この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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ジェノサイドレイブンの殲滅

「先生!どうでしょうか!?」

「お願いします!」

「先生〜!少し見てほしい所が………」

今日は街の方に行かない日だ。人気なのはいいがなかなか大変だ。ドワーフと少数の人族グループ(通称、ものづくりチーム)は家が作りたいと言っていたが、いきなりは無理なので課題として倉庫の設計図を渡した。木はここで切った物を使ってもらった。一応干してはいたが、乾いてなかったら困るので冒涜で水分を抜いて置いたものだけを渡したのが昨日、

「出来てるし………」

ワンツーマンの格闘術の訓練希望組はオーガと一対一なら勝負なら無傷で勝てるレベルだ(藤白は基本一撃粉砕)。特にウィルとキリエ、ハルトとロイは頭一つ抜けている。………と言ってもまだまだだが、それと獣人以外が幅広く参加する魔法研究組は、普段は静かだがこの日だけは質問のため集まってくる。他にも少数のチャレンジチームというのがあるのだが、長期的な準備が必要なので、今の所成果は無いが、試行錯誤している様が微笑ましい。勿論、助言もしているが、何分知識だけの事なので間違ってはいないと思うが正解でもないかもしれない。そこら辺が歯痒い、

「じゃあ、まず倉庫を見て、最後に組手をやろう」

倉庫については設計図に課題点を書き込んで、また別の倉庫の設計図を渡した。組手も日に日に良くなってる。危険なこと(手榴弾制作等)以外はやりたければやらせるけど、なかなか身一つでは厳しいな、裁縫とかはレアにも見てもらってるし、料理や魔法はアナスタシアとクロエ、最近はノルンも参加している。アリスは武器の指導をしているが、自分の修練優先だし、向日葵は実践の相手しかしないし、クロシェットはいつの間にか居なくなっている事がある………ちゃっかり飯時には帰ってくるが、

「…………今日中は無理そうかな」

今日は寝るか……

 

「………やっと寝たにゃ、お兄ちゃんは頑張り過ぎなのにゃ」

窓からひょこっと覗く二つの猫耳、5徹は当たり前のハードな生活リズムに多忙なスケジュール、その全てを把握し、今回の作戦を遂行する。

「3時間、にゃ」

タイムリミットを口にして、屈伸、背伸びと軽く準備運動すると音を消した跳躍で闇の中に消えていく。

 

「にゃふにゃふ、にゃっにゃっにゃっにゃにゃー」

レアに作ってもらった手錠を一人ずつつけられた一団を引き連れ森に戻ってきたクロシェット(軽やかにスキップ)、それを適当な木に全員を繋いだ鎖を結ぶ。

「お兄ちゃんが起きるまでここでじっとしてて欲しいにゃー」

「大丈夫だ、もう起きたここに拠点を移そうとしてたのを尋問してアジトを突き止めたんだろ?」

「お兄ちゃんすごいにゃ、正解なのにゃ」

「…………行くにしても一言断ってから行け、心配するだろう。この手の調査や下見は俺の方が得意だし、ちゃんと言え」

「?大丈夫なのにゃー、クロシェはお兄ちゃんの作った人形にゃ、お兄ちゃんや他の子以外に負けたり捕まったりするような子じゃないにゃ」

「ちゃんと自分にできる事かどうかは冷静に判断しろよ」

「わかってるのにゃー、行ってみて大丈夫だったのはすぐわかったし、全然問題ないにゃ」

………………あっ、しまったにゃ、そう言ってるかのような表情だ。

 

 

「おい、…………今、初見で行くかどうか決めた感じの言い方だったな、」

目線は横に逸れ、耳は伏せ、尻尾は太ももに巻き付くように張り付いている。下見をしていないとなると、これまでどこに行っていたのか、…………いや、可能性があるとすればあそこだけか、

 

