熱気が立ち込める厨房、グツグツと煮え滾る鍋は水蒸気を上げる。
「ふっふっふっ………」
煮えたぎる鍋を見つめる一人の少女。飾り気の無い紺のメイド服を身に着け、頭からはうさ耳が垂れている。
「もうそろそろ良いですかね〜」
そんな事を言いながら灰汁を捨てる。それからラーメンどんぶりを用意すると、醤油(意外と出回っている)、牛骨と鶏ガラ(前、北川が討伐したデカい牛とクロエがヘッドショットの的にしたコカトリスの骨、主にげんこつ)のスープ、残っていた小麦粉で作った麺を湯切りをして入れ、上から煮卵とチャーシュー(その辺のオーク肉を加工)を乗せる。…………まだ、トッピングや魚介スープ等足りないものがあるが、醤油ラーメンの完成だ。
「おっ、うまそうだな」
「ぴゃっ!」
あれ?脅かせてしまったようだ。耳がピーンとしてる。
「旦那様は〜、いつからそこに?」
「灰汁取ってた時には厨房にいた。様子ならずっと見てたが」
「むぅー…………、どうぞ」
何か言いたげな表情をしていたが、ラーメンを受け取る。
「熱っ!」
………いや、熱ないわ、耐性があっても条件反射というかね、咄嗟に台の上に載せたのでちょっと汁が溢れた。視線が痛い、
「ごめん、箸もらえる?」
「あー、………どうぞ〜」
うん、美味い。昔作ってたのに似てるな。
「どうでしょうか〜?」
不安げな様子だが、その目には期待も混ざっている。
「美味しいよ、材料がない中でここまでいいものができてるんだ。もっと自信持っていいよ」
久しぶりのラーメン(カップ麺はノーカン)を美味しく頂くと、今日の授業と腹ごなしを兼ねた格闘術の練習を始めるとしよう。
蹴り飛ばされる。何度も、何度も、だが、不思議な事にあまり痛くない。距離は飛ぶが上手く受け身を取ればダメージは殺せる。上体を素早く起こし、犬系の獣人ハルトは相手を見据える。同世代の他の仲間の攻撃を捌いたり、流れる様な動きで躱したりと一撃も当たっていない。一人で飛び込めばすぐに押し返される。ここにいる六人で連携しても、隙があれば弾き出される。もう少しで攻撃が当たるのではと思い始めると対処の速度が上がり、いつの間にか振り出しに戻され、今度はその速度に対応しなければならない。獣人であるハルトは鋭い感覚を持っている。それでもたまに目で追えない速度の動きがあったりするし、何をされたのかわからない事まである。それでも向かうのは獣人の本能だろうか?少しずつ強くなっているのを実感しながらまた、先生に挑む。すると、すぐ横を風を纏った突きが横切る。
「危ね!」
エルフの身体能力は高くない。代わりに耳が良かったり、魔法の適性が高い。今の突きもギリギリで避けた筈なのに頬の辺りが切れている。多分風魔法で動きを補助している。しかし、先生にはかすり傷一つ付けることなく、それどころか、エルフの方が先生の避けた場所を狙うような異様な状態になっている。
「ロイ、魔法に意識を持っていかれすぎだ、重心や目の動きに出てるぞ」
すかさずハルトも飛び込む。が、そのまま投げられた。
「タイミングはいい、そのセンスを大事にしろよ」
そう言ってる間もエルフのロイの攻撃をいなしている。ロイの動きはさっきより速くなっているにも関わらず、………負けてられない!
「おっ、と」
「うおっ、邪魔するな!」
「協力しなきゃ、先生に当たるわけ無いだろ!」
「僕は一人でどこまで出来るか試したいんだ!」
「喧嘩するな」
スパパァン!
