この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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人形師、パソコンを買う。

まあ、なんやかんや分かったことがある。俺が剣や刻印用の刃を使って、攻撃、または加工をすると他の人よりも良く斬れたりする。他にもあるが、大雑把にあげると庭園、建築、鍛冶は筋力に補正、さっきの切断攻撃、刻印に関する補正は、彫刻、工芸、裁縫だ。なんの関係があるのか知らないが調合に色彩、茶道、料理、パティシエが補正を掛けていたりする。

なんやかんやで麻酔が完成。あ、これも完成度補正が効くのか?前の点滴(生理食塩水)は別としても出来ちゃ駄目だろう。材料は山にあったのでなんとなく作った。反省はしていない。何かのときには役に立つだろうし隔離空間に放り込む、

「旦那様ー、今日の朝食をお持ちしました〜」

そう言ってレアがテーブルの前に持ってきた料理からクロシュを開く(俺の記憶からか両手を使って開く演出、本来は二人係らしい)。中身はキノコのスープパスタだ。香りがいい。見た目もいい。スプーンとフォークを手にゆっくりと食事を楽しんだ。パンで皿を拭くように最後で味わった。特にキノコは食感も良かったが、秋という季節もあってか、美味かった。

「ありがとう。ご馳走さま」

「いえいえ〜、お口に合ったようで何よりです〜」

耳がピコピコ動いてる。今日も頑張るか、

 

しっかし、銃は難しい。パーツの精度だ。個々に問題なくとも実際に組み立てるとガタついたり、入らなかったりする。リボルバーは大まかなパーツを作れば意外と簡単と言えば簡単だが、それは物を作ることに携わった者の感覚だ。基本的なことだが、リボルバーには弾丸を込めるシリンダーとバレルに隙間(シリンダーギャップ)があり、そこがもしズレていたら、命中精度が格段に落ちるし、下手りゃ暴発もあり得る。………まあ、汎用工作機械があればそこまで苦労することは無いと思うが、無いのだから苦労もするに決まっている。前の真理の銃(トゥルースマグナム)は時間を度外視して作った奴だ。一々あれがダメだ、これがダメだ気にするのが面倒くさくなって、全部削り出しにした。スキルの補正もあってか妙に上手く行ったが、俺が求めてる銃としてはリボルバー自体が合わないため、勿体無いしノルンなら使いこなせるだろうしと思いあげたのだ。

「………けど、整備が面倒くせぇだろうな、これ」

M1911(ガバメント)とにらめっこしながら、一人愚痴る。もう一つはSIG系の40S&Wが使えるオートマチックを選んだ。………ガバはともかく、SIGは外見だけの物だ。中身とか詳しく知らんので適当だ。動く構造にはなってる。代行者設計なので、そこら編は大丈夫だろう。それとガバはインテグラタイプの消音器(サプレッサー)が装備されている。壊れない限り銃声はほぼしない。

「因みにM1911の愛称はハンド・キャノンですー」

「何してんだレア、と言うかいつ入ってきた」

「ついさっきですよ〜?息抜きに紅茶はいかがですかー?」

流石に子供達に銃の作り方は教えるつもりは無い。なので地下に作った食料庫に併設する一角を板で遮り、そこを作業スペースにしているのだが、結構狭い。なので適度に休憩を入れないと腰が痛くなる。

「いただくよ」

愛称のある銃は大体長く愛用されてきた名銃が多い。(まあ中には不名誉なのや、敵からそう呼ばれて怖れられた物もあるが)他の例を上げるとコルトのシングルアクションアーミー(SAA)はピースメーカーと呼ばれ西部劇と言えばこの銃というぐらいの定番だ。強力な銃弾も打てるが、ソリッドフレームの為、リロードに時間がかかる事が最大にして唯一の弱点言える銃だ。………あとはセーフティーの観点から暴発くらいか、逆に言えはそれ以外の弱点はほぼ無いと言える。近距離戦ならグリップに詰められた鉛が鈍器になる。