「ダンジョンか?」

千里眼で捕捉できない場所なんてここしか知らない。

「……………」

返事は無いが死にそうな顔をしている。

「はぁ………何してるか聞いていいか?」

「………………欲しいものがあるにゃ、ただそれは作らないとないにゃ、レアちゃんに作ってもらうにしても材料がないと無理なのにゃ、でも、ギルドには登録できにゃいし、懸賞金か、ダンジョンのキラキラしたのを売るしかできないのにゃー」

「言ってくれれば俺の作れるものなら準備するぞ」

「それは申し訳ないのにゃ、いつもいつも忙しいお兄ちゃんのやりたい事を止めてまでするこじゃないのにゃ、………それに、何か出来る事をした方がいいと思ったからやってるのにゃ、お兄ちゃんは強いし、器用だし、優しいし………支えになれることが少なすぎるのにゃ!」

「気持ちは有り難いが………まあ、お前ならいいか」

「お兄ちゃんはお金がいる事が多いにゃ、もしもの時、頼れる存在でありたいのにゃ。駄目かにゃ?」

「いや、金に困ってるのは少し理由がある。」

この世界の人類は滅びに向かっている。経済は絶妙なバランスで成り立っているのだが、街一つ一つが閉鎖的すぎる為に誰かが外から来て大量に物を売ったり、買ったり、帰られると街の市場から金が一気に無くなったり、溢れてしまう。需要と供給の理論は物の値段の説明に用いられるが、理論は同じでも金はもっと悲惨だ。増え過ぎれば金の価値が下がり、インフレが起きる。ハイパーインフレションがドイツで起きた時は街中に紙幣が捨てられ、札束で遊ぶ子供達、買い物カート一杯に札束を詰めて買い物に向かう男性、等印象的な映像として見たことのある人もいるだろう。最たる例は喫茶店でコーヒーを飲むのにもトランク一杯に札束を詰める必要があった。会計をする時にインフレが更に進んでもう一杯分トランクがいるようになる程だ。紙屑同然だ。デフレは逆で物を作る人間が悲鳴を上げる。市場に出回る金が少なくなり、経済が低迷する。収入が減れば、支出も減り、貯蓄する人が増え、更に収入が減る。売る側も価格を安くしないと買ってもらえない為にどんどん土壺に嵌っていく。そうならない為に持ち直せるように、デフレの街で買い物をして、インフレの街には金品を持ち込んで換金しているのだが、いつの間にかまた傾いている。そうこうしているエドガーから団体に送ってもらう金を見繕うと手元には小遣いぐらいしか手元に残らない。

「まあ、少し勉強したら後は自分の好きなようにすればいい。もしかしたら貸してほしい時があるかもしれないけど、あんまり貯めるなよ?」

「わかったのにゃ!じゃあ、これとー…これをお願いするのにゃー」

さっきの盗賊を指差してから袋の中から金やら宝石が出てくる。…………俺より集めてない?

 

《現在持っている宝飾品の三倍はあります》

 

……………マジかよ、売ったとは言っても結構あるぞ、六割くらい、…………まず、生物(ナマモノ)から片付けよう。クロシェットの足元に転がっている血塗られた麻袋を拾う。

 

生物と生き物を詰め所に押し付けて、ギルドに行って手頃な依頼を受けて偽装のために街の外を目的地方向に歩いていた時だった。なんか聞こえる。千里眼で確認、最近多いのだ。新人冒険者か知らんがパーティーごと全滅する所が、見たところ一人は死んでる。立ってるのは後衛と思しき二人、残り鎧二人は伸びてる。結界を足元に出しそれに乗る。後はオーク×4を解体する。一瞬の出来事である。ついでにレア作のポーションと呼ばれるこの世界の魔法の回復薬を倒れてるのにかける。………鎧まで再生したぞ、おい、

 

ブギャャアアア!!!

