ、あれ………オッサン気絶してない? まあ、いいや。
「ぃてえ………、誰だテメェ!ぶっ殺してやる!」
自分の立場がわかってないようだな、お前は俺が作ったもの足蹴にした。その意味を教えてやろう。
「………言ったな、お前は殺される覚悟はできてるんだな」
ナイフを手に持ったボスらしき人物。コイツ多分俺と同じで送られてきた奴だ。髪が金髪なのに眉や睫は黒、金髪も若干色落ちして所々黒い。どうやって染めたのか気になるが、隔離でつきだした方がいいか、何て考えてたら、オッサンの方に突っ込んでいった。と言っても俺の真横だが、人質で脅すか、クズだな。結界を張って次の反応を見る。
「おい!お前………ら、………」
「今気づいたのか………」
仲間に指示を出そうとしてやっと気づいたか。あらためて見ると手や足が曲がってはいけない方に曲がっている気がするがそこは安定のスルーで。わざと一歩、音をたてて近づく、
「く、来るな!来たらコイツを殺すぞ!」
「できるならやってみろ。挑戦するのはいいが、その後はお前の首と胴体が泣き別れするだけだ」
それに触発されたのか奇声をあげながら振りかぶったナイフをオッサンの首に押し当てる。が、結界に阻まれ、刺さることはない。コイツアホだ。救いようが無いくらいに。ここは、駆け引きに持ち込むだろ。こんなのばっかり送ってたら隔離出番ないぞ。人の話を聴かない奴は嫌いだが、空気が読めないうえに救いようのないバカは嫌いだし、見ててイライラする。何か顔色悪いな、今頃理解したか、さてと………さよならだ。
カチン
刀が鞘に納まる。その後ゴトリと音を立てて何かが床に転がる。
再び抜刀、刃をなぞるように視線を走らせ、返して繰り返す。ぱっと見刃零れなどはないがやはり血が付いている。血払いをして刀を鞘に納める。部屋が汚れたがまあいいだろう。さっさと袋を開ける。
「大丈夫か?」
眩しい塊が激突してきた。そして頭に直接響く爆音、耳に指を突っ込んでも治まらない、泣き付いているのだと思うが、正直何言ってるかわかんない。
「落ち着け!あと泣き止め!」
『『『だってぇ~、えっぐ、』』』
『すん……』
一応落ち着いてくれたようだ。今思えばこの世界に産まれて3日目で拐われたのだ。たった数分でもその不安は計り知れないだろう。自分を親のように頼ってくれているのだ。それにふさわしい接し方があるはずだ。
「お前らの本体となる人形に関する希望はないか、勿論それ以外でもいい、………ここは譲れない所だが、お前たちは俺の大切な娘だ」
『嬉しいです!』
『嬉しい……な』
『ありがとう………ごさいます!』
『ふぁ~』
感極まった者から呆けているのまでいるが次の一言で戻ってくるだろう。
「まず一体、お前たちの体を作ろうと思う」
「ふぅー」
全員の希望を纏めたノートを閉じる。現在の希望だが、殆どおまかせである。俺の思うように作ってほしいらしい。現時点でも叶えられる希望は黒バラの名前をつけてほしいくらいだ。アリスとアイリスで迷ったが、確かアイリスは花の名前だったので紛らわしいので、アリスと呼ぶことにした。そのうち他の者も名前を欲しがるかもしれないので、一応候補を考えておく。勿論オッサンの意識が戻るまでだが。機構精霊は仕舞っておきたかったが眩しい以外弊害もないのでそのままだ。それにあんな事の後なのでできるだけ一緒にいてやりたい。
「うっ」
起きろオッサン、お前待ちだ。何か知らんけど気絶しおって。
「気が付いたか?」
「ひぃぃい!」
何故悲鳴?状況が呑み込めてない感じ?OK説明するよー、
「覚えてないか、一応俺が助けたんだが………」
手っ取り早く、安全と敵ジャナイヨーアピール。ハっとしてすぐに落ち着いた。理解が早くて助かる。と言っても事後報告ぐらいだけど。説明を終えて、残りの生きてる連中をどうするか相談する。
「街の自警団に突き出すといいだろう。報酬などは後で相談すればよいと思う」
「そうですか、死んでるのも突き出したら、報酬貰えますかね?」
「んー………、それが賊とわかるものがあれば問題ないとおもうが………」
「何か?」
「いや、何でもない」
死体とその首、とその仲間を隔離して消す。
「では、失礼します」
驚いていたけど説明はしない。後が面倒くさそうだからな。食堂車の方に進んでいくと後から四つの光がついてくる。