「色々作ってるけど、いまいちこれってのが無いんだよな」

俺がリボルバーを嫌がるのは、さっきの銃身とシリンダーの隙間の事が大きい。まず発射ガスが漏れる。これによりエネルギーロスが発生、密閉性もクソもないので消音器も無意味、そしてロスしたガスで手を火傷………はしないからいいか、まあ、一番はリロードだ。ソリッド(固定式)は基本一発ずつしか排出できないし、込める時もそれは同じ、トップブレイク(中折式)は接合部の強度の都合上、火薬を多く使えない。ロスするのにだ、スイングアウト(振出式)でスピードローダーを使っても排出の為に上を向け、ピンを押して、今度は下を向けて弾を込めるため、銃を動かすモーションがオートマチックと比べて多く、必然的に時間が掛かる。オートマチックはその点スライドを差し込み、次弾をスライドを引いて装填すれば準備完了だ。ただし、しっかり作らないと排出した薬莢が挟まってジャムるのだが、

「あーもう、やだ」

どっちにしてもリスクが頭の中でチラつく。………よし、ロケットランチャーや無反動砲を作ろう。昼からは別のに取り掛かろう。

 

さてと、今回来たのはちょっとクロシェット(ノルン付き)にもお願いして、ポイントを設置してもらった街がある。

「やっぱり自分の目で見ると違うな」

まず街の規模が違う。これは俺の千里眼の方が分かりやすいのだが、面積にするとエドガーが収める街の四倍、それと宿場や商店等の密集する区画が一点に纏められている。この位置からだと商業区画のカジノの電飾だ。それぞれ頭を抑え合う様に高く作られているが他の区画からすれば迷惑だろう。………完全ミスだと思うが隣の宿泊関係の施設、あれじゃ安心も出来ないし、明るすぎて眠れないぞ。夜は夜で問題だが、昼は日照権の問題が出てきそう。こっちにこの手の法整備がされていないのが原因だろうが、まあ、今回ここに用はないのでスルーするが、この街を大まかに分けると五つの区画に分類される。今の電飾が派手な商業区画、隣の宿泊または居住区画、その隣が飲食関係の区画、それと最後に渡来人区画、この辺りだけ懐かしい空気が流れている気がする。まあ、字だけは違うのは違和感ありありだな、少し近未来感もあるか?なんか浮いてるし、

「なんと言うか……………、懐かしいと思ってた気持ちが薄れてきたな」

「どうかしましたか?ご主人殿」

「いや、何でもない」

某電気街にありそうなビルの一棟に慣れた足取りで進む。向かいの建物の天辺には何処かで見た事のあるペンギンのキャラクターとミゲル・デ・セルバンテスの小説の………止めておこう。いろいろ権利とか危険だわ、

「俺は四階に居るから、みんなは好きにしてていいよ。集合は店の前ね。それと………これは好きに使っていいよ」

 

「「「「大丈夫です。前に受け取ったお金があります」よ」わ」にゃ」

 

………おう、圧力が凄い。

 

とはいっても、俺も結構大きな買い物をする訳で、………なんと言うか、後ろめたい気持ちがある。因みに今日のメンバーは向日葵、アリス、クロシェット、ノエルだ。

「あっ、先に言っとくけど俺に付いてくるは無しだ。近くなら買い食いしてていし」

 

特に向日葵とアリスは言っておかないとビルの中だけで行動したり、護衛と称してピッタリ付かれたりする。十中八九俺の予想通りなら向日葵が一番に集合場所にいる。何もせずに………

 

「じゃあ一時間後くらいになると思うけど、行ってくるよ」

完全再現されているエスカレーターに乗り、家電のテレビ等の液晶の商品がある所に辿り着いた。

「いらっしゃいませ。今日はどの様な物をお探しでしょうか?」

早速店員に捕まる。従業員はこっちの世界の人みたいだな。髪青いし、目金色だし、………まあ、冷やかし防止の策でもある。下見とか行きづらい事極まりない。………んん、―でも大丈夫(通販風口調)、そんな時は千里眼を使えば、お店の下見、有力者の不正の証拠に、人探しいちいち足を運ぶ必要、無いんです。これで店員さんからの目線を気にせずに快適に買い物が出来ます。それと世の中の汚れも綺麗に出来るので一石二鳥、………おっとそれよりも、

 

「パソコンありますか?一式揃えたいんですけど」

身分証明代わりに冒険者カードを出す。最初の頃は安っい紙だったが、今は光沢のある一枚のカードだ。あの頃の紙は土地の権利書並に嵩張るサイズ感だったが、クレジットカードとは行かなくてもそれに近いサイズだ。