子気味のいい音が連続して響く、全然見えなかったが、頭を叩いたのは痛みでわかる。
「あだっ」「痛ぇ……」
「個別に相手するなら、もう少し上の速度で相手するぞ、時間は短いけどな」
ーもっと力があれば、ハルトの心の中にある声、盗賊に追いかけられていたあの時、自分に力があれば逃げる途中で弱っていく仲間を見ずに済んだのでは無いだろうか。………弱っている者は売り物にならない。そう言う場合、周りの盗賊が処分を任せられる。実際に見た訳ではないが、追われていた時を思い出すと、怒りや恐怖が蘇ってくる。
「「お願いします!」」
隣のロイからも強い覚悟が感じられる。あの時、俺達はクロシェットとアナスタシアにみんな保護されている間に先生が一人で全員片付けていた。その中に仲間の姿は無かったそうだ。………生きていたとしても、もう仲間だと思ってもらえないと思うが、それでも………
「まっ、取り敢えず今は訓練中だと言う事は忘れるなよ?敵は待ってくれないぞ」
その言葉の直後、背中の体当たりで二人共吹き飛ばされた。
「…………よし」
これで語学も大丈夫だろう。読んでいた本を勢い良く閉じる。………と言っても、サラマンダー、セイレーン、アルラウネが増えたのでまた覚えないといけないのだが、代行者に同時翻訳してもらうため、俺はそこまで急ぐ必要はない。あいつ等はどうか知らんが、
《現状、向日葵とアリス以外は複数の種族の言葉で会話が出来ます》
………すごいな、詳しく聞いてみると、アナスタシアとクロエは魔力に込められた意思の超演算によって意思疎通を測っているようだ。ノエルはまだコツを掴み損ねているが何人かに限定すればできるようだ。ただ、魔力があまり無い獣人系の種族とは上手く会話が出来ない。レアは俺の記憶のコピーにある程度含ませてあるので、エルフ、獣人、ドワーフの三種族とは話せる。そして、クロシェットだが、なんと全部勉強して習得したそうだ。それもここにいる種族以外も、
「………勉強する時は一緒にやったほうがいいか?」
………いや、それより出来てない二人か、アリスは自己鍛錬の合間に必死に勉強(勉強だけの日も作っている)しているが、悲しいかな、努力に反して身についていない。向日葵に関してはやってない。いつも俺に付いてきている。………まあ、自由にすればいいと思うが、
「先生!リタが!」
リタ………セイレーンの子か、状況からしてして何かあったんだろうな。
「すぐ行く、状況については移動しながら話そう」
そう言いながら代行者に場所を聞いて千里眼を使い、様子を確認、倒れてる。苦しんでるから一応意識はあるが、呼び掛けに反応出来るかは微妙、外傷は無し、となると…………
「レア、ちょっと来てくれ」
「はいー、わかりましたー」
千里眼を併用して、真理を使い抑えている腹の辺りを見る。………デカ!寄生虫か、どのタイプだ。この苦しみ方から見て人を終宿主とするタイプではないだろう。腸にいる所から見て回虫かサナダムシの仲間か?他にもいるか?
ジャイアントパラサイト
サナダムシの事
蟯虫
そのまんま蟯虫
犬回虫
犬に寄生する回虫だが、人にも寄生する。
舌打ちしたい気持ちを抑えると解決法を模索する。別に上2つは増え過ぎなければ放っといても大丈夫だが、犬回虫は別だ。前記の説明通り本来なら犬に寄生する線虫の仲間で、犬の心臓やらに絡みついたりする。人間に寄生する場合は成体にならないがそれも問題とも言える。寄生されないのが最も理想的だが、回虫の名前の由来はまず口から卵で入って胃液で殻を溶かし、小腸から血管に入り、肺に移動し、そこから気管支を登って小腸を目指すなんとも回りくどい体内巡りをするためだ、その過程において一番問題なのが血管を渡る所だ。こいつら迷惑な事に迷うのだ。その上犬と人では体が違いすぎる為、余計間違える。そしてこいつらが一番間違えて厄介なのが脳や目だ。そしてついた場合の対処法は無い。腹にいるのが全てか?他をよく探す必要もある。特にサナダムシの存在が邪魔だな。いろんな意味で、………虫下しの薬で何とかなればいいが、内視鏡なんて無いしな、………隔離でやってみるか?