 

うお、びっくりした。死んだあとでも鳴くのな、色々やってたせいか斧以外の武芸のスキルが1づつながら上がった。

「大丈夫か?そっちは動けなければ無理に体を動かさなくていいぞ」

「レミは…………」

「レミってのはあっちで倒れてるのか、あいつはもう死んでるよ」

「………あの、あなたは?」

「ノースガーデン、Sランクの冒険者だ」

「はは…………、そりゃあ強いわ」

乾いた笑い声を漏らす鉄の鎧、動きや構えは素人どころか鎧を着て戦うことにも慣れてない感じだな、よくこれで戦えると思ったものだ。

「なあ…………、お前らのランクは?」

「Fだ」

「やっぱりか、オーク一体くらいならこのメンバーで相手取れるだろうが二体になったら逃げろ、それと自分の装備を使いこなせるようになれ、鎧だってテキトウに身につけるだけならただの重りだ」

「いや、鎧も身に着けてないでしょ」

「じゃあ、お前らはなんでその鎧をまともに着ないんだ?俺は着込みなんだ」

 

実際は服やコートの刺繍に耐性と自己再生だけなんだけど、結界があるのでそれ以上いらないのが現状だ。着込みと言うと鎖帷子(外国風に言うとチェインメイル)だが、あれでも結構重いが、鎧との動きやすさは比較するまでもない。

「ま、オークなんていい素材ないと思うけど、いらないなら燃やして行くし、どうする?」

「じゃ、じゃあお願いします」

 

おいおい、確認してよかったよ、

 

「討伐証明は?何処か分かるか?その部位持っていかないと金は受け取れないぞ」

「えっ、貰っていいんですか?」

「討伐証明?ってなんです?」

「冒険者に成り立てだろう?最低限でも必要な事は勉強しろー、蹄だ、左の蹄」

オークって足は蹄で、手は人と変わらんからな、二重取り防止の為に左限定なのだ。ここ重要、どんなに強くてもこういう所で取りっぱぐれるのが、意外といる。何かとギルドのルールが細かく、保険の契約の時並に確認作業がいる。ただ、ドラゴンだのは例外、鱗一枚だのは論外だが、素材すべてが使えるため持ち帰る事が多く(後からでも)、その部位が決まってない。証明のために傷つけるのを良しとしないのもあるが、まあ、ともかく蹄を取った豚を火魔法で焼き払う。

「まっすぐ帰れよ」

久し振りに言ったな、これ、

 

あのグループから別れて、目標の山の上の更に上空を陣取っていた。理由は簡単、バカ正直に山を登る必要もないし、上を取られるとこっちが不利になる、それにこっちなら奇襲で数を減らせる。

「ライトニング×10」

一瞬で更地になるし、多少残ったけどこれで依頼完了でよくね?とか思ってたら残り数匹がこっちに突っ込んできた。大半は四方八方に蜘蛛の子を散らす様に逃げたが、証明には多少いるだろう。Sの依頼となると単独で危険排除とかあるので討伐証明とかは二の次になる物も多い。特に巣とか、コブリンの集落とか、静かに精神を研ぎ澄まし、一閃、烏ぽい鳥(サイズは鷹や鷲以上)の足を切り落とす、証明が足だし、こうすればいずれ出血で死ぬし、証明にはちょうどいいだろう。さて他は?っと、さっきライトニングを落とした所に動くものがある。取った足は隔離して、山頂に降りる。

「………そう言えば、ジェノサイドレイブンは子供を執拗に狙うんだったな」

自然の摂理と言ってしまえばそうだが、肉食動物は群れの中でも弱いものを狙う。確実に仕留めるために、そして食うのなら固いところより柔らかいところから、歯のある動物はだいたい腹から、鋭い嘴を持つ鳥なら目から、生死を問わずここにいる者たちは目が無かった。生きてる者は、アナスタシアに治せるか聞いてみよう。取り敢えず生きてる方は隔離、残りは焼いて、気持ちばかりだが石を置いて墓の代わりに、その前で手を合わせる。さて、早く帰らんとな、隔離空間内では時間停止もできるが、生き物だけは適応外だ、ノエルを隔離で呼び出し、転移する。

「アナスタシア、いるか?」

「……………ん、ここ」

「少しみてほしい、治せるなら治してほしい」

隔離から十人出す。人8、リザードマン2だ。所々肉を抉られているが、何より衰弱が激しい、初めの頃に頼んた点滴がぶっつけで使うことになりそうだが、不意に服の裾を引っ張られた。

「だっこ………」

 

えー…………、このタイミングで?