「………もしかして、異世界からお越しでしょうか?もし、よろしければ後程店長の話し相手になってもらっていいですか?」

「ええ、それぐらいなら」

ちょっと引っかかる所があるな、蓋を開けるまでのお楽しみ、ならいいが、彼が店長とやらに親しいだけだとありがたい。

 

しっかし………話してると店長は只者では無いのが伝わってくる。まだ店長には会っていないが、彼の懇切丁寧な説明と知識は脱帽だ。こっちの世界にはない知識だ。これを仕込む手腕は凄まじい。本人の努力もあるが、どういう物かから説明しなければいけない物をここまでとは………例え彼だけでも十分すごいことだ。俺自身教育者だしな、使用上の注意や気になった事を聞きながら、店長のいる部屋へ足を進める。それと電力何かはこの辺りでしか普及して無いので、魔力でも動くタイプの物にした。勿論電気でも動くので魔力を電力に変換し適切な電力に変える抵抗器も忘れない。それと電力を蓄える為の蓄電池も、総額は金貨にして873枚、前のケーキ屋の収入は全額(残りはもっと前から貯めてた分)、これでは経済的なバランスが崩れかねない。なのでこちらでも依頼をこなし、店長には商談を持ちかける、その予定だ。

「店長、お連れしました」

見た目普通のおっさん。ただ行動力やバイタリティーではそこら辺の青年くらいなら容易く超えるだろう。そんな静かでありながらも活発な印象がある。一部白髪の混じった頭を下げると、笑顔で応じてくれた。適切な表現としては破顔だろな、それ故、普段の表情が分からない。こっちは無難な反応として引き気味のぎこち無い愛想笑いで返す。そこらは世間話をしてお互いの腹を探り合う。あとは信用できると判断できれば商談に入る。………三十分も使ってしまった。

「突然で申し訳ないんですが」

「何でしょう?」

気配が変わる。目元が少し鋭くなった。それと声の抑揚すこしも抑えられている。極わずかだが、その変化は大きかった。

「二つお話があるんですが、どっちもお互いに得のある話だと思うんですが、どちらから聞きます?片方は材料、もう片方は………元の世界の物とか」

近代産業には陸の資源が必至となる。半導体や、基盤にはレアメタルや金、銀、銅のような貴金属、特に採掘量の少ないレアメタルや金は喉から手が出るほど欲しい。金はダンジョン産の物を、レアメタルは錬金術で作れる事は確認済み、そしてもう片方が本命。芦原さんがスキルで色々取り寄せる。まだ家電サイズの物は無理だが、食糧は難なく準備できる。

「材料というのはどの様に?宛はあるのですか?」

「それはこの世界には魔法がありますからね、今の段階では教えられませんが、これを」

レアメタルのインゴットを机に置く。

「………一個でどのくらいになります?」

「これは……、失礼持っても良いですか?」

「いいですよ、触って減るものじゃないですし」

とりあえず選り取り見取り並べてみる。こうやって見ると如何に金や銀はきれいな光沢してるかわかるな。中には何色と表現したらいいのか分かんないのもある。

「これを何処で?」

「まだ言えません。ただ手間は掛かりますが、魔力のある限りは」

「「…………………」」

暫く無言の時間が流れた後、もう片方の話題に移った。

「それで元の世界の物とはなんでしょう?あなたが持ち込んだものですか?」

「いえ、取り寄せられる物にまだ制限がありますが、芦原さんが金銭、または金銭的価値のある者を対価に召喚できるんです………これ、ちょっと前のですけど、収納に入れてあるんでよかったら食べてください」

おにぎり(皿に乗ってるよ)をレアメタルを端に除けて、机の上に置く。確か右から梅、ツナマヨ、おかか、昆布だった筈だ。米は勿論、芦原さん提供のコシヒカリ(北海道産)だ。………昆布に関してはコンビニのだ。ナイロン付き、この後、店長が号泣したり、滅茶苦茶感謝されたりしたが、商談が纏まる頃には約束の時間を20分過ぎてしまった。それと最後に確認しておかないとな、

「パソコン一式で金貨873枚な理由を聞いてもいいですか?」

「言い難い事なんですが、部品の一つ一つから完全受注生産です。時間も手間も掛かりますし、何より品質を保つ為にもどうしても必要なんですよ」

「本音は?」

「…………他言無用でお願いしますね?この値段は簡単に買えると困るからですね。この値段ならその辺の貴族では買えません。力のある地方領主でも難しいでしょうね。王族なら買えるでしょうが、値段に釣り合うかどうかは別です。使いこなせるかどうかも分かりません。説明に行くのは私ですし、その辺りは上手くやりますよ。あまり技術革新が進み過ぎて、足元から国が壊れても、私達の次の世代に尻拭いをさせる訳には行きません」