障壁を張り、窓を開くその障壁に『寄生虫以外の透過』の条件を付ける。………よし、これならどこに入り込もうとも取り除ける。
「レア、虫下しの薬を頼む」
それと現在保護している子供達もスキャンをして置く。選り取り見取りである。寄生虫の話しだが、………とは言っても暫くはみんなにも飲んでもらおう。虫下し(吐き気を誘う程の甘い味付けだよ)
「さて、と、大仕事に掛かりますか」
とは言っても一瞬なんだか、自分の正面にある湖との間に障壁を張り、『湖の透過』『有害物質等の隔離』『ゴミの隔離』を条件にして、向こう岸まで動かす。後は隔離からゴミを出し、子供達から取り除いた寄生虫共々火魔法で焼く。ちなみにこれらの作業は森の外でやっている。有害物質は一部焼いて、焼けない物は地面を結界で掘って埋めた。これでセイレーンの住処となる場所は完成した。後はサラマンダーなのだが、こいつは意外と問題なかった。本人達曰く、雨を凌げれば良いらしい。ただ寝具は石畳となる為、強制的に一階になるが………、アルラウネは俺の付近によくいる。理由はわからんが畏れられている。………一人だからと言う部分か、人族そのものにいい感情を抱いていないか、時間を掛けてゆっくり解決していく必要がありそうだ。そんな訳でトランプマジックを披露している。
「どうしてこのカードさんだけが後ろを?」
「見てご覧」
このマジックは錯覚を利用したもので俺が持ってるトランプの山を逆さまにして、予めに引いてもらった一枚のカードを俺に見えないように戻してもらったものだ。後は俺の持ってるカードを戻せば、一枚だけ逆さまになると言うテクニックも要らないマジックだ。話術で意識を逸らせれば誰でも出来るマジックだ。
「………同じです!なんで!なんで!?」
「ビックリした?」
首が千切れんばかりに首を縦に振る少女。短いワンピースに白のニーハイ、長い手袋、その所々には小さな黄色の花のワンポイントがあしらわれている。そして一際大きな黄色い花が頭の天辺のつむじの辺りに咲いている。この頭の天辺の花がアルラウネの特徴、後は人と同じ食事を必要とせず、水と日光があれば生きていけるそうだ。アルラウネの頭の花は健康状態も示している為(買われる時に影響)、捕まっている間も他の子たちよりも待遇等は良かったようだが、普通は森や山に住む者、精神的な負担はあったと思う。
「無理の無い範囲で時々顔を見せてくれ」
「うーう……わかったです」
あんま、乗り気じゃない感じだな。
「興味があったら授業も見てってくれ、お前の好きなようにすればいい、アル」
そして、アルラウネには名前が無かった。なのでアルと呼んでいる。
「………あ、明日から、見にいっても?」
「ああ、いつでもいいぞ」
ついでに似合いそうな帽子を隔離空間から取り出し、渡しておく。また、作業にかかるかな。ちょっとした事なら大概レアに出来るからな。
ある程度資金が集まったので、離れのような形で増築していこうと思う。後から通路だけを通路だけを伸ばす感じだ。最初から大きい建物を作る場合、設計をしっかりしないといけないが俺一人でそれは限界があるし、多分サクラダ・ファミリアみたいに何時までも完成しないなんて事に成り兼ねない。それよりは一つ一つ完成させて繋げだ方が無理も無いし、今の俺にあったやり方だろう。和風で行くか。代行者に欲しいスペースを伝えて間取りと設計案をいくつか出してもらう。
「うん、この間取りで行こう」
早速、予定地に杭を打ち、糸を張って仕切る。材木等はもう加工済みのものが多いので万能結界を代行者の制御の元、寸分の狂いなく家を建てていく。早送りみたいに尋常じゃない速度で完成した。ただ、
「土壁は綺麗に塗れないみたいだな」
あとから全部塗った。基礎なんかは芦原さんから仕入れたコンクリートが流してある。……………別に変なもの混ぜてないからね?まあ、何かと便利なのだ、頑丈だし金塊からなので無料、外観は代行者に任せて、俺は内装関係の家具やら装飾やらをこなしていく。途中、モノ作りグループ(前の鍛冶に参加してたドワーフ中心のグループ)に見つかって組み木や継ぎ手なんかを教えながら過ごした。………次の日、朝起きたら軒先がオブジェだらけになってたが、