 

現在、ノエルを肩車しているため、正面で抱えるしか無い。頭上の重心を考えると俗に言うお姫様抱っこ一択になる………これが狙いか。

「仕方ないか………、何故ドヤ顔なんだ?」

「なんでもない」

 

視線が少し下に動いたな、多分ドヤ顔はノルンに向けたものだな、暴れるなノルン、そして煽るなアナスタシア、

「…………早く回復頼めるか?」

「わかった。ほい」

 

テキトウだなー、がしっかり魔法は発動し、傷が消えていく。………おい落ちるぞ、じっとしとけ、まあ、目が覚めたらどうするか聞くか、後は報告してきて報酬を受け取ってゆっくりするか、

 

相変わらず、次の日になると完成している倉庫、早くないか?………なら課題の方向性を変えるか、

「この材料で倉庫を作ってくれ」

「………柱の分はあっても、これだと梁の分が足りないです」

「ああ、普通にやれば無理だ。たがら組み木を教える。やり方はいくつかあるけどそれに適した方法を使って建ててみてくれ、はい、プリントに特徴と種類を纏めといたから」

「「「はい!」」」

いい返事だ、今日はダンジョンに行こうか。

 

世間一般のダンジョンの認識は、ダンジョンは生き物と定義され、魔物や財宝を生み出し、無限の迷宮とされている。が、実際は100層を限度としているそうだ。魔物も財宝も際限なく作れる訳ではなく、エネルギーを外部の生物から集め、土地から集め創り出されている(陰陽学、龍脈の記載から)。何故こんな事を知っているのかといえば………

 

「軍隊を壊滅させたこのダンジョンを………まさか一パーティーに」

 

前、千里眼で見た先に、何か彷徨ってたので調べてみたのだ。魔物でもなく人でもない、だが形は人、実に面白いものだ。………俺も人のこと言えないが、目の前で項垂れてるのに聞いたのだ。最初は会話が出来なかったので殺気をぶつけたら、そこからはスラスラ答えるようになった。

 

「………そうか、じゃあ、一つ提案なんだけど、」

「な、なんでしよう………………」

「闘技場………規模はそこまで無くていいからちょっとしたスペースを作ってくれるか?」

こいつはダンジョンそのもの、いわばコアだ。魔物も財宝もこいつが指定して出している。なら、丁度いい訓練場ができるのではと、練習だけでは身につかない事は多くある。変な癖が付かないように注意する必要はあるが、あの四人だけなら大丈夫だろう。準備しといたアレもこれから使うつもりだし、何より対人(二足歩行)と対獣(四足歩行)では対処法が変わってくるし、格闘技は対人特化なので人以外を相手にする場合はやりにくい。大概はここで武器が必要になるが、動物によっては相性の悪い武器もある。こういう場合の最善は苦戦や失敗を経験して、それを糧にしてもらうのがいい。相性が悪いだけで勝てない訳ではないのだから、

「それと、危険な奴を見極める為に、一回お前が出せる魔物と全部戦うけどいいか?」

 

ー3時間後

 

………あぁー、大方問題ありそうなのは熊とか蛇だな、あとデカいカマキリ、それ以外は楽勝の奴ばっかりだな、しっかし、どんくらい戦ったか、

 

《1063体の各種魔物を討伐しています》

 

おぉ………そんなか、集団戦を想定してゴブリンとか弱いのはダースで相手したしな、

「じゃあ、そろそろ帰るわ」

さて、あっちも大詰めだし、徹夜になるな、辛くとも自然と笑みが溢れる。


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