薬指の指輪は派手な装飾は無いものの大切されていることが分かる。………それと別にダイヤのあしらわれた指輪がネックレスの様にチェーンを通して首から掛けられている。

「………お子さんは?」

「一年ほど前に三女が生まれました。………元の場所では一人娘はいましたが、あまり親らしい事はしてやれませんでした」

「………そうですか。では、遅ればせながら娘さんにこちらを」

「これは?………護符ですか?私達は貴族でもないのに受け取れません」

「まあまあ、試作品ですけど受け取ってください。まだ、人形師としてはまだ活動していないんですけどアスメシアのエドガーには名前を覚えてもらってるんですよ。それとこの人形は四体セットでブレーメンの音楽隊の動物で構成されてるんで、連携して守ってくれますよ?」

「はぁ、ですが………」

ここは多少強引でも押し切る。値段は無料だからこそ滑り込める隙間がある。………ただより高い物はないという諺はあるが、

「気にしないでください。それと役割を説明しておきますね。ロバはお子さんを乗せて退避したり、他の人形を乗せたり、体当たりくらいですね。ニワトリは警報、二種類の卵型術式弾を使います。煙幕と無属性魔力弾ですね。犬は敵の制圧の為に防御式と攫われた際の罠解除、破壊のギミックが搭載されてます。猫は防御式のみですが、お子さんを守る事に特化しています。………まあ、もしもの時の保険みたいなものですし、使う機会がない方がいいのは確かですが、それと………これは保管に注意してくださいね」

「!………これは」

テーブルの上に黒い拳銃が置かれる。

「いらなければ持って帰ります。ただ盗まれない様に誰にも渡さない様にお願いします」

暫くの沈黙の後、吉川司郎は銃を手に取った。

「使い方を教えてもらえますか?」

確かな覚悟の宿った瞳で前を見据えながら言った。

 

パソコン一式を隔離空間に放り込んで、支払いをしようとしたら断られた。多分相手の人となりを調べて値段を決めているのでは無いだろうか?決してレアメタル一式を祝儀として押し付けた事は関係ない筈だ。なんやかんや入り口につく頃には約束の時間を三十分オーバーしていた。

「ごめん、遅れた」

「いえ、ご主人殿が気にする事ではありません。私は何時までもここに居ますよ?」

「ワ、ワタクシも同じですわ!」

「迎えに来てもらえるだけでも、私達は良かったと思えます」

「頭撫でてくれなきゃ、許さないにゃ」

「ははは、ごめん」

有無を言わせず目の前に来る頭、その天辺から二つの耳が今は撫でるのを待つようにペタンと寝ている。怒るより、撫でてもらう方が目的なのは分かっているが、気付いたときには何気なく撫でている自分がいる。案の定いい笑顔のクロシェットが撫で終わった直後に顔を覗き込んでくる。

「焼き鳥売ってたからお兄ちゃんも食べるにゃ」

超速で動いてる訳ではない。流れるように間髪入れず、口元に焼き鳥が運ばれて来る。自然と口の中に入って来る。開けないと口に付きそうだったし………多分開けなかった時はギリで止めて、「あーんするにゃー」とか言うと思う。

 

「「「……………………」」」

 

 

 

…………背中に視線が刺さるんですけど、ここは敢えて振り返らない。クロシェットへの対応を終えた後に一人ずつ頭を撫でてやるのが、摩擦を減らす最大の方法だ。

「ごめんな、ホントに待たせて」

「いえ、ご主人殿が謝る必要など」

「迷惑を掛けたら謝る、誰でもそれは当然のことだ。な、アリス」

「ご主人様がワタクシ達の事を気にする必要などありません」

「悪いな、ノエル、お前には移動の度に送ってもらってるのに」

「いえ、それが私に出来る事ですから………でも、すこし二人きりの時間も過ごしたいです

「ふふ、………それはまた時間を作るよ

後はみんなを労ってやるか、幸い遊ぶ金はある。飯ぐらい好きなだけ食わしてやるか、…………人形を飯で釣るのもどうかと思ったが、今更考えるのはやめた。


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