「すいません」
朝は大変だった。今度は何だというのだ。ギルドの壁際の椅子に腰掛けて何となくぼーっ、としていた。そんな所に受付の職員が話し掛けてきた。
「なんでしょう?」
「実は今、Bランク昇格の試験をやっているのですが、試験官の方がこられなくなってしまいまして………」
えっ?Bって試験あったけ?…………………ああ、あの試験官が同行する奴か、何が起きるのか分からないため、ランクも高く、人数も必要だ。俺の時は他の候補がいなかったので、ワンツーマンでやり難かったのが記憶に残っている。
「同行する試験官の方は?」
「2パーティ同行します。受ける方は4パーティですね。報酬については、金貨10枚をお支払します。」
俺だけソロか……………しかし、金貨10枚とは結構出るな、そうだ、あいつらの中から誰か連れて行くか、前、街の防衛戦に参加し、ギルマスのダインから登録を勧められた時に聞いたのだが、従者や、従魔、奴隷、そしてオートマタの様な自動人形、これらは持ち主や主人が冒険者として登録していれば、連れて行く事ができる。………だが、まあ、確認は基本だ。(社会人のマナー)
「この依頼には、僕のオートマタを連れて行っても大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません」
「じゃあ、受けようと思います」
「では、明日の早朝にお願いします」
「……………早すぎませんか?」
まだ五時だが?周り誰もいねぇ、不安になったので受付の人に声を掛けたのだが、外には見慣れた朝特有の薄い霧が立ち込めている。子供達を保護してからは、比較的規則正しい生活を心掛けているからな(徹夜を除く)、仕方ないので、向日葵とアリスと雑談をしながら待つ事にした。
「アリス、最近どうだ?………あまり時間を作ってやれてないけど、寂しい思いとかはしてないか?」
「い、いえ!ご主人様にそのように思って頂けるだけでも、ワタクシは嬉しいです!」
「ご主人殿〜、私は?」
膝の上に向日葵に滑り込んでくる。下から覗き込む上目遣い付きで、
「………悪かったよ、この依頼が終わったらどっか行きたい所、連れて行くからな、もちろんアリスも、」
最近は、色々とゴダゴタしてたからな、あまり構ってやれなかった自覚がある。………後あんまり膝の上で動き回らないで欲しい。クロエやクロシェット程では無いが、胸が色んな所に当たってるんですよ。何処とか言えないトコロにも、
「ワ、ワタクシ、ご主人様がいない時は鍛錬をしているのですが………その、じ、時間がある時に見て頂いてもよろしいです、か?」
「うん、いつでもいいよ。よく頑張ってるな」
アリスの頭を優しく撫でる。
「私も撫でてください」
「はいはい、お前も頑張れよ」
仕方ないので撫でてやる。………手が疲れてきたなー、と思い始めたぐらいに、二パーティー程の姿が見えてきた。見た感じ試験官の方だろうな。
「あんた試験官か?朝っぱらからこんな調子でいいのかよ、………と言うより誰?」
「受付のに声掛けられてな、Sランクの北川だ。よろしく」
面倒事を避ける為にカードも見せる。
「Sって………筋肉戦車と一緒かよ」
誰だよ、筋肉戦車って、
《試験で戦ったウォーレンの二つ名です。数年前、傭兵だった頃に戦車の突撃を身一つで止めた事から呼ばれています。なお、現在なら押し返し、引っくり返す事もできるでしょう》
うへぇ、バケモンじゃん、………俺それと同格なの?ちなみに戦車ってどんなの?馬とかが牽くチャリオットでも馬ごとになるんじゃないのか?
《戦車は戦車ですが、チャリオットではなく、タンクです》
……………………ガチやん、タンクってアレでしょ、モノホンの戦車や装甲車じゃねぇの?ヘリがあるから、ないとは思ってなかったけどさぁ、それ投げるって、
《ヘリと同じで魔法の要素が強いので、元の世界で使われていた戦車よりも二割ほど軽いです》
二割しか減っとらんやないかい!
「えーと、キタガワさんは何で戦うんだ?」
「主には刀かな、そっちは?」
持っていた刀を前に出すと、彼は自分の背中を指差す。………デカい剣だが、持て余してはいないな、我流の分、死角はありそうだが、
「俺はこいつを使うな、木の盾ぐらいなら纏めて切れるしな、あと怪我したらあっちの………」
「大丈夫だ。こっちもなんかあったら言えよ」
聖魔法の使い手もいるので困った時は頼らせてもらおう。
「………で、そっちは?」
「俺の事を知らねぇのか?」
「知らね」
「そいつは………」
「俺様の名前は………」
「前置きはいい、短剣術6以外については黙っとくから下がれ」
「ぐっ………」
こいつバレてないだけで、強姦が三件と窃盗で、称号にコソ泥と色情魔とかついてる。向日葵達を見る目の動きからもロクな事言わなさそうなので、牽制代わりに軽くジャブを入れといたがすぐ下がった。悪態はもう少し隠せ、殴りたくなるだろ。
あー、足辛い、明日筋肉痛かな、移動はほぼ結界に乗ってたから辛いわ、合計人数が(1パーティー4人)結構多いので移動はゆっくり目の筈だが、
「よし、ここで試験を行う。各自昼食を済ませてくれ」
ここで飯か、休憩にもなるしいいか、今朝準備して貰った。焼きそばパン(レア作)とコーンスープ(アナスタシア作)を出して素早く食べる。焼きそばパンはソースの味を俺好みに工夫してあったし、コーンスープは素材の味が生かされていて、どっちも美味かった。向日葵たちの分も出してあるのでその間に、試験の内容や予定を組むために相談に行く。
「今回の試験はどういう予定で行くつもりなんだ?」
「うぉつ!………キタガワさん、なぜ背後から?」
「ちょっとした悪戯だよ、それよりどういう感じで試験をやるの?一気に纏めて?それともグループごとに?」
「うーん………今回は一気に纏めてここの30層のボスを討伐するまでだな、様子を見てBに上がれるかを各自報告して、ギルドが最終的に決定する、らしい」
30層………?後半は記憶の片隅程度に記憶が残っていたのでいいとするが、目の前の、洞窟(地面に土を盛って穴掘った古墳にも見える。形は円墳)に冒険するほどの広さがあるとは思えないのが、気掛かりだ。不思議に思っていると、言葉の続きが耳に入ってくる。
「このメンバーでBランクに上がるには少し強めの魔物討伐をしないといけないが、丁度いい依頼が無い時は、ダンジョンのボスで代用するんだ、確実に戦えるが、移動が長くなる」
「………で、今回はこのダンジョンの30層が適当、という理解でいいか?………移動はどうするんだ?」
俺の試験時、丁度いいのがいて良かったわー、俺の場合蛇の駆除だったし、一応アナスタシアに控えてもらったが間合いに入った瞬間にクビちょんぱしたので、記憶にもあまり残っていなかったのだ、皮の値段が高かったことぐらいだな、
「そこも一応試験に入ってる。そこまでここは広くないが、魔物は強い部類に入るな、罠も少ないが、無い訳じゃない。………一番疲れるな、斥候が、」
「なるほどな」
ダンジョンについては代行者に調べてもらえばわかる。………ただ時間も掛かりそうなので千里眼を安全かつ最短ルートですぐに帰れるようにしておこう。
「………三時間は早すぎません?キタガワさん、三時間ですよ」
何を言う。千里眼が十層先までしか働かないだよ、他にも万能結界にも制限がついた。隔離が自分の近くでしか行えない。フロア内の宝箱は直接拾いに行かないと取れないので掻っ攫う事は出来ない。結界を張れる範囲も狭く、せいぜい自分と近くにいる一人程度、ただ何故か冒涜は強化されてるそうで、吸収量が倍になってる(代行者曰く)。
「俺はさっさと帰りたいんだ。今日中に」
保護している子供(生徒)を一日以上放置できるわけ無いだろ。30層のボスがいる部屋の扉を蹴り飛ばす。
「あっ!中にいるのはサイクロプスだ。試験開始!」
ヤケクソだな………。まあいい、見学と行こうか、
「弱いですね」
「すぐ片付けて欲しいですわ」
頬杖ついて俺の横で戦闘を観察してる二人からは辛辣な言葉しか出てこない。サイクロプスはデカい。5メートルはあるな、魔法とかが弱点の目に飛んでいっているがまともに当たってない。………多分放っといたら負けるな、未来視では後三手で形成が引っ繰り返る。
「放っとくと負けるけど、どうする?」
「死にそうになったら助ける。それまでは極力手を出さない、………そんな感じだな」
「………じゃ、そろそろかな、このまま行くと全滅だな、と言うかこれ合格にできるか?明らかに能力不足な気がするが」
「そうだなー、これはどう見ても不合格だな」
グオォォォォー!
雄叫びをあげて大木のような棍棒を体制の崩れた前衛に振り下ろした。これが当たると死ぬので、素早く横から体当たりで棍棒の機動を逸らす、
「向日葵!アリス!姿勢を崩せ!」
足元に結界を張り、それを上に打ち上げ、飛び上がる。そこへサイクロプスの背後から膝裏に飛び蹴りを入れる二人(何故、膝カックン)、あとはノーガードの目と脳を一直線に繋ぐように目に刀を刺し入れる。
「スタンエッジ」
ヒートエッジの風魔法バージョンだ。脳天まで電撃で焼けば流石に死ぬだろ。さっさと引っこ抜いて飛び退いて着地する。
「帰るぞ、………って、ここからは各自解散か?」
崩れ落ちたサイクロプスが砂煙を舞い上げ倒れた。